ハイスクールD×D 水色の殺人鬼紛い   作:まるきゅー

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大変長らくお待たせしました。


第二十一話 空ごと(虚言)

九龍は、この世でただ一人出流の『流止逆流の水色』の、時間停止中に行動出来る唯一の人間だ。それは、彼女の肉体が『理想』そのものであるが故に、だ。

勿論、かなり動きは制限され、全力を出して漸く普通の人間レベルの速度、といった具合だが。それでも、万能とも称される出流の『流止逆流の水色』に抵抗出来るというのは、それだけで異常であり異常性を孕んでいる。

だが、この時の彼女は、まさに微動すらもままならない程に、体が動かなかった。

 

「くっそ………緋人から喰らったダメージか……………」

 

彼女の前方にて、時の流れの停止により、ピタリともしない緋人。

緋人から浴びた数々の爆撃により、ダメージが重なり重くなり、停止中の行動に甚大なる支障をきたしているのだ。

さらに、彼女は自らの上空に、新たに二人の人影を視界に収めた。

二人の人影も、時間停止により微動だにしないし、遥か遠くにいるが、彼女の視力は見間違う事なくその二人を見据えていた。

 

「グレイフィアに、………あの犬の着ぐるみのふざけた格好は………『傭兵王』、衣笠茶人(きぬがささじん)か……」

 

魔王クラスの最強の女性悪魔に、金さえ積めば誰にでも雇われる『傭兵王』。

人間なのかを疑う程に異常性を孕んだ緋人、出流、さらには出艸。

他にも、何人か大物が来ていても、全くおかしくない状況。そこで漸く、九龍の表情に翳りと焦燥が浮かんだ。

 

「無飾が一人、玖賀の初期メンバーが三人、魔王クラスが一人、『神殺し(ディサイド)』の一人。さて、この状況、お前はどう切り抜けるんだ?九龍」

 

九龍の背後から、声をかける出流。

オーラで足場を生み出し、コツコツと足音を鳴らしながら、九龍の前へと歩く出流。彼は歩きながら、九龍へ話しかける。

 

「この状況、如何にお前といえども生存は不可能だろう?お前の天敵たる俺に、破壊力はお前を除いた中で最強の緋人。さらにはお前の全力の一撃を喰らっても死なない出艸に、絡め手なら右に出る者はいない出杜。女性悪魔ながら、魔王と肩を並べる程の実力者、グレイフィア。神殺しを成せる『傭兵王』、衣笠茶人。あと、少しばかりゲストもいるが…………どちらにしろ、お前はこれで『詰み』だ」

 

九龍の眼前で、やれやれ面倒な準備だったぜ、と被りを振る出流。

実際、サーゼクス達や衣笠の雇いに、ゲストへの依頼は全て出流が行い、全てを理想通りに完遂した。曲がりなりにもリーダーである出流の、交渉術や繋がりの本領を垣間見させる行動力だった。

 

「ちっ……昼行灯ぶりやがって。普段からそんぐらい真面目にやりやがれ」

 

「そう毒づくなよ九龍。色々と事情があるんだよ」

 

種明かしをしようか?

聞いてやってもいいぞクソッタレ。

劣笑と凄笑を浮かべあい、出流は言を紡ぐ。

 

「まず、お前の失策は旧友である出艸と出会った事、否、因縁のある玖賀に敵対した事から始まっている」

「玖賀に恨みやらあるだろうが、我慢してりゃ良かったんだよ」

「そして、騒ぎを起こしたのが魔王の妹であるリアス・グレモリーの領地だってのもある」

「確かに何処で騒ぎを起こそうが、悪魔勢は動いただろうがな」

「あのシスコンで有名なサーゼクスの妹の周りで騒いだのは痛かったな」

「あとは、一日三時間の活動時間を教えたのと、気配やオーラの隠蔽を全くしなかったのも失策だな」

「活動時間を知られた事で、その時間を過ぎれば何とかなるかも、もしくは何かメリットがあるかも、と相手は調子づき士気が高まる」

「隠蔽をしなかったから緋人に活動のスタート地点を悟られ、活動時間を知られているから緋人は足止め、つまりは俺みたいな増援が来るまでの時間稼ぎ(・・・・)の作戦に嵌っちまった」

「作戦は簡単だ。緋人がお前の活動のスタート地点に陣取り、お前が現れたら俺に知らせる」

「周囲の状況を鑑みるに、爆発の嵐だったんだろう?爆発に隠れて、お前に気付かれずに俺に連絡するぐらい、緋人なら余裕だしな」

「連絡を受けた俺は出杜に知らせ、緋人がピンチになった時の『保険』である出艸の待機を解く。あとはゲストへ連絡して、最後にグレイフィアに合図を送る」

「まあ連絡順なんかに意味は無いけどな」

「簡単な足止め、陽動、時間稼ぎ」

「この作戦の要は、九龍打倒メンバーが全員この場に集まり、俺が最高のタイミングで時を止め、時間停止中のお前の動きを封じる緋人の爆撃にある」

「まんまと引っかかってくれて ア リ ガ ト ウ 」

 

スラスラと、九龍が理解しようがしまいが、話を聞こうが聞くまいが、とりあえず全部話す、と言わんばかりにペラペラペラペラと口を回す。

九龍は、あまりの口上の速さと展開にロクに頭を働かせずに流し聞いていたが、ふと違和感を抱いた。

出流は、戦闘中にネタ明かしを嬉々として話すような奴だったか?と。

しかし、出流はそんな違和感をも消し飛ばす程の一言を放った。

 

「じゃ、今からお前自由の身だから」

 

「は?」

 

心の底から呆けた顔を浮かべる九龍。

だが、出流は構わずに言葉を紡ぐ。

 

「『地獄の最下層』から出してやるし、一日三時間の制限時間からも解放してやる」

 

呆れるどころか理解不能といった顔になった九龍。

それもそうだろう。一度幽閉されれば、二度と日の目を見られずに死後すらも魂を凍てつかされ、氷柱に埋れ氷柱と化す。それが『地獄の最下層』、コキュートス。

出流はそこから解放するというのだから。

それに、仮に解放出来たとして、一日三時間の制約はどうやって解除するのか。

制限をかけられている本人だから分かるモノがある。コレの解除は至難の技でると。

だが、ニヤニヤと劣笑を貼り付けたまま、出流は右手をこれ見よがしに持ち上げ、

 

「お前に拒否権は無い。お前は今のあらゆる束縛から誘拐(・・)され、自由の身になる」

 

指を鳴らした。

世界が流れる。

瞬間、九龍の動きを束縛していた時が回りはじめる。

まず動いたのは、九龍の背後にて気配を消して接近していた出艸であった。

未だ出流の言の衝撃から立ち直れていない九龍の真後ろまで、20mの距離を一秒と掛からずに詰め、その首筋にもう一度、あの()を放つ。

 

ーーー死神の脚鎌ーーー

 

あのトゥキックが、再度九龍の首筋に吸い込まれた。

クリーンヒットし、九龍の体は空を錐揉みしながら舞い進む。一瞬で50m以上も吹き飛ばされ、感覚を一時的に失う。

視界がブレ、平衡感覚を失うが、僅か0.8秒で回復する。

だがその時間で、次手が彼女を襲う。

九龍の周囲に現れる無数の0と1。

それは僅かにも止まる事無く1と0、0と1を繰り返し羅列し並び、九龍を囲んだ。

 

「一次ロック完了(コンプリート)

「二次ハック終了(ジ・エンド)

「三次クラック完結(コンクルージョン)

「最終工程クリア」

 

「玖賀出杜が、九龍永迴を攻撃するよ」

 

まだあどけさの残る少年の声が透き通り、同時に数字が固定された。

その現象を彼女は知っている。知っているが故に分かる。

これは避けられない、と。

刹那、数字が九龍へと突貫した。

九龍であっても避けられず、防御に体を使えば触れた場所から攻撃される。防ぐのでは無く避けるしかない、しかし回避は至難の技。

光をも越える速度で、総計二百十の0と1が九龍に張り付いた。

 

変換(コンバート)

 

と、同時に数字が雷撃と変わり九龍を襲った。

しかし、九龍自身にダメージは無い。出杜が放つ雷撃では、九龍には有効打を与える事は難しい。

だが、この場はダメージでは無く、如何にして九龍の動きを制限するか、が優先される。

 

「クソ………タレ……ッッ!!」

 

ダメージは全く無い九龍だが、雷撃、という攻撃を受けた故に、僅かな硬直を余儀無くされる。

その硬直を見逃す者など、この場には居ない。

次撃はグレイフィアだった。

魔王クラスとも称される最強の女性悪魔は、九龍の頭上から半径100mにも及ぶ絶大な魔力柱を放った。

 

「喰らってください」

 

じゅぅぅうううう!!と硬直状態の九龍は、回避も防御も出来ず、直撃を許してしまう。

しかし、肌が焼け、皮膚が火に炙られるが、それだけだ。この攻撃でも決定打には欠ける。

無論、グレイフィアとてそれは承知である。

分かっているからこそ、妥協をしない。

 

「私は圧倒的な勝利も劇的な戦略も感動的な逆転劇も望みません」

 

そういいつつ、彼女は魔力を周囲に及ぼした。

九龍を囲むように、同様の魔力柱が放たれた。

その数、十六。

 

「ただただ堅実な勝利を所望し、我が主に捧げます」

 

その銀髪を靡かせる程の衝撃が周囲に漏れる。

しかし、地獄の業火すら生温く感じるレベルの魔力柱の雨をすべて一身に受けながら、九龍はまだ健在であった。

体の彼方此方から血が流れているが、余力を充分に残している。

『理想像形成実験』の凶悪さを、無言で物語る姿だ。

 

「やっべぇ、いてぇ……カラカラ!久しぶりにこんなに喰らったぜぇ?ーーーーーークソッタレェ!!!」

 

とうとう彼女も反撃に出る。

憤怒の形相を浮かべ、修羅の如く体中からオーラを滲ませる。

彼女はまず、一番距離が近い出艸を狙った。

100m程の距離に離れたが、彼女達のような者達からしてみればあってないような距離だ。

消えた、と錯覚するスピードで宙を駆け、九龍の姿を追いきれていない出艸は、彼女の飛び蹴りを躱せずにその胸で受け止めた。

出艸の胴体が消し飛び、空に鮮血の血飛沫が舞い散る。

しかし、誰一人として焦る事も歓喜する事も無く、次の動きに入る。

 

「『緋い糸引く非ずの爆』」

 

清澄な声が通り、次には九龍の顔面で爆発が起きる。

言うまでも無く、緋人の爆撃である。

『緋々色ノ人形』こそ顕現していないが、爆撃は出来るようで、九龍に右の親指を向け『照準』しながら急所を狙う緋人。

九龍の次の目標が決まった。

散々爆撃され、現在最も九龍にダメージを与えた緋人に、九龍は少々キレていた。

 

「‘‘龍尾(ドラゴン・テイル),,」

 

彼女は緋人に向けて、空気が破裂する程の速さで蹴りをはなった。

しかし、とてもではないが蹴りが届く距離ではない。ならば何が目的か?

衝撃波である。

暴風を撒き散らし、グレイフィアや出杜の緋人への援護を遮断しながら、神すらも葬る衝撃波が、緋人を襲う。

しかし、暴風の嵐を突き抜け、緋人と衝撃波の前に躍り出た者がいた。

先程、胴体が消し飛ばされた出艸である。

彼はその特性から、『中々死にづらい』体を、否、細胞を持っている。故に、暴風の嵐だろうが、緑色と呼ばれる九龍の一撃だろうが、死ぬ事はない。

またもや、衝撃波により体がトマトペーストのように吹き飛ばされた出艸。

しかしその時間で、ある人物が九龍への攻撃に移れた。

『傭兵王』、衣笠茶人。

彼は、その実力の底が知れず、かといって手抜きもせず、付かず離れず解らず分かる、そんな戦い方をする得体の知れない、種族すらも不明の人物である。蛇足として、全く意味が解らない犬の着ぐるみを着続けている。

その特徴は九龍や、他の様々な組織から嫌われているが、その戦闘力は誰もが認めるモノがある。

神殺し。

彼は一人でそれを成せる数少ない人物である。

その衣笠が、九龍の横から一直線に突貫した。

 

「カラカラカラカラカラカラ!!馬鹿正直に来るたぁ命知らずだなぁ!」

 

「………ぷっ」

 

「あぁ!?何笑ってんだぁ!?あぁあん!!?」

 

「失敬。堪えきれなかぶふぉ!」

 

「ブッ殺すぞてめぇ!!」

 

「失敬。余りにも身の程知らずな事を言うので、なぁ!」

 

宙を駆けていた衣笠の速度が段違いに速まった。

彼は右手を背中に回し、一気に上から九龍に叩きつける。

と、思ったら何故か九龍の頭上へ移動していた。

 

「っ!?」

 

「目の錯覚だ。少しは考えて戦え青二才」

 

彼が取り出したのは、微塵、と呼ばれる暗器だ。

分かりやすく言うと、大きめのリングに三つの鎖分銅が付いたモノ、だろうか。

それを回転させ、遠心力によって破壊力を増したソレを九龍の脳天に叩き込んだ。

ごしゃっ!!と頭蓋が割れるような音が響いたが、それでもやはり九龍にダメージは無い。

 

「やってくれたな傭兵王!!」

 

「タフさなら無限並みだな………っ!」

 

反撃に、鎖を掴まれぐんっと引き寄せられる衣笠。

九龍は、その着ぐるみの腹目掛けて全力でブローを放つ。

が、瞬間『流れ』が止まる。

出流が、時間停止を発動したのだ。

ただでさえまともに動けなかったというのに、さらにダメージを受けた事で、まさに指一本動かせなくなった九龍。

停止した世界の中、出流は衣笠を掴み、テキトーに放り投げる。

指を鳴らす。

瞬間、また『流れ』が始まった。

九龍の必殺の反撃は、空を切るのみで終わった。

出流を倒さねば、勝ち目はない。

そう判断した九龍は、出流へ足を向けるが。

 

「変換」

 

「礼だ。てめーの空気砲の真似してやるよ」

 

「今度は、三十二本、お見舞いしましょう」

 

「爆ぜを担おうか」

 

「暗器が無理なら、遠距離だ」

 

「………囲まれた、か」

 

出流以外の全員が、九龍を取り囲んでいた。

九龍は分からなかったが、時間停止中に、絃角にて衣笠だけでなく、全員を九龍を包囲するように移動させたのだ。

今度こそ、九龍にも決定打を与えられる機会が整った。

羅列が。

衝撃波が。

魔力が。

爆撃が。

銃撃が。

 

緑色を、掻き消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………出番だ。攫ってやれ夜迦夜伽(・・・・・・・・・)

 

「リョーカイ。漸くシゴトだ」

 

 

 




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