「ああ、警戒しないでくれ。俺は君の敵じゃあ無い、むしろ味方と言っても良い。まあ、とはいえヒーローのご厄介になれる身分じゃないからね、場所は変えさせてもらおう」
「……味方なら、これを警察に突き出すのを待って欲しかったですね」
ネイティブ……カーボンフリーズ中のハン=ソロか、もしくはアンジェロ岩みたいな有様の彼を人質に取られて、僕はどこかに連れて行かれようとしている。うん、この状況で敵じゃないって言われてもなぁ。警戒心が隠せない。スマホも取り上げられて壊されたし。
しかし、相手はこちらの警戒心などには興味は無いらしく……まあ、つまりいつも通り舐められてるのだろう……彼らの目は僕が引きずっているヒーロー殺しに向いた。
っていうかせめてコイツ僕の代わりに引きずってくれないかな。
「それはヒーロー殺しのステインか? 何年前だったか……同業者が随分狩られたのを覚えてるよ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、当時と名前は違うが、個性、活動時期から見て間違いないだろう」
「ヒーロー殺しの個性は謎だったはずですけど」
「裏のルートには表に無い物が流れてる。当たり前だろう?」
「そう、ですね?」
この妙に親しげな態度、は、なんだ? 本気で味方だと言うつもりなのか?
同業者、裏ルート? 敵じゃない……不良グループって雰囲気じゃないなぁ。
だとすれば、チームアップした
遥か昔、第二次世界大戦で日本が敗戦国だった頃、近隣の戦勝国からくる人々の行う非道を警察が見て見ぬ振りをしなくてはならなかった頃。自警団として立上がった彼らは、法に捕われずスジを通すある意味純粋な正義のために暴力をふるう集団だった。
が、国が豊かになるにつれその存在の必要は薄れ、同時に大きくなり過ぎた彼らはその
武器を持ち歩き、麻薬を捌く。暴力を笠に着てやりたい放題。
個性が発見される直前には既に完全な厄介者扱いだった。
が、個性の存在が状況を変える。
個性を扱い暴走する
その始まりはけして綺麗な物じゃなかった。
そこそこ殺傷力のある個性で調子に乗った阿呆が誰彼構わず喧嘩を売って、ヤクザの
ただ、それが全国に広がるのが驚くほど早かった。個性をふるって暴れる人間は、普通の武器で殺せるのだ。ならそこにある問題は一つだけ、気持ちの問題だ。そしてそれを乗り越えられるのが彼らだった。世間の煽りに飲まれるように、彼らは発足当初の自警団としての本質を取り戻しそれはもう全国で大暴れをしたらしい。突発で暴れだす
ちょっと嘘っぽいけど半分くらいは……少なくとも三分の一くらいは本当だ。
確かに彼らが一般市民にとって救世主だった時代はあった。
とはいえ、結局それも長くは続かない。
ヒーローが国に職業として認められたとき彼らはその存在を否定され、摘発、解体されていった。そうして今度こそ彼らは消えていったのだと。
「今の世の中、強力すぎる
「そう言うのは要らないです。それで、何の用ですか?」
「……俺はオーバーホール。
そんな
まるっきり心当たりが無いんだけど。
「んん、こほん、『個性ってのはまるっきり人を誇大妄想に取り付かせる病原菌だ』」
「!?」
「組員にお前のファンが出てな。体育祭の最後の台詞『次は君だ』てやつ。だからお前が本気かどうか、読唇できる奴使って一通り探らせて貰った」
「それは」
ちょっと迷ったけど、『光栄ですね』と言うつもりだった。
「嘘ですね。自分でも映像を確認したけど、大概の人間はあれをみたら『無個性に同情される筋合いはない』って憤る、それが世の流れのはず」
けど、口から出たのは別の言葉。これはなんだ? 何をされた? 嘘を暴く……いや、本音を喋らせる個性か?
駄目だ僕。悟られるな。表情に出すな。心操君のときと同じ対処だ。
向こうがどれだけ把握してるかわからない。僕が操られていることを、操られていることに気付いてることを悟らせるな。
「少なくとも『同じ』じゃない。そう思ってるはずです」
「ほう? 謙虚だな」
「卑屈の間違いでは?」
「だがその辺のイカれ野郎よりはずっといいぜ」
す、好き放題言ってくれるな。反応に困る僕の前で、ぴたりと足を止めたオーバーホールなる男が振り向き右手を差し出す。そこにあるのは……なんだ? 小さなピストン? 麻酔銃弾?
「まあ、信じられない気持ちもわかる。だけどな、俺達は本気だ。本気だからこういうものを作った」
「これは?」
「これは個性を消す弾丸だ」
「は?」
「病気は治療しなきゃな。だろう?」
だろう? だろうってなんだ? 僕に同意を求めてるのか?
なんの?
個性を消す弾丸?
「個性なんて所詮
「それは……」
「なのにどいつもこいつもそれを特別なものみたいに扱って、自分を特別だと勘違いする。特殊と特別は違うのにな? 轟焦凍の話は中々面白かったよ」
「……」
「間違ってるよな? 病んでるよな? だから個性を消す弾丸とそれを解消する血清で、そんなものを拠り所にしてる今の世界をぶっ壊すんだ。他でもない君にそれを手伝って欲しい」
「そ、そのさきに何がある、んですか?」
「
ゆらりと、オーバーホールの目が燃える。
「ここはドブ沼だ。だが俺達はここにいる」
「好きで居る訳じゃない、ただ産まれたときからここにいた、それだけだ」
「それだけでどうしようもないんだ。ヒーローも、平和の象徴も、俺達には関係無い」
「だけど上も下もないこの場所で、俺達を拾ってくれるものがある。ならそれに尽くすだろう?」
「俺達を掬い上げてくれた人に、これから掬い上げられる者に、より良い環境を提供する」
「その為ならなんでもする」
「わかるだろう? 俺達とは違うが、お前も無個性と言うドブ沼にいたんだから」
……理解できない話、ではなかった。
常々思っていたことがある。
何故ヒーロー免許の取得手段が個性の扱いの巧みさなのだろう? もちろんそれだけではないけれど。
だってルールで規制された力だぞ? それを模範となるべき人間が使うんだぞ? それなら、その免許は個性を
言っちゃなんだけど、轢き逃げ犯追っかけたり、木に登った猫を追いかけるのに平気で個性を使うオールマイトは相応しくない人間の筆頭だろう。だって個性を不正使用したら犯罪だって、その説得力が全くない。木の上の猫を助けるのに個性使うのは間違いなく不正だろう。
だけど現実はそうじゃない。
ヒーローは個性の派手さと巧みさで評価され、馬鹿な子供は喧嘩に個性を使っては、いつかヒーローになれば許されるからとのたまうのだ。
そして昔、何かの論文で読んだことがある。アメリカで初めてヒーロー法が定められたとき、それまで活動していた
ヤクザとヒーローのなにが違う?
地域住民から巻き上げるショバ代と、国から支給される国民の血税。
個性には個性を、武器には武器を。加減はともかくトラブル解決に暴力を振るう。
人気と縄張り、人気は人の心に根差すものであり、縄張りは土地に根差すものであれど、同業者と
ヒーローがヒーローになる前、警察には彼らの協力者が多くいたと言う。そしてその後、ヒーローに
おぞましい。
人がヒーローであるために、大したものは要らない。
倒れた人に手をさしのべる。迷子の手を引いてやる。困ってる人に声をかける。愛した人を幸せにする。
それだけで人はヒーローになれる。
だけど、
人を悪党にするのは環境、教育、産まれなどの社会であり。
「指定
悪党を
「俺は理を壊し、この名を過去のものにする。俺についてこい緑谷出久。お前がただ夢を見ているだけのガキじゃないのはわかった。お前はただ、転換期の混乱を最小限に抑えるため、最高のヒーローでいれば良い」
「……!」
誰にであれ、理由はどうあれ、認められるのは嬉しい。
きっと、彼の部下にはそうやって認められて、見初められて、彼の下についた人がたくさん居るんだろう。彼の言う僕のファン(皮肉?)も、そういうやつらかもしれない。
もし、もしもオールマイトに会う前だったら……雄英に入る前だったら、そしてもしも個性を消す弾丸が
だけど今は違う。無理だ。賽は既に投げられた。
「貴方は勘違いしてる。僕は普通だ。普通にヒーローに憧れている、普通の無個性なんだ。たまたま両方が揃った、それだけだ」
「確かに個性が
生まれつきの無個性と、後天的な無個性が同じものとは限らない。だけど、できたことができなくなった分、容量を余らせることに間違いはないだろう。
ゆえに、おそらく、たぶん、きっと。
抗うために立上がった無個性は、皆
無個性が、道化師があふれた世界。
悪に、敵に抗うために誰もが狂っていく世界。そんなの、冗談じゃない。許せるはずが無い。認められる訳が無い。
どうやって止める? 説得して?
「なんだ? 泣いているのか?」
話せる訳が無い。言える訳が無い。無個性を苦しめると危険な能力に目覚める? そんなことを彼らに話してどうなる。そうなった人間じゃなきゃこの能力の本質は理解できない。きっと、個性を消す弾丸が出回った世界でも使える兵隊くらいにしか思わないだろう。この弾丸が、僕らをただの人に戻してくれるなら……!
クソっ……使って来いよ本音を喋らせる個性をさ!
楽になりたい。全部誰かにぶちまけてしまいたい。今更だってわかってるのに、叫びたい。
出来ない。
出来ない!
じゃあどうする? 戦う? 道化師の能力を使って? 個性を消せる弾丸を持ってる奴相手に?
じゃあ、無個性として戦う? 5対1で? 一人として個性がわからない相手と? このギブスを付けて、腹に刀が刺さったままで? ほんの一瞬目を離した隙にネイティブをアンジェロにしちゃう奴相手に? 勝てる訳が無い。逃げ切ることだって出来やしないだろう。
だけど。
「泣いてないっ」
「そうか? まあいい。どっちにしろ、その様子じゃ俺の提案は受けてもらえなさそうだな」
「っそうだよ……! 受けられない!」
自分でも嫌になる。悔しい。絶対に、どうにもならない状況なのに。
ああクソ……飯田君、轟君、ゴメン……
「残念だ……一応聞いておくが、状況はわかってるんだよな?」
「わかってるさ。本来なら部外者に洩らすことが出来ない情報まで聞いてしまった僕と、僕を殺すと宣言していたヒーロー殺し。その武器まである」
芦戸さん、常闇君……心操君、物間君……峰田君、麗日さん……皆……
「ああそうだ。お前を殺し、ヒーロー殺しの死体を消滅させれば、一切の痕跡は残らない」
「やるんですか? 若」
「一般人を手をかけるのはオヤジの方針に反するぜぇ!?」
「今更だ。せめてコイツに黙っている気があるなら別だが……」
「ないのは、わかってるだろ」
「ああ。そういう訳だ。俺たちの痕跡を残さないように、すぐに片付けろ」
お母さん、八百万さん……ゴメン。
「はっはは、残念だなぁ。乱波なんか喜びそうな奴だったのに」
「はぁ、そうですか? ……あぁ、悪く思わないでくだせえ、すぐに済みやす」
また僕は、間違えるよ。でも、あの時みたいにエミネにやらせたりしない。今度は、僕が、僕自身の手で。
道化師の能力を使う。
でも戦ったりはしない。
ただ殺す。
もう帰れないかもしれない。だけど、ああ、ここに来て良かった。こんなことを知らないままのうのうと生きることにならなくて本当に良かった。
血坊ず……?
「ん?」
「お?」
突然降ってきた大きな羽音、うぞうぞと這い寄る悪の気配。
脳みそ丸出しで翼の生えた半裸の異形と、黒い靄、全身に手をくっつけた黒い服の男。
「なんだか楽しそうなことになってるじゃないか」
新手? このタイミングで!? っていうかコイツら、
「俺たちも混ぜてくれよ」
ヤクザに関する話は、まあこんなこともあるんじゃないかなー、と。
オールマイトが模範足り得ないのは、私個人の感想です。いや、通例としてある程度は見逃されるという話はありましたけど、トップヒーローが率先してそれをやっちゃいかんでしょ。