面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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↑自虐に頼るようになったらお終いだってことに自分で気づいたことだけは褒めてあげて

ガタゴト、ガタゴト。

 

あれから一週間。ホテルをチェックアウトしたあたしは、

イグニールの駅馬車広場でまた貸し切りした馬車に乗って、

注文した品々の回収に周っていた。足元はもう大小様々な鋼鉄の部品で一杯。

ガイドブックの地図を広げる。

受領忘れがないように、部品を注文した鍛冶屋や工場にチェックを付けてるんだけど、

とうとう次で最後みたい。

 

イグニールに来て最初に寄ったあの鍛冶屋。もう少しで着く頃ね。

ああ、見えてきた見えてきた。ハンマーと釘の看板。

外までカンカン鉄を打つ音が聞こえてくるわ。

 

「御者さん、あそこの店で停めてください」

 

「かしこまりました」

 

あたしは馬車から降りて店に入り、奥に進む。

そこには一週間前に会ったドワーフの鍛冶が焼けた鉄の棒を叩いてた。

他にも弟子らしき人たちが作業してて結構うるさいから、

気持ち大きめの声で呼びかける。

 

「こんにちは!一週間前に注文した物を取りに来たの!ちょっといいかしら」

 

すると、ドワーフのおじさんが振り返り、やっぱりこちらをじろりと見て近寄ってきた。

あたしが領収書を差し出すと、それをちらりと見て、

 

「待ってろ」

 

そう言って別の部屋から麻の布に包んだパイプ6本を持ってきた。

穴を覗いたり表面を眺めたりしてみたけど、精密機械で削り出したように精巧で、

これなら信用して組み立てられるってわかる。

 

「ありがとう。これなら安心して命預けられるわ」

 

「ふん。何作るのか知らんが、せいぜいポンコツにはせんでくれ。行け」

 

「失礼するわね」

 

ドワーフのおじさんの態度は相変わらず無口でぶっきらぼうで、

人によって好き嫌いわかれるだろうけど、あたしは好きよ。

だいぶ前にも言ったけど、寡黙な男性は嫌いじゃないの。

あたしは軽くてしかも丈夫なパイプを抱えて馬車に積み込んだ。

さぁ、買い物旅行はこれでおしまい!早く我が家へ帰りましょう。

 

「御者さん、ハッピーマイルズ教会までの道はご存知?そこで降りたいのだけど」

 

「はい。主要施設の場所は把握しております。それでは、出発いたしますのでお席へ」

 

「よろしく」

 

パカポコと馬が蹄を鳴らして馬車を引く。あたしは足元を見る。

やっぱりバラすと結構な荷物ね。

でも、これを組み合わせるとドリーミーでワンダホーなものに生まれ変わるのよ。

あ・と・は。それをどこにどう売り込むかね。いくらふっかけるかも検討しなきゃ。

 

よく考えたら日々の生活費やら、装備を買い込んだりで、割りと結構使っちゃったから、

600万Gじゃ1500万Gにはわずかに届かない。さすがに1000万は無理よね。

きっと向こうも値切ってくるから、はじめは800万……

 

そんな感じで取らぬ狸の皮算用をしてたら、いつの間にか寝ちゃった。外はもう真っ暗。

御者石にランプが吊るされてるけど、5m位先しか見えない。

この世界は東京みたいな不夜城じゃないから、どこ見ても何があるのかわかんない。

良い子は暗くなったらお家に帰んな、ってことみたいね。

大人しく手に入れた部品の一つを手にとってみたりして暇をつぶしてると、

10分ほどで馬車が止まった。

 

「お客様、到着です」

 

「ありがとう。荷物を下ろすのに少し時間がかかりますけど、ごめんなさいね」

 

「いえ、どうぞごゆっくり」

 

あたしは馬車を降りて急いで玄関に駆け寄ると、鍵を差し込んで回し、ドアを開けた。

そして、ドアを開け放ち、大声でジョゼットを呼んだ。

 

「ジョゼットー!今帰ったわよ!」

 

“え、里沙子さん!?おかえりさなーい!”

 

ジョゼットが奥の住居から走ってきて思い切り抱きついてきた。

彼女を押しのけると、手短に用件を伝える。

 

「ええい、暑苦しい!それよりジョゼット、仕事よ。

この聖堂にある長椅子全部隅に寄せてスペース作りなさい。

あたしは荷物を運び込むから」

 

「え?スペースって……それより、マリア様の聖堂で何するつもりなんですか!」

 

「いいからさっさと手ぇ動かす!それが終わったら荷物運び手伝うのよ?いい?」

 

あたしは返事を待たず、馬車にとんぼ返りし、

まずはドワーフから受け取ったパイプを持って聖堂に運び込んだ。

ジョゼットは一生懸命長椅子を後ろに下げている。ああ、まだ戦力にはならないか。

 

今度は厚紙の箱に詰まった100個入りバネを持ってくる。

必要なのは6個だけど、メンテナンスで交換が必要になるかもしれない。

持っていても損はないわ。次は車輪ね。両手に二つ持って、これもまた運び込む。

どれもこれも精度が命だから乱暴には扱えない。

 

「ふぅ~やっと終わりました。何を運んでるんですか、一体?」

 

「ああ、よかった。手が空いたなら今度はこっちね。馬車の荷物を一緒に運んで。

替えの効かない一品物だから慎重にね」

 

「えー、まだあるんですか」

 

「文句言わないの。

あたしらの生活をより豊かにしてくれるかもしれない代物なんだから」

 

「は~い」

 

ジョゼットが加わったところで、今度は心臓部とも言える部分を運ぶ。

これは暇つぶしに馬車の中である程度組み立てといたから、かなり重い。

麻の布に乗せて端を持ち、二人がかりで運搬する。

 

「重い~腕が千切れそうです」

 

「お願いだから落とさないでよ。ミリ単位の傷が命に関わるんだから」

 

「そろそろこれで何するのか教えてくださーい……」

 

「今のバラバラの状態じゃ、何言っても多分さっぱりだわよ。

後で説明したげるから大人しく組み立て完了を待ちなさい」

 

「重いよー」

 

まあ、この心臓部以外はハンドルとか付属品だけだったから、

ぶっちゃけ搬入完了と考えていいわ。

それはジョゼットに任せて、あたしは御者さんに残金とチップを支払った。

 

「残金の150Gです。あと、これを貴方に。安全な旅をありがとう」

 

「これは……誠にありがとうございます。是非またイグニール交通をご利用ください」

 

馬車が帰って行くのを見届けると、あたしは長椅子が隅っこに寄せられ、

鈍色に光る大小様々なパーツが並べられた聖堂に戻った。

それを悲しそうな目で見るジョゼット。

 

「あうぅ……マリア様の部屋がすっかり散らかっちゃいました」

 

「今夜中に徹夜してでも完成させるから一日くらいマリアさんも許してくれるわよ。

あーお腹すいた。ジョゼット、パンでもなんでもいいから晩ごはん作って。

簡単なのでいいから」

 

「スープとパンを温めますね。

……本当に、すぐ片付けてくださいね?明後日は日曜ミサですから」

 

「わかってるって。本当、疲れた」

 

とりあえず本格的な作業は夕食の後にしましょうか。

あたしはダイニングのテーブルで自分の肩を揉みながら待っていた。

5分ほどで、ジョゼットが温めたスープと、

オーブンで焼き直したチーズ入りパンを持ってきてくれた。

スープを一口飲む。おおっ、以前の色が付いたお湯より格段にレベルが上がってる。

人間進歩するものね。パンはお店で買ったものだから当然美味しい。

 

「ジョゼット、料理の腕前上がったんじゃない?

スープが美味いことにこんなに驚いたのは初めてだわ」

 

「褒められてるのかどうか微妙ですけど、嬉しいです!」

 

「あたしの性格考えると褒めてるってわかるでしょ。喜んでいいのよ」

 

「えへへ、やったー」

 

それで、あたしは夕食を食べ終えると、いよいよ例の物の制作に取り掛かることにした。

 

「ごちそうさま。それじゃ、あたしは大事な仕事があるから」

 

「あの鉄の部品ですね。もう、里沙子さんたらすっかり夢中なんだから」

 

「そうまで人を惹きつけてやまない宝物なのよ、アレは」

 

あたしは物置部屋に寄ると、工具箱を取り、多数の部品を並べた聖堂に行った。

さぁ、今からあんた達に命を吹き込んであげるからね!

あたしはあぐらをかいて床に座り込むと、筒から設計図を取り出し、

それを参考にしながら組み立てを開始した。

 

「ええと、まずはパイプをこの円形の鉄板に差して固定する。

それから心臓部に半刺しして仮止め。

そしたらまずこれは置いといて、心臓部を本格的に駆動するよう仕上げましょう」

「この鉄の棒にバネを噛ませて伸縮する部分にする。6本全部ね。

これがハンドルに接続されたリールと連動して回転。連続して物体を叩くってわけ」

「移動用に車輪を着ける必要があるんだけど、かなり重いわね。

一度横にして、縦から軸と車輪を差し込んで、

あとはテコの原理でひっくり返して、もう片方の車輪をつければいいわね」

「ひとまずこれで形にはなったけど、動作確認が必要ね。

ここで本物使うわけにはいかないから、えーっと、あった。試運転用のゴム製品。

これをケースに入れて、上から差し込む。

あとはハンドルを回すと……おおっ、出てきた出てきた!

ようやくここまでの苦労が実を結んだわ!」

「後はそうね……顧客への売り込み用に組み立て方も書いておきましょうか。

紙はまだ残ってたし」

 

とうとう完成にこぎつけたあたしの傑作を売り込むため、私室に戻り、

また先日のようにスマホ、定規、分度器、コンパスを駆使して説明書を作成する。

時刻はとうに深夜を周ってる。

でも、あたしは手を止めることなくひたすら線を引き続けた。

 

翌日。ドンドンドン!

 

ジョゼットのうるさいノックで目が覚めた。

 

「里沙子さーん!起きてください!なんなんですか聖堂のアレ!」

 

「んさいわねぇ、朝っぱらから」

 

「もうお昼の12時ですよ!いくらなんでも寝すぎです!」

 

「はへっ!?」

 

思わず時計を見た。たしかに昼の12時5分くらいを指している。

しまった、いくら誤差があるとは言え寝すぎたわ。今日の売り込みは諦めましょう。

情報収集もまだだしね。おっと、説明書は?大丈夫、完成してる。よだれも付いてない。

 

「今出るわ。顔洗って着替えるから、お昼ごはん用意しといて」

 

「お昼の後はアレ片付けてくださいね!」

 

「わかってるわよー」

 

あたしは洗面所で顔を洗って歯を磨いた。それで私室に戻り、

昨日から着っぱなしだった服を着替えて、髪を解いて三つ編みを作る。

今日は出かける予定だから化粧も済ませて、ガンベルトを巻くといつも通りのあたし。

準備が終わると階段を下りてダイニングのテーブルに着いた。

 

「朝ごはん残っちゃったから、それ食べてくださいね」

 

「うい」

 

あたしはテーブルに身体を預けながら考える。

うーん、できれば一番高く買ってくれるとこがいいんだけど、

それって具体的にはどこなのかしら。作ったはいいけどその辺全然考えてなかった。

……餅は餅屋か。あそこで聞いてみるのが良さそう。

 

「ねえ、ジョゼット。今日街に行くんだけど、あんたも行く?」

 

「今日は、やめときます」

 

「あら珍しい。布教活動しなくていいの?」

 

「その前にマリア様のお部屋を元通りにしなくちゃいけませんから!

出かける前にアレを移動しといてくださいね!」

 

「悪かったわよ。悪かったからご飯まだー」

 

「今、温めが終わりました!……はいどうぞ」

 

アハハ、さすがにジョゼットもちょっと怒ってるわね。

まぁ、あの娘がこの家で自由になる数少ない空間を工場にされたんだから無理もないか。

お土産になんかお菓子買って帰りましょう。

 

「いただきまーす」

 

「マリア様、今日のお恵みをお与えくださり……」

 

朝食はいつも軽めだし、

急いで食べたからジョゼットのお祈りが終わると同時に食べ終わっちゃったわ。

ジョゼットの呆れたような視線を無視して聖堂に行く。

そこには昨夜完成したばかりの物の堂々たる姿が。

あたしは一旦そいつの前で満足げにニヤリと笑い、玄関のドアを開け放つと、

重心を低くして後ろから押した。

 

パーツごとだと持ち運びに一苦労だけど、車輪が着いてるからスムーズに動き始めたわ。

あたしはそのまま教会裏手にそれを運んで、

砂埃から守るように麻のシートを被せて車輪を固定した。こんなところね。

さぁ、今日は情報収集だけで1日が終わりそうだけど、

街に行くのが楽しみなのは初めてかも。

 

楽しい気分で街道を歩く。今日は野盗も出ない。

まさにハッピーな気分でハッピーマイルズに到着した。

まず、手近なところから片付けましょうかね。

あたしは街に入ってすぐ右手の役所に入った。ここに来るのも久しぶりね。

受付の列に並んでる間に頭の中で聞きたいことを整理する。

あれこれ考えていると、自分の番が来た。やっぱり担当は見覚えのあるオッチャン。

 

「ごきげんよう。少し聞きたいことがあるんだけど」

 

「お久しぶり、お嬢さ……いや、里沙子」

 

「あら、あたしが子供じゃないってわかってくれたのかしら」

 

「もうここらでおたくを知らない人はいないからね。それで今日はどんな用だい?」

 

「ちょっと聞きたいんだけど、この世界に銀行ってのはあるのかしら」

 

「あるよ。北へ続く道を進んだ十字路を東に進むと、

企業の建物や銀行がある区画にたどり着く」

 

「そこはまだ行ったことはなかったわね。ありがとう。後ろつかえてるからこれで失礼」

 

「またどうぞ」

 

あたしは役所を後にすると、いつもの通りを北に進む。

十字路に差し掛かると、東には行かず、一旦左に曲がる。目当ては銃砲店。

ドアを開けて中に入ると、ずかずかとカウンターに歩み寄り、50G置いた。

 

「情報が欲しい」

 

「……なんだ」

 

「銃火器の販売事情について。どの会社が上位2位までのシェアを占めてるのか。

2位のトップとの差はどれくらい?2位の本社がどこにあるのかも教えて」

 

「やたら2位にこだわるな。おかしな女だ。

まず、業界トップはナバロ社、続いてパーシヴァル社だな。

シェアはナバロが4割、パーシヴァルが3割、

残りの3割は多数の中小企業が隙間産業的な尖った商品で稼いでる。

パーシヴァルはハッピーマイルズに本社があるぜ。

ここからずっと東に行ったビジネス街だ」

 

「そう、ありがと。ところでサブマシンガンが欲しいんだけど、何かいいものある?」

 

「サブマシンガン?なんだそりゃ」

 

「ないならAK47でもM16でもなんでもいい。弾を連発できるもの」

 

「寝ぼけてんのか?銃は狙って撃つもんだ。連発なんかできっこねえ」

 

「ここじゃ機関銃の類はない、と。面白くなってきたわ」

 

「用事が済んだなら帰れ」

 

「ええ、またね」

 

銃砲店から必要な情報を得ると、店から出て、今度こそ東のビジネス街へ向かった。

歩くこと15分。市場とは対象的な、やや殺風景な印象すらある通りにたどり着いた。

コンクリート製の3階から5階程度の銀行や、様々な企業の本社ビルがある。

目的のビルを探して首を振りながら歩いていると、ようやく見つけた。

 

“パーシヴァル・ハッピーマイルズ本社”。入り口に真鍮製の看板が掲げられたビル。

そのガラスドアを開く。自動ドアだと思いこんでぶつかりそうになったのはご愛嬌よ。

ここにそんなもんあるはずないのに。とにかく中に入って受付嬢に話しかけた。

 

「ごめんくださいまし。わたくし、斑目里沙子と申します。

社長とお会いしたいのでアポを取りたいのですが」

 

「はい。どういったご用件でしょうか」

 

「御社にわたくしが開発した新兵器とその特許を買い取って頂きたくて参りました」

 

「特許……ですか。少々お待ち下さい」

 

すると、受付嬢は天井からいくつも伸びるラッパのような通話口の紐を引っ張り、

短いやりとりをした。

ラッパがビリビリと震え、ああ、これは内線電話みたいなもんなんだな、と

興味深く眺める。会話を終えると、受付嬢が回答した。

 

「大変お待たせしました。本日の面会はできかねますが、

明日の正午ならお会い出来るとのことです」

 

「ありがとうございます。必ず気に入って頂ける品をお持ち致しますわ。

では、わたくしはこれで」

 

あたしは深く一礼すると、本社ビルを後にした。よっしゃ、こんなもんでいいでしょう。

昨日の疲れもまだ取れてないし、十分目的は達したわ。

今日のところはさっさと帰って明日のために早く寝ましょう。エールも我慢よ。

二日酔いのまま商談なんてできやしない。

パン屋で買ったバウムクーヘンを手にその日は家路に着いた。

うちに帰ってジョゼットに円形のケーキを与えると、すっかり機嫌を直してくれた。

チョロいわね。

 

翌日。あたしは昼食も取らずに駅馬車広場にいた。

肩に掛けた大きなトートバッグから取り出した時計を見ると、時刻は大体9時くらい。

早すぎると思うかもしれないけど、ちょっと面倒な順序が必要なのよね。

まず、やっぱり事務所で馬車の貸し切りを申し込む。

 

「こんにちは。荷馬車を貸し切りたいのだけど」

 

「いらっしゃい。どんなサイズが好みだい?」

 

「重さ100kg以上ある鉄の固まりを運べるほどパワーがあって、

多少の銃声じゃ驚かない度胸のある馬がいいんだけど、そういう車はある?」

 

「度胸があるっていうか、耳が聞こえない馬で良ければ強力な荷馬車があるよ。

お客さんは御者席に乗ってもらうけど」

 

「それでお願い。相当重い荷物を運ぶことになるから」

 

「じゃあ、400Gだから前金で200G頂くよ」

 

「はい、これ」

 

あたしは番号札を受け取ると、今日は後ろが荷台になってる馬車を探した。

後ろが箱型じゃないのは珍しいから見つけやすい。

ちょっと見渡すと、なんだか反応が鈍そうな馬に

木製の頑丈なリヤカーがつながれてる馬車を見つけた。番号も同じ。これね。

あたしは御者の兄ちゃんに番号札を渡す。

 

「こんにちは。まずハッピーマイルズ教会までお願い。そこで荷物を積みたいの」

 

「あいよ。じゃあ、俺の隣に座ってくんな。後ろは揺れが酷くて乗れたもんじゃねえ」

 

あたしが兄ちゃんの隣りに座ると、兄ちゃんが手綱を鳴らす。一回目は反応なし。

 

「動け、動けったら!」

 

兄ちゃんが何度も手綱をパシパシ叩きつけると、

ボケてるのか知らないけど、鈍い馬はようやく動き出した。

馬車があたしが来た道を逆戻りしていく。まずは荷物を取りに戻らなきゃ。

ええっと、それからパーシヴァル本社に行って、と。

あたしが脳内で今日のスケジュールと交渉の手順をまとめていると、

あっという間に教会に到着。

 

「ちょっと待っててくれるかしら。大きな荷物なんで」

 

「ああ。わかった」

 

あたしは教会裏に向かって、麻のシートを被せた物の車輪のロックを外し、

また腰を低くして押し始めた。車輪が付いてるとはいえ、やっぱり重いものは重い。

聖堂からジョゼット達の賛美歌が聞こえてくる。今は手伝わせるのは無理ね。

 

それでもあたしは頑張って、ゴロゴロと重たいそれをなんとか荷馬車後ろまで転がした。

すると、御者の兄ちゃんが下りてきて、こっちに来た。

彼はリヤカーに備えられた鉄板の留め金を外して斜めに倒し、スロープを作ると、

一緒にブツを押して荷台に乗せてくれた。

 

「ずいぶん重いな。これほど重いのは珍しい」

 

「ふぅ、ありがとう……客に収めるかも知れない商品なの」

 

「なんだかよくわからんが、まあいいや。次はどこに行く?」

 

「街のパーシヴァル本社へ」

 

「銃器メーカーの?ああなるほど。じゃあ、出すぜ。ハイヨー……えい、動けって!」

 

また兄ちゃんを煩わせて、やっと馬が動き出す。おおっ、すげえ。

後ろの荷物が存在しないかのように今までと同じスピードで走ってる。

街道を走り、役所前を抜け、通りを北上、交差点を右折して道なりに進むパワフルな馬。

並の馬なら途中でへばってるだろうけど、

この馬は強力、というより重さに気付いてないって表現がしっくり来る。

それくらいのんびりした馬よ。

 

さあ、着いたわ。パーシヴァル本社。買い叩かれないよう、交渉のイメトレはバッチリ。

ハンドバッグから時計を取り出して時刻を確認。11時半過ぎを指している。

誤差を考慮してもほんの少し早いけど……太陽を見ると、ほぼ真上。

うん、突撃しても大丈夫そう。

 

あたしは馬車から下りて、荷台の物を覆っていた麻のシートを取り払い、

兄ちゃんにしばらく待っててくれるよう伝えた。いよいよ本番ね。

あたしはパーシヴァル社エントランスに足を踏み入れた。

昨日と同じく受付嬢に名乗って用件を伝える。

 

「ごめんください。昨日社長と面会のお約束をした斑目里沙子です。

社長はいらっしゃいますか」

 

「少々お待ち下さい」

 

受付嬢がラッパの紐を引いて、小さめの声で会話する。

話が終わると、すぐあたしに話しかけてきた。

 

「社長が5階の社長室でお待ちです。どうぞ奥の階段へお進みください」

 

「ありがとうございます」

 

はぁ、5階か。微妙にしんどい高さね。

この世界にエレベーターなんてないだろうから、仕方ないけど。

5階に着くと、真鍮を掘って作った案内板があった。えーっと、社長室は……一番奥ね。

落ち着いた色で正方形に区切られた、大理石の床を奥に向かって進むと、

高級な木材に模様を刻んだ立派なドアが見えた。ここが社長室ね。

あたしは一つ咳払いをしてドアをノックした。

 

「ごめんくださいまし。面会のお約束を頂いた斑目里沙子と申します」

 

“どうぞ、入ってください”

 

「失礼致します」

 

落ち着いた声が帰ってきたのであたしは中に入る。

そこにいたのは、斜めにストライプの入った紺色のネクタイを締め、

グレーのウェストコートに同色のパンツ姿のビジネスマンだった。

ゴルフ練習用の人工芝に立って、狙いを定めパターを振る。

コツンと練習台でボールを一打すると、ボールが綺麗な軌道を描いてカップに入った。

それを見届けると、パターをデスクに立てかけて、

ゆっくりとした動きであたしに近づいてきた。

 

「ふふ、失敬。さ、そこにお掛けになって」

 

「ありがとうございます」

 

どこか得体の知れない微笑みを浮かべながら、社長はあたしにソファを勧めた。

あたしが座ると、社長も向かいのソファに身を預けた。

白髪交じりの髪をオールバックにして、口ひげを生やした細身で背が高い、眼鏡の紳士。

 

「初めまして。斑目里沙子と申します。

今日は貴重なお時間を頂き、本当に感謝しております」

 

「いいえ。私も、興味がありましてね。

特に、あなたのような、凄腕の賞金稼ぎが作った銃となれば。

“早撃ち里沙子”、そして、悪魔すら粉々にする“破壊者里沙子”。

そんなあなたの作品、とても興味深い」

 

ちょっと、“魔女狩り”の次は“破壊者”!?どこの馬鹿が考えてるのか知らないけど、

責任者出てきなさい!文字通り破壊してやるから!あたしは動揺を隠したまま答える。

 

「いやですわ、そんな名前が付いているなんて存じませんでした。

ただ、必要に駆られて致し方なく最小限の敵を倒しただけだというのに」

 

「ふふ、あなたは、もう少し、ご自分がどのような評価を受けているか、

注意なさったほうが、よろしい。良くも、悪くも」

 

「肝に銘じますわ」

 

ゆっくりと独特なペースで話す社長は、

どうにも言い表し様のない静かな威圧感というか、存在感を纏ってる。

さすが大企業の社長だけはあるわね。彼の雰囲気に呑まれないよう気をつけなきゃ。

あたしは話題を戻す。

 

「それでは、さっそく本題を。

まずはわたくしの作品をご覧いただきたいのですが、よろしいでしょうか。

実はこちらの社屋の前に止めた馬車に積んでありますの。

ちょうどあちらのガラス窓から見下ろせますわ」

 

あたしは窓というより一面ガラス張りの壁を指差した。

彼はポンポンと両手を合わせ、眼鏡の奥でニヤリと笑う。

 

「それは、好都合。拝見しましょう」

 

あたしたちはガラスの壁に近づき、エントランスの前に止めたリヤカーを見下ろす。

そこには6本の銃身を束ねた回転式機関銃が鎮座している。

驚くでもなく、ただ不思議なものに微笑みで興味を示す彼にあたしは説明する。

 

「ハンドルを回すことで連続して給弾・装填・発射・排莢を行い、

毎分数百発という発射レートで銃弾を連発できる新兵器。

その名も、“ガトリングガン”です」

 

「ほう……!連発銃。素晴らしい。そのスペックなら、一人で百人と戦えるでしょうね。

この世界では、一発一発の精度、威力を追求しておりまして、

銃弾を連射するという構想がないので、この兵器は非常に珍しいものです。

それを実現する技術がないという事情も、ありますが」

 

まずは彼の心を掴めたみたい。この調子でもっと突っ込んでいきましょう。

 

「そう、このスペックの連発銃はこの世界では初。

それを御社の新製品として市場に投入すれば、

一気にシェアを伸ばすことが可能かと存じます。

失礼ながら、御社の市場に占める売上高の割合を調べさせていただきました。

今のところ、銃火器の業界では某社が1位を占めており、

御社は惜しくも2位に甘んじているとか。その差は約10%。

この新式連発銃を御社が発表すれば、その10%をひっくり返し、

1位に躍り出ることが可能……

確かに、これだけ大掛かりな兵器となると、民間向けとは言えなくなりますが、

このサラマンダラス帝国には領地の数だけ軍がございます。

それらがこぞってあの銃を導入し、大量生産・納入することになれば、

御社が得る利益は莫大なものになるでしょう」

 

「よく、お調べになられているようですね。なるほど、なるほど……

そうそう、一点気になることが。

あなたは、今、“この世界では”とおっしゃいましたが、

あなたは、ひょっとして、アースから来られたのですか」

 

鋭いわね。下手にごまかしても意味がないし不信感を招くだけ。

洗いざらい話しましょう。

 

「はい、そのとおりです。わたくしはアースから参りました。

ガトリングガンはこの世界でも製造可能な兵器を選んで再現したものです。

このスマートフォンという、本来は離れた相手と通話する装置に記録していた、

ガトリングガンの設計図を紙に描き起こして、

イグニールを周って部品を集めて制作しました。

わたくし個人で作ると、かなりの額になってしまいましたが、

大きな工場をいくつも持つ御社の資金力なら、

大量生産でもっとコストを下げることが可能かと」

 

あたしはスマホを取り出して、電源を入れて社長に見せた。

彼は大きく動揺することなく、眼鏡を掛け直して画面をじっと見る。

 

「美しい。なぜ、通話をする装置で、画像を見ることができるのでしょう」

 

画像フォルダを開いて、当たり障りのない画像を開いて見せる。

 

「もっと、もっと、を追求し続けた結果ですわ。

はじめはスマートフォンではなく、携帯電話という名前で、

本当に通話しかできませんでした。

それがやがて、電子文書を送信したい、その文書に画像を添付したい、音楽を聞きたい、

写真を撮りたい、映像を撮りたい……消費者の要求に応えて様々な機能を搭載するうち、

ボタン式ではキーが足りなくなり、

このような画面に指を滑らせたり、指先で叩くことで操作可能な形になりました」

 

「素晴らしい。あなたは、そのスマートフォンに、

ガトリングガンの設計図を記録していたから、あの兵器を再現できたのですね」

 

「仰る通りです。特許権についてはご心配なく。

すでに100年以上経過していますので、もう誰のものでもありません」

 

「ふむ……」

 

彼は顎に指を当ててしばらく考え込んだ。あたしはただじっと待つ。

そして、次に彼が口を開いた時、とうとう肝心な話が出た。

 

「ガトリングガン……もし、設計図を売ってくださるなら、

いくら程度の額を、希望されますか?」

 

よし来た!最低でも600万。いや、楽な生活を続けるなら700は欲しいわね。

 

「設計図の再現や部品収集、製造の試行錯誤にかなりの金額を費やしました。

1000万……とは言いません。900、いや、800万でご納得頂けると、

生活が続けていけます」

 

「わたしは、良いものには、出費を惜しみません。だから、示して欲しい。

ガトリングガンが、我が社で量産するに、相応しい性能を持っているか」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

社長はガラスから見える景色の向こう。古びた設備が立ち並ぶ工場施設を指差した。

そして話を続ける。

 

「我が社の工場だったのですが、最近、良くない魔女が住み着きました。

召喚士が工場の敷地を、魔王降臨のゲートしようと、企んでいるようなのです。

我々としても、一刻も早く、工場を取り戻したい。

弊社所有の私兵部隊を送り込んだのですが、彼女が呼び寄せる大勢の魔物の前に、

撤退せざるを得ませんでした。

駐在所に手配書を提出しようにも、どう言えばいいのか……

あそこでは、余り褒められない製品も作っていましたので、

軍の調査が入る前に、なんとか自力で奪い返したいのです」

 

「事情は飲み込めました。では、わたくし一人で工場を奪取してまいります。

流れ弾が設備を破損することが予想されますが、その点についてはご了承頂けますか?」

 

「もちろんです。魔女が排除され次第、解体処分にする予定ですから」

 

「かしこまりました。

では、ガトリングガンで御社の敷地に巣食う魔女を始末してきます。

社長はこちらでご覧になっていてください。

わたくしが劣勢になったとしても救援は不要です。

馬鹿な女が自殺を図ったということで処理していただいて結構です」

 

「それは、頼もしい。手配前の魔女を殺すことについては、気になさらなくて結構です。

ハッピーマイルズ領地法第57条3項に、

地主は無断で私有地に侵入せし者を独自の判断で殺害・排除する権利を有する、

とありますから」

 

「ご丁寧にありがとうございます。では、一旦失礼致します」

 

「お待ちなさい」

 

退室しようとドアノブに手を掛けた時、不意に声を掛けられた。

振り返ると、彼はじっとあたしを見て続けた。

 

「我々の業界は、商品の特性上、必ず“死の商人”という、

不名誉な名前で呼ばれることが少なくありません。

あなたが、魔女を討ち倒し、弊社にガトリングガンを収めることになれば、

あなたにもそのようなレッテルが貼られることになりますが、

それについてはどのようにお考えですか」

 

「物の道理がわからない連中の喚き声など無に等しいと存じます。

銃があるから人が死ぬのではありません。人が人を殺すのです。はっきり申し上げます。

例えわたくしのガトリングガンで1万人が死ぬことになろうと、

何ら感傷を抱くことはないでしょう。

ガトリングガンが勝手に走り出して道行く者を射殺することがないように、

人間が引き金を引かなければ銃はただの置物でしかない、

殺意を持った人間が使用して初めて凶器となるのです」

 

あたしが話し終えると、社長はニィ、と笑って一言だけ告げた。

 

「あなたとは、分かり合えそうな、気がします」

 

「……失礼致します」

 

あたしは腰を折って深くお辞儀すると、社長室から退室した。

コツコツと大理石の床を歩きながら考える。よーし、最後の関門ね!

あたしの最高傑作の性能をアピールするチャンスよ。

階段を下りながら、あたしは内心ワクワクしていた。

1階に降りると、最後に受付嬢に頭を下げてからガラスドアを開き、

一旦パーシヴァル社から出る。すぐさま御者の兄ちゃんの隣に座り、行き先を告げた。

 

「ねえ、あそこに見える廃工場に行ってちょうだい」

 

「本気か!?あそこにゃ暴走魔女が大勢の魔物を飼ってるって話だぜ!」

 

「その悪い魔女を後ろの物でぶっ殺しに行くの。

もちろんあなたを巻き込んだりしないわ。工場手前の安全な場所で、

ガトリングガンを下ろしてあたしが戻るのを待っててちょうだい。

日が沈むまでに戻らなかったら死んだと思って帰って。先に残金渡しとくから」

 

あたしは兄ちゃんにトートバッグから取り出した残金の200Gを渡した。

 

「なら……廃墟になった作業員宿舎があるから、俺はそこで待ってる。

あれ、ガトリングガンっていうのか?」

 

「ええ。物凄い銃声がするけど、逃げないで待っててくれたらチップ弾むわ」

 

「そりゃチップは欲しいが……無茶はすんなよな。

あんたが早撃ち里沙子だってことは知ってるが、暴走魔女は並の相手じゃねえ。

日没までは待ってるぜ」

 

「心配してくれてありがとう。それじゃあ、そろそろ行きましょう」

 

すると、兄ちゃんは例によって、何度も手綱を弾いて鈍感な馬を歩かせ、

廃工場に向かった。決して乗り心地がいいとは言えない馬車に揺られること15分。

ガラス窓が割られ、家具が全て撤去された廃墟にたどり着くと、兄ちゃんが馬を止めた。

そして、またリヤカーにスロープを作って、ガトリングガンを下ろしてくれた。

 

「ここだ。俺はここで待ってるからな」

 

「ご苦労様。勝利を祈ってて」

 

工場まではガトリングガンは手押しだったけど、

もう正門が目と鼻の先だったからそれほど苦にはならなかった。

正門前に立つと、オレンジ色の三角帽子とローブを来た女が、

ずっと何かブツブツ言ってる。

 

「魔王様魔王様。私の愛する魔王様。どうかこの地にお越しください。

私はあなたが望む限りいくらでも生贄を捧げます。その血、その目、その心臓。

全てをあなたに捧げ尽くし……」

 

うわあ、完全にイッてるわ。目はくぼんでクマができてるし、

ろくに食事も取ってないのか、ローブからわずかに覗く腕は、

ほとんど骨と皮しか残ってない。まぁいいわ、死にかけならあたしにとっては好都合。

 

ガトリングガンを正面に向けると、トートバッグからマガジンを取り出し、

銃身上部に差し込む。ハンドルをほんの少しだけ回して、

スムーズに回転することを確認する。……よし、バッチリね!

そして、あたしはイカれた召喚士に戦いを挑む。

 

「そこのあんた!大人しくコイツの餌食になりなさい!不法侵入者は即射殺!」

 

すると、召喚士はぐりん、と首だけを回してこちらに視線を向ける。

そいつがくぼんだ目であたしを見て、左手に魔力を集中すると、

周囲に幾つもホログラフで描かれた魔術式らしき円が現れ、

中から多種多様な魔物達が現れた。そしてあたしもハンドルに手をかける。

こうして長い旅の終着点。暴走魔女との対決が始まった。

 

 

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