面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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ルーベルの旧友
暇すぎるとかえってやる気がなくなるのよ。何のせいとは言わないけど…


「わー!里沙子さん、里沙子さん!火の棒回しですよ!」

 

ショボい芸でジョゼットのテンションは上がりっぱなし。

先っぽに火を着けた長い松明みたいなものをただ振り回す行為の何が面白いのか。

舞い散る火の粉に演者の兄ちゃんもちょいビビってるのがバレバレ。

金取って客に見せるならちゃんと仕上げてからになさい。

 

「見りゃわかるわよ。肩叩かないで。はぁ」

 

ため息のひとつもつきたくなるわよ。

ジョゼットだけじゃない。我らがハッピーマイルズ教会のメンバー(あたし除く)は、

1年ぶりに巡業に来たサーカスに盛り上がっていた。

広場に設置された仮設ステージの前に並んだ長椅子に腰掛け、出し物が出る度に歓声を上げる。

 

「うおおっ、あいつ宙返りしたぞ!なあ見たか、おい?」

 

「アースのサーカスなら挨拶代わりにもならないわ」

 

一回バク転しただけのターバンを巻いたオッサンがドヤ顔で手を広げ、

芸に見合わない拍手喝采を受ける。

喜ぶルーベルも他の観客もいいカモだわ。余程娯楽に飢えてるらしい。

ハッピーマイルズにゲーセン開いたら絶対儲かると思う。

あたしは頬杖をつきながら白けた目で退屈なステージをぼんやりと眺めている。

 

ごめんなさい、状況説明が遅れたわね。あたし今みんなと観たくもないサーカス観に来てんの。

ポストに宣伝チラシが入ってたから、

裏をメモ帳代わりにしようとダイニングの文房具入れに置いといたのが判断ミス。

運悪くジョゼットに発見されてこのザマよ。やつは私室に来るなりこう言った。

 

『ビッグニュースですよ里沙子さん!サーカスが来るんですって!連れてってください!』

 

『嫌よ面倒くさい。ルーベルに頼みなさいな』

 

『どーしたどーした。私を呼んだか~?』

 

『あ!ルーベルさんも一緒に行きましょうよ!今度街にサーカスが来るんです』

 

精神年齢高めのルーベルなら

断るかジョゼットの引率だけやってくれるかと期待したんだけど。

 

『マジかよ!私サーカス見たことないんだよな。みんな誘って一緒に行こうぜ!

里沙子も来るだろ?来るよな?いやー、ログヒルズじゃたまに来るのは紙芝居でよ!』

 

吉幾三かお前は。というより、あたしの意見を無視しないで。嫌な予感がしてきた。

廊下の扉が次々と開く。

 

『皆さんお出かけですか?わたしもご一緒させてください。

ハッピーマイルズで大きな催し物を見るのは初めてで』

 

『ろくなもんじゃないからやめときなさい、エレオ』

 

『ワタシ、そのサーカス、警備担当。会場まで、行こう?みんなで』

 

『行く前提で話を進めないの。カシオピイアは仕事が忙しいんだから邪魔しちゃ悪いわ。

はい解散かいさ―ん』

 

『話は聞こえたわ!人間の娯楽がどのようなものか、悪魔族を代表して

このピーネが見定めてあげようじゃない!』

 

『そうですね。パルフェムも沙国の伝統芸能に興味があります』

 

『伝統なんて呼べるほど大したもんじゃない。時間の無駄だから』

 

1階からぞろぞろとちびっこ二人が。本当この家は防音性能が皆無。さらに背後から追い打ち。

 

『里沙子殿~拙者からもお願い申す。

位牌の中は快適であるが、寝てばかりでは少々退屈なのじゃ』

 

『悪を滅する大義はどした?

寝るわ遊ぶわ悪党退治しないわじゃ、あんたの存在意義がなくなるわよ』

 

『それは里沙子殿が外に連れて行ってくれぬからであろう。

賞金首討伐の旅に連れ出してくれれば拙者とて武士としての実力をお目にかけてみせるのじゃ』

 

『どうすんだー?サーカスに行くか、真面目に賞金稼ぎのバイトするか』

 

『勝手に二択にしないでくれるかしら!?“行かない”選択肢はどこ行った!』

 

『ええっと~開催は今度の土曜日ですね。当日は早めに朝ごはんを食べて出発しましょう!

急がないといい席が取られちゃいますからね!』

 

『更に一択にしろと誰が言った!!』

 

『おっし決まり。里沙子も土曜はちゃんと起きろよ?前日は酒も控えてな』

 

『楽しみです。帝都にもオペラや演劇はありますが、

立場上一般の娯楽施設に立ち入ることができなかったものですから……』

 

『よかったじゃん。エレオのサーカス初体験だな。私もだけど!』

 

『あのさ』

 

アハハハ……

 

フラフープを回し続けるオカマみたいな兄ちゃんを見つめながら皆の笑い声を思い出す。

なぜ、いつの間に、あたしの教会における発言権は凋落してしまったのだろう。

……とりあえず、今んとこサーカスに対する評価ははっきり二つに分かれてる。

 

エレオは何も言わずに観覧してるけど絶対退屈してる。

この娘真面目だから、行きたいと言った手前、最後まで見ないと芸人に失礼とか考えて

無理してるに決まってる。さっきあくびを噛み殺してるのを見たから間違いない。

エリカは遠慮なしに位牌の中で寝てる。もうどこにも連れてかない。

 

ピーネのはしゃぎ声がうるさい。

空飛べるくせにストレッチの延長みたいな芸の何が心を騒がせるのか。

パルフェムは伝統芸能がどうのとか言ってたくせに、

早々にレベルの低い出し物に飽きたようで出店のキャラメルポップコーンを頬張るのに夢中。

 

諸説あるけど、映画館でポップコーンが売られているのは、

つまらない映画に怒った客が投げつけてもスクリーンが傷つかないように選んだ

経営者の知恵らしい。

脳内でどうでもいい豆知識を披露していると、司会がステージの中央に立って観客に宣言した。

 

「本日はパラノイア大サーカスに足をお運びいただき、誠にありがとぅおうございます!

楽しい時間はあっという間!いよいよ最後の演目となりました。

どうぞ皆様拍手でお迎えください!

当サーカスのアイドル、シルヴィアちゃんの歌とダンスをどうぞー!」

 

これでようやくお家に帰れると観客のやかましい拍手の中顔を上げると、

意外にもあたしの目すら惹きつける存在がステージに現れた。

驚いたわねぇ。こんな貧乏サーカスにはもったいないほどの美人。

 

飾り気の少ない白のドレスに群青色のハイウエストスカートを履いた女性。

足まで届こうかというブロンドの超ロングにスカートと同じく蒼く澄んだ瞳。

例えるなら深窓の令嬢って感じの儚げな雰囲気をまとってる。

彼女がスカートの両端をつまみ、腰を下げてお辞儀をすると観客が更に盛り上がる。

 

「……皆さん、私の歌を、聴いてください」

 

ぽつりとそれだけを言うと演奏が始まり、彼女が透き通るような声で

聞き覚えのある歌を奏で始めた。

 

♪

私は夢みるシャンソン人形

心にいつもシャンソンあふれる人形

私はきれいなシャンソン人形

この世はバラ色のボンボンみたいね

私の歌は誰でもきけるわ

みんな私の姿も見えるわ

誰でもいつでも笑いながら

私が歌うシャンソンきいて踊り出す

みんな楽しそうにしているけど

本当の愛なんて歌のなかだけよ

 

私の歌は誰でもきけるわ

みんな私の姿も見えるわ

私はときどきためいきつく

男の子一人も知りもしないのに

愛の歌うたうその寂しさ

私はただの人形それでもいつかは

想いをこめたシャンソン歌ってどこかの

すてきな誰かさんとくちづけしたいわ

♪

 

それまでの大人しそうなイメージから一転、

生地をたっぷり使ったスカートをマントのように翻らせながら激しく踊り高らかに歌う。

気づけば退屈そうにしていたメンバーも、

彼女の歌とダンスに心ここにあらずと言った感じで見入っている。

あたしだってそう。シルヴィアの歌だけで入場料10Gの元が取れたと思うくらいだもん。

なんならおひねり投げても良い。あら?気づかなかったけどよく見ると彼女って……

 

歌が終わり、彼女が再び西洋式のお辞儀をすると、観客共がスタンディングオベーション。

あたしも惜しみない拍手を送る。シルヴィアが退場しても拍手はしばらく鳴り止まなかった。

ちなみにアンコールはなかった。ケチ。

 

サーカスが終わるとあたしらも撤収。

みんな上機嫌で大変結構だけど、ジョゼットはまさに有頂天でかなり鬱陶しい。

 

「キャー!絶対、絶対来年も来ましょうね!

最後のアイドルさん、とっても素敵でした!シルヴィアさんでしたっけ?

あんなに綺麗で歌も上手くて、帝都でレコードデビューすればきっと……ぎゃふん!」

 

「うっさいわねえ!いつまでもサーカスごときで悲鳴上げてんじゃないわよ!

周りの迷惑考えなさい、主にあたしの!」

 

うんざり生活も130話を迎えて多少大人になったかな、と思ったジョゼットに

久々に治療薬を振り下ろすのはあたしだって悲しいのよ?

 

「うう…痛いです~」

 

「馬鹿やってないでさっさと帰るわよ。みんないる?エリカはポケットの中」

 

「私はここ。まあ、人間にしては面白い余興をやるものだわ。

またやるっていうなら観てあげても構わないけど?」

 

「パルフェムはこちらに。最後の女優さんの歌には聞き惚れてしまいました」

 

「そうですね。里沙子さん、今日は連れてきてくださってありがとうございました。

ところでルーベルさんはどちらに?里沙子さんの隣で観ていらしたと思うのですが……」

 

「あ、本当だ。どこ行ったのあいつ」

 

エレオの言う通りルーベルがいない。

あいつがジョゼット及びピーネと同類項だったという悲しい事実を思い出しつつ辺りを探す。

 

「そこら辺に居るはずだから見てくるわ。入れ違いになるとややこしいからみんなは待ってて」

 

「わかりました」

 

広場では早くもサーカスのスタッフがステージの解体作業を始めてる。

適当に当たりをつけてそう広くない街を探す。

酒場の裏手、いない。商店の並ぶエリア、買い物客が数人程度。

 

煩わせてくれるわね。子供じゃないんだから駐在所で尋ねるのも気が引ける。

立ち止まって改めて広場を眺めてみた。お?あそこかしら。

サーカスが団員や大道具なんかを載せてる大きな馬車が西側に停めてある。

 

近づいてみると車体の陰からルーベルの声が。なんか誰かと喋ってるっぽい。

ルーベルってこの辺に友達とか居たっけ?

声をかけようとしたけどあんまり友好的な雰囲気じゃないから会話に入りそこねた。

自然と立ち聞きという形になってしまう。

 

「シルヴィア。なんでお前がサーカスなんかにいるんだよ!」

 

「たくさんの人に私の歌を聴いてほしくて」

 

「村長はなんて言ってる!お前が村を出たって知ってるのか?」

 

「反対されたけど、出てきたの。だって私、もう大人だもの。

自分の意志で、どこにだって行ける」

 

「……今すぐ戻れ。みんな心配してる」

 

「いやよ。ルーベルだって、いきなりいなくなっちゃったじゃない」

 

「事件のことは、知ってるだろう。私の家は、もうない。それに婆さんには時々手紙を書いてる」

 

「なら私だって自由にするわ。村長にもお手紙を書く」

 

「大体なんだよ、あの歌は。

まるで私達オートマトンを馬鹿にしたような、見世物扱いするような……!」

 

「私は好きよ?アースの歌なの。古物屋で見つけたレコードを聴いた時、私みたいだなって」

 

「違う!お前はそんなんじゃない!」

 

「……違わないわ。あなたは何もわかってない」

 

「何がだよ!とにかくすぐ村に帰るんだ。

ここは割と治安の良いところだが、それでも撃ち合いになることはある。

戦い慣れてないお前が旅をするのは危険だ」

 

「そういう口うるさいところはお父様に似たのね」

 

「父さんは関係ねえ!」

 

そろそろ無理矢理にでも話を切り上げたほうがいいわね。

あたしは偶然通りがかった風を装い大声でルーベルを呼んだ。

 

「ルーベル!?どこにいんの!早いとこ帰って昼寝したいんだけど!」

 

馬車の陰からさらに声が聞こえてくる。

 

「……あの人、だれ?」

 

「私の、仲間だ。今はあいつの家に住んでる」

 

「お友達?」

 

「私はそう思ってるんだがな。友達っていうと嫌がるんだよ。妙なこだわり持っててな」

 

「変わった人」

 

「とにかく私はもう行く。お前もこれ以上村長に心配かけんな」

 

「私、しばらくこの領地にいるから。じゃあね」

 

よし、今よ。頃合いを見て二人の間に入った。

 

「あー、いたいた。手間掛けさせんじゃないわよ。もう帰りましょう。

あら、その人あんたの知り合い?」

 

「……幼馴染だ」

 

なぜか少し目を逸らし表情を曇らせて答える。

 

「こんにちは。あたし斑目里沙子。へー、ルーベルが歌姫と友達だなんて世の中狭いもんだわね」

 

「はじめまして。私、シルヴィア」

 

「よろしくね。あなたの歌、素敵だったわよ。ほら、ルーベル。みんな待ってるから」

 

「ああ、すまねえ。あばよ、シルヴィア」

 

「さよなら」

 

小さく手を振る彼女に見送られてあたし達は広場に戻り、みんなと合流して帰路についた。

教会に着いたら、人混みの中で疲れていたらしく眠気が襲ってきたからいっぺん昼寝。

目が覚めるとダイニングに下りて自分でブラックを入れて、

新聞を読みながらカフェインを味わう。

他にはルーベルひとりだけ。水を飲み干したコップを指先で転がしながら底を見つめてる。

 

“玉ねぎくん”も読んだし社説にも目を通した。新聞を畳んでポンとテーブルに置いて、

かごに入ったお茶菓子を一つ口に放り込む。

静かな時間が流れる。あたしがただなんにもない時間を楽しんでいると、

ルーベルの方はしびれを切らしたようで口を開いた。

 

「……聞かねえのかよ」

 

「何を」

 

「シルヴィアのこと。話、聞こえてたんだろ」

 

熱いコーヒーを飲み込むと、身も心も温まりほっと息が出る。まだ寒さが続いてるからね。

 

「あんたここに来て何年よ?

このあたしがわざわざ人様の身の上話聞きたがるような性格だと思う?

自分の生活が平穏なら万事オッケー。自分の世界を守るためにしか頑張らない。

もしあたしにスタンドが発現するとしたら間違いなくザ・ワールドね」

 

「へっ、嘘つけキラークイーンが」

 

「へーあんたジョジョネタ行けるクチ?

そうなの、好きなスタンドを選べって言われたらいつもこの2体で迷うのよ。

まあ、それは置いといてあの歌手がオートマトンだったってのは少々驚きだけど」

 

「村でも一番の箱入り娘だったからな」

 

そしてルーベルは手を握ったり開いたりしてみる。彼女の外見はほとんど人間と変わらないけど、

関節や眼球と言った細かいところを観察すると継ぎ目や光の屈折が人工物特有の構造をしてて、

やっぱり人間とは別種族なんだなとわかる。

 

「あんまり私達のことについて話したことなかったな。

オートマトンは空から降ってきた天界晶を神療技師が造った身体に宿すことで一人の存在になる。

……おっと、昔話なんて興味ないか」

 

「別に?話すっていうなら聞かなくもないけど」

 

「そっか。ならちょっとだけ付き合ってくれよ。

知ってるだろうが基本的に私達の生まれ方はそんな感じ。

そこで問題になるのはどんな身体に命を宿すかってこと。

簡単に言うと、高級な身体かそうじゃない身体か。

シルヴィアはまだ子供の居なかった村長夫婦に天界晶を拾われてな、

腕のいい神療技師に綺麗な身体を造ってもらったのさ。今日見たような美人にしてもらったんだ」

 

「間近で見てたけどしばらくオートマトンだってわかんなかった」

 

「だろ?私は見ての通り普通の神療技師に普通の身体を作ってもらった。

別に不満なわけじゃねえぞ?父さんと母さんからもらった身体だ。満足してる。

私達オートマトンが人間や他の種族みたいに血の繋がりがなくても家族関係が成立してるのは、

見つけた天界晶は村全体で面倒を見るって決まりがあるからなんだ。

経済的に余裕があるなら自分の子供にしてもいいし、無理なら村民会議で引き取り手を探す」

 

「大体わかったけど、それがシルヴィアって人とあんたにどう関係あるの?」

 

「裕福な家に拾われて美人になったシルヴィアと、父さんによくガサツだって怒られてた私。

小さな村の中でお互いの事は知ってたけど最初は正反対の相手同士なんとなく避けてたんだ」

 

「でも、何かのきっかけで仲良くなった、と?」

 

ルーベルはちょっと苦笑する。

 

「仲良くか。

そう言えるのかはちょっとわかんねえけど、世間話くらいするようになった出来事はある」

 

「聞かせてくれるかしら」

 

「もちろんだ。ログヒルズは林業で生計を立ててるところだから、

毎年大人も子供も村民全員で間伐作業をする時期があるんだよ。

でも、シルヴィアだけはいつも家に居て外に出ようとしなかった。

それが気に食わなかった私はある日村長の家に行ったんだ」

 

………

 

「こらーシルヴィア!サボってんじゃねー!おまえも木を切ったりするのてつだえー!」

 

まだ小さかった私は、村長の屋敷の窓に向かって叫んだ。

すると窓が開いてシルヴィアが顔を覗かせた。やっぱりその頃から綺麗な顔してたよ。

 

「あなた、ルーベルね?私は、そういうことができないの」

 

「なんでだー!わたしたちはみんな力持ちなんだ。

じゃまな石をどけたり、切った木をはこべよ!」

 

私がそう言うと、シルヴィアは悲しそうな顔をして自分の腕を見せた。

すらりとして、上質な革を貼られた白い腕。

 

「見て。私のうで、こんなにほそいの。みんなのように、力もないし、丈夫でもない。

できることは、歌をうたうことだけ」

 

「うた?じゃあ歌ってみろよー」

 

あいつは何も答えずに少し息を吸うと、村に伝わる童歌を歌ってみせた。

後はお前も知っての通りさ。

まるで精霊のコーラスのような澄んだ歌声に、思わず持っていた斧を落とした。

私はずっとその場に立ち尽くして聴き入ってたんだ。

そして歌が終わると、思わずシルヴィアに駆け寄ってた。

 

「すげえ!おまえ、どうしてそんなきれいな声が出るんだよ!」

 

「……パパが、そう造ってくれたから」

 

「シルヴィア、おまえ、“スター”になれるよ!歌手になれ!ぜったい人気者になれる!」

 

「私、歌手じゃなくて、みんなとおなじになりたい」

 

「じゃあ私と外に出ようぜ!うまい斧のつかいかたをおしえてやるよ!

コツをつかめばほそい木なら切れるって!」

 

「ほんとう?」

 

「ああ!うちに小さめの斧があるんだ。貸してやるから山に行こうぜ!」

 

それからだったな。シルヴィアと木を切りに行ったり、遊んだりするようになったのは。

はっきり言って村長はあんまりいい顔してなかったけどな。

目に入れても痛くない一人娘が傷物になっちゃたまんねえだろうから、当然っちゃ当然だけど。

子供だった私達はそんなことどこ吹く風でいろんなとこに出かけたよ。

一緒に遊ぶうちに気がつけば何年も経ってた。

 

「見て、ルーベル。一人で暖炉の薪を割ったの」

 

「これ全部か?やるじゃん。身体が大きくなって、力が付いたんじゃねえのか」

 

「ううん。私は何も変わらない。歌が上手な小鳥さん」

 

「そう言うなよ。お前の歌、好きってやつたくさんいるんだぜ?」

 

「ありがとうね。でも、私、ルーベルみたいに強い子になりたかったな。

歌じゃ木を切れないし石も運べないもの」

 

「誰だって得手不得手があるって。

私なんか父さんにシルヴィアみたいに女の子らしくしろって怒られてばっかだし」

 

「ふふっ」

 

「笑うなよー」

 

「ごめんね。……ルーベルが友達でいてくれて、よかった」

 

「なんだよ急に」

 

「ルーベルほど親しくしてくれる子、他にはいないから」

 

少し返答に詰まった。

村長の娘という立場。容姿や歌の才能を優先したせいでオートマトン本来の力を持たない身体。

いじめられてるってわけじゃないが、

シルヴィアがどことなく同世代の皆から避けられてるのは私も知ってた。

 

「私がいりゃ、別にいいじゃん」

 

………

 

「あの時の私には、そんな言葉しか見つからなかった。

だからって今なら気の利いた台詞が出てくるってわけでもねえんだけど」

 

語り終えたルーベルがもう一度拳を握ってみる。

 

「でも変ね。昔話を聞く限りシルヴィアはあまり歌が好きじゃないように思えるんだけど、

どうしてわざわざ大勢の前で歌う仕事に就いたのかしら」

 

「わかんねえ。しばらく会わないうちにあいつのことがわかんなくなっちまった。

……確かに、急にいなくなった私のせいなのかもな」

 

コン、コン、

 

二人同時にため息をつく。珍しくルーベルとシリアスめの話をしてるってのに。

玄関ノックの法則には恨みばかりよ。

 

「ジャンケンするか?」

 

「いい、あたしが行く。あたしが行かないと物語が進まないようにできてるの、この世界は」

 

席を立って聖堂を通り、玄関ドアの前に立ち、向こう側にいる誰かに呼びかける。

 

「どなた?ミサは日曜限定。懺悔室はなし」

 

幾度となく繰り返された質問を雑に投げかけると、意外な返事がきた。

 

“シルヴィアです。先程はどうも”

 

 




「夢見るシャンソン人形」
日本語詞:岩谷時子
作曲:ゲンズブール
引用元)https://www.uta-net.com/song/45843/
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