魔法科?うるさいそんな事より都牟刈だ!!   作:益荒男

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 お久しぶりです益荒男です投稿遅くなってごめんなさい!!!!!(orz

 ただ一つだけ言うならば

 heaven's feel / spring song を見て涙を流し魔法科完結に拍手を送ったとなればそりゃもう書くしかないでしょうよ!


 まじで映画良かった…自分も見たよって方がいればネタバレしない範囲でコメントしてってください!(露コ稼)本編の感想も送ってくださると、益荒男のやる気がググんと伸びます。



男達の不器用な友情は、百合の尊さに勝るとも劣らない

「紹介しよう、彼らが今年の新入生から教師推薦によって選ばれた風紀委員候補。1‐Aの森崎 駿と1‐Bの政狩 刀祢だ」

「も、森崎です!まだまだ至らぬ身ではありますが、よろしくお願い致しします!」

「…政狩です。よろしくお願いします」

「初めまして…ではないですね。ご存じかと思いますが、3年、生徒会長を務めています七草真由美です。何か困ったことがあれば、いつでも生徒会室にいらしてください。よろしくね」

 

 そんな真面目な印象を与えながら、最後に愛嬌を演出する挨拶をしながら、真由美は内心ほくそ笑んだ。

 

 (生徒会の案内をするだけのはずが、今日はかなりにぎやかな日になったわねー。でも期待の新入生たちと顔合わせができたからお姉さんラッキー♪)

 

「あの、模擬戦用のソフトシューズがあると思うんですけど、どこに置かれているんでしょうか」

「ん?ああ、そうだな、君たちには必要なのか。それなら、一度この部屋を出てから右に曲がって…っと、口頭じゃわかりづらいか。沢木、案内してやれ」

「了解であります!それでは二人とも、ついてきてくれ」

「は、はい!おい、なにボーっとしてる、早くいくぞ」

「…ああ」

 

 本来、深雪の生徒会勧誘と入るための手続きを行うはずが、入学筆記試験のトップであり色々と規格外な彼女の兄、達也を自分の目が届く範囲に置けたことは、ある目的の大きな手助けとなるかもしれない、真由美にとって非常に喜ばしいことだった。

 

(森崎くんが一科生と二科生で差別をしない人だっていうのは昨日の件でわかるし、政狩くんもさっきのやり取りを見る限り、仲良さげだったからそこは心配いらなさそうね)

 

 その目的とは、学校内における一科生と二科生の間にある確執を無くすこと。現在、魔法科高校では一科生をブルームと誇り、二科生をウィードと蔑むといった差別意識が存在する。実際には、入学時の成績と講義時における教師の存在以外彼らに大きな差はないのだが、集団が形成されればそこに差別が生まれるのは人間の性だ。

 

 だからと言ってそれを受け入れるのは認められる訳もなく、真由美を中心とする生徒の上位組織は出来るだけのことをやってきた。だが、多少の改善は見受けられるものの、根本的な解決には至っていない。問題はその差別意識が、二科生のほうに強く根付いているということだった。結局自分たちは雑草(ウィード)だからと向上心を忘れ差別を受け入れた生徒が多く、最近ではその停滞を経て過激な思想に変わり、無理やり平等という言葉を使い声を上げている者もいる。だが、それは結局二科生の地位向上、事実上の優遇を求めるものであり、到底飲むことのできない要求だった。

 

 だからこそ、差別する立場の一科生だけではなく、二科生両方の意識改革が必要なのだ。そこで、歴代最高の実技試験記録を叩き出した深雪、そんな学年代表の妹を持ち座学で優秀な成績を修めながらも二科生である達也に白羽の矢が立つのは当然ともいえた。これからの一高を変えていくために、彼らの考えと思考が必要であると考えたのだ。真由美の彼に対する個人的興味も含むところだが、それが達也をどうしても近くに置きたかった大きな理由である。

 

 加えて、自分がこの学び舎を去ったあと、ここを背負うことになるであろう有望な後輩たちが、二科の生徒たちに差別意識を持っていない者がいると知れた。森崎 駿は差別を認めず声を上げる勇気を持つ今どき珍しい正義漢であり、その親友らしき政狩 刀祢は学園で数少ない特別推薦枠での新入生だと知れた。新学期早々の成果としては充分だろう。この日の真由美は非常に機嫌がよかった。

 

「それで摩利、これから模擬戦をするのはこの2人かしら?」

「ああ、もう一度聞くが本当にかまわないか?始めれば最終下校時刻も近くなるし、ここを使った後の始末は我々で行うが」

「ああ、それは気にしないで。利用申請はもう済ませてるし、時間もまだ残っているから。戸締りだけしっかりやってくれれば大丈夫よ」

「そうか、なら遠慮なく使わせてもらおう。ありがとな、真由美」

「どういたしまして、摩利。それじゃあ、こちらは一件落着したことですし、生徒会室に戻りましょうか。達也くんと深雪さんもお茶でも飲みながら待っていましょう」

 

 しっかり立場をわきまえながらも親友同士の気安いやり取りは、お互いの信頼の表れだろう。手短に確認を終えた真由美は風紀委員の彼らを置き、皆を連れてもといた生徒会室に帰ろうとする。しかし、そこに一人待ったをかけた生徒がいた。先の模擬戦で達也に敗北し、事の成り行きを見守っていた服部刑部だ。

 

「すいません生徒会長、風紀委員長。自分も彼らの模擬戦を見学していってもよろしいでしょうか」

「はんぞーくん?」

「新たな風紀委員役員の実力には興味があります。是非とも自分の目で確認したい」

「それは、私は構わないけど、いきなりどうして?」

「ははぁ、さてはまた下級生に吹っ掛けられたときのために今から対策を練ろうとしているな?それならまずは挑発を受け流せるだけの忍耐力をだな」

「そ、そんな理由ではありませんし別に先の模擬戦は関係ありません!ただ、これから風紀委員を担う人物がいかほどのものか確認するのも、生徒会役員の務めであるというだけで…!」

 

 生徒会室での経緯を摩利にからかわれうろたえる服部。彼の口からは否定されているが彼がこのような申し出をしたのは、達也との模擬戦に何か思うところがあったのは、誰の目から見ても明らかだった。

 

(負けてすぐに何もしないのは嫌ってことかしら。なんかそういうの、男の子って感じがするし)

 

 後で存分にからかってやろうと決め、それを腹に抱えたまま真由美は了承の意を示そうとする。

 

「あの…!」

 

 その彼女をまた妨げる、綺麗でありながらどこか張り詰めた陰りのある声が上がった。それは先ほどから何も話さず、どこか放心した様子だった深雪のものであった。その傍らで様子を見守っていた達也は、服部の要望から予想できたこの展開に、内心やはりかとつぶやいた。

 

「その…ええと、私も…その、…森崎くんたちの模擬戦を、見ていってもよろしいでしょうか?」

「深雪さん?ええと、なぜ、いきなり?」

「それ、は…」

 

 予想外の相手からのそれまた予想外の言葉に、真由美は困ったような表情を作る。なぜかわからぬ深雪からの要望にその理由を尋ねるが、深雪は応えあぐねている様子だった。助け舟を出したのは、やはり深雪の兄である達也だった。

 

「会長、俺も見学させてもらってもよろしいでしょうか」

「達也君も?」

「駿とはすでに友人ですし、森崎一門のクイックドロウは有名ですから。それに、今後同じ風紀委員役員としてともに活動することもあるでしょう。同学年ですから彼らと組むことも多そうですし、実力を知る機会はぜひ欲しいと思っていたところです」

 

 深雪から話題をそらすために語った内容だが、おおよそは事実だった。実際、昨日見せた駿の動きは達也としても目を見張るものがあり、政狩 刀祢の実力も、()()()()()()()()にも知っておきたい。彼らが模擬戦を行うというのは達也にとっても喜ばしいものだった。だが、やはり達也の最大の目的は深雪を助けるためということだけだった。

 

「そういうことなら、まあ。だけど、二人がいないまま生徒会室に戻るわけにもいかないし…。このまま私たちも残るしかないかしら。どう、リンちゃん?」

「本日分の仕事は既に終えているので、そこは問題ありません。あとは司波さんへの大まかな執務説明などを行えればよかったのですが、明日本格的な活動参加とともにすればよろしいかと。私個人としても、この後の予定はありません。中条さんは?」

「わ、私も!特に予定は…。このままひとりで戻るのも、寂しいですし…」

「ですので、我々もここに残ってよろしいかと。ただ、ここまでの大人数となると、等の本人たちの許可が必要でしょう」

「市原の言う通りだな。そこは彼らが帰ってきてからにしよう」

 

(上級生たちの間で話がまとまったらしい。あとは模擬戦を行う二人の判断次第か)

 

 達也の思惑通り、ここまで進めば再び深雪に目が向くことはないだろう。

 

「…お兄様、申し訳ございません」

「大丈夫だ、深雪。わかっている」

「はい、ありがとうございます…」

 

 深雪には達也の行動が、自分のためだということがすぐに分かった。七草先輩の質問に口籠る私を見かねて、話の先を自分に向けるようにしたのだと。この願いは、ただ自分しか省みていないというのに。

 ああ、なんと情けないことか。私の命はあの日彼に救われ、自分は敬愛する兄に相応しい妹になろうと誓った。だというのに、自分のわがままに兄を付き合わせるどころか、あまつさえ手を煩わせるなどと。恥を知れと、彼女の胸には深い自責の念が積もっていく。

 

(けど、それでも)

 

 兄は命を救ってくれた。そして、彼は心を救ってくれた。彼にそのつもりがなくとも。

 

 ここまで自身を貶めながら、浅ましくも彼女はその思い人との邂逅を望まぬにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猛烈に今ここから脱兎のごとく逃げ出したい。

 

 俺は森崎と模擬戦をするためにここに来たはずだ。決して初めて会う先輩方と交流を深めるためじゃない。だというのに演習場の中には既に先客がいたのだ、それもどっかで見覚えがある面々が。

 まずは風紀委員長の渡辺摩利。この人がいるのはまだ理解できる。この場所を使わせてもらうのに風紀院の権限を使っているのだから監視する側の人間がいるだろうし、なんならこの人自身が好戦的だから、この模擬戦にも興味津々だろう。

 

 だが

 

 その隣には、生徒会役員の上級生たちと、あの司波兄妹。

 

 なんで?(殺意)なんでこんなところで大集合してんだよ原作主要人物共が。

 

 いや知ってるけども、演習室の中に入った瞬間に思い出しましたけども。なんでこう示し合わせたように全部のフラグを回収していくのだろうか。もしいるのならばクソッタレな神様というやつの頭をワイン瓶でかち割りたい気分だ、死ねよ。

 確かあれだよな。なんか忍者みたいな名前のやつがお兄様侮辱して、んで司波が切れた後お兄様が煽ってそのまま模擬戦だーってやつ。結果は無論あのチートお兄様の完全勝利なんですが。…なんかお兄様お兄様って気持ち悪いな。よし、これからは司波達也、貴様のことを司波兄と呼ぶことにしよう。

 

 いや、マジこれどうしよう。こうやって真正面から顔を合わせちまった以上知らぬ存ぜずで通すわけにはいかねえよな。向こうが俺のことなんかさっぱり忘れていてくれてたらワンチャン…。いや、あんな死人と会ったみたいな顔してたし望みは薄いか。間違いなく俺が政狩 刀弥だと判断しただろう。魔法科高校には行かない、なんて抜かしてたくせに蓋を開けてみればバッタリ遭遇しちまってるんだから笑うしかねえ。やっぱ笑えねえわ、うん。…えぇ…ええぇぇぇ?(困惑

 

 なんでこんなに迷わなければいけないのだろうか。元々こうなった元凶は司波の失言なのだから、俺は堂々と向こうからのアクションを待っていれば良いではないか。

 

(で、開き直るのはダメだよなあ)

 

 あの事件の後、俺は家族3人から叱られた。そりゃもうこっ酷く、これまでの人生で1番激しかったのは間違いない。特に母さんは、マジでやばかった。普段は出さないアトラス院の顔を出して丁寧語で、一つ一つ論理的に否定してかかってくるのはもう勘弁だ。その時に今度会ったら謝るようにと約束したし。俺にも非があったことは間違いないんだし、ここはひとつ罪の清算をする機会が与えられたと考えよう。うん、たぶんそうして綺麗さっぱり解決して、接点無くしたほうがいいような気がする。

 

「考え事か」

 

 そこまで決めたところで靴を履き替えた森崎と合流し、元の演習室へ戻る。沢木先輩は一足先に戻ったみたいだ。

 

「別に」

「そうか。ま、僕には関係ない」

(でしょうね。いや、まったく。ほんとに関係ないんですけどもこちらも割と死活問題なんですよ)

 

 心の中で愚痴を漏らす。そういってそそくさと我先に進もうとする森崎は、それきりかと思いきや少し歩いたところで顔をこちらに向けてきた。

 

「だけど、もしそれで本調子じゃないなんてことになっても困る。全力じゃないお前と戦っても意味がないからな。…日を改めることも考えてもいいが、それは結構深刻なことなのか」

 

 なんてテンプレなツンデレ的反応。古き良きベジータの風格を感じる。だが前も言ったが男のツンデレなんてどこに需要があるのだろう。てか

 

「そう見えるのか」

「少なくとも僕は。これまで見たことのないくらいに、焦っている?というか迷っているというか…まあともかく!どうなんだ、このまま模擬戦をできるのか?」

 

 どうやら色々と顔に出てしまっていたらしい。それを見かねたねた森崎は、不器用にも優しさを発揮して忠告してくれたということなのだろう。

 

(まずいな、最近の俺どうかしてるぞ…)

 

 自分で思ってるより、かなり俺は今の状況に参っているらしい。しかもそれを森崎に悟らせるなんて、気が抜けている証拠に他ならなかった。

 

「すまない、森崎」

「え?」

 

 そうだ、俺は今から戦いの場に立とうとしている。それがさして興味のない魔法の模擬戦であろうと、真剣に当たらなければ、自分の為にならず、相手である森崎への失礼に当たるというものだ。今は一身上の都合など隅に置き、目の前の戦いに集中するべきなのだ。

 

 一度深呼吸をし、両頬を叩いて、さらにもう一度深呼吸をして意識を切り替える。

 

「もう大丈夫だ。いらない世話をかけた、申し訳ない」

 

 謝罪の言葉を口にし、同時に頭を下げる。それを見た森崎は俺の急な転身に驚き慌てる。

 

「お、おい!別に大したことじゃない。ただ、まぁ、もう問題ないならよかったよ。というか、こんなことで頭を下げなくても」

「いや、こうさせてほしい」

 

 これは謝罪だけではなく、感謝の印でもあるのだ。俺の身を心配してくれたことに対してはもちろん、自身を見直す機会を与えてくれたことに対しての。

 

「やろう、今のようなみっともない真似はしない」

「…わかった。なら、今日こそ勝ちは僕がもらうぞ」

 

 それを皮切りに、再び前を向いて演習室へ向かう。

 

 

 ___そういえば最近気づいたのだが

 

「森崎」

「なんだ、まだ何かあるのか」

「なんでお前は、そこまで俺に勝ちたいんだ?」

「…色々と理由はある。けどあえて言うなら、そうだな」

「?」

「…負けっぱなしは我慢ならない。そして諦めるっていうのは、僕が一番嫌いなことだ」

「そっか」

「なんでそんなことを聞く?」

「別に、ふと思っただけ。…うん、その方が森崎らしくて、なんか、いいと思う」

「…そうかよ」

 

 こだわってるのは、森崎だけじゃないのかもしれない。

 

 

 

 

 演習室中央を挟み、5メートルほどの間をあけ、俺たちは相対している。そこにあるのは戦場特有ともいえる緊張感と、互いが互いに抱く激情とも呼べるなにかだ。

 

「…」

「…」

「ルールを説明する。直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障碍を与える術式も禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止する。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可する。」

 

 ギャラリーがかなり増えたが、戦い始めれば気にもならないだろう。なぜか司波兄妹まで残っているとは予想外だったけど、あとで司波とコンタクトを取るのに好都合か。一応勝負の邪魔にしないため、意図的に集団の気配を意識からかき消す。

 

 目の前の相手に、的を絞る。

 

「武器の使用は禁止。素手、蹴り技による攻撃は許可する。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。双方開始線まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。このルールに従わない場合は、その時点で負けとする。異論は?」

「ありません」

「同じく」

 

 森崎が答え、俺がそれに続く。

 

 つまり、実質俺は肉体攻撃ができないということだ。俺は自分の肉親とあのハゲ坊主の寺の奴以外に、教わった武術を使ったことがない。もちろん加減などしたことはないし、未熟な自分にできるはずもない。まあ、これは中学のころから同じだ。高校に入っても何もかも変わらないというだけ。いつも通りにやればいい。

 

 

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(コンディションは良好、戦意も十分、CADの整備も万全。後は策がどれほど通用するか、だ)

 

 

 最後に政狩と戦った時からずっとやってきた。これまでの戦い方から自分の弱点を克服していき、政狩の動きを予測できるようにする。受験が終わってからの一か月間は、ずっと鍛錬と戦闘記録を見返し対策を考える日々だった。

 

(それで出た結論が、俺は逆立ちしても()()()()()()()()()ということなのは悔しいが)

 

 政狩の実力は既に五十を超える模擬戦を経ても未だに底が見えない。あいつの行動にはいつもどこか余裕があり、仮に俺があいつを追い詰めたと思ってもどこ吹く風ですぐ対応してくる。そこまでの実力差があるとわかっていながら『今日こそ勝つ』と吠え続けるのは、己の意地と決意を忘れないためだ。そして、このままでいるつもりも毛頭ない。

 

 今までのは前哨戦、本番はここからだ。まずは精々そのしけた面を歪ませてやることにしよう。

 

 

 

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「うぅぅ、なんだか、さっきの司波君と服部君の試合よりピリピリしてます…」

「お互いにものすごい緊張感で臨んでいますね。先のやり取りを見るに不仲というわけではないと思いますが」

「ふふ、そう考えこむことではないでしょう。お互い自分をさらけ出して、全力でぶつかり合える。友人でありライバルなのでしょうね。男の子らしくていいじゃない♪」

 

「よう服部、お前自分から大口叩いて下級生に挑んどいて瞬殺されたんだって?」

「沢木、貴様ッ…!」

「ははは、レッテルに足元をすくわれたな。で、服部はあの二人の勝負どう見える?」

「___っ!…まあいい。二人の魔法力にそこまで大きな差は無いだろう。だが、森崎といえば魔法の発動速度で言えば十師族にも劣らないと聞く家だ。当てられるのであれば、先手を取れる彼に軍配が上がるだろう。だが…」

「やっぱり気づくか。そうだな、政狩君の動きもタダ者じゃない。よく注意してみなきゃ気づけないが、体の動きにブレというものが全くない。それでいてとても自然だ。俺も委員長がいなかったら解らなかったろうな」

「なにか体術を修めているのか。魔法戦においてそこまで着眼すべきではない。…などとは言えないな、さっきの様では」

 

 

 ここにいるほとんどの興味はこれから行われる模擬戦に強く惹かれているようだ。だが今の達也にとって、一部睨んできたりする上級生たちや目の前の戦いなど、最愛の妹が今抱えているであろう苦悩と激情に比べればどうでもいいことだった。いや、そしてもう一つ。深雪にこの苦しみを与えている元凶以外に。

 

「___ッ」

 

 あれから深雪の視線は、ずっとそいつへと注がれている。その中にあるのは期待と不安、そして数々の疑問であろうことが達也には手に取るようにわかる。だが、そいつは最初にこの部屋を訪れて、深雪の存在に気付いて以降、一度たりともこちらに目をやることすらなかった。いや、そもそも意識から存在自体を消しているのかもしれない。

 

(『政狩 刀祢』か…。深雪の初恋相手であり、かつて喧嘩別れをしたきり、という話だったか)

 

 その相手がまさか同じ魔法科高校へと進学してくるとは、どういう星の巡り合わせなのだろうか。そこで達也は、深雪が『彼には一般家庭の出身にもかかわらず、高い魔法適性を持っていた』とも話していたのを思い出す。そこから政狩の進路に口出ししてしまい、結果彼の琴線に触れ怒りを買ったのだと。

 

「……刀祢君」

 

 そんな相手との再会で、深雪の心はどれほどかき乱されているのか。今の状況はおおよそにおいて致し方ないものではあるのだが、達也は政狩という男に対して敵意を抱かざるを得なかった。

 

 

 

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 白一色の大きな空間を静寂が支配する。その中で相対する二人がいた。

 

 

 一人は強者。片手に腕輪形の汎用型CADを装着し自然体でたたずんでいる。

 

 この何度も繰り返されてきたカードにおいて一度の敗北はなく、彼はそれを誇ることはない。なぜなら、この戦いは彼にとって、『他人との実戦経験を積む』こと以外に意味などないからだ。彼の目指す場所とその為に歩む道に、この戦いは本来全く関わりのない、ただの寄り道もいいところ。

 

 だが決して、彼は手を抜くことなどありえない。己に実のないからといって、彼は勝負に不誠実であることを是としない。魔術を使わないのは、これが魔法師の戦いだからだ。体術のほとんどを封印するのは、一定以上の怪我を負わせれば己の敗北となるからだ。

 ましてや相手は己に勝つため、全身全霊をかけているに違いない。この誇りたくなるような友人に対して自分がしてやれることは、今できる全力を彼にぶつけることのみだろう。

 

 政狩 刀祢にとって、これは友の為の戦いであった。

 

 

 もう一人は弱者にして挑戦者。片手に端末形の特注特化型CADを握り戦闘態勢を取る。

 

 勝利の陰には常に敗北が存在する、彼は後者以外選べなかった。いかに他の部分が優秀であり、他の誰かに勝てるとしても、己の目指す者に敗れ続けるのであればその勝利に意味はない。ゆえに彼は己を敗者であると定義する。だがこれから未来永劫そうであることを、彼は断じて否と唱えた。

 

 彼は『諦める』という言葉を最も嫌った。それは停滞を表す言葉、選択したものは暗闇の中で道しるべを無くし、さ迷い続けることとなる。目標は常に夢を掴むため前へ進み続けているというのに、なぜ立ち止まることができようか。それでは、己とあいつは対等になれない。あいつが一人になってしまう。

 そう、並ぶ者のいないと悟ったあいつは、平気で孤独を選ぶだろう。人はそれを孤高と呼ぶのかもしれないが、己にとっては悲しく思えて仕方がない。

 だからコエを秘めて立ち向かうのだ。俺はここにいる、俺を見ろ、と。いつか自分が勝利をもぎ取り、一度やつを見下ろすその日まで。

 

 森崎 駿にとって、これは友の為の戦いでもあった。

 

 

 ここに、誰かを思いやれない人間など存在しなかった。

 誰もが友への激情を抱き、誠実なる思いを胸に秘めていた。

 

 

 審判の手が静かに持ち上げられる。

 両者ともに眼を見開き、倒すべき友を視界に収めた。

 

 「始め!!」

 

 凛とした声が空間へと響き、勢いよく手が振り下ろされる。

 

 彼らは駆け出す。己の全力を友へと届ける為に。

 

 

 二人の、二人による、二人の為だけの戦いが幕を開けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _____それでも人は、自分のことを思わずにはいられない。

 

 

 

 

「何故、ですか…?」

 

 解ってしまった。彼がどこを向いているか。

 

 彼はずっと前を向いている。目の前の相手を見据えている。

 

 政狩 刀祢は、森崎 駿を見ているのだ

 

 

 

 私が隣にいた、あの時よりもずっとまっすぐな瞳で

 

「何故、私のことを見てくれないのですか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 読んでいただき、ありがとうございました!


 なんでまだ戦闘してないの………????


 はい、なんか書きたいこと多くなっちゃって過去最高文字数とまさかの事態に。お願い…!もう少ししたらきっと書けますから!!

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