ばれへんばれへん‥‥
久々に感想ついて焦ってあげたけどもうばれへんばれへん
翌日
昨夜の長ったらしい論文じみた母からの手紙の内容などさっぱり忘れ、今日も朝の日課を淡々とこなして登校した。
今日の主な授業は実験施設棟の研究室や保管されている研究対象を教員の説明と共に見学することだった。ぱっと見の感想としては正に近未来的科学実験室という言葉がふさわしいだろう。ハイテクな顕微鏡に陳列するデバイスコンソール、まるで用途が想像できない大型機械など、かつての魔法のイメージとはかけ離れた場所だった。
「このように、当校では先進的な魔法実験を積極的に取り扱っており、先日公開された‥‥」
指導する教員が身に着けている白衣。説明用に配られた電子タブレット。いたるものがここに最先端の科学が集まっているのだと訴えてくる。
ここに通うたび、魔法を学ぶたびに、現代の魔法はかつての空想の産物からかけ離れてしまったのだと思い知る。中学の頃は現代から見て前時代的な座学が多かったためか、ここに来る前と比べてそう感じる機会は多くなった。だからとって特に抱く感慨はないのだが。
「なんだこれ」
配られた資料には一瞬だけ目を通し、教員の施設説明そっちのけで生徒が意識を向ける方向と別区画のものに目を奪われていた。その中に一つ、ガラス管に保存された手のひらほどもない大きさの鉱石が部屋の明かりを反射して鈍色の光を放っている。近くには「レリック アンティナイトサンプル」のメモ書きが張り付けられていた。
(ええと…魔法的な性質を持つオーパーツ、つまり出土した時代の技術水準を大きく上回る加工が施されているものは「
タブレットからレリックについて知らベれば、大体の内容が理解できた。
なんかごっちゃになるな。聖遺物なんて大層な名前なんだから教会由来のものを想像していたけど。現代魔法においては宗教や国、技術系統に区別なくなんかよく解らん昔の不思議アイテムは大体レリックと呼ぶらしい。
(母さんが聞いたら頭抱えそうだな)
────体系分類と時代区分構成は概念分析の基礎中の基礎でしょう!?
(うん、めちゃくちゃ言いそう)
だけどどのような研究がされていたのか一通り見てみると、出てきた構造や構成物質の解明と加工方法の研究ばかりだった。残念ながら考古学的、オカルト的分析は全くと言っていいほどされていない。それも科学分野一辺倒である現代魔法であることを考えれば仕方のないことなのかもしれないが。
ともかく、鉱石なんてものが絡むと考えてしまうのはやはり、「錬鉄できるか」の一点になるのは鍛治師の性なのだろうか。このアンティナイトって鉱石を鍛えた刀は一体どんな出来栄えになるのだろう。刀そのものもそうだが魔術、現代魔法的相性なんかも色々気になる。
魔法の発動を妨害する鉱石を錬鉄した刀。どんな効能が生まれるのか、それとも全く意味のない代物なのか。
「ねえ、君!」
「───あ?」
一瞬ひらめきかけてたら、小柄な赤毛の女子生徒に声をかけられた。隣には栗毛のショートボブの女子もいる。誰だこいつら、てか周り俺たち以外もう誰もいねえじゃん。
「もうみんな先に移動しちゃったよ?何見てたの‥‥って、これアンティナイト?」
「こっちは殺生石の一部だって。色んなものがあるねー。」
俺をそっちのけで今度はガラスの中の石を二人で覗き始めた。あれ、他のやつらは先に行ったんじゃなったのか?早く追いかけねえと置いてかれちまうぞー。
どうにも役目が逆転してるが、このままでは俺まで巻き込まれる(自身の責任は棚上げ)ので仕方なく見知らぬ女子生徒二人に声をかける。状況的にクラスメイトなのに見知らぬは可笑しいだって?俺がクラスの顔を憶えているわけ無いだろJK。
「次、どっちいったの」
「え?あっやば!サクラ急がないと!」
「うんエイミィ!君も、こっちだよ!」
ようやく思い出したようで、二人とも足早に部屋を出て廊下を駆け出していく。俺は見失わない程度に歩きながらその後をつけていくことにした。一緒に行くのが恥ずかしかったからとかでは決してない。
それにしても、なんだか喧しい女子二人だった。ああいう手合いは苦手だ、一度関わると距離の詰め方が光の速度を超えてくる。
(特に赤毛のちっさい方、あいつは母さんと少し似た臭いがする)
具体的に言えば、面白そうだからと予想できるトラブルを無視するというか、巻き込むことにためらいがないというか、頭いいのに馬鹿になれるタイプだぞアレ、絶対。とりあえずは、
(もし聞かれても絶対名前は答えないでおこう)
呼び合っていた二人の名前を瞬時に海馬の外へオーバースローを決め込み、新たな決意を固く胸に刻みこんだ。合掌。
「ねえ、やっぱり‥‥」
「うん‥‥だよね!」
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そんなこんなで過ごしている間に時間は進み、今日一日分の授業をあっという間に終えてしまった。張りつめていた集中の糸が途切れ、体を動かした後とは別種の頭がしびれるのような倦怠感にさらされる。
(そこまで熱を入れるつもりはなかったんだけどな)
鍛冶師を志す俺に魔法で大成しようだなんて気はさらさらない。それでもここを卒業することが家督を継ぐ条件である以上、ある程度真面目にこの魔法科高校の授業には取り組まなければならないだろう。
そんなつもりでいたのだが、俺は割と真面目に楽しんで授業を受けている。それは魔法が意外にも俺の知的好奇心の一部を誘っているからだ。
中学までの魔法の座学は、主に魔法基礎や現代魔法の四系統八種類、魔法の歴史の概要なんかが中心で魔法師を目指していない俺にとって非常に退屈なものだった。そもそもそんな奴が魔法を学んでいることがおかしいというのは置いておく。
しかし、この高校はさすが魔法科というだけあって各分野をより専門的な授業を受けられる。特に今日のレリックといった発掘品や刻印型術式などは、母から学んだ魔術知識にどこか通ずるものがあると感じられた。それと同時に、より知識を深めていき実戦レベルになれば鍛冶に取り込めるのではと感じる。そうなってくると熱が入られずにはいられないという訳だ。
なので魔法を学ぶという点においては俺はここに来たことに後悔はしていない。だが魔法の授業のすべてに関心があるわけでもなく、関心が薄ければ薄いほどそれを学ぶことはただの作業になってしまう。さらには人にはキャパシティというものがございます。つまりキャパをオーバーしたものは頭に全く入らなくっていきまする。とどのつまり、
(わからん‥‥)
入学式から今日で四日目。わたくし政狩刀祢、自身の学力の無さに心が折れそうになっております。
「はぁあああぁぁ───」
最後の授業を終え、頭からプスプスと煙を上げショートしている思考回路ごと、体をコンソールの上に投げ出し、地獄の怨嗟ようなクソでかため息を吐き出す。
どうしよう、ここ最近の憂鬱が「原作に巻き込まれれそうで怖い」から「魔法を学ぶのがつらい」にシフトチェンジしてきている。そのくらいここの授業はレベルが高い‥‥正直言ってついていける自信がまるでない。ここまで打ちのめされたのは父さんに初めてボコされて以来かもしれない。いや、諦めそうって意味では二度目の人生初めてだわ。
魔法基礎はまだ解る。中学でずっとやってきたことの応用みたいなもんだし、ついていけないことは無い。だけど!なんだよ魔法言語学やら薬学やら構造学やらは!?なんでも魔法ってつけりゃあいいってもんじゃねえZО!?やること急に増えすぎなんだよ、薬学とか明らかに分野違うだろぉ!?
いや、例えやることが増えたにしてもだ。何故だ、どうしてだ‥‥!もうちょい詰め込んでもいけるだろう!こんなはずではなかった!いくら脳筋一家の血を色濃く継いでいるとはいえ、母はあのアトラス院出身の錬金術師だぞ!思考分裂のリハビリと言って右手で円周率を、左手で2の平方根を永遠と書き続けるあの政狩アイナの遺伝子を受け継いでいるんだ。地頭は決して悪くないはずなんだ‥‥!
なのに、どうして!?
「‥‥中学までは余裕だったんだ」
「僕と大山が結構付き合わされたけどな」
「‥‥一般科目は高得点だったんだ」
「数学、僕がつきっきりで教えたけどな」
「‥‥推薦に座学は必要なかったんだ」
「実技試験の頻出課題、教えたの僕だけどな」
ぐうの音も出ねえや、ぐう。
「意外にまだ余裕ありそうだな」
「そう見えるか」
「全く」
おっしゃる通りで、こんなものただの意地だっつーの。自棄とも言う。こんな情けない姿をこいつに晒すことはなるべくしたくないのだが、前にそれを言うと今更かという苦虫をこれでもかとかみ殺した表情を浮かべてきた。解せぬ。
視線を上げると惨めな俺を見下す瞳にはこれまでの気苦労がそれはもうありありと伺える。かけている張本人がいうことではないわな!ハッハッハッ!‥‥はぁああぁぁ───
「中間試験はすぐにやってくる‥‥放課後は空けられるぞ」
「‥‥頼む」
やはり、持つべきものは親しき友だ。これからもテストノートみせてくれよな!あと数学のカンヅメだけは勘弁で。
体を起こすとそこにアニメじゃ量産コピペを張り付けたような顔がある。我らが最後の砦、森崎さんの御成りだった。
「よう、森崎」
「ああ、とりあえず今は基礎だ。頭に入らなくとも話は聞き逃すな。後で聞きに来たらいい」
最近森崎の俺内株がストップ高な件について、もしかしてこいつは聖人なのではないだろうか。いつか森崎の纏う制服が聖骸布となる日が来るのかもしれない。聖モリサキの聖骸布‥‥語呂が悪いな。うん、聖人方向は無しで行こう、教会に碌な奴はいないって母さんも言ってたし。協会も碌でもないだろって?そもそも魔術に関わる奴が碌でもないんだよ、この俺も含めて。
「で、何の用?」
「お前を迎えに来たんだよ」
「なんで?」
「昨日放課後どうしろって言われたか、憶えてるか?」
えっとほら‥‥あれだろ、あれ。なんかで学生が暴徒と化すからボコって鎮圧するするみたいな。そこまで物騒じゃない?嘘つけ前世で見たとき絶対ヤバいこと起こってたぞ。もう内容までいちいち覚えてないけども。
「・・・・・テロリストの粛清」
「風紀委員をなんだと思ってるんだ」
はい、昨日の話も右から左へ素通りして忘れていまする。
「先輩方の話くらい聞いておけ。人の話を聞かないのはお前の悪い癖だぞ」
「そう」
こんなやり取りももう3年目となると適当になるというもの。森崎も言い聞かせるというより言わずにはいられないというだけだろう。とは言え、風紀委員は自分から進んで飛び込んだのだし、あまりにこれは無責任か。業務連絡くらいは頭に入れるようにしなければ。
「放課後に委員会本部集合、だ。今日からの部活勧誘週間、いきなりだが手伝ってほしいって委員長が言ってただろ」
「ああ」
そういえばそうだった。明日から本格始動みたいなこと言ってたなあのサバサバ女。渡辺先輩だったか、時間にはうるさそうだし、急いだほうがいいか。授業が終わってから既に十五分は経過している。校舎が無駄に広いから移動に時間喰うっていうのはここ数日で理解している。
「新人が先輩方を待たせるわけにはいかないだろう。さっさと行くぞ」
「わかった」
勉強疲れで躰がたるいがこうも急かされては仕方がない。コンソールに放り投げていた状態を起こし、一度大きく伸びをしてから教室を出ようととした時だった。
「あ、政狩君!もう帰るの?」
甲高い声に、ピシッと体が固まる音がした。
ついでに2時間前の決意も凍り砕けた。
「暇だったら狩猟部に見学に来ない?楽しいよー馬乗ったり猟銃構えたりするの!」
「エイミィ、政狩君たちどこか行くところがあるみたいだよ」
今、俺ノ名ヲ呼ンダノハ、ドチラ様デセウカ?
首をカクつかせて音のする方へ振り向くと、見覚えのある大小栗赤色二つのシルエットが並んでいた。何故だろう、彼女達の足音が俺の棺桶を引きずる音に聞こえてくるのは。
森崎はどうやら二人と知り合いらしく、余裕そうにニヒルな笑みまで浮かべていた。全く似合っていないぞ森崎。そういうところは見直した方がいいと思うぞ森崎。若干女子たちも引いているぞ森崎。
「すまない、これから風紀委員に行くんだ」
「えっ!入学初日にもう何かやちゃったの?」
「違う!僕たちは風紀委員に選ばれたんだ!」
完全にペースを乱されていた。さっきまで取り繕っていた余裕はどこへ行った。
「へえ、すごいじゃない!政狩君もそうなの?」
「‥‥一応」
うん、嘘は言っていない。風紀委員に入るつもりはないけど。
俺のペースなんてものはもうどこにも存在しない。乾いた喉から絞り出した声は、これまで出した声で一番感情が載っていなかった気がする。名も知らない、もう一度言う、名も!知らない!女子二人はキラキラしたまなざしを俺に向けてくれたが、大変胃が痛くなってまいりました。
「それじゃあ勧誘はまた今度かな。じゃあね政狩君!」
「二人ともお仕事頑張ってね」
そういって二つの台風は手を振って過ぎ去っていく、俺の心の安寧に大きな爪痕を残しながら。膝から崩れ落ちなかったのを褒めてほしいぐらいだった。
ああ、神よ。何故誰もかれも私の決意を裏切るのです。教会を胡散臭いといったからですか?だってしょうがないじゃないですか、私の知る神父やシスターはともに外道と悪魔なのですら。この世界にまともな神職者なんていないのなら、教会なんてヤバい奴らの巣窟くらいにしか思えませんて‥‥
まず、どうして二人は名前を知っていた‥‥。自慢じゃないが俺はここに入学して自分の名前を教えたことはほとんどない。知られるとしたらあの原作組のやつらが話すくらいだろうけど、あんな二人俺の記憶にないし主要人物じゃねえだろ。どういうこった‥‥。
「政狩、クラスに一人も友達がいないのはどうかと思うぞ?僕がお前の名前を尋ねてもみんな首をかしげるだけだったし。あの二人がようやくお前に思い至ったんだ。せめて最低限名前の交換くらいだな」
「モブ崎のバカ、カッコつけ、あんぽんたん」
「僕の名前は森崎だ!!」
最初に突っ込むのそこなのかよ。
もう自分の中で旬を逃した気がして仕方がないや