魔法科?うるさいそんな事より都牟刈だ!!   作:益荒男

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 どもども、最近リアルでやることが多い(そればっか言ってる)益荒男です。

 なんか書いてたら一万字超えちゃったので、今回は前後編に分けて投稿したいと思います。え?なら後半はもうできてるのかって?…………(目そらし)


 それではお楽しみください!!!!!!!


考えろ!じゃねえと脳死した奴から死ぬゾ!? 前編

 刀祢が進学のため上京してから一ヵ月ほど、政狩家ではかわいい息子(孫)がいなくった寂しさと各々が向き合いながら、少しだけ静かな毎日が過ぎていた…

 

「はーい、今日の晩御飯ができましたよ~。それじゃあ皆でいただきます!」

「いただきます」

「いただき…アイナ、この真っ赤な塊はなんだい?」

 

 なんてこともなかった

 

「ピーマンの肉詰めよ。ちょっと焦げちゃってお肉とピーマンの区別が分かりずらいけど」

「いや、どんな食べ物でも焦げたら赤じゃなくて黒くなるはずなんだけど…。後これ絶対ピーマンじゃないよね、そしてパプリカでもないな。肉を詰めてるのこれ唐辛子だろ。それにしてはやけにデカいけど」

「知ってる?パプリカってカラーピーマンの一種なの。そしてピーマンはトウガラシ属の植物、唐辛子の一種に過ぎないのよ。つまり逆説的に言えば唐辛子をピーマンと呼ぶことも可能なのよ。これにて命題『この食べ物はピーマンの肉詰めか否か』が証明されたわね」

「それは証明ではなくただの屁理屈だ!単にアイナが辛い物を作りたかったってだけだろ!別に辛いのは構わないけど、さすがに限度っていうものがあるだろう!」

 

 それはピーマンの肉詰めというにはあまりにも赤すぎた、赤く、大きく、グロく、そしてめちゃくちゃ辛そうだった。それはまさに辛味の塊だった。

 

「そ、そんなに辛くした憶えなんてないわよ!お肉にだってタバスコしか入れてないし!」

「やっぱり肉にも何か入れたんだなそうなんだな!?やっぱりアイナが『成長した自分を見せてあげる』って言いだしたとき、怪しむべきだったんだ!」

「ひどいですね!そういうのでしたら、おじ様を御覧なさい!何も言わずおいしそうに私の料理を食べているではありませんか!私の計算に狂いはありません!」

「素に戻るくらいなのか…?てかオヤジ、よくこんなもの食えるよなって、あれ?」

「おじ様?」

「……」

 

 カラリと、竜馬の手に握られた箸がちゃぶ台の上に転がる。

 二人は気づく。彼の意識は既に手放されていたことに。

 

「お、おお、おじ様!?お気を確かに!!?」

「この馬鹿オヤジ!!!あんたはなんでそう刀祢とアイナに甘いんだ!?」

 

 政狩家の巨木『政狩 龍馬』は、赤き身内の呪いの前に無力だったことを悔やみながら意識の深層へと沈んでいくのだった。

 

 

「アイナはまたしばらく僕の同伴なしに台所に立つの禁止、いいね」

「はーい、わかったわよもう」

「…初めての真打を打った時を思い出した」

 

 そんなこんなもありながら、三人は食卓を片付けていく(先の劇物は製作者が後日平らげることになった)。刀祢が東京に行ってからも、家内の雰囲気が変わるなんてことはほとんど無かった。精々これまで稽古をつけていた龍馬や、魔術の勉強を教えていたアイナの暇が増えたくらいだろう。

 

「あ、そういえば刀祢から連絡が来てたわよ『仕送り増やしてくれ』って。なんでも炊飯器を買いたいみたい。飯盒使おうにもコンロが足りなくて時間がかかるとか」

「なんだかんだ刀祢も今の環境に適応してきたな。どうするオヤジ、仕送り増やすか?」

「刀祢に限って堕落にふけることもなかろう、九重のやつからずっと稽古をしているとも聞いている。それくらいなら構わんだろう」

「わかった。アイナ、今度ここ降りるときにでも口座に振り込んどいてくれ」

「オーケー、ちょうど明日スーパーの特売日だし」

 

 刀祢が一人暮らしをすることに、郁磨たちはそこまでの心配をしていなかった。何故かと彼らが訪ねられたら、みんな口をそろえて「だって刀祢だし」と言うだろう。刀祢から見た家族が化け物であるように、郁磨たちから見た刀祢もまた規格外、どっちもどっちの家族だった。

 

「刀祢、楽しんでいるかしら?」

「どうだろうなぁ、僕は何よりちゃんと友達がいるかが心配だよ」

「中学の時も、あんまり友達の話は聞かなかったものね」

「それもだけど、きっと刀祢が変わるきっかけになるのは、僕たちじゃなくて同じ場所に立てる仲間とか、そういうものだと思うんだ」

「私たちじゃ無理だったものねえ。でも、大丈夫よ」

 

 にっかりと笑いながらアイナは郁磨の顔を覗き込む。その顔に未来への悲観なんて物は一切なかった。

 

「刀祢のことを解ってくれる人が絶対にいるわ。それにあの子、流石私たちの子供って感じに顔もいいし。普段無口な人のギャップってすごいんだから」

「急に下世話な話にならないでくれ。うん、そうだね。根はやさしい子ってことは僕たちが誰よりも知っている。____なら大丈夫か。頑張れよ、刀祢」

 

「あ、そうそう。八月の頭に『九校戦』っていう大きな行事があるらしいのよ。結構近くでやるみたいだし、刀祢の様子見に行くついでに行ってみない?」

「まだ気が早すぎるだろう。でもいいかもね、特に予定があるわけでもないし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして刀祢は友の為に、友と戦っていた。

 

 

 開戦の火ぶたが切られ、審判である摩利の合図で相対する両者は動き出す。

 

 刀祢は前へ、駿は後ろへと。

 動き出したのは全くの同時であったはずなのに、この一秒を数等分する世界の間で二人の距離は1メートル近く縮んでいた。

 

(クソッ、予想より速い…!やはり賭けか!?)

 

 前へ進む行為と後ろに下がる行為、どちらがより人にとって容易かなど考えるまでもない。常に日ごろ、後ろ向きに歩きながら生活している人間などいないだろう。ただ後ろ向きに歩くだけで人はバランスを崩してしまうこともある。全力で後ろに飛ぶともなればその可能性はさらに上がるだろう。

 

 ならなぜ、駿は横方向への移動ではなく、真っ直ぐ後退することを選んだのか。

 

(相手が政狩でないなら、いくらでもやりようはあるのだろうがな…)

 

 前へと飛び込むことは論外だった。至近距離での戦闘において、今の駿が刀祢に勝てる可能性など那由多の果てにすら存在しない。ボディーガードを請け負う実家で教えられた護身術を扱える程度の体術では、刀祢に拳をかすらせることもできないのだ。事実、駿は中学時代の模擬戦で「距離を詰められるのならあえて相手の土俵で不意を突いてやろう」と自ら懐へと飛び込み、そのままCADを蹴り飛ばされ完膚なきまでに力量の差を叩きつけられた。

 

 なら横方向は?

 ある程度距離を稼ぐことができ、体のバランスを崩すことも後ろに飛ぶよりは少ない。もしフェイントをかけ相手に逆を取ることができれば、それは大きなアドバンテージにもなる。そうすれば…と考えたこともあったが、結局それも成功した試しが一度もない。

 

 どういうわけか、開始と同時に横に飛ぼうとすると、まるでその未来を予知した如く飛んだ方向に一直線で距離を詰めてくるのだ。何度も何度も、飛ぶ歩行や角度を変えてみたりしても、必ず着地地点に合わせて一直線に突っ込んでくる。いくら工夫し考えても、終ぞ駿は刀祢の逆を取ることはできず、最終的に恥を忍んで刀祢自身にからくりを聞き出すこととなった。何故自分の行動を先読みできるのかと。

 

「そんなの、見ればわかる」

 

 刀祢はまるで当たり前のことを確認するかのように、あっけらかんと答えた。

 

「見るって、だから何を見ればわかるんだよ」

「何、を…?ええと、まずはつま先と重心の位置。これで大体の方向を絞れる。他は視線とか体の向きとか呼吸の間隔とか。前二つは無意識に出るものだから結構あてにできるし。呼吸に関しては、人って息を吐くときにはなかなか動き出せない生き物だから、間を図るのに必要」

「…お前、始めるまでそれ全部を意識してるのか?」

「意識してる、っていうか。もうそれをするのが普通っていうか。うちじゃこれ位できないと話になんない」

(爺やと父さんの場合、判っててもどうにもならないのがデフォだし。そもそも見させてくれないこともざらだから、見れると時に見とかないと喰らいつけないんだよね)

「…なるほどな」

 

 駿は刀祢の話を聞き、そして納得した。

 

 先の全く見えない刀祢との差に絶望するのでもなく、怒りを覚えるのでもなく、ありのままの事実を受け入れ納得し進んでみせたのだ。そこから自分がとるべき選択を考える。刀祢の言う通りならば、初手に自分がとる行動などいとも簡単に予測して見せるだろう。そして、自分にはその予想を上回るだけの何かを用意することはできない。

 ならば、そのことを踏まえたうえで駿の取れる最良の選択とは何なのか。

 

 条件をまとめてみよう。

 

 

 一、刀祢に近付かれてはならない

 

 二、動き出しは同じでも、加速は刀祢のほうが早い

 

 三、彼我の距離は5メートル、刀祢であれば一瞬の内に詰めることが可能

 

 四、刀祢はほぼ確実に駿の初動を予測可能

 

 五、駿に刀祢の予測を覆すことはできない

 

 

 これだけ見れば、駿の勝利への道筋はないに等しい。とりあえず反撃を考えずに逃げ回ることに専念しようとも、そもそも刀祢のほうが足が速いのだから追いつかれるのも時間の問題だ。ましてや場所は模擬専用といっても室内であるのには変わりなく、ずっと真っすぐ後退することもできない。これが徒手格闘での戦いであれば駿にできることは何も無かった。ただ刀祢の絶技によって地に這いつくばるのみだ。

 

(だが、僕たちは魔法師だ)

 

 そう、この戦いは魔法師たちによる魔法を使った模擬戦だ。この魔法力において、刀祢と駿に大きな差はない。だが、『魔法を発生させる速度』という一点において、駿は明確に刀祢に勝っていた。だからこそ更なる条件が追加され、選べる選択肢が存在する。

 

(5メートルでは足りない。それでは魔法式の展開より、政狩の射程に入るほうが速い。ならば距離を稼ぐ!横に飛んでも意味がない、大した距離も稼げずに間を詰められるだけ!

 だから飛ぶのなら真後ろだ!例え予測されようとも、動き出しが同じならば、魔法の発生速度で僕に劣るあいつにできることは、少しでも早く自分の間合いにする為に真っすぐ突っ込んでくることだけだからだ!)

 

 やるべきことは既に決まっている。もう後戻りは効かない。

 

 ならば定めた道を突っ走るのみ…!

 

 

 

 試合開始の合図と共に大きく後ろに飛び、同時にCADを操作、使用魔法は「ドライ・ブリザード」。空気中の二酸化炭素を集め、ドライアイスを作り、凍結過程で余った熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、ドライアイスを高速で射出する魔法だ。

 

 なぜこれを選んだか、それには二つの理由がある。

 

 一つは術者に直接作用する魔法を使おうとすると、どういう訳か刀祢は事前にそれを察知し、全力で術者の視界から消えようとするからだ。その結果、術者は目の前にいるはずの標的を見失い、意識外からの攻撃によって沈むことになるのだ。これも中学時代の模擬戦の記録から読み取れる確かな事実である。なので扱う魔法は、刀祢本人ではなく周りの環境へと作用するものでなくてはならない。

 

 それを踏まえての二つ目の理由が、発生速度とある程度の威力、面制圧の能力の三つを兼ね備えているからだ。例えば一撃で沈める威力を持った魔法、駿の場合は自身の最も得意とする「エア・ブリット」などは、至近距離での使用を想定しているものか、効果範囲が狭いものがほとんどだ。そんなものでは刀祢なら少し体を傾けるだけで完全に躱し切ると駿は知っていた。だからと言って広範囲高威力の魔法を扱おうとすれば、魔法式の展開速度は極端に落ちる。それではそもそも先手をとれなくなってしまう。

 

 以上の理由で、条件に合う魔法の中で駿と相性が良かったこの魔法が選ばれた。そして、選択は間違っていなかったとこの瞬間証明される。

 

 

 駿が後ろに飛びのいた直後、刀祢と彼を挟むように展開された魔法式から、生成されたドライアイス群が刀祢に襲い掛かる。身を傾ける程度でかわし切れないと判断した刀祢は、範囲外へ逃れるため大きく左に飛ぶ。刀祢の動きを見逃すまいと目を凝らしていた駿は、急転換によって起こった一瞬の予備動作を見逃さず刀祢の逆方向へ続けて動く。身体訓練も欠かさなかった駿の体は、無茶な動きに振り回されずバランスを崩すこともなかった。

 

 

 刀祢の出鼻を挫き、距離の維持もされている。一つ目の勝負、先手の取り合いを制したのは駿だった。

 

(それでも危ない賭けだった。こちらの使う魔法に構わず、政狩が視界から消えることを選択すればこちらに打つ手はほぼなかったし、普段使い慣れてない端末型ということで魔法の発動が間に合わなかった可能性も十分あった)

 

 そもそも、刀祢が初めから正面に突っ込んでくると踏んだこと自体、刀祢の性格とこれまでの模擬戦の統計から出された予測でしかない。いつも使用してしている拳銃形のCADには「ドライ・ブリザード」が登録されておらず、この後の策の為に端末形を使わなければならない。不確定要素があまりにも多すぎる。だが、このような危ない橋を何度も渡らなければ、駿は刀祢との勝負という土俵にすら立てないのだ。この一瞬の交錯、刀祢は前に突っ込んでいるだけだというのに、駿は幾重にも考えをめぐらす必要がある。

 

 

 そしてまだ勝負は始まったばかり。駿の魔法で刀祢が倒れていないということは、次は相手から魔法が繰り出されるということに他ならない。

 

 ドライ・ブリザードを凌いだところで刀祢は立ち止まり、CADを身に着けた左腕を差し出そうとする。起動式の展開が完了される寸前である。CADから余剰想子光が漏れ出した。

 

(あの起動式なら、恐らく放出系での攻撃か!)

 

 刀祢との戦いを繰り返した駿には刀祢がよく扱う魔法、それも精々数種類限定ではあるが起動式から発動される魔法をある程度予測することができた。それを見た時点で駿は最優先事項を次の攻撃手段の用意ではなく、全力の回避行動に切り替える。予測通りの魔法が来るのであれば、今すぐ動き出さないと()()()()()()と知っているから。

 

 

 刀祢が腕を伸ばし切ると同時に魔法が発動する。駿の考えた通り、刀祢の選択した魔法は放出系、その基礎魔法である「スパーク」だった。物質中から電子を強制的に抽出し放電現象起こすこの魔法は、刀祢が中学時代から愛用している魔法であったため駿も予測することができた。

 だがこの「スパーク」という魔法、本来この状況においてそこまで警戒するべき魔法ではない。この魔法によっておこる放電現象は直撃すれば一撃で意識を刈り取ることが可能だが、効果範囲がかなり限定される魔法なのだ。さらにいうと「スパーク」は発動するために要求される想子量がかなり多い。よって効果と大証が釣り合わないことが多く、一般的にこの魔法は近距離で確実に相手をとらえられる状況でしか扱われることは少ない物のはずだった。

 

 そう、そのはずだったのだ

 

 そんな魔法を刀祢が愛用している理由はただ一つ、それが自身の勝利に最も貢献する魔法だと理解しているからである。

 

(来る……!)

 

 魔法式が完成し「スパーク」が放たれる。

 

 

 駿の視界が光に染まった。

 

 

 

 

 

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(やっぱ発動速度速いなオイ。明らか前より強くなってるわ。魔法師として考えれば間違いなくあっちのほうが優秀なんだろうな)

 

 魔法科高校の一生徒として、刀祢の魔法師としての素質は平均より頭二つほど飛び抜けている。特に、優れたサイオン保有量と魔法演算領域を保持していることから、【魔法式の規模】【対象物の情報を書き換える強度】実技試験で評価されるこの二項目においては目を見張るものがあると判断され、ここへ推薦入学したのだ。

 

 だがテストの点が本当の能力を表しているのではない。

 

 その最たる例が二科生として入学しながらも卓越した魔法技能を有する司波達也であるのだが、刀祢にもこれが当てはまる。だが、それは達也とは全く逆の意味合いでだ。実戦を想定した場合、刀祢の魔法師としての能力は極端に下がる。

 

 何故なら、刀祢に極限での戦闘中に魔法を扱うだけの思考のキャパシティが最早ないのだ。

 幼少期のころから『政狩』の人間として稽古を受け続けた刀祢は、戦う際に己が考えるべきことというのが既に確立されつつある。それは体幹や息遣い、足運びといった自身と相手の状態、そこから予測される十数手先の幾通りもの行動とその対処。更に自身の魔術や魔力の状態。得物を扱う場合はそれが持つ特有の間合いや攻撃、互いの武器の耐久度など、考えることは無限にある。

 道を極め、無想の境地へと至った達人たちであれば、最早反射の域で最適解を導き出すだろう。刀祢がその極地へと至る道のりはまだまだ険しい。そんな中で新たに演算の塊たる現代魔法を詰めこむというのは土台無理な話であった。中学の頃の模擬戦で負けなしだったのは、魔法だけに専念すれば魔法力の高さによるごり押しで目の前の友人以外はなんとかできたからに過ぎない。

 他にも、無意識下での演算活動の拒絶や刀祢自身の異能への認識の齟齬など様々な要因が存在する。

 無論これは現状の話であり、これからの修練によって体に染み込ませることもできるだろう。だが、刀祢に魔法師として大成する気などさらさら無く、この状態から良い方向へ転がることはないというのは容易に察せられた。

 

 それでも刀祢に魔法戦ができるのは、誰も計り知れない戦闘センスの高さによるものなのか。それとも、友人への負けん気のなせる業なのか。真実は誰にも判らないが、結果として刀祢は実に彼らしい戦術を身に着けていた。発生速度を犠牲に魔法の規模に焦点を当て、自身のポテンシャルを最大限に生かせる魔法を探し出した。あとは効果範囲まで()()()潜り込み一撃で勝負を決める。

 

(さっさと懐に潜り込んでからあらかじめ起動しておいた単純工程魔法をゼロ距離で叩き込む。もう脳筋ここに極まるみたいな感じで、これが一番合ってんだよなぁ。今回出鼻挫かれちゃってるけど)

 

 それについて驚きはない。森崎がここまでやれるだけの実力を身に着けたのは模擬戦を始める前から察知していた。だからと言ってこちらのやることを変えるつもりはない。もし魔法以外で攻撃するのであればCADを持った腕を直接狙うしかないので、どちらにしろ近付かなければならないのだ。手札はばれているとしても使わず腐らせるよりはずっといい。

 

(距離あるのが不安だけど、大丈夫かな)

 

 範囲はいつも通りなら届くだろう。狙いがつけづらいが、それはもうあきらめている。異能を相手のに施すという概念を政狩家は一切持っていないが、術をぶつけることならやってきた。

 

(魔法師としての実力が劣っていても、戦において負ける道理はない)

 

 駿が駆け出す数瞬を挟み、刀祢の魔法が炸裂した。

 

 

 

 

 

 

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 放電、なんて物ではない。

 

 「雷」だ。何条もの雷が複雑に絡み合い波を作り出す。「雷の波」が駿が元居た場所を飲み込もうと押し寄せていた。

 

「ぐッ…、ぅ、うぉぉああああ!!!」

 

 狙いはずれている、直撃コースからは外れたはずだった。今駿を襲っているのは、魔法の奔流からあぶれた余波に過ぎない。それでも、これに触れたら最後自分は負けるのだと無理やり理解された駿は、全力で体をひねり眩い閃光から逃れる。判断速度の甲斐もあり、駿は規格外の「スパーク」を躱し切ることに成功した。

 

 

 

 刀祢は放出系の基礎魔法である「スパーク」を自身が持つ多大な想子と大規模の魔法演算領域を用いて、発動させる速度を捨て無理やり規模を広げることに成功した。その効果は今駿が味わった通りである。こんな芸当は普通の魔法師ならば考えない。威力と範囲で見れば、より効率よく成果を得られる魔法はいくらでも存在するからだ。

 何故刀祢がわざわざ「スパーク」を強化させて使用するのか。その理由は彼もまた「政狩家」の魔法師であることに起因していた。

 

 政狩の魔術刻印に記録されている魔術は全部で四つ。

 政狩と名乗る前から研究がされていた『火』の魔術(先代の記述によると『華祷炎儀』とか呼ばれてるらしい)

 自身の身体能力、そして感覚を引き上げる『強化』

 魔力をそのまま治癒力へと変化させ無理やり修復させる暴力的なまでの『治癒』

 視界を通じて身体や対象の構造、刀のすべてを見通すための『解析』

 

 見事なまでに、他人を対象に発動する魔術が存在しないのである。唯一他人に作用できる『火』の魔術の使い方も、もっぱら自身に纏ってぶつけるといった具合である。政狩の魔術師にとって魔術とは己に施す者であり、他人のことなど微塵も想定されていないのだ。

 「異能とはそういうものである」と既に刷り込まれた刀祢は、同じ異能という認識である現代魔法にも大きな影響が及び、自身以外を対象とする魔法を苦手としてしまったのだ。幸い(刀祢からすれば不幸だろうが)それを補って余りある魔法力の高さと、刀鍛冶によって鍛えられた集中力が高い実技での成績をもたらしたのだが。

 それでも実戦では上手くいかず、苦手分野とそうでないものの間にある差が顕著に表れた。はっきり言って実戦中で刀祢が苦手分野の魔法を使おうとすると、発生速度は二科生の中でも下位とされる結果となる。

 なので刀祢は比較的得意とする放出系、その中でも一番工程数の少ない基礎魔法である「スパーク」を発展させる形で実戦に持ち込もうとしたのだ。

 

 結果生まれたのが、たとえ距離が多少空いていようと無理やり放電する渦に巻き込む「雷の波」であった。

 

 

 

 

 

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 先の一瞬の攻防を見てギャラリーの多くは両者へ驚愕を抱く。特に実戦経験を持つ摩利や達也は、駿の思考による行動に舌を巻いていた。

 

(昨日の騒動から駿の身体能力の高さはうかがえたが、魔法に関しても間違いなく同世代の中では一級品。速度だけで考えれば数字付きが相手でも見劣りしないだろう。規模も事象干渉力も平均を上回っている。…だが、それだけじゃないな)

 

 達也は駿の行動が全て予定していたものだということを見抜いていた。相手の動きをあらかじめパターン化してその対策に準じた行動であると。その勝利に対する執念と実行に移せるだけの度胸がある駿に達也は素直に尊敬の念を抱く。それに相反するように、刀祢に対しては疑念のまなざしを向けていた

 

(身体能力、これに関してはおそらく俺と同等かそれ以上。だが魔法に関しては全く理解ができない。確かに基礎魔法に過ぎない「スパーク」をあそこまで発展させ、最早別魔法にまで変えたことを見るに実力はあるだろう。だが速度がおざなりに過ぎる。あれなら間違いなく別魔法を使ったほうが効率がいい。……実力を隠している?だとしたらなんのために……)

 

 達也は刀祢を観察し続ける。その視線に敵意が混じっていることに、達也は自身で気づくことは無かった。

 

 

 

 

 

 

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(相変わらず、馬鹿げた範囲だ…!しかも前より広くなってるな。成長してるのは僕だけじゃない、当然の話か)

 

 これをずっと至近距離で叩き込まれていた駿にとって、刀祢の「スパーク」はもはやトラウマに近い形で駿の脳裏に刻まれていた。あの余波を躱し切れたのは間違いなく体が考える前に動いたからだ。駿の敗北が記憶だけでなく、身体にまで刻み込まれている証拠だった。

 

(とにかく、急いで体勢を立て直さないと!あいつはこの瞬間にも…!)

 

 そう、この大きな隙を見逃すような甘い相手ではない。好機と見ればあいつは全速力で一直線に突っ込んでくる!

 

 

 駿の瞳が刀祢を捉える。腕のCADを操作し次の魔法の準備へと取り掛かると同時に、一気に近付いて自分のCADを蹴り飛ばす算段だと駿は確信した。今の体勢が崩れた状態ではとっさの回避は不可能。こちらが動き始めるまでに、相手は射程距離まで詰めてくるだろう。刀祢の実力を知りつくしていると言える駿にはこの結果が模擬戦の始まる前から解っていた。

 

(だからこそ、僕は準備してきたんだ)

 

 制服のブレザーの下、腰にマウントされている()()()()()()()()()()()拳銃形の特化型CADを駿は意識する。布石は打った。今刀祢の意識にはこの手元にある端末系CADしかないだろう。そのために「ドライ・ブリザード」という大きく印象付ける魔法を使ったのだ。策の準備は整いつつある。

 

(第二ラウンドだ、政狩!)

 

 弱者の証明が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 刀祢君「え?そういうファンタジックパワーって自バフをかけて物理で殴るものじゃないの?あと計算苦手なんです勘弁してください」


 いかがでしたでしょうか。いやー戦闘描写となるとやりたい展開も書きたいことも溢れちゃって困ります。これを全部アウトプット出来たらどれほど楽なものか・・・。


 次回も多分待たせちゃうことになると思います。どうか気を長く待ってくださるとうれしいです。

 今回も読んでいただきありがとうございました!

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