面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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百物語
バットマンをほとんど知らないのに映画ジョーカーを観た。


とっくに日没を迎えた夜。真っ暗なダイニングを照らすのはロウソクの小さな火だけ。

住人全員が集まり、まるで内緒話をするようにあたしの話に聞き入る。

 

「……でね?焦ったその男は一日三食を青汁だけで過ごすという無謀なダイエットを始めたの」

 

「めちゃくちゃです~何かの拍子で死んじゃいますよ……」

 

「バカなんじゃねえのか、そいつ」

 

「まあ実際バカなんだけど聞いてよ。

最初の3日は激しい空腹に苦しんだんだけど、なぜか段々腹が減らなくなったらしいの。

それでダイエットがうまく行ってると勘違いした男は青汁オンリーの生活を続けたんだけど、

次第に異変が起こり始める」

 

「何があったのでしょう……?」

 

エレオをはじめとした皆がゴクリとつばを飲み、続きを待つ。

 

「立ち上がる度に足元がふらつくようになった。みんな暑がってるのになんだか寒い。

これはダイエットのちょっとした副作用だとその時は男も気にしてなかったのね。

でも、だんだん今何曜日かわからなくなったり、簡単な引き算ができなくなったり、

趣味で書いてるつまんない作文の続きが思い浮かばなくなったり。

とにかく脳を使用する行動に著しく支障をきたすようになったの」

 

「恐ろしい話ですわ。結局彼はどうなってしまったのですか?お姉さま」

 

「うん、ついにある日、洗面所の鏡を見ると……そこには二目と見られぬ醜い男の顔が!

ね、怖いでしょ?」

 

結末を語ったけど、みんなは“期待させやがって”という失望感丸出しで、

伸びをしたりコップの水を飲んだりうつむいたり各自休憩モードに入った。

 

「なによう。せっかくとっておきの怪談を披露してやったってのに」

 

あたし自身も反応の薄さに失望して、ロウソクをふっと吹き消した。

……みなさんこんばんは。

今ね、ちょっとシーズンには早いけどあんまり暇だから百物語やってるの。

 

「あのなあ、それのどこが怪談だよ。そいつがブサイクなのは元からだろうが。

楽して痩せようとするから健康にしわ寄せが来てるってだけだろ。痩せたいなら動け」

 

「あたしに言わないでよ。

ジョゼットもちょっと太ったからって絶食ダイエットとかに手を出しちゃダメよ?」

 

「はーい。それで、次はどなたの番ですか?まだ100話到達には時間が掛かりそうですね~」

 

「確か、100話語り終えると何かが現れるとのことでしたね。何が現れるのでしょうか」

 

「よくわかんない。アースの古典的な都市伝説なんだけど、詳しいことは知らないの」

 

「なにそれー。里沙子の無責任!」

 

「はいはいあたしは無責任。で、次は誰?」

 

ピーネの抗議を軽くあしらって次の怪談を求める。

実は今の話含めてまだ3話しかクリアしてない。

もうちょい続けてみんなが飽きたら切り上げよう。

ダイニングを見渡してチャレンジャーを探すと……あら、意外な娘が手を挙げたわ。

 

「……はい」

 

「カシオピイア?あなたが怪談ネタ持ってたなんて驚いたわ。

あ、ごめんなさい。なんかそういうのに興味なさそうだったから」

 

「聞かせてくれよ。この際怪談でなくてもいいから、お前の話が聞きてえな」

 

「企画の趣旨潰さないで。じゃあお願い」

 

「うん」

 

カシオピイアは軽く咳払いして喉の調子を整えると、

やっぱり無表情とほぼ変わらない緊張した面持ちで語り始めた。

 

「要塞に伝わる、怪奇伝説……“人食い銃”の話」

 

「面白そうじゃん。どんな銃なんだ?」

 

「昔、アースから要塞に、1丁の銃が流れ着いたの。変わった形をしてた。

兵士たちが集まって、それを拾い上げた」

 

「それで、どうなったの?」

 

「ある人が一発試射をした。

するとその銃が、突然弾を連射し始めて、周りの兵士を撃ち殺したの。

弾切れになるまで銃は暴れ続けて、たくさんの兵士が死んだ。

それ以来銃は、呪いの人食い銃と呼ばれて、地下の武器庫の奥で、

誰も触れられないように、保管されてる。……ふぅ」

 

カシオピイアが吐息に長く喋った疲れを乗せて、ロウソクを吹き消した。

 

「お疲れ。物騒な銃があったもんだなぁ」

 

う~ん、せっかくこの娘が頑張って怪談を披露してくれたのに心苦しいんだけど。

 

「あの、本当ごめんねカシオピイア。

それはスラムファイアーっていう安物のサブマシンガンとかで起こる暴発現象なの。

呪いでもなんでもない単なる不良品だから、

廃棄処分するよう皇帝陛下にお伝えしといてくれないかしら」

 

「えっ、そうなの……?」

 

「なんだよー、お前こそ話題潰すなよ」

 

「しょうがないじゃない。

いつまでも政策の決定機関に不安の種を残しておくわけにもいかないし」

 

「……明日、連絡しとくね」

 

しょんぼりした様子のカシオピイア。今は思いつかないけど後で何かフォロー入れておこう。

それにしても、この百物語は最初から上手く行ってない気がするわ。

 

「他に誰かいないのー?」

 

「なあ、もうやめようぜ。退屈しのぎで余計退屈になっちまったよ」

 

「そりゃ、あんたの“川のほとりに白い服の女が出る”ってだけのつまんない話じゃね。

どこのどいつだろうとどーでもいいし」

 

「うっせーな!大体怪談だの呪いだの、何話したって怖くなりようがねえだろうが!

こいつらのせいで!」

 

……なるほど。ルーベルが百物語の盛り上がらない原因を指差した。

 

「拙者の顔に何か付いておるか?」

「何よ。話すのはあんた達の役目。私は聞いてあげるだけ」

 

エリカとピーネが他人事のような顔で言うけど、

確かにこいつらがいたんじゃどんな怪談も怪談じゃなくなるわね。

幽霊屋敷の話をしたって“おばけがいました。はいそうですか”で終わりだもん。

妖怪モノにジャンルを変えても、吸血鬼がここに居るんだから語ったところで今更感が漂う。

 

おまけに2人が全然怖くないから更に怪談の価値を引き下げてる。

エリカは多少強くなったとは言え、いつも寝てばかり。ピーネも今の所単なる生意気盛りの子供。

隣にいる本物がこの体たらくじゃ、

創作伝聞見間違いだらけの怪談で怖がれなくなるのは無理もない。

 

「あんたらが情けないから百物語がつまんないって話をしてんのよ」

 

「なんですって!飲んだくれダメ人間の里沙子に言われたくないわよ!」

 

「聞き捨てならぬ暴言!拙者のどこが情けないというのか!」

 

「ピーネ。だいぶ昔の話になるけど、以前あたしと戦った時に見せた力はいつ頃取り戻せそう?」

 

「それは……まだ絶対割れないシャボン玉の研究が途中だから」

 

「その様子じゃ宇宙戦艦ヤマトが完成するほうが先ね。あとエリカ」

 

「な、なんじゃ!」

 

「ちょっと前にも言ったけどこの世の悪を滅する大義はどこ行ったわけ?

昼間っから寝てばかりで怠けっぷりじゃあたしといい勝負」

 

「だって~……里沙子殿が悪党討伐に連れ出してくれぬから……

拙者とてそれなりの死線はくぐっておるから、機会さえあれば」

 

エリカが人差し指同士を押し付けながらもじもじと言い訳を始める。

ならば逃げ道を断ってあげましょう。

 

「一旦中座させてもらうわよ」

 

「どこ行くんですか~?」

 

「いいからいいから」

 

あたしは私室に戻るとエリカの位牌を掴み、ダイニングに舞い戻った。

 

「待たせたわね」

 

「あー!拙者の大事な位牌を持ち出して!何をする気じゃ!」

 

「いいからいいから。……オンキリキリバッタソワカ。はい完了」

 

二本指で位牌の表面に適当な梵字を書き適当な呪文を唱えると、

この世界のシステムが変更され物語の進行に寄与しない無駄な設定が消えた。

準備が整ったから位牌をピーネに押し付ける。

 

「ほれピーネ、これ持って」

 

「何よこれ」

 

「エリカの位牌」

 

「そうじゃなくて!なんでコレを渡したのか聞いてるの!」

 

「こりゃー!拙者の寝床を勝手に貸し借りするでない!」

 

「それ持ってたらあたしじゃなくてもエリカを外に連れ出せる。

あんたら、明日誰でもいいから賞金首を倒してきなさい。

そうすりゃちっとは悪魔や幽霊としても箔が付くでしょう。

一緒に怪談を語ってもきちんと怖がれるようになるわ。きっと、多分」

 

「冗談じゃないわ!なんで私がそんなこと!」

 

「……いや、ピーネ殿。お頼み申す。ついに拙者にも戦いの狼煙を上げるときが来たようじゃ」

 

予想通り嫌がるピーネだけど、エリカが食いついてきた。

チャンスさえあればやる娘だと信じてたわ。1ミリくらい。

 

「そーそー、その意気」

 

「はぁ!?あんた里沙子に乗せられてるってことわかんないの?私は嫌よ!」

 

「断るんなら残り96話責任持って語ってもらうわよ」

 

「私に何の責任があるってのよ!絶対にイヤ!」

 

「あんたらがポンコツであるが故に百物語が成立しない」

 

「失礼な女ね!私のどこが……」

 

「ピーネさん、ひとつよろしくて?」

 

終わりの見えない言い争いに幕を下ろしてくれたのは、パルフェム。この娘は本当頼りになる。

扇子で口元を隠しながらピーネにちらりと視線を送る。

 

「何よ。里沙子を黙らせるのに忙しいんだから邪魔しないで」

 

「伺いますが、最近ピーネさんにこれと言った出番はありましたか?」

 

「えっ……?」

 

「前回のように最後の方でちょろっと出るのではなく、

丸々1話あなたをテーマにした話はあったのかと聞いているのですが」

 

「そりゃあ、ないけど」

 

「ピーネさん。あなたこのままでは、ただの村人Aになってしまいますわよ」

 

「村人Aですって!?」

 

「あなたがこの教会にいらした当時は出番も多く、

ピーネさん主体のエピソードも結構ありましたが、最近では時々会話に交ざるくらい。

この辺りで存在をアピールしておかないと、読者に忘れ去られてしまうと思いますの。

ただでさえ更新頻度、即ち出番の絶対数が減っているのですから」

 

「ええっ…そんなの、いや……」

 

急におろおろとしだすピーネ。いいわよパルフェム、もっとやれ。

 

「ピーネさんほどの恐ろしい吸血鬼が賞金首なんかに後れを取るわけありませんよね?」

 

「あ、当たり前じゃない!」

 

「ピーネ殿。恐れることはござらん。拙者が助太刀致す。大船に乗った気でいるが良い」

 

「誰も怖がってなんか!……いいわよ、やるわよ。やればいいんでしょ!」

 

「よーし決まりね!みんな明日はピーネとエリカの出陣式よ。拍手拍手~パチパチ!」

 

無理矢理テンションを上げて2人に拍手を送ると、

皆も追随して何か腑に落ちないような顔で拍手を始める。

 

「まあ…無理はすんなよな。別に百物語なんかしなくたって死ぬわけじゃねえんだし」

 

「戦い傷つくことがあればすぐに戻ってくださいね。わたしが回復して差しあげますから」

 

「がんばって」

 

「あの、わたくしは何もできませんが、せめておいしいお弁当作りますね?」

 

「エリカさんとピーネさんの武勇伝が楽しみですわ~」

 

「わかった……よーし、やってやろうじゃない!エリカ、ふたりで一番強い賞金首を倒すわよ!

百物語で里沙子を死ぬほどビビらせてやるんだから!」

 

「うむ。久々に百人殺狂乱首斬丸の出番じゃ!腕が鳴るわい!」

 

やんややんやと盛り上がる中、あたしはひとりほくそ笑む。

計画通り。この二人は扱いが容易いわ。

こっそり黒い笑みを浮かべていると、誰かが軽く袖を引っ張る。エレオノーラだった。

 

「里沙子さん。ついノリで賛同してしまいましたが、本当に大丈夫なのでしょうか。

ピーネさんは吸血鬼としてはまだ子供で……」

 

「人間としてもまだ子供だから心配ないわ。ハッピーマイルズに大した賞金首なんかいないって。

いたとしても自分達で手に負えそうなやつ適当に選ぶでしょ」

 

「だといいのですが。あと、先程唱えていた呪文は新しい魔法ですか?」

 

「ああ、そんなんじゃないわ。お話を進めるために邪魔な設定を取っ払うただの儀式。

冒頭の怪談でも話したけど、このくらいの禁じ手を使わないと物語が作れないくらい

脳の働きが鈍ってるのよ」

 

「無理をせずにバランスの良い食事と適度な運動で地道に体重を落とすべきだと思うのですが」

 

「さっさと面倒な通院生活終わらせたいみたいよ。

1日リンゴ1個で23kg痩せた俳優が実在するんだからなんとかなるんじゃない?」

 

「肥満とは因果な病ですね……」

 

暗いダイニングとは対照的に雰囲気が明るくなった。

確かにピーネのまとまった出番は久しぶりね。

どうなることかわからないけど、あたしもちょっと楽しみになってきた。

 

 

 

 

 

いよいよ旅立ちの時ね!教会の前でみんなが私達を見送る。準備はオーケー。

里沙子に借りたショルダーバッグにはエリカの位牌と愛用の魔導書、

ジョゼットが作ったお弁当が入ってる。

 

「行ってくるわ。大物を仕留めて来るから、期待してなさいよ!」

 

「お弁当を食べるときには、ちゃんとおしぼりで手を拭いてくださいね~」

 

「わかってるわよ!子供扱いしないで!」

 

「昨日も言いましたが、怪我をしたらすぐに戻ってきてくださいね」

 

「ふん、私がそんなヘマをするとでも?余計な心配だわ」

 

「ピーネさんが勝利を収めたら、お祝いとして喫茶店でパフェをご馳走しますわ」

 

「ウインナーコーヒーもつけなさい」

 

「はいはい。いくらでもお召し上がりになって」

 

「ほらピーネ。大事なもの忘れてる」

 

最後に、私達が旅に出る原因になった奴が前に出てきて何かを差し出してきた。

小袋に入った何かと、多分どっかから拾ってきた木の枝。

 

「気をつけて行ってらっしゃい。これ、旅立ちの用意ね。

これから数話はあんた達が主役なんだからアゲリシャスな展開頼むわよ」

 

「誰のせいで行く羽目になったと思ってんのよトンチキ女。で、これ何?」

 

「ドラクエでも旅の始まりには王様からもらうものでしょう。軍資金とひのきのぼう」

 

とりあえず受け取った小袋を開けてみると500Gが入ってる。

お金はいくらあっても困らないからもらってあげたけど、木の枝は目の前でへし折ってやった。

 

「あ、何するのよ!ショボくても武器は武器なのに!」

 

「馬鹿にしないで!爪で引っ掻いたほうがまだマシよ!」

 

「物を大切にしない子は天国に行けないわよ」

 

「悪魔が天国行きなんて死んでも御免だから!あんたも脳に栄養足りてないんじゃない!?」

 

私の悪魔としての再スタートが里沙子のせいで幸先悪いわ。

思いっきり悪意を込めて親指を下に向けてやった。

 

「まあ!どこでそんな悪いこと覚えてきたの?お姉さんそんな悪い子に育てた覚えない」

 

「あんたがしょっちゅうやってることでしょうが!里沙子にまともな子育ては無理ってことよ!

育てられた覚えもない!」

 

「ピーネ殿~そろそろ出発するでござるよ。拙者、先程から武者震いが止まらぬ」

 

「文句なら里沙子に言ってよね!じゃあ、みんなバイバイ!」

 

まだ教会から一歩も動いてないのに無駄に叫んで疲れちゃった。

半ばやけくそ気味に別れを言うと、イライラを振り捨てるように緩い坂を駆け下りる。

とりあえずハッピーマイルズの街に行って賞金首の情報を集めなきゃ。街道に出て東に進む。

歩きながら旅の相棒、エリカと今後の作戦を立てる。

 

「まずは街に行くでござる。駐在所に賞金首の手配書が貼られているはずでござるよ」

 

「とにかく一番強いやつをやっつけるのよ!

里沙子には私の恐ろしさを1から教育する必要があるわ!」

 

「無理は禁物でござるよ。

駆け出し賞金稼ぎの目安としては1000G辺りの獲物が相場と聞いたことがあるのじゃ」

 

「だーめ!そんなしみったれた額じゃ誰も納得しない。最低10000G以上を狙うわよ!」

 

「まぁ…ここで皮算用をしても始まらぬ。誰を討ち取るかは手配書を見て改めて考えようぞ」

 

「まったく弱気なんだから。今から怖気づいてるようじゃ大物になれないわよ」

 

「勇気と蛮勇は違うと先人の教えが……」

 

「待ちなそこのチビ助!」

 

私達が綿密な作戦会議をしていると、唐突に邪魔が入った。汚い格好をした追い剥ぎが3人。

使い古したロングソードを構えて通せんぼしてる。

 

「お嬢さん、ここを通りたかったらお小遣い置いていきな!」

「でへへ。あ、あの娘カワイイなあ。悪魔っ娘マジ萌え~」

「ふん、里沙子の教会に住んでる酔狂だろう。あいつ自体は大したことない」

 

頭ったま来た!誰が大したことないですって!?

 

「ちょっと。あんた達この私を誰だと思ってるわけ?

ピーネスフィロイト・ラル・レッドヴィクトワールの恐ろしさを知らないなんて

無教養にも程があるわ!」

 

「あの、拙者は……」

 

「うひひ、この生意気そうなところもそそりますなぁ!」

 

うう、真ん中の変態が気持ち悪い。まあいいわ。これが私の初陣。

ショルダーバッグから魔導書を取り出して何度も読んだページを開く。

 

「覚悟なさい、愚かな人間共よ。

悪魔族でも上位に位置する吸血鬼に歯向かった報い、その身で……」

 

「待つでござるよ、ピーネ殿!」

 

エリカがあたしの肩を掴んで開戦を中断。なんなのよ、もう。

 

「何、今いいところなんだから邪魔しないでよ」

 

「拙者の名乗りがまだでござる」

 

「別にいいじゃん、こんな雑魚相手に」

 

「いかぬ、いかぬ!剣の極意は礼に始まり礼に終わる。

それに、悪党を成敗して名を上げたいのは拙者も同じでござる」

 

「……はあ、さっさとしてよね」

 

ごちゃごちゃ口論するより好きにさせたほうが早そう。

エリカが前に出てなんとか首斬丸とやらを掲げて追い剥ぎ達に宣言する。

早いとこ街に行きたいんだけど。

 

「やーやー我こそは不知火家の名を継ぎしラストサムライ、シラヌイ・エリカである!

いたいけな少女を喰い物にする外道共、いざ尋常に勝負!」

 

……うん、私でもわかる。痛いほどの沈黙。

しばらく時間が止まった後、追い剥ぎ達が腹を抱えて大笑いを始めた。

 

「あははは、風船が喋ってるぞ!」

「ぼく的にはあれはナシかなぁ。何キャラ目指してるのかわかんない」

「これじゃあ刀と幽霊のどっちが本体なのかわからんな、ハハッ!」

 

あー、エリカが刀を持ったままプルプル震えてる。真っ青な顔を真っ赤にして今にも泣きそう。

 

「ドンマイ。泣くんじゃないわよ」

 

「な、泣いてなど、泣いてなどおらん!!うわああーーん!」

 

エリカは絶叫すると刀を構えて追い剥ぎ達に突撃。

その目から光るものが散って少し綺麗だった。虹がかかるといいな。

あ、肝心なときにどうでもいいこと考えちゃうことがよくあるって里沙子が言ってたけど

こういうことなのかしら。あいつの気持ちがちょっとでも分かった自分が嫌。

 

──無刀圧潰術、飛燕爆撃打!!

 

哀しみを込めた叫びを上げると、

刃を収めたまま首斬丸の鞘で突き、薙ぎ払い、兜割りをお見舞い。

刀を鈍器にした連撃を浴び、追い剥ぎ達が一撃で地に転がる。

 

「げえっ!」「きゃぶっ!」「がはっ!」

 

あら、結構やるじゃない。本命との戦いでも期待できそうね。

勝ったものの心に傷を負ったエリカは伸びてる追い剥ぎを前にただ息を切らしてる。

ここはリーダーとして励ましてあげなきゃね。

 

「よくやったわ。あんた意外と強いのね」

 

「拙者は、風船なんかじゃない……」

 

「わかってるわよ。役立たずなら連れてこなかった。私は鑑識眼も確かなのよ。

ほら、気を取り直して街に行きましょう」

 

「……うむ」

 

また歩き出す私達。しばらくエリカは無口だったけど、

ハッピーマイルズの街に着く頃にはなんとか元気を取り戻していた。

 

「ええと、駐在所は市場の向こう側にある広場だったわね。前に来たことがある」

 

「左様!いつか拙者と死神が死闘を繰り広げた激戦の地である!」

 

何のことかわからなかったけど興味がなかったから聞かなかった。

人混みをかき分け、広場に出る。いつも里沙子が酒を飲んでる酒場の隣にあるオンボロ小屋。

スライド式ドアの奥で保安官が居眠りをしてる。

 

「ここね!」

 

そしてようやく辿り着いた。指名手配の掲示板にはいろんな悪人面が軒を連ねてる。

さぁて、私達の餌食になるのはどいつかしら。

 

「まずはターゲットを決めなきゃ」

 

「承知!首斬丸に秘められし亡霊達も悪を討たせよと訴えておる」

 

今日はここまで。期待してて、お楽しみはこれから。ここから私達の冒険が、始まるのよ!

 

 


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