B-2ed   作:管蘿乃

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入試の結果発表編です。
遅くなりましたうえに内容がろくに無い話です。申し訳ありません。


B_3rdD

 今日の一悪は『母が作ってくれたカレーを鍋ごとひっくり返す』だった。というか、した。あー、カレー食べたかったなぁ。

 ちなみに後輩から貰ったお守りは、『ロボからの攻撃を受けた時に身代わりになってくれた』という嘘を後輩に話したときと、翌日の普通科入試のときに『焼き捨てた』ことで二日分の一悪になってくれた。感謝に絶えない。

 『再来年の俺の受験の時は緑谷先輩が同じやつ買ってくださいね!』と、キラキラした目で語る後輩の顔を思い出すと胸が痛い。当日うっかり忘れるかこっそり別のを買って行くかして一悪にさせてもらおう。いや、ほんとに胸が痛むことなのだけど。

 

(クラスメイトにしてきたことを思えば、冗談みたいな話だな)

 

 まあ、そうだけどさ。

 

(それでも未だ殺さずに済ませてるんだから、まだまだましな冗談とも言えるけど)

 

 そうかな? 最初……虐めっ子相手に一発やり返すだけでも一悪になってたころを思えば、随分遠くまで来ちゃった気がするよ。

 

(わかってるな、出久?)

 

 わかってるよ、エミネ。

 僕はヒーローにはなれない。なれたとしてもそう長続きはしないだろう。

 

(ただでさえ一悪は歯止めが利かない制約だ。もし正義の心を失えば、お前は生きる気力を無くして次々と制約を破るだろう。そして大切なもの (いのち)を失う)

 

 そして万が一生きる気力を保つことが出来たとしたら、その先に待っているのはエスカレートする一悪に振り回される人生。つまり(ヴィラン)としての人生だ。

 ……改めてろくでもないな、道化師。

 

(人から外れた人間なんて、何かを恐れたり雁字搦めになりながら暮らすくらいがちょうど良いんだよ。結局枠から外れて生きてけるわけじゃないんだしな)

 

 その雁字搦めの道の先が明らかに枠から外れて排斥一直線なんだけど。今まではエミネとその親友のしか聞いたことなかったけど、他もみんなこんな感じなの?

 

(どうだろう? 大切な物を奪われたり隠されたヤツは物を見つけたり探したりする能力の代償に『何も覚えていられなくなる』なんて制約だったし、暗闇が怖くて光を求めたヤツは光や電気を操る代償として『目がつぶれるほどの光を浴び続ける』。他人に傷つけられるのを嫌がった子は自分の身体を自分で好きに壊せるようになった代わりに『他人に尽くし続ける』という制約だった)

 

 それぞれの大切な物は何だったんだろう?

 

(それは俺が話すことじゃないしな……でも一人目は下手したらもう『何かを大事に思う気持ち』とかを失くしてるんじゃないか?)

 

 なるほど。なんか他の制約に比べると受動的だと思ったけど、そういうことなのかな。

 

(受動的なのだと他に『短命』なんて制約もあったな。あいつはすごい刹那主義だったから、平気で制約を破ってそうな気もする)

 

 ……すごい人もいるんだね。その流れだと僕が制約を破ったらどうなるんだろう? 善悪の区別がつかなくなるとか、価値観が逆転するとかかな。

 

(何にせよ、破らないのが一番だ。破った時のことなんて考えるべきじゃないさ。そんなことより、いい加減覚悟を決めたらどうだ?)

 

 やっぱり見なきゃ駄目?

 

(いや、俺は構わない。だけど、見ないで困るのは出久だろう)

 

 ……そうだね。覚悟を決めるよ。

 今僕の手の中には一枚の円盤がある。雄英からの封筒に入っていたこれはホログラムの投影装置だ。添付された説明書によると、平らな場所に上下を合わせて置くと記録された映像が投影されるらしい。おそらく合否の……合格通知書なのだろうと思う。いやまさかこんな物を用意しておいて不合格ってことは無いだろう。無いだろうとは思うんだけど……僕はもう小一時間も手の中でこれを転がしていた。なかなか決心がつかない。

 ちなみに気配でわかるのだが、部屋の外ではさっきカレー鍋をひっくり返してしまったことを『出久は今大変な時期だからね』と言って許してくれた母ががっつり待機している。やっぱり小一時間。いろいろ申し訳ない。

 

(出久)

 

 いやだってかっちゃんが70点以上取ったらしいって話が母さん経由でかっちゃんのおばさんから伝わってきてて……

 あれで能力がある人間なのは間違いない。倍以上点数に差があるのもまあ致し方ないところなのだけど、だからといって主席とか一握りのエリートとかなのかどうかはわからない。彼が戦闘能力的に不合格ということは無いと思うけど、案外上には上がいるものだし70点が合格ラインの平均という可能性も無くはないと思う。せめて50点くらい取れてたらなぁ……もう少し自信を持てるんだけど。

 

(言い訳は良いから)

 

 はい。

 一度深呼吸して、机の上にあった参考書を避ける。ホログラム投影装置の上下を確認し、机の上に置いた。

 

『『んっんん〜』』

 

 うん?

 

『『私が投影されたぁ!!』』

 

 明らかに画風が違う顔、角のように突き立った金髪、圧倒的な質量感を示す筋肉を搭載した身体……オールマイトだこれ!?

 え、なんで!? マジで!? 宛名は……間違ってない。まさかこれもらえるのか? 僕専用オールマイト!? 何これファンに呪い殺される。

 いや待て落ち着け僕。投影機の裏にも僕の名前が書いてあったはずだ。一応確認しよう。ええと、緑……みどりだな。縁とか録とかじゃなくて間違いなく緑だ。谷、出、久。変なところに線が入ってるとか、出に見せかけて山が二つとか、そんな罠も無いみたいだ。『()()()()』で間違いない。

 ふう。よし、続きを確認しよう。

 

『『んっんん〜、私が投影されたぁ!!』』

 

 ……Pop (ひょいっ)

 

『『んっんん〜、私が投影されたぁ!!』』

 

 ……Pop (ひょいっ)

 

『『んっんん〜、私が投影されたぁ!!』』

 

(出久?)

 

 え、あ、いや、だってオールマイトだから……ごめん。

 

『『ふふ、驚いてくれたかな? 実は今年から雄英……母校で教鞭をふるうことになってね! こうしてまた君に会えたわけさ!』』

 

 なるほど、それでか……いや、正直オールマイトのインパクトが強すぎて、雄英のことは頭から抜けかけてたけど。

 

『『いやあ緑谷少年……ここまで、来てしまったんだね』』

 

『『誘ったという自覚はあったがまさか本当に来てしまうとは……正直驚いたよ』』

 

『『さて、試験の結果を発表しようか。まず筆記試験の結果は問題なかった。これなら普通科の方も大丈夫だろう。そっちの結果はもう少し後になるが』』

 

『『だが、肝心なのは実技だ。先に教えておこう、今年の合格ラインは45ポイントだったよ』』

 

 すとんと、何かが胸に落ちて来た感じがした。ホログラムを見る前のうわついたような気持ちも、嘘みたいに凪いでいる。

 もともと僕はオールマイトの言葉に引っ張られて、普通科でも良いから雄英にと思って受験したんだった。確実に壊したと言えるロボは20体、1Pが9体2Pが7体3Pが4体、合計35P。麗日さんと逃げている最中に2~3体突き飛ばしたけど、壊せてたかどうかわからないし、点数に成ってても届かないだろう。

 もし、御守りを忘れなければ。

 もし、道化師のチカラを使っていれば。

 もし。

 もし。

 もし。

 もし、麗日さんを助けてなければ。

 後悔は? 御守りをうっかり忘れた以外は無いかな。あそこで彼女を助けなければ、それはきっと僕の中の正義の心の死を意味していた。それじゃあ何の意味もない。ホログラムの中のオールマイトの顔も、心なしか曇っている。

 

『『以前も言ったが、無個性はヒーローになれない。少なくとも、君の想像以上に難しい』』

 

『『現実的な話として、まずヒーロー活動を行うための申請には『特定職業における個性使用許諾免許』通称ヒーロー証が必要になるのだが、無個性ではまずこれが手に入らない』』

 

『『次にサポートアイテムは、障害者が特定の職業で活躍するための補装具……わかりやすいところではアメフト選手の色付きアイシールドなどのような扱いで初めて使用申請が通る。無個性である君にはその恩恵すらない』』

 

『『これで、無個性がヒーローに成るのは無理だとわかってもらえたと思う。あるいは君なら知ってたかも知れないな』』

 

『『それにヒーロー科のカリキュラムの半分は、個性を伸ばし制御することに主眼をおいた内容になっている。例え合格できても、君がここで過ごす時間はけして有意義なものにはならないだろう』』

 

『『これで納得できたなら、私の口から合否を告げるまでもないだろう。投影機を止めるといい』』

 

『『……』』

 

『『……』』

 

『『……』』

 

『『それでもまだ君が抗うというのなら、わかった。私も覚悟を決めよう』』

 

『『緑谷出久、君の試験結果は……』』

 

『『合格!!』』

 

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 頭が真っ白になる。オールマイトにフルネームで名前呼ばれたぞ?

 

『『一応言っておくが、君を合格に導いたのはもちろん私の口添えなんかじゃない。君自身の行動の結果だ。君は認められて、君自身の力で合格したんだ。おめでとう!』』

 

「い、いずくぅ~!」

 

 母さんが泣きながら部屋に飛び込んできた。

 

「やった! やったね! すごいよ出久!」

 

 座っていた椅子ごと抱き締められてぶんぶん揺すられる。目の前のオールマイトが近付いたり遠ざかったりするのを見ているうちに、よくわからない実感がわいてきた。

 僕はどうやらヒーロー科の入試に合格したらしい。したらしい。したらしい?

 

(やったな、出久)

 

 やったのかな、エミネ。

 

(夢か確かめたいなら自分で頬をつねれよ)

 

 うん……うん。夢じゃなさそうかな。

 ふとホログラムのオールマイトと目があう。ああ、合格の衝撃が大きすぎてすっかり忘れてたけど、特に何かを喋っていた気配もない。あれ、今ので終わり?

 

『『さて、そろそろ合格の衝撃も落ち着いたものと思う。入学手続きに関しては別途書類を送るので、この番号に問い合わせてくれたまえ。わかっていると思うけど、受付時間は朝の9時から午後の5時までだ! それと、この番号は最後にもう一回通知するぞ!』』

 

 オールマイトの指し示した電話番号を母さんがかぶりつきでメモしているから、最後の通知にお世話になることは無いだろう。受験番号の控えもとって部屋を出ていった母さんをよそに、オールマイトは話を続ける。

 

『『さて、それじゃあ何で君が合格できたのか……それだけ答え合わせといこうか』』

 

『『正直、君の合否 (こと)に関しては結構もめてね、そもそも試験を受けさせないなんて意見もあったんだが……まあそれは置いておこう』』

 

『『君は独り言で言っていたね? 加点は無いと言われたが減点の可能性がある、と』』

 

『『極めて、惜しい。実はね、加点はロボットの破壊によるものだけではなかったんだ!』』

 

『『そう! それこそ君を合格させたもの! 名付けて救助活動P (レスキューポイント)! それも審査制!』』

 

『『人助けをした人間を排斥するヒーロー科なんてあってたまるかよって話だ! きれいごと? 上等! 命をかけてきれいごとを実践するのが我々のお仕事さ!!』』

 

『『諸事情鑑みてほんの10Pだけど、それでも君は我々 (ヒーロー)に認められて、入学を決めた!』』

 

『『来いよ緑谷少年! 君の心が折れるまで、ここが君のヒーローアカデミアだ!!』』

 

『『あ、そうだ。さっきも言ったけど入学の申請についてはこの番号に連絡してくれたまえ。受付時間は午前9時から午後5時だぞ。受験番号も聞かれるからね。手元に控えておこう』』

 

 オールマイトが消え、電話番号その他の通知だけがしばらく残る。

 ええ、間髪入れずにこの通知があるのか……締まらないなぁ。もうちょっと余韻に浸らせて欲しかった。っていうかその通知も20秒くらいで消えたぞ? そういえばこのサイズのホログラム投影装置の録画時間て結構短かったよな……もしかして、時間切れ? もし母さんが途中でメモしてくれてなかったら、間に合わなかったんじゃないか? その場合は最初から見直すしか無いだろうな……別に何回見たって良いんだけど、なんかオールマイト端々で僕の心を折りに来てるきがしてちょっと心臓に悪いんだよね。

 

(まあ、折りに来てるんだろうな)

 

 え、そうなの?

 ……僕、なんのために雄英にいくんだろう。

 

(別に嫌われてるとかって話じゃないから良いだろ。それに説明できるような理由があるなら、多分出久はとっくに死んでるかヴィランになってると思うよ)

 

 そうかな? うん……そうかも。

 ねえ、エミネはさ、やっぱり雄英いくの反対?

 

(賛成ではないな……単に正義を貫きたいだけなら、出久にはヒーローよりヴィジランテが適当だろ)

 

 違法ヒーロー (ヴィジランテ)か……まあ活動自体が(いほう)だからね。とは言え、それにいつまでも罪悪感を感じてられるかわからないけど。

 

(だけどヴィジランテにはヒーローには無い選択肢がある)

 

 かつてのエミネと同じ道、つまり悪人を『殺す』道ってこと?

 

(別に悪人とは限らないぞ)

 

 人を傷つける人間しか殺してないくせに。

 

(それなら受け入れられるのか?)

 

 ……受け入れられなかったら、殺したけど蘇生したから大丈夫……なんて思わないよ。

 

(思ってないだろ?)

 

「……っはぁ。なんかうまく行き過ぎてる気がするよ」

 

 

 そして春、4月。

 僕の高校生活が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうするよ無個性 (あれ)。審査で何点出たんだっけ? 100点?」

「んなわけないだろ。0Pに向かってったので25点、試験終了後にもう20点だ。ちなみに女子の方は20点な」

「合計81点、今の点のままなら彼は間違いなく主席ですね」

「私はそのままで良いと思うけど? 最後の啖呵、ああゆうの好み♪」

「俺なんか口笛吹いちゃったよ!」

「好ミデ決メルニハ、些カ大キスギル問題ダト思ウガ」

「そうだね。彼が雄英 (うち)に来たとして、我々は彼をヒーローに出来る訳じゃない……それに関しては何か考えがある人もいるようだけど」

「とりあえず点数に関しては再審議しよう。彼を主席とするにはあまりに問題が大きい」

「「「BooBoooo!」」」

「喧しい」

「デハ、不合格ニ?」

「あれを? あの人間性は手放すにはあまりに惜しいが」

「だいたい彼、普通科も受けてるよ? ここで不合格にしたところで、どうあっても上ってくるんじゃないか?」

「裏の事情で突き落とされた少年が、諦めること無く這い上がってくる……イイワァ♪ 自分が悪役じゃなきゃだけど」

「そもそも彼に助けられた少女の方が合格圏内だ。助けられた彼女を入れて、助けた彼の方を入れないというのは余りに……」

「だが無個性なんだぞ?」

「だったらあいつの言う通り減点でもするってかぁ? んなことしたらあのブロックの受験生、どーなるかな?」

「どうなるかじゃねぇ! 余計なアドリブ入れやがって!」

「別に主席でも補欠でも良いが、入れるならBにしろ。無個性の面倒を見るなんて合理的じゃない」

「そういう君だからこそ、彼を徹底的に揺さぶって欲しいんだけどね!」

「あー、とりあえず合格ってことで良いかな。細かいことはおいおい詰めていこう」

「ではそのように。続いてはクラスの振り分けですが、例年では会場ごとでだいたい分けていますね。それ以外の要素としましては……」




オールマイトはまだ出久くんの心根に対して若干懐疑的です。
これで折れるならそれまで……と思って心を折りにいってます。
期待の裏返しの愛の鞭なのです。
あと12:00に4話目を投稿します。
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