「なんだお前らは」
オーバーホールが
ってことはここで連携があった訳じゃないのか。なんなんだ? なんで現れた? いや、この脳むき出しの異形、まさか今暴れてる凶悪な異形型
「オールマイトを負かした無個性のガキ……そんな美味しい獲物を、ぽっと出のヤクザがいただける訳が無いだろう?」
「なるほどな……まぁ別に俺達は箔をつけたい訳じゃない。あるにこしたことは無いが、そいつは譲ってやっても良いさ」
ヒーロー殺し狙いでここにはヒーローが集まってる。
「譲ってやっても良い、だぁ?」
しかし、うーん……死柄木が喧嘩腰だからまだ良いけど、完全に僕を殺す方向で話がまとまりつつある。しかも形としては僕挟み撃ちにされてるんだけど。
「まあ落ち着けよ。先にここに来たのは俺達だぞ?」
「そこのざまあねえ先輩な、こっちの同盟者なんだよ」
ヒーロー殺しのステインとヴィラン連合が同盟? うん? 売名の為に来た訳じゃないってことか? いや、それも含めて売名なのか……なんか今日一日で凄い量の情報が入ってくるんだけど。それも裏社会のばっかり。あ、そうだ、今更だけどケータイのボイスレコーダー……は、無理だ。ケータイ壊されてた。
「……あぁ、わかったよ。その代わり、今すぐ、ここで、そいつの始末をつけてくれ。俺達はまだ表に出られる身分じゃないんでね」
「ふん。そこの石に埋まってる奴はどうするんだ?」
「不意打ちで固めた上で活力を吸いきったからな。何も気付いてないだろう。壁からは出しておくが、その後は好きにしてくれて良いぞ」
オーバーホールがネイティブが埋まったコンクリに触れると、妙な音と同時に解放されたネイティブがその場に倒れる。完全に気を失ってるようだ……
これでネイティブが殺されたら僕は何のために戦ったんだ?
ズクズクと頭の芯が痛む。いや、これは頭に血が上ってるんだな。ああ、こんな理不尽受け入れることなんて出来ない。
「恩を売るつもりか?」
「いいや、貸し借りは無しと言うことだ」
いまさら何を迷う。ただ的が増えた、それだけだろ。それだけなんだ。
「まあいい、脳無」
来るか……!? 脇に控えていた異形……脳無が死柄木の声に反応する。覚悟は出来てる……けど、なんか反応が鈍い?
ん、あれ?
「どうした脳無?」
「もしかして、ツバサ君?」
ビクりと脳無が震える。ああ、へー。凄い偶然もあったものだ。スリムになっちゃってわからなかったよ……そっか、ツバサ君か。
使えるな。
「ツバサ君は僕に逆らったり……しないよね?」
「っ!」
「黒霧っ!」
周囲に痕跡を残したくないオーバーホールの手が直に、とにかく僕を殺そうとする死柄木の手が黒霧とやらの
「ツバサ君!
だけど遅い。飛び立つツバサ君の羽ばたきは激しく、下手をすれば足をとられるほど。しかもその動き出しに気を取られた一瞬があるのなら、その隙は僕があらゆる手を打つのに充分すぎるほどだ。
「「「!?」」」
オーバーホールと死柄木の顔が痛みと驚愕で歪む。オーバーホールの手は右腕のギプスに刺さったままのナイフで、死柄木の手は足のギプスから引き抜いた二本のナイフで。その指を、掌を切り裂く! 2人の悲鳴に驚いた取り巻きのうち、白コートは
ナイフもギプスも次の瞬間には塵のように崩れ消えたけど、終わりじゃない。
足にはもう一本、何より腹にでかいのが残ってる!
「あああっ!」
腹から引き抜いた刀を、その勢いのまま振るう。
抜いた拍子に飛び散った血にオーバーホールがひるんだ。というか、顔にかかりそうになって避けた? よくも悪くも嬉しい誤算! その右手を切り落とし、向かって来るデカ男に蹴り上げる。
「オ!?」
思わず、と言った顔でデカ男がそれを受け取った瞬間に、その掌ごと顔面まで貫き通すつもりで拳を入れる。
入った?
「ごっ!?」
「活瓶!?」
のけぞり、棒立ちになったデカ男は放っておいて周囲の様子を確認。
次の瞬間、覚えのある風切り音。とっさにいつも端から見ていた命令を口にする。
「黒ぎっ」
「そこだ! ゴッドバード!!」
黒い靄の展開すら間に合わない速度で急降下したツバサ君が、黒い靄の男こと黒霧? を撃ち抜く。流石、爆豪君が仕込んだ『俺の最強コンボ』……仕込まれる方もどうかしてると思うけど、それで助かってるんだから文句は言うまい。それに、これなら……
「黒霧、何やられてるんだお前!」
「ツバサ君!
「若っ……ちっ! 貴様ぁ! 逃げられると思ってるのか!」
「思ってるさ! 皆殺しにしてでも逃げてやる!」
っ、これは! 今更本音を暴く個性か! 銃を向けたままびっくりしているらしい黒マントを次の獲物に定める。
「は、お、お前はヒーロー科の生徒だろう? それがヒーローになる者の言葉か!?」
「ヒーローに成れなくたってお前らの企みは阻止する! それだけだ!」
これ以上喋らされるとまずい! 飛んできた弾丸を右掌で受ける。痛い、けど口径が小さい。衝撃はたいしたこと無い。今更痛みなんかで立ち止まる訳が無い!
全力で投擲した刀が黒マントの胴に突き刺さる。当たったか、マントを射抜いただけなのか、判断がつかない。このまま追撃を……
そう思った瞬間、巨大な手にがしりと腕を掴まれる。
これは、デカ男!? しまった、マスクのせいで顎から狙いが逸れてたか!
「すううう……ああ、痛みが治まって……来ねえなぁ」
うぁ、なんか怠く……活力を吸う、これがコイツの個性? それともアドレナリン切れて単に血が足りないのか? 動き過ぎた?
くしゃりと膝が折れる。足下の血溜まりがぬるい。
目が霞む。
なにやってるんだ僕。
なんで、
飛び散った血の一滴一滴だって、
なんで止血をしてない?
とっさに使えるほど馴染んでない? 未だに?
それとも、覚悟が出来たなんて言って、本当はまだ夢見てるのか? 帰れるなんて? ツバサ君がいたから、もしかしてなんて思ったのか?
ぐっと持ち上げられた。
腕が痛い。
耳鳴りがひどい。
いや、これは、風切り音? 違う、これは、もっと強く、激しい……エンジン音?
「飯田君?」
「いいや」
耳元で、聞いた声。
何かと何かがぶつかる音。
一瞬の浮遊感。
「もう大丈夫だ、よく頑張ったな」
力強い手に支えられる感触。
「ターボヒーローインゲニウム、現着! 後は任せろ!」
いんげにうむ……ターボヒーローインゲニウム……飯田君のお兄さん!? 薄い青の入院着も、方々に貼られたガーゼや絆創膏も、全部病院で見たときのまま。ただ顔に張り付いた笑みの力強さだけが全く違う。
デカ男を吹き飛ばして、僕を助け出してくれたのか?
ってことは……
(遅くなったな出久、目立たない程度に止血しとくぞ)
エミネ! お兄さん直せたんだね!
(ああ。それで、ツバサ君を見つけてこいつがすっ飛んできたんだ……ヒーロー殺しはそこに転がってるが、プロヒーローネイティブはどうした?)
ツバサ君に運んでもらった。
……今思うとツバサ君の安否が気遣われるシチュエーションだな。他のヒーローに問答無用で撃墜されてるんじゃないか?
いや、今は目の前のことに集中しよう。
とりあえずインゲニウムが僕のことを抱えてくれているけれど……
インゲニウムは僕を助けに飛び込んできた……つまり囲まれる形になっている。そのためどこから包囲を突破するのか探っているようだ。彼だけならたぶん速力にモノを言わせることができるだろう。だけど、抱えてる僕に万が一のことがあってはいけないと、気遣ってくれているのだろうか。それにヒーロースーツじゃない、所詮ただの入院着、しかも裸足。かなり危ない。
だけど睨み合いはほんの一瞬だった。
デカ男がインゲニウムに吹き飛ばされたとき、彼のマスクに乗っていたオーバーホールの右手は吹き飛んでいて、そして今戻ってきたからだ。
偶然にも、僕の頭の上に。
「お?」
「え?」
「ん?」
握られた右手首。確かこの中には……個性を消す弾丸が?
はたと、僕とオーバーホールの目があった。視線が交錯した一瞬でお互いが考えたことがわかる。
「ッ待て!」「インゲニウム!」
「っ、しっかり捕まっててくれよ! トルクオーバーッ!」
「ラジアル、バースト!!」
「!?」
「————っ!?!?!?」
インゲニウムの声とともに、全身が凄い力で地面に叩き付けられるような感触がした。頭の上に吹き飛んでいきそうになったオーバーホールの手を、慌てて掴み直してそのまま頭に押し付ける。ほんとは抱え込みたいところだけど、そこまで腕が戻らない。
気がつけば周囲は開けて……ああ、これは空の真ん中にいるんだ。
インゲニウムの両肘、両ふくらはぎからあふれる音は体育祭で飯田君と戦った時に見せてもらった必殺技と同じもの。
『トルクオーバーレシプロバースト』
個性の要である『エンジン』を、段階を無視していきなり全力全開で稼働させて爆発的な速さを得る。
飯田君曰く間違った使い方。
だけど切り札として強力なことに違いは無い。
あの場にいた
いや……
「くっ、貴様!」
「逃がさんぞ、紛い物ども!」
いつの間に沸いて出たのか、僕の足のギプスに刺さったままのナイフに掴まった奴の姿があった。
ヒーロー殺し……この状況でついてきたのか!? というかいつ目覚めた!?
「振り落とす!」
インゲニウムの両肘と両ふくらはぎの
だけど進行方向遠く、ちらっと沸き上がる炎が見えた。
「あそこまでいけば!」
「ああっ!」
着地のことを考えている余裕なんて無かった。ただインゲニウムだけが僕を抱えて、転げるように地面に叩き付けられる。
衝撃でナイフがすっぽ抜け、とうとうヒーロー殺しが剥がれた。
目の前にいるのは……エンデヴァーにねじ伏せられたツバサ君。ああ、遅かった。間に合わなかった。
「兄さん!?」
「緑谷!?」
その少し後に飯田君と轟君。その他サイドキックやご当地ヒーロー。ネイティブを抱えている人もいる。一様に戸惑った表情だ。気持ちはわかる。だけどその少し奥で此方にカメラを向けている人が達と同じ表情だというのは、なんだか間違っているような気がする。
「ヒーロー殺しだ!」
そんな中、すぐに体勢を立て直したインゲニウムが擦り傷だらけの顔で僕を庇うように身構えた。飛ばされた言葉は簡潔で、普通なら他のヒーロー達も身構えるところだろう。だけどまともな反応をしたのはエンデヴァーだけで、他はなんだか僕の顔とヒーロー殺しの顔を見比べている。
「ほぅ……捕えられたと言う報告が来ていたが、状況が変わっているようだな」
「ハァ……紛い物がゾロゾロと……」
ヒーロー殺しがゆらりと立上がる。その手にはもう何も無い。
「誰かが血に染まねば……英雄を、取り戻さねば……」
そしてふらふらと此方に近づいて来る。ザリリと、微かに地面を踏みしめる音が前後で聞こえた。
「全ては正しき社会のために……来てみろ……お前らは全員粛正対象だ……」
何故か誰も動かない。ただ黙って、近づいて来るヒーロー殺しを見つめている。エンデヴァーですらだ。何やってるんだ?
「俺を殺していいのは
はぁ?
サー・ナイトアイの内通疑惑について
『この作品中では』実際にはやっていません。
ただ、そういう疑惑はあってもいいと思うのですよね。
もし『オールマイトの死が確定』していて、なおかつ『オールフォーワン』の生存を知ってしまったら。
狂信者ともいえる彼はどんなことを考えるだろう? どんな方法でオールマイトの役に立とうとするだろう?
それは、時計を速めてでも『オールマイトとオールフォーワンの決戦』を速め、余力のあるオールマイトにその決着を付けさせる……そして悔いなく彼を逝かせようとするのではないか……?
そういうお話でした。