B-2ed   作:管蘿乃

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本日九話目でしょうか?
心操君視点から始まりますが、彼は今回活躍しません。


B_26thD『体育祭編6』

side:心操

 

『YEAH! 見応えある良い試合だったな!』

 

『……ああ』

 

『んじゃ次行こうかァ! 芦戸三奈 対 飯田天哉!』

 

『どうやら芦戸の洗脳は解けてるようだな』

 

『オーヨ! バッチリ熱いバトル見せてくれよぉ! レディイイイイイ! START!!』

 

「なんか良くわかんないけどー、これで勝つと緑谷と戦えるんでしょ?」

「ああ。随分長い戦いだったが、八百万君との戦いはなかなか見事な物だった……」

「んじゃ、お互い譲れない物のために」

「ああ、兄も見ているはず。容赦はしないぞ芦戸君!」

 

 酸……溶解液をばらまき足場を崩す芦戸と、それを避けながら走り続ける飯田の対決か。

 走りながら突っ込む飯田の気勢を、強力な(ようかいえき)で足場を潰すことで萎えさせて自分のペースに引き込もうとする芦戸。いや、強力なだけじゃない。粘度、強度ともに低く摩擦を生み出すための(ようかいえき)で罠を張ってもいるみたいだ。個性のこと知ってると知らないじゃ全然違うな。聞いといて良かった。

 しかしなかなか見てて緊張感がある試合、後一歩惜しいのは芦戸の方がいまいち力押しなんだよな。近づいてきたところに酸を撒くんじゃちょっと遅いよなぁ、あくまで身体能力を前提にして個性をその補助ってスタイルは悪くないってあいつは言ってたけど、純粋に身体能力 (フィジカル)を強化して行く個性の飯田とは相性が悪いんだろう。

 

「早いね飯田!」

「芦戸君こそ、素晴らしい反応だな!」

 

 あれでルートの誘導とかまで出来ると有利に試合を運べるんだろうな……とは言え飯田も下手に転ぶのが怖いのか動きが鈍い……そう言えば地雷原でもビビってたっけ。

 ああつまらない。爆豪もそうだし、誰も彼も自分の個性に対する理解が浅いんだよ。いや、まあ人づてに聞いただけの俺が偉そうに言うことじゃねぇんだけど。たとえば飯田の個性は、走らなくてもギアを上げて行けるらしいとか。

 あいつの個性『エンジン』は、エンジンが徐々に回転数を上げて行くように()()()()()()()()()上げて行くらしい。メリット兼デメリットが排気筒からの噴出だ。その噴出は身体を押し出して加速させるだけの作用 (エネルギー)がある。同じタイプのヒーローインゲニウムは両肘から出るから拳をあわせたままエンジンを回して行けるけど、ふくらはぎの飯田は排気筒からの噴出で強制的に重心を動かされちまうから走り続けないとダメらしい。走りながら徐々に回転数を上げて行くと言うよりは、走り続けてないと排気の勢いで足を持ってかれて転んじまうんだそうだ。

 ハムスターの滑車に入ったらぐるんぐるん回るはめになるな。本人が。自転車とかに乗ると……こがなくても進むのか。それは便利そうだ。

 

「私の酸の上 (つくったみち)を!?」

「もらったぞ芦戸君!」

 

 とは言え、例えば両足踏み切りのクラウチングスタートのような姿勢であれば……いや、極端に言えばうつぶせにでもなっていればそのままエンジンを回して行くことが出来るってことになる。まあ、つま先とかがガンガン地面に押し付けられてめちゃくちゃ痛いだろうけど、エンジンの回転数が上がれば上がるほど全般的な身体能力も上がる。頑丈さも。増え続ける排気量に適応するように足の回転数が上がって行くことがその証拠なんだそうだ。まあ、身体を押し出す排気に逆らう訳じゃないとは言え、滑らないで地面を踏み込むだけでも相当なことだよな。

 徐々にエンジンの回転数に身体能力の上昇が追いつかなくなってくらしいけど、限界以上まで上げて行けばオールマイトにも匹敵する……いや、部分的にはオールマイトに勝るそうだ。主に動体視力と反応速度。それってかなりヤバい個性なんじゃないか?

 

『芦戸さん場外! 勝者飯田君!』

 

「ああああー……負けたぁ!」

「ふぅ、これで次は緑谷君か」

 

 ……なかなか消耗したようだけど、最後はエンジンの回転数が上がりきった飯田の勝ちか。

 まあ、順当かな。洗脳解いたばっかの芦戸の戸惑いもなんだかんだ結構響いてた感じもしなくはない。

 

『続けて第二回戦第三試合! 轟焦凍 対 物間寧人!! ってありゃ? 物間洗脳されてるみたいだけどいいのか?』

 

『さあな。考えがあるんだろ』

 

『んじゃまあ、レディイ、START!』

 

 さて、面白い話もたっぷり聞けたし、物間のお手並み拝見といこうか。

 

 

 

 

side:轟

 

 俺は何をやってんだ?

 

 くそ親父を否定するために、その手始めにこの体育祭で優勝するはずじゃなかったのか?

 

 第一種目は無個性の緑谷に全部持ってかれちまった。

 

 第二種目は普通科の心操にだ。

 

 もう第三……最終種目だ。第一試合の相手は尾白で、楽勝だった。第二試合は? 物間とか言う奴らしい。個性がコピーだとか。

 心操が俺のところに来てそう教えて行った。こいつをテストベッドにすれば良いって。こいつに俺の個性をコピーさせて炎を使わせれば、何よりも明確に俺が親父を超えるための目安になるって。

 確かにそうかもしれない。目の前には洗脳されたままの物間がいる。選ぶのは俺だ? 頬を一発張れば洗脳は解ける?

 そのためにこいつを使う?

 

 

━━精々目指してよ、『万年二位(エンデヴァー)

 

━━そんなに他人との勝ち負けを気にして、平和の象徴になれる訳無い。助けを求めてる人間は『ポイント』でも『トロフィー』でも無いんだから……

 

━━どいつもこいつも体育祭の成績 (ぶらさがったニンジン)に夢中になって、本懐忘れてるんじゃない? ねえ、なにしたいの? なにやりたいの? 体育祭で優勝したいの? 誰かの鼻をあかしたいの?

 

 うるせぇ、お前になにがわかる!

 無個性が! ヒーローになれるわけないのに、俺の前にたつな!

 俺がどんな想いで……お前には想像も出来ないだろ! 個性を持った苦しみなんて、大好きな母親に、個性を否定される苦しみだって!

 

「起きろ!」

 

 Slap(パンッ)

 

「っはぁ!?」

 

 軽く頬を叩くと、確かに目の前の男は正気に戻ったようだった。

 

「面倒だから手短にいくぞ。これは最終種目のガチンコバトルトーナメント、第二回戦第三試合。敗北条件は場外、戦闘不能、降参。いま頬を張ったから、半冷半熱 (おれのこせい)をコピーできてるはずだ」

「は、え、なんだって?」

「俺ら全員洗脳の個性持ちに手玉に取られたんだよ。あともう試合始まってるぞ」

「へぇ……」

 

 キュッと物間の唇の端がつりあがった。

 

「っ!」

 

 思わず作った氷の壁に、物間の出した炎が遮られ、る!?

 

「いいね、これ!」

 

 次の瞬間氷の壁が砕け散り、真っ直ぐ炎が迫ってきた。くそっ、どういうことだ! 追加で氷の壁を作りつつ、足元に氷を出した勢いで一気に距離をとる。

 案の定氷の壁はあっさり砕け、迫る炎は避ける以外に選択肢がない。

 

「あっはは、逃げてばっかりじゃないか? あれぇ? おかしいなぁ? 君は優秀な筈のA組でも特に優秀だって聞いてるけどなぁっ!」

 

 一瞬炎が消える。だが物間の腕は俺を追って……何だ? 炎が掌の上で形を変えて、これは……

 熱線!

 凝縮された炎が一条の線として振り回される。クソ親父の必殺技じゃなかったのかよ! あっさりコピーされてるじゃねぇか!

 ひたすら走り熱線をかわす。どうすればいいかと思ったが、思いの外早く熱線は途切れた。オーバーヒートか! 個性の副作用で体温を上げ過ぎたな!

 

「うっ……は、はは、なるほど中々弱い個性だ、本来なら僕の腕の見せどころなんだけどね……」

 

 弱いだと? なに言ってやがる。

 氷を作り出しながらのダッシュで一気に距離を詰める。すぐにケリを……

 

「最初っから3つも! 同時に個性を使えるなんて! ちょっと調子に乗っちゃうのも無理無いかな!」

 

 っまた熱線!

 野郎、俺の個性 (みぎ)を!

 

「感覚は掴んだ、これで撃ち放題だっ!」

「ふざけるな! 俺の個性でっ!」

「あっはは! おかしいなぁ! この(ひだり)だって君の個性だろ!」

 

 全力で作り出した氷の柱は、熱線に触れるまでもなくかざされた右手の前で砕け散った。

 

「どう、やって……」

「はっ、自分の個性に対する考察が足りないんだよジュニアっ! それとも二代目(セカンド)の方がお気に召すかなっ!」

「だ、ま、れぇぇぇええええええ!!」

 

 熱線に向かって最大出力で氷を作り出す。

 作り出し、続ける!

 

「あっはははははは!」

 

 っず、あ、っ!?

 届いた、届かせちまった! 熱線が胸を撃ち抜く。けど、ぬるい?

 冷えきってた身体が……これなら、行ける!!

 

ぁぁあぁあああああああ!

 

 俺が今出せる最大を! 最高を! 最強を!

 

 Bam(パーン)!!

 

 最強、が……あっさり砕かれる。舞台を埋め尽くすほどだったはずの氷が、まるで物間を避けるみたいにぽっかりと穴をあけて砕け散る。

 

「残念、届かない」

 

 熱線を受けて、不愉快だが体温の問題は解消した。解消したはずだ。

 それでも俺の出せる最強が、効かないのか? 不本意でも、不愉快でも全力だったはずだ。あいつが、理想としてた力じゃないのかよ。それが、なんで?

 

「だーかーら、個性に対する考察が足りないって言ってるじゃないか」

 

 Slap(ッパァン)!!

 いつの間にか近づいてきていた物間に頬を張られた。いつの間にだ? 全然反応できてなかった……!

 身構える。(こせい)は効かねぇ。じゃあどうする? 直接やりあうか? 個性の使い方だけじゃねえ、徒手格闘(そういうの)だってあいつに仕込まれてんだ。相手が増強型だってそうそう後れを取ったりは……!

 

「おっと、そんなに警戒しないでくれよ。最初の一発をやり返しただけだろう? 僕のコピーは時間制限あるからね。さて続けようか? それとも降参する?」

「するわけねえだろ。俺は、俺は優勝してクソ親父を……」

 

 Frozen (キンッ)!!

 この距離なら! そう思って拳を握り、それより早く一瞬で全身が氷漬けにされる。

 

「これでも?」

「……ああっ! 絶対に……!」

「ふぅん、じゃあ良いや。審判(ミッドナイト)降参です」

 

 は?

 

『え? いいの?』

 

「僕ら、昼食べ損ねてるんですよ? 頭おかしいA組の担任のせいで。ここで勝って次の試合で格下に負けても美味しくないですし、ここで譲るのが妥当なんですよ」

 

『あー……物間君、降参! 勝者、轟君!』

 

 なんだ? なにが、どうなって?

 

「っは、そんなとこにまで拘るの? 馬鹿みたいだね」

 

 呆然とした俺の全身を覆った氷を(ひだり)で溶かして、物間は悠々と舞台から下りて行く。

 勝ち残ったはずの俺には、だけど当然の敗北感しかなかった。

 

 頭が動かない。時間が遅くなったみたいなのに、飛ぶように流れて行く。

 

 切島が心操に乗せられて負けた。

 

 飯田は緑谷にカウンターを取られて。

 

 気のせいじゃなきゃどっかで親父がなんか言ってた気もするけど、黙って消えた気もする。

 

 心操がなんか言ってたが、気が付けば俺が勝ってた。

 

 あいつも棄権したのか? 俺には闘う価値もないってのか?

 

 目の前のゲートから緑谷がでて来る。舞台に上がろうとしている。

 

「止まれ緑谷」

「ん?」

「無手のお前とやっても意味がねぇ」

「……何言ってるの?」

「確かにお前は無個性にしては強いんだろう。結果だけ見りゃ、俺は良いようにされてたかもしれねぇ。だが、俺の個性がありゃお前に負ける訳がねぇ。舞台に上がるな」

「本気で言ってるの? 自分の個性をまるで理解してない轟君」

「あ?」

 

 何を物間みてぇなことを……

 

「ああ、洗脳されたこと無い君にはわかんないか。でもさ、ちょっと考えれば少しくらいおかしく思わないかな。いい? 洗脳されてる最中は意識に靄がかかったみたいになってあんまり周りのことがわかんなくなるんだよ」

 

 何を言って……いや、あいつ、自分がなんで舞台に立ってるのかわかってなかった。なのに自分が昼を食ってないって知ってた。空腹具合なりなんなりでそれを()()()のはまだ良い。だけど、それがなんで相澤の方針だってわかってたんだ? まるで意識が無かったのならそれを知ってるのがおかしい。それを知ってるなら試合のことをわかってるはずだ。

 演技? 俺に不意打ちするための?

 

「なんで物間君があんなに君の個性に詳しかったと思ってるのさ。本気であの時彼がまだ洗脳されてたと思ってる?」

「お前……全部お前が?」

「悪いけど君は本命(オールマイト)の前座なんだ。とっとと終わらせるよ……ああでも安心して。君が知りたいだろう君の個性のことを全部教えてあげる。この世界を壊すために」

 

 

 

「これからするのは君のお父さんを壊したのが……いや、君の家族を壊したのは君自身って話さ」




轟焦凍
個性:部位限定体温調整 指向性体温伝播 一時的水分拡大化 焔幻覚
個性体質:超量貯水(父)
明らかに生み出せる氷の量がおかしい、と言うお話です。空気中の水分とかそんなにねーだろ、と。つまり一時的に水を巨大化させているに違いない! と言うことですね。推薦入試試験とかの氷結ダッシュとかも、その拡大によって推進力を得ている訳です。
ただし巨大化させると当然密度が下がるので、同じ個性をコピーした物間君にはさらに拡大すると言う手段で砕かれました。
原作的にはステインにあっさり切り開かれたりしていますし、大氷壁にやられた瀬呂君とかも、体温の低下で動けないのであって実は腕を振り回せれば氷はあっさりくだけていました。

なお物間君は『超量貯水』を持っていないので轟君のように氷を生み出すのは無理です。
逆に言えばあの大氷壁を駆使している時点で、パパンから受け継いだ物をバッチリ使っているということなのですが。
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