久しぶりにシリアスめのお話がはじまるかも?
数日前
とある男の執務室にこれまた謎の集団が集められていた。
10代から20代前半の彼らの服は、形状こそ多種多様であるものの、
黒い生地のフチに緑のラインを通していることで共通している。
男は背もたれの高いソファのような回転椅子に座り、
デスクに両肘を突いて口の前で手を組む。
しばらく黙り込んでいたが、大柄な彼は部屋の明かりも点けずに
目の前に並ぶ10人程度の男女に語りかけた。
「……3年だ。3年経った。諸君も分かっているだろう」
そして背の高いリーダー格の男が彼に答える。
つばの広い黒の三角帽子に漆黒のコート。左頬に鋭い傷跡がある。
「国際会議、か。
随分と待たされたものだが、ようやくまともに身体を動かすことができる」
彼は白い手袋をはめた左手を軽く握ってみる。
「そうだ。
我が国の安寧秩序を守るために、限りなく優位な立場で臨まなければならない。
しかし、我々はあまりにも時間を掛けすぎてしまった。
既に先進三国はトライトン海域共栄圏を盤石なものとし、
会議の場では数の力でルビアを無視し世界の舵取りを奪いに来ることは明白だ」
中立国家ルビア。魔術立国MGDの存在するブランストーム大陸の遥か西に位置する。
大きな執務用デスクに着いて語る男はルビアの大統領であった。
人呼んで大山の如き大統領、アルベルト・ヴォティス。
今度は真っ赤な髪をワックスで固めた柄の悪い男が前に出る。
「で?俺達ぁ何すりゃいいんだよ。もう待てねえよ。
戦争おっ始めるならさっさとしようぜ。結局アンタはそのために俺達集めたんだろうが」
「……下がれ、スラッシュ。大統領の前だぞ」
リーダーの男がスラッシュと呼ばれた男を嗜める。
彼は不満げに舌打ちをして喋ることをやめた。
「構わん。これから諸君には似たようなことをしてもらうのだからな。
まずはトライトン海域共栄圏の輪を断つ」
「と、言うと?」
「三国だけではトライトン海域共栄圏は成立しなかったであろう。思い出してほしい。
この世界に強大な天使が降臨し、全ての知的生命体の意識がひとつになった出来事だ」
「天使長メタトロン、か」
「ああ。お前も彼の者が起こした奇跡によって知ったはずだ。
ある人物によって人類が生きるに足る存在であることが証明され、
世界は神の炎による浄化を免れた」
「斑目、里沙子……」
両目が前髪で隠れている銀髪の少女がつぶやく。
「近代史の文献にその名を記される彼女。
以後、目立った活躍もなく我が流国では死亡説が流れているほどだが、
未だにその影響力は絶大だ。そこで私の伏兵たる諸君の出番となる」
「里沙子の、暗殺か?」
「トライトン海域の三国が互いに疑心暗鬼に陥る状況を生み出せるなら、
どのような手段でも構わない。
彼女の息の根を止め、魔国あるいは皇国のスパイを名乗る。
証拠がなくともいずれの国のトップにも疑いの根が残るはずだ。
……そのために君達“能力者”を集めたのだからな」
「よーするに俺達は鉄砲玉ってことだろ。
散々贅沢三昧はさせてもらったが、その対価が縛り首か?
俺がそんなもんで死ぬわけねえがよ」
「黙って、スラッシュ……。
拘束されるのも一時的なお芝居。必ずメンバーの誰かが回収に行く」
「わあったよ!デリートものんびりしすぎて首落とされんじゃねえぞ。
状況によっちゃどの国に行くかも変わってくんだからよ」
「……心配ない」
「作戦決行は3日後だ。
諸君にはまず3日後にマルチタスクの能力で沙国に潜入してもらう。
ミスは許されん。肝に銘じておくように。では、解散」
大統領の宣言で、能力者達がぞろぞろと執務室から退室していく。
最後に残ったリーダーは、立ち去る前にひとつ問うた。
「大統領」
「何だ」
「この戦いが終わった後、俺達は…いや、彼らはどうなる」
「勿論、この国で何不自由ない生活を保証する。今までと何も変わらない」
「……ならいい」
返事に納得した彼は、ドアを通ることなくその場で空間に溶け込み、
何処ともなく消えていった。
残されたのは大統領一人。彼は葉巻入れから一本取り、火を着けた。
ひとつ吸い込み、紫煙を吐く。彼はただ葉巻から立ち昇る煙の筋を見つめる。
その心の内は誰に知られることもなかった。
後日
あー、涼しい。みんな見てよ。朝から公共マナ代気にせず冷房つけっぱなしなの。
運動会で死ぬ思いをした甲斐があるってもんよ。
巾着袋に入れたコスモエレメント・氷雪の欠片が冷たい風を送り続ける。
あれ以来マヂで助かってるわ。
寒さは重ね着で凌げるけど、暑さからは全部脱いだって逃げられない。
まあ実際は1枚着てたほうが涼しいんだけど。
ともあれ、あたしはダイニングで熱いコーヒーを飲みながら新聞を読んでるの。
まさに勝者にのみ許される贅沢。
夏場にガンガンとクーラー効かせてカップ麺や辛口カレーを食う。
そんな経験みんなはない?同じプチ贅沢を楽しみながら今日の“玉ねぎくん”を読む。
あら、気の毒に。軒下に吊るされて暑そう。早く食べてもらえるといいわね。
4コマ漫画を読み終えると次は1面に目を通す。どれどれ。
《3年に一度のミドルファンタジア国際会議が間もなく》
5大先進国の首脳が一堂に会し、国家間の首脳会談や国際法の見直し、
紛争地域への働きかけ、交易上ルールの改正案発表などを行う国際会議が
今年開催される。会議は一週間に渡って行われ、
今年の開催国には我がサラマンダラス帝国が選ばれた。
今回の国際会議では、立憲民主主義国家となったマグバリスの総裁、
ロレンス・ラレーシャ氏の参加に注目が集まっている。
長きに渡る独裁政治が終わりを迎え、民主的選挙により選出された総裁が
会議の場で何を訴えるのか。更に今年は前回存在しなかった
トライトン海域共栄圏の存在も議論に大きな影響を及ぼすことは間違いない。
政界ジャーナリストや経済学者も、今回の国際会議が世界情勢をどのように動かすか
分析に頭を悩ませているようだ。
あー、なるほど。今年はG20大阪サミットみたいなもんがあるのね。
大事な会議なんだろうけど、あの都市部をやたら広範囲に渡って交通規制したり
ゴミ箱やコインロッカー封鎖したりして付近住民に大迷惑かけたのはいただけないわ。
そんなにテロが怖いなら参加者全員シャトルバスに詰め込んで
四方を10式戦車で固めて移動すればよかったのよ。
それでも不安なら上にアパッチ飛ばせばいい。
まあ、終わったことにウダウダ言っても仕方ないわ。
あたしは新聞を畳んでコーヒーの続きを楽しむ。
しまった、新聞に夢中になってる間にぬるくなっちゃったわ。
仕方なしに一気に残りを飲み干す。
そんで、カラになったマグカップをジョゼットが皿洗いをしてる洗い場へ持っていった。
彼女も腰に巾着袋を下げてコスモエレメントの恩恵に預かってて汗一つかいてない。
「悪いけどこれもお願い」
「は~い、置いといてください」
「ちょっと出かけてくるわ。何かいるなら買ってくるけど」
「じゃあ、食パンを2斤お願いします」
「あいよー」
あたしはコートハンガーに掛けておいたガンベルトを身体に巻き、
立て掛けておいた長物を背中部分のフックに引っ掛ける。出かける準備はこれだけ。
暇つぶしにマリーの店覗きに行くだけだからこれでも十分過ぎるくらい。
聖堂の玄関から外に出て、なだらかな丘を下って街道に出る。
コスモエレメントがあっても、やっぱり直射日光はキツいわね。
あたしも日傘の一本くらい買おうかしら。
でも片手がふさがってたらとっさに銃を抜けないし。
ダラダラと考え事をしながら街道をぶらついてると、野盗くんの群れ……だったもの。
唐突に非日常が目に飛び込んで、流石にあたしも一瞬思考が止まった。
3人が血まみれになって死んでいる。
切れ味の良い剣で斬られたのか、肩から脇腹にかけて斜めにきれいな傷跡があり、
未だに血が流れ出ている。
「やられるのが早すぎたわね、新キャラも登場してないのに。
とりあえずご冥福を祈っとく」
かませとしての本分を全うした野盗くん達に手を合わせると、
それ以上できることのないあたしは念の為将軍に報告しようと思い、
街に向かう足を急がせた。
でも、街の様子はもっと悲惨だった。
道路の隅に担架が並べられてて、身体のいろんな箇所を切り裂かれた怪我人が
痛みにうめき声を上げながら寝かされている。
担架は途切れることなく続いていて、惨状の答えを求めて追いかけていくと、
人の居なくなった市場を通り広場に出た。
「助けてくれ…痛くて、死にそうだ……」
「僕、ここで、死ぬのかな……」
「うう看護婦さん……。早く来ておくれ」
わりとスペースがある広場もその様子を一変させていた。
白い石畳に血が飛び散り血の赤を生々しく見せつけている。
多数の仮設テントの下にはやっぱり担架やストレッチャーに乗せられた怪我人。
彼らは激痛で身をよじり、中にはもう怪我人じゃなくなってしまった人もいる。
全員に共通している点は、さっきの野盗のように
鋭い刃物のようなもので斬られていること。
日常が、急速に崩れていく。説明を求めて誰かを探す。
数人の医者が額に汗を浮かべながら重傷者から順番に処置をしている。
よく見ると、見慣れたブルーのロングヘアといつか見た軍事基地の老軍医の姿があった。
「アンプリ!一体何が起こってるのよ!?」
「後にして!人手が足りない!」
「何が必要?」
「回復魔法が使える人!なるべくたくさん!」
「待ってて、すぐ連れてくる!」
「急いでくれると助かる。
この暑さではワシと患者、どっちが先に死んでもおかしくない」
彼女は、手を動かしながらもマイペースな軍医と手分けして傷口の縫合をしてるけど、
人手が全然足りてない。
エレオとジョゼットを呼ぼうと踵を返して教会に戻ろうとしたところで、
会おうと思っていた人とばったり出くわした。
「おお、リサではないか!」
「将軍!街で何が起こったのですか!?」
「辻斬りである!既に我が軍の兵士も何人もやられた!
今朝の市場開店時刻を狙った犯行だ!不審な赤髪の男の目撃情報が多数寄せられておる」
「赤髪?……ああ、いえ、まずはシスターを呼んできます。詳しいお話はその後で!」
「頼む!」
あたしは駆け足で教会に舞い戻る。
いくらコスモエレメントの効果があっても、炎天下の中走れば体温が急上昇して
玄関を開けたときにはもう汗だくだった。ドアを開けっ放しにして大声でふたりを呼ぶ。
「エレオ!ジョゼット!今すぐ来て!」
ただならぬ様子のあたしの大声を聞きつけて、
シスター達が目を丸くして飛び出してきた。
「里沙子さん、どうしたのですか!そんなに汗まみれになって!」
「す、すぐタオルを持ってきますね!」
「いいから!それより大変なことになったの!まず一点、パンは諦めて!」
あたしは、ハッピーマイルズの街周辺に辻斬りが現れ大勢の者が殺傷されたこと、
今も街が怪我人であふれかえっており、治療のできるものが一人でも多く必要なことを
手短に説明した。
「わかりました。今すぐ参りましょう」
「はい!わたくしもエレオノーラ様ほどではありませんが、
いくつか回復魔法を使えます」
「おい、私も行くぜ!街までふたりを護衛する。
いつ辻斬りとやらに出くわすかわからねえからな」
話を聞いていたルーベルを始め、他のメンバーも用心棒を買って出る。
「ワタシも、現場を見なくちゃ。場合によっては、帝国軍本隊に連絡を」
「ええ、頼りにしてるわ」
「お姉さま、パルフェムも何か和歌でサポートが……」
「ごめん、あなたとピーネはここにいて」
「えー!なんで!」
街道に捨て置かれた野盗の死体を思い出す。
まだ身体だけでなく心も成長途中の彼女達に見せられるものじゃない。
特にピーネはこの世界に来た時、悪魔とは言え無数の死体を見てきた。
その記憶がフラッシュバックしないとも限らない。
「今度の犯人は特別ヤバイ奴なの、お願いだから家で避難してて」
「わかりました。お姉さまがそうおっしゃるなら……」
「私がいれば悪いやつなんてシャボン玉まみれにしてやるのに」
「ごめん、それはまた今度。あたしも街に戻らなきゃ」
そして玄関ドアを閉めてしっかりと鍵を掛ける。
エレオ達はルーベルを先頭にもう街へ向かってる。
……それを確認すると、背後に広がる教会隣の森へ振り返ることなく声を立てる。
「準備OKよ。さっさと出てきなさい」
ガサガサと雑草を踏みつけながら、赤く染めた髪を針のように立てた男が
両手をポケットに突っ込んだまま森から出てきた。
そいつはへへ、と笑うと小馬鹿にするような口調で話しかけてきた。
「“早撃ち里沙子”、“魔王殺し”に…“平和の導き手”か。
御大層な肩書きぶら下げてる斑目里沙子さんが、まさかこんなチビ女だとはよ」
「聞くまでもないけど、辻斬りってあんたのこと?」
「一般人に
まあまあってとこだな」
「そうなの。
あたしも最近銃を撃ってないから、射撃の腕が鈍ってないかテストしたいのよね!」
言い終わると同時に、ホルスターから
銃声と共に.45LC弾がイカれた男に食らいつく。
でも、弾丸は男に命中する直前、バラバラになって砕け散った。
あたしは体内のマナを燃やして魔力を錬成。目に魔力を供給して改めて男の姿を見た。
ボトムスは黒のジーンズだけど、上は何かの制服のらしい仕立てのジャケットを着てる。
魔力を通して見た姿は、ガラスを紙やすりで傷つけたような無数の斜線に包まれている。
銃弾は謎の引っかき傷に防がれたっぽい。
「ハッ!ただの銃で俺が殺せると思ってんなら、
よっぽど“ここ”がお花畑だぜ。おめえ」
奴がこめかみを指先でトントンと叩いてみせる。
「あら冷たい。殺人鬼とトリガーハッピー。結構馬が合うと思ったんだけど」
「ふーん、そうかよ。だったら自己紹介くらいしてやるか。俺はスラッシュ。
能力は“指であらゆる物事を斜めに裂く”こと」
「斜に構えてるあなたにぴったりね。それで周囲の空間を切り裂いて、
次元の裂け目で物理的攻撃を細切れにしてるってところかしら」
「わかってんじゃねえか。今度はテメエだ。お前の能力を見せてみろよ」
「こんな能力なの」
身体を流れる魔力を加速して、トップスピードに達したところで
集中力を極限まで高める。
──クロノスハック!
最後に実戦で使ったのはいつだったか思い出せない。時の流れをせき止めたあたしは、
背中のレミントンM870を抜き、ハンドグリップをスライドする。
そのままスラッシュの脇を通り過ぎて後ろに周り、12ゲージ弾を発砲。そこで能力解除。
突然後ろから撃たれたスラッシュは少し驚いた様子だったけど、
すぐに元のニヤケ顔に戻る。
「はん、それがクロノスハックとかいう能力かよ。
確かに便利な代物だが……。俺はこの通り生きてるぜ?」
目には見えないし見てる暇もないけど、
きっと散弾もチリになってスラッシュの足元にこぼれてると思う。
「ショットガンの散弾も駄目かー。そんなに細かい斜線を書くの大変だったでしょう?」
「慣れればどうってことねえ。何年こいつと付き合ってると思ってる。
……こんな風によう!」
今度はスラッシュの攻撃。
左手の人差し指を弾くように斜めに滑らせると、見えない何かが迫ってきた。
あたしはとっさに横に飛び、うつ伏せた。
細い木々を音もなく切り裂きながら、頭上を何かが通過していく。
反応が遅れてたら危なかったわね。
どうしたものかしら。きっと手持ちの銃はどれも効果がない。
クロノスハックで時間を止めても攻撃が通らないんじゃ意味が……。ちょっと待って。
もう一度スラッシュを観察してみる。どうしようもないこともないわね。
考えながら立ち上がると、奴がぶらぶらと近寄ってくる。
「さぁてと。お前、どこから斬られたい?指か、足か、目か」
「メガネは外してくれると助かるわ。この世界のメガネはレンズが分厚くて」
「いいぜ?手足落として芋虫みたいにしてやるよ!」
スラッシュが両手の5本指で斜めを描き、大気を裂いて10条の真空波を飛ばしてきた。
その瞬間、あたしは再度クロノスハックを発動。
ポケットに入っていた物を取り出し、ピンを引き抜いて真上に投げる。
見えない刃を回避すると、次は奴から離れた側面に立ってまた能力を解除。
「おい、逃げてるだけじゃ俺は……」
あたしは黙って上を指差す。
ハッと奴は宙を舞う殺気に気づき、慌てて両手で頭上の次元を切り裂く。
同時に、この前の運動会で拾って1つ余ったからパクってきた
MK2ハンドグレネードが炸裂。
火薬で暴力的なまでに加速された無数の鉄片がスラッシュに襲いかかる。
能力で爆風と殆どの鉄片からとっさに身を守ったけど、
雑に描かれた斜線は全てを防ぎきれなかったようで、
細かい鉄片のひとつが奴の肩をかすり、もうひとつがまともに刺さった。
破れたジャケットの奥から血が吹き出す。
「ああっ、ぎゃああ!!」
「風のバルバリシアじゃあるまいし、ちゃんと頭も守りなさいな」
反射的に傷口に当てた手が赤黒く染まり、スラッシュに動揺が走る。
「て、テメエ……!」
「どう、続ける?あんたが血を失ってフラフラになるまで待つのもいいかもね」
「チッ!勝った気になってんじゃねえぞ!テメエは、絶対俺がぶっ殺す!」
スラッシュは森の奥へ逃げていった。どうにか負傷させることはできたけど、
奴の能力の性質上捕まえたり追撃することができないから、
ただその姿を見過ごすことしかできなかった。
もうハンドグレネードもない、というか効かない。
あたしは街に戻って将軍に事の仔細を報告することにした。
街は幾分落ち着きを取り戻していた。負傷者には全員処置が施され、
付近住民の協力を得て仮設テントから民家に移されている。
当分アンプリ達は街中の患者の世話に忙殺されると思う。
そして、撤去された仮設テントの跡には、いくつもの棺桶が。
ジョゼットは棺桶にすがりついて泣き叫ぶ遺族の背中をさすり、
エレオノーラは物言わぬ躯に祈りを捧げている。
何も言わずに広場に入り、部下に指示を出し続ける将軍に話しかけた。
「将軍。ご報告したいことが」
「おおリサ、無事だったか。教会の方から爆音が聞こえてきた。何があったというのだ」
「実は……」
あたしはスラッシュを名乗る男の襲撃を受け
どうにか追い払ったことと、奴が辻斬りの犯人であることを将軍に伝えた。
「なるほど……。下手人の名前はスラッシュか。しかし、なぜリサを?」
「わかりませんが、奴は初めからわたくしを狙っていたようです。
街の住民達を傷つけたのは……。能力の調整であると」
「おのれ……!次に姿を現したならば、必ず我の剛剣の錆にしてくれる!!」
「どうか落ち着いてください。奴の能力に物理的攻撃で挑むのは危険です。
ここはわたくしに任せていただけないでしょうか。
スラッシュはまたわたくしの前に現れるはずです」
「不甲斐ない。何か我に協力できることがあれば遠慮なく言って欲しい」
あたしは少し考えると、将軍にひとつ尋ねた。
「では、教えていただきたいことが。
この街で鉛や鋼と言った素材を売っている店はないでしょうか。
インゴットのような塊ではなく、扱いやすい粒状のものが理想です」
「それなら、呪術師アデールの魔道具店に行くとよかろう。
ここハッピーマイルズの中央にある。
紫色の小屋がぽつんと立っているからすぐわかるであろう。
様々な属性に対応した魔術触媒を販売している。
錬金術に必要な各種鋼材が手に入るだろう」
「感謝致しますわ。では、いつ次の襲撃があるかわかりませんので、わたくしはこれで」
言葉少なに礼を言うと、あたしは呪術師アデールの魔道具店に向かった。
本当に時間がない。正体不明の攻撃者。きっとスラッシュひとりじゃない。
能力者は他にもいて、それを裏で操ってる奴がいるとしか考えられない。
あたしは通行人に道を聞きながら、目的の物を手に入れるため、足を急がせた。
帝都の外れにある邸宅。
複数の口座を経由した資金提供で土地ごと購入された豪邸。
だが、“彼ら”と配下のわずかな使用人以外住人のいない屋敷は
どこか寂しげな雰囲気を放っている。
玄関ホールの中央にスラッシュがあぐらをかいて座り込み、
銀髪の少女が傷口に手をかざしている。その様子を他のメンバーが見守る。
「ああ、痛ってえ!ざけんなあのクソ女!」
「静かにして。うまく能力を固定できない」
「殺す!次はぜってえぶっ殺す!」
スラッシュの肩は血だらけだったが、
やがて刺さった鉄片も傷口も血も完全に“削除”された。
「はい、おしまい」
治療が終わると、彼は肩をぐるぐると回し、本調子に戻ったことを確かめた。
「これなら行けそうだぜ。サンキュ、デリート」
「私はいいけど……」
しかし、黒い三角帽子の男がスラッシュにつかつかと歩み寄り、彼の腹を蹴り上げた。
抗いがたい鈍痛にその場に転がる。
「ごはっ……!」
「……なぜ、勝手な真似をした」
「奴の、命令だろうが……。里沙子を…殺す」
「決行のタイミングは俺が決める。
同じことを繰り返すなら、次こそお前の“終わり”だ。命が惜しければ忘れるな」
「チッ、クソが……」
「マルチタスク。お前達も、なぜこいつに付き合った」
男は幼い双子の姉妹に問う。
やはり黒地に緑のラインが走った女の子らしいドレスを着ている。
「だってー。やるなって言われてなかったから」
「やってもいいって思ったの」
他人事のように答えた彼女達に男は小さくため息をつく。
二人の能力は突出したものがあるが、
子供ゆえの気まぐれやわがままに悩まされることが多い。
男は改めて全員を見渡し、確認した。
「俺達の使命は絶対だ。失敗は死を以て償ってもらう。それを忘れるな」
鼻歌を歌う姉妹を除くメンバーの間に重たい空気が下りる。
彼の宣言で、表舞台の裏で繰り広げられる新たな戦争が幕を開けた。