ベルシやトールソールにスポットを当てています。出流とかは出てきません。
トールソール。
彼は雷神トールの力を持つ者である。
無論、本物のトールでは無い別のトールではあるが。
彼は昔、北欧神話を元にした術式を研究する魔法使いだった。
中でも雷神でもあり、本質として豊穣などの、文明を支える上で不可欠な役割を果たしている全能であり万能たるトールの研究には、特に力を入れていた。
彼はその生涯の全てを研究につぎ込んだ。時間を忘れ、世界を忘れ、ただ己の目的を果たすために。ただただ神話で描かれるようなトールの力に魅せられたが故に。
研究は、結果的には失敗した。いや不完全なまま終了した。彼の死をもって、永久にその成果を現わす事無く。
しかし、ここで数奇な運命が絡みつく。
彼の神器、『
『死してなお望む愚者』の効力は、死に際に憧れた、望んだ、理想とした存在へ、限りなく近い種となって生まれ変わる、一つしか存在しない神器である。
これによりトールに限りなく近い存在となった彼は、己の研究成果を元にさらに力を昇華させ、もはやオリジナルのトールとも互角に渡り合える程の、馬鹿げた力を手にする事となった。それは、まさに彼自身の願いだった、神話の如き力の担い手となる、という願望を果たした。
今彼は、そのまともに振るう事さえ迂闊にはできない程の強大な力を、全体的に見た世界の神話情勢を、混乱させないために使っている。所謂バランサーと言ったところか。
現在もその活動中であり、『禍の団』という怪しげで様々な業界のクセモノ達の集団を、バランスを崩す者達として力の削ぎ落としを測っている最中である。
そのための布石として、旧い友人の、力の後継者の元を訪れていた。
場所は、コンビニ。
……………………。
場所は、コンビニエンスストアである。
「ーーーーーーつまり、『禍の団』を放っておくわけにはいかないと?」
「そうなる。リーダーがオーフィスという時点で、危険極まりない集団にしかならん事は明々白々。ならば、まだ力が蓄えられていないであろう今を狙う」
「面倒だなー……………」
辺境の街の、あるコンビニにて。
神と同格と成った者と、決闘の英雄の末裔が向かい合って話し込んでいた。
時間は深夜を過ぎ、丁度店内がガランと空く頃である。
トールソール。神と並ぶ者。
その姿は、若々しく、女性のように長い金髪を一つに結び、体にフィットするような黒いトレーニングウェアを着込み、黄色いマフラーを首に雑に巻きつけている。
ベルトが幾つも巻きついた、拘束具のようなズボンを履き、膝下まである頑丈そうなブーツに、黄色い靴紐を綺麗に結んでいる。
身体は細身ながらしっかりと鍛えあげられ、強靭さと華奢な雰囲気を絶妙に醸し出している。
ベルシ。決闘の英雄。
状況が状況であるためか、コンビニでバイトをしている彼は今制服姿で、眠たそうな目つきに、クマが深く刻まれた目尻。不健康そうな顔立ちに、ボサボサでフケが溜まっていそうな黒髪。
制服越しにも身体は鍛えられている事が分かるが、如何せん雰囲気が不健全そのものであるためか、妙にヒョロヒョロとした印象を相手に与える。
しかし、トールソールは噂は耳にしてはいても、会ったこと無い彼を、一目見た瞬間に決闘の英雄、ベルシだと認識した。
それは、眼光。
ハタからは無気力としか表せないが、トールソール程の者にならば一目瞭然だ。明らかに見ている世界が違う。
故に、トールソールはすぐにベルシとの会談へと事を運んだ。
「私は君の噂をかねがね聞いていた。決闘の英雄に相応しく、かのヴィーティングを遺憾無く振るっていると聞く。どうだ?充分な報酬は約束しよう。私と一時的に共闘し、蛇の化け物としてあまりに有名な、八岐大蛇を、討伐してはくれまいか?ウロボロスたるオーフィスとかの化け物は、相性が良すぎる。悪しき芽は早めに摘み取らねばなるまい」
トールソールは、元来の性格は一切変わっていない。彼はとても素直で実直である。
生涯の全てを研究につぎ込んだ事からも、彼がいかに実直な人格であるかは容易に想像がつくだろう。
それ故に、無駄な事はしゃべらず、ただただ相手に敬意を払って誠意を持って熱意を見せずに誘いをかける。これは、数百年前から以前変わらぬスタイルとして、トールソールの内面に定着している。
勿論ベルシも、その事は承知していた。トールソールの雰囲気から、それを察したのだろう。
彼は両手を組み、大きく伸びをしながら息を漏らす。
そして脱力し、指を軽く、ぱちん、と鳴らした。
「分かった、協力しようーーーーーー但し、
瞬間、風景が歪み、世界が上書きされる。
錆びつき刃こぼれ鉄屑となった、数多の武具が散乱し、打ち捨てられ、忘れられた世界へと。
「これは……転移世界!?」
トールソールが息をのみながら、出現した世界の正体を言う。
転移世界とは、周囲の世界ごと、予め術者が設計した別の世界へと一時的に強制転移させる、高度な術式である。
勿論、極々狭い範囲とは言え、新たなる世界を構築する高い技術と、術者本人が強制転移の影響を受ける事、術式を解除する条件を設定する事、などの制約がかかるが、如何な強者であれ、この術式から逃れる術は皆無と言っていいだろう。
「これは決闘場だよ、雷神」
いつの間にか、制服姿から、水色のパーカーとジーパンを履いたラフな格好へとなったベルシが、右手に剣を持って紡ぐ。
「俺はお前の力を見たい。この俺が、ベルシが、決闘の英雄が、力を貸し与えるに相応しい相手かどうかを見定めよう」
彼が持つ剣は、ヴィーティング。
宝石が埋め込まれ、その効力は使用者に癒しの力を与え、欠けた刃が劣勢となった使用者の窮地を救ったとされる、英雄の剣。又の名を、『決闘剣』。
その決闘剣を、曇天の空に高く高く掲げ上げ、英雄は神を見下ろす。周囲が、絶対者たるベルシへ畏怖し、慄き、頭を垂れる。
しかし、その見るもの全てに威圧を振りまき、圧倒的に顕現した英雄の姿を見上げながらも、神はただ鋭利に笑うのみ。
「宜しい、ならば『神雷』の闘争を見せようか」
光がまさに春雷の如く、曇天の空から降り注ぐ。
一撃一撃がまさに神の鉄槌。それ即ち必殺を意味する。
しかし、ベルシも英雄の末裔として、高い実力を持つ者である。ヴィーティングを振るい、襲い来る雷撃を斬り裂き霧散させていく。
「狙いが甘いな……いいや、 ブラフか!」
瞬間、天から降り注ぐ落雷から意識を何処かから此方を狙っているであろう雷神へと向ける。
位置、後方中空。
電撃的な速さで振り返り、いかな攻撃にも対応出来るように自然体に身構える。
中空にて身を空に浮かし、右腕を大きく振りかぶったトールソールがそこにいた。彼は、激しく雷音を鳴らし、眩く発行する雷撃を纏った右腕に、より一層の力を加えーーーーーー
「ーーー『
ーーーーーー思いっきり振り下ろした。
その右腕から放たれた雷撃は、まさにトールが持つミョルニルが雷であり、超えるものであった。
いかに英雄といえど、神が相手では地力が違う。それを如実に語る一撃であった。
が、トールソールはこれでベルシを仕留めたとは、欠片も思っていなかった。
「ーーーーーー癒しをもたらせ、決闘の剣よ」
地がえぐれ、空が割れ、空間が綻ぶ程の一撃を喰らい、流石のベルシも血だらけであり、満身創痍となっていた。
しかし、彼の持つ剣に埋め込まれた宝石が輝くと、みるみるうちに彼の傷が治癒されていき、活力を湧かせていく。
「……………中々、良い剣を持っているな。否、お前の技量も、英雄の枠にいれていいものか、懸念する程の腕前だ」
「アンタも、流石は第二のトールってところか。尋常じゃない力だな」
「どうかね?認められたかな」
「あぁ認めるさ。けどーーー火がついちまったよ、雷神」
不敵に笑うベルシが、空いている左手を振るい、空間に文字を描く。
青白い光で彩られたそれは、ルーン文字。
「
ルーン文字を刻むと同時に、詠唱を行いさらに効能を高めるベルシ。
その術式は、まるで天変地異が起きたかのようだった。
ベルシの周囲には、太陽のような莫大な炎が巻き起こり、しかし何も燃やさず溶かし尽くす事無く、轟々と雄叫びを上げている。その炎の姿は、まるで彼を敵対者から守る、炎熱の城壁。
「ッ!!僅か三つのルーン文字を、詠唱により複雑化、緻密化、さらには発展させ昇華へと至らせ、独自の法則にて従わせる………もはや、魔法や魔術の域を超えている!まさに神業に等しい技量だ!!人の身で、よくぞここまで練り上げた!素晴らしいぞ決闘者ッ!!」
「あんまり騒ぐなよトールソール。これは、敵には容赦しねぇからよーーーーーー」
ーーーーーー次元を破壊する戦いは、まだ始まったばかりだ。
如何だったでしょうか?中々、良い描写に出来たかなぁ、出来てるといいなぁ、と思います。勿論、まだまだな出来栄えです!しかし戦闘描写って書くの楽しいんですね。
次回で決着をつけます。その次にライザー登場かな………?
あと、小ネタ暴露。
第二十三話、最後の文の最初の文字を縦読みすると?
感想を頂ければ幸いです。