魔法科?うるさいそんな事より都牟刈だ!!   作:益荒男

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 前に閑話を挟むと言ったな。あれは嘘だ

 いやあ、閑話と一緒にその次回を並行して書いてたら、閑話が全く進まず次回の方が先に出来ちゃいまして。


第二部PUアヴィケブロンしかこねえええええ!!



武道家という人間は一度「歓迎」の意味を広辞苑で調べるべきだと思う

「本日からこのアパートに住むことになった政狩刀弥です。よろしくお願いします」

 

「あらあら御丁寧にどうも。あたしはここの大家をしています、佐々木です。こちらこそよろしくね」

 

「これ、引越蕎麦です。良かったらどうぞ」

 

「あ~らまあ!まさかこんな若い子に引越蕎麦を貰うなんて夢にも思わなかったわ。では、ありがたく頂くわね。そう言えば、あなた進学で東京に出て来たって聞いたけど、どこの学校かしら?」

 

「⋯魔法科の第一高校です」

 

「あらあらまあまあ、すっごい進学校じゃない!ということは将来は魔法師に?」

 

「⋯そう言うことに、なるんでしょうか」

 

「ふふ、えらいわねえ~。こんな年でもうしっかり将来のことを考えているなんて。私の若いころなんてもう⋯っていけないいけない。もう年寄りになると昔話が多くなっていけないわ。とりあえず、こんなおんぼろアパートだけど困った事があったら遠慮なく相談してちょうだい。オバサン、頑張って力になるから!」

 

「⋯はい、その時は、また」

 

「ええ!あら、もうこんな時間。地球堂のセールがもうすぐ始まっちゃう。あなたの部屋は二階の右端、『205』号室よ。これが部屋の鍵ね。それじゃ、色々大変だとは思うけど、頑張りなさいね!」

 

「⋯はい。じゃあ俺はこれで」

 

「ええ、また今度!よーし、今日こそ今井さんに勝つわよ⋯!卵一パック二十円セール、譲るモンですかー!!」

 

「⋯」

 

 

 なんか、物凄くパワフルなオバサンだったな⋯。まあ悪い人じゃないのは間違い無いし、とりあえず後でセールのことは聞いておこう。間違いなくこれからの生活に欠かせないモノになるだろうしな。母さんとの約束で絶対に一日三食自炊しなきゃいけないし。今月の仕送りは生活必需品でかなり削られることになる。さて、まずは部屋に入って背中のものを下ろすとしようか。

 

 あれ、俺って鍛治師目指してんだよね?

 

 

 

 

 第一高校入試を終え無事入学資格を得た俺は、遂に中学を卒業した。そうだよ、あの後結局父さんからの提案を呑んだんだよ。まあ、推薦書類が母さんに見つかって逃げられなかったってだけなんだけど。どうやらこの近くに父さんと爺やの知り合いが道場を開いていて、彼には色々と「貸し」ているらしい。詳しくは知らないけど、多分刀の取引とかだと思う。その知り合い自身相当腕が立つらしく、そいつから学ぶこともあるだろうとのこと。何より、その道場の裏には爺やが用意させた鍛治小屋があるらしい。そんなことから、俺に世界とはどんなものかを実感させる目的も含めて俺に上京を薦めてきたって訳だ。まあ確かに、今まで居たところは此処と比べるとかなりの田舎だった。まだ細かいところまではキャビネットが設備されておらず、旧式の電車を用いているくらいだ。それも家の最寄りの場合三時間に一本だけって感じだし。

 そんなこんなで東京に来た俺はこれからワンルーム家賃10万円のこのアパートで暮らすことになったという訳だ。現代の東京にしては結構安い方である。部屋の中は木製タイルで敷き詰められた床、壁につけられたクローゼット、玄関のそばにはキッチンと洗面所とバスルーム、あと冷蔵庫とそのくらいしかなかった。てか言ってしまえばらっきょの式と似たような部屋だった。電話買って冷蔵庫の中にストロベリーアイス詰めなきゃ(使命感)と馬鹿なことは置いといて、早速背中の荷物を下ろし荷ほどきをしておこう。

 

 バックを下ろし、中から少し大きめの立方体を取り出す。一見ただ形の整えられた石のようなそれに手をあて魔術回路を起動。一部の機構に魔力を流すと、その魔力に反応し封印が解除され、手の当てた部分が()()()()()()。中は空洞になっていて今は俺が家から持ってきた私物が詰め込まれてあった。実はこれ、母さんがアトラス院から持ち出した収納用の魔道具であり、一定の大きさ以内のものなら何でも三十個だけ入れれるという便利なものなのだ。俺は『箱』と呼んでいる。てか母さんアトラス院から色々盗りすぎだろ。と言うよりは、これがあったから色々持って来れたんだろうけど。詳しい仕組みは知らないが、母さんが言うには「第二魔法の真似事」らしい。恐らく中の空間を歪ませたりしてるのだろう。ついでにカレイドステッキは入っていない。

 

 えーと、とりあえず制服と寝間着と部屋着の和服はクローゼットの中に、通帳やら印鑑などの貴重品も一緒に。枕はベッドの上にポイッと、歯ブラシは洗面所に。あとは⋯あぁ、母さんからもらった魔術訓練用の礼装シリーズと魔力封じの予備、それと刀三本。『紫焔』と俺の打った無銘と爺やのくれた小太刀。これらは⋯うーん扱いに迷うな。今は箱に入れたままクローゼットに押し込んでおくか。ん、なんだこれ?あ、CADか。これはそこらへんに置いとこ。⋯えっ、これだけ?もうちょっと多いような気がしたんだけど。まあいいや。別に贅沢したいわけでもないし。必要な物が揃ってりゃいっか。えーと、今の時刻は?⋯もうこんな時間か。確か約束が一時間後だったから、もうそろそろ家を出た方がいいな。服装はこのままでいいや。何時もの和服程じゃないけど動き易いし。

 

 さて、父さんと爺やの知り合い。いったいどんな人なのか。

 

 

 

 今回協力してくれたその知人について、俺の知っていることは少ない。今ある情報は「寺の僧侶で道場を開いていること」「政狩家に借りがあること」「見た目よりずっと年を喰っていること」これぐらいだ。名前すらも教えてもらっていないが、まあそこはどうでもいい。俺が気にしているのは別のことだ。

 

 この「東京の寺で道場を開いている僧侶」ってお兄様の師匠的ポジでアニメに居なかったっけ?

 

 

 

 

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 刀弥の家から徒歩で約四十分程のところに、裏山と言えるような場所がある。そしてその山の中には「九重寺」という名の寺があって、刀弥の目的の人物はそこにいる。寺へと続く長い階段を半ばまで上ると、刀弥は不意に足を止めた。そのまま視線を上に見える門にむけ、おもむろに溜め息を吐く。暫くすると再び階段を上り始めた。優に三桁はあるであろう石畳を上りきり門をくぐる。

 

 

「フンッーーーー!」

 

 

 それと同時に、門の裏に身を潜めていた一人の修行僧が刀弥に殴りかかった。相手の死角をついた完璧な不意打ち。それは修行僧自身の技術も合わさり、例え腕に自信があろうとも並みの者なら間違いなく避けられない一撃となる。だが、目の前の男は文字通りの規格外だった。その程度の攻撃では、未だ二十に満たないとしても政狩の人間を傷付けることなど出来やしない。階段を上っている時点で既に修行僧の気配を感じ取っていた刀弥は、体を横にしながら後ろに跳ぶことで簡単に攻撃をかわしていた。

 

 修行僧は驚愕に目を見開くがそれも一瞬のこと。これを為せる規格外を他に知っていた故に、その立て直しも早かった。自分の流れを途切れさせ無いため、すぐさま次の攻撃へと移ろうとかわされたことで開いた距離を詰める。

 

 それが刀弥の思惑通りとも知らずに

 

 

「なっ!?」

 

「⋯」

 

 

 自分の目にした光景が信じられず、顔に浮かべたのは二度目の驚愕。刀弥はもう、()()()()()()()のだ。何時の間に、と修行僧の頭がその疑問で埋め尽くされる。標的を視界から外すなんてヘマを、自分は犯してなどいない。ならどうやって。答えは単純明快。避けると共にすぐに体制を整え構えた、それだけのこと。ただそれがあまりに早く、何より自然であった。それは速さを求めた動き、だが無駄な力は一切込められてなどいない。動きは水の流れ、構えは岩の重さの如し。一種の暗殺術にも似たそれは、例え目の前に捉られていようとも、敵に動きを悟らせ無いことを可能とする。

 

 気付いた時にはもう遅い。修行僧は自ら死地へと飛び込んでいく。理解不能の驚愕、それと無理に前に詰めたことによって、思考と体の動きはもう取り返しのつかない程に遅れている。結果、修行僧は無防備な胴体を刀弥の目の前に晒すこととなる。

 

 刀弥の正拳突きが修行僧の身体を捉えた。

 

 拳は鳩尾辺りに深く突き刺さり、修行僧の身体がくの字に曲がる。完成された構えから放たれたその威力は絶大。修行僧は衝撃のあまり気絶し、その場所に倒れ込むしかなかった。その様を見届けた刀弥は、周りに視線を向ける。刀弥を中心として、十数人程の修行僧が囲むようにして立っている。皆構えてはいるが、飛び込んでくる様子ではなかった。いや、飛び込む事が出来なかった。それは何故か。理解してしまったからだ。先の一瞬の攻防をみて、骨の随まで理解させられた。目の前の少年と自分達とは、比べるのも烏滸がましい程の差があるということを。修行僧達は背中に流れる冷や汗を感じながら、刀弥を睨みつけている。刀弥自身は特に自分から動く理由もなく、いつ仕掛けてくるか見極めようと自然体で相手の動きを待つ。場は完全に硬直してしまった。永遠に続くのではと思わせる緊張は、寺の本殿から響く気の抜けた拍手で幕を閉じる。

 

 

「いやあ、お見事!龍馬さんから話は聞いていたけど、まさかここまでやるとはねえ!流石、政狩の名を継ぐ者ってところかい?」

 

 

 刀弥は声の届いた方向に勢いよく振り向く。それは彼の察知出来ていなかった気配。未だ距離は遠いとはいえ、父親から太鼓判を押された自分の気配察知で見つけられなかった。信じられない。⋯いや、そうか。これが慢心か。

 

 

(出て来て正解だったかも。自分を見つめ直すいい機会になるし)

 

 

 何処か天狗になっていた自分の認識を改める。まだまだ自分は鍛錬不足、せっかく外にきたんだ。学ぶことは全て学ばせてもらう。新たに決意を固める刀弥の前に現れたのは、紺の法衣に身を包んだ僧侶。笑みを絶やさず、特徴的な糸目に片方の目には斬られた痕が残っている。警戒する刀弥に向けて、本殿前の石階段に腰掛ける彼は名乗る。

 

 

「はじめましてだね。僕は九重八雲(ここのえやくも)。ここの道場で古流武術の師範代をしている者だ。君の家族から話は聞いているよ。魔法科高校進学おめでとう」

 

「⋯これ、なに?」

 

 

 自分を囲む修行僧を見渡し、仕掛けさせた張本人であろう八雲に問い掛ける。少し気が立っているせいか、敬語も外されていた。八雲はそれに悪びれもせず笑いながら答えた。

 

 

「なあに、僕なりの歓迎ってやつだよ。気に入ってもらえたら良かったんだけど」

 

 

 どうやらうまくいかなかったみたいだね、と頭の後ろをかく八雲。当たり前である。刀弥からすれば、ただの面倒事に他ならないのだから。だが、向こうは変な勘違いをしていた。八雲は立ち上がり、脱力しながら腕を上げ指をくいっと曲げる。まるで刀弥を挑発するように。

 

 

「まだまだ暴れ足りないんだろう?今度は僕が相手になろう。彼らじゃ少しばかり荷が重いだろうからね。さっきよりは楽しめるとおも───」

 

 

 八雲はそれ以上の言葉を続けることが出来なかった。未だ10mほど距離のある場所にいた筈の刀弥が、既に目の前にまで迫っていたからだ。

 

 刀弥の突き出した拳を八雲は片手で受け止める。瞬間、寺中にバシンッと乾いた音が響いた。修行僧達が肌で感じるほどの衝撃に戦慄している中でも、八雲の笑みが途絶えることはなかったが、先よりも余裕が感じられない。

 

 

「危ない危ない。もうすぐで彼の二の舞になるところだった。それにしても刀弥君、いきなりとは酷いじゃないか」

 

「歓迎には礼を持って答えるのが道理だろ。そっちのやり方に沿っただけだ」

 

「それはどうも、ご丁寧に」

 

(今のは、縮地か。警戒は最大限にしていた。それを潜り抜けてくるなんて、洗練度が半端じゃない。そして何より()()()()()()()()()()()。この年でそこまでできるなんて、化け物の子も化け物だね)

 

 

 型が明確に定められているわけではない政狩家の武術だが、全ての技に置いて一つだけ徹底されているものがあった。それは『実戦技の予備動作の排除』である。戦いで常に優位に立つ為の単純な方法は、先手を取り続けること、それと相手に自身の手を悟らせないことである。この二つを同時に満たす為にはどうすればいいか。その答えとして初代政狩家当主が導き出したものがこれだ。予備動作を無くすことで常に先に仕掛けることができ、本来派生させることが出来ない技を繰り出すことを可能とする。これによって常に優位を保って闘うことができる。つまり政狩の武術とは、「速さ」と「巧さ」を極限まで突き詰めた武術なのである。

 だが刀弥はまだこれを修めている訳ではない。八雲が感じた通り、刀弥は予備動作を()()なくしていた。つまり完全になくしている訳ではないのだ。八雲はそこに刀弥の隙を見出した。確かに脅威ではある。だがあの二人程ではない。目の前の彼を鍛えたであろう二人は、まさに神域の人間であった。只の人間では絶対に踏み込むことすら出来ない領域の住人。彼はまだそこまで至ってはいない。ならば自分にまだ勝機はある。

 

 

(遂に、遂に叶った。この時をどれほど夢に見ただろう)

 

 

 この闘いは実を言うと、八雲にとっての挑戦の闘いでもであった。過去に手も足も出なかった彼らの家の子供。刀弥の父親から「息子に稽古をつけてやってくれ」と連絡を受けたとき、久々に血がたぎるのを、彼に付けられた目の傷が疼くのを感じた。彼と同じ道を辿るであろうその息子と手合わせ出来る。一人の武術家として、この機を逃す訳にはいかない。

 

 そして遂に、その時がきた。頭はこれまでに無いほど冴えきっている。身体の調子も万全。ならば後は試合うのみ。

 

 

「比叡山天台宗古式魔法、そして古式武術『忍術』の使い手。九重八雲」

 

「⋯政狩家次期当主、政狩刀弥」

 

 

 

「「参る!」」

 

 

 

 

 

 

------

 

 

 

 

 

 

 

「『政狩』⋯?おい真由美。今、『政狩』と言ったか?」

 

「?、ええ言ったけど⋯」

 

 

 場所は魔法大学付属第一高校の生徒会室。近日に行われる入学式の準備の為、学校には生徒会や部活連などの役職を持つ生徒達が集まっていた。その休憩がてら、生徒会長である七草真由美(さえぐさまゆみ)と風紀委員長の渡辺摩利(わたなべまり)は今年度にこの学校へ入学する新入生のデータを、生徒会長権限(だけなのかは怪しいところだが)で閲覧していたところ、一人の少年が話に持ち上がった。

 

 

「今年の推薦枠入学の生徒。名前は政狩刀弥。実技は免除されてるから記録はないけど、筆記テストは全教科平均87点と高得点。推薦枠に選ばれる程の魔法能力をも持ち合わせていることを考えると、まさに逸材というべきでしょうね。知り合いなの摩利?」

 

「いや、直接的な面識はない。ただ、彼の家については多少ばかり知っている」

 

 

「有名な家なの?私は一度も聞いたことが無いけど」

 

 

 真由美は名字に「七」とある通り数字付き(ナンバーズ)、それも国内で最強と言われる十師族の家系の長女であった。さらに七草家は「アンタッチャブル」と名高い四葉家と並び最有力とされている。そんな良家のお嬢様である自分の知らない魔法師の家。真由美はそんな彼に興味を持ち始めた。

 

 

「一部の人間の間でな。刀を扱う者で知らない奴はまずいない。彼等は刀鍛治師の家系なんだよ」

 

「刀鍛治師?こんなご時世に?」

 

「ああ。江戸時代前から刀一本で歴史を重ねているらしい。表に出るようなことは滅多にない。彼等の打つ刀は他の随追を許さない程に美しく、そして恐ろしいと言われる程。一時期はその刀の取引には数十億を越える額がついたという話だ」

 

「数十億!?たった一本の刀で!!?」

 

 

 驚異的な額に目を見開き声を上げる真由美。信じられないよな、と摩利は苦笑いで答えた。

 

 

「そんな家の人間がこの学校に来るなんて、ふふっ、さっきの司波君といい、今年は楽しいことになりそうね」

 

「厄介事が増えそうな予感だな」

 

「あら、でもこの子はあなたが面倒を見ることになりそうよ。ほら」

 

「なに?⋯ほう、楽しみだ」

 

 

 真由美に見せられた画面を見て、摩利は笑みを浮かべる。そのディスプレイに映された政狩刀弥のデータには、『風紀委員会教師選任枠候補』と付け加えられていた。

 

 

 

 

 




 今回は戦闘描写に力を入れてみました。いやぁやっぱり難しいけど楽しいですな。まだまだ修行不足ですけど、いつかは奈良原一鉄みたいな一瞬を十に分ける戦闘描写を書けるようになりたいです。

 どうしよっかな~村正買おうっかな~まだプレイ動画しか見てないし。けどアレ、ニトロの中でもさらに人を選ぶって言ってたし。それならガチンコの剣劇の刃鳴散らすの方がいいかな?正直言って村正の鬱に耐えられる自信がない。あっ、でもヒロインがラスボスってのはすっごい楽しそう。


ん?まだお前○校生だろって?細けえことはいいんだよ。


※4月16日 一部加筆修正をしました


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