面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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昔書いたSSの方が面白いことに気づいて泣いている人がいるの。

硫黄、灰、炭。風が運んでくるそれらの臭いが鼻腔を刺激する。

ストールで顔を覆ってはみたけど、元々ここは人間が長居するには向いてないみたい。

現にオートマトンふたりは気にも留めていない。ただ倒すべき者同士見つめ合うだけ。

 

「シルヴィア……本当に、やる気なんだな」

 

「私は、里沙子さんを倒して昔の幸せを取り戻す。

そのためなら、なんだってする」

 

「あたしを殺せると思ってるなら世間知らずが過ぎるわよ。

こう見えてミドルファンタジアに来てからいくつも修羅場をくぐってきたの。

サーカスの踊り子とは年季が違う」

 

3人の間に精神の糸が張り詰め、更に地熱で温度を増した空気で汗ばんでくる。

汗で滑らないようにベルナルディのグリップを握り直した。

ルーベルも96式40mm自動てき弾銃を抱え、一瞬だけあたしに目配せする。

それに気づいているのか知らないけど、シルヴィアはやはりマイペースに語る。

 

「できるわ。

そのために歌いたくもない歌を歌って、一生懸命お金を稼いだんですもの。

この不思議な身体は、人間にも、どんなに武器にも、絶対に負けない」

 

「誰だ。一体どこの誰が、お前をそんなふうにしやがった!」

 

「名前はわからない。

でも、あの人は水のような鉄で私を強くするって約束したし、

約束を守ってくれた」

 

彼女がそっと右腕を伸ばすと、手のひらが波打ちツツ…と液体金属が垂れ、

瞬時に固体化。鋭い針となり火山地帯の黒い大地に深々と突き刺さった。

もう戦闘が始まる。命のやり取りは避けられない。

 

「そう、ならおいでなさいな。……できるもんならね!!」

 

あたしはシルヴィアの隙を突いて水平二連式散弾銃の銃口を向け、両引き、つまり

左右のバレルを撃ち分けられるよう1本ずつ備わったトリガーを両方引いた。

イタリア製ダブルバレルショットガンが火を噴き、散弾と衝撃波が襲いかかる。

 

ほぼゼロ距離から2発のバックショットを同時に食らった彼女の胴体が、

水面に石を落としたようにぐにゃりと波紋を描いて歪み、大きく体勢を崩した。

 

「がふっ!あ……」

 

「今よ、作戦通り!」

 

「おう!」

 

馬車の中で打ち合わせをしていた通り、

あたしは後ろへ、ルーベルは火山山頂へ向けて走り出す。

シルヴィアの再生が始まった。

その美しい姿は腹だけが軟体生物のように醜く蠢いて元に戻ろうとしている。

 

「汚い手を使うのね。構わない。あなたは絶対に逃さないから」

 

「殺し合いに綺麗も汚いもないのよ!

あんたが世間知らずだってのはそういうとこ!」

 

短い会話で時間を稼ぎつつ、銃身を折って弾倉を開き内部の空薬莢を取り出し、

カラカラと音を立てて新しい弾を2発込める。元通り銃身を伸ばして装填完了。

やっぱり強力だけど装弾数の少なさが足かせね……!

 

彼女の動きが止まってる今のうちに更に後退。

少しずつ山腹を登りながら走り続ける。グレネードの危害半径から逃れなきゃ。

クロノスハックはあまり使いたくない、というか使えない。

新世界なんかもっと無理。

 

ここに来るまでに少なからず体力を消耗して、燃やせるマナが減ってしまった。

絶命寸前のピンチでも来ない限りは温存しておきたい。

……温存しておきたかったんだけど、

後ろからザリザリと嫌な音が聞こえて参りました。

 

「りーさーこーさーん」

 

一瞬後ろを見ると目をむいた。シルヴィアがあたしを呼びながら追いかけてくる。

それ自体は当たり前のことなんだけど、

右腕に持ってるものというか右腕が普通じゃない。

重量1tはありそうな巨大な斧の刃を太い鎖でつないで、

真っ黒な地面を引き裂きながら引きずってくる。

 

まるで重さを感じる様子もなくシルヴィアは右腕を数回ぶん回し、

どこまでも伸びる鎖であたしを射程内に捉え、乱暴に斧を叩きつけてきた。

まだ実践に慣れていないのか刃を真っ直ぐ飛ばすことができず、

斧は何度も地面をバウンドしながらあたしに迫ってくる。

でも、それが却って回避を難しくする。

一直線に飛んでくるなら伏せれば済むんだけど。

 

──クロノスハック!

 

擬似的な時間停止が発動すると、見上げるほどの鉄塊がすぐ近くまで迫っていた。

こいつを食らったら刃に当たらなくても刀身の重さで圧死するわね。

とか考えてる場合じゃない。せっかく止めた時間を無駄にしたくないの。

 

今度はルーベルの待つ比較的低い火山の火口へ向けて必死に両脚を交互に動かす。

クロノスハックの残り時間がものすごい早さでなくなっていく。

デザートイーグルも残り一発。これもまだ足止めに取っておきたい。

あたしは悲鳴を上げる身体に必死に酸素を取り入れながら

馬車でルーベルと立てた作戦を思い出していた。

 

『里沙子、ザスランド領なんかに何しに行くんだ。

火山でも見物に行くわけじゃねえんだろ』

 

『聞いて。

シルヴィアの形をしたREV-9は、あんたのグレネードランチャーでも倒せない。

それくらい奴の耐久力と再生能力は凄まじい』

 

『なっ…!それじゃあ、何のために銃を買ったんだよ!』

 

『細かい経緯は省くけど、

REV-9は最期に主人公が放った膨大なエネルギーで消滅したの。

つまりシルヴィアを倒すにはあの子の再生能力を上回るほどの熱量が必要』

 

『お前、まさか……』

 

『思ってる通りよ。シルヴィアを火山に落っことす。

観光用に整備されてるあそこなら歩いてたどり着ける火口があるわ。

映画の2作目で襲撃してきたターミネーターも似た方法でとどめを刺したの。

今回も通じることを祈るしかないわ』

 

『わかった。……でも里沙子、もしチャンスがあったら』

 

『残念だけど戦いが始まったらそんな希望は消し飛ぶ。

とにかく初手はあたしが囮になるから』

 

山頂近くで待機していたルーベルと合流したところで停止解除。

体感的には次の攻撃を避けたら魔力も弾切れ。息を整えつつ彼女に合図を出した。

 

「ごほ、ごほっ、ぜぇ…ルーベル、撃って……」

 

「うおっ!あ、ああ任せろ」

 

三脚架に96式40mm自動てき弾銃を設置して様子を窺っていたルーベルが、

突然現れたあたしに驚きつつも狙いを定める。

縦長方形のリアサイトの向こう側に見えるのは、

こちらへ向かってミシンが針を突き刺すような速さで

両脚を前進させるシルヴィア。

 

射撃準備完了。

こちらまで伝わってくるほどの緊張感を放ちながら、グリップを握る。

もしルーベルが人間だったら大きくつばを飲み込む音が聞こえてきそう。

 

「……許せ!」

 

そして、何かを振り切るように親指に力を込め一気に射撃スイッチを押した。

左側面の弾倉に収納されたベルトリンクに連なる多目的榴弾が

銃身に飲み込まれていく。連動して銃口から40mmグレネードの連射が始まり、

自動てき弾銃が腹に蓄えた榴弾で大気を叩く。

 

陸上自衛隊の重火器はオートマトンのルーベルの肩すら揺さぶる。

圧倒的な存在感を放つそれは銃身を前後に動かしながら

発砲、再装填を繰り返しつつ射線上の目標を制圧せんと榴弾を放つ。

榴弾は一拍遅れて着弾、爆発。

引火した炸薬が真昼でもはっきり視認できるほど明るく鋭く光った。

 

──キャアアアア!!

 

シルヴィアの悲鳴がこっちまで響いてくる。命中した、ってことで良さそうね。

ルーベルは一旦射撃を止め、照門の向こうにいる

変わり果てた幼馴染の生死を確認する。硝煙が晴れるのを待つことしばし。

……まったく、期待通りと言うべきか、期待はずれというべきか。

 

「いたい、いたいわ。骨格にヒビが入ってしまった。

ルーベル、私にこんなひどいことをするなんて。

やっぱりあなたは変わってしまった」

 

「シルヴィア……!身体はどうした!?オートマトンの身体は!」

 

彼女の人間らしい姿はそこにはなかった。

人工皮革で作られた美しい女性の外見は見る影もなく、

全身から液体金属を滝のように流す骨格標本が立っているだけ。

肋骨の隙間から彼女たちの心臓にあたる天界晶が見える。

それでもシルヴィアはゆっくりと肉体を再構成しながら、

ふらつきつつもこちらに歩いてくる。

 

「友達だと思ってたのに、信じてたのに、

帰ってきてくれるって、信じてたのに!!」

 

液体金属による修復が30%ほど終わると、シルヴィアが絶叫した。

半分がなくなった顔から嘆きとも憎しみともつかない叫びが轟く。

露出した頭蓋骨の眼球部分が紅く光りギョロギョロと周辺を観察する様が

あたし達を睨みつけるようで、その姿にルーベルは動揺しきっている。

 

「な、なあ里沙子。私はどうすればいい?

もう一度撃ったら、あいつの天界晶が砕けちまう!」

 

「撃つのよ。どうしても無理だっていうなら、代わるけど」

 

情けを出しちゃいけない。冷たく吐き捨てる。

 

「ちくしょう!」

 

フィンガーレスグローブをはめた手を震わせながら、

何かを頭から追い出してスイッチを押す。

対照的に感情などない自動てき弾銃が弾倉からグレネードを飲み込み、

銃口から吐き出す。

 

瞬時に脚部の再生を優先したシルヴィアは地を蹴って横に回避行動を取るけど、

間に合わずに2、3発が直撃。

榴弾の爆発が全身を殴り、強固な骨格が軋みを上げて彼女はその場に倒れた。

 

「あああああ!!私の、身体がぁぁ!!」

 

「シルヴィア頼む!もうやめてくれ!ログヒルズの暮らしに戻ってくれ!

私が悪かった!これからは時々顔を出す!手紙も書く!だから、もう……」

 

「いや。いや。全部。ルーベルは、ルーベルと、私は、全部同じになるの!」

 

追い詰められて錯乱してるみたいね。

火山灰の降り積もる地面に横たわりながら

意味のわからないことをつぶやいている。

後ろの方でグツグツ言ってるものも必要なさそう。

あたしはベルナルディを構えて瀕死の彼女に狙いを定める。

 

「なにやってんだよ里沙子……もうあいつ動けねえだろう!」

 

「だから今のうちにカタをつけるの。この距離なら散弾でも心臓部を破壊できる」

 

「やめろ!頼むから、もう少し話をさせてくれ!」

 

「こうしてる間にもせっかく与えたダメージが元に戻ってるのがわからない?」

 

「え…?」

 

シルヴィアを指差すと、ヒビだらけになった骨格から

液体金属が次々と染み出して、

恐らく自分の意思とは関係なく肉体を再生しようとしている。

でも、アレ全部かき集めたとしたら明らかに彼女の体格より大きくなるわね。

物理法則もあったもんじゃないわ。

 

「決めて。彼女と一緒にログヒルズに帰るか、それとも、楽にしてあげるか」

 

「決めろだって?そんなの……できるわけないだろうが!!」

 

……確かに、この様子じゃ無理ね。ルーベルの決断を待たず、

何も言わずに2本のトリガーに指をかけ、人差し指に力を入れようとしたとき。

ガクンと何かに両脚を掴まれ思わず倒れ込んだ。

はずみで空に向けて散弾銃を撃ってしまう。

ちょっと、無駄撃ちは最悪なんだけど!弾だってタダじゃないの!

 

「なに!何なのよこれ!?」

 

「里沙子!」

 

足元を見ると異様な光景。

地面から生えた有刺鉄線のようなものがあたしの両脚を拘束してる。

ポケットナイフを取り出して切ろうとするけど傷一つつかない。

 

「ふふふ、うふ、ふふふふ」

 

二人共その笑い声に気づいてそちらを見る。

衣服、正確にはそう見える液体金属は、ボロボロだけど全体的に形を取り戻し、

顔の肉だけが半分吹き飛んだシルヴィアがよろよろと立ち上がった。

 

その身体から細い糸が何本も地に伸びている。有刺鉄線の正体ってこれ!?

地中に液体金属を走らせてあたしにトラップを張ったってわけね。

再生がある程度落ち着いた彼女が赤い目であたしを見据えて告げる。

 

「分析終了。周辺の地質データを解析。二酸化ケイ素を含む火山の噴出物。

ケイ酸塩鉱物の溶解物を検出。赤外線測定温度約1000~1200℃。

そう、そうなのね。うふふ」

 

突然ロボットらしい口調になったかと思えばまた笑う。

何か薄ら寒いものを感じたあたしは急いで銃身を折りリロードする。

もう、焦りで空薬莢と新しい弾がごっちゃになってややこしい!

 

「わかるわー。私を溶岩に突き落として焼き殺そうとしているのね。

怖い人。血も涙もない人。……あなたなんか、ルーベルにふさわしくない!」

 

激高したシルヴィアが今度は右手を長さ1.5mはある肉厚のブレードに変え、

早足であたしに迫ってきた。

腹ばいのまま再び左右のバレルからバックショットを撃つ。

手負いの彼女が胴に衝撃を受けその場で立ち止まるけど、

また動き出すのは時間の問題。

 

全力でポケットナイフを振るっても全然切れる様子がない。

縛られた自分の脚とまだ動かないシルヴィア。

心の中で半泣きになりながら交互に見るけど状況はよくならない。

 

「こんなことしてらんない、早く逃げなきゃ!」

 

「待ってろ、私がやる!」

 

その時、ルーベルが両手で有刺鉄線を掴み、力任せに引っ張った。

フィンガーレスグローブが破けるけど、

構わず強引にワイヤーと化したシルヴィアの身体を引っ張る。

 

「ぬううっ、うおおおお!!」

 

彼女が咆哮すると、ピィンと高い音を立てて有刺鉄線が切れた。

オートマトンと言っても身体を作っているのは木と革。

手のひらはボロボロになってる。同時にシルヴィアも再起動。

有無を言わさず、あたしに飛びかかり右腕のブレードを振り下ろした。

 

でも、ルーベルのおかげで間一髪横に転がって半分間に合った。

“半分”とはどういうことだ、ですって?

あたしは助かったけど買ったばかりのベルナルディが

まさに半分になっちゃったのよ!クロノスハックを使う間もなかった。

まあ命あっての物種だとは言うけど。

 

銃の残骸を見ると木製部分も金属部分も恐ろしいほど切断面が滑らか。

多分高周波ブレードの類だと思う。ちょっとでもかすってたらヤバかったわね。

さようなら、芸術的水平二連式散弾銃。

 

「逃げるぞ里沙子!」

 

「サンキュー!」

 

三脚架を片付け96式40mm自動てき弾銃を担いだルーベルに手を取ってもらい

立ち上がると、後ろも振り返らず一緒に逃げ出した。

その手はささくれだらけであたしの手に少し食い込んだ。

走りながらルーベルに大声で呼びかける。

濁った空気、消耗した体力、乱れた精神。

もう1回くらい行けるかな、と思ったけどもうクロノスハックは無理。

 

「ルーベル、当たらなくてもいいから逃げながらグレネードをばらまいて!」

 

「この距離でか!?お前まで榴弾の破片食らうだろうが!」

 

「食らわないかもしれない!どのみち追いつかれたらおしまいなの!

とにかく頂上まで逃げられればなんとかなる!」

 

「どうやって!」

 

「息できなくて説明するのしんどい!頼むから!」

 

「くそっ!」

 

“里沙子さんまってー”とまるで地獄の亡者のように追いかけてくる

半壊したシルヴィア。

ルーベルが振り向き、本来携行武器としての使用が想定されていない

自動てき弾銃を背後に連射する。

流石にこの撃ち方はオートマトンでも手に余るようで命中率は格段に落ちる。

 

それでも空中で炸裂する40mmグレネードの弾幕は

ターミネーターの脚を遅らせるには十分な威力があったようで、

順調に行けばもう少し。

途中、『この先火山活動中・立入禁止』の看板が立ってたけど無視した。

と言うよりこれを探してたのよ。

気づけばあたし達はもうもうと白い煙の立ち上る火口の縁に立っていた。

 

足を止めて後ろを見る。ちょうど背後に粘性の低い溶岩が溜まった火口。

目の前に、骨格を傷つけたせいか完全な再生ができなくなったシルヴィア。

顔の半分がなくなったままだし、

綺麗だったドレスも火災現場を通り抜けてきたように焦げて穴だらけ。

元の状態をとどめているのはあたし達を追い詰めるための脚と、

武器を構えた右腕だけ。

 

本来人が立ち入らない、火山活動が活発なエリアで改めて彼女と対峙する。

あちこちの地面が熱く柔らかく、すぐ真下を溶岩が流れているらしい。

足の裏が焼けそう。疲れがピークに達してるのか、火山ガスでも漏れてるのか、

なんだか頭がクラクラする。

どちらにしてもよろしくない状況ね。短期決戦で決着をつけないと。

 

「やっと見つけた。待ってっていってるじゃないですか」

 

「待ってほしいなら右手に持ってるもんを収めてくんないかしら」

 

「シルヴィア、神療技師のところに行こう。もう傷だらけじゃねえか。

私もお前も、こんなこと続けて何になるんだよ……!」

 

「またルーベルと一緒に暮らしたい。ただそれだけ。

今度は私もみんなと一緒に木を伐ったり、石を運んだりできる。

本当の仲間に、なれるのよ」

 

「もういい!わかったから、一緒に行くから里沙子には手を出すな。

お前を人殺しにはしたくない」

 

「……あんた、それでいいの?」

 

「良かねえが、幼馴染とこんな戦い続けるよりマシだ。……世話になったな」

 

「だめよ」

 

ルーベルの申し出にシルヴィアが真っ赤な目で拒絶の意思を示す。

 

「なんでだ!私がいればそれでいいんだろう!?」

 

「その人は危うくルーベルに私を殺させるところだった。危険な人。怖い人。

生かしておいたら、私達が平穏に暮らせない」

 

「交渉も決裂か。絶望的状況ね。この娘、どうあってもあたしを殺したいみたい。

誰かを始末してでも平穏を追い求める姿勢には一目置くけどさ」

 

「呑気に言ってる場合かよ!シルヴィア、馬鹿な真似はやめろ!」

 

彼女は答えることなく、96式40mm自動てき弾銃の弾幕で刃こぼれした

右腕のブレードを構え、あたしを追い詰めるように一歩二歩とにじり寄ってくる。

あたしも黙ったまま腕を組む。

……ふりをしてショルダーホルスターに手を突っ込み、

デザートイーグルを抜いて彼女の足元を撃ち抜いた。

 

「はっ!?」

 

気づいたときには遅い。

44マグナム弾が地面を貫き、固体になりかけていた溶岩溜まりに穴が開く。

その瞬間、内部からの圧力で地面が弾け、

大量のマグマが噴き出し彼女に降り掛かった。

熱に耐えかねた液体金属がステーキを焼いた鉄板のような音を立てて

急速に蒸発していく。

 

「きゃああ、あつい!ああ!あつい!あああ!からだが、からだがあついぃ!!」

 

まさに燃えるような熱さにのたうち回るシルヴィア。

あたしはマグマが止んだタイミングを見計らい、

彼女の後ろに回って思い切り蹴飛ばした。母さんに見られたら怒られるわね。

 

頭から溶岩を浴びて視界を奪われたシルヴィアは、

ジタバタしながら正面に向かって歩いていく。

今度は少し浴びる程度では済まない最大級の溶岩溜まり、火山の火口へ。

 

激しい熱で再生が追いつかないシルヴィアは、

不自由な脚でそうとは知らず自ら奈落の底へ向かう。

そしてとうとう火口の縁で脚を滑らせ、高い高い火山の底へ落ちていった。

と、思った。

 

「キャアアァ!」

 

「シルヴィア!!」

 

その時、ルーベルが飛び出してすんでのところで彼女の手を掴んだ。

シルヴィアが彼女の腕一本でぶら下がってる。

 

「待ってろ、今引き上げてやる。絶対離すな!」

 

「ルーベル?どうして。私を殺したかったんじゃないの」

 

「違う!全然違う!昔のお前に会いたかった!またお前の歌が聴きたかった!

サーカスでお前を見たとき、本当は嬉しかったんだ!

お前が自分の歌を好きになってくれたんだって!」

 

「ルーベル……ごめんなさい。あなたの気持ちを確かめないで」

 

「いいんだよ。だが、ケンカはこれっきりで勘弁な」

 

「うん。ずっと仲良しでいてね?」

 

「当たり前だ」

 

シルヴィアの目に灯る赤い光が消えていく。

すると、さらさらと身体を覆っていた液体金属が流れて溶岩へと落ちていった。

今の彼女は鈍色をした人間に近い骨格。違うのは胸に宿る天界晶だけ。

 

「いっせーので引っ張るぞ?あいてて、さっき手ぇ擦りむいちまったんだっけ」

 

「ごめんなさい」

 

「いいって。……あー、里沙子。無理な頼みだとはわかってるんだけどよ」

 

「手伝えって言いたいんでしょ?無理だってわかってるんじゃない」

 

「お願いだ。もう絶対こいつに間違いはさせねえから」

 

「あ、いや、そうじゃなくてさ」

 

「どうした?」

 

「なんかさっきから背中がベタベタするからさ、後ろ見てみたの。

そしたらさ、食らってたみたいなの。グレネードの破片。背中まっかっか」

 

「えっ!?」

 

やっとのことでそれだけ言うと、あたしの脚から力が抜けて、

焼けた地面に顔から落ちた。

火事場のクソ力でシルヴィアを引き上げたルーベルが

駆け寄ってくるのが見えたけど、あたしが覚えていたのはそこまでだった。

あちち、今回のあたしとんだ厄日。

 

 

 

 

 

……うむむ。アースの超興味深い“ぶるーれい”とやらに登場した

液体金属人間を再現してみたものの、

とても満足の行く作品には仕上がらなかったというのは痛恨の極みだよ~。

骨格へのダメージが液体金属の性能を左右し、

熱と火山ガスで急速に劣化するとは想定外だったのである。

まー、失敗は成功の母という格言もあることだし、今後も改良を続けていけば

オリジナルを上回るターミネーター誕生の日も遠くない…かもね!

エヘヘ、ウハハホ~

 

 

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