面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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2.今年の6月は妙に寒く感じるんだけど、あなたはどう思う?

その日はダイニングでジョゼットが入れたコーヒーを飲みながら

スマホで音楽を聴いていたの。

前回はルーベルとふたりきりだったけど、

今日は洗い場で昼食のお皿を洗ってるジョゼットと一緒。

最近ジョゼットの出番が少ないから、今回はこの娘と絡もうかしらね。

 

いつものようにゲーム音楽のプレイリストを垂れ流していると、

作業を終えたジョゼットがイヤホンから漏れ聞こえる懐ゲーの名曲に興味を示した。

 

「里沙子さんの“スマートフォン”でしたっけ?

レコードもないのにたくさん音楽が聴けるなんて凄いですね~。

今流れてる曲を聴いてると、なんだか気分がワクワクします」

 

「スマホはもはや通話機能がオマケみたいなもんだからね。

それにしてもこの曲の良さがわかるとは大したものね。

ちなみに今は“作戦名ラグナロク”のOPテーマを流してるんだけど、

歌詞がないから規約違反にもならないし、テンションが上がるし、大好きな曲よ」

 

「規約って何の決まりですか?」

 

「なんでもない、こっちの話。

これはね、あたしが小さい頃にハマったシューティングゲームの音楽よ。

強力な武器を装備した飛行機を操作して敵をどんどん撃ち落としていくの。

近所の本屋にゲームの装置があってね、1プレイ30円だったかしら。

毎週200円の小遣いもらったら、本屋にダッシュしてたもんよ。

だけど、どっちかと言えばゲームをするというより、

BGMを聴きたくてプレイしたのかもしれないわ。

いつも1面のボスか2面の最初でゲームオーバーになってたけど満足だったし」

 

「う~ん、よくわからない言葉が多いですけど、

以前聞いたマリーさんのテレビで遊べるゲームの一種ということでいいんですか?」

 

「そうそう。あれの業務用だと思ってくれればいいわ」

 

「里沙子さんの世界の貨幣単位も初めて知りました。エンって言うんですね」

 

「ちなみに200円はゴールドに直すと2Gくらいよ。

それでもうまい棒が一本10円だったりチョコバットが30円で買えたりして、

小学生にしては結構な贅沢ができたわ。

うまい棒は不景気な今でも10円価格を貫いてるけど、どうやって利益出してるのかしら」

 

自分も紅茶を入れて椅子に座り、完全にダベりの体勢に入るジョゼット。

菓子かごの中からラングドシャをひとつ取って口にする。

 

「もぐ。子供時代の里沙子さんにも楽しい思い出があったんですね。ホッとしました」

 

「なぁに?まるであたしが恵まれない幼少期を送ってたみたいじゃない。

一応先進国と呼べる国に生まれたんだから普通に飲み食いは出来てたわよ」

 

「あっ…!ええと、それは、言葉の綾で~」

 

慌ててごまかすジョゼット。

何か隠してるのがバレバレだったけど、興味が無いからスルーした。

 

「どうでもいいけどね。

まあ、こんな感じであたしのスマホにはまだまだ大量に名曲が入ってるのよ。

あ、そうだ。ゲームじゃないけど面白い曲があるの。おすすめよ。聴いてみて。ププッ」

 

耳からイヤホンを抜いて差し出す。

 

「なんだか最後の笑いが黒かったので聴きたくありません」

 

「そう言わずに一回聴いてごらんなさいよ。

面白いことが起きるかもしれないし起きないかもしれない」

 

「いーやーでーす!里沙子さんが言う“面白いこと”って、

絶対わたくしにとって“不幸なこと”ですもん!」

 

「あんたも鋭くなったわねぇ。お察しの通り曰く付きの曲だけど、

あたしが大丈夫だったんだから問題ないわ。

あんたも度胸試しにトライしてみなさいって」

 

「あー!あー!聴きたくない!流したらルーベルさんに言いつけますよ!?」

 

「そうね、ついでにルーベルにも聴かせて……」

 

 

コツ、コツ……

 

 

はい玄関ノック。馬鹿騒ぎが一気に静まる。

あたしとジョゼットはピタリと動きを止めて目配せをして、スマホの電源を切る。

足音を殺してそっと聖堂に向かい、玄関ドアに近づくと、ドアスコープを覗き込んだ。

 

……ため息をついて頭を振る。

前回のリーブラと同じく、大人しめな奴がキョドりながら立ってたんだけど、

大人しい奴がトラブルを起こさないと思ったら大間違い。

威嚇で追い返せないか試してみた。

 

「今日は日曜じゃないでしょう!?さっさと帰りなさい!」

 

“ひっ!あの、あの、どうしても大事な用事があって……”

 

「もうすぐ雨漏りの修理が来るから相手してらんないの!帰った帰った!」

 

“そんなぁ…それじゃあ、わたし、どうすればいいんですか……?”

 

「あたしの知ったこっちゃないわ!帰って!」

 

大声で揉め事の種を追い返そうとしていると、

それを聞きつけた住人がぞろぞろと集まってくる。

 

「どうした里沙子?玄関でワーワー叫んで」

 

「厄介な客ならドア越しに撃つことをお勧めしますわ、お姉さま」

 

「ドアに穴が空くからそれはやりたくない。もうひと押しで行けそうだから待ってて。

……コラー!いい加減に帰らないと隣にあるガトリングガンが黙ってないわよ!」

 

“あの変な物体ですか?何なんですか、あれは”

 

「20mm機関砲とも言うわ。

もうちょい発射レートと命中精度が上がればミサイルも撃ち落とせるようになる」

 

“し、死神にそんなもの効きませ~ん!多分……。

お願いですから、エリカさんに会わせてくださいよぅ”

 

「面倒で退屈な誰も喜ばないバトル展開になるのが見え見えだから絶対に嫌」

 

“このまま帰ったら、また所長とパパ上様に叱られるんです~。おねがーい!”

 

「待たれよー!」

 

「あん?」

 

相変わらず押し問答を続けていると、来てほしくないタイミングを見計らったように

エリカが2階から下りてきた。位牌の中で寝てりゃいいのに、もう。

 

「里沙子殿、彼女とはまだ決着がついておらぬ!もう一度あの死神と手合わせを!」

 

「やだ。今回はジョゼットと絡むって冒頭で言った」

 

「……あの、里沙子さん」

 

その時、当のジョゼットが真剣な表情で話しかけてきた。

 

「嫌な予感しかしないけど、なに?」

 

「絶対に争いはしない。話し合いだけをするという条件で、

せめて中に入れて差し上げてはどうでしょうか?」

 

「話し合いで終わるわけないでしょうが。あんたには話したかしら。

死神は寿命を迎えた人間は必ず持って帰らなきゃいけない。

予定日数オーバーしすぎのエリカとぶつかり合いになるのは目に見えてるでしょう」

 

「必ずわたくしが説得します!これでもシスターとして少しは修練を積んだつもりです。

死を司る神と現世に留まる霊魂との橋渡しをしてみせます!」

 

「そうは言ってもねえ……」

 

「里沙子さん。わたしからもお願いします。

いざというときはわたしも力を貸しますので……」

 

「もう、エレオまでそんな事言うんだから。

……しょうがない。暴れだしたらちゃんとぶっ飛ばしてね?」

 

「はい!」

 

「やったー!エレオノーラ様、ありがとうございます!」

 

シスター二人が手を取って喜びあうのを横目に、仕方なくドアを開けた。

そこには黒のローブを来た不安げな死神。

 

「あ、あの、あなたはハッピーマイルズの広場でお会いした……」

 

「斑目里沙子で間違いないからさっさと入って。

あたしはエリカの件については中立派で、

家でバトルやろうとしたらあらゆる手段を講じて叩き出すからそこんとこヨロシク」

 

「はいぃ!」

 

やっぱり見た目年齢にそぐわない縦巻きカールを跳ねさせながら

聖堂に入る死神ポピンス。

居合の構えを取りながら彼女を見るエリカを手で追い払いながらダイニングに通す。

おずおずと席に着いた彼女に不機嫌さを隠さず尋ねた。

 

「……茶。コーヒーと紅茶どっちする?」

 

「コーヒー。に、たっぷり砂糖とミルクを入れてください」

 

「わかった。コーヒーですってよ、ジョゼット」

 

「はい、ただいま!」

 

「砂糖と粉末ミルクはそこにあるのを自分で好きなだけ入れて」

 

「えへへ、コーヒーは角砂糖を5つは入れないと飲めなくって」

 

だったら紅茶にすりゃいいのに。後日聞いたら微妙に酸っぱいから嫌なんだってさ。

 

「飲み物はまだだけど、お茶菓子はそこ」

 

「わーい、クッキーがある!いただきまぁーす!」

 

これらのやり取りの間に住人全員も座ってポピンスを見てたけど、大きなお友達を前に

あまり市場価値のない珍獣に遭遇したような表情を浮かべる。

 

「みんなにもしばらく前の出来事について話したと思うけど念の為改めて説明しとく。

彼女、これでも死神でポピンスっていうんだけど、

とっくにあの世にいるはずのエリカを冥界に連れて行こうとしてたわけ」

 

「むぐむぐ。はじめまひて!気軽にポピィってよんでくらは~い!」

 

「お茶をどうぞ」

 

「ありがとございます!えーと、砂糖を5つとクリームを大盛り4さじ。

う~ん、いつものお味!」

 

「美味しそうに飲み食いしてるところ悪いんだけどさ、今日は結局何しに来たわけ?」

 

ジョゼットも用事を終えてテーブルに着いたところで、

この中で一人だけ警戒心を顕にしているエリカに注意しつつ用件を尋ねる。

両手の袖で持っていたマグカップを置いて、

ポピンスもだらしない笑顔を引っ込め語りだす。

 

「はい……。先日は職務とは言え、強引な手段を取ったことを反省しているんです。

エリカさんに痛い思いをさせちゃって、本当にごめんなさい。

その上で彼女になんとか思い直してもらえないか説得に来たわけで」

 

しょげた様子で謝る彼女に嘘や芝居を打っている気配はない。

というより、そんな芸当ができるとは思えない。

 

「それに関してはエリカと話し合って。

幸いここには聖職者が二人もいるし、落ち着いた感じで話せると思うからさ。

……エリカも何か言ったら?」

 

「うむむ~。話し合いと言っても拙者自身も百人殺狂乱首切丸に宿る死霊達も、

まだ三途の川を渡るつもりはないでござる。妥協点が見いだせると思えないのじゃ」

 

「でもでも!あまりマリア様をお待たせしてしまうと、シヴァー様の心証が悪くなって、

冥界へ渡った後の待遇が悪くなってしまうと思うんですぅ……。

例えば、地獄に落っこちちゃうとか」

 

「もとよりそれは覚悟の上。我らは現世の悪を滅するためにこの世に留まった。

本懐が成し遂げられるならば喜んで地獄へ赴こう」

 

「横からすみません。あの、エリカさんがお世話をしてる死霊達は、

本当に全員天界へ昇ることを拒んでいるのでしょうか……?」

 

ここで初めてジョゼットが発言。さて、どうなるか。

 

「どういう意味じゃ?ジョゼット殿」

 

「中には現世を彷徨うことに疲れて、

冥界行きを望んでいる霊魂も存在しているんじゃないでしょうか。

エリカさんの刀に宿っている無数の魂に

そんな人が本当に一人もいないんでしょうか!?」

 

「……仮に、仮にいたとしたら、ジョゼット殿はどうしろと?」

 

「その人達をポピンスさんに連れて帰ってもらいましょう。

まだまだ現世を離れられないエリカさん達はともかく、

あの世で待っている家族に会いたいと思っている人が、きっと一人はいるはずなんです。

お願いです、エリカさんから彼らに語りかけて、本心を聞き出してください。

もし誰かが帰りたいと願っていたら、

本日のところはその霊魂だけを連れてお引取りいただくと。

それではだめでしょうか、ポピンスさん?」

 

「ええ~っ。全部じゃなきゃ、また怒られちゃうかも……」

 

「でい!!」

 

「ぎゃひっ!わかりました!ちょっとでいいから持って帰らせてください!」

 

「ジョゼットが真面目に語る機会なんてめったにないんだから大事にしてやって。

じゃあ、エリカ。

なんちゃら首切丸を持ってきてポピンスに任せられる死霊がいないか探しなさい」

 

「死霊は手土産ではないのじゃが……。少々待つでござる」

 

両者あまり納得していない様子だけど、

エリカは2階に漂って行き、ポピンスはまた甘々コーヒーに口をつける。

けど、頬杖をついてエリカが戻るのを待とうとした瞬間、

あたしの部屋からゴツゴツとうるさい物音が聞こえてきた。何よもう。

 

“里沙子殿ー!助けてほしいでござるー!”

 

「どうしたってのよ!」

 

面倒だけど2階へ上がって私室のドアを開ける。

そしたら首切丸を持ったエリカが飛び出てきた。

 

「刀ひとつ持ってくるのにこのあたしを手伝わせるたぁ、いい度胸ね」

 

「違う!違うのじゃ、これは!」

 

「何が違うのか言ってみ?おりんを溶かして新しいレターオープナーにされる前に」

 

「待つでござるよ!霊体の拙者と違って首切丸は実体を持つ刀。

扉をすり抜けることができなかったのじゃ!」

 

「ったく、しょうがないわね。下に戻るわよ」

 

「かたじけない」

 

「世直しも結構だけど肝心の武器を持ち出せないんじゃどうしようもないじゃない。

いつもあたしが居るとは限らないのよ?本当にこいつは」

 

「部屋の外に立てかけておくのはどうじゃろう……」

 

「みんなのところに変なのが入るかもしれないでしょうが」

 

ブツブツ言いながらダイニングに舞い戻る。

あたしは席について、エリカは首切丸をテーブルに置いて議論再開。

本当は食事するところに置きたくないんだけど、

文句ばかり言ってたら一向に話が進まない。ジョゼットがエリカを促す。

 

「では、エリカさん。刀の中にいる仲間達に呼びかけてください」

 

「うむ」

 

そしてエリカは言葉で語らず、目を閉じて刀の鞘をゆっくりと撫でる。

すると刀がぼんやり赤黒く光りだし、人魂が3つ抜け出てその場で力なく漂い始めた。

 

「わぁ、年季の入った幽霊ですぅ……」

 

「エリカ、こいつら何か言ってるの?」

 

「しきりに“疲れた”と繰り返す者、

愛する者の名を呼び続ける者、ただ救いを願い続ける者。

いずれにしても、もう戦う気力はないのじゃ」

 

「じゃ、じゃあ!この方たちは、連れて帰ってもいいんですね!?」

 

「拙者に彼らを止める資格はない。“後は任せよ”と伝えておいてほしい」

 

「わっかりました~」

 

ポピンスは懐からオレンジ色に燃えるランタンを取り出し、

目の前でゆっくりと揺らした。

反応した人魂達は一瞬戸惑ったようにわずかに跳ね、

それから様子を探るようにランタンの周りで浮かぶと、

オレンジの火の中に飛び込んでいった。

 

「ふぅ~、回収完了です。ご協力、ありがとうございましたぁ~!」

 

あたしを含めた住人達もホッと一息。……したんだけど、

ポピンスの様子がなんだかおかしい。ランタンを持ったままじっとしている。

 

「なに。妙なこと考えてるんじゃないでしょうね?用事が済んだなら帰って」

 

「……わたし、思ったんです」

 

「だから何が!」

 

段々イライラしてきた。ポピンスはコト、とランタンを置いて続ける。

 

「この方達は、自分の意思で天に召されたいと願った。

だからこうして連れ帰ることを認めてくれたってことですよね?」

 

「今更情報繰り返さないで。イラつきがマヂで限界」

 

「だったらこうすればもっとついてきてくれるはずです!

……鎮魂歌(レクイエム)第7番。“死神の子守唄”」

 

しまった!彼女が歌を始めようとしたから慌てて止める。

 

「待ちなさい!バトルはしないって約束だったでしょうが!」

 

「戦うなんてとんでもない。わたしは歌を歌うだけです。それでは……」

 

眠れ良い子よ 安らかに

一緒に川を 渡りましょう

向こうは楽しい事ばかり

悲しみ 苦しみ 痛いこと

全部忘れて 渡りましょう

 

「このアマ!あたしを謀ったわね!」

 

「里沙子殿、歌をやめさせるでござる!このままでは霊魂達が!

くうっ……拙者はとても戦える状態では、ござらん!」

 

「おいおい、こりゃ一体なんだ!?」

 

歌が始まると、首切丸からポンポンと人魂達が抜け出て、

今度はランタンがブラックホールになったように強力な力で吸い込もうとする。

両耳を塞いでいるエリカに大声で状況を問いただす。

 

「どうなってんのよ、エリカ!」

 

「この歌は人間で言う洗脳でござる!

わずかにくすぶる“成仏したい”という心を増大させて、

無理矢理冥土送りにするものじゃ!」

 

「ああ、どうしましょう!魂たちが飲み込まれようとしています~!」

 

「こんにゃろう!あたしの家で勝手な真似は許さないわよ!」

 

ピースメーカーのグリップでポピンスをぶん殴ろうとしたけど、

当たることなくすり抜ける。

くそっ、そう言えば死神は実体と霊体両方になれるんだったわね……!なおも歌は続く。

霊魂もこれ以上耐えられそうにない。

別に彼らに思い入れはないけど、この甘ちゃんの思い通りになるのは気に入らない!

 

起死回生の一手を探る。考えなさい里沙子。何か霊体にも干渉できるものは……あった!

あたしはテーブルに置きっぱなしだったスマホを手に取り、musicフォルダを開いて、

音量を最大にしてひとつのファイルを再生した。

 

 

Ummm... Ahhhh, Ahhhh, Ahhhh!!

 

 

若干おどろおどろしいコーラスが始まると、みんなの視線がスマホに集まる。

さすがにポピンスも歌を中止してその歌に聞き入る。流れるのは悲しげなシャンソン。

 

「あのぅ……この歌は?」

 

「ふふふ。アースにね、聴いた者が次々と自殺する呪われた曲があったの。

恋人を失った女が日曜に自殺を決意するという悲しい歌。

そう、今まさに流れてる“暗い日曜日”が

あんたの奥底に眠る自殺願望を掻き立てる、かもしれない」

 

「い、いや!やめてくださいよぅ~!」

 

「馬鹿やめろ!私達までとばっちりを食うだろうが!」

 

「我慢して。これはあたしら全員とこの死神との戦いなの。

強い意思を持っていれば呪いになんて負けないはずだけど……。

そこのポピィちゃんにそれが可能かしら」

 

「だめ、聴きたくない聴きたくない!歌を止めてください!」

 

「あんたはあたしがやめてって言ってもやめてくれなかったでしょうが。

さあ、もうすぐ歌が終わるわよ。

気がついたら、ご自慢の鎌で自分の首を切り落としてた、なんてことになってるかも?」

 

「ごめんなさぁい!もうしませんから!死にたくないよー!」

 

何も知らない人が聴いたら不安を煽られるようなメロディがポピンスをビビらせ続ける。

 

「曲を止めるつもりはない。とっとと家から出ていく以外に助かる方法はないわねぇ」

 

「パパ上様、ポピィを助けて~!怖い歌でいじめられましたわー!」

 

ランタンをわしづかみにしてポピンスはダッシュで逃げていく。

玄関から外に飛び出したのを確認すると、スマホの音量を戻してポケットにしまった。

 

「ふん、うちにケンカ売るなんざ10年早いのよ」

 

一安心したけど早速みんなからクレームが来る。

 

「何考えてるのよ!私達まで呪いの歌の巻き添えにしようとして!」

 

「そうだ!全員まだ生きてるが、いつ呪いが発動するか……」

 

「あんなのインチキに決まってるじゃない。

ピーネはともかく、ルーベルまで真に受けないでよ」

 

「「はぁ!?」」

 

ほぼ全員が同時に素っ頓狂な声を上げる。

 

「確かに、かつて“暗い日曜日”に関わった直後に自殺した人達がいたことは事実よ。

だけどそれは単に曲がリリースされた時期の世界情勢が

自殺を引き起こしやすいほど酷かったことが原因って結論が出てる。

呪いなんかありゃしない。エレオならわかってたはずよ」

 

「はい。歌で人を呪い殺すなど、よほど熟練した呪術士でもなければ不可能ですから」

 

「びっくりしました~。わたくし達、死んじゃうんじゃないかとドキドキしました。

あ!里沙子さんが聴かせようとしてた曲ってこれだったんですね!?

ひどいです、わたくしを死なせようとするなんて!」

 

「まだ言うか。あれはただのお遊びよ。

だったらYouTubeで100回近く聴いてるあたしは誰?」

 

「自殺者が続出するなんて、どれだけ酷かったんだ?その時のアースは」

 

「世界恐慌の真っ只中で、しかも第一次世界大戦で荒れに荒れてた」

 

「“せかいきょーこー”って何なのよ。戦争はわかるけど」

 

「ざっくり言えば、みんな一斉に貧乏になることですわ」

 

「もう!だったら最初っから言いなさいよ!」

 

「ポピンスの前でネタばらししたら意味ないでしょうが。それで、エリカは大丈夫?」

 

「まだ頭がふらつくが、問題ないでござる。死霊達も無事なのじゃ。礼を言うでござる」

 

「しっかしあいつも、

初登場から割と短いインターバルで再登場させてもらったってのに

ずいぶん勝手なことしてくれたわね。

今度会ったらリーブラけしかけるって脅しとかなきゃ。

そういうことだから、そろそろ起きて、カシオピイア。

寝てばかりいると、街の保安官みたいになるわよ」

 

「ん…なにがあったの?」

 

「あのでかい音でも起きないなんてすげえな」

 

「本日の厄介者がいなくなったところで、お茶の続きにしましょう。

暗い日曜日でも聴きながら」

 

「それはもう要らん」

 

「里沙子の持ち物って変なものばっかり。全部捨てちゃえばいいのに」

 

「そう言えば里沙子さん」

 

隣にいるエレオノーラが聞いてきた。

 

「その暗い日曜日って、本当はどんな歌なんですか。詳しい歌詞を教えてください」

 

「うんとね、確かにどんよりとした雰囲気の曲なんだけど、それほど怖い歌じゃないの。

“たとえあなたが帰ってきても、きっと私は死んでいる。でも恐れないで。

その何も見ることがなくなった目は、あなたを見つめているのだから。愛していたと”

規制に引っかかるから勝手に要約させてもらったけど、そんな感じ。

決して呪いの歌じゃないの。命をかけた燃えるような愛の歌。あたしはそう解釈してる」

 

「なるほど。

意味さえわかれば怖がる必要はありませんし、どこか素敵な歌でもありますね」

 

「ジョゼットー。今日はあんたの相手をするつもりだったんだけど、

変な客のせいでおじゃんになったわ。ごめんねー」

 

「結構です!里沙子さんは一緒にいたら意地悪ばかりしてくるんですから!」

 

「ん、またなんかされたのか?」

 

「あーあー、終わった話よなんでもない。

今度は“世界樹の迷宮”名曲プレイリストでも流しっぱなしにしましょうかね」

 

ルーベルにチクられたらまたエールを取り上げられる。

あたしは話の流れをひん曲げてお茶に戻った。しかし、こうも迷惑な客ばかり来るなら、

将軍とか信用できる人だけに行き先を教えて一度引っ越そうかと思ったけど、

面倒くさいから考えた瞬間やめにした。

 

 

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