──話をしよう。
「あれは今から36万…いや、1万4千年前だったか。まあいい。
私にとってはつい昨日の出来事だが、君達にとっては
失礼、巻き戻しすぎたようだ。
心配した通りイーノックがまたしてもタワー到達前に失敗した。
これでは先が思いやられる。もう一度指を鳴らし時間を移動した。
次こそうまく行けばいいんだが。
「イーノック。そんな装備で大丈夫?」
里沙子達が出発する前の聖堂に戻った。彼女に続いて改めて尋ねる。
「イーノック、そんな装備で大丈夫か?」
「一番いいのを頼む」
するとイーノックの選択が変わった。
時間を巻き戻すと、失敗した教訓が脳の記憶としては残らなくても、
魂に経験として刻み込まれる。
こうしてあいつは何度もトライアンドエラーを繰り返しながら長い旅を続けてきたし、
これからもそうしていくんだ。目的達成まで何年かかるかはわからないけどね。
さて、あいつの要望に応えてやろう。
「一番いいのって言われてもねぇ。悪いけどうちには鎧とかないの。
銃ならガンロッカーに……ってうわお!」
私が手をかざすと、イーノックの上半身を天使の翼のような帯が包み込み、硬質化。
ボトムスは私が用意したジーンズ。頑丈で動きやすい。
まさに洗練された人類の英知だよ。
「へぇ。ルシフェルなしでもその鎧って出せるんだ」
「出せない。彼の力だ」
「うーん、色々聞きたいのが本音だけど、やめとく。
今は時間ないし、いつかマリーの店で関連書籍見つけたら読んでみるわ」
助かるよ。
詳しく教えてやりたいが、本来私達は正体を隠して行動しなきゃいけないんだ。
それでなくても今まで散々トラブルに巻き込まれてるしね。
「美しい鎧です。まさに神に親しい存在の力ですね」
「きれい」
「見惚れるのは後。そろそろ出発しましょう」
「そうですね。行きましょうか、イーノックさん」
「ああ」
里沙子が玄関を開け、全員が柔らかい草の生い茂る丘を下り、
再び街を目指して街道を進みだした。ついでに私もね。
……とまあ、長くなったけどこれが今回の旅の始まりだよ。
作者の技量にもよるけど、大体あと1、2話程度でケリが付くんじゃないかな。
何の話だって?君だよ。画面の前でこれを読んでる君に話しかけてるんだ。
細かいことは気にしないで、
イーノックの戦いを見守ってくれればこれほど嬉しいことはないよ。
通い慣れた街へ続く道を歩むあたし達。でも、なんだか気持ちが落ち着かない。
いつでも銃を抜けるよう、右手に精神を通わせる。
異変を感じているのはみんなも同じみたいで、硬い表情で歩を進める。
ガサガサと茂みの揺れる音がすると、街道沿いの森から野盗達が現れた。
いつもなら適当にあしらうんだけど、
妙な胸騒ぎがして次の瞬間にはピースメーカーの銃口を一人の頭に向けていた。
「全員散らばって!」
「はい!」
「わかったわ!」
何故かはわからないけど、気づけば散開を指示していた。
嫌な予感は当たるもので、野盗達の様子がおかしい。
いつもなら陳腐な脅し文句と共に
ボロっちい得物をちらつかせて小銭を巻き上げてくるんだけど、
どこか視線が虚ろでぼそぼそとうわ言を漏らすだけ。そして彼らの手には。
「アーチを持ってる。気をつけて!」
どういうわけか、野盗が知恵の実を持っていることにも驚くことなく対応できた。
奴らが赤黒く光る弓状の剣を持って突撃してくる。アーチを狙っても意味がない。
足元に向けて数発発砲。地面を弾かれ、敵の動きが一瞬止まる。
「イーノック、お願い!」
「任せてくれ」
イーノックが風のようにあたしの隣を駆け抜け、
アーチで武装した集団に格闘戦を仕掛ける。
1体目に飛びかかり、空中から頭に渾身の蹴りをお見舞いする。
頭部に衝撃を受けた野盗は後ろに転倒。気を失った。
「丸腰じゃ危ないわ!武器を奪って!」
彼は返事をすることなく、すかさず今気絶させた敵のアーチを拾い上げ、
刀身にその手をかざす。
まばゆい光が刃に溜まったケガレを清め、
天界の知恵は青白い光を放つ美しい輝きを取り戻した。
浄化の光で本来の力を取り戻したアーチで、イーノックは野盗に斬撃を浴びせていく。
袈裟懸け、なぎ払い、跳躍からの空中回転斬り。
アーチのコンボを食らい、力尽きた野盗達は、空に放たれた炎のように消えていく。
後で聞いた話だと、これは死んだわけじゃなくて奴らもまた浄化された結果らしいわ。
どっちでもいいけど。
あたし達も援護射撃を続けていると、敵の増援が出現。
はっと気づくと、10mほど離れたところで
3体のガーレを装備した野盗があたし達に狙いをつけていた。
「こいつらはあたし達が引き受ける!ガーレ持ちを片付けて!」
イーノックは早々とアーチの集団を置き去りにして、離れた増援に向かって駆け出した。
走りながら自らの武器を再度浄化しつつ、
周囲に6つの飛翔体を漂わせる野盗の1体に接近。何度も刃を叩き込んだ。
まだ神の武器に慣れていないガーレを持った野盗は、イーノックの突進に対応が遅れ、
その攻撃をまともに受ける。連続斬りを受けた1体が膝を突き、隙を見せた。
イーノックはそいつをうつ伏せに押し倒し、背中の制御装置に当たるリングを奪い取る。
そして、リングを宙に浮かべて回転させるように手をかざし、浄化。
今度はガーレを奪うことに成功した。
他の2体も戸惑いうろたえる。
それを見逃さず、器用に飛翔体と共に螺旋を描くようにジャンプし、
美しいレーザーの塔に3体を巻き込みダメージを与える。
敵がよろめいても滞空したまま、容赦なくガーレで追い打ちをかける。
飛翔体から放たれるレーザーを何発も受けたガーレ持ちは、
耐えきれず浄化されて消滅した。
一方、あたし達は神の武器を持った野盗に対し防戦一方だった。
アーチというより、神の知恵に人間の武器で対抗するのは難しいっていうか無理。
銃弾は弾かれるし、エレオが放った魔力も押し戻される。
……でも、捨てる神あれば拾う神ありね!
あたし達の様子に気づいたイーノックが、ガーレで遠距離からレーザーを放ってきた。
強力なエネルギーを秘めたそれらは放物線を描き、野盗達に着弾。
無防備な背中を撃たれた彼らは致命傷を追い、1体また1体と浄化され、
とうとう最後の敵が断末魔の叫びも上げずに消えていった。
しばらく警戒を続け、これ以上の増援がないことを確認したあたし達は、
道の真ん中で合流。
「やったわね!助かったわ、イーノック」
「いいんだ」
「あれが、神の知恵なのですね。強さと美しさでは表しきれない尊さに息を呑みました」
「でも、変」
そう。カシオピイアの言う通り、何もかも変。
なんで野盗くん達が神の武器を持ってたのかしら。いつもと様子も違ってたし。
何かに取り憑かれたみたいで、死すら恐れない気迫で襲いかかってきた。
……数秒頭を悩ませて思考を切り替える。ここで考え込んでても仕方ないわね。
「邪魔者もいなくなったし、とりあえず街へ行きましょう。話をしたい人がそこにいる」
「ああ、行こう」
もう役所の高い屋根が見える。街まではあとすぐ。
あたし達は薬局目指してまた歩き始めた。
それにしてもルシフェルはどこにいるのかしら。彼の力も借りたいんだけど。
TELLL...TELLL...Pi
「キミかい?ああ、初めてにしてはうまくやっていたよ。……うん、それはまだなんだ。
あとは手に入れるだけさ。でもぶっつけ本番にしてはよく使いこなしていたよ。
悪いことばかりでもないさ。
タワーに到着してから、もたつく心配はなくなったんじゃないかな。
え?そりゃいいね。用意しておくよ。
また連絡する」
...Pi
んで、街に着いたあたし達はもっと変な光景を目にすることになった。
そこらじゅうに色とりどりの火の玉みたいなものが浮いてる。
街の住人や市場の店番が箒や竿でつつくけど、すり抜けるだけで触れることができない。
エレオ達も首をかしげる。
「あれは何なんでしょう……?」
「わからない」
本来タワー内部で初登場になるはずだった物体をイーノックが知るわけない。
「触れない。お姉ちゃん知ってる?」
「答え言っちゃうけど、あれは武器ウィスプ。神の武器が封じ込められてるの。
イーノックなら浄化と同じ方法で色に対応した武器が手に入るわ。
でも、今は構ってる暇はないわ。アンプリのところへ急ぎましょう」
「はい!」
突然現れた謎の物体を
持ち帰ろうとしたり壊そうとしたり食べようとしたりする住人を放っといて、
北へ続く大通りを進む。
そんでもって交差点で左折すると、何度も世話になってる薬局が見えた。
イーノックを連れて中に入る。
「邪魔するわよ~」
「どうしたの?そんなに大勢で」
カウンターでレジに入った硬貨を計算しているアンプリが、
まるであたし達を変人集団と決めつけるような目で見る。
「これでも一応数は絞ったのよ。ちょっと後ろの彼について聞きたいことがあるの」
「見ない顔ね。アースからのお客さん?」
「多分。彼を元の世界に戻すために話が聞きたくてさ。
あたしとカシオピイアの一件で、なんかそれっぽいこと言ってたでしょ。
あれについてもう少し詳しく教えてほしいのよ」
「“なんか”とか“あれ”とか曖昧すぎてわかんない。
私はあなたの専属医じゃないんだから、
里沙子ちゃんが知りたいことについてもう少し詳しく教えてほしい」
「あーもう。要するに、あたしとカシオピイアに同じマナが宿ってるのは、
彼女の産みの親である誰かがミドルファンタジアからアースに転移して、
あたしにマナを含んだ血を輸血したからよね?」
「うん」
「その誰かさんが転移した理由を知りたいの」
アンプリは困った表情で万年筆をほっぺに当てながら考える。
やがて降参、といった感じで軽く両手を上げて答えた。
「以前説明したのは、
あくまで里沙子ちゃんとカシオピイアちゃんが同じマナを持っている理屈だけ。
天変地異や次元断層の発生で
そういうことも起こりうる可能性がないわけじゃないとは言ったけど、
詳しいメカニズムまでは知らないわ」
がっかりして肩を落とすあたし。
イーノックも落胆を隠せない表情で……って書こうとしたけど、
相変わらずの無表情だった。もしかしたら状況をわかってないのかもしれない。
「エレオ~次元断層とやらができるのを予測する方法ってない?」
「すみません……次元断層についてはほとんど研究が進んでおらず、
記録として残っているのは約1200年前に発生したファングアウト次元口だけです。
ましてや人為的に発生させる方法など見当もつきません」
「ワタシも、知らない」
「あたしも、知らない。結局誰も知らないってことでオーケー?」
「結論が出たならもう帰ってくれるかしら。
相談料としてドア近くの募金箱に10G入れていってね」
「マヂで?結局なんにもわかんなかったのに金取るわけ?
あと、あんなところに置いといたらいきなり入ってきた泥棒に持ってかれるわよ」
「時は金なりよ。募金箱は台座にボルトで固定してあるから持ち去られない。
ご心配ありがとう」
「チェー、もういいわ。帰りましょう、イーノック」
「ああ」
あたしは渋々募金箱に銀貨を1枚入れて、みんなと薬局から街の通りに出た。
手がかりが途絶えて途方に暮れる。
このままイーノックをこの世界に留めておく訳にはいかないし、
どうすればいいのかしら。
大通りを市場方面に逆戻りしながら考えていると、背中にぞっとする気配が走った。
「みんな、来るわ!」
無意識に銃を抜く。
こんな街中まで野盗が乗り込んで来たの!?いや、それは設定的にありえない!
とにかく全員で四方を警戒していると、周囲の景色が歪み、
あたし達は灰色だけが形作る不気味な世界に飲み込まれた。
「ここは!?」
「きっとここは……ネザー空間!」
「ネザー空間って、なに?」
「イーノックが倒すべき堕天使達が作り出す空間よ。気をつけて、イーノック!」
「大丈夫だ。問題ない」
彼がこう言う時は大丈夫じゃない(なかった)っていう意味だから
文字通りに受け止めないでね。
──ここまで追ってきおったか。
無機質で寂しい空間に響く男の声。
そちらを見ると、真っ黒で重厚な鎧に身を包んだ体格のいい老人男性が
どこからともなく歩いてきた。
肌は緑色で、私は悪魔ですと言わんばかりの尻尾まである。
「アザゼル……」
7人の堕天使のひとり。確かエルシャダイで決着がつくのは本当に終盤だった。
「お前に我々を止めることは不可能だ」
「ねえ」
「私が行くよ」
あたしが声を掛けようとすると、イーノックがアザゼルの前に進み出る。
言葉では語らないけど、その表情に初めて決意のようなものが見えた。
いつの間にか周囲に武器ウィスプが浮かんでいる。
イーノックは黄色いものを破壊し、中身を取り出した。
出てきたのは満月のような完全な円を描く盾。
それを腕全体で撫でると、やっぱり浄化の光で元の白さを取り戻す。その姿はまさに月。
3つ目の武器、ベイルを手にしたイーノックは、それを2つに分離させ、
両腕に装備し巨大なガントレットにした。
無言で戦いの準備を整えたイーノックをアザゼルが嘲笑う。
「それでワシに勝てると思っているのか。無限の“進化”を司るこのワシに!!」
構わずイーノックはアザゼルに向けてダッシュし、
ベイルの重い二連打を繰り出す。拳が命中し、漆黒の鎧が大きく音を立てる。
だけどアザゼルは余裕の表情を崩さない。
「所詮人間の貴様ではその程度よ。食らうがいい!」
アザゼルは使役獣のハエを召喚。無数のハエが黒いボールと化してイーノックに接近。
本能的に危険性を察した彼は、脚力を活かし地面を滑るように移動して回避。
再度アザゼルに攻撃を試みるけど、敵が瞬間移動してイーノックの前に現れた。
そして緑の炎をまとった拳の二連打をイーノックに浴びせる。
反応が遅れ、まともにダメージを受けた彼の鎧が一部砕けた。
「ううっ!」
イーノックが体勢を立て直そうとしていると、アザゼルの姿が消えた。
……違う!空高く跳躍して、上方から踏み潰そうとしてきた。
紙一重の差で回避が間に合ったけど、巨体が落下して地が揺れ、
あたし達の足裏にまでびりびりと衝撃が伝わる。
重そうな鎧と大柄な体型からは想像もつかないほど
俊敏な動きで接近と攻撃を繰り返すアザゼル。
それをジャンプや横滑りで避けながら隙をうかがうけど、
敵の動きが速すぎて反撃の糸口がつかめない。更に状況は悪化。
さっきアザゼルが放ったハエの大群がまだフィールドに残っていて、
堕天使に気を取られていたイーノックが接触してしまった。
「!?」
攻撃力はないみたいだけど、ハエにまとわりつかれて動けなくなるイーノック。
アザゼルはそんな彼にゆっくりと歩み寄り、目の前で立ち止まり、
ほんの少し彼を見据えて全力の右ストレートを打ち込んだ。
今度こそ完全に鎧が砕け、床に叩きつけられ大の字に広がる。
イーノックはそのまま動かなくなった。
「……身の程を知るがいい」
あたし達は堕天使の圧倒的な力の前に呆然とするしかなかった。
だけど、すぐさまやるべきことを思い出してイーノックの救助に当たる。
エレオノーラが回復魔法を唱え、カシオピイアが応急処置を施す。そしてあたしは。
「待ちなさい!」
アザゼルにピースメーカーを向ける。彼は何も言わずに振り返る。
あたしを見るその目は何を思うのか、全く読めない。
「……銃か。それもヒトの進化の証」
「このまま無傷で帰れると思うんじゃないわよ!
あんたには聞きたいことが山ほどある!」
「よかろう。いずれ全て明らかになることだ」
「野盗に神の武器を与えたり、街に武器をばらまいたのはあんたの仕業!?」
「副次的現象に過ぎん。タワー移転計画のな!」
「タワー移転計画ですって?」
「うむ。帳で姿を隠していても、
タワーが天界に見つかるのは時間の問題だったであろう。
我々は新天地を求めてヒトを住まわせるに相応しい世界を探し求めた。
結果、先に神の武器が流れつき、
その光に魅せられた人間が自らを制御できなくなったのだろう」
「あんたの言う新天地がミドルファンタジアだったっての?」
「帳によって世界を隔てることができるなら、つなぐことも容易かろう。
我らは次元の壁が不安定なこの世界にタワーを接続し、
ヒトに更なる輝きをもたらすことにしたのだ」
「余計なお世話よ!あんたらのせいで地球が洪水で滅亡するし、
タワーなんか持ってこられたらミドルファンタジアまで巻き添えになるでしょうが。
勝手な真似しないで!」
「たかが小娘に我々の思想を理解できるものか。
お前もやがて我らの創造する新たな世界の前に屈することになる」
「やってみなさいよ!」
目で追えない速さでファニング。
ピースメーカーの.45LC弾を額に三発食らわせたけど、
倒すどころか出血すらしていない。アザゼルは不敵に笑う。
「足掻け、人間よ。理想郷誕生の時は近い」
「待ちなさい!」
踵を返して去っていくアザゼルを追いかけようとしたけど、
もうその時にはネザー空間が消え去り、奴の姿も消えていた。
堕天使の行方も気になるけど、イーノックが先ね。
もどかしい気持ちを抑えながら、力持ちのカシオピイアに背負われた彼を連れて
薬局に逆戻りすることになった。
……彼のまぶたがひくひくと動き、やがて目を開けると、みんなが安堵した。
薬局の病室で眠っていたイーノック。
エレオの魔法と、軍隊訓練で身につけたカシオピイアの応急処置のおかげで
回復も早かった。
「ここは?」
「さっきの病院。残念だけどアザゼルにやられちゃったのよ。
まあ、命があっただけマシだと思ってもう少し寝てなさい」
「すまない」
「あなたのせいではありません。堕天使があれほど強大な存在だなんて……」
「堕天使じゃなくて、タワーが」
「堕天使に構ってる場合じゃなくなった。
タワーのミドルファンタジア移転を阻止しないと大変なことになるって言いたいのね?」
「うん」
イーノックに負けないくらい無口な妹の意図を補足する。
油断してるとどっちが喋ってるかわからなくなるから注意が必要ね。
そうそう、彼にも状況を説明しなきゃ。
「聞いて、イーノック。アザゼル達がこんな事を企んでるの」
あたしはタワー移転計画について少し早口になりながらイーノックにも知らせた。
「止めなくては」
「気持ちはわかるけど、慌てちゃだめ。まだ完全に体が治ってないんだから」
無表情で焦り、起きようとするイーノックをなだめる。
すると、アンプリが食事の載ったトレーを持って病室に入ってきた。
「具合はどう?」
「今、起きたとこよ」
「よかった。これ食べて体力をつけて」
アンプリはトレーをベッドに設置してあるスライド式のテーブルに置いた。
献立は牛乳、サバの具を混ぜたお粥、賽の目切りチーズをトッピングしたサラダ。
「へー、あんた料理できるんだ。意外」
「看護婦だから入院食くらい作れて当然。さあ食べて」
「ありがとう」
イーノックがレンゲでお粥を食べ始めた。
ふーふーしてお粥を冷ます彼を見ながらあたしは思う。
お願いルシフェルそろそろ来て。
ゲームにない事態が発生したから力を貸してほしいんだけどねえ。
TELLLL...TELLLL..Pi
「ああ私だ。……うん、ようやく3つ目は手に入ったんだけどね。
ちょっとまずいことになった。うん…ああ、そんな感じだ。
あいつかい?まだ無理なんじゃないかな。連中にも困ったものだよ。
こんな事は初めてだ。全く、右往左往させられる私達の身にもなってほしいものだ。
また次の連絡で。じゃあね」
...Pi