面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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夕方から夜明けまでぶっ続けでゲームをすると丸一日体の調子がおかしくなるから気をつけましょうね。

「おはよ~イーノック。入るわよ?」

 

“ああ。おはよう里沙子”

 

病室の外から声を掛けて中に入ると、

既に身支度を済ませていたイーノックがベッドに座っていた。

ジーンズは例の鎧を召喚した時と同じものだけど、

上はどこから持ってきたのかわからないワイシャツ。

アンプリに尋ねても、“いつの間にかあった。私物だと思ってた”とのこと。

 

彼がアザゼルにこっぴどくやられてからもう3日。

教会は怪我人を安静に寝かせられる状態じゃないから薬局で入院を続けさせてるの。

あれから毎日あたしが様子を見に来てるんだけど一応聞いてみる。

 

「具合はどう?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「言うと思った。新聞は読んだかしら。はっきり言って状況は芳しくないわね。

この領地の北部に広い荒れ地があるんだけど、

そこで“蜃気楼を見た”って噂が絶えないの。

みんなが雲の切れ間に巨大な建造物の姿を見たって言ってる。

タワーだと思って間違いないわ」

 

「連れて行ってくれ。もう戦える」

 

「焦っちゃだめ。またアザゼルが出てきたら同じことの繰り返し。

十分対策を練らなきゃ」

 

「しかし」

 

「気持ちはわかる。でも、今無理に突っ込んでもどうにもならないわ」

 

「……わかった」

 

「うん。とにかくあたしは教会に戻ってエレオ達と今後について話し合う。

あなたは念のために今日いっぱいは休んでて」

 

「いや、休息は十分取った。私も帰る」

 

「そう……だけど本当に早まったことはしないでね。

あたしは退院の手続きをしてくるから」

 

「何から何まですまない」

 

「いいってことよ」

 

あたしは病室を出るとアンプリにイーノックが回復したから連れて帰る旨を伝えて、

入院費を支払った。

まぁ、やっぱり安くはなかったけど、

しっかり彼の看病はしてくれてたみたいだから文句はないわ。

 

 

 

 

 

私がイーノックの向かい側のベッドに座り話をしていると、今日も里沙子が見舞いに来た。

彼女には感謝しているよ。

寄り道の途中とは言え、イーノックが異世界で路頭に迷うことなく生活ができているのは

里沙子のおかげだ。私かい?傘があるから平気さ。

 

“具合はどう?”

 

“大丈夫だ、問題ない”

 

“……はっきり言って状況は芳しくないわね。(中略)みんなが雲の切れ間に

巨大な建造物の姿を見たって言ってる。タワーだと思って間違いないわ”

 

だろうな。あれからもう3日も経ってる。

とっくにアザゼル達が動き出していてもおかしくはない。

後で一足先に様子を見に行くとしよう。

 

“そう……だけど本当に早まったことはしないでね。

あたしは退院の手続きをしてくるから”

 

里沙子が部屋を出てカウンターの看護師に金を払いに行った。

これで彼女が身銭を切った分の働きはしなくてはならなくなった。

わかってるな、イーノック?

 

「必ずタワーを封印する」

 

「当然、堕天使の捕縛も忘れてはならない。私はそろそろ行くよ。

タワーがどんなものか、下見をしておこう」

 

そして私はベッドから立ち上がり、タワーが目撃された北を目指して

店舗を兼ねている病院から街に出た。

目的地に向かう途中、いくつもの漂う武器ウィスプを見る。

 

ずいぶんと雑な仕事だな。タワー内部の存在が先に漏れ出している。

連中も何を考えているのか知らないが、

こんなことでまともに複数の世界の集合体を運び込むことが本当に出来るのか?

何度でもやり直すことができるとはいえ、こんな事態は二度と御免だ。

誰が後始末をしているのか、もう少し考えてほしいものだよ。

 

 

 

 

 

イーノックを教会に連れて帰ったところで、住人総出で作戦会議。

開催地、いつものダイニング。以上。そんで開始直後いきなり行き詰まる。

何しろテーマが“異次元から来る巨大な塔をどうにかしよう”だからねえ。

 

「なんかない、なんかない、なんかなーい?ねえお母さん」

 

テーブルに顎を乗っけてとりあえずルーベルに聞いてみる。

 

「誰が母さんだ。それ前にもやっただろ。ふざけてないでお前がアイデア出せよ。

イーノックが探してるタワーとやらについて詳しいんだろ?」

 

「エルシャダイじゃタワーが移動した、なんて描写なかったもん。

到達までの365年間のどこかに存在したミニエピソードなのよ、今回の事件は」

 

「365年!そんなに長く旅をしていらしたんですか!?」

 

「そうなるらしい」

 

「あ、ヤバ。軽く未来喋っちゃったわ。まだ旅の途中だったのに。今のは忘れて」

 

「ああ」

 

「神の使命とは、辛く険しいものなのですね……」

 

「イーノックには悪いけど、話を戻しましょう。冗談抜きで誰かいい方法知らない?」

 

「お姉ちゃん」

 

カシオピイアが手を挙げた。

この娘もここに来たときに比べてずっと自分から喋ることが増えてきた。

それは嬉しいけど今は喜んでる場合じゃないのよね。

 

「なあに?無理っぽいことでも何でも良いから意見出しまくって。

ブレーンストーミングが必要」

 

「魔王のことなんだけど」

 

「随分前に死んだあいつ?アレがどうかしたの?

あらすじ詐欺を是正するために死んで頂いたんだけど、

今度は死んだせいであらすじ詐欺になりかけてるのよね。

もういないやつが当企画の看板に出てるんだから」

 

「この世界に来たときにね。ゲート、通ったの。どうしてなくなったのかなって」

 

「あっ……」

 

思い出した。確か魔王は魔界から来たときも逃げ帰ろうとしたときも

ミドルファンタジアとつながる異次元のゲートを通った。

最終的には魔力を供給してた魔王が死んでゲートは閉じた、はず。だったら。

ピーネが身を乗り出して語る。椅子に立つのはやめなさい。

 

「そりゃゲート自身を構成する魔力が尽きたからに決まってるわ。

次元を行き来するゲートなんて、生半可な魔力じゃ開けないわよ。

それに、タワーだっけ?なんだかよく知らないけど、

いくつも世界が重なってるような大きいものを運べるゲートなんて、作れたとしても

維持できるのはほんの数時間よ」

 

「偉いじゃないピーネ。ちゃんとお勉強してたのね」

 

「里沙子がさっさと街に連れて行ってくれてたら、もっと偉くなってたわよ!」

 

「パルフェムと時々図書館で読書をしていますからね」

 

「で、結局私達は何をすればいいんだ?」

 

「よーするに、タワーが転移する瞬間を見計らって徹底的に邪魔するの。

堕天使たちはこの世界へのゲートを開くために相当な時間を掛けて準備をしたと思う。

膨大な魔力を蓄えて、移転先にふさわしい世界を無数の異次元から探し出して。

きっとこれは彼らにとっても最初で最後のチャンス。

この機会を逃せば、また帳に隠れてイーノックとの直接対決に臨むしかなくなる。

ミドルファンタジアに洪水が来る心配はなくなるってことよ」

 

「“邪魔する”ってことは“ぶっ飛ばす”ってことか?いいぜ、面白くなってきた」

 

「やろう」

 

短くても力強い言葉でうなずくイーノック。

あたしが地球に生まれてこれたのは、何十万年も前に彼が人類を守り抜いたから。

そう思うことにした。

 

「決まりね。攻撃メンバーを選定しましょう。この際堕天使は放っとく。

まともにやり合うと分が悪いし、

とにかくタワー移転さえ阻止できればこっちの勝ちなんだから。

奴らは未来のイーノックに任せましょう」

 

「今度こそ拙者も連れて行くでござる!」

 

「はい1名様ご案内」

 

「私も数に入れとけよ。バレットM82の整備はできてる」

 

「パルフェムもそろそろ実戦用の和歌魔法を使わないと腕が錆びついてしまいます」

 

「お姉ちゃん、ワタシも」

 

「うう…私も行きたいけどまだシャボン玉しか魔法知らないのよね」

 

「わたくしも聖光捕縛魔法だけでは巨大な存在に立ち向かえる自信が……」

 

「構わない。ピーネとジョゼットはここを守って。今夜はカレーライスがいい」

 

「はい……!必ず、帰ってきてくださいね。イーノックさんも」

 

「みんな、ありがとう……」

 

「礼を言うのは生きて帰ってからにしましょう。

堕天使7人分だっけ?タワーの世界に踏み潰されないよう気をつけなきゃ」

 

「縁起でもないこと言うんじゃないわよ。潰されるのは里沙子ひとりで十分」

 

「あら酷い。まるで悪魔みたいな言い草ね」

 

「私は、吸血鬼!!」

 

「はいはい。それじゃあピーネの期待を台無しにするために

頑張って生還することにするわ。それじゃあ……戦いの準備を始めましょう!」

 

「「うん!」」「「はい!」」

 

全員の決意に満ちた返事で第一次ミドルファンタジア防衛戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

私はいつも通り“彼”と連絡を取りながら、空に現れた“それ”を眺めていた。

 

「……とまあ、こういった状況なんだ。あいつらもこんなもん作っちゃってまぁ。

幸いこっちの有志達が力を貸してくれてる。だからもう少しだけ時間をくれないか。

……わかってる。それは奴らも同じさ。成功を祈っててくれ。

次の連絡はそっちに戻ってからになる。ああ、それじゃまた」

 

...Pi

 

電話を切ると、後ろから覚えの有る複数の気配。

枯れた雑草を踏みしめながらこっちに近づいてくる。

里沙子達も上空に広がる異物に驚きを隠せない様子だった。

 

 

 

 

 

あたし達は空の変わりように思わず声を失った。

どう表現していいのか、なかなか形容する言葉が見つからない。

いつか魔国の神界塔の頂上で見た世界のように神秘的な黄金色の雲が輝くけど、

どこか偽物臭い神々しさ。

そこにまるでカーテンが揺らめくように、不安定な次元の隙間が開き、

暗黒の世界が見え隠れする。

 

更にちらちらと見えるのは、赤黒い巨大な塔。真っ赤な目がいくつも開く醜悪な存在。

これこそタワー。堕天使達の根城。

 

「いつ堕天使の邪魔が入るかわからない。

先制攻撃を掛けて今のうちにゲートを潰しましょう!」

 

みんなに呼びかけると、全員がそれぞれの武器を取り出して攻撃を開始した。

まずはパルフェムが帯に差した扇子をバッと広げ、一首詠んだ。

 

「季語に困る光景ですわね!

……梅雨の風 偽りの空 引き裂いて 我が頬濡らせ 誠の雨よ」

 

和歌魔法が発動。

空全体にソニックブームが走り、まだ存在が不安定なゲートにダメージを与える。

池にレンガを投げ込んだように次元がくしゃくしゃと歪む。

 

「やりましたわ!このまま畳み掛ければ行けるはずです!」

 

「グッジョブ、パルフェム!ルーベル、あたしらも一斉射撃よ!」

 

「おう!」

 

あたしはドラグノフ、ルーベルはバレットM82を構え、

タワーの眼球をスコープに捉えて連続射撃を開始。

遥か彼方の目標に当たるわけないことはわかってるけど、何か的が必要なのよ。

タワーは無理でも、ゲートには届いた。

形のない次元の狭間に物理的損傷は与えられないけど、

銃弾という異物が入り込んだことでまたしても安定を崩す。

 

「目標ロック。攻撃を開始します!」

 

お仕事モードのカシオピイアも二丁拳銃で空を撃つ。

紫水晶の銃から放たれる純粋な魔力のエネルギー弾は

あたし達のライフルより実体のない目標に干渉できているようで、

ゲートのゆらぎを更に強めた。

 

「拙者も負けてはおらんぞー!……驕れる者は久しからず!

輝く衣、光の車、穢れし刃で血に染まれ!陰陽殺人光線銃!」

 

百人殺狂乱首斬丸(だったかしら)を媒体にした呪いに近い魔術で

エリカも不気味に輝く空を穿つ。

真っ赤にのたうつ蛇のような魔力の帯が、天に昇り破裂して広範囲を揺るがした。

 

「天の裁きは待っては居れぬ!祈りに込めた我が怒り、光となりて顕現せよ!

……天の落とし玉β!」

 

エレオノーラの聖属性攻撃魔法が上空で炸裂。

空の様子はもう壊れたブラウン管テレビのように乱れきっている。

 

オーロラのようなゲートの存在が完全に安定を失いつつある。

このまま力を出し惜しみせず攻撃を続ければ

タワーを転移させる力を失って自然消滅するはず。あと少し!

……と思ったその時だった。

 

 

──この愚か者共め!

 

 

おいでなすったわね。暗黒の甲冑。緑の肌。忘れもしない。

7人の堕天使のひとり、アザゼル。イーノックの宿敵。

彼が空に現れ、ゆっくりと地上に降り立った。

 

「まだわからぬか!

我らの力で、お前達人間は永遠の平和と発展を手にすることができるのだぞ!」

 

「……ねえ。間違いだらけでも自分で宿題をやる子と、いつも答えを丸写しする子。

どっちが賢くなると思う?」

 

「何が言いたい」

 

「与えられた進化なんて長続きしない。人は失敗から学びながら成長していくものなの。

結局あんた達は人間を子供扱いして飼い殺しにしようとしているに過ぎないわ」

 

「知ったふうな口を……!

後悔せよ。我らを受け入れればタワーで幸福に生きられたものを!!」

 

アザゼルが体術の構えを取る。慌てるんじゃないわよ。さあ、真打ち登場!

 

「お前の相手は、私だ」

 

イーノックがアザゼルの前に立ちはだかる。いつの間にか純白の鎧も復活してる。

 

「……よかろう。小娘の始末はお前を亡き者にした後だ。来るが良い!」

 

「イーノック、リターンマッチよ!片っ端から武器を叩きつけてやんなさい!」

 

彼らの戦闘が始まると、3種類の武器ウィスプが出現。

まずイーノックはブルーのウィスプを叩き壊し、神の武器を取り出した。

そして輝くアーチを手にすると、アザゼルに向かって駆け出した。

アザゼルも黙って見てはいない。

右手をかざして使役獣のハエの群れを呼び出し、前方に発射。

 

「ふん!」

 

イーノックはそれを二段ジャンプで回避。

空からアザゼルに一太刀浴びせ、二撃目、三撃目とコンボをつなげた。

 

「ぬおっ!?」

 

たまらずアザゼルはよろめきながらワープで距離を取る。

そして体勢を立て直し、今度こそ全身で構えを取り、

イーノックに狙いを定めてその巨体で突進をしてきた。

 

間に合わないと判断した彼は回避ではなくガードを選択。

両手でアーチを持ってダメージを軽減しようとした。

でも、重く速い一撃に神の武器も砕け散り、

そのまま体当たりを食らったイーノックは後ろに放り出される。

 

「があっ!」

 

「この程度か」

 

彼は痛む体に鞭打って素早く立ち上がり、

今度はグリーンのウィスプからガーレを入手。遠距離からの攻撃に変更した。

リング状の装置から6つの飛翔体に信号を送り、レーザーのように射出。

正面からの数発はガードされたけど、

急な放物線を描く1テンポ遅らせた真上からのガード崩し攻撃が命中。

思わぬ方向から狙撃され、アザゼルが倒れ込む。

 

「うおああっ!!」

 

その隙を逃さず、続いて何発もガーレを撃ち込む。

無防備な姿勢で攻撃を受け続けたアザゼルはやはり瞬間移動で回避。

ワープ先で直立姿勢になり、再びハエの玉を呼び寄せ隙を伺う。今度は3つ。

 

「……強くなったものだ」

 

イーノックは何も言わずに最後の黄色いウィスプを割り、ベイルに装備変更した。

破壊力の大きいガントレットで一気に決着を付けるつもりらしい。

 

「だが、ここまでだ!」

 

突然アザゼルが右手に魔力を収束し、前方3方向に巨大な火球を連続発射。

危機を察知したイーノックがベイルを盾状にしてガードするけど

戦況は急速に悪化する。火球に気を取られ、さっき放たれたハエに気づくのが遅れた。

回避も間に合わず、接触。

動きを止められたイーノックは必死にもがいて振り払ったけど、

アザゼルに次の行動を許してしまう。

 

「食らえ!」

 

またしても火球が放たれた。

今度はガードすら間に合わず、戦艦の主砲弾のような燃え盛る炎の直撃をまともに受け、

致命傷寸前の傷を負ったイーノック。

衝撃で地面に叩きつけられ、そのまましばらく転がりようやく停止した。

鎧の右半分は完全に砕け、必死に立ち上がろうとするけどそれもままならない。

 

「イーノック!!」

 

あたしの呼びかけに応える力も残ってない。

勝利を確信したアザゼルが落ち着いた歩調でイーノックに近づく。

 

「ワシの忠告を聞き入れるべきだったな。神の遣いよ」

 

「うう……」

 

「お願い立って、イーノック!」

 

残された気力を振り絞り、彼はどうにか両足に力を込めて立つことはできた。

でも、どうしよう。神の武器はもうない。到底素手で勝てる相手ではない。

武器があったとしても今の体じゃ……武器?

あることを思いついたあたしは、最後の賭けに出た。

 

「……イーノック、キャッチして!」

 

ショルダーホルスターから銃を抜き、彼に投げ渡した。

イーノックは受け取ったそれを一瞬珍しそうに見ると、

デザートイーグルを右手で慈しむように撫で、スライドを引いた。

かつて悲劇の村で死んでいった人々の無念が込もった銃が聖人の力で浄化され、

青白い輝きを宿し神の武器に生まれ変わった。

 

「むっ!?」

 

アザゼルが異変に気づいたけど、もう遅い。

その瞬間、荒れ地に光り輝く44マグナム弾の咆哮がこだました。

両手で銃を構えるイーノックがアザゼルに狙いを定めている。

彼が放った聖なるハンディキャノンの弾丸は堕天使に命中し、

その分厚い鎧の腹を砕いた。

 

「ごっ、はあああっ!!」

 

痛恨の一撃を受けたアザゼルは思わず腹を押さえて後ろに下がる。

でも、イーノックが攻撃を止めることはなく、

速さではガーレを上回る拳銃弾を避けることもできない。

2発3発と続けざまに強烈な銃撃を受け、穢れきった漆黒の鎧は粉々になり、

アザゼルの緑の体が顕になる。

貫通はしていないものの、当然肉体にも身を砕くようなダメージが蓄積し、

足元がふらつく。

 

「がっ、がは!まさか、このようなことが!」

 

「どう!?これがあんたの望んだ進化の力よ!」

 

銃声を数えていたけど、デザートイーグルにはまだ1発残ってる。

アザゼルはゲートとイーノックを交互に見やり、

やがて口惜しそうにゲートに向けて飛び立った。

 

「おのれええぇ!!」

 

そして彼がゲートを通過すると、空が一瞬濁流のように乱れて黄金色の雲は消え去り、

初夏の青空に戻った。

今まで続いていた銃声や魔法の炸裂音が急になくなり、小さな耳鳴りがする。

あたし達はしばらく呆然としてたけど、

激闘の地にいささか不似合いなツバメの鳴き声が聞こえて我に返った。

 

「あ…はは、やったわ。あたし達、勝ったのね!」

 

みんなが武器を収めてイーノックの元へ集まる。早速エレオが彼に回復魔法を掛けた。

 

「ひどい怪我です。じっとしててください!」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「そんなわけないでしょう、ボロボロじゃない」

 

「これを返すよ。ありがとう」

 

イーノックがデザートイーグルを渡した。

あの輝きは失われ、いつも通りの愛銃に戻ってる。

彼の浄化と戦いの中で溜まったケガレの量がトントンだったみたい。

 

「パルフェム達、やりましたのね」

 

「うん。みんなのおかげよ。ミドルファンタジアに洪水が来ることはなくなった。

地球の方はイーノックの頑張り次第だけどね」

 

「必ず、やり遂げる」

 

「あなたなら大丈夫よ。詳しい結末は話せないけど、これだけは言える。

“きっとうまくいく”」

 

《イーノック。彼女にお礼を言っておいてくれないか。

ゲート消滅の余波で私達も元の世界に帰れそうだ。

残念だが里沙子達とはここでお別れだ》

 

「里沙子。本当にありがとう」

 

「もう、行くの?」

 

「ああ」

 

イーノックの体が徐々に透けていく。

 

「旅の無事を祈っていますね」

 

「また、来てね」

 

「次はもっと風流な一首を捧げますわ」

 

「この世界にPS3とエルシャダイが来たらこっちから会いに行けるんだけどねぇ。

まあ、出会いに別れはつきものだから。短い間だったけど楽しかった。

不死身のあなたにこういうのも何だけど、応援してるわ。元気でね」

 

「里沙子達も、元気で」

 

もう彼の姿はほとんど見えない。みんなが万感の思いでイーノックを見送る。

そして雲間から差した光が荒れ地を照らすと同時に、

彼はミドルファンタジアから消えていった。

 

 

 

 

 

周囲の景色が荒れ地から一変、緑豊かな大地に変化した。

やれやれ、とんだ足止めを食らってしまった。

 

「どうにか戻れたみたいだぞ、イーノック。アークエンジェル達とも通信がつながった」

 

天界からラファエル達の声が聞こえてくる。

 

《おかえり、イーノック。君が帰ってきてくれてなによりだ》

 

《ずっとあなたのことが心配でした。また元気な姿を見られて安心しています》

 

《次こそは私の力を貸そうぞ。さあ、旅を続けるのだ》

 

「帰ってくるなりご苦労だが、お前の旅はまだまだ終わらない。

今度こそタワーに辿り着き、堕天使を捕縛する、その時まで」

 

「……ああ、行こう」

 

イーノックは一度だけ後ろを振り返り、また広い草原を駆け出していった。

 

 

 

 

 

「今回も妙な騒ぎに巻き込まれちゃったけど、

イーノックとお知り合いになれたから不幸と幸運が五分五分ってとこね」

 

北部から戻ったあたし達は、コーヒーブレイクで疲れを癒やしていた。

 

「本当あいつの事が気に入ってるんだな。まぁ、悪いやつじゃなかったけどよ」

 

「パルフェムも、もっとお話ししたかったですわ」

 

「そうですね。でも、彼には大事な使命がありますから

ここでゆっくりしているわけにもいきませんでしたけど」

 

「皆さんが無事でよかったです~

でも、世界の危機を食い止めたのに誰にも知られないままなんて……」

 

「知られないほうがいいのよ。また変なのが集まって来るし」

 

「そーよ。里沙子は普段怠けっぱなしなんだから、

たまにはタダ働きさせたほうがいいの」

 

「ピーネうっさい。ラピッドガーレを食らえ」

 

あたしは籠の中のキャンディを一つ投げた。見事ピーネのおでこに命中。

 

「いたっ!なにすんのよ、本当のこと言われたからって暴力に訴えるなんてサイテー!」

 

「口は災いの元ってことよ。覚えときなさい」

 

「話は変わるけどよ、お前の話じゃイーノックって何度も旅をやり直してるんだよな?」

 

「そう。ルシフェルの能力でね。彼には結局会えなかったけど」

 

「だったらさ、今回の騒動も実は何回も失敗してて、

実際は何百回も出会ってるのかもしれねえな」

 

「あはは、そうかもね。ハッピーマイルズにタワーが上陸してて、

あたしがアザゼルの世界でバイク乗り回してるってケースもあったかもしれない。

マヂでぶっ飛んでるから、あそこ」

 

「可能性とは不思議なものですね。

堕天使達が憧れたのもある意味必然だったのかもしれません。

イーノックさんが無事に旅を終える可能性に祈りましょう」

 

「綺麗に締めてくれてありがと、エレオ。今夜のエールは美味くなりそう」

 

こんな感じで奇妙な出会いとちょっとした冒険は終了。

次回は休養も兼ねてのんびりした日常話をお願いしたいものね。

 

 




TELLL...Pi

「ああ、やっぱり今回も駄目だったよ。あいつは話を聞かないからな。
そうだな、次はこれを見ているやつにも、付き合ってもらうよ」

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