面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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異世界の中心で平和を叫んだけもの

運動会編ラストに相応しい過去の名作を紹介しようと思ったけど、

なんにも見つからないからとりあえず皆さんの無病息災を祈っておくわ。

ハーメルンの片隅から、斑目里沙子より。

 

 

 

 

 

そいつは森の奥からやってきた。全てを圧倒する全身を重厚な装甲で固めた鋼鉄の巨人。

奴がジャラジャラと肩に掛けた太い鎖を引きながら歩く度、

重量で柔らかい地面に深い足跡がつく。鎖の先には身長よりも高い鉄球。

あたしらは皆、震え上がった。逃げよう。

皮肉にも初めて蹴落とし邪魔しあっていた選手全員の心がひとつになる。

 

「な、なんで……」

 

《レディース・アンド・ジェントルメン、ご注目!本大会の大トリを飾る最終種目!

その名も……大玉転がしです!》

 

「なんで皇帝陛下がここにいるのよ!?」

 

あたしの悲鳴と同時に、

長らく再登場の機会がなかった仮面ライダーフォートレスのモノアイが点灯する。

そして、ライダーが鎖で引っ張ってきた高さ3mはある鉄球を怪力で持ち上げ、

目の前に置いた。

鉄球が着地すると、腹に響く音と共に数十トンはある重量で地面が振動。

揺れがこちらまで伝わると、フォートレスは準備よしと言うように

何度か鉄球をペチペチ叩く。

 

《ここでおなじみルールのご説明!

メタリックなボディがイカス仮面ライダーフォートレス君が、

巨大鉄球を転がして選手の皆様を追いかけます!

フォートレス君を機能停止に追い込むか、

3位以内に入賞するまで逃げ切れば賞品獲得!》

 

怪我はどうする?

1位2位が決まるまで競技が続くってことは、3位は鉄球の餌食になってるってことよね?

 

《なお、非常に残念な事ではありますが、ギブアップされる場合は

グラウンド中央の赤い円に逃げ込んでください。防御魔法陣となっております》

 

あそこに行けば帰れるのね。もうやめにしよう。付き合いきれない。

パルフェムにも言ったけど、冷房ひとつのために死んだりしたら元も子もない。

 

《しかし、最終戦は特別ルールが適用されるのでご安心を!

グラウンドに散らばる木箱を御覧ください!》

 

「なに、木箱?」

 

よく見ると、いつの間にかグラウンド全体に大小様々な木箱が設置されてる。

これがなんだってのよ。

 

《サラマンダラス要塞全面協力のもと、いくつかの箱には強力な武器が入っています。

アタリを引けば一発逆転の大チャンス!

箱で手に入れた武器に限り、銃火器の使用が認められます!》

 

……つまり、仮面ライダーを無力化できるほどの代物があの中にあるってこと?

少し心がぐらついてきた。もしかすると、もしかするかもしれない。

 

《選手諸君はスタートラインへお集まりください!

フォートレス君はもう少し待機しててね!》

 

よたよたと歩きながら考える。

いくらライダーに変身しててもあの鉄球のコントロールは難しいはず。

皇帝陛下を説得するチャンスくらいはありそう。ここまで来たら死なばもろとも。

……やってやろうじゃないの!

 

あたしは覚悟を決めて新しく引かれた白いラインに並んだ。

両脇に並ぶ他の選手も、あたしは目に入ってないみたい。

無理も無いわね。のんきに潰し合いなんかしてたら自分が文字通り潰される。

 

《それでは最終種目!大玉転がし……スタート!》

 

進行役のキンキン声で戦いの火蓋が切って落とされる。

あたし達はバラバラに散らばり、仮面ライダーフォートレスがそれを追いかけるように

相撲の突っ張りみたいな格好で鉄球を転がし始める。

 

「やってられっか、アホが!」

「勝てるわけねえだろ、あんなもん!」

 

グオン!グオン!と迫り来る鉄球に恐れをなした2名が早くもギブアップ。

赤い輪に飛び込んだ。でも喜んじゃいられない。

さっさと武器を確保して反撃しなきゃ犬死にする。

あちこちから悲鳴が上がる中、薄い板で出来た木箱を一つ蹴り壊し、中身を確認。

よし、AK-47のコピー品!決め手に欠けるけど説得の時間は稼げると思う。

 

すぐさま手に取り安全装置を外し、ボルトを引く。

木製のストックを肩に当て、

フロントサイトに仮面ライダーを収めると、トリガーを引いた。

AK-47の鋭い銃声が吠え狂い、銃口から7.62x39mm弾を連射する。

弾丸は敵の重装甲に弾かれるけど、体を叩く小さな衝撃に気づいたライダーが

手を止めて立ち止まり、あたしに視線を向けた。

 

「皇帝陛下、わたくしです!斑目里沙子です!

今すぐこの滅茶苦茶な大会を中止してください!

どうか競技の内容を再検討し、改めてまともな運動会を!」

 

『……』

 

だけど皇帝陛下は聞く耳を持たず、ゴロゴロと鉄球を転がして位置を変え、

あたしを押しつぶそうと再び突進しようとした。

やけっぱちで残りの弾を撃ち尽くすけど、鉄球が速度を緩める気配は全く無い。

でもその時、後方から何かが飛んできてライダーの背中に命中。

機械の巨人を火だるまにした。

 

『!?』

 

黒ジャージの青年が火炎瓶を投げて援護してくれてる。炎も殆ど効いちゃいないけど、

この世界に助け合いの精神が残っていたことに思わず感動した。

ああ、こうしちゃいられないわね。

説得に対して何の反応もない以上、倒すしか生き残る道はない。

 

ライダーが標的を青年に変えて鉄球転がしを再開。

あたしは名も知らぬ黒ジャージに感謝しつつ次の木箱を弾切れのAK-47で殴る。

出てきたのはピコピコハンマー。

 

《おおっと残念!

言い忘れましたが、箱の中身は役立つアイテムとは限らないのであしからずぅ!》

 

弾が残ってたら進行役を撃ち殺してたと思う。

おもちゃのハンマーを投げ捨て、次の木箱を破壊。これは……!

 

「グレネードだわ!」

 

中に入っていたのはMK2ハンドグレネード3つ。

パイナップルのような形をした手榴弾を手に入れた。さっきの彼を助けなきゃ。

他の選手はハズレを引いたか慣れない銃に戸惑ってる。

 

グレネードのピンを抜いて黒ジャージ君に迫るライダーの予測進路に向けて放り投げた。

着地した手榴弾は鉄球に踏まれたものの、泥のような地面に埋まり圧壊を免れ、

ライダーの足元で炸裂。

ダメージには至らなかったけど、奴は破片手榴弾に脚を殴られて転倒した。

 

『うおっ!』

 

仰向けに倒れて泥の中でもがくライダー。その姿を見てピンと来た。

火炎瓶を使い果たした彼に大声で呼びかける。

 

「鉄球を押すのよ!奴を倒すにはあれで押し殺すしかない!」

 

「わかった!」

 

黒ジャージ君が重心を低くして思い切り腰を使い鉄球を押す。

鉄球は少しずつ動き出し、徐々に加速してライダーに向かう。

敵もそれに気づいたけど今度はその巨体が仇となって泥で滑り、うまく立ち上がれない。

もう遅いわ!

 

『ぐああっ!!』

 

重量いくらか知らないけど、

破壊の化身たる鉄球にのしかかられたライダーが大ダメージを食らう。

すると、ライダーベルトのシステム音声が何かを告げた。

 

[ダメージ蓄積率50% 警戒度レベル4]

 

なるほどね!ライダーのおおよその残り体力がわかった。

同時に鉄球はあたし達の味方でもあることも理解。急いで黒ジャージ君の所へ向かう。

 

「ねえ、あたしと手を組まない!?まだグレネードが2つある。

協力すれば倒せない相手じゃないわ!1位2位は生き残ってから決めましょう!」

 

「……ああ、俺はハリードだ。確かにあの鉄球は使えるな」

 

「里沙子よ。まだまだ木箱は残ってるし、十分逆転は狙える」

 

ハリードと共闘することになったあたしは、ライダーに警戒しながら新しい武器を探す。

ようやく立ち上がった奴はブルブルと頭を振って、鉄球をまた転がし始める。

今度は他の選手を狙い始めたようで、どんどんスピードを上げて、

モーニングスターを手にしたドレッドヘアの男に突撃する。

 

「来るなら来やがれ、この野郎!」

 

無謀にも彼はトゲトゲの鉄の塊を振り回し、巨大な鉄球に戦いを挑む。

でも案の定、大きさも重量もケタ違いの鉄球にモーニングスター共々吹っ飛ばされた。

 

「あばああああ!!」

 

最終種目最初の犠牲者に、観客席から悲鳴と歓声が上がる。

 

《今大会最後の敢闘賞は、

襲い来る鉄球に最後まで立ち向かった、リンボエッジさんに送られた。

おめでとう、リンボ君!1000G獲得だ!》

 

リンボ君が再起不能になった時点で残り3人の入賞が決定したけど、

1位じゃなきゃ意味がない。あたしはまた木箱を叩き壊して、中身を取り出す。

悠長にその場で確認してる暇がない。

ターゲットが減ったことで狙われる確率も上がった。

冷酷なライダーは生身の人間を轢き殺そうとひたすら鉄球を押し続ける。

 

そうそう、今拾ったのは何かしら。逃げ回りながら掴んだものを確かめる。

これは……。使えるわね!こんなもんまでアースから転移してたなんて。

長細いスキットルのようなものを

両手で足元に思い切り投げて地面に垂直に突き刺す。

そしてアイテム探しをしていたハリードに叫ぶ。

 

「ハリード!奴をこっちに誘導して!良いものが見つかったの!」

 

「大丈夫なのか!?」

 

「問題ないわ!お願い!」

 

するとハリードはライダーに石ころを投げて挑発。

彼に狙いを変えた敵が、鉄球を叩いて叩いて叩きまくって回転させる。

ハリードもあたしの方へ必死に逃げる。

 

「1、2の3で方向転換ね!」

 

「わかった!」

 

ライダーが接近。ヘマをすればあたしもハリードもぺしゃんこ。タイミングが命。

あと10m、5m……。

 

「1、2の…3!!」

 

合図と共に、あたし達は右に向かってダッシュ。

目標が2つに分かれ迷ったライダーは、あたしを狙うことにしたらしい。

素早く鉄球の側面に回り込んで軌道修正したけど、

結果“それ”に横腹を見せることになった。

あたしはすかさず穴あけパンチのような起爆スイッチを押す。

 

轟音を上げて凄まじい爆発がライダーを襲う。

あたしが拾ったクレイモア地雷が、前方に絶大な破壊力を秘めた無数の鉄の粒を吐き出し

強固なアーマーに突き刺した。

 

『ふごおおお!!』

 

これには仮面ライダーも直接的なダメージを受け、真横に放り出される。

スピードを殺されたタイミングでその場に残された鉄球はわずかに揺れるだけ。

 

「ハリード、今よ!」

 

「任せろ!」

 

今度は二人がかりで鉄球を押す。

ライダーと言えど、クレイモアの直撃を食らったらそう簡単には起き上がれないはず。

追い詰められてるあたし達は、

本気でアーマーを中の人間ごと押しつぶすつもりで鉄球を転がし続ける。

 

ぬかるんだ地面で滑って速度を上げた鉄球を、仕上げにキックで蹴り飛ばす。

気づいたライダーも逃げようとしたけど、間に合わず倒れたまま鉄球の下敷きになった。

アーマーと鉄球の生々しい摩擦音が鼓膜を刺激する。

 

『がふっ!……ああ、あ』

 

[ダメージ蓄積率80% 警戒度レベル7]

 

奴はもう虫の息!あと一歩でこの殺人マシンを破壊できる。

残りのMK2ハンドグレネードを投げるため、

立ち上がろうとするライダーから走って逃げる。

 

「離れましょう、ハリード!ここじゃ手榴弾の爆発に巻き込まれる!」

 

「ああ!もう一撃食らわせれば倒せる!」

 

グラウンドの南側に到達すると、

息も絶え絶えのライダーがまだ律儀に鉄球を転がしてくる。

多分ルールで攻撃手段が制限されてるんだろうけど、それも説明を受けてない。

あの進行役は能無し野郎ね。

 

今更毒づいてもしょうがないから、あたしはまたグレネードのピンを抜いて投げつけた。

でも、今度は奴も学習したのか、転がす手を止め鉄球に隠れる。

炸裂した手榴弾の爆風と鉄片は完全にガードされた。

 

「ああっ、一発無駄にした!」

 

「諦めるな。まだ1個あるんだろう?」

 

「そうだけど、あいつも守りを覚えたみたい。もう効かないかも!」

 

「待ってろ。まだ何か残ってるかもしれない。

……おーい、そこのあんた、手伝ってくれ!」

 

ハリードが呆然と立ち尽くして戦いを見ていた残りの一人に呼びかける。

情け容赦ない殺し合いに目を奪われていた彼は、その声に気がつくと、

中央の赤い輪に向かって走り出した。

 

「冗談じゃねえ!命がいくつあっても足りねえよ!3位で十分だ!」

 

バンダナを巻いた彼は戦いを放棄して安全エリアに逃げてしまった。

ああ、光線銃取られちゃったわ。言ってる場合じゃないわね。

あたしも奴にとどめを刺せる何かを探して木箱を壊しまくるけど、

良いものはあらかた出尽くしたのか、アメリカンクラッカーや絆創膏といった

人を舐めてるとしか思えないガラクタしか出てこない。

 

後ろからは相変わらず死の塊が迫っている。いつまでも逃げ回ってはいられない。

ただでさえ運動不足なのに一日中動いた疲れを引きずってて、

今もグラウンド中を息が切れるほど走ってる。スタミナ切れが近い。

 

脚を止めたら終わりなのはわかってるけど、徐々に走るスピードは落ちてくる。

目の前の箱を蹴飛ばす。中身は……。来年のカレンダー。

自分じゃ買わないけど貰って嬉しいプレゼントをどうもありがとう!

 

本格的にピンチ。いっそあたしもギブアップしようかと思ったけど、赤い円は奴の後ろ。

ルール無視してクロノスハックを使おうか。

いや、失格になると2位賞品すらもらえなくなる。万事休す。

 

──おーい、これ使えるか!?

 

……と、思った時、槍状のものを振り上げてあたしを呼ぶハリードの姿が。

目にした瞬間、考える前に叫んでいた。

 

「お願い、それを投げて!」

 

“受け取れ!”

 

ハリードが軽く助走をつけて手にしたものを投げてきた。

結構な重量があるけど、あたしも多少の怪我を覚悟で

軌道を見切って受け取る体勢を取る。

風を切って飛んできたそれを、身体全体を使うようにしてキャッチ。

軽く胴に当たってむせそうになったけど、我慢してハリードに警告。

 

「げほ…爆発するわ!耳を閉じて地面に伏せて!」

 

“わかった!”

 

ライダーが鉄球と共に突進してくるけど、

逃げることをやめたあたしは片膝をついて“RPG-7”を肩に担ぐ。

そして奴の足元に狙いを定めて、トリガーを引いた。

単発式の対戦車ロケットが点火された発射薬で射出され、

ロケットモーターの推進力で空を進む。地表付近を飛翔した弾頭は鉄球の間近で着弾し、

粘土質の地面もろとも仮面ライダーフォートレスを爆破。致命傷を与えた。

 

[ダメージ蓄積率が100%をオーバー 自動修復モードに切り替えます]

 

「ごほ、げふん、……や、やったの?」

 

ライダーベルトのシステム音声が仮面ライダーの活動停止を告げるけど、

土埃で視界が遮られて、しばらく向こうが見えなかった。

あたしは構わず発射済みのRPG-7を投げ捨てて、

大の字になって倒れている人影に近づく。

皇帝陛下にどうしてこんな馬鹿なことをしたのか聞かないと。

 

「陛下。どうしてあなたがこのような……。あ、あれ?」

 

「うう…痛い……」

 

倒れていたのは、皇帝陛下じゃなくて、黒い軍服の帝国軍人だった。

わけも分からず突っ立ってると、

救護班が駆けつけてきて彼とライダーベルトを回収していった。なにそれ。

彼らは何も説明してくれないまま去っていった。

呆気にとられてその後ろ姿を見送っていると、ハリードが驚いた様子で近づいてきた。

 

「すげえ爆発だったな。要塞にはあんな武器があるのか……」

 

「あるっちゃあるんだけど、

なんであのベルトがここにあるのか、そっちの方が気になるわ」

 

「気になると言えば……。どうする?俺達ふたりだけになっちまったけど」

 

「あ」

 

確かにあたし達2人が残ってるし、審判も試合終了を宣言してない。

なんだかどうでも良くなっていたあたしは軽口を叩く。

 

「そうね……。大玉転がしで決着つける?」

 

彼はハハ、と笑って言った。

 

「俺は2位でいいよ。デカブツを始末したのはあんただ」

 

「マヂで!?本当にいいの?」

 

「俺は魔法なんて使わないし、魔導空調機のほうが家族が喜ぶ」

 

「ハリード……。パンドラの箱に残った希望ってあんたのことだったのね」

 

「よくわからんが、あんまり大げさに考えるな」

 

その後、あたし達は審判を呼んで話し合いの末に順位を決定した事を伝えた。

納得した審判は結果発表を行う。

 

《試合終了!以上をもって、全ての競技が終了しました!》

 

ついに終わった。100名を超える兵どもの苦しみ、悲しみ、欲望、恐怖、希望、絶望。

全てを食い尽くし、運動会の名を借りた邪神のあぎとは閉ざされたのであった。

 

《3位、マッハ・バキー君。2位、ハリード君。優勝、斑目里沙子君》

 

ヘルメットを脱ぐと、吹き抜ける風が泥の臭いと共にわずかな爽やかさを運んでくる。

汗まみれになって臭くなったあたしの頭もひんやりとして気持ちいい。

そんな余韻を邪魔するようにマイクを交代した進行役が耳障りなアナウンスを始める。

 

《さあて!見事栄冠を手にした上位3名には素敵な豪華賞品がプレゼントされまーす!

表彰式のセッティングを行いますので、しばらくお待ち下すわぁい!》

 

だけど今は何もかも許そうと思う。

ろくなことがなかった今日という日、最後くらいは穏やかな気持ちでいたい。

もうあたしを追い立てるものは何もないのだから。

あたしは表彰式を待つために待機所へのんびりとした気持ちで歩いていった。

 

 

 

 

 

15分くらい経ったかしらね。

グラウンドの真ん中に表彰台が設置されて、あたし達はその上に立っていた。

表彰式でお馴染みの「見よ、勇者は帰る」が演奏される中、

ひとりひとりにトロフィーと副賞が手渡される。

 

《おめでとうございます!おめでとうございます!

第3位のあなたには魔国製固形マナ内蔵式無属性光線銃が送られまぁーす!》

 

結局最後までキャラが固まらなかった進行役が、

不思議な形の銃をバンダナ男に授与する。やっぱり欲しいわ、あれ。

 

《とぅぎは~?第2位のハリードさんに魔導空調機をプレゼント!

ちょっと重いからご自宅に郵送しますねー!》

 

黒ジャージの好青年にはその健闘に相応しい魔法のエアコン。

……が描かれた厚紙が渡される。

賞品授与の度に観客が戦士達の活躍を称え、勝利を祝い、惜しみない拍手を送る。

 

《そしてそして~!見事優勝に輝いた斑目里沙子さんには、なななんとぅ!

コスモエレメント・氷雪を手にする権利が……》

 

「さっさと渡さないとトロフィーで頭かち割るわよ」

 

《……ええ、表彰式は以上です。会場の皆様、選手たちに今一度盛大な拍手を》

 

コスモエレメントをひったくると、観客席から会場を揺るがすような拍手と歓声。

初めて触れるその物体は、実体があるのかないのか微妙な感触で、

確かに冷気を吹き出し続けてる。

軍手がなかったら、しもやけを起こしてたかもしれない。これで夏の猛暑は乗り切れる。

ほっと一安心すると、休む間もなく押し寄せてきた報道陣から質問攻めに遭う。

 

「優勝おめでとうございます!賞品の使い道はどのように?」

 

「暑さに苦しんでる仲間のために使うわ」

 

「おひさー!メルだよ!今日はおつかれーしょん!ガメ写撮るからこっち向いて~!」

 

「AKB(アホ消えろバカ)」

 

「オニー!」

 

「今大会はサラマンダラス帝国初の運動会となりますが、コメントをお願いします!」

 

「そうね……。皆は誤解してる。

運動会は本来こんなにたくさん怪我人が出るような危ない催しじゃないの。

安全な競技で競い合って、勝っても負けても最後には互いの健闘を称え合う。

それが本当の在り方。

この大会の元になったオリンピックだって、

戦争に替わる平和的に勝敗を決する場であったはずなのに、

みんなも見ての通り争い傷つけ合う結果になってしまった。

そりゃあ、出場者それぞれに譲れない事情があったんでしょうけど、

少なくともあたしは以前手遅れになりかけた仲間の命を守るために参加した。

あたしもみんなも、血まみれ黒焦げになるまで戦う必要なんてなかったはず。

次回では、大会運営にはもう一度運動会について調べ直してもらって、

そこのところをよく考えてほしいの。

たとえ次があるとしてもあたしはもう出ないけどね」

 

3つ答えたところで本格的に疲れが出たから、

フラッシュを焚く報道陣をかき分けて帰路についた。

受付にヘルメットとゼッケンを返し、駐車場の馬車に向かう。

待ち合わせ通り、馬車の近くで仲間が待っていた。皆があたしを出迎える。

 

「やったじゃねえか里沙子!

3位になったらわざと負けるんじゃないかと心配してたぜ!」

 

「光線銃に未練がないと言えば嘘になるけど、

クソ暑い夏を冷房なしで過ごすよりマシだから頑張りたくないけど頑張った」

 

「おめでとうございます、里沙子さん。……まあ、それがコスモエレメントなのですね。

とても不思議な存在です。実はわたしも実物を見るのは初めてで」

 

「帰ったら6つに分解してくれるかしら。あ、冷たいから素手で触らない方がいいわよ」

 

「あのう、できれば8つにしてくれないでしょうか?等分するならキリの良い数ですし、

冷温庫に入れておけば冷却機能が増すと思うんです」

 

「そいつは名案ね。ハイボール用の氷がたくさん作れそう。

しんどい思いしてゲットしたんだから最大限活用しなきゃ」

 

「お見事でしたわ、お姉さま。決勝戦ではどうなることかとヒヤヒヤしましたが」

 

「アースの兵器触らせたらあたしの右に出るものは居ないわ。

頼れる協力者とも出会えたし。

しっかし、ライダーベルトまで使わせて皇帝陛下もどういうつもりなのかしら。

カシオピイアを通して今度確かめとかなきゃ。……そう言えばあの娘はどこなの?」

 

「閉会後に仕事上がりだって言ってたからもうすぐ来ると思う。

ねー、本当にお菓子セットはもらえないの?」

 

「街で買えって言ってんの。ああ、それにしても疲れた。

運動会と名のつくものには二度と永久に関わりたくないわね」

 

日が傾きかけたころ、あたしを呼ぶ声が聞こえてきた。

軍服姿に警備係の腕章を着けた妹。これで全員集合ね。

 

「待たせて、ごめんね」

 

「いいのよ。あたしも今来たところだし。お仕事お疲れ様」

 

「優勝おめでとう」

 

「ふふっ、ありがと。さて、みんな集まったし、帰りましょうか」

 

「そうですね。戻ったらさっそくコスモエレメントを分けましょう」

 

「一番暑くなる8月直前に滑り込みセーフで対策が出来たわね。やれやれだわ」

 

既に大勢の選手達が帰っていて、駐車場は来たときよりもガランとしていた。

もう停まってる馬車はまばら。あたし達も馬車に乗り込み帝都に向かった。

窓から既に撤収作業が始まってる会場を眺める。まさか生きて帰れるとは思わなかった。

今日だけで何日も戦ったような気さえする。ありがとう、さようなら、もう来ないわ。

早くもコスモエレメントで涼しくなる馬車に揺られ、感慨にふけるあたしだった。

ちなみに御者さんには500G渡しておいた。

 

 

 

 

 

後日。あたしはダイニングでコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

テーブルの上には巾着袋に入れられたコスモエレメント。

あの日、家に帰ったら、さっそくエレオが魔力を宿した両手で

奇妙な魔法触媒をふわりと手のひらで挟んだの。

 

そしたら音もなく細胞分裂のように2つに分かれ、

それを数回繰り返すと持ち運びにちょうどいいサイズになったから、

こうして布で包んで全員に配布したってわけよ。

涼しい風を受けながら熱いコーヒーを飲む。最高の贅沢ね。

あら失礼、新聞の内容はこんな感じ。

 

“早撃ち里沙子、帝国初の運動会で優勝。表彰台で平和を語る!

先日行われた第一回サラマンダラス帝国大運動会で見事優勝を果たした斑目里沙子氏は、

表彰台でのインタビューで次のように語った。

運動会とは本来平和的なイベントである。

安全な競技で競い合い、互いの健闘を称え合うものであり、

暴力によって目的を達する場ではない。

参加者の殆どが病院送りになった今回の大会は異常であると。

大会の運営に対し疑問を投げかけるコメントについて大会組織委員会は

「アースの資料からなるべく忠実に運動会を再現した。

今回のような結果になったことは誠に遺憾である。再発防止に努めたい」と述べた”

 

見出しと本文にささっと目を通すと、またコーヒーをすする。

運営は大して反省しちゃいないような気がするけど、

もうあたしには関係ないから放って置くことにする。

カシオピイアも快適に仕事に打ち込めるし、

エレオやジョゼットが熱中症になる心配もなくなった。

全部丸く収まったなら後は野となれ山となれよ。

 

あ、カシオピイアから皇帝陛下に今回の件について問い合わせてもらったの。

なんで運動会が血で血を洗う悲惨な現場になったのか。

すると音叉にこんなメッセージが届いたの。

 

“里沙子嬢、久々であるな。我輩である。カシオピイアから大体の事情を聞いた。

此度の件に関しては、我輩の監督不行き届きと言わざるを得ない。

ある文献からアースの平和的紛争解決手段として運動会の存在を知り、

サラマンダラス帝国に根付かせようとした我輩の誤りであった。

アースの文化に明るくない我輩に代わって学者を雇い、運動会の準備を任せたものの、

彼らが資料を曲解した結果、流血の惨事となったことは無念でならない。

いや、全ての責任が我輩にあることを否定するつもりはないのだ。

日々の執務に忙殺され、結果大会の準備を学者や軍部に丸投げしてしまったことは事実。

安全対策のためと聞かされ機能制限をしたライダーベルトを貸し出したのも事実。

次回はこのようなことがないよう、プログラムのチェックを入念に行うこととする。

申し訳なかった”

 

ふぅ。賢い皇帝さんでもポカミスするもんなのね。

“安全対策”は仮面ライダーの中の人の安全を意味していたわけか。

繰り返しになるけど、2回目があろうと参加する気は毛頭ない。

だからあたしにとってはどうでもいい。

肝心なのは、全員が冷房の効いた部屋で快適な夏を過ごせるようになった。

その一点に尽きるわ。ちょっと長丁場になったけど、運動会はこれでおしまい。

 

みんなも熱中症には気をつけてね。

そろそろ気象予報士が“迷わずクーラーを使って”って言い始めるころだから。

バイバイ。

 

 

 

 

 

ハッピーマイルズの街

 

広場の片隅に軽食、雑誌、飲み物と言った雑貨を扱う売店がある。

真っ赤な髪をワックスで固めて剣山のように立てたその男は、

ポケットに手を突っ込みながらマガジンラックに近づき、新聞を1部取った。

そして乱暴に広げて記事に目を通す。

 

「お客さん、困るよ。読むなら買ってもらわなきゃ」

 

「ああん?」

 

目つきの悪い男は店員を睨みつけ威圧する。

不気味な存在感に気圧されて思わず店員は口をつぐんだ。

 

「いえ……」

 

「ふん」

 

ざっと本文を読んだ男はつぶやく。

 

「はーん、こいつがねぇ?」

 

どこかの機関に所属しているのだろうか。

黒い6つボタンの形式的なジャケットを着用している。

ともかく、男は去り際に用済みになった新聞を後ろに放り投げた。

ただそれは、地面に落ちる前にまるで初めからそういう紙だったと思わせるほど、

断面鋭く斜めに切り裂かれていた。細切れになった古新聞が風に舞い上げられる。

店員はそれを不安げに見つめるしかなかった。

 

 

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