B-2ed   作:管蘿乃

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B_30thD『職場体験?編2』

「ただいま飯田君……と轟君」

「ん、緑谷君? 帰りは送ってもらえなかったのかい?」

「ああ、ミッドナイト先生も忙しいみたいでね」

「さっきの放送のやつか」

 

 たいした用件じゃなかったなけどね。内通者としか思えないサーナイトアイが渡りをつけようとしてきただけだし。

 

「それで、轟君はなんでここに?」

「……俺の個性の話、聞きそびれたからな」

「そういえば約束したもんね。でも、もう僕と会う許可出たんだ?」

「ああ」

 

 なかなかタフだな轟君。十代だからか?

 

「うーん……とはいえ時間も時間だしな、轟君も来る?」

「来るって……どこにだ?」

「保須市にインゲニウムのお見舞い」

「……わかった行く。でも大丈夫なのか?」

「多分大丈夫じゃないから変装してくる……いや、二人も変装しよう。着いてきて」

「どこにだ?」

「寮、変装道具いくらでもあるから」

 

 もちろん僕個人の持ち物ではなく、寮備え付けの道具である。

 まだそれほど数は揃えられていないけれど、シークレットブーツや心操君の分の衣装があるから多分サイズはなんとかなるだろう。あと護身用の道具も結構あるんだよね。対ストーカースタンガンとか、唐辛子スプレーとか。

 

 

 

「緑谷、コンタクトつけらんねぇ」

「じゃあミラーグラスにしようか。先に化粧するから服とカツラを……」

「緑谷君! 僕の足は隠しようが無くないか?」

「隠れファスナーで本来は履けないシルエットのボトムスがあるからそれ使って」

「緑谷、前が見えねえ」

「カツラの向き逆!」

「緑谷君! 何かシルエットが変じゃないか!?」

「それ女装用! 男性用の棚はこっち!」

 

 

 

 この御坊ちゃまどもめ……と言う黒い感情を僕が抱いたかどうかはさておき、なんとか2人を変装させて——とは言ってもなんだかんだで揃いの学生服っぽいのを着て、ちょっと眼鏡とカツラで顔つき誤魔化したくらいだけど——電車に乗ろうとしたら、轟君が親父に払わせるとか言ってタクシー呼ぼうとしたり、それを断ろうとしたら飯田君が轟君の味方に回ったり、変装した意味なかったじゃんそんなん呼ぶくらいなら先に呼んでよと言ったら目をそらされたり……まあ、いろいろあったけど無事保須市にたどり着いた。

 

 結局タクシーだった。

 

「まあ、とにかくそういうわけで、轟君が全力で作り出す大氷壁は、お母さんの個性とお父さんから継いだ体質の合わせ技なんだよ。多分、お母さん一人じゃそんな大きな氷の塊は作れないはず」*本作26話あとがき参照

「じゃあ、親父の力を使わないって俺の目標は……」

「茶番だね」

「茶番……」

「それに耐熱耐火装備って手に入れやすいし、多少強力なだけの炎熱ってそんな驚異じゃないんだよね。拘束能力も殆ど無いし、実態が炎じゃなくて熱だから操作して相手を囲っても酸欠からのハンガーノックとか狙いにくいし。あと出力計算するとエンデヴァー飛べないし。物理的な障壁、足場、構造物の作成とか考えると、氷の個性の方が圧倒的に上等だし。それから」

「もういい」

 

 弱っている人気ヒーローと言うだけあって、インゲニウムの面会には多くの手続きが必要らしい。そんなわけで飯田君が面会証を貰ってくるまで、轟君の個性の話をすることになった。

 まあ、早速へこんでるけどね、轟君。

 

「じゃあどうすりゃ良いんだよ……俺は」

「どうすりゃって言われてもね……その質問は約束の外だけど……まあ、アレだね。一応確認するけど、助けて欲しいの?」

「……ああ、ああ。助けてくれ。俺もう何がなんだかわかんねえよ」

 

 へこんでるとか言うレベルじゃなかった。これはヤバい。

 

(まあ、もともと出久のせいだしな)

 

 いや、元々彼自身の問題だよ。自覚させたと言うか、起爆したのは確かに僕だけど。

 しかし、どうやって助けるべきか……というか僕、轟君の事情正確には全く知らないんだよね。わかってるのはエディプスコンプレックスと反抗期が融合してちょっとアレな感じに進化しちゃってるらしいってことと……エンデヴァー曰く、轟君は最初から()()()()()()作られたから僕の話は完全に間違いだけど、逆にその完全に間違いだと言う前提に目を瞑れば概ね正解らしい、ということ。

 うん、エンデヴァーが何言ってるのかよくわかんないや。正直言って、轟君がこじらせてる以上のことは何もわかってないことがわかった。

 じゃあ改めて、それでどうすれば轟君を助けられるかと言えば……

 

「そういえば、そもそもエンデヴァーの炎と轟君の左って同じものなのかな」

「は?」

「実は炎の個性って大別すると2種類有るんだよ。酸素と燃料を消耗して炎そのものを操るタイプと、熱を操作して炎に近い現象を操るタイプ……あと一応その複合型か」

「どう違うんだ?」

「酸素と燃料を消耗するタイプは実態が炎そのものだけど、熱操作のタイプは見た目が炎っぽい別の現象だよ。具体的に言うと、飛ばせるか伸ばせるかの違いだね」

「……?」

「エンデヴァー、炎の槍みたいなのを投げたり、火の玉飛ばしたりするけど、轟君は出来ないでしょ? 轟君を見る限り熱を使うタイプではあるけど、酸素と燃料の消耗もある複合型って可能性もあるかなって。まあコスチュームの機能の可能性もあるけど」

 

 一概に炎の個性と言ってもその内容は千差万別だ。言ってしまえば爆豪君の個性だって炎を扱う個性の一種と言って良いだろう。

 炎というのはそもそも、熱によって酸素と燃料が結びつく酸化現象がさらなる熱を引き起こしてサイクルする現象であり、目に見える炎はその余剰エネルギーによる発光(いわゆる完全燃焼の青い炎)と、熱に煽られた煤の黒体輻射(溶けた鉄とかマグマが赤とか黄色とか橙色に光るやつ)によって構成されている。あとは熱せられた空気のプラズマ化? とか。(僕調べ)

 轟君の個性は、半"燃"なんて言ってるけど、実態は炎というより単に熱であり、それを指向性をもって伝播するというものである。燃えてないから燃えカスの煤は出ない、煤は出ないから焦げ跡もつかない。もちろん熱は熱だから燃えるものに向ければ当然燃やすことはできるけど……余剰エネルギーがそれっぽい色を出しているだけで、あの炎らしい見た目は幻覚だと言い切ってよさそうなところだ。少なくとも完全燃焼の青い炎が出てないところからいろいろ明らかだと思う。

 

 で、これはまた別の個性の種類の問題なのだけど、何かを操る個性と何かを放射する個性は別物だ。いつかの(ヴィラン)と上鳴君じゃないけど、操るタイプの個性はその対象に謎の運動エネルギー的な物を加える事ができるから、慣性の法則みたいなものでその物体を中心に向かって収束する運動と、一定方向に向かう運動の複合で塊として射出できる場合があるのだが、放射するタイプは基本的に方向を決めたり口径を絞ったりはできてもそれを『射出』することはできない。根元のついた氷柱を伸ばすことはできても、氷の塊は独りでに飛んで行ってはくれない。せいぜい折った氷柱を投げるくらいだ。氷で筒を作って中に氷の弾丸を詰め込み、筒を潰して空気圧で……とか言ったらまた別だが、基本的には放出してる最中に急に根元を止めればある程度飛んでいったように見える、というのが関の山である。青山君のネビルレーザーが良い例か。あれは例外中の例外であって、物質に依存するタイプの芦戸さんの酸や凡戸君のセメダインは空気にあたって拡散してしまうからろくに飛ばない。熱を伝播するのに空気という媒体を利用する轟君の熱もまた言わずもがなだ。

 

 さて、エンデヴァーの炎の槍や炎の玉の話に戻る。

 ぶっちゃけ轟君の個性で同じ現象を再現できる気がしない。いや、あの人場合によっては青い炎まで作り出すし。青い炎を作るためには燃料に対応した量の酸素を供給しなきゃいけない……んだよね? あの個性でどうやって酸素供給してんの? あ、実際に燃えてること自体はいいんだ。ゼロ距離で使ってるのしか見たことないから。

 とりあえず飛ばす方考えてみよう。普通に考えたら熱の帯を伸ばして、速攻で根元を切る。そうすると……たぶん炎が一方向にフワッと流れるようにしか見えないよなぁ。で、すぐ拡散して散る。どう考えてもあの技を再現できない。手のひらの上で炎の玉や槍を作るのは、まあいい。でもそれが体から切り離された後に指向性と収束性をもって飛んでくのが本当に理解できない。氷柱を投げるのとはわけが違う。そういう武器? エンデヴァーの熱をエネルギー源にして稼働するそういう武器なの? 炎の噴出で高度維持するだけで相当な容量(タンク)と技術使ってるよね!?

 

 コホン。

 まあそういうわけなので、エンデヴァーの炎と轟君の左って結構別物なんじゃないかなぁ?

 たぶん、お母さんのお腹の中である程度構築したお母さんの個性で、無理やりお父さんの個性を再現したのが轟君の左なんじゃないだろうか。

 それに対してエンデヴァーの個性は、轟君と同じ体温の伝播に加えて燃料や酸素も多少操作してると言うことに成る。炎の槍や球は酸素と燃料を集中させて作った炎の塊を、放射する熱で作った道筋に乗せて飛ばしているんじゃないかな。

 

 まあ、単純に轟君の練度が足りないとか、サポートアイテムの効果って可能性もあるけど……

 

 という話をしたら轟君が完全に放心した。

 どうやら助け方を間違えたらしい。

 

「左も母さんの個性……? じゃあ俺は今までなにを……俺の七年は……いや、そもそもそこまで俺は親父に憧れて……?」

「ご、ごめん轟君、よく考えたら僕君の事情よく解ってなかった……」

「……ああ、そういえばお前のした話は全部デタラメなんだっけか……親父も言ってたな……なあ? お前なんでそんなに色々知ってるんだ?」

 

 と思ったら復活した。やっぱりタフだな轟君。それとも担当してるカウンセラーさんが優秀なんだろうか。

 

「僕から言わせると、皆が何も知らなすぎるんだけどね。轟君なんて、典型的な自分の不幸にしか興味がいかないタイプだし」

「お前さらっと酷いこと言うよな」

「だって事実だし。人並みに他人に興味がある人なら、無個性だけどなんとしてでもヒーローになってやる! って僕に、個性二つも持ってるけど、片方いらないわー。どうしたらいい? なんて話はしないからね」

「……わりぃ」

「もう今さらだから良いよ」

 

 しかしここまで来て自分の事情話さないぞ轟君……ああ、もしかして。

 

「もしかして轟君、精神鎮静の個性とかかかってる?」

「ああ。お前と会う前にカウンセラーの先生がかけてくれた。興奮しにくくなるらしい」

「なるほど、ある意味心操君と似たタイプの個性か。変装してるときから妙にぼけぼけしてると思ったけど……これなら好き勝手言っても良さそうだな」

「だんだんお前に喋らせるの怖くなってきたんだが」

「そんなんじゃ立派なヒーローにはなれないよ」

 

 さて、それじゃあ、少し好き勝手に喋らせてもらおうかな。

 

「まず大事なのは、轟君がどうしたいかだね。理由とかは全部抜きにして、誰かに勝ちたいとか、何かを守りたいとか。もしただお父さんに勝ちたいだけなら、四の五の言わずに一回全力で親子喧嘩してくればいいよ。その後(ヴィラン)になったっていい」

「教唆か?」

「それでもいいけど……僕はそもそも轟君はお父さんに憧れてると思ってるし」

「それはやめろ」

「そう? ともあれもし轟君がエンデヴァーに憧れてヒーローに成りたいなら、エンデヴァーを受け入れるしかないね。せっかくだからインゲニウムに話を聞いてみればいい。轟君の知らないエンデヴァーの良いところも悪いところも知ってるはずだよ」

「無い、ないけど……それは興味あるかもしれねぇな」

「うん。後はそうだな……もし、お母さんを守りたいなら……轟君が超活躍してお父さんのことを忘れさせちゃうってのはどうかな?」

「あ?」

「ぶっちゃけ今のままの轟君だとさ、デビューしてどんなに活躍しても『流石エンデヴァーの息子!』としか言われないと思うんだよね。ちなみに(ほのお)を使わないと、『あ、エンデヴァーさんの息子でもエンデヴァーさんほど使いこなすのは無理なのか……流石エンデヴァーさん!』ってなる」

「ぉお」

「だからさ、エンデヴァー以上に(ほのお)も使いこなして、(れいき)と一緒に全部抱えてヒーローになってさ。『もう炎の個性って言ったらエンデヴァーさんの時代じゃないな! 流石轟焦凍!』って言われる一時代を作ってさ。その顔も、炎も、全部君自身のものにしちゃえば良いんじゃないかな」

「俺の、物にする?」

「うん。エンデヴァーの炎じゃない。轟焦凍の個性にさ」

「それは」

 

「それは……ちょっと良いかもしれないな」

 

 そう言って轟君は……少しだけ笑ったようだった。




エンデヴァー(轟炎司)
個性:燃料生成・噴出 着火(温度操作) 熱分子ベクトル制御 
個性体質:超量貯水 燃料貯蓄
一応第四世代。少なくとも本人は炎耐性それなりにあるし、発生させることの出来る炎の量も、かんしゃくで一〜二度暴走をしたからと言って生活に支障はないレベル。しかしながら理想がたかすぎる……。
本編でだいたい緑谷君が説明した通り、轟君の熱とエンデヴァーの炎はほぼほぼ別もの。
大きな違いを言えば、轟君には燃料を作る機能と、それを溜める体質が引き継がれなかった。
とはいえ、単純に熱操作という点では非常に有意義な指導が出来る、はず?
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