前回は丸一日記憶がすっ飛んでて、
この文章も天の声に任せきりという失態を犯してしまったわ。
ごめんなさいね、何か変なことしてなかったかしら。
まぁ、スラッシュをどこかのボランティアが半殺しにしてくれたから
楽できたのが不幸中の幸いね。お詫びに大好きな西部劇教えるから許して。
その名も「続・荒野の用心棒」。
原題は
ちなみにタイトルに続って付いてるけど、
クリント・イーストウッド主演の“前作”とは物語としては何の繋がりもない。
放浪のガンマンがならず者にピースメーカーをぶっ放す基本は押さえつつも、
中盤では笑いが出るほどの超展開に……。
「やめろ。誰もお前の趣味なんか興味ねえよ。見え見えの字数稼ぎはよせ」
「そんのこと言ったってしょうごのいじょないこ。
週一更新の自主ルールが崩壊して久しい上に、
10日以上も更新が滞ってるんだから(08/18現在)」
意味もなく、え○りかずきの物真似をしながらルーベルの冷たい声に答える。
本日のダイニング居座り組は、
あたし、ルーベル、カシオピイア、エレオの4人でございます。
「大体お前には危機感ってもんがないんだよ。
たまたま捕まったからよかったものの、犯人はお前の命を狙ってたんだぞ?
単独犯なわけがねえ。絶対バックにヤバい奴がいる。
そこんとこわかってんのか?」
「当のスラッシュがブタ箱行きになっちゃったんだから
続報を待つ以外にできることがないのよ。
カシオピイア、確かあいつは
将軍からサラマンダラス要塞に引き渡しになったのよね?」
「うん。まだ、取り調べ中」
「しかし、重症で動けないとは言え、
その者は強力な能力を持っていたそうですね。
怪我が治ったらまた何をしでかすか……」
不安な様子の彼女に将軍からの耳寄り情報をプレゼント。
「ああ、心配ないわエレオ。
治療ついでに手術で吸魔石を体内に埋め込んだからもう
お縄になった暴走魔女とかにそういう処置がされるのよ」
「えっ?まぁ…そんなものがあるなんて」
生々しい話にちょっと引き気味のエレオ。
「覚えてる人は覚えてる死に設定よ。
あんまり世の中のダーティーな部分と縁がなかったエレオが知らなくても
無理はないけど」
「もうすぐ、要塞から、返事が来る、かも?」
「来たら起こして。あたしは昼寝してくる。
運動会頑張ったおかげで寝心地が最高」
「大事なことは人任せにしやがって。まったく」
ルーベルの小言が始まる前に小走りで階段を駆け上がって、
あたしは私室に戻りベッドに潜り込んだ。
コスモエレメントという冷房で部屋をキンキンに冷やし、
あえて厚い布団を被って眠る。
この気持ちよさを分かってくれる人はきっといるわ。
しばらくの間、おやすみなさい。
サラマンダラス要塞 取調室
一命は取り留めたものの、再起不能の重症を負ったスラッシュは、
車椅子に腰掛けたまま連日軍の取り調べを受けていた。
季節がどうあろうと肌寒さを感じさせる湿り気のある石造りの部屋には、
鋼鉄製のデスクにランプがひとつだけ。
他には調書の記録員と尋問を行う筋肉質の調査官がふたり。
調査官がデスクを殴り、スラッシュを怒鳴りつける。
「皇国の目的はなんだ、答えろ!!」
全身をミイラのように包帯で巻かれたスラッシュは
虚ろな視線を泳がせながら答える。
殺傷能力の高いスキルを持つ重犯罪者は、治癒魔術師の回復魔法で
生かさず殺さずの塩梅で最低限の傷だけ塞がれていた。
「……言えねえ、サラマンダラスは、敵」
「膿だらけの包帯を引っ剥がされたいのか?
ションベンちびるほど痛いだろうな!」
「あー……。グラタンが、たべたい」
「斑目を狙った理由は!?誰の指示だ!そいつはどこにいる!
言っておくが、お前らクソ野郎共に
人権だの国際法だのがご用意されてると思ったら大間違いだぞ!
ここでお前が“事故”で死のうが、「再発防止に努めます」でおしまいだ!」
「くそやろう……。目の前。くさい」
「……!」
調査官は何も言わずにスラッシュの横っ面を張った。
まだ熱傷の癒えていない部分に激痛が走るが、
スラッシュは首ふり人形のように頭を揺らすだけだ。
記録員は不都合な部分に関してはタイプライターを打つ手を止める。
「舐めてんじゃねえぞガキが!まだ焼かれ足りねえなら
頭に血が上った調査官がポケットからライターを取り出した瞬間、
周囲の空間が固着した。
怒号は反響することなく声だけが消え、ライターの火の揺らめきは停止し、
タイプライターのアームは紙を叩く直前で止まる。
だが、パンプスがコツコツと石の床を鳴らす音だけが近づいてくる。
それが取調室の前で止まると、ドアが開かれ、何者かが入室した。
スラッシュが目だけを動かしてかすれた声で漏らす。
「……フリーズか」
フリーズという女性は、ボトムスは身体の線が浮かぶタイトスカート、
トップスはネクタイを締めた張りのあるスーツ姿。
やはり全体的に黒を基調としており、
髪はブロンドのセミロングをバレッタで後頭部にまとめ、
知性的な雰囲気を漂わせている。
何もかもが止まった世界で、スラッシュとフリーズだけが言葉を交わす。
「酷くやられたものね。何があったの」
「知るか。とにかくあの女は頭がおかしい。リーダーはなんて言ってる」
「心配要らない。暗殺には失敗したけど、
こうして皇国のスパイを演じている以上、彼に不満はないわ」
「俺が殺り損ねたから、今度はお前が来たってわけか」
「クロノスハック、ね……」
フリーズは、ベルトのナイフホルダーから
ナイフハンドルのない刀身むき出しのダガーを抜くと、
両手でそっと抱きしめるように胸に当てた。
「彼女の能力と私の能力。
どちらがどちらを上回るかわからないけれど、私達はやるしかない。
それが“スペード・フォーミュラ”としての使命だから」
彼女はどこか憂いを帯びた表情で自分に言い聞かせるように語る。
「行くのか」
「他のメンバーはそれぞれ別の任務に就いてるし、
マルチタスクは実戦に出すには危険。いろんな意味でね。あなたはここをお願い。
まだするべきことも残ってるし」
「ああ」
そしてフリーズは調査官の手からライターを取り上げた。
「……全てが終わったら、なるべく早く戻るから」
「頼んだ」
彼女は身体の自由が利かないスラッシュを一度振り返ると取調室から出ていった。
ほんの数秒の静寂を置いて、唐突に世界は動きを取り戻す。
目ン玉焼き潰して……あれ?俺のライターどこだ?」
「さあ?お前が持ってたんじゃないのか」
手の中にあったはずのライターを探す調査官。記録員が行方を知るはずもない。
慌てて体中のポケットを探るが出てくるはずもなく、
そうこうしていると今度はカツンカツンと床を叩く固い金属音が近づいてきた。
足音が取調室の前で止まると、ゆっくりドアが開かれた。
ミスリルで打たれたフルプレートアーマーと
真紅のマントに身を包んだ皇帝が入室。
調査官も記録員もすぐさま立ち上がって敬礼した。
「スパイ容疑者の様子はどうか」
「はっ!
現在皇国が斑目女史に暗殺者を送った目的について尋問しているのですが、
なにぶん発言が要領を得ず……」
「そうか。時間が掛かるとは思うが、多少手荒でも構わん。
情報が得られるまで続けてくれたまえ」
「承知致しました!」
皇帝はスラッシュを一瞥する。
「我輩としては、此奴の証言は信じがたいものがある。
経済的に安定成長を続けている皇国に、
トライトン海域共栄圏に亀裂を生じさせる理由があるとは思えん。
皇国も共栄圏の恩恵に預かっているというのに」
「仰る通りであります」
「ただ……。万一ということもある。
ハッピーマイルズ領が攻撃され、里沙子嬢が襲われたのは紛れもない事実。
また、皇国は指導者が交代したばかりだ。
公式会談も行われておらず、人物像もはっきりしていない。
彼がどのような外交を行うか、まだ未知数。
念の為、皇国の動きを注視しておく必要がある」
語りながら皇帝はスラッシュの後ろに立つ。そして彼の肩に軽く手を置いた。
「君が何をしたかったのかはわからんが、
あまり彼を煩わせないほうが身のためだ。
いつまで経っても処刑台に行けず、無意味に苦しむことになる」
「くたばてえ、しめえ」
「野郎!」
調査官が今度は鼻を殴る。今度は鼻血が垂れ流しになるが、
相変わらずスラッシュは廃人のふりを続けるだけだった。
痛みに耐えつつ、内心彼は笑っていた。
芽を出すのは当分先になるだろうが、
トライトン三国の間に不信の種が植えられたのは事実だったからだ。
ぱちり。十分に惰眠を貪ったあたしは、
スッキリした気持ちと、奇妙な気配を感じながら目を開いた。
ベッドから起き上がるけど、変な気分。
どう言えばいいのかしら。まだ日が出ていて明るいのに、なんだか薄暗い。
あたしはガンベルトを身体に巻くと、ガンロッカーの鍵を開け、銃を取り出した。
コルトSAA、Century Arms Model 100、そしてレミントンM870を装備。
腰には特殊警棒。
私室を出て廊下を進む。突き当りの階段を下りると、ダイニングにルーベル達。
ただし、誰も微動だにしていない。というより、全てが停止している。
ルーベルが飲んでいる水は、いつまでもコップに留まり
彼女の口に流れようとしない。
ジョゼットが野菜を煮込んでいるコンロの火も吹かず消えず、
ただ固体でない固体としてそこにありつづけている。
スラッシュ君の仕業じゃあないわね。
今は帝都で楽しい監獄ライフを送ってるんだし。
またあたしが相手をするしかなさそう。
背中からレミントンを抜いてハンドグリップを引く。
そこで異変に気づいた。わずかだけど軽い。
確か、夜なべして作ったドラゴンブレス弾が5発装填してあるはずなんだけど、
1発足りないの。
どこでぶっ放したのかしら。この前昼寝しすぎて1日記憶が消えちゃってるから、
その時に試射したのかもしれない。考えても仕方ない、今は敵よ。
聖堂に入ると、珍しくノックもなしに厄介者を呼び寄せたドアを開き、外に出る。
風も吹かないなだらかな丘に出ると、見た目は割とまともな女が立っていた。
見た目で人は判断できないのは常識だけど、
この世界では特にその法則が顕著。油断はできない。
スーツ姿のブロンドの女が、微妙に教会から離れた場所に立って
じっとあたしを見つめる。
「どちら様かしら。この変な現象を止めてくれたらお茶くらい出す」
「……斑目里沙子。スラッシュを倒したのは、あなたね?」
「ううん。どっかの公共心に満ちた親切な人が片付けてくれたの」
「嘘。彼自身がそう言ってる」
「あたし自身がこう言ってるのになんで信じてくれないのかしら」
「我々のミッションを完遂し、我々の居場所を守るため、斑目里沙子。
あなたを殺す」
女は腰から柄がないダガーを抜く。昼寝の余韻が台無しになったわ。
話が噛み合わない上に、新しい敵まで現れた。
しかも会話の内容からまだまだ他がいることも推測できる。
うんざりした気持ちであたしはピースメーカーを構えた。
相手の武器は短刀。対してこっちには銃がある。楽勝ね。
聞きたいこともあるし、右腕の動脈を外して撃ち抜いて終わりにしましょう……。
と、思ったんだけど、そこでまた異常発生。
勝手に身体からどんどん魔力が抜けていく。
というより、術式が自動的に発動して魔力を消費してる。
「なんとなくわかった気がする。あたしだけが動ける理由。あんたの能力も」
「そう。私とあなたは似た者同士。能力は周囲の事象を固着させること」
ダガーを構える女がご丁寧に説明してくれる。
「クロノスハックが止められた時間を止め返してるから
あたしが動けてるってわけね。
空からロードローラーが降ってこなくてなによりだわ」
「始めましょう。私はフリーズ。“スペード・フォーミュラ”の工作員」
「それがあんた達のユニット名?とりあえず無駄だとは思うけど……」
あたしはピースメーカーでフリーズの右腕を狙い、発砲。
結果、火薬は爆発したものの、弾丸は銃口から飛び出した直後に空中で静止。
彼女がダガーを使う理由が多分理解できた。
「便利そうな能力だけど色々不便なのね。
何でも止められるけど何でも止めちゃう」
「だから飛び道具は使えない。手の届く範囲なら効果を限定できるのだけど」
「なら、あたしもこいつが必要になるわね」
腰の特殊警棒を抜いて、一振り。シャン!と音を立てて頑丈な打撃武器が伸びた。
それを合図に戦闘開始。フリーズが風のような身のこなしで迫ってきた。
素早い両脚の動きで草原を駆け、一気に距離を詰める。
あっという間にお互いが間合いに入り、ダガーと警棒の接近戦が始まった。
フリーズが器用なナイフ捌きで鋭い斬撃を何度も浴びせてくる。
あたしは防具にもなる特殊警棒で攻撃を振り払うけど、
普段射撃メインで戦ってるあたしは早くも押され気味。
正面切って喧嘩するのってなにげにこの企画で初めてかも。
あたしはフリーズの右腕を狙って特殊警棒を振り下ろす。
でも彼女は素早く身を反らして回避。
攻撃をかわされたあたしにゼロコンマ数秒の隙が生まれ、
それを逃さずダガーで突いてくる。
「くっ……!」
無理に身をよじって命中は避けたけど、左腕を少し斬られた。
グリーンの袖に血の赤が染み出す。さすが暗殺者まがいだけのことはある。
あたしは次の攻撃を諦め、後ろに跳躍して敵と距離を取る。
フリーズは追いかけようとせず、
5本の指で曲芸師のようにダガーをくるくると回しながら、
ただ静かな視線でこちらを見ている。
「別に構わない。血を失えば動きが鈍る。そこを一突きすれば、全ておしまい」
確かにあたしには時間がない。そもそも今生きているのだって奇跡に近い。
動物的直感で無意識にクロノスハックを発動してなければ、
永遠に終わらない昼寝を続けていたと思う。
今だって油断はできない。短期決戦でフリーズを倒さなきゃ、
いずれ魔力が尽きて彼女の能力に飲み込まれる。どちらにせよ、死ぬ。
しびれを切らしたのか、単に仕事を早く終わらせたいのか、
フリーズが一歩一歩近づいてくる。なんとかしなきゃ。
焦りで首からミニッツリピーターを下げているチェーンに冷や汗が伝わる。
いやだわ、大事な時計が汗で汚れて……。
待って、そこであたしは何かの直感を覚えた気がした。
すごく分の悪い賭けになる。失敗すればやっぱり死ぬ。
だけど唯一の選択肢に贅沢は言ってられない。
考えているうちに再びフリーズが攻撃を仕掛けてきた。腕、首、胸、腹。
動脈や急所を的確に狙って、切り裂き、突き、刺してくる。
特殊警棒で応戦しながら避けるけど、細々した切り傷が増えていく。
フリーズは眉一つ動かさず、激しい連撃を浴びせてくる。
もう時間がない。意を決して実行に移す。
「食らいなさい!」
「なっ!?」
あたしは僅かなチャンスを作るため、
危険を承知で警棒を両手に持ちフリーズに体当たりした。
守りに徹していたあたしがいきなりタックルしてきて少なからず動揺したのか、
攻撃の手を止め大きく横に避けた。
一方あたしは正面にすっ転んだけど、気にしてる暇はない。
ミニッツリピーターの竜頭を2回押して、時計から魔力の供給を受ける。
ブルーに光る秒針が逆回転を始め、
戦闘開始から少しずつ消費されていた魔力が身体にチャージされる。
クロノスハックのスペックを改めて頭の中で計算。
秒速約900m前後のライフル弾が止まって見えるから、
同程度の性能を持つフリーズの能力を上回ることができれば、
圧倒的有利に立つことができる。できればの話だけど。
たらればを言っても仕方ないわね。
あたしは深呼吸をして、極限まで精神を集中する。
一切の雑念を捨て、空間と身体を一体化し、大気中のマナに身を委ねる。
脳内麻薬が一気に放出され、
まるで桃源郷を彷徨い歩くような病みほうけた意識に包まれつつ、
ひとつの願いを口にする。
──クロノスハック・新世界!
全てがモノクロになった世界で、何もかもが動きを止める。
これは超高速移動や空間低速化と言った擬似的なものじゃない。
今度こそ完全な時間停止。
あたしは脳で考えることをやめ、心のままに、
ホルスターのSingle Action Armyを抜く。
自分の感情すらかき消したまま、あたしは目の前いる女に銃口を向け、
ただ引き金を引いた。
聞き慣れた鋭い銃声。それと共に新世界は終わりを告げた。
次の瞬間には、あたしの能力もフリーズの能力も消え去り、結果だけが残る。
腕に.45LC弾を食らったフリーズの手からダガーが落ちた。
彼女は何をされたのか気づくのに時間がかかったが、
武器を失った事実、右手を動かせない事実、右腕が血まみれになった事実、
それぞれを順番に認識していく。
「あ…あ…、っあああああ!!」
必死に痛みをこらえるものの、額に脂汗を浮かべ激痛に座り込むフリーズ。
だけどあたしも無事ってわけじゃない。
意識がぐちゃぐちゃで気持ち悪いし、心臓も肩が揺れるほど激しく鼓動してる。
ピースメーカーを持っているので精一杯。
「どうしてっ……!私の能力の中では!」
「あんたの能力を更にあたしの能力で上書きしたの。
いつの間にこんな芸当覚えたのか自分でもわからないけど、
不審者識別用に使いまくってるうちにクロノスハックも成長したのかしらね」
「……確かに、あなたは普通じゃないみたいね」
利き腕を封じられたフリーズは左手でダガーを拾い、革製の鞘に収めた。
ああよかった。左で続きやりまーすとか言い出したらどうしようかと思った。
完全に魔力を使い切った状態でまた殴り合いするのはしんどいというか無理。
その時、どこからともなく2人の双子の女の子がトテトテと走ってきた。
彼女達は負傷したフリーズを見て驚いた様子で言う。
「お姉さん!フリーズがやられちゃったよ!」
「フリーズがやられちゃったよ!お姉さん!」
どこの誰だか知らないけど、双子のドレスも
フリーズのスーツと同じコンセプトで仕立てられてることがわかる。
いずれこの娘達とも戦うことになるのかしら。
「君達、だれ?」
「わたし達は、マルチタスクだよ!」
「マルチタスクだよ、わたし達は!」
「二人共……。安易にターゲットの質問に答えては、だめ」
「「は~い」」
「斑目里沙子。今日は、退きます。
我々に新たな障害が現れたと、報告しなければ」
「できれば二度と来ないでくれると助かるんだけど」
「私が来なくても、誰かが来る。あなたも私も、戦う以外に術はない」
あたしが何か言おうとすると、双子が手を取り合った。
すると、繋ぎあったふたりの手から黒い霧のようなものが吹き出し、
フリーズ達を包み込む。
突風が吹いて霧を運び去ると、そこにはもう誰もいなかった。
その後。あたしは教会に戻りダイニングでエレオノーラの治療を受けていた。
治療魔法を唱えた彼女の両手から温かい光が放たれ、
見る間に傷口が塞がり出血も止まる。
「もう大丈夫ですよ。破れた服は直しようがありませんけど」
「スペアが2着あるから問題ないわ。ありがとう」
「ま、まさか、里沙子さんと同じ能力者から襲撃を受けていたなんて……」
事実を知ったジョゼットが怯えた声を出す。
「だから気をつけろって言ったんだ。
偶然…何だっけ?新世界とやらが発動しなきゃ殺されてたんだろ」
「だってしょうごのいじょのいこ。気がついたらそこにいたんだもん。
あんただって呑気に水飲みながら固まってたんだからお互い様でしょう」
「それはそうだけどよう……。どうすんだ?これから」
「要塞からの、連絡はまだ」
「わかったことが少しだけある。
奴らは“スペード・フォーミュラ”って名乗ってる。
あと、悲しいことにまだまだ愉快な仲間達がいるってことも」
「それも、皇帝陛下に、伝えとくね」
「お願いね、カシオピイア」
本当、あたしが何をしたっていうのかしら。
運動会が終わってホッとしたのも束の間。
今度はダイヤだかクイーンだか訳のわかんない連中に絡まれる。
高田渡の“あきらめ節”でも歌って何もかも放り出したい気分だわ。
帝都近郊 スペード・フォーミュラ本拠地
マルチタスクによって彼らの邸宅に連れ戻されたフリーズは、
ソファに身を預けながらデリートの治療を受けていた。
彼女の様子を不安げに見守る仲間達。
マルチタスクはフリーズを使用人に預けると
さっさと自分の部屋で昼寝をしてしまった。
「痛つっ!」
「もう少しだから、我慢して。弾丸は消し去ったから。次は銃創を削除」
デリートの能力は、あらゆる事柄を“削除”するというもので、
戦闘に使えなくもないのだが、効果の発動がゆっくりなため
安全な場所で負傷した味方を治療する役目が主である。
「終わったよ」
「うん、ありがとう」
治療を受け、それまでの痛みが嘘のように引いたフリーズ。
彼女に三角帽子の男が歩み寄る。
「……具合は?」
「デリートが治してくれた。もう心配ない。それより大変なことが起こったの」
フリーズは里沙子との戦闘についてリーダーに語った。
それを聞いた彼は表情を変えずに思考を巡らす。
「ターゲットを変えたほうがいいんじゃないかと思うのだけど」
「いや……。斑目里沙子は先進三国の結び目に当たる人物だ。
共栄圏分裂を狙うなら彼女しかいない。
まだ始まったばかりだろう。諦めるには早すぎる。そのために俺達は集められた」
リーダーは振り返り、治療の様子を見ていた味方達を眺める。
彼の視線に身を固くする者、ただヘラヘラ笑う者、
他人事のようにどこかを見つめる者。
三角帽子の男は誰を動かすか、次の一手を考えていた。