B-2ed   作:管蘿乃

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B_29thD『職場体験?編1』

「うん、他の人には適当なこと言っとくように頼むんだけど、上鳴君には借りがあるし、流石に所長さん直々だしね。そうだな『制約は多いし、道を外した感は有るけど、壱日壱日血を吐く思いで必死に生きています』と伝えておいてくれる?」

『おお、なんか、いや、わりーな緑谷』

「いや、上鳴君だってそれ目当てに呼ばれたの嫌じゃない?」

『あー、まあショックではあるけどさ。今は取り合えずラッキーって思うことにしてる。だからお前もあんま気にすんな』

「うん、ありがとう。それじゃあね?」

『おう、土産話楽しみにな!』

 

 プツッ……ツー……ツー……ツー……

 

「……ふう。所長が直に、か。普通サイドキックとかにやらせるだろうに」

 

 体育祭が終わってはや二週間。僕の生活環境は急激に変わりつつある。

 

「お、体育祭でやり過ぎて寮に収容されたあげく、母親が引っ越すはめになった緑谷、何やってるんだ?」

「やあ、体育祭でやり過ぎて寮に収容されたあげく、両親が転勤に成った心操君、上鳴君からのメッセージに返信してただけだよ」

「……」

「……」

「やめようぜ。自虐にしかならねーからよ」

「それ、僕の台詞だと思うけど」

 

(いや、言い返した時点でどっちもどっちだろ)

 

 ……まあ、そう言う訳でここ二週間殆ど雄英の敷地から出てない。出ようとするとマスコミが群がって来るからだ。それはつまり体育祭でどれだけやらかしたか、ということなのだけど。

 それにしたって他のクラスメートのほぼ全員が職場体験に行ってるなか一人おいてけぼりは酷いと思う。

 

 体育祭が終わった後、母さんに電話したら凄く泣かれた。

 我が家では毎年雄英体育祭なんて見ないのに。僕が無個性だったから。それだけは絶対見なかったのに。僕は出ないから見なくていいって言ってあったのに、母さんは全部わかってたらしい。僕が寮に入ると言う話をすると、すぐに父さんのところに引っ越すと言ってくれた。父さんもすぐに転勤するらしい。

 ずっと、僕には内緒で相談してたらしい。

 誤魔化せていたと思っていたのは僕だけで、父さんも母さんも全部わかってて。

 

 なんで、誤魔化されてるふりなんてしてくれてたんだろう。

 

 なんでこのままヒーロー科にいることを認めてくれたんだろう。

 

 なんで……

 

 やめよう。いつかの常闇君じゃないけど野暮でしかない。

 

「緑谷はさ、後悔してないのか」

「……何の話?」

「俺さ、中学の時の進路指導教師(シンロ)に、雄英だけはやめとけって言われてたんだけどさ、意地になって雄英の普通科に来てさ……今は、ちょっとだけ意味がわかって後悔してる。緑谷はどうだ?」

「奇遇だね。僕もせめて士傑にしとけっていわれたよ」

「なんでそうしなかったんだ?」

「別に士傑に行ってもヒーローになれるわけじゃないからね。多分医者か警察か何かのルートを推されて終わりだよ、僕の場合」

 

 能力以上に人格を重んじ、規律を重視する校風。必然入試は、実技もあるがそれ以上に面接と筆記(特に小論文)を重んじる……ヒーロー科に入ることは出来るかも知れないけど、そこから先の道はない。

 そういう点では全国に結果を見せ付けることができる雄英体育祭の方がまだ目がある。

 もっとも受験しようとしてた理由はきっぱり諦めるためだったんだけどね。最初は。

 

「そっか、大変だな」

「そうでもないよ。ところで」

「あれ? 洗脳の人ではないですか!」

 

 心操君に今日の予定を聞こうとしたら、突然誰かが割り込んできた。ピンクの髪と額の妙なゴーグルに見覚えがある。

 

「ん、サポート科の……」

「確か発目さんだったよね」

「貴方のせいで第二第三種目、全然私のベイビーをプレゼン出来ませんでした! が! 第三種目の時の命令のお陰で、一件だけ面会の申し込みがあったんですよ! 一応ありがとうございます! 一応!」

 

(がっつり無視されたな)

 

 うん、そうだね。心操君が若干戸惑った様子で僕と発目さんの顔を見比べているけど、無個性とはこういうものだ。

 ……いやでも本当に久しぶりだなこの手の対応。

 

(懐かしがるようなものじゃないと思うけど)

 

「ん、ああ。無個性の人ですか。無個性はサポートアイテム装備できませんし、用はないです」

「いや、お前それは」

「無個性の人も私に興味ないでしょう? 体育祭の最中だったら目立って良かったかも知れないですけどね」

「緑谷……」

 

 発目さんの物言いがショックだったのか、心配そうな顔の心操君。でも正直今は気にしてないよ。

 

「いや、無個性って基本こんな扱いだからね。酷いときは来世に期待してワンチャンダイブとか、指切り落として四本指の異形を名乗れば? とか言われるから。まだましな方だよ」

「サイボーグ化ならお任せあれ!」

「間に合ってます」

 

 ショックじゃないけど軽い衝撃だった。話聞いてた? そう思う間もなく出て来る出て来る謎の機械。あ、それってエアジェットのバックパック? ……じゃなくて。

 

「そういえば心操君はボイスチェンジャー欲しいんだよね?」

「は?」

「後は目立たないように移動させられるスピーカーとかあるといいよね。電気的に音を伝えるんじゃなくて、ヘリウムガスみたいな声の周波数を変える奴とかそれを反射させて焦点を合わせる仕組みの奴とか」

「ふむふむ。電気信号を使わず声を弄る装備ですか、今は手元にないですが……ああ!? インスピレーションが沸いてきましたよおっ!」

 

 発目さんは突然踵を返して走り去っていった。うん。会話ができない人だ。よっぽど相性が良くないと面接は厳しそうだな。とりあえず心のなかでだけ応援しておこう。

 ……。

 よし、応援終わり。

 若干恨めしそうな顔をする心操君だけど、大丈夫だよ。彼女多分そのインスピレーションとやらが実現したときにはなんで作ってたか忘れてるから。それよりも、だ。

 

「ところで心操君の今日の予定は?」

「いきなりだな……ヒーロー科の先生がトレーニング見てくれるってさ」

「まあ、殆ど皆職場体験に行ってるからね……中間テスト作ってるって言っても、それなりに時間あるだろうし」

「お前は指名来なかったのか?」

 

 そりゃ無個性に指名なんて来る訳無い……と言いたいところだけどそこそこ来てた。エンデヴァーのところなんか、系列事務所も通して5件来てた。呼ばれたと思えば嬉しいけど、呼び出されてると思うと軽い恐怖だ。

 

「来たらしいけど、相澤先生が無個性を出せるわけないって勝手に断ってた」

「そうか。お前今日の予定は?」

「授業午前中だけだし、午後から保須市に行くつもりだけど」

「保須市? なんでまた」

「インゲニウムのお見舞い」

「それは……その格好で?」

「何か?」

「いや、何かって……」

 

 右腕と右足をギブスで固定して、松葉杖をついているのはがダメなんだろうか? 別に問題ないと思うけど。左頬のガーゼも不審じゃない程度の大きさだと思うし。ああけどそうか、雄英にはリカバリーガールがいるから、基本的には怪我した格好の人なんていないもんね。でも必要なんだよ。二週間たっても体力が戻りきらないから、本格的な治療に入れないんだってさ。

 ……ってわざわざ説明することでもないか。

 

「それでまあ、ついでに心操君もどう? って聞くつもりだったんだけど、トレーニングの方が大事だよね。それじゃあ……」

 

 そろそろ戻るねと、そう言いかけた僕の足を何かがペシンと何かがくすぐった。おっと、幅を取りすぎたか。松葉杖で壁際に……

 

「あれあれぇ? 選手宣誓で偉そうなこと言ってた割には人参に飛びつくばかりで自己管理全く出来てない緑谷じゃないか、こんなところで何やってるんだい? 職場体験にいかないのかい? 優勝したのに? おかしいなぁ!?」

 

 物間くんか。今当たったのは燕尾の裾? 一種の鞘当てだろうか……いい趣味してるよ、全く……いい、趣味? あれ?

 

「物間……」

「あ、僕は単に中間レポートのために帰ってきただけだから。ちゃんと『ファントムシーフ』として活動してるからね!」

「いや、そんなことよりどうしたその八二分けとジーンズ。お前ベストジーニストのフォロワーだったのか?」

 

 スンッ……

 

「じゃ、僕はまた体験に戻らなきゃ! じゃーね、お暇なお二人さん!」

 

 物間君、言いたいことだけ言って帰ってったな。何だったんだ? ブラドキング先生にでも職場体験先聞いてみようか。

 

「……あいつ、どういう精神状態なんだ?」

「心操君、野暮だよ」

「そうか? ところでファントムシーフって」

「ヒーローネーム。職場体験からコードネーム使うんだってさ」

「なあ、それ先に決めてりゃ俺たち家に帰れたんじゃね?」

「……可能性はあるよね」

 

 手遅れだけど。

 

「それじゃあ僕はそろそろ教室に戻るよ」

「そっか……なあ、緑谷」

「ん?」

「俺、ヒーローに成るよ」

「……」

「個性のせいにして怠けてた。努力が足りなかった。意地で寄り道もした。だけど全部認めてさ」

 

「俺は、ヒーローに成るよ」

 

「だから、見ててくれ」

「……うん」

 

 かっこいいな心操君。

 こういうときなんて言うんだっけ? パルパルパル? いや、これはただの毒伝波だな。

 あんまりかっこ悪い所は見せたくないし、笑顔で手を振っておいた。嫉妬なら教室に戻ってからもできるし。

 

 

 

 

「緑谷君! 一体何処に行ってたんだ!?」

「やあ、飯田君。どうしたの?」

「どうしたのじゃない! 僕は君の護衛を兄から頼まれているんだ、勝手にどこか行かないでくれ!」

「あはは、ごめんごめん。消しゴムがなくなったからちょっと購買に買いにいこうと思っただけなんだ」

 

 訂正。思ったより教室での監視キツイや。

 飯田君は、学内に残った生徒の一人だ。他には教師をしてるセラピーヒーローのところに通う轟君や、実はヒーロー教師を目指しているらしい『武闘ヒーローテイルマン』こと尾白君と『輝きヒーローCan't stop twinkling.』こと青山君が学内に残っている。

 チラッと聞いた話によると、曰く個性で苦労したからいろいろ思うところがあってヒーローとしての実績を詰んだ後に指導者になりたいのだとか。

 ふーん。

 ちなみにB組にもそういう人はいるらしいけど、物間君に限らず時々帰ってくる人と遭遇したりするから誰がそうなのか流石に詳しくは知らない。

 

「まあいいが……それにしても本気なのか?」

「何が?」

「保須市の病院に、兄を見舞いに行くという話だ」

「飯田君が嫌ならやめるけど?」

「そりゃ、僕は嬉しいさ。だけどあそこには奴が……ヒーロー殺しのステインがいて、君の命を狙っているんだぞ?」

「考えすぎだよ、僕が狙いだったらとっくに動いてるって。特に雄英がこの時期に職場体験を実施するのも、ヒーロー殺しが同じ地域で3~4件の犯行を繰り返すのも有名な話なんだし」

「そう……か」

 

 どこか納得してるような、してないような顔。ごめんね飯田君。

 本当は、僕の護衛なんかより気になることあるんだよね。わかってるよ。

 叶うといいね、とは言えないけど。

 

「でもごめんね? 飯田君、お兄さんには怒られちゃうかもしれない。ちゃんと僕のわがままだって言っていいからね」

「……いや、構わないさ。僕も兄さんに会えるのは嬉しいからな」

「そうならいいけど」

「それに、僕も立場としてはインゲニウム事務所で職場体験している身分なのだ。完璧に仕事をこなせればベストだが、多少失敗して叱られるのも学生だからこその経験だろう」

「……いいね、飯田君。ちゃんとお兄さんに僕のこと友だ」

 

 ワタシガキタ! ワタシガキタ! ワタシガキタ!

 

「緑谷君?」

「いや、ただのメッセージだよ。えっと……メイデンオーダー……あ、八百万さんからだ」

「彼女は確かラビットヒーローミルコのところに行ったんだったか。スタイルは合わなくても勉強にはなるだろうということだったな」

「しかもヒーローランキング7位からの指名だからね。断りにくいのもあったのかも。で、本文はっと……大方予想がつくけど……」

「また体験先のヒーローに君のことを聞かれた、という奴かい?」

 

 上鳴君との通話もそうだけど、職場体験が始まってこの3日で一日三件は来る案件だ。本当に無個性なのかとか、普段どんなことしてる奴なのかとか、職場体験先で聞かれて、答えていいかのかというをメッセージを送って来る。流石に殆どの事務所の所長(オーナー)は弁えていてそういうことはないみたいだけど、サイドキックの人には隙を見ては問いつめられるとか。ちょっと申し訳ない。

 

「……いや、そうだと思ったけど違うみたい。なんか、単に『お元気ですか?』って一言だけ書いてある」

「言ってはなんだが、手紙の前書きのようだな」

「だね『元気ですよ』っと」

「……君、元気ではないだろう」

「そう? 元気だよ? わ、返信早い。『私は今とても実りのある経験をしております』……ふむふむ『僕は今日は保須市に……違うな。『どんな経験をして……んん? あ、続きが来た。『必ずこの名に相応しいヒーローに』」

 

 『必ずこの名に相応しいヒーローに成ってきますので、また一緒にお昼を食べましょう。メイデンオーダーより』か。

 万応 (ばんのう)ヒーローメイデンオーダー。『万応』というのは何事にも対処する、そう言う意味で付けた造語らしい。あと、オーダーメイドは関係無いとか。結構熱心にミッドナイト先生と話してたから、何か意味がある名前なんだろうけど……

 その名に相応しく、か。残念ながらまだわからないなぁ。『八百万さんがどんな体験をしてくるか、話を聞けるのを楽しみにしてるね』っと。

 よし。

 

「ごめん飯田君」

「いや。それじゃあ授業だ……といっても自習だがな」

「じゃあもう保須市いく?」

「ダメだぞ緑谷君! そういうのはよくない!」

「わかってるよ。ちょっとした冗談だから。授業範囲はそんなにないけど中間の対策でも……」

 

《1-A緑谷出久君、1-A緑谷出久君、保健室までお越しください。1-A緑谷出久君、1-A緑谷出久君、保健室まで……》

 

「ごめん飯田君。場合によってはお見舞いはまた今度になるか」

 

《失礼しました。1-A緑谷出久君、1-A緑谷出久君、迎えをよこすのでその場を動かないように。1-A緑谷出久君、1-A緑谷出久君、迎えをよこすのでその場を動かないように。あと教室以外の場所にいたらわかってるでしょうね?》

 

「……また今度という問題ではないんじゃないか?」

「いや、行くから。絶対行くから」




心操人使
個性: 接続(音声型) 思考鈍化
相手と接続し、思考を鈍化させ、接続した部分から声を流しんで操る個性。
接続には互いの個性因子の共鳴が必要であり、自らの声で自分の個性因子の固有周波数を送り、相手の声で相手のそれを確認、共鳴させる……と言うシステム。

個性体質:声
自分の個性因子の個性周波数を送りつけることの出来る声。より正確に言うならば、肺パワーソニックボイスのように、集中した相手に特定の音を伝える機能を有する声帯。

原作で再登場した結果、おおきな齟齬が産まれてしまった個性ですね。
具体的には2点。
操られてると喋れない。個性を使うには相手に集中しなければならない。
つまり騎馬戦での物間君を使った大掛かりな仕掛けは不可能だったことになります。整合性をとる方法は……なさそうですよね。あるいはあらかじめ物間君に接触して交渉していた……と言うパターンもあるのですが、その場合爆豪騎馬が残るとも思えないですし。
なので、申し訳ありませんがここは目を瞑っていただきたく。

ちなみに私個人のイメージとしては、実は無個性には効かないと言うことになっています。
相澤先生しかり、心操君しかり、非接触型で相手の肉体に対して直接作用するタイプの個性は、相手の持つ個性因子と自分の個性因子を共鳴させて……云々。
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