皆さんは、昔「風雲!たけし城」というバラエティ番組が
お茶の間を席巻していた事をご存知かしら。
視聴者参加型番組で、いろんな年齢や職業の人達が賞金100万円を目指して、
泥んこになりながら行く手を阻むトラップに
体当たりで挑むとっても楽しい番組だったの。
そのたけし城から安全対策を全部取っ払ったら今のような光景が生まれると思う。
これからお話しするのはそんな汚れた物語。
毎年のように報道される、
無茶な組体操やピラミッドによる運動会の事故が一件でも減ることを願って。
ハーメルンの片隅から、斑目里沙子より。
《位置について。よーい、スタート!》
また審判がレーススタートという名の殺し合い開始の合図を出した。
見た目だけスタンディングスタートの形を取っていた4人が、
ホイッスルが鳴ると同時に一斉に潰し合いを始める。
ある者はライバルの首に腕を回して絞め落とし、
「死ねよやぁ!!」
「あがががが!うっ……」
またある者はギブアップするまで関節技を極めて行動不能になるまで激痛を与える。
「腕ひしぎ十字固めじゃ!」
「ぐぎゃあああ!痛い痛い痛い!!」
レース開始から誰も1mたりとも動いてない。
他人を全部叩きのめしてから確実に勝利するつもりらしいわ。
既に何人もの選手がのたうち回って白いコースはぐちゃぐちゃ。
何度も見た光景よ。もうすぐ順番が回ってくる。
青くなって見ているうちに決着がついたみたい。
生き残ったタンクトップの毬栗頭が走り出したわ。
そして悠々と50mを走り、赤い旗を取った。
残されたのは気絶したり痛みに悶える敗者達。
《第6走勝者は、ブライアン選手。第二種目進出おめでとうございます》
「やったぜー!」
旗を掲げるブライアン君に惜しみない拍手を送る観客達。
ねえ、あんたらにはレースの度に生まれる犠牲者達が見えてないの?
担架で雑に運ばれていく負傷者を見て、思わず昔見た映画の台詞を吐いていた。
「何も変わらねえ、昔のままだ……。どいつもこいつも狂ってやがる!」
出典元:カイジ2 人生奪回ゲーム
《続いて第7レースを開始します。選手の方は、前へ》
目の前の惨状に呆然としていたけど、審判の声ではっと我に返る。
体育座りで待機していたあたしは、手をついて立ち上がり、覚悟を決めてコースにつく。
勝たなきゃ。勝たなきゃ誰かの養分……!
あたしは右端のコース。左側では筋肉自慢の連中が、
指の骨を鳴らしたり首を回したりしてレース開始を待っている。
その一人、モヒカンの男があたしを見て隣の男とゲラゲラ笑った。
「ウヒヒ。なあ、オレの横に強そうな女がいるんだよ。
すげえチビでメガネだから怖くて仕方ねえや。オレどうしたらいいんだよ~。なんてな」
「手遅れにならないうちに棄権したらどうだ?へへへ」
殺す。図らずも命知らずのアホ共のおかげであたしの胸にも闘志らしきものが芽生えた。
黙ってスタンディングスタートの体勢を取る。審判がラインの隣に立ち、宣言した。
《位置について。よーい、スタート!》
ホイッスルと同時にさっきのモヒカンが襲いかかってきた。
両腕を伸ばしてあたしを拘束しようとしたけど、その手が届く瞬間、
コースに並ぶ直前に握り込んでいた土を奴の顔に投げつけた。
「食らいなさい!」
「うわっぷ!!」
泥に近い土が目や口に入ったモヒカンの動きが止まった瞬間、
おもっくそ奴の股間を蹴り上げた。ドスンと音が聞こえるくらいの強烈なキックが命中。
「はぎゃああああ!」
たまらず悲鳴を上げて前かがみになるそいつを、
更に蹴飛ばして右から3列目の男にぶつける。
左端の選手と掴み合いになっていた彼は、
いきなり後ろから大男に寄りかかられて転倒。よし!右端と左端とは距離がある。
不利な接近戦を挑むより攻撃を受ける前に逃げる方が勝算があるわ。
「忠告どおり棄権したほうがよかったわねー!」
「あ、待て!」
しかも一瞬早くダッシュを開始できたから残りのひとりと若干差をつけることができた。
すばしっこさではちょっと有利だからこのまま行けばどうにか勝てそう。
水分の多い地面に転ばないよう気をつけながら走る。今、大体20m。
赤い旗がどんどん近づいてくる。順調に行けば1着でゴールできる、と思った時だった。
背後に大きな気配が現れたと思うと同時に、体が宙に浮き、視界に青空が広がった。
背中に柔らかい衝撃を受ける。
あれ……?
何が起きたかわからないあたし。
泥で滑ったのかと思ったけど、だったらうつ伏せに倒れてないとおかしい。
とりあえず起き上がると体格のいい男が立ち上がって走り去るのが見えた。
「へへっ、悪いな嬢ちゃん!」
しまった、追いついてきたあいつにスライディングをかまされたのね!
予想以上に足が速かったライバルに逆転を許してしまう。
もう30mは進んだ。時間がない!何か起死回生の策はないの!?
あたしは立ち上がりながら周囲に視線を走らせる。
必死に使えそうなものがないか探していると、
目に飛び込んできたものにあたしの悪知恵アンテナが反応。これなら行ける!
あたしは急いで軍手を外し、人差し指と親指で輪っかを作り、口笛を吹いた。
甲高い音が会場に響き渡る。
その音は参加者が乗ってきた馬車を停めている駐車場まで届き、
あたしが乗ってきた馬が音を聞きつけ走り出した。
ぼけーっと大会終了を待っていた御者は突然動き出した馬車に驚いて車体にしがみつく。
そして馬はいななきながら会場へ乱入。
あたしはコースを外れて駆け出し、馬車の御者席に飛び乗った。
「ごめんあそばせ!」
「あんた何やってんだ!?」
「今日はダービーめでたいなっと!」
御者から手綱を奪い取ると、一度弾いてスピードアップ。予想外の展開に観客が熱狂。
二頭の馬は悪路を物ともせずに、再びコースへ向けて猛スピードで駆け抜ける。
残り10m!まもなく旗が敵の手に渡る。お願い、間に合って!
あたしを転ばせた選手も、ガタガタと車体を揺らしながら迫る馬車に気づいたようで、
一瞬振り返るとギョッとした顔を見せた。
何が起きたかわからない様子でラストスパートを掛ける。あと5m!
馬車を飛ばしたはいいけど、ほんの少しだけ相手が速い。
手を伸ばせば旗に届いてしまう。
でも、負けるわけにはいかない。あたし達の夏の生活がかかってるし、
ここまで面倒くさい思いをして参加した努力が無駄になる。
菓子袋1個じゃ釣り合わない。だからあたしは……。
「はあっ!」
彼に犠牲になってもらうことにした。
手綱を思い切り右に引っ張る。馬は急激に方向転換。
選手の手はもはや旗を掴む直前だった。
が、ゴール直前、ドリフトしてきた馬車の車体の直撃を食らい、
激しい勢いでコース外へきりもみ回転しながら飛ばされていった。
「うぎゃああああ!!」
「ストーップ!どうどう」
手綱を引いて馬を止める。結果、コースにはあたしひとりだけ。
馬車を降りると、旗を取り、誇らしげに掲げた。
《第7走勝者は、斑目里沙子選手。第二種目進出おめでとうございます!》
どうにか初戦を突破すると、ほっとしてその場に旗を放り出す。
そして目を丸くしてあたしを見てる御者さんに近づいた。
「驚かせてごめんなさい。チップ弾むから元の場所で待っててくれるかしら」
「あんた何考えてんだよ!もう二度と御免だからな!?」
「大丈夫。あたしの勘だと2回同じ手は通用しない。安心していいわ」
「まったく、馬も車もガタが来てるってのに……」
ブツブツ言いながら御者さんは馬を駆って去っていった。
レースを終えたあたしは再度待機所へ戻って第一種目の終了待ち。
まぁ、その後もひどいもんだったわ。
スタート直後に隣のやつを背負い投げするわ、
隠し持ったメリケンサックで殴りかかるわ、
あたしの真似したのか両手で集めた泥で顔面に攻撃するわ。
綺麗事一切抜きの蹴落とし合いが終わると、進行役のアナウンス。
《只今をもって、第一種目が終了しました。
第二種目へ勝ち進んだ皆さん、おめでとうございます。
惜しくも敗れた皆さんは、受付で参加賞を受け取ってお帰りください。
本日はお疲れ様でした》
負けた人達が悔しそうに受付に並ぶ。
いい歳した大人がしっかりお菓子をもらうのは忘れてないあたり、ちょっと笑えた。
でも遠目に中身を見ると、キャンディ、チョコチップクッキー、
キャラメルポップコーン、フィナンシェとか結構充実したラインナップで、
あたしもちょっと欲しくなった。参加賞って入賞者はもらえないケースが多いし。
《なお、本大会最初の敢闘賞1000Gは、見事な勢いで馬車に吹っ飛ばされた、
レインドロップからお越しのマッドクラウザー君に送られます。
おめでとう、クラウザー!入院費の足しにしてくれ!》
進行役がどうでもいいことを言ってるけど、あたしが狙ってるのは敢闘賞じゃない。
というより、馬車が乱入したことを問題視しない大会運営はやっぱり頭がおかしい。
犯人が言うのもなんだけど。
《第二種目開始までしばらくお待ち下さい。
準備でき次第ご案内しますので、それまで休憩といたします》
「ふぅ」
あたしはヘルメットを外して、一旦ルーベル達のところへ戻る。
蒸れた頭が外気に触れて心地いい。
観客席を見渡し、濃ゆいメンツが揃ってる場所へ行く。
合流すると、ジョゼットが水筒に入れた水を渡してくれた。
「おめでとうございます、里沙子さん!
里沙子さんらしい、大胆で汚い作戦にワクワクしちゃいました。どうぞ~!」
「ありがとう。一応言っとくけど水に対する礼よ」
「やるじゃねえか。
やせっぽちのお前が、あの強豪達相手にどこまでやれるのか心配だったが、
お前らしい戦いぶりだったぜ」
「褒めてるのか貶してるのかはっきりして」
「さすがですわ、お姉さま。並み居るライバルを押しのけて見事勝利なさるとは。
パルフェムには真似できません」
「応援してくれるだけで十分よ。あなたが出場してたら確実に怪我してたわ。
涼をとるために血みどろになっちゃ本末転倒」
「ねー、里沙子。あのお菓子セット手に入らない?すごく美味しそうなんだけど」
「菓子なんかいつもの行商人から買えばいいでしょうが。
我が家の酷暑問題を一挙に解決するチャンスなの。1位賞品以外に興味はないわ」
「つまんないのー」
「里沙子さん」
遠慮がちに輪の中に入ってきたエレオノーラ。どこか浮かない表情で話しかけてきた。
「エレオ、今日は暑いから水分補給はしっかりね。
結局いつもの格好で来ちゃったんだから」
「はい……。里沙子さんもお気をつけて。
さっきのような無茶はなるべく控えてくださいね?」
「気をつけるけど、勝つために手段を選ぶつもりはないわ。
1回勝った以上は、最後まで行く」
「すみません。わたし達のために……」
「いいの。この大会の異常さに気づいてる人があたし以外にもいるってだけで心強いわ」
《♪ピンポンパンポン…まもなく、第二種目が始まります。
選手の皆さんは、待機場所へお集まりください》
「時間ね。もう行くわ。また後でね」
「どうぞ、ご無事で」
「頑張ってこいよー!」
「はーい」
あたしはまたルーベル達と別れ、白いラインで区切られた待機場所に並んだ。
大会開始時点から無事な白線はここにしかない。
次の競技を待っていると、テントからスタッフが何人も出てきて、
あたしらに変なものを配りだした。
ゴム製の手袋と、変な瓶。
瓶はプラスチックとガラスの中間みたいな質感の透明な素材で出来てて、
落とさないよう手首に通すストラップがついてる。
これ何なのかしら、と考えていると、進行役が第二種目の開始を宣言した。
《第二種目、ウィル・オ・ウィスプつかみ取り大会を行います。
それでは黒魔女さん、よろしくお願いしまーす》
意味のわからない競技名にキョトンとしていると、
またもテントから謎の人物が出てきて、会場の真ん中に立った。
「……」
ムスリムの女性みたいに目以外を黒い衣装で隠した魔女が無詠唱で魔法を発動すると、
左手から無数の青いプラズマ球が現れ、辺り一面に広がった。
仕事を終えると黒ずくめの魔女はテントに引っ込み、進行役がルール説明を開始。
《第二種目のルールについてご説明いたします。至って簡単でございます。
会場に散らばったウィル・オ・ウィスプを、お手元の魔封瓶へ集めてください。
制限時間内により多くを集めた上位20名が第三種目に進めます》
ねえ、ウィル・オ・ウィスプってもしかしてそこら中でバチバチ電気を発してるアレ?
あたしにあれを拾えというのか。僕にその手を汚せというのか。
出典元?自分で探してよ!
《第一種目同様、刃物、火器爆発物、魔法その他特殊能力の使用は反則ですが、
やはりその他の妨害行為は全面的に認められています。以上》
ドンキで買って改造したスタンガンより痛そうな電撃を放ちながら、
ゆらゆらと浮かぶウィルなんちゃら。
さっき湧き上がった闘志が早くもしぼむ。だけど世の中は待ってはくれない。
周りの連中はやはり何の疑問もなくゴム手袋をはめてる。
あたしも軍手からゴム手袋に装備換装。やるしか、ないわね。
《勝負は早いもの勝ち、それでは第二種目、スタートです!》
審判のホイッスルが鳴ると、うおおお!という雄叫びを上げながら
選手達がバトルフィールドに散らばる。
あたしも彼らに追いつこうとしたけど、即、怖気づいて足を止めた。
バリバリ!
「ぴぎゃあああ!!」
ビリビリ!
「あがっつあおぉぉーい!!」
バチバチバチ!
「タスケテオカアチャン!!」
勢いに任せてグラウンドに突っ込んだ結果、
電撃を食らった選手が人間の声帯で出せるとは思えないような悲鳴と共に倒れていく。
人柱になった間抜けに心の中で手を合わせつつ、
あたしは周囲を確認しながら、恐る恐るウィル・オ・ウィスプのひとつに手を伸ばす。
触ろうとした瞬間、そいつは威嚇するように
バチィ!と一瞬火花を散らしヒヤッとさせたけど、ゴム手袋の性能を信じてそっと掴み
魔封瓶に入れる。ようやく1個回収。
他の連中みたいに無茶しないで、
ひとつひとつ慎重に回収していけばなんとかなりそうね。2つ、3つ。
ウィル・オ・ウィスプに囲まれないよう立ち位置に気を配りながら、
どんどん掴んでは瓶に入れていく。
5個くらい集めたところで、これで20位以内に入れるかしらと思案していると、
あたしの前に顔を悪役レスラーのようにペイントした
猪みたいなオバちゃんが立ちはだかった。
「やい、そこの小娘!お前の電球をよこしな!」
「野盗みたいな真似をするものじゃなくてよ、おばさん」
「なんだって!アタイのアイアンクローをお見舞いしてやろうか!?」
その時ピンと来た。他選手への攻撃が許されているなら。
「残念だけど、この競技じゃ立派な筋肉は役に立たないの。……ほら!」
あたしは瓶に手を突っ込み、ウィル・オ・ウィスプの一つを掴んで
オバちゃんに投げつけた。
一度手懐けてしまえば素直なもので、投げたプラズマ球は真っすぐ飛んで命中。
ゴツいおばさんを電撃で無力化。
「あぴばぴばがああ!!」
頭から煙を出して倒れ込んだ。完全に気絶している。
そしてあたしはおばさんが持っていた魔封瓶からウィル・オ・ウィスプを取り出し、
自分の瓶に入れた。よっしゃ、全部で11個。
1個攻撃に使ったけど、十分過ぎるほどの見返りよ。
だけど喜んでばかりもいられなかった。気づくと周りの選手があたしの様子を見ている。
迂闊だった。連中も気づいちゃったのね。
バカ正直に拾い集めるんじゃなくて、他のやつを倒して奪えばいいってことに。
“待てえええ!”
「ちょっ、こっち来るんじゃないわよ!」
大勢のアホが何故か手近なやつじゃなくてわざわざあたしを捕まえに来る。
でもね、この競技に限ってはあたしに地の利があるのよ!
小柄なあたしは屈んでウィル・オ・ウィスプを避けつつ逃げる。
一方無駄にデカイ連中は空中浮遊機雷に接触。電撃に焼かれて昇天する。
“ぱびゃあああ!!”
“押すな押すな!危ねえだろ!”
“お前の瓶をよこせ!……あづっ!あああ!”
そのうち自滅した選手の瓶の奪い合いが始まる。
手持ちのウィスプを投げ合い、拾った瓶の中身をぶちまけて範囲攻撃。
競技の趣旨がウィル・オ・ウィスプ集めから単純な潰し合いに変わる。
一人、また一人と電撃で黒焦げになっていく。
あたしは割と安全なエリア外周付近でその様子を眺めてたけど、
何が彼らをそうさせるのかわからなくなっていた。
そりゃ賞品は豪華だけど、明らかに正気の沙汰じゃない。
得るものより失うものの方が大きいと思う。菓子袋1個の仕事じゃない。
ちなみに、再起不能になった人には後日郵送で参加賞が送られるらしい。
そんなもんより安全対策に予算を割きなさい。
《残り30秒です!頑張ってひとつでも多く拾って入賞を目指してください》
“拾って”じゃなくて“殺して”の間違いだと思う。
あたしは安全地帯でちびちびと1個ずつ回収しながら
この地獄絵図が終わるのを待っていた。
《そこまで!》
審判の宣言と同時に、宙を舞っていたウィル・オ・ウィスプは消滅。
生き残り達がたっぷりウィスプの詰まった魔封瓶を見せつけるように振り上げる。
一方、周囲はまさに死屍累々。哀れな敗残兵が大勢煙を吐きながら倒れてる。
死んだような目をして突っ立っていると、またテントからスタッフが出てきて、
今度は選手から瓶を受け取り、ウィスプの数をクリップボードに記入し始めた。
疲れが溜まってきたあたしも黙って瓶を渡す。
「はい。斑目里沙子さん、14個です」
「……うん」
グラウンドの中央に集められたあたし達は、結果発表を待つ。
正直これで失格でもいいと思ってる。この狂気の祭典から降りられるなら。
周りの奴らはまだまだ元気いっぱい。彼らは何のために戦うのかしら。
それとも、某蛇のように戦うことでしか自分を表現できないのかしら。
だとしたら、人間は、なんと愚かな生き物なのだろう。
そんならしくないことまで考えるほどあたしは正常な思考能力を失いつつあった。
《結果発表!》
進行役のアナウンスで思考の海から現実に戻る。首を上げるのも億劫。
《えー、本来なら収集個数上位20位までが第三種目進出となるのですが、
残り選手が17名しかいないため、皆さん第二種目突破です。おめでとうございます》
ふざけんな。あたしだけでなく負けたやつらもそう言いたかったに違いない。
でも勝ち残った連中は何も考えていないのか、嬉しそうに笑ってる。
文句を言う気力もなく、ただ進行役の言葉に耳を傾ける。
《お昼になりましたので、昼食休憩に入ります。
1時間後にまた待機場所にお集まりください》
ヘルメットを取ることも忘れて、
ジョゼットが用意してるはずの弁当を食べに観客席へ戻る。
本当、子供の頃の運動会を思い出すわ。
母さんも弁当を作ってきてくれたけど、
デザートの梨が気温でぬるくなって台無しだった。
教育委員会の人には運動会開催の時期変更を真剣に考えてもらいたいわ。
あれは肌寒いくらいの秋深まった季節にやるべき。とにかく何かお腹に入れなきゃ。
あたしは頼りない足取りで歩み続けた。