今保須市には各地から多数のヒーローが集まってる、はずだ。
同じエリアで犯行を繰り返すヒーロー殺しの来歴から彼を追う者達、次のターゲットの情報を聞いてしまったのに生かされたインゲニウムの護衛。
そもそも僕がここにいないはずだった。のに。
僕をターゲットだと宣言したはずのヒーロー殺しが、なぜかここにいる。
しかも普通に全然関係ないヒーローを襲撃してる。それだけで詐欺も良いところなのに、そのうえニュースによると謎の異形
正直訳が分からない。
そのうえ僕は体育祭前後のダメージで体力の低下。腕と足は実はとっくに治ってるんだけど、治癒と蘇生じゃ体力は回復しないんだよね。
幸い襲われていたプロヒーローネイティブは先に逃がすことが出来たし、通話状態のスマホは押し付けたからそのうち応援は来るだろう。来るだろうけど……それまで持つかどうか。
本来は言葉でもなんでも使ってギリギリまで時間稼ぎをするのが正しいのはまあわかってるんだ。わかってるんだけどさ。
「さぁ問おうか。汝に
「無いよ、そんなもの」
聞くな、そんなこと。よりによって僕に。あったらこんな地獄を必死になって生きちゃいないんだよ。
その表情が、マスク越しでもわかる。憤怒に染まってる。物わかりが良いとか、身の程を知ってるとか、そう言う評価を受けた感じじゃないな。わかっててやったのか? とか、物わかり良いふりしてナマ言ってんじゃねーぞとか。多分、輪にかけて苛つきと怒りを噴出してる顔だ。
黙ってかかって来いよ。むかついてるのは僕も同じだ。ぶっ潰してやる。
「ならば殺す!」
「最初からそのつもりだろ、やってみろ!」
黒血!
火事場の馬鹿力!
半歩だって退くものか!
視線が交錯した次の瞬間にはヒーロー殺しの姿が消えている。速い!
背後から迫る刃を見ること無く、懐に飛び込んで背中を叩き付けるようにバックステップ。
無言かよ、やりにくいな。刃を突き出した腕は掴む間もなく、巻き込むように僕の身体を狙ってふるわれる。ただ傷つけるため。致命傷を狙ってない。そう言う個性なのは、知ってる。
だから、1ミリたりとも傷つけられない。いや、擦り傷一つとして、だ!
伸びる刃より速く腰を落とし、両腕と左足で全身を支え、ギプスのはまった右足を全力で蹴り上げる。重くて硬い、狙いは急所、簡単には止められない!
必殺とは言わないまでも、会心のはずの一撃。しかしヒーロー殺しは脇を抉ろうと逆手にナイフを持っていた左で受ける。受けきる。
あまつさえ……
「嘘だろ」
実は治っていた僕の手足を覆うギプス、その正体は僕に行動制限を課すための拘束具、セメントス先生が用意した、文字通りコンクリの塊。表面の密度が高すぎて、濡らしても色が変わらない程の逸品だ。
それが削られた。受け流す刃で。表面とはいえ確実に。
目が合った。浮いていた右の刀が翻る。こいつ、わかってたけど本気でヤバい! っていうかセメントス先生、ヒーローならもっと頼らせてくれ!
「ハッ!」
蹴り上げた足をそのまま振り回して回転蹴り。
が、当然のように当たらない。
腕一本分踏ん張りが足りないか? いや、そもそもにわか仕込みじゃ本物の
だから踏み込む!
左手で全身を跳ね上げて、跳び退くヒーロー殺しを側転で追う。今の僕は持久戦は無理だ。だからただ全力で畳み掛ける!
「シッ!」
二回転目、逆さまになった瞬間に短い吐気と共に飛来する、新しいナイフ。狙い通り!
左手で体を跳ね上げる……進行方向に対して左を向いた側転だと、立ってるときは右半身、逆さまの時は左半身が前になる。逆さまと言う体勢で、ギプスの無い左。
当然狙ってくる。だけど狙いがわかるなら、攻撃は対処しやすい。
左手首を全力でひねり、僕もまた当然のように飛んできたナイフを躱す。そのまま同時に突っ込んできたヒーロー殺しにあびせ蹴り!
完全無傷は諦める。身体能力でも技量でも負けてそうな所に重り付き。麻痺させられるのは前提だ。
なら電撃
この顔面及び顎狙いのあびせ蹴りもその一つ。縦回転の攻撃は、僕の身体が動かなくなっても止まらない!
恐らく避けられる。さっきみたいに軽く退いてかわすんだろう。
ついでに足先を多少切られるかもしれない。
それならそれで構わない。動きを止めるためには傷つけるだけじゃない、もう一手必要なはずだ。
だからそれさえさせなければ問題ない。そんなことする暇もないくらい、畳み掛ける。
「ハァ……動きは速いがそれだけだ……たいしたことは無い」
は?
右足に激痛。左足が流れてく。懐に入り込まれた? いや、そうだ。これも予想してただろう。ここで右のギプスに刺して止めたナイフを、逆に僕が利用……
「カポエイラか? 予測不可能なトリッキーな動き……だが、まるで練度が足りてないなァ……」
「ぐ……」
ぐぷっ? 咽から熱いかたまりがせり上がる。ダメだ、呑め。この感触は知ってる。これは、腹に強烈な一発を喰らって吐血するときの感じだ。いや、これは刺されてるな。ダメだ。全然ダメだ。こっちの予測より一歩半速い。っていうか貫通してるんじゃないか? なんだこれ? 最初持ってた刀か? 思わずヒーロー殺しを見ると、その視線に気付いたのか奴は僕を見返してニヤリと笑った。トドメでも狙ってるのか捩じり上げられる刃。傷を広げられない為に僕は跳ぶ。
っていうか刺された。動きは? 跳べた。まだ指先まで動くぞ? 両足で着地。行き過ぎてお腹の傷が逆に広がった。でもまだ動く。
「ぎい!?」
「がっ!?」
とっさに突き出した頭突きが、ヒーロー殺しの鼻面を捉えた。
「ぐうううぎいいいいっ!!?」
「が、お、ご!?」
水月右拳! 金的右膝!! 人中頭突き!!!
まだ動く。まだ動くぞ!? 全身を全力で絞める。腹に刺さった刃物を引き抜こうとしたヒーロー殺しの腕を掴む。腹に刺さったの抜かれたら大量出血は免れない。ならこのまま戦う。こいつも同じだ。どいつもこいつも同じだ。1回刺せたくらいで油断しやがって。僕らを舐めてやがる。
小内刈りの要領で引き倒したヒーロー殺しの顔面に、躊躇わずギプスのかかとを振り下ろす。
「っ調子に、乗るなぁ!」
「えお、ろ、こっちの台詞らっ! ぐぶ……おっ」
両手に持ったナイフがギプスに刺さり、ギリギリのところで僕の足を押さえ込んでいる。踏み込めない。体重が足りない。力み過ぎて、腹から迫り上がった血を吐いてしまう。あぶな、余計な物吐くとこだった。
ニヤリと、ヒーロー殺しが笑い、零れた血を舐めとった。あ、しまった。
「これで終わりだ」
身体が……動かない? 固められた。血を舐めて、相手を麻痺させる個性、やっぱりか。たかが血の一滴で身体が動かなくなる、本来なら、特に格闘を主体とする人間に取っては恐ろしい個性だ。特に一対一で初見だとどうしようもないだろう。
だけどさ。
「やってくれたな。だが、今度こそ貴様を始末する」
足の下からはい出したヒーロー殺しが僕の前に立つ。だけど怖くはない。だってネイティブは喋ってた。
「ヒーロー殺し……いや、赤黒血染」
「はっ、俺は、そんな奴は知らない。俺は……」
「15年前、雄英ヒーロー科に在籍。が、夏に自主退学。お前がターゲットにした地域には15年前当時教師もしくは一年生をやってた雄英生が必ず一人はいた。必ずしもそいつらがお前にやられた訳じゃないし、雄英出身者なんて全国にいて当たり前だ、だから注目されてなかった。だけどそれが、お前の犯罪の唯一の共通点だ。だよね、赤黒血染」
「お、おまええええええええええ!!」
「
激高して掴み掛かってきたヒーロー殺しを、鼻で笑って
「があああああああああああ!?」
「
スタンガンだ。まあ違法改造した奴使い捨ての奴だし、半分自爆用みたいなものだけど。高性能なアース……いやさ放電索があれば問題ない。完全じゃないにせよ、流石第4世代ってことだよな……そんなことを考えながら若干焦げて動かなくなったヒーロー殺しを見つめること約一分。頬の上で放射状に焦げ付いていたガーゼを放り捨てる。僕の身体が動くようになっている。
正直、血を舐めた時点でそれを
とりあえず偽制服の学ランで両腕を縛り上げる。完全に白目を剥いているけど生きてはいるな。さて、どうしようか。スマホも無いし、こいつ連れてどこかに移動するべきだろうか?
「大丈夫かき……君?」
あ、ネイティブ来た。そっか、僕が動けるようになるなら先に止められてた彼も動けるようになるよね。むしろ随分かかった気がする。そういえばなんか条件で硬直時間が違うんだっけ?
「大丈夫です、なんとか行動不能に出来ました」
「そ。そうか……あれ君、まさか雄英体育祭でオールマイトに勝ったって言う緑谷出久? っていうか、お腹に……」
「ええと、緑谷出久であってます。お腹のは抜くと血が出そうで」
別に趣味やお洒落じゃ無いですよ? 冗談めかして軽く説明してみたけど、ひきつったような表情に変化はない。意識しないようにしてるんだから、見なかったことにしてほしかったんだけど、初対面でそこまで通じあえるはずもないか。
しょうがないから放っておいて、近くのごみ袋を蹴り転がす。なにか適当な縛るもの無いか? ええと、次のごみ袋は無いな。次……いや、やめよう。この手と足でゴミを漁るとか不毛すぎる。お腹に刺さってる刀? が長すぎて動き難いし。
学ランだけじゃ不安なんだけど、しょうがないか。
エミネ、いい機会だから今のうちにあれの修理お願い。
(良いのか? まだ騒動は終わってなさそうだけど)
流石にこれ以上濃い1日を過ごすつもりは無いよ。なにかあってもプロヒーローを頼って精一杯逃げるさ。
(そうか、全く信じられないけど、じゃあ行って来る。一応早めにもどって来るから)
うん。よろしく。
あ。
「そう言えば連絡どうなりました?」
「え、一応警察には連絡できたし、近くにいた避難中の人にも声かけたから、経由して最寄りのヒーローが集まって来るんじゃないかな……動けるようになるまで道行く人に写真撮られまくったけどね……」
御愁傷様です。というかこれだけ派手に破壊音やら火柱やらが上がってるのに写真を撮ってた人がいたのか。わかってた、わかってたけど平和ぼけが酷すぎないか? もしかして、このまま外に出たら写真撮られまくったりするんだろうか? すごく嫌なんだけど。
……どうしようもないか。
「じゃあ僕がこいつ引きずるんで、先導をお願いします」
「その怪我で……? 俺が運んだ方が」
「今は複数の異形系大型
「あー……そうだった。わかった。何かあったときは任せてくれ……って、助けられたばかりでなんだけどな」
「頼りにしてます」
「……ありがとう。それとこれ」
あ、僕のスマホ。
……飯田君に、連絡をとろうか。黙って警察に突き出すよりは、そっちの方が良いよね? あ、ダメだ。スマホで左手塞がるとヒーロー殺しが運べない……メッセージだけ送っておこう。
『ヒーロー殺し確保』
『護送中』
『ご飯無理』
『適宜解散』
『轟君によろしく』
「あとは最寄りの警察署のアドレス……」
「緑谷君?」
「あ、今行きます! ……伝わる、よね?」
箇条書き以下の文面を自分でもどうかと思うけど、言葉が出てこない。いつまでもここにいる訳にはいかないことを言い訳に、そのまま送ってしまう。
これで良いのかな?
飯田君にヒーロー殺しのことを伝えるのは義務じゃない。義理だ。
それも、正しいことか間違ってることかもわからない。
ただ僕は、本当は、飯田君がヒーロー殺しと相対したかったのだと知っている。
傲慢だけど、知ってるんだ。為になろうとならなかろうと、良いことだろうと悪いことだろうと、彼自身には必要なことなんだと。どういう形であれ、それを乗り越えないと先に進めないんだと。
実際に彼がヒーロー殺しと相対しなくても、いつかは乗り越えられるかも知れない。むしろ実際に会うことで悪い影響があるかもしれない。だけど、知ってて黙ったまま、また飯田君に会うことはきっと出来ない。
つまり義理どころかエゴか。もしくは単に臆病と言うか。
それでも僕は……
「っと、あれ? ネイティブ?」
大通りにでたと思ったら、ネイティブがいない。
あれ? 僕の前を歩いてたよね? っていうか、そもそも人がいない? ネイティブ、写真とられまくったって言ってたのに。
——ぞわっ——
っ!? うしろ? 出てきた路地の、両脇に並ぶ人影、五つ。
「見れば見るほどただのガキですね」
「腹にこんな立派なもん刺してるのにかあ?」
「本当にコイツ、若の思うような人間なんですかねぇ? そうは思えないですが」
「だからそれを確認しにきたんだろう?」
3〜4メートルはありそうなばかでかい人影、腰くらいまでしかない小さな影、白いコートと、黒いマント、それらの真ん中に丈の短いモッズコート……かな? を着た男。一様に鳥のくちばしみたいな、ペストマスクみたいなのを付けてる。そしてネイティブは、苦悶の表情ででかいのが抱えるコンクリ板みたいのに埋めこまれている。
なんなんだ? こいつら? 狙いは? 目的は? 意図は? ヒーロー殺しか? 異形系大型
「お前、緑谷出久で間違いないな?」
僕?
名前:上鳴電気
個性:発電 放電
個性体質:放電皮毛 超量貯蓄:脂肪
個性としては単に発電して、それを溜め込むことができず全力でぶっぱするだけ……個性把握テストほんとどうやって突破したのか。
握力計の柄の磁性を刺激して……とか?
そうじゃなきゃ測定器壊して好みの数字を出すくらいしかやりようがないかと。
体質に関しては脂肪→発電するためのエネルギー。
放電皮毛は体内に電気を溜めないための要素ですね。これの放電が追い付かなくなると徐々にアホになっていく、と。当然外からの電撃には圧倒的に強いでしょう。