面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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生クリームがいくら混ぜても喧嘩売ってるのかと思うくらい泡立たなくて腕が痛いの。

サラマンダラス要塞 医務室

 

「ぐふっ、げほ!ぜえ…はぁ…」

 

ここサラマンダラス要塞で、

一人の囚人がベッドの上で最期の時を迎えようとしていた。

全身の熱傷が壊死を起こし、細菌が体内に回り、高熱が止まらない。

軍医や看護婦も可能な限りの処置を施しているが、彼の死は時間の問題だった。

 

「先生、このままでは」

 

「うん。まあ、解熱剤を投与。それでダメならもう無理だ」

 

軍医は看護婦にやる気なく指示を与える。

殺すぞクソ野郎。スラッシュは朦朧とした意識の中で毒づく。

だが、それが彼らに聞こえるはずもなく、

ただ歪んだ天井を視界に入れるだけだった。

 

「おじゃましま~す」

 

その時、のんびりした女の声と共に、異様な存在が医務室に入ってきた。

真っ黒なローブに身を包み、大きな鎌を持った女。

ブロンドを両サイドで時代遅れの縦巻きカールにした間抜けな格好だ。

成人しているようだが歳は若く見える。だが、それは若々しいというより

心に幼さが残っていると言ったほうがしっくり来る。

 

「だれだ…てめえ……」

 

喘鳴交じりの声は誰にも届かなかった。

こんな妙ちきりんな奴が入ってきたのに、軍医も看護婦も気づいている様子がない。

 

「こんにちは!私、死神のポピンスです。あなたを迎えに来ました!」

 

「なんだ、おまえも、イカれてんのか……」

 

ポピンスは答えることなく大きく膨らんだ袖から手帳を取り出し、ページをめくる。

そして何かを見つけると嬉しそうに笑った。

 

「よかったー。確かに今日はあなたの命日です!

今回は所長やパパ上様に怒られなくて済みました」

 

そう言うと彼女は大鎌をジャキッと構える。巨大な刀身がぎらりと光った。

 

「や…めろ……」

 

「大丈夫ですよ~。わたしのご案内は痛くないって評判なんです。

まぁ…冥界へ渡った後については保証できませんけど。

では早速ですが、逝きましょうか」

 

「……くそっ、たれ」

 

死神はその鎌を振り下ろす。こうして、ひとつの命が連れ去られていった。

 

 

 

 

 

サラマンダラス帝国147代皇帝、ジークフリート・ライヘンバッハは

火竜の間にある彼の玉座に深く腰掛け、瞑想をするかのように目を閉じ、

彼を悩ませている不可解な現状への対応策を模索していた。

人払いをしてまで皇帝自らが思案しなければならない懸案事項とは。

 

事の発端は半月前に遡る。

3年ぶりの国際会議が2ヶ月後に迫り、サラマンダラス要塞でも軍の幹部達が

スケジュール調整や警備体制の確認、要人の移動ルート確保など、

主要4カ国の代表を迎える準備に追われていた。

 

もちろん皇帝も彼らに全て任せきりにしていたわけではない。

幕僚と共に会議の議題、現行の条約に関する更新手続き、

貿易協定等について意見を交わし、最終段階の調整に入っていた。

 

そこで起きたスラッシュと名乗る男による連続殺傷事件である。

犯人は皇国の放ったスパイで、斑目里沙子の暗殺を命じられたという。

確かに最近の彼女は帝国初の運動会で優勝したことの他、

目立った活動はしていなかったが、トライトン海域共栄圏の立役者である。

いわば、共栄圏設立後初の国際会議におけるキーパーソンの一人だ。

 

幸いスラッシュは何者かによって瀕死の重傷を負わされ捕縛されたが、

仮に彼女が殺害されていれば、

三国の同盟に修復不能な亀裂が走っていたことは間違いない。

なぜなら、それはいずれかの国が共栄圏の存在を目障りに思い、

破壊を目論んでいたことに他ならないからだ。

 

カシオピイア少尉の報告によると、その後もフリーズという名の工作員が

再び里沙子の殺害を試みたが、返り討ちに遭ったという。

工作員は仲間と見られる二人組の能力で逃げ去ったようだが、

これで組織ぐるみの犯行であるということが確定した。

スペード・フォーミュラ。それが正体不明の集団の名前らしい。

 

しかしながら、国を挙げて攻撃者の捜索を行うこともできない。

スラッシュは自らを皇国の差し金と自称したが、

今度の一件を彼の国の謀略と断定する証拠は何もない。

国家転覆を企む無関係な過激派の仕業である可能性もあるのだ。

 

もしそうであれば、痛くもない腹を探られた皇国の沙国に対する感情は

著しく悪化する。今後の外交に大きな影を落とすことは避けられないだろう。

それこそ共栄圏の崩壊に繋がる。

 

その時、緊急連絡用の音叉が震えた。

懐から取り出すと、紫に色づいた音波を放っている。皇帝は音叉に話しかけた。

 

「何事か。……ふむ、そうか。わかった、病死だな。後は任せる」

 

彼らに繋がる手がかりが消滅した。もうこちらから打てる手はない。今の所は。

 

「ならば」

 

内々に処理し、つつがなく国際会議を終える以外に方法はない。

本作戦には彼女が適任であろう。ちょうど里沙子嬢とも懇意にしている。

皇帝は左腕の手甲を右手の人差し指で弾いた。

希少金属が放つ美しい音色が火竜の間に響く。

 

すると、外から足音も立てず何者かの気配が近づき、

あえてノックをせずドアを開いて中に滑り込むように入室した。

女性用の軍服姿の彼女が敬礼して口を開く。

 

「お呼びでしょうか、陛下」

 

「情報官マリー。まずは楽にして聞いてほしい」

 

そして皇帝はマリーに指令を下した。

彼女はガラクタ屋の店主を務めている間は決して見せない真剣な表情で聞き入る。

 

「……概要は以上だ。具体的情報に乏しく、難しい任務になることが予想される」

 

「お任せください。

これよりスペード・フォーミュラの無力化及び背後関係の捜索に着手します」

 

「急かすようで済まないが、時間がない。国際会議の開会がタイムリミットだ。

国内に各国首脳が入国すれば、連中は彼らにターゲットを変えるだろう。

我が国で諸外国のトップが暗殺されたとなれば、外交問題どころでは済まなくなる」

 

「承知しました。

まずは敵の襲撃が発生したハッピーマイルズで情報収集を行います」

 

「うむ。我輩も協力は惜しまぬが、帝国の未来が貴官の手腕にかかっている。

頼んだぞ」

 

「はっ。速やかに、確実に、必ず結果を持ち帰ります」

 

マリーは再び敬礼すると、足音を殺しつつきびきびとした足取りで去っていく。

 

「まだ16、か……」

 

彼女の後ろ姿を見送った皇帝は、複雑な気持ちで短い独り言を漏らした。

 

 

 

 

 

タイトルにも書いたと思うんだけど、

奴が背伸びして回りくどい文章を考えてる間、あたしも苦労してたのよ。

あんまり退屈だったんで、お菓子作りに手を出したのが運の尽き。

昔ジョゼットが買ったレシピ本に

チョコレートムースの簡単な作り方が載ってたから、

材料買い集めて調理を開始したの。

 

最初の方はうまく行ってたのよ。

チョコレートを湯煎して、生クリームをそのまま投入して混ぜる。

だけど次のステップで膠着状態なの。そう、生クリームが泡立たない。

かれこれ30分は泡立て器をかき回してるんだけど、一向に固まる気配がない。

ちょっとだけとろみは出てきたんだけど、それきり変化が見られないのよ。

泡立て器を持ち上げて粘り気を見る。全然ダメ。

9分立てどころか1.5分立てがいいとこ。

 

天地神明に誓って言うけど、あたしはなんにも間違ってない。

生クリーム自体も、ボウルも、泡立て器もあらかじめ冷温庫で冷やして、

ちゃんと“氷せん”しながらガシャガシャと

妙に値段の高い生クリームを混ぜてたの。

 

「ああ、腕が痛い!」

 

「里沙子ー、お菓子まだ~?」

 

ピーネがお子様用椅子に座ってぶーたれる。

隣ではパルフェムがあくびをしながら待ってる。

もひとつおまけに、その他のメンバーも全員揃ってる。

そういやあたし、なんでこんなことしてんのかしら。

前回、フリーズとかいう女に殺されかけて、

スペードなんとかっていう連中に狙われてるのがわかったってのに。

 

ルーベルに言われたように危機感が欠如してるんだと思うけど、

変人相手に切った張ったの生き方してるうちに

人間が本来持ってる危機意識が麻痺してしまったのかもしれない。

そう言えばこの世界での生活も何年になるのかしら。

この企画はサザエさん時空だから何年経とうと何も変わらないんだけどさ。

……無駄話はここまでにしてピーネに返事をしましょうか。

 

「苦情ならボウルの中の怠け者に言ってよ。それに、仕込みが終わっても

どのみち丸一日冷やさなきゃいけないから今日は食べられないわよ」

 

「えー!何よそれ!」

 

「残念ですわね。バレンタインでもないのに

お姉さまの手作りお菓子が食べられると楽しみにしていましたのに」

 

「今日完成させるなんて一言も言ってないから。味も保証できないから。

わかったら全員お部屋に帰る!

この腕がつりそうなほどしんどい作業を代わってくれるなら話は別だけどぉ?」

 

「チェー、つまんねえの」

 

「仕方がありません。明日まで待ちましょう」

 

「里沙子さん、夕食までにはキッチンを空けておいてくださいね」

 

「菓子作りもよいが、お線香も忘れないでほしいでござる」

 

「……頑張って」

 

本当に帰りやがった。

他の連中はともかく、カシオピイアにまで見放されたのは地味にショックだった。

途方に暮れるあたし。溶けた氷がカランと音を立てる。

どうしよう。こんなペースじゃ冗談抜きに日が暮れる。

中途半端に工程を進めてしまったから中断することもできない。

 

 

トントントン お~い、リサっち~

 

 

本日のドアノックが来たわ。この声はマリーね。

あの娘からうちを訪ねてくるなんて珍しいこともあるもんだわ。

でも気分を変えたかったからちょうどよかった。

あたしは安全な来客を出迎えるために聖堂へ向かう。

玄関ドアを開けると、いつものカラフルなロングヘアが

トランク片手に笑顔で立ってた。

 

「にへへ~」

 

「マリーじゃない。今日はどうしたの?上がって」

 

「突然だけど、お金は欲しくないかな~?」

 

「帰れ」

 

ドアを閉めて鍵をかける。すぐさまマリーがドアを叩きまくる。

当然開けずにドア越しに話だけ聞いてやることにした。

 

ドンドンドン!

 

“開けてよリサっち~!”

 

「帰れって言ったはずなんだけど」

 

“さっき言ってたでしょう?マリーさんは「安全な来客」だよ!開けて~”

 

「心を読むなー!会っていきなり金の話する奴のどこが安全なのよ!

あんたのことは信用してたけどガッカリだわ!」

 

“とうとうお金まで信じられなくなったなんて、マリーさんもガッカリだよ!

ほら、ドアを開けるだけでこの金貨袋いっぱいのお金がリサっちのものに!”

 

「あのねぇ、世の中何の労働も見返りもなくお金がもらえるなんて

虫のいい話があるわけないでしょう。

タダより高いものはない。必ず後で何か要求されんの。

あたしだっていい大人なんだからそういう社会のシステムは理解してるわよ。

24舐めんな」

 

“むむむ。こうなれば強硬手段に出るしかないなぁ”

 

「面白いじゃない。どうするつもりなわけ?」

 

さすがにマリーに腰のベレッタをぶっ放すつもりはないけど、

あ、今日は気分的にベレッタ93Rね。

とにかくやり合う気はなかったから、どう出るのか観察だけ続けてたの。

そしたら鍵の辺りからカリカリと嫌な音が。デジャヴに見舞われる。

そう言えば、カシオピイアがここに来たばかりの頃、

なんか似たようなことがあった気が……

 

「おひさ~!マリーさん2度目の登場だよ!」

 

複雑なロックをピッキングで解錠し、

勝手にドアを開けたマリーが元気よく手を挙げながら入ってきた。

 

「あああんた、何やってんのよ!熟練の盗賊でも手こずる厳重ロックが……!」

 

「話だけでも聞いてほしいな~。リサっちにも関係あることなんだからさ。

ほい、金貨」

 

マリーが恐らく金貨の詰まった重そうな袋を押し付けてくる。

思わず身を引くあたし。

 

「タダより高いものはないって言ったじゃない。触りたくないわ」

 

「……スペード・フォーミュラ」

 

そうマリーが口にすると、馬鹿話の雰囲気が一気に静まり返った。

いつの間にか彼女もニヤけた表情を引っ込めあたしを見てる。

 

「ここじゃなんだから、奥で話しましょう」

 

「やった~。侵入成功!」

 

でも、ダイニングに戻るとあたしをうんざりさせる物と再度対面することになった。

 

「ああ……。こいつの存在忘れてたわ。マリー、悪いけど茶は出せない。

こいつが片付かないとキッチンが使えないの」

 

「どったの先生」

 

「退屈極まったから気まぐれにお菓子作りにチャレンジしたんだけど、

生クリームが固まらなくて困ってるの。

9分立てにしたくてかれこれ40分以上かき混ぜてるのに、ムカつくほど変化がない」

 

「ほう!?リサっちが女の子らしい趣味に目覚めたとはマリーさん驚きだよ」

 

「趣味にはならない。もうやらないから。

“初心者向け”カテゴリーがこんな面倒なら、

他のレシピだって厄介者揃いに決まってる」

 

「そりゃもったいない。貸してみ?」

 

「あんたがやってくれるの?助かるわ。

正直諦めて液体状態のままチョコにぶち込もうかと思ってたから」

 

マリーにボウルを託すと、彼女は左手でボウルを固定し、右手で泡立て器を持つ。

すると次の瞬間、右手の手首を使って物凄い速さで生クリームを混ぜ始めた。

横で見てたけど、泡立て器の残像が見えるくらい。

生クリームはものの数分でネットリした状態に変化。

持ち上げてみると、しっかりした角が立つ。

 

「凄いわねー!あんた料理の才能もあるんだ」

 

「生クリームの泡立ては素で時間かかるし、初心者はつまづきやすいよね~。

今度からはレモン汁を入れると簡単だよ。一発で固まる。

ただし調子に乗って混ぜすぎると10分立てまで行って元に戻らなくなるから注意ね。

マリーさんとの約束」

 

「ありがと!後はチョコと混ぜて型に流すだけだから、座って待ってて」

 

「最後まで付き合うよ。もうこっちのボウルや泡立て器はいらないから洗っとく」

 

「悪いわねぇ、すぐ終わらせる」

 

完成したクリームをチョコレートの液と混ぜ、

料理用の油紙を貼ったケーキ型に流し込むと、ラップ代わりに適当な皿で蓋をして

冷温庫に保存した。明日には立派なチョコレートムースになってる。と思う。

あたしも洗い場に戻って皿を洗い始めた。自然とマリーと並ぶ形になる。

 

「……さっきの話だけどさ」

 

「ん?」

 

「リサっち狙ってる連中」

 

「ああ、あいつらね。スラッシュは誰かに半殺しにされて、

フリーズはバージョンアップしたクロノスハックで返り討ちにできたんだけど、

やっぱまだたくさんいるみたい。本当、やんなっちゃうわ」

 

「そのスラッシュだけどさ、ずっとリサっちにやられたって言ってるんだ~。

なんか心当たりない?」

 

「ないない。誰かと間違えてるんじゃない?アホそうな顔だったし」

 

「そっか。なら本題に戻るけどさ」

 

カチャカチャと二人で食器を洗いながら

今のあたしを取り巻く状況について話し合う。

 

「皇帝陛下からの指令で“私”がこの件を片付けることになったんだー。

それには当事者のリサっちの協力が必要」

 

「それでさっきの袋ってわけね」

 

「うん。正確にはそれプラス生活費」

 

「なるほど、生活費ね。……生活費!?」

 

ノリツッコミじゃないわよ。

突然意外なワードが飛んできたからうっかりスルーしてしまった。

 

「今回の作戦にはリサっちの護衛も含まれてる。

だから今日からマリーさんもここに住むよ!」

 

「いや、ちょっと待ってよ。急にそんなこと言われても……。お店はどうすんの?」

 

「客が来る日の方が少ないから一月くらい閉めても平気だよ」

 

「そうは言ってもねえ……」

 

「もしかして、嫌?マリーさん寂しいな~。ヨヨヨ」

 

「そーじゃなくて。どうしましょう、ベッドとか……」

 

その時、2階から下りてきた住人が驚いて声を上げた。

 

「マリー情報官!どうしてこちらに!?」

 

カシオピイアだった。マリーを見てお仕事モードになってる。

 

「あ、ピア子じゃん。久しぶり~。元気だった?」

 

「本拠点は異常ありません。こちらには任務で?」

 

「そんなとこ。今日からしばらくここで厄介になるからよろしくね」

 

「はっ。差し支えがなければ、作戦概要についてお聞かせ願いたいのですが」

 

カシオピイアは自分ちでも律儀に敬礼する。

 

「もちろん。後でこの家の皆さんが集まったら説明するね~」

 

マリーは冷静になるための時間すらくれずに話を進める。

 

「待ってよ待ってよ。段取りとか考えてる途中なんだから」

 

「お姉ちゃ…姉さん。情報官が出動する案件は急を要する場合が殆どですので、

どうか積極的な協力をお願いします」

 

「う、うん。わかった。カシオピイアが言うなら。後のことは後で考える」

 

「やったー!ピア子ありがとう!

またキミと一つ屋根の下で生活するなんて、訓練生時代を思い出しますなぁ」

 

「どうしたんですか、なんか賑やかですけど」

 

晩飯の準備に出てきたのか、今度はジョゼットが下りてきた。

 

「あ、ガラクタ屋さんの店長さんですよね。こんにちは!」

 

「こんちゃー!キミに会うのもいつ以来だっけ。とにかく今日からよろしくー!」

 

「今日から?どういうことでしょう」

 

「あー、夕食の時に説明するから、今日から飯は一人分多く作って。

キッチンは片付けた」

 

「はぁ…とにかく夕飯に取り掛かりますね」

 

ジョゼットは頭にハテナマークを浮かべながらも、

冷温庫からキャベツを取り出して包丁で一気に半分にした。

 

 

 

それから6時を回った頃。マリーをメンバーに加えて夕食。

食べる前にあたしからみんなに彼女について説明した。

本人はニコニコしながらミネストローネを嗅いだり、

ボロいダイニングを見回したりしてる。

 

「知ってる人も多いだろうけど、彼女はマリー。

ハッピーマイルズの街でジャンク屋やってる。

最近頭のおかしい連中が立て続けに押しかけてきてるでしょ?

彼女と一緒に奴らに対処することが決まって、

しばらく一緒にここで暮らすことになったから、そこんとこヨロシク」

 

「マリーで~す!よろしく」

 

「ガラクタ屋の姉ちゃんじゃねえか、しばらくぶりだな。歓迎するぜ」

 

「確かマリーさんは軍人でもあるんですよね。

ここいてくださるなら安心できます~」

 

「言っとくけど、ミサとかで彼女のこと触れ散らかすんじゃないわよ?

表向きにはただのグータラ店主ってことになってるんだから」

 

「あはは、グータラ店主はひどいなぁ。その通りなんだけど」

 

「ピーネも、わかったわね?」

 

「この人のどこが“ただの”店主なのよ。見てるだけで目がチカチカするんだけど」

 

「こら!」

 

「この家の人は手厳しいよ。皇帝陛下に言いつけてやる~」

 

「ふふ、お姉さまのお友達は楽しい人ばかりですね。

初めまして、パルフェムですわ」

 

「はじめまして!マリーさんはマリーだよ。よろしくねー」

 

そう言えば、パルフェムが彼女と会うのは初めてだったわね。

 

「わざわざ来てくださってありがとうございます。頼りにしていますね」

 

「聖女様も護衛対象のひとりだから気にしないでくださいよ。

事が終わったらまた店に寄ってくださいな」

 

「ええ是非。マリーさんのお店は興味深いものがたくさんありますから」

 

「あ、そうだ。2階にオバケが住んでるんだけど見かけても驚かないでね。

いつも寝てるからあんまり見ないし、害もないから」

 

「オッケー。了解っす!。……あれ、それって前にうちに来なかった?」

 

「あー……はいはい。そういや、死神と戦った時にあんたもいたわね。

あの娘存在感も薄いからすっかり忘れてた」

 

「自己紹介も終わったところだし、そろそろ食おうぜ。

私はいいが、せっかくの夕食が冷めちまうだろ」

 

小皿に盛ったグリーンサラダしか食べないルーベルが皆に促す。

 

「そうね。お祈りはやりたい人がセルフサービスで。……いただきます」

 

「「いただきます」」

 

こんな感じで今日は結局敵襲もなく割と穏やかに過ごせたわ。

マリーが来たのはびっくりしたけど、新たな戦力になってくれるって話だし、

結果的にはプラスだと思う。

あたしは最初の一口をチキンの香草焼きに決めて、夕食を食べ始めた。

 

 

 

 

 

帝都近郊 スペード・フォーミュラ 本拠地

 

夜の帳が下りた頃、彼らは沈黙していた。

邸宅の玄関ホールには女性のすすり泣く声だけが響く。

溢れ出る涙をこらえようとしてもその雫が床を濡らす。

 

「くっ…うう……。間に合わなかった。私のせいで!」

 

フリーズは床に座り込みながら、ただ自分を責め続ける。

デリートも何も言わずに彼女の背を撫でている。

泣き崩れる彼女のそばに、三角帽子の男が静かに立った。

 

「すぐ戻るって言ったのに……。必ず戻るって約束したのに!」

 

「あなたのせいじゃないわ。……ごめん。こんなこと言っても意味ないよね」

 

「私が、負けたから!」

 

男は黙って手を差し出す。フリーズは握りしめていた紙を手渡した。

 

《連続殺傷事件 犯人死亡 死因は熱傷による感染症の疑い》

 

新聞の見出しに目を通すと、男はまた彼女に何かを求めるように手を伸べる。

 

「ダガーを」

 

フリーズが鞘からダガーを抜いて、男に手渡す。

短刀を受け取ると、男はホール中央にある巨大な時計台の台座を前にする。

 

そして、左頬の古傷にダガーの刃を滑らせた。

男は血に塗れたダガーで、台座に”SLASH”と同士の名を刻んだ。

 

「……大統領への連絡は、俺がする。お前達は、指示を待て」

 

彼はしばらくそれを見つめていたが、メンバーの誰かの声が沈黙を破った。

 

「スラッシュは殺された。感染症なんかじゃない。軍の拷問で死んだんだ……!」

 

「ならば攻め方を変えよう。レプリカ、次はお前に頼むことになるだろう」

 

「任せろ」

 

黒のタキシードにマントを羽織った男はそう答えた。

 

 

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