さて、ボス戦に入る前に前回のクイズの答え合わせをしましょうか。
正解は、TVゲーム“バイオハザード”より、バリー・バートンでした。
44マグナムが愛銃の彼はその後のシリーズにも時々登場する頼りになる存在よね。
1作目発売当時、火炎放射器でプラント42と戦う彼の勇姿をCMで見た瞬間、
神ゲーであると確信したあたしは親にPSをねだったんだけど買ってもらえなかった。
懐かしくもほろ苦い思い出よ。
こんなクイズを仕込んだ理由に
もうすぐBIOHAZARD RE:3が発売だという事情は全く関係ないわ。いつもどおりの気まぐれよ。
あたしはカプコンの回し者では断じてない。
それはさておき、正解者には約束通り20ポイント差し上げるわ。
10000ポイント貯めた方にはもれなくうんざり生活出演権をプレゼント。
達成した方はmadarame■unzari.com(■を@に変えてね)まで連絡をちょうだいね。
じゃ、脱線はこれくらいにして本編に戻りましょう。
狂腐王ヘルゼラトプス。
センスもへったくれもない名前だけど、舐めてかかれるほど甘くはなさそう。
紫色に腐った唇は大きく横に裂け、岩のような歯で噛みつかれたから即死は免れない。
歯の隙間からシューシューと悪臭を放つ吐息が漏れ、巨大な目玉は白く濁っている。
腹の奥から燃えたぎるマグマのような唸り声が絶えず聞こえてくる。
一時共闘戦線を結んだあたしとジ・エンドも武器を構えて決戦に望む。
帝国軍は突然現れた巨大な化け物に驚いているようで陣形を整えるのに手間取ってる。
しばらくあたし達が時間を稼ぐしかないみたいね。
ゾンビゲーなら間違いなく“マグナム”に分類される特大拳銃、Century Arms Model 100を構えて
ヘルゼラトプスの顔面に照準を合わせる。
軽く息を止め、銃身が揺れないよう、引き絞るようにゆっくりトリガーを引く。
ハンマーが45-70ガバメント弾のプライマーを叩き内部の炸薬を爆発させると、
ライフル用の強力な弾丸が大気を震わす銃声とともに螺旋を描きながら飛び立ち、
文字通りの豚っ鼻に突き刺さった。
『ぶぎゃおおおおん!!』
命中。腐敗して脆くなっている肉体が鼻と周辺の肉を粉砕して十分過ぎるほどの負傷を負わせた。
ヘルゼラトプスが激痛で太い4本足をジタバタさせながら絶叫する。
「ふふん、どうよコレ」
隣でレミントンM870にバックショットを装填しているジ・エンドに
黄金銃を自慢してみる。
「油断するな。奴はしぶとい」
ジ・エンドがフォアエンドを引き装填を完了し、あたしと同じく豚の化け物と相対する。
「わかってるわよ。これから一気に……」
「いや、わかっていない」
「え?」
彼が見つめる先にはあんまり知りたくない現実が待っていた。
狂腐王の破壊した部位が意思を持ったミンチのように蠢き、再生を始めている。
「うわぁ……これってある程度ダメージを与えて
露出したコアを破壊しろとかそういう系のやつ?」
「コアか。そんなものがあればいいのだが。奴に関しては俺もよく知らない。あの二人しか」
「そう言えば勢いで撃っちゃったけど、上の子供達大丈夫?
あんなところにいたら流れ弾食らうわよ」
「マルチタスクに守られている。彼女達の能力のひとつ、
「良くも悪くも気兼ねなく撃ちまくれるってわけね。本当、後で再教育頼むわ」
「ああ。俺が責任を持つ」
あたしはうんざりしながら背中にぶら下げていたもう1丁の大型銃器、ヴェクターSMGを抜き、
再度攻撃の準備をする。
ストックを展開して肩に当てて銃身を安定させ、サイト越しにヘルゼラトプスを狙う。
一方ジ・エンドも攻撃を開始。彼は濁った眼球を狙い、集中的に散弾を浴びせる。
数発に渡るレミントンM870の鉛玉を食らい、バシャアン!とヘルゼラトプスの右目が破裂。
またも怪物の悲鳴が上がる。
これにはとうとう奴も怒ったのか、前脚で助走をつけ、あたし達に向かって突進してきた。
「あばば!勘弁してよ!…って英語でどう言うんだったっけ!?」
たまらず攻撃を中断したあたしは後ろに全力疾走して逃げる。
背後からドスンドスンと大きな足音が迫る。
追いつかれる!地面に散らばる棒に邪魔されるのを承知でクロノスハックを発動。
やっぱり敵の動きは完全には止められなかったし魔力の消耗が激しいけど、
スピードは格段に落ちた。
どうしよう、どこに逃げる!?とりあえずあたしはジ・エンドのそばに戻った。
少なくとも心細くはなくなるからね!
ヴェクターを構え直してクロノスハック解除。
あたしの高速移動にも驚くことなく彼はショットガンで狙いを定めながらぼそりと一言。
「……”Give me a break.”だ。頻繁に使う慣用句だから忘れるな」
「あなた英語の先生?」
「元、だが」
「英語で敵が殺せたら素敵なのにね」
「少なくとも一個大隊並の働きをする自信はある」
軽口を叩き合いながら各自攻撃を再開。
クロノスハックのスピードについてこれず、その巨体で急ブレーキをかけたため
その場で硬直状態になった隙を狙って弾丸を浴びせる。
ヴェクターSMGがばら撒く10mmオート弾で豚のゾンビの横っ腹が瞬く間に穴だらけになり、
ショットガンの面攻撃で今度は左目が破壊される。
豚の王がガラガラとした声で叫ぶけど、まだコアらしきものは見えない。
元々そんなもんがある保証もないんだけど。
『ぎゃぶおおおおぉん!!』
ヘルゼラトプスがまた苦しそうな雄叫びを上げる。耳が痛いわ。
ダメージ自体は通ってるみたいなんだけど……なんか様子が変ね。
一度攻撃の手を止めて奴の出方を見る。
その時、帝国軍の攻撃準備が整ったらしく、大勢のカービン銃を持った兵士が隊列を整える。
《砲兵隊前へ!総員、構え!射撃用意……撃てー!》
指揮官の号令とともに、軍隊がひとつのマシンガンとなったかのような一斉射撃が行われる。
横一列にマズルフラッシュが並び、
一拍置いてヘルゼラトプスの巨体にブスブスと穴を開けていく。
人海戦術バンザイね、このまま行ける?と思ったその時、怪物がもう一鳴きし、
後ろ足で立ち上がって大きく息を吸った。
ヴオオオ…と空をまるごと吸い込むほど大量の空気を肺に収める。
なんか嫌な予感がするんだけど!?そう考えた次の瞬間、ヘルゼラトプスが前脚で着地。
奴の重量で殴られた地面から足にビリビリと振動が伝わるけど
問題なのはそんなことじゃなかった。
着地と同時に毒々しい黒と緑が交じったガスが広範囲に渡って兵士達に吐きかけられる。
やっぱり臭い。砲兵隊も後退。だけど様子がおかしい。
《退却、退却せよ!ううっ…あああ、があああ……》
ガスを浴びた兵士の皮膚が急速に腐敗し、全身に腫瘍が現れ、眼球も奴と同じく白濁。
目や鼻から大量に出血し、苦悶の声を上げながら間もなく兵士達は倒れていった。
「ちょっ、何あれ!毒ガスとか最悪なんだけど!」
「最悪というにはまだ早い。間に合わなかったか……!」
「どういうことよ!?」
「俺達も下がるぞ。あれに触れると助けようがなくなる」
「お断りよ!あたしの妹があの中で戦ってるの!ここに残って速やかにとどめを刺す!」
「あれが見えないのか!」
ジ・エンドが指し示した方を見ると、死んだはずの兵士が何やらもぞもぞと動き出し、
頼りない足取りで立ち上がった。そして。
『ゔゔゔ……きぃえああああ!!』
「わあ!何をする!何を…ぎゃあああ!ああ!ひぎあああ!」
周囲の味方に噛み付いた。不意を突かれた兵は地面に組み敷かれ、生きる屍に食い殺される。
あちこちで悲鳴が上がり、ガスから逃れた兵士はさっきまで味方だったゾンビを撃ち、
ゾンビは獲物を求めて生き残りに喰らいつくという悲惨極まりない光景が生まれる。
「躊躇うな!変異した者は射殺せよ!陣形、再構築!」
『あぐおおお!!』
同士討ちを始めた帝国軍に対し、落ち着きを取り戻したヘルゼラトプスが
再度巨体を揺らして体当たりを食らわせ、部隊は壊滅状態に陥る。
雪の白で染め上げられた大地が、見る間に血と肉片で赤に変わっていく。
「何なのよこれ……」
悪化する一方の戦局。
狂腐王が息を一吹きしただけで帝国軍はゾンビの群れとなり、倒す方法も見つからない。
どうすりゃいいってのよ!
もたもたしていると、ゾンビの一団があたし達を見つけて食欲の赴くままに殺到してきた。
「応戦するぞ」
「あたし、あんたと戦いに来たはずなんだけど!」
本当にバイオハザード状態だわ、こりゃ。
ゾンビになって銃の撃ち方も忘れてしまった哀れな兵士が、
両腕を伸ばしてあたし達を捕らえてかぶりつこうとしてくる。
ジ・エンドは慣れた手付きで射撃、排莢、リロードを繰り返し
ショットガンの威力と射程を最大限に活かせる中距離で戦い、
あたしは彼らの中に妹の姿がないことを祈りながらヴェクターSMGでバースト撃ちを行い
なるべく頭部を狙って致命傷を与え手早く数を減らす。
いつしか背中合わせになって戦っていると、上から声が聞こえてきた。
「お姉さん、きっと勝てるよ」
「きっと勝てるよ、お姉さん」
暴れるヘルゼラトプスの上でそんな惨状を悠々と眺めるマルチタスク達。
頭に来たあたしはゾンビの襲撃の切れ目を見計らって、
2人に躊躇いなくピースメーカーを放ち注意を引きつける。
銃弾は見えない力に弾かれたけど、あたしに目を向けさせるには十分役に立ってくれた。
ジ・エンドが止めに入るけど知ったこっちゃない。
「何をしている、やめろ!」
「お姉さん、斑目里沙子だよ」
「斑目里沙子だよ、お姉さん」
「こらー!クソガキ共!いい加減になさい!自分が何してるかわかってんの!?」
「ちゃんと言われたとおりにしたよ?わたし達は」
「わたし達はちゃんと言われたとおりにしたよ?」
「言われた通りですって?ルビアの大統領がそうしろって?バカも休み休み言いなさい!
正体もバレてここまで大事になった時点で、とっくにあんたらのミッションは失敗してんのよ!」
ピースメーカーの銃口で後ろの惨状を示す。
悲鳴やうめき声の中、ゾンビや兵士が入り乱れて食い合い、撃ち合い、殺し合う。
こっちに向かってきたゾンビは粗方片付けたけど、決して喜べる状況じゃない。
「ほっといて!それでも私達は諦めるわけにはいかないの!大統領のために!」
双子じゃない、銀髪の女の子が代わりに答えた。
「なんでそこまで大統領に義理立てすんのよ!
大勢の人間を巻き込んで、何人も殺して、それで何が残るって言うの!?」
「あなたにはわからない!始めから恵まれていたあなたには!
全部のアース人があなたのように英雄としてチヤホヤしてもらえるわけじゃない。
この世界じゃ地球人を便利な道具としか思ってない奴らが大勢いて、
身寄りのない皆を貧しい環境で飼い殺しにしているの!
でも大統領は私達を助けて、戦う方法を教えてくれた!だから今度は私達が大統領を助けるの!」
「多少扱いがリッチなだけで、あなた達も飼い殺しにされてることがわかんない!?」
「うるさい!凍える寒さで死にかけたことのないあなたなんか!!」
「あたしだってここんとこ毎日寒さでベッドから出られないわよ!」
「もういい、里沙子」
気づかないうちに大声を張り上げて言い争っていたら、
ジ・エンドがそっとあたしの肩を引いて前に出た。去り際、彼はレミントンをあたしに渡す。
思いがけない行動に手を滑らせて銃を落っことすところだったわ。
「確かに、俺の教育不行き届きだった。こいつを返そう」
「えっ。ちょっとちょっと、戦いはまだ終わってないのに!」
「ああ。だから、“終わらせる”」
そりゃ、四方からの攻撃に晒されたヘルゼラトプスは
まだ再生に時間がかかっているようで傷口を蠢かせながら停止してるけど……
「あなたの能力で?でもそんなことできるなら最初から軍を帰らせればよかったでしょう。
変な棒が邪魔してるから無理なんじゃない?」
あたしの疑問には答えず、ジ・エンドは子供達に呼びかけた。
「デリート、マルチタスク。俺達のせいでお前達の人生を狂わせてしまった。
だが今なら間に合う。お前達だけなら」
「先生まで何を言ってるの!?」
「この国の君主は人道主義者と聞く。
今投降すれば、子供であるお前達に対する処置は考えてもらえるだろう」
「いやよ!帰るなら先生もみんなも一緒!里沙子を倒してルビアに帰るの!」
「違う。俺は、行けない。……里沙子」
「何よ」
「残念ながら、奴にコアなど存在しないようだ。後を…彼女達を頼む」
背中で語るジ・エンドの身体から黒いオーラが静かに立ち上る。
止める間もなく彼はヘルゼラトプスへ向けて駆け出していた。
「待ちなさい!あんた一人でどうするつもり!?」
「いいか!?俺が能力を発動したら全力で撃て!弾が尽き奴が細切れになるまで!」
「あんたまさか!」
「おおおおお!!」
狂腐王に体当たりするように組み付いたジ・エンドは、雄叫びを上げ
両手を潰れた右目に突っ込んだ。
彼の魔力がこれ以上ないほどに放たれ、周囲に烈風を巻き起こす。
「ジ・エンド!」
「奴の再生を強制的に終わらせた!今だ、撃て!」
『キャオアアア!オオオン!』
ヘルゼラトプスが苦痛にもがき苦しむ。
中途半端なところで再生が止まり、負傷箇所が塞がらない。
これなら残りの体力を削りきれば奴を倒せる!
あたしは再びヴェクターSMGを構え、暴れる銃身を全身で抑えながら
フルオートで弾丸の連射を叩き込む。殺意を体現するかのような暴力の連続。
高速で排出される空薬莢までがぶつかり合い激しい金属音を響かせる。
高い再生能力と引き換えの肉体の脆さが銃弾の嵐に耐えきれず、
10mmオート弾が食い込む度に大きな肉片がこそげ落ち、紫の体液が吹き出す。
2マガジンを撃ち尽くしたところでついに化け物は横倒しになり、
乗っていたデリートという女の子達も地面に投げ出された。
「きゃあ!」
デリートは地に転び、マルチタスク2人はふわりと浮かんで着地。
ヴェクターは弾切れ。今度はさっき受け取ったレミントンに持ち替えて
銃身内に残る12ゲージ弾をできるだけ近距離から撃ち込んだ。
一発が翼をちぎり取り、ヘルゼラトプスの絶命は時間の問題かと思われた。けど。
『ヒュゴオォォ……ゴフゥ!』
イタチの最後っ屁ってやつ!?
背中の肉がごっそりなくなった狂腐王が、またもあの瘴気を吐き出した。
当然、その付近に居る者は……!
「逃げて、ジ・エンド!」
「……構うな、撃て。こいつを、終わらせろ」
あたしは何か言おうとしてやめた。
瘴気に当たらないよう風上からトリガーとポンプアクションを交互に行い、
一刻も早くヘルゼラトプスを殺すことだけに意識を向ける。
ジ・エンドの皮膚がどんどん変色していく。
「ぐううう……あがっ!」
目と耳から出血。一回吐血。時間がない。今ならエレオノーラに看せれば助かるかも。狙うは頭。
あたしはガンベルトから一粒弾を抜き、ローディングポートから挿入。
フォアエンドを引いて装填完了。
乱れる呼吸を無理やり抑えながらフロントサイトの直線上に奴の頭部を捉える。
これで、ラストよ!
トリガーと同時に、強力無比な熊撃ち弾が激しい発射炎と共に放たれ、獲物に食いつく。
着弾と同時に、ヘルゼラトプスの頭部が大きな破壊力を孕んだ鉄球で水風船のように破裂。
狂腐王は断末魔の叫びを上げることもなく動かなくなった。
「はぁ…はぁ…」
敵の絶命を確認したあたしは、息を切らしながらジ・エンドの様子を確かめようと彼に近づく。
その時、ヘルゼラトプスの死骸に寄りかかっていた彼が、最後の力を振り絞り立ち上がった。
「大丈夫?…かどうかなんて見りゃわかるわよね。行きましょう。まだ治療すれば……」
でも、その目を見て悟る。彼には何も見えていない。
ジ・エンドは、黙ってホルスターから震える手でキャバルリーを抜き、あたしに向ける。
ズル、ズル、と足を引きずりながら近づいてくるけど、トリガーに掛かった指は動く様子がない。
……あたしも、何も言わずにシビリアンモデルを抜いて両手で構えた。
「古き良き決闘……色々邪魔が入ったけど、ようやく実現したわね」
彼の眉間に照星を合わせ、引き金を引く。聞き慣れた、いつもの銃声は、彼の額を貫通。
ジ・エンドは膝をつき、薄雪の積もる大地に背の高い身体を横たえた。
冷たい北風があたしの頬を撫でる。
決闘の後に訪れるのは、いつも乾いた風とわずかばかりの虚しさ。
「先生!」
しばらくピースメーカーを構えたまま動けないでいると、
後方にいたデリートが走り出し、彼の亡骸にすがりついた。
「先生、目を覚まして!お願い、いや!いやあ!」
泣き叫ぶ彼女にトテトテと近づく2つの影。
「泣かないで。大丈夫だよ、どうせ」
「どうせ、大丈夫だよ。泣かないで」
意味がわからないけど、その言葉にカッとなったあたしは、マルチタスク達の顔を張った。
“どうせ”効いちゃいないんだろうけど。
やっぱり痛みなどないようで、目をぱちくりさせるだけの二人に
ただ思いつくまま怒声を浴びせた。
「塾だか学校だか知らないけど、あんた達のせいで先生が死んだのよ!?
最期まであんたらのことを心配しながら、命をかけて、
生徒の間違いを正そうとして死んでいったの!
あの娘を見なさい!なんで泣いてると思う?自分のせいで人が死んだから。わかる?
今わからないなら、わかる日が来るまで、絶対今日の事を忘れるんじゃないわよ!いいわね!?」
柄にもなく大声でまくしたてると、
双子は互いを見合わせ、首を傾げてから“わかった”と一言だけ返事をした。
きっとわかっちゃいないだろうし、わかる日なんて来ないうちに忘れるんだろう。
人間はそこまで賢くない。
「ああ……ジ・エンド。あなたまで……」
倒壊しかけている一軒家から出てきたフリーズが、よろめきながらジ・エンドの亡骸に近づき、
彼の傍らに座り込み、その手を取った。
そしてさめざめと涙しながら独り言のように語りかけてくる。
「また、救えなかった。結局、私に力なんてなかったのね。
誰も守れない力なんて、何の意味もないのに……
さあ、斑目里沙子。私も殺して。ミッションは失敗、仲間も失った。
私にはもう、生きている意味なんてない」
「勝手なこと言わないで。ガキ共の面倒誰が見るのよ。あたしは御免よ。
あなたジ・エンドの同僚でしょ。遺言くらい聞いてやったら?」
「遺言……?」
「子供達を頼む、だってさ。
まあ、面倒くさいならここに置き去りにしたって誰も咎めやしないし、あたしだったらそうする。
このまま帝国軍と戦うなり逃げるなり降伏するなり好きにすれば?
じゃあ、あたしはもう帰る。二度と会うことはないわ、さようなら」
抜きっぱなしだったピースメーカーをホルスターに収めると、
あたしは仲間の待つ国営教会へと向けて闘いの地を後にしようとした。
だけど、マルチタスクがまた訳のわからない事を言う。
「フリーズ、泣かないで」
「泣かないで、フリーズ」
「どうせ、なんともないから」
「なんともないから、どうせ」
また出た。どうせ。小学生にも満たない子供に命の重さを説いたところで馬耳東風。
わかっていてもどうしようもない。浅倉威じゃないけどイラついてしょうがない。
今度は尻を蹴り上げてやろうかと思った時、二人が手を取り合い、こう言った。
──巻き戻せば全部元通りだもの!