新スタート一発目がこれよ。一体何がしたいのやら。
パチン……
どことも知れぬ不思議な空間に、男の鳴らした指の音が響く。
──話をしよう。
「あれは今から36万…いや、1万4千年前だったか。まあいい。
私にとってはつい”昨日”の出来事だが、君達にとっては多分、”明日”の出来事だ。
彼には72通りの名前があるから、なんて呼べばいいのか」
長身で眉目秀麗な男は穏やかな口調で語る。彼はほんの少し考えて続けた。
「確か、最初に会った時は……イーノック。
そう、あいつは最初から言うことを聞かなかった。私の言う通りにしていればな。
まあ、いいやつだったよ」
そして口元で少し笑う。
「“今回”は趣向を変えて、イーノックが歩んだタワー到達前の旅路を語ろう。
ん、いつもの話の流れと違うじゃないかって?ああ、そうなんだ。
ようやく彼が“成功”したから、思い出を振り返る余裕もできたという訳さ。
今の時間から遡ること8400……いや、よそう。じゃあ、始めようか。
君らのよく知る奇妙なヒト達との出会い。私が傍観した物語。
“時間”に余裕があるなら聞いて行ってくれ」
今日も今日とてルーベルに怒られる。
確かこの企画の全盛期では、あたし自身が家のルール。
つまり一番偉い存在だってことになってたはずなんだけど記憶違いかしら。
ルーベルがドンとテーブルに拳を打ち付ける。
「酒を飲むなとは言ってねえよ!時間と場所と量を考えろって言ってるんだ!」
「うい……」
ダイニングで椅子に座って神妙にお説教を頂戴する。
テーブルの上には空けたエールの瓶が3本。
ちなみにこっそり飲んでたのにバレた原因は、
後で聖なるフランスパンで浄化してやろう。
「うい、じゃねえ!昼間から酒ばかり飲んでる姿なんて子供にも見せらんねえし、
お前の身体にもよくねえんだぞ。わかってんのか!?」
「わかったわよ。わかったから怒鳴らないで……頭痛い」
「自業自得だろうが。罰として今週いっぱいは酒抜きだ。いいな!?」
「ちょ、ちょっと待って。せめて今日いっぱいにオマケしてくんないかしら。
酒がないと退屈で死にそうなの」
「だめだ。そんなに暇ならバイトでも始めろ。
お前の食っちゃ寝生活を改めるいい機会にもなる」
「バイトは学生時代の鬼スケジュールでこりごり。
何よりあたしが真面目に働くなんて、企画の趣旨に反するわ」
「また訳のわかんねえことを。どうしようもねえ酔っ払いだな」
「ウヒヒ、そんなの分かりきってることじゃない。今更何を……」
コンコン!
玄関のノックで、気持ちよくふらついていた意識が一気に覚める。
あたしもルーベルも同時に聖堂を見る。口の前で人差し指を立てて見せ、息をひそめる。
ルーベルも無言でうなずく。
足音を立てないように聖堂へ入り、扉に近づく。
ドアスコープを覗いて妙な奴だったら居留守を使おう。
変に相手をするからトラブルに巻き込まれるということに
100話を超えてようやく気づいた。
どれどれ。今回はどんな厄介者が……あらまあ。
黙っていたあたしは本当に言葉を失った。
堕天使達を追い、タワーを求めて何年さまよったのか。
時の概念に縛られない私にとっては、その答えにあまり意味はない。
だが、彼にも同じようにのんびり構えていてもらっては困る。
だというのに、イーノックは決して立派とは言えない教会に寄り道をしてしまった。
玄関のドアを叩いて住人を待っている。
「イーノック。
お前を急かしたくはないんだが、神も永遠に洪水計画を待ってはくれないんだ」
「大丈夫だ、問題ない」
「そう思う根拠を聞かせてくれると助かる。具体的には……そうだな。
この教会に元いた世界に戻る手がかりがあると考えた理由、とかね」
イーノックが口を開こうとした時、ドアが開いた。
住人と思われる少女は私達を見て目を丸くしている。
もっとも、彼女に私の姿は見えていないのだが。
「あらま!この世界ってゲームのキャラまで呼んじゃうわけ!?
イーノック!あなたイーノックよね!?」
「ああ」
「うへへ、懐かしいネタが来たものね。入って。ルーベルの説教から逃げられるし!」
“聞こえてんぞー”
「とにかく来てよ。お茶くらい出すからさ。あっはは!」
「ありがとう」
少女は酔っているのか、よく笑い、なぜかイーノックを知っている様子で迎え入れる。
ついでに私も失礼して中に入らせてもらったよ。
古びた教会の聖堂には、聖母マリアの石膏像が祀られている。
彼女は隅の扉に私達を案内する。
奥はキッチンとダイニングが一体になった生活スペースで、二階へ続く階段もある。
「まー座ってよ。ルーベル、お客さんよ!イーノックが来てくれたわ!」
「なんでそんなに喜んでんだ。知り合いか?」
「ある意味ね!
あたしはエルシャダイ発売日に定価で買ったけど、ちっとも後悔してないわ!
彼がPVのセリフの他なんにも喋らなかったことは寂しかったけど!」
「声を落とせ、客の前だろうが。
……ええと、イーノックさんだったか?私はルーベル。里沙子を知ってるのか?」
「呼び捨てでいい。彼女とは初対面だ」
「ふーん。じゃあなんで里沙子の方はイーノックを知ってるんだ?」
「説明なんか後、後。ねえ、コーヒーと紅茶どっちにする?」
「一番いいのを頼む」
「一番って言われても、粉コーヒーと安物の茶葉しかないわね。
コーヒーの方がちょっとだけ一杯あたりのコスパが高いから、そっちにするわよ」
若干はしゃぎ気味の里沙子と呼ばれた少女は、水を入れたポットを火にかける。
湯が沸く間にマグカップを用意し、粉末状のコーヒーを2さじ入れた。
すると、どこにいたのか他の住人もぞろぞろと集まってきた。
「あの、里沙子さん。とてつもなく大きな気配を感じたのですが、
また天使様がお見えになったのでしょうか?……あ、お客様ですか。失礼しました。
わたしはエレオノーラと申します」
真っ白な修道服の女の子が、イーノックにお辞儀した。
「よろしく、エレオノーラ。私は……イーノック」
「里沙子さんが自分でお客さんにお茶を入れるなんて、
明日はゴルフボール大の雹が降りそうですね~
はじめまして、わたくしはジョゼットです」
「ジョゼット。あんたには後で話があるけど、今はイーノックよ。お茶菓子を用意」
「わかりました~」
今度は黒の修道服を着た女の子が
棚から籠に入った菓子を取り出し、テーブルに置いた。その後も続々と人が集まる。
キモノという民族衣装に身を包んだ少女と……これは珍しいな。
生まれたての吸血鬼までいる。
「お姉さま、パルフェムも手伝いますわ。
こんにちは、旅の方。パルフェムとお呼びくださいまし」
「ねえ里沙子……なんだかさっきから寒気がするんだけど、
また天使を家に入れたんじゃないでしょうね?」
残念ながら正解だ。
しかし、傍観者であり地上に干渉できない私が君に危害を加えるつもりはないし、
神もそんなことは望んでいない。君は自らの正しいと思う道を歩むと良い。
「当たらずといえども遠からずね。
イーノックは人間でありながら、その清らかな魂を神に認められて、天界に招かれたの」
考えるほどに不思議なことだ。里沙子はイーノックという存在を知りすぎている。
彼女の正体に私も少しばかり興味が湧いてきた。しばらく様子を見ることにしよう。
全ての住人で席が埋まり、私の椅子がないのが残念だが。
「はい、イーノック。コーヒーお待ち」
「ありがとう」
「お姉ちゃん、この人、だれ?」
「いわば今回の特別ゲストよ。今から説明するから。
……エリカー!出番が欲しけりゃ起きなさい!」
里沙子が2階に向かって叫ぶ。すると3テンポほど置いて、極めつけがやってきた。
幽霊だ。
「うむむ…拙者は起きているでござる。まだ本題は待つでござるよ~」
「早くなさい」
青白い霊体が物体をすり抜け漂ってきた。これで全部であることを願うよ。
今度こそ全員が集まったようで、里沙子が話を始めた。やはり彼女はどこか嬉しそうだ。
「みんな集まったところで、改めて自己紹介するわ。あたしは里沙子。
よろしく、イーノック」
「よろしく」
「それにしても、どうして今日はまたこんなところに来たの?旅はまだ途中なの?
よかったらあなたの話を聞かせて」
「……イーノック。彼女の正体を探るんだ。
あながちお前の勘も的外れじゃなかったのかもしれない」
「わかった。今はゲートを探している」
「そっか。まだ
ところでルシフェルは一緒じゃないの?姿が見えないけど」
ここにいるけど、文字通り見えないんだ。
「ああ」
「彼、神出鬼没だもんね」
そろそろ”彼”と連絡を取る必要がありそうだ。
私はスマートフォンを取り出し、電話アプリをタップした。
「なあ、さっきからお前ばかり納得してねえで、私達にも説明してくれよ。
イーノックはどこの誰で、なんでお前は彼を知ってるんだ?」
「ごめんごめん、彼が天界の存在だってことは話したわよね。
ある日天界で、人間に憧れた7人の大天使が神を裏切って堕天したの。
そんな堕天使達を捕縛し浄化するのが彼の使命」
「人間に憧れた……とはどういうことですの?お姉さま」
「人同士の愛、止まることのない進化、命を慈しむ心。
長きに渡って人間達を監視してきた彼らは、ヒトの持つそれらの輝きに憧れて、
肉体を持って天界から地上に堕天した。天界の知恵を盗んでね。
そして人間達に干渉を始めた。盗んだ神の知恵を人間に与え、歪な発展をもたらした。
怒った神は堕天使ごと地上を洗い流す洪水計画を発動したの。
それを止めるべく異議を唱えて堕天使捕縛の命を受けたのがイーノックなのよ」
ますます彼女が怪しくなってきたな。
イーノックのように天界の存在でもなければ知りえない事実をなぜ。
数コールがもどかしい。早く電話に出てくれないだろうか。
TELLLLLL....Pi
ああ、繋がった。
私はダイニングをうろつきながら、現状と不思議な少女について彼に報告した。
「私だ。……うん、実はちょっと困ったことになっててね。
そう、
あと、出先で奇妙な女性に会ったんだ。具体的には、どう言えばいいのか。
……まあ、そんな感じなんだ。わかったよ。いや、それについては心配してない。
あいつも、よくやってくれてるしね。ふふっ、私のサポートが心配かい?
おっと、話が佳境に入ったみたいだ。何かわかったら連絡する。じゃあ、また」
...Pi
「彼にはルシフェルっていうサポート役の大天使がいてね、時間を自由に操れるの。
あたしのクロノスハックみたいな擬似的なものじゃなくて、
完全に時間を止めたり、巻き戻したり、何万年もタイムスリップしたりできる」
相変わらず里沙子は我々に関する知識を披露し続けている。
「しかし、変ですね。それほど偉大な存在がこの地に現れたのなら、
わたしを含む世界中の聖職者が大騒ぎしているはずです。
かつてメタトロン様が降り立った時のように」
今度はメタトロンの名まで。だが、メタトロンというのは……いや、今はいい。
イーノック、頃合いだ。
「里沙子。私からも聞きたいことがある」
「なに?」
「どうしてそこまで私達のことを知ってるんだ?」
「どうしても何も、あれだけ話題になったゲームじゃない。
まー、売り上げは芳しくなかったかもしれないけど、あたしは好きだったわ」
「ゲーム?」
「遠い未来に発明された娯楽だ。
映像を映し出す装置で主人公を操作し、様々な冒険を疑似体験するというものだよ」
イーノックにそっと耳打ちする。
「あらやだ、ごめんなさい。あたしばかり喋っちゃって。
イーノックはゲームっていう想像の世界で遊ぶ物語の主人公だったの。
あたしはあなたを操って堕天使討伐の旅をしてたってわけ」
そういうことか。全てが終わったら未来に行って、
我々がどのように描かれているか確かめてみるとしよう。
「ゲームが架空の存在なら、どうして私はここに実在しているのだろう」
「う~ん、この世界はミドルファンタジアっていうんだけど、
色んな世界から人や物がたくさん流れ着いてくるのよ。良くも悪くも。
だからエルシャダイっていうゲームの主人公だったイーノックも、
一人の存在として実体を持って吸い込まれちゃったんだと思う」
我々は数万年前から確かな存在なのだが……まあいい。
「じゃあ、やっぱりイーノックは別の世界から来たってことなのか?」
「……ルシフェルと草原を進んでいると、ふいに帳の気配が消えた。
アークエンジェル達の声も聞こえなくなって、
状況を把握しようと駆け回っていたら君達の教会を見つけたんだ」
「帳ってなんだ?」
「堕天使達が作った偽物の空よ。彼らは帳に隠れて自分達だけの世界を作っているの。
その偽りの世界が積み重なったものが、タワー」
「私達は、そのタワーを探して旅していた」
「なるほどなー……って、ここにいたらヤバいじゃねえか!
さっさと元の世界に戻って堕天使どうにかしないと、
洪水で全部流されちまうんだろう!?」
「そうだ。だから私もルシフェルも、旅に戻る方法を探している」
「その割にはなんか呑気よねー。あんまり喋らないし」
「こういう人なの。ところでイーノック、これから行くあてはあるの?」
「ない」
「だったらうちに泊まって行けば?寝床は聖堂の長椅子しかないんだけど……」
「ありがとう。野宿に慣れているから、雨露を凌げるだけで助かるよ」
「珍しいな。お前が進んで人を泊まらせるなんて」
「彼の人となりはエルシャダイで知ってるつもり。
無駄な騒ぎを起こすようなタイプじゃないからね」
「よかったじゃないか。お前は彼女に信用されているようだ」
イーノックの肩に手を置く。私に宿は必要ない。なぜなら。
「私は一足先に明日で待っている。今日はゆっくり休むといい。
ただ、お前の使命も忘れないでくれ。
彼女達に協力を仰ぎ、一刻も早く元の世界に帰る方法を見つけ出すんだ」
パチン……
指を鳴らすと、私という概念が時を飛び越え、24時間先に転移した。
時間はいくらでもあるが、無駄遣いが許されるわけでもない。
昨日から今日の間に、
イーノックがきちんと今後の方針について考えを巡らせていたと願おう。
……しまった、重要な事を忘れていた。間に合えばいいんだが。
もっとも、間に合わないということなどありえないんだが。
聞いてよ奥さん。うちにあのイーノックがやってきたのよ。
今、あたしの前であたしが入れたコーヒーを飲んでるの。信じられる?
イエスさんとは違ってブラックも行けるみたいで、
砂糖もミルクも入れずにおいしそうに味わってる。
そんな彼を見ていると、ちょっとミーハーな気持ちで浮かれている自分に気がついた。
おっと、いけないわ。彼には洪水計画を止める大事な目的があるんだから。
「ねえイーノック。それ飲んだら街に行かない?
まだお昼だし、ほんの些細なことだけど手がかりがないこともないの」
「よかった。連れて行ってくれ」
「手がかりって、なあに?」
「ほら、あたしとあなたの出会い。わかるでしょ?」
「あ…うん」
あたしとカシオピイアに直接血の繋がりはないけど姉妹の関係が成立してるのは、
ある人物がミドルファンタジアから地球に転移したことがきっかけ。
詳しい経緯は過去話「フレンドいないやつにオントロはキツいわね。(以下略」を
参照してちょうだい。
当の“ある人物”が誰だったのかも未だにわかってないし。
「というわけで、薬局に行くメンバーを選定するわ。
全員でぞろぞろ押し掛けたらアンプリがご機嫌斜めだから。まずあたしとイーノック。
そしてカシオピイア。後は……エレオノーラの知恵も借りたいわね。いいかしら?」
「はい。わたしでよければ」
「えーっ!わたくしも久しぶりに街に行きたいです!」
「ねえジョゼット。
今日誰かさんのせいでルーベルにこってり絞られたんだけど、心当たりないかしら」
「聖堂のお掃除がまだでしたのでやっぱりいいです」
「あの、拙者は……」
「決まりね。イーノック、故意か事故かはわからないけど、
この世界から地球に人が移動した例があるの。
それについて知ってる人がいるから会いに行こうと思うんだけど」
「とほほでござる……」
「頼むよ。私は全てを救わなければならない」
彼はコーヒーを飲み干すと、マグカップを置いてはっきりと答えた。
「出かけましょう。ここから東に街がある。
途中変な奴らに絡まれるかもしれないけど、遠慮なく叩きのめしていいから」
あたしは席を立ってガンベルトを締め直す。他の面々も出発の準備を整え、聖堂に移る。
全員が玄関に集合すると、扉を開けようとした……んだけど。
「イーノック。そんな装備で大丈夫?」
単に言ってみたかったこともあるけど、
彼の格好があまりに無防備だったことが一番の原因。
どこを旅していたのかしらないけど、ダガー1本の武器もなく、
身に着けているのは薄い布製の質素な服。
「大丈夫だ。問題ない」
「……そう?まあ、あたしの銃があるから大丈夫だとは思うけど。行きましょう」
そして玄関の扉を開けて、街へ向けて街道に下りる。まあ、それからはいつも通りよ。
馬糞が転がる舗装されていない道をひたすら進む。
すると、隣接する森から野盗くん達が現れた。
よかったわね、久しぶりに出番がもらえて。
でも、なんだか様子がおかしい。いつもなら陳腐な脅し文句と共に、
ボロっちい得物をちらつかせて小銭を巻き上げてくるんだけど、
どこか視線が虚ろでぼそぼそとうわ言を漏らすだけ。だけどその手には……!
「アーチ!?」
天界の知恵をなんでこいつらが!
まさに弧を描くように無限の刃がチェーンソーのごとく流れる剣を手にしている。
野盗はあたし達を認識すると、
ケガレを溜め込み赤黒く光る刃を持って獣のように咆哮し、突撃してきた。
「イーノック、下がって!」
全員が戦闘態勢に入る。あたしはピースメーカーを抜くと、ハンマーを起こし、
奴らのアーチを狙って.45LC弾を放った。
銃弾は正確にアーチを捉えたけど、野盗は瞬時に反応して刀身で受け止める。
なんなのこいつら!通常なら威嚇射撃で逃げていく連中とは思えない!
何かがおかしいと思ったその時、あたしの隣から野盗に向かって飛び出す影が。
イーノックが連中の一人に飛びかかり、空中からキックを繰り出した。
蹴りは見事に頭部に命中。敵は大きくよろめいて後ろにすっ転んだ。
「丸腰じゃ危ないわ!ここは退きましょう!」
でも、イーノックは構わずいつの間にか大勢に増えていた野盗相手に戦いを挑む。
まず手近な野盗にハイキック。後ろから近づく敵には腰を落として肘鉄で腹を打つ。
一人の敵にこだわらず、まるで飛び跳ねるように四方に移動し、
華麗な体術で無数の標的にダメージを与えていく。
次々と狂った野盗がイーノックに殺到する。
アーチの刃を両手で突き出す攻撃を身を反らしてかわし、足払いで動きを止め、
左右の拳でフックを叩き込む。隙を見せた相手には連続キックで一気に畳み掛ける。
目にも止まらない速さで繰り広げられる戦いに息を呑んでいると、
次の瞬間、危険な状況が訪れたことに気づく。
リング状の不思議な物体を背に浮かべ、6つの飛翔体を周囲に滞空させた敵が3体現れた。
「ガーレが来るわ、気をつけて!」
「!?」
イーノックは一瞬そいつらに目を向けると、
接近してきた敵にオーバーヘッドキックを食らわせ、アーチを真上に弾き飛ばし、
空から落ちてきたそれを奪い取った。
そして、彼が手に入れたアーチの刀身に手をかざすと、
まばゆい光が刃に溜まったケガレを清め、
天界の知恵は青白い光を放つ美しい輝きを取り戻した。
神に選ばれた彼の能力、武器の浄化。
「美しい光です……あれが神に選ばれし者の力なのですね」
エレオノーラもその聖なる光に思わず目を奪われる。
本来の力を秘めたアーチを手にしたイーノックは、急いでガーレ使いの元へ駆け出す。
あたし達もピースメーカーや水晶銃で援護射撃をするけど、
神の武器でガードされて攻撃が届かない。
イーノックが到達する直前、とうとうガーレからレーザーが発射されてしまう。
2体が正面に放ってきた飛び道具を
イーノックはアーチでガード、あたし達は横に滑って回避、
カシオピイアは水晶銃の魔力弾で迎撃。
エレオノーラは左手から純粋な魔力を放って相殺した。でもおかしい。
3体目のガーレが見当たらない。確かに誘導装置に当たるリングは背負っているのに。
でも風切り音で答えはすぐにわかった。真上!
空を見上げると、最後のガーレは、まるでミサイルのように直上から墜落してきた。
誰もが突然の不意打ちに反応できず、ただ立ち尽くすだけだった。
クロノスハック!!
あたしは時間停止能力を発動し、回避を試みたけど、
神の武器は人間一人の特殊体質など意に介さないみたい。
全くスピードを落とすことなく落下してくる。もう、避けられない。
イーノックもあたし達も、ただガーレに頭を潰される事を待つしかなかった。
世界の色が反転し、全てが停止する。死に直面するとこんな現象を目にするのかしら。
そして、あたしは最期にこんな言葉を聞いた気がした。
──神は言っている。ここで死ぬ