深夜。
出杜とメルの料理(中華)を適当に作り、夜這いの準備に掛かったメルを気絶…………寝かしつけて、俺は屋上にまた戻ってきた。
「出騒。出萩。出鶴。出野。出傘。出起。出槇。全員、死亡」
改めて口に出すと、心にくるものがある。
笑えるな。何千何万と人を殺そうが、同類が死んだだけでこれ程までに、胸が締め付けられてしまうのか。いや、違うな。
歓喜しているんだ、俺は。
仲間が死んだというのに、嬉しくて堪らない自分がいる。傑作だ。なんというカスか。
「ーーーーーーなあ、一体俺は誰なんだろうな?教えてくれよ、水葱……………」
糸牧詩絃なのか?
玖賀出流なのか?
常人なのか?
惨殺屋なのか?
訳が分からない。こんな事、とっくの昔に悩み過ぎ合点した事の筈なのに。
「相殺性二重人格ーーーーーーはっ!笑えねぇ」
相殺性二重人格。
ありていに言えば、相反する二つの人格を持つ、精神病。
玖賀のメンバーは、殺人衝動と同時に、この特質を持っている。
日常生活を送る時は、本名を。
惨殺屋として動く時は、玖賀を名乗る。
本来は、二つの人格は相反するが故に、どちらが本当の自分なのか。それを悩む時があるのだが、結局は行き着くところは同じだ。
どちらも己なのだ、と気づく。
人を殺したくない自分がいて、人を殺したい自分がいる。相殺するから切り替える。切り替えれば扱える。
玖賀が、常時誰彼構わず殺しをしないのは、もう一つの相反する人格があるからだ。
だが。
ここ最近、俺は、その相反する人格が無くなってきている。
理由は分からないが、もし、どちらかが無くなれば、後には何も残らない。
糸牧詩絃が死んだとしよう。どうなるか?
常時、目についた人型を、仲間であろうと殺すただの殺人狂である玖賀出流が誕生する。
ならば、玖賀出流が死んだとしよう。どうなるか?
一般人でありながら、玖賀のリーダーを務める訳にはいかない。だが、玖賀としての自分を無くした時点で、俺は玖賀から仲間として見られない。故に、玖賀に殺されるだろう。
二つとも、俺を形成する重要な人格だ。失いたくない。
だけれど、ただ人格が無くなるわけじゃあなかった。
人格は失いそうになったわけじゃない。二つの人格が一つにまとまりそうになっているんだ。
一般人と惨殺屋の融合。
最低、最悪、最蔑。
それは、存在してはいけないものだ。そんな存在、誰もが認めない。
だってのに、分かってるのに。
「なんで俺ってヤツは、こうも醜く混ざってやがるんだ?切り替えもマトモに出来ないのかよ」
はっ!出月にでもリーダー任せるか?
…………七年は早いか。
とりあえず、今すぐに対策を打ち立てなくちゃならないわけじゃない。近い未来、俺を中心に災厄が起こるだけだ。
「近い未来ーーーーーーまさかな」
夜風に当たれば、何かスッキリするかと思ったが、別に大して変わりなかったな。もう寝るか。
そう思い、踵を返した時だった。
フワッと、かるく屋上に着地した出杜とまみえる。
「水の人。何か悩んでる?」
直球だった。
いきなり核心をついてきた。
吃驚して思わず吹き出したが、なんとも思われなかったようだ。
「………悩んでるよ、そりゃあ。悩まなくちゃいけない事だ」
「話、聞くよ」
そう言って、屋上のベンチに体育座りして此方をジッと見続ける出杜。その姿は、まるで本物の幼稚園児のようだ。中身は惨殺屋だが。
というか、話といっても、自分でもよく分かっていない事なんだがな。
「…………俺自身、よく分かっていないんだよ。何が原因でこうなったのかが」
「話すだけでも、結構変わるよ?」
「ーーーーーーなら、話してみるかな」
そう言って、その場にしゃがみ込み、出杜と向き合う。
「お前、普段はどんな生活してる?」
「そうだねー。姿を変えてアルバイトなりなんなり、とりあえずフリーターみたいな生活をしてるよ」
「その時の名前は?」
「榊原泰也」
さかきばらやすなり。
なんか二秒で思い付けそうな名前だ。
俺は、出杜の反応を見ながら話す。
「じゃあさ、出杜。その榊原としての自分と、出杜としての自分が、混ざりそうな時、お前ならどうする?」
出杜がピクッと動いた。
しばし考え、二十分程思考したのち、返答した。
「それこそが、本当の自分だと納得するかな」
星空を見上げながら、続ける出杜。
「混ざってるって事は、
…………成る程な。
無くなったわけじゃあない、のか。
ただ混ざっただけ、か。
はっはっ、笑えねぇ。結局、醜く混ざってやがるのか。
「…………別に、混ざり合ったって、構わないと僕は思うよ」
「ん?何でだよ?一般人と惨殺屋が混ざり合った存在なんざ、醜悪以外の何者でも無いだろう?」
「それは違うよ水の人」
そう言って、ベンチから立ち上がる出杜。
ツカツカと、俺の前まで歩いてきて、しゃがみ込んで、俺の心臓に手を添える。
「この心臓は、糸牧詩絃の心臓。そして同時に、玖賀出流の心臓。どちらが本当の自分なのかは分からないけどさ。よくよく考えてみれば、どちらの心臓でもあるんだから、別に二つの人格が一つに混ざり合おうが、『君』という存在は混ざらないし濁らないんだよ?ーーーーーー何があろうと、自分が信じた自分が、本当の自分なんじゃないかな?」
ーーーー!
はっはっはっはっはっはっ!!
イイね。最高だぜ出杜。
「自分が信じた自分が、本当の自分ーーーーーー笑えねぇ。が、最高だ」
「悩みは解決したかい?」
お陰様でな。ありがとう。
どういたしまして。
「さて、じゃあ僕はもう眠るよ。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
そう言って、屋上から飛び降りる出杜。
その姿を見届け、振り返り夜空の星々を束ねるが如く君臨する満月を見やる。
「行く河の流れは絶えずして、されど元の水にあらずーーーーーーーーー鴨長明。笑えねぇ」
本当に、笑えねぇ。
そう言って、俺も屋上を後にする。
今夜は、ぐっすりと眠れそうだ。
次回、レイナーレ他のところです。
今回は短めの文だったので、長く書きたいですね。
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