4時間ごとです。
「おはよー」
僕の
端的に言って、昨日はさんざんだったんだ。
除籍処分一歩手前だったのもさることながら、帰りの電車で寝てしまい一悪5分前のアラームで目が覚めたのも相当な修羅場だった。
結局帰りが遅くて心配してる母さんに公衆電話から無言電話をかけまくるという地味ながらもかなり心に来る手段で切り抜けたけど、今後は下手なタイミングで気絶……あるいは怪我でもしたら取り返しがつかない、ということを自覚するべきだと学んだ。
(家についたらお母さん泣き出したもんね)
やめてエミネ。本当に心が痛んでるから。
後ろを向いて教室のドアを閉め、向き直ってちらと教室を見渡す。
ところでここまで誰からも挨拶が返ってこないんだけど、クラスメイトの様子は……登校率3割って所か。何やら青い顔で考え込んでる八百万さんがなぜか峰田君の席に座ってて、その隣の席の瀬呂君はなんだか気まずそうに頭を掻きながら窓の外を見てる……ってそこ常闇君の席だぞ? 瀬呂君は確か僕の隣だったはず。だけど常闇君は瀬呂君の後ろ、最後尾の席で僕の方をチラッと見て腕を組んだままピッと指を二本立てた。常闇君なりの挨拶かな。どこか怯えた様子で僕をちらちら見てる口田君が座ってるのは本来は砂藤君の席だし、轟君が眠そうにしてる窓際の列の一番前は葉隠さんだったはず。
登校してる生徒なんか偏ってるなぁ。昨日の席のままなら綺麗な十字に……いや、それには八百万さんの代わりに峰田君が必要か。何だろうこれ? 八百万さんだけ一個前にでて、他みんな一個後ろにずれてる?
まあいいや、とりあえず僕の席である八百万さんが座ってる席の前の席に鞄をおろす。
「あー……緑谷?」
「ん、なあに瀬呂君」
「お前の席、その列の一番後ろになってる」
「……え?」
「いやその! 爆豪のために……席を変えることになって……」
「そうなんだ」
「あ、ああ」
「教えてくれてありがと」
多分僕とかっちゃんの席がかっちゃんの精神衛生のために最後尾の両端か、教室の対角にでも移動になったんだろう。その結果がこの席の移動……もうちょっとスマートにならないんだろうか。青山君か麗日さんとかっちゃん、僕と八百万さんの席を入れ替えるだけでよかっただろうに。
(多分、出席番号? を、あまり乱したくなかったんだろう。ところで出久、今の奴の態度なんだが)
あー、何となく何言いたいのかはわかるよ。
瀬呂君……あとついでに口田君も僕に対して怯えてるんじゃないかってことでしょ。どう見ても怯えてるよね、僕も不思議なんだけど……そりゃ、一悪した相手が怯えるようになるのは経験あるけど、殆どの人は僕が無個性だと知るとバカにしてくるくらいなのに。
っていうか、むしろそうなるんじゃないかと思って教室入るとき心臓バクバクしてたんだけどね。調子狂うなぁ。
とりあえず鞄を机に置いて席に座る。
「息災のようだな、緑谷」
「オッス」
「おお……おはよう常闇君、
「そうか」
常闇君、常闇踏陰君。入試のときに同じ会場だった子の一人で、頭が鳥みたいな形状になってる異形系の個性持ち。個性は
見る限り態度や様子は普通。昨日のことはあんまり気にしてない……のかな? まあ、常闇君が気にしてなくてもその向こうから口田君がチラチラこちらをみてるんだけどね。正直落ち着かない。もしかして一周回って新手のいじめなんじゃないかとすら思えてくる。もういっそストレートに常闇君に話をふってみようかとも思うのだけど、その前と反対隣が瀬呂君と口田君の席なわけで。聞こえるところで噂話とか、すごく嫌なやつだよね。一悪のことも考えなきゃいけないのに、このままだと内外からのプレッシャーが凄いぞ……
はぁ。ため息を一つ吐いてノートを出す。とりあえずクラスメイトの個性とその応用した使いっぷりをまとめよう。昨日の晩はそれどころじゃなかったし。
何ができるか、何ができないか。
何を伸ばして、何で補うか。
個性で延びるのか、道具でしか補えないか。
制御が出来ていたか、使い方を間違っていなかったか。
切島君は凄かったな。まさか、硬化だけであんなことができるとは。
砂藤くんはせっかくのパワーを使いきれてなかった。急激なパワーアップのせいか、ボール地面に叩きつけたりしてたし。
口田君は体力的に地力が高そうだった。瀬呂君も勿体ない場面があったっけ。轟君は……八百万さんは……常闇君は……麗日さんは……飯田君は……障子君は……
「緑谷」
「ん?」
おっと、夢中になってた。常闇君に声をかけられて顔をあげてみると、ずいぶん席が埋まっている。本鈴も近いだろう。
しかし、見られてるなぁ。信頼及び好意1、好奇2、恐怖2、不安3……無関心2ってところか。無個性相手に恐怖やら不安やら……大丈夫か雄英。
「おい、緑谷」
「あ、ごめん。なに?」
「昨日
「無垢……? 無垢……あ、ああ、なるほど。それ聞いちゃう……?」
なんか変なルビがふってあったような……? 気のせいか。ええと、無垢なる者って無個性のことだよな。無垢なる? まあ、持たざる者とか言われない分ましか? あとは旧き者とか滅び行く者とか。自分で思ったことあるけども。
「その反応、やはり事実だったか……気に障ったか?」
「……ううん、そんなこと、ないよ」
言い回しに驚いただけで、気にしては……いるけど。まあ、不快に思ったりはしない。
どちらかというと皆が聞き耳たててる方が気になる。
「それがどうかした?」
「ふむ、これはクラス全体で統一された見解なんだがな……さぞ、高名な」
「緑谷ぁ!」
おっと、切島君が割り込んできた。チラと常闇君に目をやると、ため息をついて切島君に目をやる。自分の件は後で良い、ということか。しょうがないので切島君に向き直る。
「なに、切島君?」
「わりぃんだけどさ、放課後付き合ってくれねぇか? 色々、折り合いをつけてえんだ」
「う、うん。別に良いけど」
「ありがとな」
そう言うと切島君は自分の席に戻っていった……けど真顔過ぎてありがとうって表情じゃない! なんなんだ皆して。本当に僕に対するいじめとかじゃないんだよな?
皆の関心が放課後に集中したせいか、視線はあんまり感じなくなったけど……っていうか、マズイ。放課後あんまり長く拘束されると一悪の時間にさし障る。一応早弁という裏技は用意したけど、あんまり一日を短く使うと後が辛いからなあ。バッチリ計画を立てたいところだ。
「っと、そういえば常闇君の用事は」
「いや、時が迫っている。またの機会としよう」
「そう? っと本鈴鳴ったね」
母さん、僕のヒーローアカデミア生活は不安で一杯です。
でも、絶対楽しんで見せる!
ヒーローには勝てなかったよ……
いや、違うんだ。けしてクックヒーローランチラッシュのいる学食の魅力に抗えずに、早弁し損ねた訳じゃない。
単純に必修科目の先生も普通にヒーローだし、手も足も出なかっただけで!
せっかくのランチラッシュのご飯をお腹を減らしたまま食べたかったとかそういう訳じゃないんだ!
……まあ、何故かミッドナイト先生だけわかった上で挑発してきててかなり怖かったけど。先生の言う通り現場を押さえられて生徒指導室に連れていかれたら何があったというのか。
峰田君が明日弁当持ってくるらしいし、明後日辺り聞いて……明日ミッドナイト先生の授業ないや。まあ普通に相澤先生のお説教とかだろうし忘れよ。
そんなことより今日の一あ……ん?
「『わーたーしーがー!!』」
おっ、
「『普通にドアから来た!!』」
「マジでオールマイトだ!」
「ほんとに先生やってるんだな!」
「あのコスチューム
オールマイトが来たぁ!
来ちゃったぁ……
オールマイトの目を盗んで一悪とか無理すぎる……こうなったら、放課後の切島君の用事を特急で済ますしかない。
どうせ放課後の呼び出しなんて『無個性の木偶の坊を俺らが練習台として有効活用してやるからありがたく思えオラァ!』とかそんなんだろ。瞬殺してやるぜおらぁ。
……
……
……
えー、そんなことよりヒーロー基礎学である。
その名の通り、ヒーローとしての素地を作るために様々な訓練を行う授業だ。今の世の中ヒーロー科を有する学校は数あれど、その殆どは社会に出る前に自分の個性の程度を把握して、人を傷つけたりしない程度に制御しよう……というものである。名門と呼ばれる学校は総じてこの授業の質が高く、単位数が多い。中でも雄英はトップの中のトップ、数でも質でも群を抜いている。
何と授業日程初日である今日から『戦闘訓練』だ!
全力で個性使ったのなんてみんな昨日が初めてだろうに『戦闘訓練』だ!
ある意味入試も戦闘訓練みたいなものだったけど、大丈夫なんだろうか。
そしてもしかしてまたかっちゃんの相手をさせられるんでしょうか。
……いや、やめよう。
僕の心配することじゃない、生徒の監督をするのが教師だ。充分な備えがあるからこその無茶な授業内容なんだろう。
かっちゃんのこともどうあれ先生が何か考えてくれてるはずだ。
せっかくオールマイトの授業なんだ。今を楽しめ!
「『さて、それじゃ戦闘訓練に伴ってこちら!』」
オールマイトがそう言って手をあげると、一見なにもない壁から棚のようなものが飛び出してくる。
17.1.2.3.4......番号の書かれたケース、これは席順に合わせた出席番号?
「『入学前に出してもらった『個性届』と『要望』に会わせてデザインされた
「「「おおおー!!」」」
コスチューム……こすちゅーむ? あれ、どんな要望だしたっけ……いつまでも決まらなかったから、なんかやけになって……
「『全員これを着てグラウンド
「『形から入るってのも重要なことさ。だからこれを着て、自覚するんだ』」
「『今日から
オールマイトのありがたい言葉が右から左に吹き抜ける。
このデザインが採用されたの? 嘘だろ……?
黒い格子模様のついた黄色い三日月のような形の大きな帽子、同じカラーリングでマント代わりか五本も六本も帯が伸びる謎マフラーっぽいもの、やたらポップなデザインに赤い化粧のニッコリ笑ったドクロマスク、鮮やかな緑に白で骨のモチーフが散らされた上下、妙に飾りっ気のある靴、両端にこぶみたいなものが2つついた真っ白いステッキのようなもの……
(これ、まさか……)
ごめん、エミネ。いや、ほんとごめん。多分
(……いいよ。俺が語った親友が出久の中で正義の形になってるのは嬉しいし、あいつらは出久の体格じゃ厳しいだろ。それに、これはあくまで狂骨だ)
うん。ありがとう。
(ところでこのラウンドステッキみたいなのは?)
ええと、ステッキというよりはスティックかな。ちょっと大きいけど。
(骨がモチーフの?)
骨がモチーフの。ついでに言うと、この♀みたいなマークも上下逆だよ。これの柄は曲がってる方じゃなくて、真っ直ぐな方だから。
まあ、エミネの許可も出たし、とりあえず着てみよう。
うん、うんうん、うんうんうん……うん。着替え完了。これはまごうことなく……いや、グラウンドに行こう。皆も着替え終わって移動し始めてるし。
「緑谷」
「あ、常闇君」
「「……」」
お互いのコスチュームを確認した僕たちは無言で距離をとった。そこに確かな友情があった。男の詩があった。
(出久とさっきの奴、並んでるとアクションコメディアンサークルみたいだな)
言わないでよ!
アクションコメディアンサークル、それがサーカスと呼ばれていたのも今は昔。ビックリ人間のショービジネスは成り立たなくなって久しい。辛うじてピエロ等に代表される道化師が、今はアクションコメディアンと名を変えて細々と活動している。
僕のコスチューム、エミネたち道化師の正装は、当然それらのユニフォームにそっくりなのだ。
そこに異形系の常闇君が並ぶと……いや、常闇君に限らないな。誰と並んでも、ほぼ確実にヒーローって空気じゃなくなる。例外は尾白君くらいじゃないか? 授業中はできるだけ彼の傍にいよう。
なにはともあれグラウンドβ到着! 授業開始だ!
(お、出久、あそこにいる耳たぶが特徴的な子と、出久の前の席の子、
やめてってば!
出久のコスチュームはB壱一巻冒頭の狂骨および将太郎らしきキャラクターの衣装を参考にしています。
またラウンドステッキとは傘の柄のようにくるっと巻いた形の柄のステッキのことを言います。
スティックとは、ホッケーのスティックのことです。スケットダンスのヒメコちゃんが武器にしていたことで有名かと思います。
つまりこの道具の形状は骨でできたJの形になります。はい。それだけです。