B-2ed   作:管蘿乃

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読まなくても本編を読むうえで不都合はありません。
話のテンポの都合でカットした、サー・ナイトアイとの接触シーンです。
職場体験偏全編(あとがき含む)で出てきた話題が一部繰り返されます。
本編の時間軸のどのへんか……とか気にしないでください。
一種のメモのようなものです。


B_36thD『閑話・死んだ無個性の国』

 スーツ姿のミッドナイト先生が車椅子で迎えに来て、連れていかれた先は……まあ、放送通り応接室だったんだけど、そこで待ってた人が問題だった。予想外と言うかなんというか。

 痩身長躯にスーツのきっちりした男性と、いかにもヒーローらしい黄色いマント、ブーツ、手袋付きの白いコスチュームに黒いドミノマスクの老人。

 

「サー・ナイトアイに……まさか幻のヒーローグラントリノ!?」

「ほほう? 俺を知ってるのか小僧」

「やはり……!」

 

 え、なんだこれ?

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいね! 今思い出します……ええと、図書館にあった教員名簿で見ただけだから……っていうかスーツ! あれ、とっくに引退してるものだと思ったのに、スーツ! まさかまだアンダーグラウンドで活躍を!? いや、そもそも現役らしき頃だってヒーロー活動の記録は……!」

「あー、もういい、わかった」

「確か雄英で教師をやってたのは一年間……それもオールマイトが普通科からヒーロー科に上がった時期と一致する、写真から見ておそらく担任……? もしかしてオールマイトの師匠だとでも……だとすればここにいるのは……」

「もういいって言ったろ! 話を聞かないな君は!」

「ああっ! すみません、つい!」

 

 当然だけど、雄英の図書館にはありとあらゆる雄英の記録が残っている。卒業アルバム、体育祭の映像記録、教員名簿その他諸々。

 一流のヒーローは雄英出身者が多いが、雄英出身者が皆一流に成れる訳ではない。デビュー直後に不幸な事故で消えてしまうヒーローだっているし、デビューに失敗してそのまま……と言うヒーローもいる。そんな彼らの貴重な記録を漁るために雄英に入る普通科生はけして少なくないのだ! そう、我ら第3ヒーロー研究愛好会! 経営科やサポート科のメンバーだって沢山いる立派な愛好会さ!

 

(そんなことやってたのか。あの後輩君には連絡したのか?)

 

 うん。いや、体育祭準備期間微妙に暇だったんだ。連絡はしてない。

 

(ちなみに第三の由来は?)

 

 何となく……

 とにかくそんなわけで、グラントリノのことは愛好会内では結構有名だった。オールマイトがヒーロー科に編入した一年だけ教師をしてた謎のヒーローとして。

 本当は詳しい話を聞いて、皆のためにサインの一つでも持って帰りたいところだけどね。

 痛む足を無視して、全身全霊で頭のてっぺんからつま先にまで力を込めながら何事もないように車椅子から立ち上がり。

 

「と、とりあえずサイン……ああ!? どうせならオールマイトのサインの隣に欲しいのに、あのノート持ってきてない!? いや待て僕、確か、あ」

 

 そして当然転ぶ。

 ギブスの足が縺れて、杖代わりにした点滴スタンドが滑る。あわてて突き出した松葉杖が間に合わず、肉を裂きながら点滴針が飛び出した。

 ミッドナイト先生の息をのむ声、サー・ナイトアイの冷たい目ととっさに差し出された手、そしてグラントリノ(推定)の驚いた顔。

 を、点滴スタンドでぶん殴る。

 それも、飛び出してきたところに迎撃を入れる形で、全力でだ。同時に、僕を支える態で手を伸ばすサー・ナイトアイの掌を握り、そのまま飛び膝蹴り、と見せかけて全力で踏み込みながら腕を引き倒し、後ろ手に拘束しつつ首筋に点滴針を突き刺した。そして点滴のチューブを潰して半分だけ空気を詰める。

 人間は大量の空気が心臓に入ると心臓マヒを起こして死ぬ。有名な俗説だから、適正な空気の量とかは知らないけど本気具合は伝わるだろう。もし本気で決める必要があるなら、針先を折って心臓に流してやれば良い。

 

(出久、ちょっと速くなったか?)

 

 どうだろう? どっちかって言うと身体は衰えてると思うけど。っと、サー・ナイトアイがこっちを睨んで……睨もうとしてるな。

 

「貴様、やはり……!」

「ええまあそうです。しかし、まさかあのサー・ナイトアイまでこの体たらくとは……まあいいや、この場は僕が制圧したということで、黙って話を聞いてもらえますか?」

「く、何をっ!」

「あ、無駄に暴れないでくださいね? ミッドナイトも眠り香は勘弁してください。うっかり針に空気を通しちゃうかもしれないし、なにかの拍子に折ってしまいそうで怖いですから」

「な、何でこんなことを……」

 

 そう言いながらミッドナイトはグラントリノを抱き起こす。まあ、死んではいないみたいだ。

 

「なんでと言われましても、当然のことだとおもいますけど」

「当然?」

「ミッドナイト先生はプリユアって知ってます? 幼い女児向けのアニメなんですけど……ああ、やっぱり知ってます? 希望に溢れた良い話ですよね。不思議な世界からやって来た妖精と契約して、ささやかな没個性しか持たない女の子がヒーローもかくやという大活躍……もう30年くらい続く人気シリーズだとか」

「な、なにを?」「っ!」

「サー・ナイトアイ、知ってますよね? 放送開始当時、初期のシリーズは『無個性』が特別な力を授けられて、やはり不思議な国からやって来た悪の手先に唆された個性犯罪者である(ヴィラン)と戦う、ある種の自警団(ヴィジランテ)ものだった」

 

「主人公達が無個性から没個性に変わったのは時代の変遷もあるだろうけど、それでもメンバーに一人は無個性がいた。力は無くても人一倍努力家で優しい、そんなキャラが。それが突然きっぱりいなくなったのは十数年前、貴方がオールマイトのサイドキックになって3年後だ」

 

「それどころか、元々個性犯罪者だった悪者役は、個性犯罪を助長する、虐めに繋がるとして廃止され、道具を使ったり、麻薬のような悪の力に溺れる無個性に代わった。ヒーローでは手をだせず、警察には手に負えない、そんな犯罪者だ」

 

「お陰で小さな頃はよく殴られたよ。悪の力に手を染めないように根性入れてやるとか、私の個性で浄化するーとか言ってね」

 

「調べてみると、同時期に驚くほど無個性が主人公に……正義の味方になる話が消えている。5年前には変身ヒーローの話も。今ならわかるよ。力を……個性(チカラ)を授ける存在がいる。無個性がヒーローになる、ヒーローに世を忍ぶ仮の姿がある、活動限界がある。オールマイトの正体を隠すために、都合が悪かったんでしょ?」

 

「僕らは貴方達に未来を奪われたんだよ」

 

 ゴギンと、鈍い音がした。あ、力入れ過ぎてサー・ナイトアイの手首がいったか。肘を押さえ直さないと。

 

「ーーっ!!」

「そんな貴方だから、貴方達が内通者の場合が一番オールマイトにダメージが大きい。そのまま動かず質問に答えてください」

「はっ?」

「なにを馬鹿な……」

 

 なにを馬鹿な? それこそ馬鹿なことを。

 

「僕が知ってる情報は多くない。

 1.恐らくオールマイトの弱体化は知られて

 2.恐らくヒーロー側に内通者がいて

 3.内通者はリアルタイムで雄英の状況を探れない、あるいはリアルタイムで敵方に連絡が取れない。貴方が予知した情報を元にくみ上げられた……そう思うのは不自然じゃない」

「馬鹿なことを言うな! 私はオールマイトの相棒(サイドキック)だぞ!?」

「は? 貴方が相棒(サイドキック)? 馬鹿なことを。貴方は自らの憧れのために憧れた対象を殺せる、異常なストーカーと変わらないただの狂信者(ファナティック)でしょう」

「……っ!?」

 

 狂信者(ファナティック)、ファンの語源でもある。意味は狂信、熱狂……さらに遡れば『霊感を与えられた』。つまり、信仰対象に選ばれたと思っているアレな信者のことだ(独自解釈)。なお霊感とはインスピレーションのことらしい。

 ともあれ百歩譲っても元相棒(サイドキック)であって相棒(サイドキック)ではない。

 

「普通はですね、この時期に、よりによって僕に、不意打ちで会うような真似はしないんですよ。良識と常識のある人間なら。オールマイトを通すか、校長を通すか、あるいは職場体験に託つけて呼び出すか。やりようはいくらでもあるのに、ヒーロー三人で囲んで不意打ち? 幻のヒーロー引っ張りだして? 疑うなと言う方が無理がある」

 

 言っちゃなんだけど、ミッドナイト先生の普段の言動と僕がグラントリノらしきおじいさんをグラントリノだと思ってるからこそまだ疑っていない方だ。これが誰だかわからないヒーローっぽい格好の誰かとかだったら、道化師の力を使って全滅させてから交渉に入っていたと思う。

 いや、ミッドナイト先生は個性の特性とあわせると相殺かな?

 

「とは言え、別に全面的に貴方達を疑ってる訳じゃない。貴方達が別に内通者でもなんでもなくて、僕を調査に来たとか、オールマイトを体育祭で倒したことに文句を付けにきただけと言う可能性もある」

「なにが言いたい」

「個性使って僕の未来を予知したいんでしょう? その代わり貴方の個性の情報をください」

「なにを!? そんなことが出来るはずが……」

「はぁ!? 貴方の個性は最初っからグレーゾーンでしょ? 個性である、ヒーローである、未来の出来事である、そんな名文で人のプライバシーを覗き見る最低最悪のクズ個性でしょう? 学校の敷地内だから、相手が無個性だから、(ヴィラン)かも知れないから、ただの学生かも知れないけど使っていいって思ってここにいるんでしょうが!!」

 

 ゴギンと、さっき聞いたばかり音が再び。即座に肩の関節を押さえる。

 

「ーーがぁっ!!」

「ヒーロー認定許可証なんて本来はね!? いかに個性を使いこなせるかで取るもんじゃないんだよ!! 拷問されようが、血反吐吐かされようが! 理不尽に打ちのめされて怒りに呑まれようが、絶望と悲しみで心を殺されようが!! 絶対に耐えて耐えて耐えて耐え抜いて個性を使わないでいられる人間にこそ与えられるべきなんだ! わかるか狂信者!! 個性を私心のために使わないからこそヒーローなんだよ!!」

 

 サー・ナイトアイの肩の関節が軋る。落ち着け僕。傍からどう見えてるかはともかく、僕が偉そうに言うことじゃないはずだ。わかってるだろ。僕はヒーローに成れない。

 僕はヒーローには成れない。

 僕はヒーローには成れない。

 僕はヒーローには成れないんだ! 

 

(でも、ヒーローに疑われて、辛いんだろう? いいじゃないか。少しくらい苛立ったって)

 

 ……ふう。それでも八つ当りはダメだよ。

 彼が読み取った未来の内容によってはこの場で記憶がなくなるまで殺さないといけないんだし。それも場合によっては関係ないかもしれないミッドナイトまで。

 

「はあ、まあそんな訳で、未来見られるなら何を見られたかくらい確認する権利くらいあるはずでしょう? 貴方が裏切り者だった場合、その情報をどう悪用するか予想するためにも」

「……私が予知した未来を、悪用するだと?」

「だって、未来から利用できる情報を探したり、その内容を回避するために動くための予知でしょう? まさか、まだ自分が裏切り者だと思われて屈辱だーとか思ってます?」

 

 それとも単なる時間稼ぎか? 折れた右腕の指先まで力入れ続けるの結構辛いからな……

 

「僕もね、この状況が僕の方が圧倒的に不利だってことはわかってるですよ。どれだけ貴方に落ち度があろうと、無個性とヒーローが争えば絶対に無個性が社会的に排除されますから。おめでとう。貴方の理想の社会は出来上がりつつありますよ」

「私は、オールマイトの相ぼ(サイドキッ)……」

 

 即座に肩を外して反対の腕を取る。それでも時間稼ぎは無駄だってわからせないと。

 

「サー・ナイトアイ、緑谷君の言う通りです」

「ミッドナイト?」

「私たちは彼の潔白を証明できればと思って貴方の要請を受けましたが、それがあまりに彼の気持ちを無視する物であったのは確かです。受けてください。必要であれば席を外します」

 

 ミッドナイト先生の援護? 一応そう言う名目だったってことは覚えておこう。

 

「目をあわせろ」

「サー・ナイトアイ?」

「目をあわせる。それが能力の発動条件だ。それで1時間の間、相手の未来の場面を好きに見ることが出来る。だが覚悟しろ、私が見た未来は数ある分岐の中の一つだが、私が見た瞬間にその道が確定する……お前が死ぬ未来を私が見たら、その事実は回避できない!」

 

(何言ってんだこいつ?)

 

 ……しょうがないよエミネ。よくわかった。この人も個性性(スペシャライズ)英雄症候群(ヒロイックシンドローム)の罹患者なんだ。吐き気がする話だけど。

 それにこれでこの人がなんで裏切ったのかもだいたい予想がついた。

 サー・ナイトアイの顔をつかみ上げ、首を捩じり上げるようにして無理矢理目をあわせる。

 血坊主生成、血喩開始。さあ、見れる物なら見るがいい。貴方の視覚は捕えた。

 

「じゃあどうぞ。予知してください。貴方が潰した僕らの未来を貴方が本当に見ることが出来るなら、ですけど」

「……」

「……」

「……サー・ナイトアイ?」

「……な、何故だ? 何故未来が見えない?」

「言ったでしょう? 貴方が僕らの未来を殺したと。そんな貴方が僕らの未来を予測できるはずがない」

 

 と言ってもあんまり長くかかると困るな。嘘だし、本気で1時間見られると困る。いや、困ったりはしないんだけど、その間目をあわせ続けるのはしんどい。

 彼の心も折ってしまおう。

 

「そんなはずが……」

「サー・ナイトアイ、貴方、オールマイトの死を予知しましたね?」

「「!?」」

 

 おー、ミッドナイトも驚いてる。ってことは極秘情報か。それもそうだよね。

 

「だから貴方はオールマイトの為に(・・・・・・・・・)彼が死ぬ前に全てが片付くように、(ヴィラン)連合に情報を流した……違いますか?」

「ち、違う! そんなことはしていない!」

「本当ですか? そう考えるといろいろ辻褄があいそうな気がするんですけど。きっと、貴方のところにはもう彼が死んでもいいように後継者を準備してるんじゃないですか?」

「それは……だが、私はそんなつもりはない! 彼には、彼には生きて……」

「じゃあ死んでくださいよサー・ナイトアイ」

「は?」

「貴方、本気で自分の個性が未来を確定する力をもってると思ってるんですか? 貴方も自分の個性の正体を知らない、本当にくだらない人間だ」

「私の個性の正体だと? そんなものは」

「知らないね、貴方は何も知らない! 貴方の個性の正体が、予知ではなく単なる交感(テレパシー)と予測、そして洗脳で成り立ってるってことにも気付いてない!」

「洗脳、だと?」

「ただの人間の個性に、未来を固定する力なんてある訳無いでしょう? 貴方の個性の正体は交感(テレパシー)による無意識の情報収集と、それに加えての高度な演繹による予測、それを像として自分の中で作り上げた上で、それを再び交感(テレパシー)で送信し周囲の人間を洗脳する……運命を押し付ける個性にすぎない。貴方の肉体も、その自己洗脳によって作り上げたものだ」

「な、なにを……」

「だから貴方の予知はいつも予定調和だ。知らない情報は手に入っても、予測してない事態は起らない」

「あ、あ、あ?」

「貴方はオールマイトが死ぬ未来を予知した訳じゃない。貴方はそんな予知があればオールマイトを止められるかもしれない……そう思って、その未来を選んだんだ。そして他でもない貴方がオールマイトを殺す」

「ああああああああああ!?」

「オールマイトは気付いてたんじゃないか? だから自分のことは予知するなと言ったんじゃないか!?」

 

「未来を枯らし、世界を殺す最低最悪の狂信者(ファナティック)。それが貴方の正体だ」

 

 

 

「———っあああああああああ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発狂して頭をガンガン床に打ち付け始めたサー・ナイトアイはミッドナイト先生によって眠らされ、車椅子に載せて保健室に運ばれることに成った。なお膝にはグラントリノも載せられていたりで見た目があまりにあまりだし、普通科の生徒に見られる訳にもいかないので応接室のカーテンをかぶせたなんだかよくわからないオブジェのような見た目になっていたことは僕とミッドナイト先生だけの秘密だ。

 後でオールマイトに会わせるんだろうか? 会わせなかったらあいつらが裏切り者確定な訳だけど、たとえ裏切り者だとしても会わせない理由がないんだよなぁ。

 ……常識と良識があればオールマイトか校長を通してアポイントを取るとは言ったけど、単に学生だと思って舐められてたとか、裏切り者だと思ったから情報流したくなかったとか、理由はいろいろ付けられる。とはいえ、ねえ? 無個性を内通者と疑う次点で無理があり過ぎるだろう。常識的に考えたら入学できる可能性が低すぎるし。どちらかと言うと内通者うんぬんというよりも、何かしら理由をつけて僕を排除したい派閥の動きの一端って感じもする。

 

(かといって強硬に取り調べたりすればお前の不利になる)

 

 まあね。そんな権限もないし、証拠もないのに他の教師に訴えるわけにもいかないし。

 まあ、実際に裏切り者だったとしても、もう僕をどうこうする気力はないだろうから、それで良しとするしかない。

 そんなわけでこの話は終わり! 問題は……

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