面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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昔は2リットルのペットボトル売ってる自販機もあったんだけど、いつの間にか見なくなったの。どこに行ったのかしらね。

前回までのあらすじ。

魔女殺した。大金ゲット。金時計奪還。酒場で祝杯。なぜかジョゼットお冠。今ここ。

 

ジョゼットが両手を腰に当てて怒りの感情を表そうとしてる。

でも、顔が顔だから怒ってることがわかる程度で、威圧感の欠片もない。

とにかく、なんだか知らないけど勘弁してよ。せっかくいい感じで酔ってるってのに。

首ふり人形みたいに頭をフラフラさせてるあたしを、ジョゼットが指差して宣言した。

 

「里沙子さん、あなたに言いたいことがあります」

 

「んもう、いいからさっさと言いなさいな。今日はどんな説教でも付き合ってあげる。

聖書の第何章、第何節?」

 

「その説教じゃありません。里沙子さん……わたくしは、あなたを見損ないました!」

 

「なんで~?」

 

そしたら、ジョゼットがあたしの金時計を指差してこう言うのよ。

 

「金時計欲しさのために、兵器を作って軍事企業に売るなんて、

それじゃあ“死の商人”じゃないですか!しかもそれをマリア様の前で!」

 

ああ、そういうこと。通帳見てからおかしかったのはそれが原因か。

 

「何かと思えばそれ?

あたしが作った作品のデビューが見たいなら、昨日か今日の新聞ごらんなさい」

 

「そこで待っててください……」

 

ジョゼットが物置部屋に行ってしばらくすると、

昨日の古新聞を持って急ぎ足で戻ってきた。そして新聞の中一面をあたしに見せつける。

 

「なんですかこれは!

“銃火器産業に革命!

一撃ちで銃弾を連発し、瞬く間に数十名を倒す、全く新しいコンセプトの新兵器が登場、

その名もガトリングガン!”

里沙子さんが作ってたのは、これだったんですね!」

 

「そーいうこと。一週間ほどイグニールに旅に出たのは、その部品集め。

鍛冶の街で製造された精巧な部品が必要だったのよ」

 

「……最低です」

 

「最低って誰が、なんで」

 

「マリア様のお部屋で、何人もの人を殺す武器を、お金目当てで作ってたなんて!

確かに里沙子さんは意地悪で横暴で乱暴で口が悪いけど、

こんなことする人だとは思いませんでした!」

 

あたしはひとつため息をついて、返事をする。

 

「確かに、そもそもここはあたしの家だけど、

聖堂の管理を任せてるあんたに何も言ってなかったことは悪かったわよ。

説明してる暇がなかったってこともあるけどさ。

でも、ガトリングガンを作って企業に買い取ってもらったこと自体については、

とやかく言われる筋合いはないわねえ」

 

「なんでそんなこと言うんですか……!」

 

「あんたは街の銃砲店に、

人を殺す銃を売るのは残酷だからやめろって言ったことでもあるの?

そもそも、目の前にいるあたしが2丁も拳銃ぶら下げてるのに、

今日に至るまで何も言わなかったじゃない。

今更武器のラインナップが1つ増えたからって、騒ぎ立てられても姉さん困る~」

 

「……でも!それでもこの武器は強力過ぎます!

軍隊に配備されれば戦争で死ぬ人が増えるんですよ?

戦火が広がることを何とも思わないんですか?」

 

「何とも。戦争するかどうかを決めるのは政治家であって軍隊じゃない。

スーツの連中がやると決めたら、ガトリングガンがあろうがなかろうが、

奴らの気が済むまで戦争は終わらない。結局人を殺すのは兵器じゃなくて人間。

武器のせいにするのはお門違いよ」

 

「だからって、

里沙子さんが戦争を利用して儲けたことに変わりはないじゃないですか!」

 

「ん~、今日は記念すべき日だから聞いてあげてるけどね。

だから何、としか言えないわね。

部品集めに遠くの地まで旅に出て、徹夜で部品を組み上げて、

死ぬ思いをして暴走魔女と戦って得た正当な対価よ。

そりゃあ、ガトリングガンがどっかで戦争を加速させることにはなるだろうけど、

世界中の軍がいっせーので武器を収めてれば、そんな利益は発生しなかった。

あたしだけのせいにされてもね」

 

「……これからも、武器を作り続けるんですか」

 

「あーないない!もう時計は手元に戻ったし、一生食べていけるだけの生活費も残った。

これ以上働くのはごめんよ。これからはのんびり食っちゃ寝生活を送るつもりだから、

そこんとこシクヨロ」

 

喋り疲れたあたしは長椅子にゴロンと横になった。なんだかジョゼットの目が赤い。

 

「聖職者の端くれとしてお聞きします。

里沙子さんは、本気で平和を願ったことがありますか。

戦争がなくなればいいと思ったことは?

戦争の道具である銃をなくそうと思ったことは……あるはずないですよね、

新しく作って売りさばいてるんですから!!」

 

叫ぶジョゼットの目から雫がこぼれる。あたしは彼女をじっと見て続ける。

 

「銃がなくなれば戦争が終わるとでも?みんなが幸せになるとでも?

あたしの世界でもね、どっかの大国で有名人が連名で銃規制を呼びかけてるんだけど、

あたしに言わせりゃ金持ちの道楽に過ぎないわ。

なんでかわかる?あいつら金持ってるからよ。いくらでもボディーガード雇えるもの。

でも、ボロいショットガン1丁しか身を守る術がない貧乏人はどうしろってのよ。

大人しく強盗に殺されろとでも?

あと、経済の一翼を担ってる銃火器産業が消滅すれば、

たちまち街が失業者であふれかえる。道路中物乞いだらけ。国が傾く。

ある意味戦争より悲惨な事態に陥るわよ」

 

「それは……」

 

「なーんか白けちゃった。今日はさっさとシャワー浴びて、

寝る前にミニッツリピーターを眺めるとしますか。1時間くらい」

 

あたしが住居に戻ろうと起き上がると、ジョゼットがかすれた声で何かを口にした。

 

「だったら……」

 

「え?」

 

「だったらずっと汚いお金で買った時計と暮せばいいじゃないですか!!

里沙子さんの馬鹿!」

 

バタン!とジョゼットがドアを開けて外に飛び出して行った。

 

「ちょっ、どこ行くの!もう外真っ暗よ!……全く、金に綺麗も汚いもないってのに!」

 

本当に手間かけさせてくれるわね。

あたしは開けっ放しのドアから外に出て、鍵も掛けずにジョゼットを追いかけた。

今はまずい時間帯ね。馬車にでも乗らなきゃ外出は危険。

あたしはピースメーカーを抜いて彼女を探して草原を駆け出した。

5分程走るけど、いない。

 

早いとこ見つけなきゃ。夜は野盗の他に、はぐれアサシン、夜行性オオカミが出るのに。

あたし自身も安全とは言えない。

視界が殆ど無い夜の街道では銃の命中率も格段に下がる。

徐々に焦りが募り始めた頃、街とは逆方向へ続く道から悲鳴が聞こえてきた。

 

 

 

「来ないでください!」

 

誰、この人達!?みんな黒ずくめの装束で顔を布で隠してるけど……

 

「運が悪かったね、お嬢さん。こんな夜道をぶらついてるからこんなことになるのよ」

「姐さん、こいつどうします。殺して身ぐるみ剥ぎますか」

「こいつらも腹空かせてるからちょうどいいですよ」

 

グルルル……

よく見えないけど、2匹くらいの獣の唸り声が聞こえる。どうしよう。

 

「待ちな。……ほう、殺すよりどこかの娼館に売り飛ばしたほうが金になる。捕らえろ」

「へい」

 

どうしよどうしよ!変な人が近づいてきた。

……まだ一度も成功してないけど、やるしかない!

 

「聖母の後光、今、其の目に焼き付かん。二つの眼、閉じることなかれ!

スティングライト!」

 

ぐあああっ!ギャアッ!ウアオオオン!!

 

前方が昼間より明るくなる。やった、できた!

きっと彼らには強力な光が浴びせられて一時的に目が潰れてるはず。

今のうちに逃げなきゃ。わたくしはうずくまる彼らの横を通り抜けて逃げ出しました。

でも、どこに?あの教会には、もう……街にもわたくしの居場所はないし。

迷った末、さらに西へ逃げることにしました。その時、

 

「どこに行くんだい、お嬢さん」

 

物凄い跳躍力で一人の黒ずくめがあたしの前に降り立ちました。

なんで!?確かに光魔法は発動したのに!

 

「残念だったね。シスターの魔法なんて知り尽くしてんのよ、あたしは。

詠唱は敵に聞かせるもんじゃないよ、タネが知れたら防御は簡単。

目を伏せればそれでいい」

 

そんな……もう一度魔法を唱えようと思いましたが、

わたくしのマナではまだ短時間で2回分の魔力を練成できません。

後ろから、閃光から立ち直った人さらい達が近づいてきます。

やっぱり、わたくしは、ただの無力な理想論者でしかなかったのでしょうか……?

もう、聖職者としての人生を終えるしかないみたいです。

でも、わたくしが諦めかけたときでした。

 

 

 

闇夜に向けて一発発砲。夜の静寂を破裂音が引き裂く。ふ~ん、なるほどね。

状況を把握したあたしは、ピースメーカーに今撃った一発をリロードしながら歩み寄る。

 

「誰だ!」

 

「ねぇ、ちょっとその娘に用があるの。構わないでもらえるかしら」

 

「里沙子さん……?」

 

「動くな!こいつの首をへし折るよ!」

 

ジョゼットに近づこうとすると、女が彼女の首に腕を回して拘束した。

声からして多分女ね。一瞬見えた男二人も身のこなしが野盗とはまるで違う。

やっぱりはぐれアサシンか。そしてオオカミの唸り声。

索敵と攻撃用に飼ってるみたいね。

 

「あんた、聞いたことがあるよ。早撃ち里沙子だね。でも、この暗闇はあたしらの世界。

腐ってもアサシンだからね。あんたの銃より早くこの娘を殺せる」

 

「ジョゼット、あんた新しい魔法覚えたのね。照明弾みたいで見つけやすかったわ。

やるじゃない」

 

「里沙子さん、どうして……」

 

「あんたに言い忘れたことがあってね。……そういうわけでその娘放して。早く」

 

「舐めた口効くんじゃないよ。まさかこの闇の中であたしら全員に当てられるとでも?」

 

「うぐっ……」

 

ジョゼットの苦しそうな声。多分、女が締め上げる腕の力を強めたんだと思う。

そしてザラザラとすり足で慎重に動く音。他の2人が攻撃態勢に入ったらしいわ。

この辺でお開きにしましょうか。あたしはぶら下げていたピースメーカーに意識を集中。

極限まで精神を研ぎ澄ます。

 

……0!1・2・3・4・5!

 

次の瞬間、あたしは全弾6発をファニングで撃ち尽くした。そこに残されたのは。

 

「うっ、ぐあっ!」「……あがぁっ!」「ギャウン!……」

 

「ジョゼット!早くこっちにいらっしゃい!」

 

「はい!」

 

足を撃ち抜かれ、地に倒れるアサシン3人と、頭を撃たれ横たわるオオカミ2匹。

奴らから離れつつ、ジョゼットがあたしのところにたどり着く。

 

「お前……!なぜ視界のない暗闇で正確な射撃を!?」

 

「視界ならあったわよ。あったっていうか作ったっていうか」

 

「まさか!一発目のマズルフラッシュであたしらの位置を照らし、

クイックドローで正確に急所を……くそっ!」

 

「まぁ、そんなとこ。ジョゼット、逃げるわよ!」

 

「あ、はい!」

 

あたしはジョゼットの手を引いて街道を逆戻りして、

明かりつけっぱなしの教会に戻って、急いでドアを閉めて鍵をかけた。

なんか最近走ったり戦ったりばっかりね。やっぱり息が整うまで10分ほどかかった。

疲れたあたしは長椅子に座って、ピースメーカーにリロードを始めた。

シリンダーから空薬莢を取り出していると、ジョゼットが話しかけてきた。

 

「……どうして、助けに来たんですか。あなたを軽蔑していたわたくしを」

 

「今更“あなた”とかやめてくれる?気持ち悪いから。

……さっき言ったでしょ。言い忘れたことがあるって」

 

「それって、なんですか」

 

「……そりゃあたしだってね、世界が平和ならその方がいいってことくらいわかってる。

野盗や暴走魔女とドンパチしなくて住む世界で気楽に生きていたい。

でも、現実問題そうもいかないでしょう。

ちょっと外に出ただけでさっきの連中みたいな奴らにぶち当たる。

そんな世界で武器を捨てろなんて無理な話。銃に頼り切った今の時代ならなおさら」

 

あたしは一発一発丁寧に弾丸を装填しながら語り続ける。

ジョゼットは立ったまま黙って聞いている。

 

「人間はね、まだ銃や争いや戦争を捨てられるほど成熟した存在じゃないの。

きっとこの世界が間違ってて、あんたの思い描いてる世界が正しいんだと思う。

でもね、それが実現するには途方もない年月がかかる。

少なくとも、あんたやあたしが生きてる間には成就しないくらい。

だからって、それを諦めるかどうかは別問題よ。

次の世代に、あんたが信じる教えを残すか。それとも、人間を見限るか」

 

「……いいえ!わたくしは、マリア様を信じ、教えを広め続けます!」

 

視線を横にやると、ジョゼットがキュッと小さな拳を握るのが見えた。

 

「あたしのことは別にどう思おうと構わない。

人殺しの道具で一儲けしたのは間違いないんだから。

でも、あたしは少なくとも自分に嘘をついたつもりはないわ。

金時計を取り戻したかったのも事実だけど、銃が盾になる場合もある。

ましてや、暴走魔女や悪魔がそこら辺歩いてるこの世界じゃ、人間にも対抗手段が必要。

人間で魔法が使える奴なんて一握りでしょう。

それにもし、人同士の戦争に使われることになったとしても、

互いが同じ銃を突きつけ合えば、仮初めとは言え一時的な平穏が訪れる。

それで人が騙し騙しやっていけたらそれでいいんじゃないかな、っていう気持ちが

0.1%くらいはあったわけよ。別に信じなくてもいいけど」

 

「里沙子さん……ごめんなさい、

わたくし、里沙子さんの気持ちも聞かずに、ひどい事を……うっく…ぐすっ」

 

「ちょっとやめてよ、数字の意味を取り違えるんじゃないわよ!

99.9%は金目当てだったって言ってんの!」

 

「ふふっ、そうですね。里沙子さんは、そういう人ですから……」

 

「ふん、何がおかしいんだか」

 

あたしはリロードを済ませたピースメーカーをホルスターに戻すと、立ち上がった。

 

「じゃあ、今日はもうシャワー浴びて寝るわ。愛しのミニッツリピーターと一緒にね」

 

「その金時計、そんなに凄いんですか?」

 

「安くても80万から100万円。高いものだと5000万は下らない。

まぁ、円とGの価値の違いがわからないけど、

とにかく庶民にはとても手がないのは確かよ」

 

「音で時間を教えてくれるって話してましたよね。見えない音でどうやって?」

 

「んふふ、あんたも興味があるの?この気品あふれる機能美の結晶に。

……しょうがないわねえ。

じゃあ、久々に動かすから動作チェックも兼ねて聴かせてあげるわ!」

 

あたしはミニッツリピーターを高く持ち上げて竜頭を押した。

すると、時計内部で二種類のハンマーが、まずは低音で数回。リンリンリン……

続いて二連続の音が2回。リリン、リリン。最後に高音で8回。キンキンキン……

あたしは目を閉じてその美しい音色に酔いしれていた。

 

「嗚呼、何度聴いても美しい……どう?これはもう時計じゃなくて美術品。

そうは思わない?」

 

「はい、とっても綺麗です!ちなみに今、何時を教えてくれたんですか?」

 

「はじめに時の音が8回。15分を指す二連続の音が2回、最後に分の音が8回だから、

8時38分ね。後でこの世界の時計と合わせなきゃ」

 

「里沙子さんは寝坊してばかりですから、それを目覚まし代わりにしたらどうですか」

 

「だめよ!この尊い存在をそんなダサい用途に……

いや、この高貴な鐘の音で目覚めるのもお金で買えない贅沢ね。

どうしようかしら、迷うところね。ふむむ」

 

「うふふ。里沙子さん、金時計のことになると子供みたいです~」

 

「あ、あんたにだけは言われたくないわよ!」

 

ともかく、長い紆余曲折を経て手に入ったミニッツリピーターが、

最後にもう一騒動起こしてくれたけど、やっと何の心配もなく愛でることができるわ。

もう離さないからね。愛しの相棒は細い金の鎖の先でゆらゆらと揺れていた。

 

 




*事情により、クリスマスまで更新できないかもです。
時間ができたら1話くらい書けるかもしれない、という状況です。

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