体育祭へんは7まで行く予定です。
side:轟
会場にもどってきた時、最初に感じたのは奇妙な違和感だった。
グラウンド……と言うよりもむしろスタジアムとでも呼ぶべき空間に、一面にひしめく観客。そこに変化はない。
解説席のプレゼントマイクにイレイザーヘッド、壇上の審判ミッドナイト、その他教師陣も静かにこっちを見ている。
第1種目参加禁止が言い渡された緑谷が一人だけポツンとグラウンドに立っているのも、何一つ変わっていない。
ふと、緑谷と目があった。
緑谷出久。
今時珍しい無個性。
その癖ヒーロー科に来たバカ。
しょっちゅう怪我して保健室にいく奴。
それで俺は……いや、オールマイトも注目してるらしくて。
ああそうだ。なんでこんな静かなんだ?
開幕の狭いゲートを凍結させ、襲いかかる巨大ロボを敢えて不安定な姿勢で凍結、綱渡りを氷の橋で渡りきったあとは崩し、地雷源は後続に道を作らないように真っ当に走り抜けた。
いや、走り抜けようとしたけど爆豪とかいうクラスメイトに妨害されて乱戦になっちまったが、最後は連中を引き離してトップでゴールした。
そう、トップでゴールしたんだ。
俺のすぐあとに入ってきた爆豪やB組の奴も明らかに戸惑ってる。続々と会場に戻ってくる生徒達に、賛辞はおろか歓声すらない。
皆黙ってどこかを見てる。
どこか、どこだ? 俺達の後ろにあるディスプレイか。映っているのは俺達の障害物競争……じゃない、緑谷が走ってる映像と、俺達のタイム、順位だ。
「……どういうことだ?」
思わず声が漏れた。
17分5秒、単純に4キロだと思えば平均くらいかもしれないが、これは障害物競走だし、爆豪に絡まれたにしては良いタイムだと思う。だが、二位だ。おかしい。俺より前を走ってる奴なんていなかった。
映像の中では緑谷が淡々と障害物競走のハイライトを走り抜けて行く。
ロボ達が襲撃して来る中を走り抜ける『ロボインフェルノ』。
大きな穴の上にロープを渡しただけのエリア『ザ・フォール』。
低威力のはずだが衝撃と迫力はある地雷の原『怒りのアフガン』。
それらを切り抜けてグラウンドの周りを一周する4キロのコースを、一度たりとも躊躇いも立ち止まりもしないで駆け抜ける。ロボの攻撃も、落下の恐怖も、爆発する地雷の衝撃も、全てものともせず走っていく。
そこに記されたレコードは13分53秒。地雷の爆発で両手足を負傷した緑谷が画面の中を駆け抜けて、とうとうゴールで倒れた。と、同時に画面が切り替わり、壇上、ミッドナイトの隣に立つ今の緑谷の姿が映る。
右手にカンペ、左手にマイク。いったい何をする気だ?
「選手宣誓、第1種目一位通過緑谷出久」
な、にを言ってるんだ? お前は参加してないはずだろ?
「僕達私達は、ええと……未来の英雄の卵として? の、自覚と誇りを持ち、正々ど…失礼しました。なにより自分のために優勝を狙って全力を尽くすことを誓います。そして、え?」
カンペをめくった緑谷が固まったが、それどころじゃない。確かにディスプレイに表示される名前、その一番上に緑谷の名前がある。タイムはなぜか16分53秒だが、俺より早いのは変わらない。
だけど絶対、一緒に走ってた訳じゃない。だいたい緑谷の手足の怪我は昨日からだったはずだ。
なんなんだ? なんで俺があいつの下に……?
「いや、ここで煽ってって、あお、良いんですか? はあ……ええと、こうゆうの苦手なんだけどな……ええと、ディスプレイに映ってるのは一昨日コースの最終調整で模範演技として僕が走った奴です。教師陣が心配性で僕は混戦になる競技には参加させてもらえないので、もしこのタイムが42番以内に入れば成績次第では決勝にも参加できると言うことでしたが、どうも学校的に参加できない方がいいらしくて妨害が無い分タイムを+3分すると言われたときは若干理不尽を感じました。だって、ここヒーローの学校ですし」
そうだ、あいつ、妨害されてないから……
「ねえ皆、隣を見て欲しい。そこにいるのは確かに競走相手だ。だけど、競争相手じゃないよね」
「確かに体育祭は自分の能力をアピールする場所だ。だけどそれを他人を蹴落とすためにどう使えるかをアピールする場面はもっと後に必ずあるってわかってたはずだよね。妨害オーケーって言われたけど、まさか本気にした?」
「まあ、僕にタイムだけでも負けてる時点で論外のような気もするけどさ、どいつもこいつも
「まあ要するにそこの二位と三位、お前らにはがっかりだって話だよ。何やってるの? 他人を蹴落とすことに夢中になって、ゴールを忘れた? 二位はよく知らないけど、そこの三位はいつか言ってたよな? オールマイトを超えるって。ハッ。無理だね。そんなに他人との勝ち負けを気にして、平和の象徴になれる訳無い。助けを求めてる人間は『ポイント』でも『トロフィー』でも無いんだから……ああ、そう言えば二位の方の父親がそうだったっけ?」
「2人とも精々目指してよ、『
最後の言葉が聞こえた瞬間頭がかっとなって、同時に視界の端に火柱が上がるのが見えた。
side:OUT
オールマイトをぶん殴った。
自分で自分が何やらかしたのか理解するのには随分掛かったけど、とりあえず今日はもう一悪を気にしなくていいだろうと、少しだけ現実逃避する。
そもそもどういう話だったっけ?
確か個性を譲渡出来るとか、なんか、それで、僕に個性を継いで欲しい、とか?
だれだっけ、そんなわけのわかんないことを言い出した、この骸骨。
八木さん? いや、違うか。八木さんに化けたオー……
そんなバカはここでしっかりぶちのめさないと。
「『落ち着け緑谷少年!』」
大きな大きな手が僕の拳を受け止める。あれ、オールマイト? 一体何処から? と言うか八木さん……じゃなかった、彼に化けた敵は何処に?
あれ、僕が殴ったのは敵? 八木さん? それとも……オールマイト?
「そうだった……すまない。君の気持ちへの配慮が足りていなかったな。つい先日死にかけたと言うのに、突然平和の象徴が絶対のものではないなんて……」
「え、なに言ってるんですか? 平和の象徴はオールマイトで、オールマイトは
「『ああ、そうだとも!』……かつてはそうだった」
オールマイトがまた萎んで、また八木さんが? なんなんだこれ? どういうことなんだ?
「見てくれ緑谷少年、そして受け入れてくれ。気付いていたんだろう? これが今の私の
気付いていた、そうだ。尾白君が言ってた、轟君がオールマイトを助けたって、それで八木さんからそういう気配がして……いや違う、違うだろ! だってオールマイトだぞ!? それがこんなっ、また訳のわからないことをっ……そう思ったけど、掴まれた拳が、腕が、ピクリとも動かない。まさか本当にこれがオールマイトだっていうのか? じゃあさっきの話は?
「緑谷少年、私には時間がない。私は個性を継いでくれる、継ぐに相応しい人間を探さなきゃいけないんだ。そして君はその候補の一人なんだよ」
「無理です」
やっぱり受け入れられない。これがオールマイトだとして、オールマイトの個性を継ぐなんて出来るわけがない。
僕だってそんな長く生きられる訳がないのに、継いでなにになる? それに、それに、僕に穢せと言うのか?
「お、落ち着いて緑谷少ね」
「無理、無理です、僕には絶対、僕には……僕には……ぼく、に、は……」
僕には……
気が付いたら保健室のベッドだった。
リカバリーガールいわく、極度の緊張状態におけるなんとかかんとか……記憶はあるかと問われたけど、どこまで話して良いかわからないから、オールマイトとどんな話をしたかは覚えてる、興奮しすぎたと答えておいた。
それ以来気まずくて、オールマイトとは話してない。
だってどうすればいい?
オールマイトが思いの外僕を買ってくれているらしいのは嬉しいけど、だとすれば雄英に誘われたのは個性の引き継ぎありきの話だ。
受け入れるのは当然無理だとして、じゃあその先僕に何がある? 無個性の僕に、なにが?
なにもない。全くなにもない。
正直いつ相澤先生に除籍処分を言い渡されてもおかしくないだろう。明日か、明後日か、それか今日にでも。
というか、別に相澤先生に限った話しでもないし、今まさに18禁ヒーローミッドナイトこと香山先生に呼び出されてるし。ええと、グラウンドだったっけ? 確か今はヒーロー科以外のクラスの体育委員が体育祭の準備してるんだよな。
除籍じゃなくて普通科への転科とかかな……
「ん、来たわね!」
「は、はい」
どの先生もそうだけど、きっちりコスチューム着てると教師っていうよりヒーローだよな、やっぱり。どうしても警戒心が……
「多分気付いてると思うけど、あなたを体育祭に参加させられないって考えがほとんどなの」
「……普通科や経営科は参加できるのに?」
「無個性っていうのはそれだけ大きな枷なのよ。わかってるでしょう? 特に今はメディアが怖い時期なの」
「そうですね」
理解はしてます。
「んふふ、理解はしてるけど納得できないって顔ね。青臭くていいわぁ」
「そ、それは……」
綺麗に見抜かれている。
いや、それ以前の問題か。
「そこで一個提案があるのよ。私と山田君……プレゼント・マイク先生からね」
「提案、ですか?」
「うん。第1種目に参加できる権利を放棄しない?」
思わずギリリと奥歯が鳴った。けど、堪える。落ち着け僕、ただ参加するなってだけならこんな提案はあり得ない。それに体育祭じゃなくて第1種目と先生は言ったぞ。
「んふっ、ちゃんとしてるわね。いいわ、話を続けましょ。もし貴方が今すぐ自分から第1種目参加を辞退したら、最終調整の名目でその競技を今からやらせてあげる。内容も競争相手も内緒。でも、そこで超好成績を残せれば、上に行ける可能性はある……と言うかごり押してあ・げ・る♡」
「どういうことですか?」
「私達も一枚岩じゃないってことよ。ま、当然よね、ヒーロー科だけでも40人いるのに、教師が全員同じように動いたら指導に不備が出るわ」
「なるほど?」
「つまり私やマイク、校長先生はね、君が起爆剤になると思ってるのよ」
それって……
「ええ、それで雄英の根が揺らいでも構わない、ってね。校長先生から話を聞いたときは驚いたけど、好みだったから乗ることにしたの」
つい先日
……ダメだ、その先に何を期待してるのかが全くわからない。
「とはいえ、今回いきなりそこまで行くことは期待してないわ。今年はあくまで、違う形でも貴方が参加してるんだってことを印象付けるのが主な目的ね」
「ええと、なるほど?」
理解も納得も出来たとは言いがたいけど、ひとつわかったことがある。形はどうあれ参加できる可能性があるってこと。
そして、今すぐ僕が除籍になることもなさそうだということ。
「それでどうかしら? 特別扱いは気にくわない?」
「いえ、目の前の壁を乗り越えれば道が拓ける。いつもと……皆となにも変わらないですよ」
「んふ、ほんとアガるわぁ! それじゃ精々全力を尽くしなさい」
「はいっ!」
というわけで今に至る。
そりゃ頑張った。
火事場の馬鹿力一歩手前くらいで、ありとあらゆる障害物を無視して走り抜けた。ロボは隙間をすり抜け、ロープは靴を脱いで素足で、地雷はもう踏んでも無視した。
タイムは14分。中学生の長距離競技者くらいの記録かな。障害物を考えれば頑張ったと思う。
結果、直接的な障害になる小型中型ロボが減って威圧感と迫力だけの大型が増えた。
ザ・フォールが半分に短縮された。
怒りのアフガンは……変化無し。
あげく妨害を考慮してタイム3分まし。
通す気ゼロじゃないか! と、叫びそうになったけど、クラスメイトの……主に不本意ながら幼馴染みと、能力を見れば間違いなく最強の一角の
馬鹿さ加減が全てを台無しにした。
というかしてくれた。
スタートからの妨害連発に、怒りのアフガンでの大混戦! ゴールを忘れたように振る舞う爆豪君が繰り出す爆撃に吹き飛ばされる人・人・人!
……。
…………。
いやもうこれ単に轟くんの判断ミスと、僕を勝たせたくなかった人の調整ミスだね。
ここまで断トツだったのに、今更後続に道を作ることを恐れて氷を使ったダッシュを止めた轟君。正直何を考えてたのかわからない。
飯田君は確かにスロースターターだけど、それで負けるなら……条件が五分になったくらいで負けるなら最初からなにやったって勝てないってことだ。それでも勝ちたいならもっと積極的に妨害するべきだったろう。
コースの調整した人は僕が不利になるようにと思ってコースを簡単にしたんだろうけど、その分全体の差がなくなって混戦の様相が強くなった。ザ・フォールが倍の距離あれば、青山君も爆豪君も軽々崖を越えることは出来なかっただろう。
轟君が断トツでクリアしたら、あとの二人も順当にゴールして、僕は少なくとも6位以下だったんじゃないだろうか?
そんなわけで第1種目、僕は一位通過となり、遅ればせながら選手宣誓をすることになった。プレゼントマイク手書きのカンペ付きだ。せっかくだからミッドナイトにもリップサインを貰ってファイルに保管しよう。
指示があったからアドリブで煽ったら、目の前で爆発が2つ、視界の端で火柱が一つ上がった。
迫力満点だけど、雄英体育祭らしいといえばらしいんじゃないかな? オール……八木さんは口をあんぐり開けて、プレゼントマイク先生は爆笑してる、ミッドナイト先生にいたっては隣で肩を震わせてるよ。イレイザーヘッドこと相澤先生は目を剥いて睨んでるけど、知ったことじゃない。
何かしたにせよしてないにせよ、これがあんたの教育の成果だ。受け止めろよ
……ま、他の先生の動きが大きいのは認めるけどね。
ええ、めちゃくちゃな話になってきたなーとは思っています。
教師陣は丸一日会議をして決着がつきませんでした。当然相澤先生とかは緑谷出久体育祭参加否定派です。
まあ、ヒーローになれない、職場体験にも呼ばれない奴が万が一にも活躍して他の生徒を潰すことがあってはならない……と言うと合理的っぽい話ですが。オールマイトは思うところがありましたが緑谷君に殴られたこともあり黙っていました。
どうでもいいですけど、緑谷(幼)の声ってミッドナイト先生と同じなんですよね。
あと緑谷君の声ってトンカツDJ……ミッドナイト先生の声は女の子しかしない島のペット豚……
いえ「ほんとアガるわぁ!」ってそう言う意味ではないんですけどね? なんとなくね。