忙しくなるので、一気に書いちゃいました。
「素晴らしい術式だ。私も相応の力を持って応えようーーーーーー『
トールソールの周囲に円陣が幾重にも重なり加わり、やがて霧散して消えると、傍目にも分かる程にその力が増大していた。
『莫力の帯』、それは持ち主に怪力を与える装備。勿論本物ではないが、トールソールの研究成果によりオリジナルと何ら遜色無い効力を放っている。
普段はあまりの強さから制限をかけ、解放を封じているが、トールソールはベルシの実力に心からの最敬意の証として、今ここに制約を解く。
莫大な力が彼を渦巻きまとわる。そして怪力により生み出された常軌を逸する瞬間的な高速移動により、ベルシの目前へと突き進む。
瞬時にベルシの周りで炎熱による防壁を成しているルーン派生系自動防衛型術式が、突貫してくるトールソールを焼き尽くさんと取り囲む。そして、トールソールを爆炎の渦で包み込んだ。
その炎は火を意味するKENにより生み出された炎であるが、そこに太陽を意味するSIGELが加わり、防御の意を側面に持つYRが加わり、さらにベルシ独自の詠唱によって、太陽の炎にまで昇華した焔が、敵対者のみを焼くという防御術式によって圧倒的な熱量と威力を誇り、神業とすら言えるものである。
しかし、トールソールはその炎の防壁を、容易く突破した。
「っ!?」
「ーーーーーー吹き飛べ」
文字通り人外の破壊力と速度を持つ蹴りが、ベルシの側頭部に吸い込まれる。
が、殆ど無意識でしゃがみ込んだ事で回避するベルシ。だがトールソールが、態勢を崩したベルシの、この絶好の好機を逃す筈が無い。
体を捻り、回転を乗せた回し蹴りをベルシの頭頂部目掛けて全力で叩き込みつつ、回避された時の事を考え、瞬時に追撃を放てるように力を身体中に巡らす。
当たれば即死に至るであろう脅威を乗せた回し蹴りを、ベルシは後先考える暇も無く後ろに転がり躱す。すぐに姿勢を低くしたまま顔を上げトールソールを確認するが、その時点でトールソールは追撃を放っていた。
顔を上げたベルシのほんの目の前に迫る、雷撃を纏った右拳が突き込まれる。
低く鈍い打撃音と共に、遥か後方へさらに吹き飛ばされるベルシ。ろくに受け身も取れぬまま転がり続け、ダラりと脱力する肉体。
トールソールは勝利を確信した。怪力の力を解放し、雷撃を纏った一撃をモロに喰らったのだ。如何な英雄とて無事では無い。ここに、勝敗は決した。
が、その確信は誤りだった。
「
脱力とした体に力を込め、ゆったりと立ち上がるベルシ。その身は確かに傷だらけであったが、彼の顔の前に浮かぶYの字に似た青白いルーン文字が、彼の健在を表していた。
霧散するルーン文字をちらと見やり、気にした様子も無くヴィーティングをまた垂れ下げ構えるベルシ。宝石の効力により、もう傷も癒えていた。
あまりの回復力と柔軟性に、暫し攻撃手段を思案するトールソール。しかし、やる事は変わらない、と言うように拳を握り直し、体に雷を纏わせる。
「ルーン文字による防御術式、確かに強力だが、どうやら単発式であり持続力は無いらしいーーーーーーならば活路は見出せる」
「やってみろよ雷神。削り切れるもんならなぁ!」
今度仕掛けたのは、ベルシだった。
彼は自身の両脚の裏に、トールソールとて目で追えない程の速さでルーンを刻む。
それはRの字に似た、車輪を表し、移動を意味する
「RAD TIR EOH (移動を望む馬は軍神の加護を得て主の求めに応えるだろう)」
瞬間、ベルシが消えた。
移動を意味するルーン文字を二つ、更に軍神のルーンに、詠唱によって欠点や穴を埋めた高速移動術式。それが発動した。
ベルシは光を遥かに置き去りにする速度でもってトールソールの後ろへ回り込み、雷を纏うその肉体へヴィーティングを全力で突き立てる。
ーーーーーー獲った!
しかし、ベルシの予想以上に雷の硬度は高かった。
名剣であるヴィーティングの刃がガリガリと削られていき、トールソールへ突き立てられた鋒は、皮膚に僅かな傷さえ付けられずに砕け散る。
「ッ!?」
「予め防御に力を回しておいて正解だったな…………!!」
全力で突き立てたが故の硬直にあるベルシへ、トールソールが反撃する。
振り返りざまに伸び上がるような鋭くしなる回し蹴りを、ベルシの首筋へ放つ。
コレには今からルーン文字を刻もうにも間に合わない。直撃必至の一撃である。
が、またしてもトールソールの必殺の攻撃は無効となる。
周囲に散らばる幾多数多の、ヴィーティングの欠片。それらがトールソールの回し蹴りと真っ向からぶつかり合い、相殺したのだ。散った欠片により、劣勢となった所有者の窮地を破ったその特性から、欠片は所有者の意のままに操れるのだ。
蛇か龍のようにうねりながらトールソールを弾き飛ばし、鉄片の雨と化し追撃するヴィーティング。
しかもその斬れ味は、戦闘開始時より遥かに研がれている。それはヴィーティングの能力、【所有者が劣勢になればなるほど斬れ味を増す】という、決闘剣の異能によるものだ。
一切の抵抗無く地を貫き、また地中を斬り進みながら地礫を弾け飛ばしながら地中を飛び出し下方から攻め立て、また空中から降り注ぐ。
終わりなき連撃から雷光の速さで躱し続けるトールソール。しかし段々と追い詰められていき、さらにベルシがルーン文字を新たに刻み、氷の闘牛、炎の人形、暴風の木を生み出し、様々な攻撃を入り混じらせながら攻め手を緩ませない。
とうとう刃の一片がトールソールを捉えた。
態勢が崩れた彼に殺到する無数の鉄片。さらに莫大な力を内包するルーン術式が追撃をする。
深く幅広い巨大なクレーターがその威力を静かに語っている。さらに辺り一帯の地面が軒並爆風で吹き飛ばされ、地中に埋まっていた土が顔を出していた。
しかし、そのクレーターの中心点。そこに、ピリピリと僅かな電光を鳴らすトールソールがいた。
勿論満身創痍で疲労困憊。おびただしい血を垂らし、身体中に切り傷を負い、凍っている指先や爛れた皮膚に、烈風に打ち据えられた肉体を、軋ませるように立たせていた。
「まだ倒れないか。頑丈だな」
「……ッ!………が、ハァッ!、アッ,がぁっ!?」
「喉を焼かれたのか。安心しな、ちょいと気絶してもらって、ケリとしようぜ」
そう言って、鉄片をトールソールを囲ませるように配置するベルシ。
彼が指を鳴らすと、獲物に群がる小型の肉食動物のように殺到する鉄片。それらは全て目標の身体中に深く斬り込み、抉り、致命的なダメージを残した。しかし、無数の致命傷を浴びながらも、トールソールは不敵に笑うのみだった。
やがて、刃だらけとなった体を地面に投げ出し倒れ伏す瞬間、その口元が、にぃぃっと裂けられる。
「引っかかったな?」
その言葉が震わされたと同時に、トールソールが弾けて消えた。否、トールソールのダミーが弾けて消えた、という事だろう。つまり、ダミーを相手にされていたということだ。
雷を残して消えたモノを生み出した本人。トールと並んだ研究者は、ベルシから遥かに離れた距離にて、右手を深く腰だめに構え、振り抜き突き抜く瞬間を待ちわびる。
やがてかつてないほどの電光が、彼、トールソールの右腕にまとわる。そして、訪れたベルシの絶好の隙を狙って、振りかぶって、投擲した。
「ーーーーーー『
感覚外からの神の一撃。さらには速さはトップクラス。
これにて、勝敗は決した。トールソールは、ゆっくりと右腕を引き、光を超える速さで振り抜いた。
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