面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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ひとつの区切り
無事100話到達。みんな本当にありがとう。これからもダラダラと代わり映えのない話が続いていくと思うけど、見捨てないでくれると嬉しいわ。


玄関を開け放った聖堂に歓声と拍手が鳴り響く。

番外編よろしく立食パーティー形式にして、

暇なやつをとにかく呼びまくって記念祭の真っ最中。

なんで玄関を開けてるのかっていうと、スペース確保の意味もあるけど、

今日ばかりは変なやつにドアをノックされたくなかったから。

最初から開いてたら叩きようがないでしょ。

 

“おめでとう!”

 

「うん、ありがとう」

 

“やったね!”

 

「あんた達モブキャラのおかげよ。教会のメンツだけじゃ、10話も持たなかった」

 

“開始からまだ1年半しか経ってないなんて信じられない。”

 

「あの飽きっぽい奴がよくここまで続けたもんだわ。

今日だけは褒めてやってもいいかもね。

100話書いてもまだ1年半なのは、馬鹿みたいに連投してた時期があったからよ。

あたしも驚いてる」

 

名も知れぬ招待客から祝福の言葉を浴びる。少々人を入れすぎたかもしれない。

若干めまいがするけど、今回はぶっ倒れる訳にはいかない。

酒も我慢してぶどうジュース。さて、そろそろ挨拶のひとつでもしようかしらね。

 

あたしはステージに上がると、マイクを取って、あ・あ、と軽くテストした。

客が一斉にこっちを見る。

早朝からジョゼットと用意した軽食を美味しそうに食べてくれるのは嬉しいんだけど、

人が喋ってる時くらいは口を止めてほしい。……まあいいわ、今日は無礼講よ。

 

「えー、皆さん。今日はうんざり生活100話記念式典に来てくれて、本当にありがとう。

今まで色んな事があったけど、

ネタ不足に悩まされつつ第1話からやってこれたのは、みんなのおかげだと思ってる。

繰り返しになるけどもう一度言うわ。ありがとう」

 

そこで一度ぺこりとお辞儀をした。また拍手が沸き起こる。

 

「まずは今日来られなかった人達から祝電が届いてるから紹介したいんだけど……

既に一番どでかいのが壁に飾ってあるから適当に眺めて」

 

説教台の後ろ側の壁に掛けた1枚の肖像画を手で示す。

みんなから驚きと感激と若干の困惑の声が聞こえてくる。

 

“まあ、素敵な絵”

“でもあれ、里沙子か?”

“あんなに可愛かったかしら”

 

「オホン。言いたいことがあるのはわかるけど、

これは“奴”が勝手に注文した品で、違和感があるとしても、

絵師さんに依頼する時にあたしの特徴を伝えきれてなかったせいよ。

これを絶対の公式設定にするつもりはないから、

ディスプレイの前の皆さんも今まで通りにあたしを想像してくれればいいわ」

 

“アハハ!かわいいぞ、里沙子ー!ドレスがすんげえ似合ってる!”

 

やっぱりというか、あたしと絵を交互に指さして囃し立てるやつが現れる。

 

「ルーベルうっさい!曲がりなりにもファンタジーのSSだってんで、

絵師さんが世界観に合わせてデザインしてくれたのよ!」

 

“うぷぷ、里沙子がリボンいっぱいつけてる!24のくせに!”

 

「ピーネも黙りなさい、もうお小遣いあげないわよ!

……ああ、ちっともプログラムが進みやしない。

冷やかしは放っといて、法王猊下からのありがたいお言葉から」

 

《もはや帝国にその名を知らぬ者のおらぬ、斑目里沙子殿の降臨から間もなく2年。

記念すべきこの日に文を送る。孫もそなたの背を見てたくましく成長したように思う。

最近は何もしていないようであるが、貴女のますますの活躍を心から祈る。

法王ファゴット・オデュッセウス12世》

 

「ちょっと何かが引っかかるけど、法王猊下の祝電でした!はい、拍手!」

 

薄い窓ガラスが割れるほどの拍手喝采。

平日の昼間にタダ飯目当てに集まるような連中に信仰心があったことは驚くべき事実。

続いて2通目を読み上げる。

 

「次は皇帝陛下からも祝電を頂いてるわ。読むわね」

 

《魔王討伐、そしてトライトン海域共栄圏設立の立役者である貴女が

我が国に降り立った事を誇りに思う。

その後の活躍が全く聞かれなくなって久しいが、便りがないのが良い便り。

妹君と仲睦まじく暮らしていると信じている。

最後になったが、短いながらこの言葉を送る。おめでとう。

第147代皇帝、ジークフリート・ライヘンバッハ》

 

「聞いた聞いた!?皇帝陛下が直々に“おめでとう”ですって!

法王猊下と同じく首を傾げる表現がなきにしもあらずだけど、

これは滅多にないことなのよ?わかる?」

 

“あー、はいはい”

 

はしゃぐあたしを冷めた目で見る聴衆に、短い祝辞が綴られた上質な紙を見せびらかす。

確かにここんとこずっと地道な活動に徹してきたから、

帝都にあたしの働きぶりが届いていなかったのかもしれない。

近い内になんかやりましょうか。ちなみにアイデアは何もない。

別に褒められたいわけじゃないけど、

政治や国教のトップとのつながりは大事にしたいのよ。

 

「えー、まだまだ祝電はあるのですが、

あいにく全てをお読みするには時間がありません。しばしご歓談をお楽しみ下さい。

あたしもそろそろ飯が食いたいので」

 

よっ、とステージから飛び降りると、ルーベル達が飲み食いしているスペースへ。

サンドイッチを手にしたところでまた冷やかされる。

 

「しっかし、何が届いたかと思えばお前の絵かよ。お前より可愛げがあるぜ」

 

「本当に時間止めて油性マジックで顔に落書きするわよ」

 

「そんなことありませんよ?ここにいる里沙子さんも十分魅力的ですから」

 

「うん。お洒落してるお姉ちゃんも、かわいいけど」

 

「フォローありがと。エレオとカシオピイアは大人ね」

 

「でも、絵の中の里沙子さんも不機嫌そうな顔です~

これじゃいつもと変わりません……」

 

「だいたい胸にぶら下げてるのは何なのよー。ペンダント?水晶?」

 

「ああもう!そうかと思えばあんたらは文句ばっかり!

これはマナが発光してるミニッツリピーター!……と思うことにしてる。

せっかく絵師さんが描いてくれた設定なんだから大事にしなさいよ!」

 

「誤解すんなって。絵そのものは馬鹿にしてないぜ。

まさか奴が無料だから始めた趣味に

リアルマネーつぎ込むとは思っても見なかったからさ」

 

「まぁ、その点に関しちゃあたしもびっくりよ。

コミッションで予算に見合った絵を描いてくれる人を見つけたって話を聞いたときは

半信半疑だったし」

 

Wordファイルとミドルファンタジアを繋ぐ報酬がまさかpngファイルだったとはね。

世の中便利になったもんだわ。

 

「コミッションってなんだ?」

 

「色んな絵描きが予算に応じて要望通りの絵を描いてくれるサービスよ。

誰を描いても同じ顔にしかならないあいつにまともな絵が描けるわけないじゃない。

……ところでパルフェムは?」

 

「あら、さっきまでそちらにいたのですが」

 

「ちょっと見てくる」

 

ハムタマゴを一切れだけ食べて、パルフェムを迎えに行く。

人混みをかき分けて探していると、隅の方で何かざわついているから様子を見てみる。

そしたらまぁ、呼んだ覚えがないというより、

連絡先がわからなかった魔女がパルフェムを困らせてる。

 

「やめてくださいましー!」

 

「もう少しだけ、少し触るだけでいいんです。……ふむふむ、

“着物。皇国の民族衣装。女性用のものは既婚者用の留袖と未婚者用の振袖がある”。

わかりました!」

 

「その娘から離れてリーブラ。事案は勘弁」

 

「あら、里沙子さん。こんにちは」

 

「“こんにちは”じゃないわよ。こんなところで子供にセクハラたぁ、いい度胸ね」

 

「ああ、お姉さま!助けてください!」

 

パルフェムがささっとあたしの後ろに隠れる。

 

「この方が、急にパルフェムをペタペタと触ってきて……」

 

「皇国出身の方は珍しいんです。是非百科事典のページ増加にご協力を」

 

「しません。パルフェム困らせるなら外でガトリングガンでも見てて」

 

「あ、そうでした。私ったら大事なことを!

銃身を回転させるモーターの分析がまだだったのに。今日のところは失礼します。

それと、100話おめでとうございますね」

 

取って付けたようなお祝いを述べて、

リーブラは庭先のガトリングガンへ早足で向かっていった。早くも客が1人脱落。

 

「ふう。困ったもんだわね。どこでパーティーの情報嗅ぎつけたんだか。

大丈夫?パルフェム」

 

「は、はい。いきなりまとわりつかれて、つい大声を出してしまいました。

お恥ずかしいですわ」

 

「それでいいのよ。この世界には防犯ブザーとかないから。

あっちでルーベル達と何か食べてらっしゃい。客への挨拶はあたしがする」

 

「どうもすみません。ではパルフェムはこれで……」

 

パルフェムと別れて彼女がルーベルと合流するのを見届けると、

あたしは招待客に挨拶回りを始めた。

……というより、トラブルの処理に追われることになった。

今度は別の方向から声がする。

 

“いたぞ!裏切り者だ!”

“逃がすな、追え!”

“よくも俺達の前に現れやがったな”

 

なんだか穏やかじゃない雰囲気。暴力沙汰になる前に対処しなきゃ。

急いで野次馬の間に身体を押し込んで騒動の中心を見ると……

 

「やめてくださるかしら!もう主人はあなた達とは関係なくてよ!」

 

「うるせえ!出番なし同盟の足抜けは重罪なんだ!

罰としてこいつにはタバスコを一瓶かけたピザを食ってもらう!」

 

「くっ……殺せ!」

 

絵の中の自分と同じくため息をつく。

出番のないモブキャラ共がマーカス夫妻を囲んでる。とりあえず間に立って事情聴取。

 

「こらこら、あたしのめでたい席で何をやってるの。マーカス、ベネット、こっちよ」

 

「来るのが遅いわよ里沙子!主催者には出席者の安全を確保する義務が……」

 

「ほんで、あんたらは何を揉めてたわけ?」

 

「邪魔しねえでくれ里沙子!

マーカスは俺達“出番なし同盟”を裏切って、3話も主演しやがった!」

 

「しかも可愛い嫁さんもらって安定した仕事にまでありついて!

こりゃいくらなんでも許せねえよ!」

 

時々街で背景としてうろついてる個性のない面々が、あたしに文句をぶつける。

しょうがないわね。聞き分けのない奴らに教え諭す。

 

「この企画始まって以来、耳にタコもイカもできるくらい言い聞かせてきたことが

まるで無駄だったと分かり悲しくてやりきれない。

この胸のイライラを誰かに告げようかしら。

最後になる事を祈ってもう一度だけ言うわよ?

出番は本人じゃなくて、今キーボード叩いてるバカがその時の気分で決めてるの。

マーカスなんか初登場から1年近くまともな出番がなかったし、

ベネットだって最初はイエスさんの当て馬から始まった。

2人共番外編で散々コケにされつつここまで来たのよ」

 

「そうですわ!

苦労を重ねてきた私達の気持ちがあなた達にわかってたまるものですか!」

 

「いいんだベネット……!食うよ、俺。それでいいんだろう」

 

「おもしれえ、やってみろよ!」

 

「やめなさい!タバスコだってタダじゃないのよ。食い物で罰ゲームやるなら帰って」

 

「何だと!里沙子はどっちの味方なんだよ!」

 

「少なくとも素直に人の幸せを喜べない連中に用はないわ。

1人1回ずつキャンディつかみ取りして帰りなさい」

 

「ちくしょう、二度と来ねえよ!マーカス、お前ともこれっきりだ!」

 

「すまねえ……」

 

漫☆画太郎のコピペ人間のようにそっくりな連中が、

ちゃっかりキャンディは掴んで帰っていった。脱落者複数名。

 

「……はは、ざまあねえよな。

ついこないだまで、あいつらと一緒にお前に文句ばっか言ってた癖によ」

 

「あんたは悪くない。

たくさんの子供達を救ったヒーローなんだから、もっと胸を張りなさいな」

 

「そうよ!あなたは与えられた出番をこなしただけ!

ついでに変な奴らと縁が切れてよかったじゃありませんの」

 

「ありがとよ。里沙子、ベネット。

だけど、俺がここにいると雰囲気が変になっちまうみたいだ。

一足先に帰らせてもらうぜ」

 

「私も帰るわ。あなたがいないと、こんなところに居たって面白くもないもの」

 

「仲がいいみたいでなによりだわ。最後まで参加してもらえなかったのは残念だけど、

そこのキッシュでも2、3切れ持って帰って食べてちょうだい」

 

「もう確保してますわ」

 

そう言ってベネットが家から持ってきた小さなバスケットを見せた。

完全にしっかり者の主婦ね。

 

「じゃあ、悪いな里沙子」

 

「いいえ。来てくれてサンクス」

 

「ごめんあそばせ」

 

家路につく二人を軽く手を振り見送った。

2名帰宅。ちょっと会場の混雑が緩和されてきた。今度は誰と絡もうかしらね。

……おっと、あえてトラブルの種と接触するのも面白そう。

向こうのテーブルでチャーハンを必死にかきこむ女に近づく。

 

「むぐむぐ、ああおいしい!久しぶりにモヤシ炒め以外のものを食べました!

帝都から飛んできた甲斐があるというものです!」

 

「お口に合ったようでなにより」

 

「あっ!里沙子ちゃん、いただきます…じゃなくて、おめでとう!

私も招待してくれてありがとうね。もうお腹ペコペコで」

 

「なあに?またモヤシ炒めなの?

今度は何買ったのかママに言ってごらんなさい、マーブル」

 

「ち、違いますー!モヤシにニラを加えて少し豪華にしてるもん!

服だって古くなったパジャマを買い替えただけだし。……特売のシルクに」

 

本当にこいつは言動がジョゼットにそっくり。そして懲りない。

 

「アースなら重度の買い物依存で専門家のカウンセリングが必要なレベルね。

あたしは諦めたから、せめてここで気が済むまで食っていきなさい」

 

「ちょっと待って!」

 

マーブルがいきなり両手であたしの手を握ってきた。なによもう。

 

「な、なんなのよ」

 

「うん。この前の同人誌の件なんだけどね。二人で合同誌作らない?

小説本にして、本文を里沙子ちゃんが、私が表紙と挿絵を描く。

里沙子ちゃんが実際に体験した冒険譚を描写すればきっと儲か…売れると思うの」

 

「一瞬言い直したけど無意味だったわね。

作文なんて面倒な作業あたしがやるわけないじゃない。やっぱ金に困ってるのね。

この世界にクレジットカードがなくて本当によかった。

あんたならリボ払いの使い過ぎで一生金利を払い続ける羽目になる」

 

「なんかひどいこと言われてる気がするけど、どうしても駄目?

もちろん今はもう健全本しか売ってない」

 

「当たり前でしょうが!ブタ箱行きになった黒歴史思い出させないでよ、まったく。

大人しく微妙なギャグ本で小遣い稼ぎしてなさい」

 

「しょぼーん……」

 

「そう言えばあんた、学校はどうしたの。今日は平日でしょ?」

 

「ご馳走がタダでたくさん食べられるって聞いて、休んで来ちゃいました。テヘ!」

 

「馬鹿なんじゃないの!?一日分の給料でどれだけ飲み食いできると思ってんのよ!

あ、有給は?もちろん欠勤じゃなくて有給なんでしょうね?」

 

「悠久……美しい言葉ね」

 

マーブルが少し自嘲気味に笑った。完全に消化してるっぽい。

 

「呆れた。とことん損得勘定ができないのね!

……もういいわ。せめて今日だけは好きなだけ食べて現実を忘れなさい」

 

「うん、ありがとう……」

 

食事に戻ったマーブルだけど、明らかに食べるペースが落ちた。

今度はもそもそとメンチカツを食む。精神的ダメージで1人脱落。

金がないならダメ人間をやるべきじゃないわ。

えーと、他に絡んだら字数が稼げそうな奴は……いた。いつもどおりケンカしてる。

 

「このローストビーフはわたしが先に目をつけましたのよ!

爺やも確かに見ていましたもの!」

 

「ふむ!この肉はお嬢様のものですぞ!あなたでもそこは譲れませぬ!」

 

「なんて図々しい!見ただけで確保した気になるなんて浅ましいことね!

皿に載せなければ所有権は発生しないの。わかったら最後の一枚をよこしなさい!」

 

あたしこいつら呼んだかしら?

招待状の名簿を作る時に間違って書いちゃったのかもしれない。けど今はどうでもいい。

ユーディとパルカローレ。

単品でも煩わしいのに2人がかち合ったらトラブルの発生は避けられない。

急いで現場に向かう。

 

「どいつもこいつも人の記念日で揉め事起こさないと気が済まないのかしら!?」

 

「里沙子、いいところに来ましたわ。

この食い意地の張った女に譲り合いの精神を教えてあげて」

 

「黙りなさいよ大食い女!

あんたがこのローストビーフを8枚も食べてたのを知らないとでも思った?

だからそんなにブクブク太るのよ!」

 

「なんですって!

わたしが太っているのではなく、あなたが小さすぎるに過ぎませんわ!」

 

「頼むから静かにしてよ。

せっかくの記念パーティーなんだから醜い者同士の争いはやめて。

肉なら今ジョゼットが追加で焼いてるからしばらく我慢しなさい」

 

「いいえ、トライジルヴァ家の当主として、

デルタステップの女相手に退くことはできなくてよ!」

 

「それはこっちのセリフよ!

肉が食べたいわけじゃない。この女に後れを取ることは私のプライドが許さないの!」

 

肉一枚を争って、曲がりなりにも公の場でぎゃあぎゃあ喚いてまで守りたいプライドに、

一体何の意味があるのだろう。あたしは考えることを止めた。

 

「こうなったら、符術士として、カードで決着をつけるしかありませんわね!」

 

「望むところよ!カードスタンバイ、オープン!」

 

「オープンすんな」

 

あたしはユーディの携帯用カードケースを奪い取り、

両者の顔面をおもっくそ引っ叩いた。

 

「はぶっ!」「ぎゃばっ!」

 

悶絶する二人。鼻血を出されなくて助かった。みんなの食欲が失せる。

 

「ああっ、お嬢様!おいたわしや……里沙子殿、お嬢様になんということを!」

 

「人の集まる場所で戦闘を始められては困りますの。

貴方も誠の忠誠心をお持ちなら、

時には未熟な当主をたしなめることも必要ではなくて?」

 

「なんたる暴挙!お嬢様、しっかりなさってください!」

 

「わ、わたしは平気よ爺や。それよりこの女との勝負が先。場所を変えましょう。

里沙子、今日のところは退いてあげるわ。

わたしはデルタステップより分別のある大人ですもの」

 

「何よ、先に戦いを仕掛けたくせに!

いいわ、ここは狭すぎる。北の荒れ地で勝負再開よ!」

 

「よくってよ。

まずはどちらが早く目的地にたどり着けるか、腕前を見せてごらんなさい。

マジックカード“黄金の風”発動!」

 

「あ、汚いわよ!私はモンスターカード“スカイインスペクター”を守備表示で召喚!

待ってなさいよ没落貴族―!」

 

「お待ちくだされお嬢様―!」

 

ユーディはどっかに消えて、執事とパルカローレは外に出ていった。

空からヘリのローター音のようなものが聞こえる。

多分それに乗ってどこかへ行くんだろうけど、厄介者が消えてくれて助かった。

3名退場。

 

勝手な連中のせいでちっともパーティーを楽しめない。

何人もいなくなったせいで会場も少し寂しくなってきた。

まぁ、居座られても迷惑な奴が多かったけど。

そろそろプログラムの続きに戻ろうかしらね。

再びステージに上がってマイクを取り、台本を読み上げる。

 

「えー、長らくお待たせしました。プログラムを再開致します。

“エア読者が選ぶ名場面ベスト3”。まず3位は……章タイトル“銃のない里沙子”。

第1話の矛盾解消ついでに

バイオハザードもどきの展開を書いてみたくなった奴の珍作です。

ステルス行動で怪物を殴り殺すのは割と楽しかったのですが、

指を落とされて死ぬほど痛かったです。

もし奴と出会うことがあったら、特殊警棒で化け物と同じく撲殺しようと思ってます」

 

「死者の霊が里沙子さんに助けを求めて来た悲しいお話でしたね……」

 

「後日談でデザートイーグルが手に入ったんだけど、エリカまでくっついて来たのよね。

ちなみに今日も位牌で寝てる。

ある意味かつてのマーカス以下の扱いを受けてるちょっと可哀想な存在。

第2位、章タイトル“クリスマススペシャルと特別ゲスト”。

よりによってキリスト教の主神をゲストに呼んだ身の程知らずなエピソード。

あたしは楽しかったけど、

この世界の何でも取り入れる節操の無さが露骨に現れたお話でした」

 

「私は神様万歳なんてガラじゃないが、聖書がとんでもない分厚さになって驚いたぜ」

 

「そしていよいよ第1位。ダララララ…発表します。1位は章タイトル“魔王編”。

ま、順当な結果だと思うわ。この企画って仮にもファンタジーなのに、

あたしのグータラ生活しかやってないことに気づいて流石に奴も焦ったみたい。

そもそもファンタジーとは何か、という疑問を抱えながら

彷徨うように書き進めて行ったんだけど、

全体を見ればあたしの特殊能力やらクリスタルやら魔法やら地球の兵器やら

テッド・ブロイラーやらを出せて、まあまあ及第点だったと思う。

以上、“アル中男の幻覚が選んだ名場面”でした」

 

パチパチとまばらな拍手。人が減ったから無理も無いわね。

 

「それでは、最後のプログラムに移りたいと思います。

わたくしから、会場の皆様及びディスプレイの前の読者様へ

感謝の気持ちを込めてお手紙を」

 

あたしはポケットから封筒を取り出して、中の便箋を広げた。

 

「敬愛する皆様へ。

この度、“面倒くさがり女のうんざり異世界生活”が無事100話を迎えました。

奴のファンタジー物への憧れ、ボケ予防、暇つぶしによって当企画が始まり

もうすぐ2年。皆様からの反応を糧に、今日まで続けることができました。

開始直後5話くらいまでは、お気に入り0件、UA一桁という惨憺たる状況でしたが、

今ではアクセスも2万を超え、お気に入りも200以上と、

無名のオリジナル作品にもかかわらず多くの方に目を通して頂き、

本当に感謝しております。

全盛期のようなハイペースでの投稿はもうできないと思いますが、

需要があろうとなかろうと、まだまだ止めるつもりはありません。

もし連絡なしに半年更新が滞ったら、

孤独死したと思って手でも合わせてやってください。

ここで皆様のご多幸を祈り、締めくくりとさせていただきます。

ありがとうございました」

 

うんざり生活代表、斑目里沙子。そして深く頭を下げた。

パチパチ、パチパチと、あちらこちらから拍手が上がる。

再び背を伸ばすと、お客さん達と仲間の笑顔が見えた。素直に嬉しい。

こんな気持は久しぶり。ミドルファンタジアに来た時はどうなるかと思ったけど、

今のあたしを取り巻く状況は悪くない。ううん、上々だと思う。

 

きっとこれからも変な事件やトラブルが絶えないんだろうけど、

それでもこの家が倒壊しない限り、地球に帰ろうとも思わない。

過去のあたしに足りなかったものが、ここにはあるから。

ステージの上で、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

パーティーもお開きとなり、お客さんが帰った後、

あたし達は全員で後片付けをしていた。

 

「はぁ、準備も大変だけど、片付けはもっと面倒くさいわね」

 

食いしん坊連中のおかげで廃棄ロスは出なかったけど、

これからたくさんの皿を回収して洗わなきゃ。

 

「そっちは頼むな。私はテーブルやら隅に寄せた長椅子を元に戻す」

 

「了解ー」

 

「大丈夫ですって。みんなで洗えばあっという間に終わりますよ~」

 

「だと良いけど」

 

「お姉ちゃん、かっこよかった」

 

「そうですね。里沙子さんのスピーチ、とても素晴らしかったです。

これからもこの家にマリア様のご加護がありますように……」

 

「残念ながらマリア様の光もウチだけは対象外みたいよ。

それは今までの100話が証明してる」

 

「はは、言えてら」

 

みんながどっと笑った。

細々としたアクシデントはあったけど、つつがなく100話目を終えられてよかったわ。

安心して皿を重ねていたその時。

 

 

コン、コン……

 

 

作業する手が止まった。全員が互いを見る。

……あたしはひとつため息をついて苦笑し、いつものように玄関ドアに向かった。

新しいスタートが、このドアから始まることを信じて。

 

 


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