玖賀出艸の、必殺技。
右脚から放たれる、相手のこめかみへのトゥキック。
あまりの速さと威力と残虐性から、出艸自身も滅多に使わない技。
だが、ここぞ、の時にこそ使うベき技であり、これ以上無い程信頼に足る技である。
その一撃は、神すら刈り取り、魔王の首を刎ねる。
さらに、まだ彼には奥の手があるのだが、それは割愛しよう。
とにかく、今は。
その鎌が、緑色ーーーーーー九龍永迴に、その首筋に、綺麗に入った事が、重要である。
*出艸*
竹林は、嵐でも通り過ぎたような、凄惨な風景へと様変わりした。
俺の、たった一撃で。
地は抉れ竹は破砕し、地盤はひっくり返っている。
だが、それでも。
人間でありながら、人間を越えた一撃を見舞っても。
緑色は、倒れなかった。
無傷。
無傷、だ。
正直、アレで決まらなかったら、もう後が無い。そんな状況であったというのに、緑色はーーー九龍永迴は、まだ立ち上がり、カラカラと笑っている。
「カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラーーーーーー驚いたぜぇ玖賀出艸。俺にあんなに気持ちよく一撃くれやがったのは、お前がはじめてだよ。びっくり仰天ってぇやつだ。カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ!!」
竹林であった、荒れ果てた一帯に、狂気の哄笑が響き渡る。
俺にとっても誰にとっても、まさしく絶望そのもの。形勢逆転。攻守交代。天秤が、勝利から敗北へと一気に傾く。
姿は女のくせして、性格が男という、ふざけた特徴もあるからか、その狂喜とも表現出来る姿に、一層拍車がかかる。
まさに災厄。まさに狂者。大戦争の主の肩書きに恥じぬ、これ以上ない絶望だった。
「カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ!そう落ち込むなよ、白黒ォ。正直、五龍を受け切られた時は、マジで焦ったぜ?殺られる、ってな。まあ、俺の体の方がお前の蹴りより硬かった、てぇ事だ。さてさて、ではでは。どうしてやろうか?お前は久々に楽しい戦いを演じてくれたからなぁ…………」
ニヤニヤと笑いながら、此方へ歩みを進める九龍。
俺は、体を大きく沈ませ、奥の手を放つ準備をする。
足先から足首に力を流し、やがて脚全体に力を巡らせ循環させる。さらに、上半身も力の加え方を工夫すれば、奥の手の威力を著しく上昇させる重要な役割もある。
いつでもこい。
言外にそう告げると、ニヤニヤ笑いをより一層歪ませながら、九龍が飛び込んでくる。
母の胸元へ飛び込む無邪気な子供のように。
愛情を抱く者へ抱きつく幸せ者のように。
笑いに笑いながら、飛び込んでくる。
「カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ!!!!」
高らかに叫ぶ九龍へ、俺は奥の手を放つーーーーーー!!
前に、唇に何かが触れた。
というか、キスされた。
「…………………?????」
わけがわからず、しばし硬直していると、
「ぬりゅっ…………む、ん、ちゅ………………」
口内に何かが、恐らくは九龍の舌が入り込んで、唾液を垂らして混ぜ込んできた。
頭が混乱し、ジタバタと暴れるが、強靭な双腕によりロックされており、逃げ出そうにも逃げ出せない。
しかも、九龍は性格はかなりハジけているが、見た目は美少女だ。誰だって混乱する。
たっぷり十分間。
俺は蹂躙された。
「ぷはっ…………」
艶めかしく舌をチロチロと動かしながら、俺から離れる九龍。
骨抜き、とはこの事か。力が入らない。
「カラカラカラカラカラカラーーーーーー今日はこれで許してやるよ。今度戦って、お前が勝ったら、たぁっぷり『サービス』してやるよ。俺が勝ったらキス以上の事させてもらうかな?」
「どっちにしろ俺に得はねー!!」
顔面へストレートを放つが、カラカラと笑われながら躱される。
クソッタレ!意味がわからねー!何がしたいんだこいつは!!
追撃の拳の連打を放つが、かする気配も無く、ニヤニヤと笑われている。
「カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラーーーーーーあんまり時間に余裕が無くなってきたから、今日はこれで帰ってやるとするかぁ。外出出来るの、一日三時間なんだよ」
二度と来んじゃねー!!
そう叫ぶと、カラカラとまた笑いながら、跳躍して去る九龍。
ウィンクなんてしていきやがった。あぁイラつく!
「クッソクッソクッソ!あんな痴女にファーストキス奪われるとか!マジで意味が分からねー!!」
しばし毒づき、叫ぶと、段々と冷静になってくる。
とにかく、出騒の事、出流に伝えないとな。でも、連絡先知らねー。どうするかなー。
と、出杜が居たのを思い出した。
出杜の番号を押し、しばし待つ。
「ーーーーーーあ、出杜か?出艸だ」
『武将さん、割と忍者みたいにカッコ良く立ち去ったのに、なんで電話してきたの?忘れ物?なんであれ、カッコ良さ半減だよ』
「あぁ、いや、アクシデントがあってだな」
『どうしたの?男勝りな美少女の痴女にでも襲われた?』
「てめーどっかから見てた!?」
『知らないよ。僕は水の人の料理を今か今かと待ちわびていて忙しいんだよ』
それは忙しいとは言わない。
結局、暫くこんな不毛な雑談を交わし、本題に入れたのは五分後だった。
『バールの人が殺られた?しかも相手は緑色だって?』
「ああ。さっきまで殺り合ってたトコだ」
『本物だった?』
「俺の鎌を喰らって、カラカラ笑える奴はそうそういねーよ」
少なくとも、片手の指で足りる程度にしかいないぜ。
それに、無傷なんて奴は、今まで居なかった。完璧に決まった一撃だったってのに。
『へぇ、武将さんの鎌を喰らって笑ってる奴なんて、緋色の人と水の人と、赤い人ぐらいなものだけれど、緑色なら信じられるね。今は、何処にいるの?』
「分からねー。外出出来るのは一日三時間とか言ってどっかに逃げたよ」
尤も、逃げたと思いたくてそんな事を言ってるだけだが。
殺し合いなら引き分け、だが、誰がどう見ても勝敗は決している。俺の完敗だ。
『ああ、違うよ武将さん。武将さんが今何処にいるかを聞いたんだよ』
「あー、それも分からねーな。どっかの竹林なんだけどよ」
と言っても、今は竹林だった場所と言うべきだろうが。
どっちにしろ、名前が分からないのはおなじだが。
「この街で、たった一晩で玖賀の主力陣七人が殺された。はっはー!
『そういやそうだね。あの時も七人だったし…………あ、武将さん武将さん。水の人が、今すぐ隠れ家まで戻ってこいだって』
「ああ?」
詳しい情報が欲しいのか?
なら残念だが、大した情報なんざ無いぜ。ただ、仲間の仇討ちを失敗し、見逃してもらっただけだ。
「わりーが、そんな有力な情報は無いぜ。わざわざ面と会って言うべき事も…………」
『おいおい、おいおいおいおい。武将さん武将さん。一人合点しないでくれよ。さっき名前が出た、
「ーーーーーー緋垣が、出流に会いに来たってのか?」
多分ね。
そういって、じゃあ早めに来てね。
と言って、通話は切れた。
緑色と肩を並べる、人間。
『七職無色』が一つ、色取り取り 無飾のメンバー。
出流と仲が良く、ちょくちょく会っては遊んでいるらしい。
「ちっ………測ったようなタイミングじゃねーか」
十中八九、緑色の話だろうな。
クソッタレ、あそこで緑色にダメージなりなんなりを与えられていれば、無飾の連中から無償で協力を得られたってのに。我が強いが、実力と戦闘力なら、玖賀より遥かに強い無飾の協力は、これ以上無い程に助かるってのに。
出流が仲が良いのは、緋色と青色だけだ。『色付き』とは言え、二人だけじゃあ心許ない。いいや、
とにかく、早く出流のトコまで行くか。
人間九龍永迴、惨殺未完。
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