今後も一話5000字程度のペースかな……
ともあれ個性把握テスト後編。どうぞ。
ちょっと遡ろう。ほんのちょっと。具体的には個性把握テストの結果が出たところまで。
まず一位がありとあらゆる文明の利器を創造して圧倒的な記録を出した八百万さん、続いて二位が氷を生成する能力の持つ押し出す力の出力で押しきった轟君。2人とも強力で応用の利く個性が見事にはまった形だった。
逆に
相澤先生は終始僕を睨んでいたけれど、別に僕が直接何かをした訳じゃない。勝っちゃん自身の問題だ。
自分の挫折から目を逸らして生きてきたかっちゃんはそもそも恐怖に耐性がない。ドロドロ男……通称ヘドロ敵のとき、爆破を繰り返しながら暴れていたのが良い証拠だと思う。
あのときかっちゃんが無理に抵抗していなければバックドラフトの個性である流体操作や、Mt.レディが振り回して遠心力で引き剥がす、シンリンカムイが伸ばした手足で絡めとり吸い上げるなどの手段はいくらでも取れていた。もちろん、ヒーローが来るまでの間暴れてしまうのはしょうがないと思う。だけど、プロが来たなら任せるべきではあった。公共の場では個性を使った攻撃を受けたからと言って、個性を使って反撃するのは法律に反するしね。
まあ、そんな諸々をひっくり返して、だけどかっちゃんは
なのにテスト中は常に僕がすぐ後ろか隣にいた(出席番号の関係で)、気配だけでかっちゃんを竦ませる僕がだ。そりゃうまくいくはずがない。
あえて妨害した人間をあげるなら、それはかっちゃん自身か、このクラス分けをした人間ということになるだろう。
……はい、ごめんなさい。僕のせいです。僕がかっちゃん相手に一悪したせいなんだけど……
「爆豪、途中何度も言ったな? 自分を見つめ直せ、そんなんでやっていけると思ってるのか……と」
「クソっ、体調さえ万全なら俺がデクなんかに……」
事情を知らないだろう相澤先生はかっちゃんにかなり厳しい目を向けてるし、かっちゃん自身は僕相手にびびっていることを受け入れられず、体調不良のせいにしている……しょうがないなぁ、もう。
「先生、僕が妨害しました」
「関係ない奴は黙って……緑谷か、お前が妨害したと?」
「はい、まあ」
「どうしてだ緑谷君! 何でそんなことを!」
うん、ごめん飯田君、ちょっと静かにしててほしい。
「どうやってだ?」
「その、まあ、かっちゃんの気に障る場所に立ち続けて?」
まあグラウンドのどこにいても大概気に障るんだろうけど、あえて説明しようとすると他の説明方法がない。だけどまあ、それじゃあ当然先生も納得しないよなあ。最初の話の流れだと、余計なことを言わなければただかっちゃんが除籍になって僕は助かってたんだし。でも、先生は明らかに僕を除籍にするつもりでロックオンしている。ならケリは今のうちにつけておきたい。
「緑谷、お前それで爆豪を庇ってるつもりか?」
「いや、庇うとかじゃなくて……」
「もしかしてお前、わかってないのか?」
えっと? 先生は何を言いたいんだろう、僕は本当にかっちゃんを庇ってるつもりなんかないぞ? ただ単に今回の成績だけで彼を評価するのは不適当だと言いたいだけで……
「緑谷、まず一つお前の考えを正そう。我々雄英教師陣は、爆豪の状態をきちんと把握している。一年前の事件、お前との関係を含めて」
「え?」
「爆豪勝己、品行方正とは言わないが適度に外面よく大人からの覚えはめでたい。容姿は好みが別れるだろうが良い方だろう。成績は優秀で文武両道、中学のスポーツテストは全競技で一位。個性は派手で強力、入試を見る限り応用も利く……そして一年前にヴィランの被害に会っている」
「事件当時14歳。襲撃した
「いえ……」
訂正はない……ないけど……じゃあなんで……
「改めて聞くが緑谷、爆豪がヒーローになれると思うか? 俺が気に入らないのはお前だけじゃないぞ。おい爆豪、いつまで落ち込んでる。お前そんな有様で本気でヒーローに成れるつもりか?」
「お前らは今回の成績で決めるのは不当だと思ってるみたいだが……その保証がどこにある。爆豪が救わなきゃいけない誰かの前で棒立ちになって、それで殺された後になんて言うんだ? 僕さえいなきゃ平気だと思ってた? 体調が悪かったからしょうがない? そんな甘い話があると思ったのか?」
「緑谷、お前がどういうつもりだったのかはこの際いい。ここにあるのは結果だ。結果的にお前がしたことは爆豪の恥を知らしめた。それだけだぞ」
頭が痛い。なに言われてるのかわからない。結果的に? かっちゃんの恥を知らしめた? 僕が?
かっちゃんが僕に向かって怨嗟の唸りをあげてる。
じゃあどうすればよかったんだろう。ただかっちゃんが除籍されるのを見てればよかったの?
「なんで最初に言わなかった」
「……何をですか?」
「自分は無個性ですって」
「ぐっ……」
思わず顔が下を向く。
さっきからずっと僕と相澤先生の二人舞台だ。全員に聞かれた。僕が無個性だって皆に知られた。
なんでだよ。なんでそんなこと言わなきゃいけないんだ。かっちゃんの恥を晒すのは悪いことで、僕のを晒すのは良いのかよ。言って、言ってどうなるんだよ。
「これは個性把握テストだぞ? 無個性が個性者と同じ基準で除籍になると思ったか? そのくせ爆豪が除籍になると思ったら自分から妨害したなんて言い出して庇うのか? お前わざわざ聞いてたな? 妨害があった場合の最下位はって。たとえ除籍が爆豪じゃなくても自分が降りる気だったのか?」
「そんな、そんなつもりは……」
「緑谷、俺がお前を嫌いなのはお前が無個性だからじゃない。入試の時から睨んでたが、お前のそれは
いや、ビビってる場合じゃない。顔をあげろ……何か言わなきゃ、何か……
「あ、諦めてなんかいません! ただ、ただいざとなったら……普通科から繰り上がりを……」
「爆豪か峰田にでもやらせとけ。なんでお前がそんなことする必要がある」
「だ、だって僕は個性がないから、皆と違って時間が……」
「ない。無個性のお前にそんなものはない」
「あ、う……」
「お前はなんで自分が雄英に入れたと思ってんだ? 俺が除籍を言い出すことを見越した囮か? かわいそうな無個性のための一日体験だとでも思ったか? 今のお前を認める気はないぞ緑谷。それと爆豪、お前もだ。緑谷を克服できなきゃ、お前はヒーローになる価値はない。お前らは纏めて除籍だ、ヒーロー科からじゃない。雄英からな」
なにも届かない。何も通じない。口からでた言葉全てが切り落とされる。
周りの視線が怖い。呼吸が苦しい。どうすれば良い? どうすればよかった?
僕が雄英に入れた理由? それは……なんだ? なんで?
━━君自身の行動の結果だ━━
オールマイト?
━━君は認められて━━
オールマイト……!
━━それでも君は
僕はオールマイトに、
そんなはず無い。そんなこと思うわけない。そんなこと、そんなこと……
ダメだ。わかる。それは確かにダメだ。認められない。このままじゃいられない。
━━来いよ緑谷少年! 君の心が折れるまで、ここが君のヒーローアカデミアだ!!━━
前提が違う。心は最初っから折れてた。だけど、だから。
「じょ、条件は何ですか」
「ん?」
「除籍を取り消す条件は何ですか? 先生は今言いましたよね。『
今更諦めるなんて、馬鹿げてた。貪欲さが足りなかった。物わかりの良い顔をしてる場合じゃなかった。
チカラを得て、かっちゃんのことなんてどうでもよくなってた。でも違う。だからといって、僕は
僕は!
BOOOM!!
「わ、かっちゃん!?」
「ふざけんな……俺が、俺がクソデクに怯えてるだと……初日から除籍だと……?」
BOOM!! BOM!! BOOOM!!
「認められるかそんなもん! ふざけんな!」
あー……恐怖と向き合うことが出来ないから落ち着いた行動は取れない。けど、そうだね。かっちゃん無作為に暴れるだけで強烈だもんね。なんか隣でドタバタしてるかっちゃん見るとへんに落ち着いちゃうな……
でもそんなかっちゃんを見て相澤先生がニヤリと笑う。うん。何が来ても乗り越えるつもりにはなったけど……嫌な予感しかし無い。
「そうだなちょうど爆豪もやる気になったみたいだし、個性ありで闘ってもらうとしよう」
個性ありで……闘う? 闘う!?
「せ、先生、それはあまりに!」
「黙ってろ飯田。生徒の如何は教師の自由……そう言ったはずだ」
僕の気持ちを代弁してくれた飯田君はばっさり切り捨てられた。相澤先生ににらまれて、言葉を喉に詰まらせてる。
闘う……闘うのか。僕が。
「だがそうだな、興味ない奴はもう今日は帰って良いぞ。ここから先はこの2人の問題だからな」
……誰も帰ろうとしない。僕らの進退を見守ってくれるつもりなら嬉しいけど、単に無個性の無様さを嗤うつもり何じゃないかとか勘ぐってしまう。
それにしても……全部理解した上でこう言わざるをえない。
「さて、結論が出たわけだが……」
おかしい。どうしてこうなった?
「除籍は爆豪、緑谷の両名。それがいやなら個性ありのガチンコで闘え。勝った奴の除籍を取り消してやる」
どうしてこうなった!? (二回目)
自然とみんなが広がって、僕とかっちゃんと相澤先生だけが残される。見てるみんながどういう心境なのかはさておいて、真っ白な顔に引きつった笑顔を浮かべ掌だけをBomBom言わせているかっちゃんはそれはそれでかなりの迫力がある。というか、あの爆発がまともな制御も無くぶっ放されると思うとかなりの恐怖だ。
だけど……負ける気はしないな。時々自分の爆発に力負けしてふらふらしてるかっちゃんには、とてもじゃないけど負けるとは思えない。
「デェク、なんも難しいこたぁねぇ……てめぇはいつも通り俺に
まるっきり敵の台詞……かっちゃんの認識は8歳くらいの頃で止まってるらしい。特にこの一年は爆破するどころか怒鳴られた覚えすらないよ。その証拠と言うかなんと言うか、若干前傾した姿勢で両手を脇に構えていて今にも飛びかかってきそうに見えるけど、実際には目は泳いでるし自ら動き出す気配もない。
待ちの構えだ。構えか? やる気なのはかろうじて伝わってくる。
でも闘うのか? ちょっと状況に流され過ぎてないか?
(除籍になってもいいのか?)
嫌だよ、嫌だけど……オールマイトが『ヒーローに相応しい』って言ってくれた、僕の正義ってなんだっけ。
諦めたのが間違いなのは、認める。だけど蹴落として登るのは正しいの? そうじゃない気がする。そういうことじゃない気がする。
(じゃあどうするんだ?
たぶんあれは上手く個性の制御ができなくて、動き出せないんだと思う。ほっといたら自滅するんじゃないかな……このままのかっちゃんが無為に暴れて、それで僕を上手いこと爆破したとしても、それって僕を乗り越えたことになるのか?
(下手したら出久が勝手に負けただけ……そんな扱いになるかもな。それは
うん……うん?
勝手に負けただけ?
(ああ、なるほど。いやでも、それは流石にどうなんだ?)
今はそれに賭けるしかないよ。それが一番納得できる結末だ。
「行くぞかっちゃん!」
side:相澤
それはさながら、昔の映画のワンシーンのようだった。硝煙けぶる戦場にまさにヒーローがやって来る、そんなシーンだ。
爆破をふりかざし威嚇する爆豪に対し、緑谷はあまりに無造作にその一切をものともせずに近付いていった。13まで毎日のように食らっていたとあるから、その恐怖は身に染み付いているだろうになかなかの度胸だ。認めてやるよ、その気概だけな。
この期に及んでわざと負けたり降参するようなら見込みなし、人に言われたくらいであっさり曲がるなら心に根付いた正義なんてただの幻想。やっぱり見込みなしだ。さて、どうなるかね。
「デェク! 俺を見ろ! こっちを見ろぉ! てめぇが俺に勝ってるところなんて、一つだってねぇんだよぉ!!」
目の前まで近づいてきた緑谷に対して、爆豪は掌を爆発させながら右で大振り。迫力はあるが爆発と腕の振りのタイミングが合ってない、あっさり緑谷に掴まれる。続いて左、蹴り足も抑えられて……容赦無い緑谷の頭突き。食らった爆豪がのけぞった。
「そういえば何度か君を助けようとしたことがあったけど、助けたことは無かったっけ」
緑谷が、なんだ? タイミングをはかって……
「今日は助けるよ」
一瞬燃えるような気迫のこもった緑谷と目が合った。ここで決める気か? 左手を放し……なにっ!?
side:OUT
喰らえ相澤先生!
心の中でひっそりヒーローらしからぬ台詞を叫びながら、爆発のタイミングに合わせてかっちゃんを無理矢理相澤先生に向かって投げる。パニックになって連打される爆発がかっちゃんを不規則にきりもみ旋回させて相澤先生を撹乱しながら突っ込んで行く。
名付けて即興必殺かっちゃんボンバー!!
しかし先生もさる者、首回りに巻いていた謎の包帯っぽいものが浮き上がり、かっちゃんを絡めとる。だけど、それで何とかなるものかよ。そんなことになればドロドロ男に拘束された時のことを思い出してなおさら爆発するのがかっちゃんだ。それに、僕らのターンはまだ終わってない! 吹っ飛ぶかっちゃんの死角に入り込んだ僕は、一息で相澤先生の武器の内側にまで入り込める位置にいる!
(出久、本当に良いんだな!?)
うん。治癒は無し! いくぞ火事場のロケットヘッド!!
「「「「緑谷(くん)!!?」」」」
絶対にどうしようもない
クラスメイト達も相当驚いたんだろう。かっちゃんを投げたのは偶然ですませても、今度の頭突きは明らかに狙ってやってるのがわかる。
自分でもめちゃくちゃやってる自覚はある。あるけど他に思いつかなかった。
反動で痛む首から上全般のダメージをこらえて、吹き飛びそうな先生の腕をまとめて掴む。
「緑谷、お前!」
「かっちゃん!」
「デクッ! このクソが! 何しやがったあ!?」
僕の声に正気を取り戻し……もとい奪われたかっちゃんが大暴れして、相澤先生の包帯っぽいものにガンガン絡まって行く。僕はその中に相澤先生の両手を巻き込んで、転がるようにその場を離れた。
見る間にかっちゃんと相澤先生の包帯ダルマが出来上がって行く。身動きが取れなくなった先生が僕を睨みつけた。
「緑谷、お前どういうつもりだ……?」
「先生!
返答によっては容赦しない……そんな無言の圧力に、自分なりの答えをかぶせる。
先生は『闘え』とは言ったが、
「……はぁ。それを俺が認めなかったらどうする? 俺はまだ個性を使ってないぞ?」
「先生が個性を使っても問題ありません。先生は『抹消ヒーロー』イレイザー・ヘッドですよね?」
「……理由は?」
「人間は自分に無いものを神聖視しがち……先生はさっきそう言いましたよね。それに、さっきからかっちゃんがうんともすんとも言わない。本来ならとっくに爆発してるところです」
「ヘドロ事件といい、入試の啖呵といい、妙な深読みをする奴だとは思っていたが……」
ふっと圧力が和らいで、先生が瞬きをした。案の定かっちゃんが爆発する。
「油断してたとは言え、無様を晒したのは確かだ。良いだろう。
ああ。思わずへたり込む。というか、うん。火事場の馬鹿力の後遺症で手足が動かない。
クラスメイトからの歓声は無い。戸惑うような声と、僅かな安堵の息。
ようやく、僕のヒーローアカデミア初日が終了した。
その後。
先生はしばらくもぞもぞしただけであっさり拘束から抜け出した。割と本気で温情判決だったらしい……結構良いとこ行ったと思ったんだけど。
かっちゃんは暴れ方がよりいっそう酷くなり、最終的には呼ばれてきた『18禁ヒーロー』ミッドナイト(当然だが先生!)に眠らされていた。うん、今日良いとこなかったし、あげく僕に良いように使われちゃったもんね。絶対認めないだろうけど、少なくとも形の上では僕に助けられたわけだし。かっちゃんの当面の課題はいかに僕を乗り越えるかだそうだ。機会があれば積極的にぶつけて行くと……高校にもなって僕はかっちゃんの相手をしなきゃいけないのか。
あと、先生にスポーツテスト手抜き疑惑をかけられたけど、筋断裂で全く動けなくなっていたのでお咎め無しになり、救護ロボで保健室送られた。登校初日から保健室かぁ。
リカバリーガールによる治療が終わった頃には、クラスメイトは全員帰ってしまった後だった。というか、学年全体で僕が一番遅かったみたいだ。母さんも心配してることだろう。一瞬さらに心配させて一悪にしようかと思ったけど、それは流石に気がとがめたのでやめた。でもあんまり時間がない。ほんと、どんな一悪にしようかな……
晩ご飯前にお腹いっぱいにしちゃう……とか?
はい。バトルシーンかけないです。
そしてかっちゃんの扱いがびっくりするほど悪いですね。ごめんなさい。
そして本家と違いボッチでかえる主人公……こんなんですけど、なんだかんだ原作沿いでやってきます。
次回ヒーロー基礎学編、お楽しみに!