少し遅くなりました。サブタイトルの通り、念願の刀鍛冶回です。自分なりに調べて書いてみましたが「ここは違うだろ」と感じたなら感想を下さい。
それではどうぞ
あの事件から月日が経って、俺は中学2年生になった。俺のやることは変わらない。爺やに鍛冶と剣の腕を師事し、政狩を継ぐために鍛錬を続ける日々だ。
だけど司波がいなくなってから学校に行くと、何故かやるせない気持ちになることがあった。そして、心の中をある疑問で埋め尽くしてしまうのだ。
本当にあそこまできつく突き放す必要があったのか?高校に行ったら別れると決まっているのだから原作なんて気にせず普通に接していれば良かったのではないか?
(違う、あれで正解だ。今はいないとしてもあのまま一緒にいたら間違いなく兄である主人公に目を付けられていた。司波深雪は、俺の人生の邪魔になる存在だった。)
本当に?
(ああ、本当だ。)
でも女を泣かせたぞ。
(……)
それは置いとくにしても、もう一つ不自然なことがあっただろう?
(何故俺はあの時、殺気をぶつけるような真似をした?)
前世でも俺は刀鍛冶だったんだぞ。「時代遅れ」「人生を棒に振る」よく言われた言葉だ。若い頃は確かに癇癪を起こし度々手を出すこともあった。だが二十代を過ぎればそんな事はほとんどなかったと記憶している。憤りはするが波風立てるようなことではなかったはずだ。
(俺がまだ未熟だからか?いや、これでも一度は寿命を迎えた身だぞ。それはないと断言したいが・・・)
少し前に、家族にこの事を話したら「刀弥にもちゃんと子供っぽいところがあったんだな」と全員から笑われた。
後で相手は女子で殺気をぶつけて泣かせてしまい一度も話すことなく別れた事も伝えたら、全員から拳骨を頂戴することになってしまったが。何故か一番力が弱い筈の母さんの拳が最も痛かったのを覚えている。
(精神が体に引っ張られているのか?)
それならば話は分かる。精神と体は親密に繋がっているのは科学的にも証明されている。恐らく普段の心の中での言動だけはまるでイタい中学生みたいなのも・・・
(あれ、俺って前世はどんな性格だったっけ?
・・・いや、まて。それは今考えることじゃない。今俺がやるべきことは集中力を限界まで高めること。余計な思考は捨てる時だ。)
集中状態で疑問を持ってしまったせいか。思考が余計な方向にいっている。俺は未熟だった、そう受け入れよう。家族が命令した通り、(ないだろうが)次あった時には殺気をぶつけたことをを謝る。そして向こうも謝ってきたならちゃんと受け入れる。それでこの話しは終わりだ。
今やるべきことに戻ろう。時期的には今は夏休みの真っ只中だ。年頃の子供なら元気に遊び回っている時間だろう。俺にその気は全くないが。俺はこれから、一世一代の大勝負にでようとしている。それに備えるために今は、
「・・・」
家の自室の真ん中で、座禅を組んで心を落ち着かせいる。始めてもう一時間近く経っているがまだ解く気はない。生半可な集中力では絶対にいけない。
「・・・」
今年に入ってからずっと爺やに頼み込んでいたこれは、この世界に来てからの悲願だった。そして、未熟と自覚したと己を叩き直すという意もこめている。たとえ誰が何と言おうと、今日これだけは譲る訳にはいかない。
「・・・」
今の俺は、上着を脱ぎ右腕に母さんが編み直した魔力封じの布を魔術刻印がある右腕に巻き付けるという、千子村正と同じ格好をしている。魔力封じの布も、俺がデザインを提案して村正と同じものになるように頼んだ。母さんはやっと頼み事をしてくれたと張り切っていた。
「・・・」
頭は完全にクリアーとなった。が、心の興奮はいつまでたっても収まらない。ならばそれでいいと捨てておく。これからは、この情熱がとても大切なものとなる。
「・・・」
持って行く物は、この世界で学んだ政狩の
「・・・」
あと、あと少し、あと少しで、俺の集中力は限界に達する。余計なことは考えるな。そして思い出せ。
「・・・よし」
ゆっくりと、目を見開く。準備は出来た。ならあとはやり切るのみ。
立ち上がり自室を出て、家の外れに建てられた鍛冶場のある小屋をを目指す。小屋の前には既に爺やが佇みながら待っていた。
「来たか。」
閉じていた目を開き、真正面から向き合う。その姿はまるで生者が通ることを拒む地獄の番人のように見えた。
「準備はもういいのか?」
「はい」
「確認するぞ。これからお前がやろうとしているのは政狩の伝統、「
もう一度問おう。お前はこの試練を受けるか?」
「はい」
夢に見た、思い焦がれた、待ちわびた
俺の悲願への第一歩
今なら自信を持って言える。
「俺は、この時の為に生まれてきた。」
「そうか。
・・・ならばここに!現政狩家当主
扉が遂に開かれる
己が挑むはこの世の地獄
描くは理想の刃のみ
不安も躊躇いもありはしない
確固たる思いを胸に足を踏み出す
「刀弥!」
母さんの声が届く。あんまり大きな声出さないでよ。集中が途切れちゃうじゃんか。
「死ぬんじゃないわよ!絶対に帰ってきなさい!アンタの好きな鯖の味噌煮、作って待ってるから!」
母さん料理出来ないだろうが。いっつも男手に任せているくせに。魚がボロボロに崩れて出てくるのが容易に想像できる。
「刀弥、僕からは何も言いたくない。けど、これだけ。生きろよ。僕より先に死ぬなんて許さないぞ。」
当たり前だよ。ここじゃ死ねない。ここは俺の死に場所じゃない。前みたいにやり遂げられずに死ぬのなんてまっぴらごめんだ。
振り向いて答えるなんてことはしない。ただ頷いて、扉をくぐった。
扉が閉められた。
俺はこの世界で初めての刀鍛冶に挑む。
ーーーーーーーー
扉から手を離す。しばらくの間、龍馬はその場から動くことは出来なかった。一つの疑問が彼の胸の中でずっと引っかかっている。
(何故、刀弥はいきなり『真打の儀』を申し出た?)
正確に定められている訳ではないが、本来『真打の儀』は人の世を捨ててから、現代では高校を卒業してから行うべきものなのだ。
政狩に生まれた人間は、その人生の殆どを政狩の敷地内で過ごす。勿論、他の全てを捨て求道に邁進するためだ。
なら、この『他の全て』とは何を表すものなのか。それは、『只人としての人生』『人が当たり前に持つ幸せ』のことだ。
幼き頃に『只人』としての生き方と『政狩』としての生き方の両方を覚えさせ、自分は他の人間とは違っているということを理解させる。そして「己は政狩の人間だ」という感覚を心の底にまで刻み込む。思春期を越えるまでそれを続けさせ、真打の儀を受けさせる。最後に魔術刻印と当主の座を渡す時にこう告げるのだ。
「お前はここに『只人の幸せ』を捨てた。その残骸の上に、今のお前は『政狩』として立っているのだ。」
既に自分はこの世から外れ、幸せを犠牲にしたことを自覚させる。高校まで学校に通わせるのはそのためだ。最初から家のことしか知らない人間と、一度普通というものを知りそれを捨てて道を選んだ人間とでは心構えは全く違う。『当たり前のこと』と『特別なこと』どちらの方がやる気がでるかなんて聞くまでもない。初めて行わせる『真打の儀』は、刀鍛冶としての腕調べの意図もあるが、それを相手に彫り込む為の手段である側面が大きい。二度目以降は己が根源に至る為の本作を打つことに意味がある。さらに初めての真打で打った刀が一定の評価を受けられなければその人間は政狩を継ぐ資格を失ってしまう。だから龍馬も郁磨も初めて『真打の儀』を体験したのは高校を卒業してからなのだ。
(それはもう刀弥には必要ないとして先に話していた。あいつは必ず政狩を継ぐ選択をとると解っていたからな。だが、まさか魔法科高校を選ぶとは思わなかったが・・・。)
それを聞いた直後は心が乱れてしまい鍛錬は少しばかり力んでしまったが、刀弥の太刀筋を見てそれは誤解だと判った時は柄にもなく安堵の溜め息を吐いたのを憶えている。
(それは別として、なのにアイツは「今打ちたい」といった。「真打の儀で今の己を試したい」と。)
最初はもちろんのこと断った。お前にはまだ早い、高校を越えるまで待てと。なのにこうなってしまったのは、
(あの目だ。私はあの燃えるような目に負けたのだ。まるで、《鍛冶師が持つべき理想》とも言える、一瞬に人生を懸けようとしている、あの目に・・・。)
まるで地獄から這い戻った死者であり、生へと全力で縋る老人であり、ただただ夢を想う子供のようでもあった。
見てみたいと思った。今の刀弥がどんな刀を打つのか、次に真打に挑んだ時にどこまで成長しているのかを。だからあの馬鹿息子の猛反対と拳を受けながらも、孫の背中を押したのだ。
それを思い出せば、刀弥が挑んだ理由などどうでもよくなっていた。今はただ、自分の孫の挑戦を見守るのみ。
「見せてみろ刀弥。今のお前が何を望み、どんな道を選ぶのかを。」
「あ、やっと戻ってきた。お爺様ったら、朝からずっと小屋に籠もっていたから昼食がまだでしょう?準備は出来ていますから、早く座って下さい。」
「作ったのは僕だけどな。」
「細かいことはいいのよ。それにお爺様も、私に準備してもらった方が嬉しいでしょう?」
「当たり前だ。こいつが私の為だけに準備したなんて思うと虫ずが走る。」
「僕だってゴメンだよ、クソオヤジ。」
「二人ともケンカしないの。はぁ、刀弥がいないとすぐこれなんだから。ほら、お爺様の食事が終わったら明日の準備をしましょう。」
「ん?明日何かあったっけ?」
「忘れたの?明日でしょ、刀の取引。ほら、例の魔法師の家の。」
「ああ、千葉家との取引か。そういえばもうそんな時期だったな。」
「数少ない取引先なんだから、失礼があっちゃダメでしょう?ちゃんとしなさい。」
「はいはい、分かったよ。」
ーーーーーーー
それでは早速始めるとしよう。
まずは小屋の中にあるものを調べていく。えーと、食料は全て乾燥された保存食のみ。乾パンとか干し柿や煮干しが多いな。汗拭き用のタオルが数枚、毛布。生活品はこれだけだな。厠や井戸から引いた水道は小屋に付いているから問題ない。火床から離れたところには藁で編まれた寝床もある。うん、ここまであれば充分だ。
次に刀鍛冶に必要な道具を見ていく。大鎚が一つに小鎚が二つ、
だいたいこんなところか。本当に必要最低限のものしかない。それと今は夏真っ只中だ。山の上にあるし風通しも良いように作られているが、鍛冶を始めれば小屋の中は灼熱と化すだろう。水分補給も忘れちゃいけない。
よし、やるか。
玉潰しやてこ棒の床造りなどは既にされているから省き、まずは「積み沸かし」だ。
てこ棒の先に選別した玉鋼を積みあげていく。この時なるべく隙間なく、不純物が出て行きやすいようにする。まあ、ここにあるのはどれも最高純度の物ばかりだからいらないかもしれないが念には念を入れて。ここで積み上げる量は作ろうとしている刀の重さの約十倍分だ。そんなに?と思うかもしれないが、後の作業で多くの鉄を叩いたり切り落としたりするのでこれくらい必要になる。積み上げた玉鋼を、水焼き粘土や稲藁の炭などで塗り固めていく。こうすることで表面の酸化鉄が綺麗に飛ばされ純鉄が表面になるため境目なく鍛接する事が出来るのだ。
終われば次は火を準備。木箱の中から大量の炭を火床の中に投げ入れる。そして魔術回路を起動。魔術を使って火床の中に火をつける。最初はただ炎を出すだけだったが、しばらくすれば炭が赤くなり火花を上げるようになった。
これで準備完了。自身に身体強化の魔術をかけて10kg近くあるてこ棒を持ち上げる。そのまま火床の中に鉄が落ちないようにしながら突っ込んだ。あとは鉄が1500度近くまで熱せられるまで見ておく。
心が満たされていく。たったこれだけの工程で、挑んで良かったと思える。
そうだ、これが、これこそが
「積み沸かし」が終われば、次は「折り返し鍛錬」に移る。赤く染まった鉄を火床から取り出し、金床に置いた。そばに置いてあった一人鍛冶用の大鎚を取り、振り上げる。
さあて、ここからが政狩の腕の見せ所!
再び魔術回路を起動、熱した鉄に魔力を注ぐ。これが政狩の刀鍛冶の秘密の一つ。魔力を注ぎ続けることで鉄を高温で保ち鍛えやすくする。これによって、スムーズに作業を進めるのと、より強く鉄を鍛えることができる。だが、いつまでやっても見た目がほぼ変わらないため、引きどころの見極めがとても難しい。
(けど、
鎚を振り下ろした。
カンッ カンッ カンッ カンッ
一定のリズムを刻みながら、魔力を注ぐのも途切れさせない。知識と経験を混ぜ合わせ、最適解を導き出していく。大鎚で大体の形を整え、細かい調整は小鎚に持ち替えて打っていく。
カンッ カンッ カンッ カンッ
ある程度まで鉄が伸びたら、鏨を間に挟んで折り目を入れ、縦横四つに曲げて重ねる。これは「十文字鍛え」という鍛錬法だ。この時余計な空気が入ってしまっては、鉄が酸化してしまい全てが台無しになる。細心の注意を払いながら折り曲げる。よし、この様子なら十五回ほど重ねれば充分だな。だがいつでも誤差を修正できるように集中せねば。
この「積み沸かし」と「折り返し鍛錬」を二回行い、二つの鉄を造る。一つは硬い鉄で作った甲伏せ用の皮鉄、もう一つは柔らかい鉄で作られた心鉄の二つだ。次の作業「造り込み」でこの二つの鉄を使う。
(けど、今日出来るのはここまでだ。魔力の使いすぎになったらいけない。使い切ってまた全快するまで待つなんてやってたら、十日じゃ絶対に間に合わない。)
少量とはいえ、ずっと魔力を鉄に流し続けているのだ。その消費量は馬鹿にならない。魔術回路が他より多い政狩の人間だからこそ出来る芸当だろう。
(魔術を使う工程はまだたくさんある。定期的に休んで回復させないと最後の方は動けなくなる。休みすぎてもだめだ。それじゃ期間内に終わらない。そして集中を切らせば最悪死ぬか。・・・いいだろう。やってやる!)
獰猛な笑みを浮かべ、己を鼓舞する。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
小屋に入ってから、既に六時間が経過している。たった今鍛錬を終えたところだ。金床の上には完成した皮鉄と心鉄がおかれている。
(予想よりも、魔力の消耗が多かったな。無駄な魔力を流しはしなかった筈だが。俺の見立てが甘かっただけか。けど、一番の問題はそこじゃない。)
ずっと注ぎ続ける魔力を調整しがら鉄を打つ。言葉にすれば簡単だが、とんでもない集中力を必要とするのは想像に難くない。しかもそれを半日もの間続ける事を、あと九日。
(頭が、割れるように痛い。この世の地獄という意味がやっとわかった。確かにこれは生き地獄だ。)
けど、爺やは、父さんは、俺のご先祖様は、これを乗り越えて「政狩」となった。ならば俺も乗り越えなければならない。爺やから学んだモノを無駄にしないために。
何より、
(そのためにも今は休もう。朝にはある程度まで魔力は回復しているだろう。そうしたら作業は再開、次は「造り込み」と、刀鍛冶の山場である「素延べ」だ。)
保存食しかない質素な夕食を食べながら明日の予定を立てていく。
(「素延べ」は時間的には丸々一日かかる。一度にやろうとしたら間違いなく魔力が保たないから、晩辺りは休んで深夜再開って風になるかな。)
藁を敷いて、寝床の用意をする。そこに寝転がって時計を確認し、毛布に身を包んだ。
(俺はやりきるぞ。そして「政狩」を継ぐんだ、絶対に。・・・明日が楽しみだな。)
これまで浮かべたことのない無邪気な子供のような笑みをしながら、俺は微睡みの中へと沈んでいった。
次回は二人目の原作キャラクターが登場(メインキャラとは言ってない)更新は期末テストが近づいて来たので遅れるかもです。
ところで型月廚の皆さん、憑依と聞いて何を思い浮かべますか?