面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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賞金首の作り方はメタルマックスを意識してるらしいわ。

あーもう!楽しくない。全っ然楽しくないわ!

いろんなところを冒険して、極悪賞金首をパパっとやっつけて、

人間たちが私の活躍ぶりを褒め称える。

そして私の恐ろしさを思い知った里沙子は泣きながら一人部屋を明け渡す。

……という完璧なプランがパーよ!結局なんにもできないままお昼になっちゃった。

広場のベンチに座ってジョゼットが作ったお弁当を食べてるの。

 

こうなったのも全部里沙子のせいよ。自分の話がつまらないのを私のせいにして!

なんで私が百物語なんておままごとに付き合わなきゃいけないんだか。

あ、違うわね。原因はもうひとりいる。

サンドイッチを一口かじり里沙子にもらったお小遣いで買った牛乳を飲みながら

隣でフワフワ浮いてる奴を見た。

 

「……何でござるか?昼食を取ったら帰るでござる。

まさか里沙子殿も本気でピーネ殿に賞金首を倒させようとは思っておらんじゃろう。

いつもの気まぐれじゃ。乗せられた拙者にも責任はあるが」

 

「ふざけないで!あいつの性格知らないの!?

このままおめおめと帰ったらここぞとばかりに馬鹿にしてくるに決まってるでしょ!

大体何の収穫もないままお昼になっちゃったのはあんたのせいなんだからね!」

 

「あれはピーネ殿を思っての助言じゃ。

そなたが無い物ねだりばかりしておるから時間を食ってしまっただけの話」

 

「無くない!あるの!私に倒されるにふさわしい賞金首が絶対!」

 

「どう言えば納得するのやら。誰か助けてほしいでござる」

 

そう、エリカ。

困ったような顔をしてるけど、私達が駐在所で足踏みする羽目になった原因はこいつ。

せっかく上がったテンションが下がりきって全然アゲリシャスじゃない。

そもそもアゲリシャスって何!?

 

前回は賞金首の手配書が貼られている掲示板に来たところで一時中断したわね。

悪党連中の似顔絵を眺めていると胸がわくわくした。どれも高い賞金が設定されてるの。

別にお金が欲しいわけじゃないけど、金額イコール強さ。

強い奴を倒せばみんなが私に惚れ直すってものよ。

だから私が丁度いいターゲットを決めようとしたのにこいつがうるさいのなんの。

ちょっと聞いてよ、信じらんないから。

 

 

 

駐在所の前で私は堂々と仁王立ちして制裁を下すべき賞金首を選んでたの。

 

『さあ!私の獲物はどこ?』

 

『ふむ。さっきも言ったでござるが、1000G辺りのものが手頃であろう』

 

『だーめ。弱っちいのじゃ日雇い仕事と変わらないじゃない。1万超えは絶対条件よ』

 

『急がば回れとも言うでござる。ピーネ殿はまだ実戦経験はないのでござろう。

まずは一番弱い者と当たってみて戦いの感触を掴むのも手じゃ』

 

正直ちょっと痛いところを突かれた。本気で戦ったのって、かなり昔に

黒い魔女から魔法を掛けられて里沙子に襲いかかった時だけなのよね。

実際賞金稼ぎってどうやるのかしら。

 

『そ、そうね。別に一人しか倒しちゃいけないなんて言われてないんだし?

この際ここに貼ってあるやつ全滅させちゃうってのもありかもね~』

 

『なしでござる。今のピーネ殿の実力に見合った相手を拙者が選んでしんぜよう』

 

『何言ってるの!待ちなさい、勝手に……』

 

『ほうほう。これなどどうじゃろう!』

 

エリカが私の話も聞かず勝手に賞金首を選び始めた。で、一通り眺めて指差したのは……

 

○屍鬼 ゾンビウォリアー 800G

殉職した騎兵隊の死体が蓄積したマナの力で暴れ出すようになった。郊外の墓場で目撃。

手強い相手ではないが銃を所持しているため油断は禁物。

 

呆れた。なにこれ。さっそくエリカに文句をぶつける。

 

『とんだ雑魚じゃないの!

それに金額800G?今朝もらった小遣いと大して変わらないでしょう!』

 

『お金を稼ぐということはそれだけ大変ということでござる。

社会勉強のつもりで墓場に出かけようぞ』

 

『嫌よ。自分の相手は自分で選ぶ。そうねえ……

うん、こいつなら相手をしてやってもいいわ』

 

金額も実績も申し分ない獲物を見つけた私はその手配書をパシンと叩いた。

 

○幻視 ミスター&ミス・ドッペル 19,500G

何もかもが謎。男だったという者もいれば女だったという者もいる。

複数人なのか単独犯なのか、そもそも人間か魔物かも不明。

ただ共通している点は、出会った者に完璧に化け襲いかかってくるということ。

多人数で討伐に行く際はフレンドリーファイアに注意。領地西端の古城に出没。

 

『いかぬ、いかぬ!ピーネ殿には早すぎる相手じゃ。

何人もの手練れが返り討ちに遭っているようじゃし、何より情報が足りておらぬ。

正体すら分からぬ相手と命のやり取りをするなど以ての外』

 

『うるさいわねえ。だったらどいつがいいってのよ。さっきの800G以外で』

 

『金額が不満ならこやつで手を打つでござる。

もし敵わぬ相手であっても拙者が足止めすれば安全に逃げることはできよう』

 

『今から逃げること考えてちゃ世話ないわ。で?どんなやつよ』

 

エリカが見つけた候補の似顔絵を見た時の私は、きっと変な顔をしてたと思う。

 

○乱暴者 マッスルブライヤン 4,980G

フライパンを素手でクレープのように丸める怪力を持つマッチョマン。

新製品の黄色いフライパンをへこますことすらできなかった逆恨みから悪の道に転ぶ。

殴られると普通に死ぬので舐めてかからないように。時々北部の荒れ地で筋トレをしている。

 

なにこれ。今日2回目のなにこれ。筋肉隆々だけど単なるスキンヘッドのおっさん。

 

『ふざけてるの?私は、真面目に賞金稼ぎをやりたいの!

こんなの、フライパンの製造会社が新製品の宣伝に送り込んだ当て馬に決まってる!』

 

『拙者も至って真面目でござる。

よろしいかピーネ殿。賞金首の金額にはそれ相応の意味があるでござる。

この5千に近い微妙な金額も、決して安くはござらん。

つまり不用意に挑めば命を落とすということ。

今回はこやつの様子を見て大人しく家に帰るでござる。それがよい』

 

『嫌ったら嫌!あんたこそこいつで手を打ちなさいよ!ドッペルなんとかよりはマシでしょ?』

 

『しかしもう拙者達だけでどうにかなるような者は……う~む』

 

難しい顔をして腕を組むエリカ。何よ、また文句つける気?

 

○破戒僧 フェイクバイブラー 15,000G

大聖堂教会から破門された牧師が賞金首に身を落とした存在。

通りがかった者を強引に呼び止め、独り善がりな聖書の解釈を無理やり聞かせた挙げ句、

高額な献金を迫る。断ると思想教育と称しモーニングスターで殴りかかってくる異常者。

モンブール領へ続く街道で旅行者を待ち構えている。

 

『“妥協”を覚えたことを成長とみなすべきか向こう見ずをたしなめるべきか迷うのじゃ』

 

『なんなのよあんたさっきから!私の意見にケチばっかりつけて!

もういい、エリカなんか知らない!

こいつを沈めてピーネスフィロイト・ラル・レッドヴィクトワールの名を世界中に知らしめる!』

 

『はぁ、今度はどいつでござるか?』

 

○聖域空母 イル・レインカルナシオン 200,000,000G

国際手配中。時空を超えて放浪する巨大な艦船型モンスター。

甲板に無数の天使と悪魔が乗艦し何かを監視しているようだ。

彼らが呉越同舟する理由は不明だが、人間を見つけ次第総員が一斉に羽ばたき、

情け容赦なく抹殺することから目的は同じと見られている。

ミドルファンタジアに現れること自体稀だが、

運悪く遭遇した場合は死を覚悟するしかないだろう、と唯一の生存者は語る。

諸元:全長約320m、速力約28ノット

 

『気は確かでござるか!?数字をよく見るでござる!

こやつは既に人間だのモンスターだのと言った概念を超越した、ある種の神に近い存在じゃ!

こんなものとまともにやりあっては命がいくつあっても足りぬ!』

 

『うるさいうるさいうるさーい!どんな手を使っても絶対にこいつを倒すのー!

名誉は今、私が欲しい物ランキング第1位なのよ!』

 

『里沙子殿のようなことを言い出したらお終いでござる!』

 

その時、ガラガラと駐在所のドアが開いて中から保安官が出てきた。

 

『こらー!駐在所の前で騒いではならん!安眠妨害罪で逮捕するぞ!』

 

『ごめんなさい』『誠に申し訳無い』

 

 

 

まぁ…多少頭に血が上ってたのは認めるわよ。でも否定ばっかりのエリカだって悪い。

どうしよう。このまま何もしないで帰るしかないのかなぁ。

私はサンドイッチの最後の一切れを口にしようとした。

 

すん……

 

はたと昼食を運ぶ手が止まる。どこからか嗅ぎ慣れた臭いが漂ってくる。

エリカも不吉な気配を感じ取ったようで静かに刀の柄を握る。

 

「あんたも気づいた?」

 

「うむ。これは只事ではござらん」

 

すると、また駐在所のドアが開いて保安官が何かを掲示板に貼り付けた。

 

「ええ~こいつは、と。まぁ、この辺でいいだろう。

一仕事終えたらまた眠くなってきた。少し休むとしよう」

 

保安官が戻った後、私達は掲示板の前に戻って彼が貼って行った新しい手配書を見た。

 

○殺人ピエロ ヤミィケーク 11,100G

帝都に端を発した連続殺人事件の犯人。緊急手配中。ピエロの姿をした殺人鬼。

被害者は数十名に及ぶ。詳細は不明ながら遺体の痕跡から多様な凶器を所持している模様。

犠牲者のそばには必ず「I’m Yummy-Cake!」と書かれた名刺が残されている。

ハッピーマイルズ領に逃亡した時点で目撃情報が途絶えた。

 

「……これは単なる勘なんだけどさ」

 

「いや、きっと勘ではござらん。拙者もピーネ殿も、感じているものは同じ。

こやつがハッピーマイルズに逃げ込んだことと無関係ではなかろう」

 

「決まりね」

 

「実のところ気は進まぬが、賞金額を見てもこれ以上適当な相手は見つからぬであろう。

ピーネ殿、約束してほしいでござる。深追いはせぬ。身の危険を感じたらすぐに逃げる」

 

「わかったわ。じゃあ賞金稼ぎピーネ、本格始動ね!」

 

ようやく倒すべき相手が決まると、落ち込み気味だった気分が高ぶってやる気が出てきた。

私はさっきから吸血鬼としての本能に訴えてくる臭い、

つまり血の臭いを嗅ぎ分けて移動を始める。

 

大体の方向は東。まずは市場を通って広場から出る。

役所前に逆戻りしたところで立ち止まり、慎重に不気味な臭いが漂ってくる方角を見極める。

これは……北の方向ね。

形のない臭いの痕跡を見失わないよう、ゆっくりと大通りを進んでいくと、

この前里沙子が入院してた病院が近づいてきた。ふん、銃ばっかり集めてるから大怪我するのよ。

今それはいいとして、しばらく歩いて交差点に差し掛かる。

 

「エリカも感じる?」

 

「無論。徐々に気配が近づいておる」

 

血の臭いが強いのは東の方。ただの血じゃない。恐怖、苦痛、絶望。

そういう不気味な負の思念が乗せられた、何人もの血が混じる故意による出血。要するに、殺人。

ごくりと自然につばを飲んでいた。私達は交差点を右折すると、再び真っ直ぐ道を進む。

この先は確か会社の建物が集まってる区域だったと思う。図書館で地図を見たことがある。

 

「本当にピエロがこんなお堅いところにいるのかしらねぇ」

 

「間違いなかろう。刺すような気配が拙者の肌でも感じられる」

 

軽口を叩いてみるけど、この道の向こうから迫ってくる

色のない悪意のようなものに早くも気圧されていた。

でも、ここまで来て引き返すわけには行かないし、

賞金首の正体を見てみたいという好奇心も捨てきれなかった私はひたすら歩き続けた。

 

やがて、幅の広い道路の両脇に高い建物がずらりと並ぶ地区にたどり着くと、

悪魔の目にはハッキリと見えるほど深い紫の淀みが

私達を導くかのように裏通りに続いているのが感じ取れた。

私もエリカも、もう黙ってただ淀みを辿る。

 

徒歩で3分もかからなかった。奥まった場所に建つ5階建ての廃ビルには

“貸しビル・テナント募集中”の看板が掛けられていたけど、もう何十年も人が入ってない様子。

壁は塗装が剥げてひび割れだらけ。

ほとんどの窓はガラスが割られていて、木の板を打ち付けて雑に塞がれていた。

一応玄関に回ってみたけど当然シャッターが閉まっていて中に入れない。

 

だけど私にはわかる。この建物全体を紫の悪意が取り巻いてる。

ここに賞金首がいるのは間違いない。どうにかして入らなきゃ。

私は精神を研ぎ澄まして改めて建物を観察。

すると、淀みが細い線のような形になって漏れ出しているのが見え、

それを追いかけていくと、ゴミ捨てコンテナや廃材が捨て置かれた建物の裏手に出た。

 

裏口のドアの隙間からガスのように紫の淀みが吹き出している。きちんと閉まっていない様子。

ペンキが劣化して錆びきった通用口と思われるドア。思い切ってドアノブに手をかけてみる。

回った。

管理者が鍵を掛け忘れたのか、鍵が壊れているのかわからないけど、とにかくこれで中に入れる。

 

「準備はいい?開けるわよ」

 

「承知!」

 

ドアノブを引くと、昼間なのに暗い廊下が視界に広がった。恐る恐る足を踏み入れる。

内部はホコリだらけで空気が悪すぎるわ。

時々むせながら注意深く辺りを観察しつつ廃ビルを探索する。

各部屋の扉は取り外されていて、窓の隙間から射し込む光もあって、

入ってしまえば意外にも視界は確保されていた。

 

元々建設会社の事務所だったようで、

放置された事務用椅子には“安心安全のバラック建設”という古ぼけたシールが貼られたまま。

それ以外の備品はほぼ全て撤去されていて、賞金首が隠れるような場所はない。

 

「ここじゃないみたい。上に行きましょう」

 

「うむ。油断せずに進もうぞ」

 

2階に上がると、また賞金首のものらしい気配が濃くなった。

ここも念入りに調べてみたけど、見つかったものと言えば、

他階層への連絡に使うラッパのような真鍮製の通話口、色あせて読めなくなった書類、

割れて落ちた天井の石材、それくらい。諦めて3階へ進む。

 

その後、3階から5階まで探してみたけど、1階と様子は大して変わらなかった。

ただ違うのは階段を上る度にヤツの距離が近くなることだけ。

正確な位置はわからないけど、私達にはその存在を感じ取ることができる。

 

「さーて、いるとしたらあとは屋上しかないわね」

 

「くどいようじゃが、くれぐれも油断せぬよう。怪我をせぬうちに撤退。頼んだでござる」

 

「わかってるって。行くわよ。……あら」

 

私は、屋上へ続く脆いコンクリート製の階段を上ろうとした。

すると、足元に何かが落ちているのを見つけて立ち止まる。白い小さな紙片が3枚くらい。

紙質はスベスベしていて新しい。拾ってみると「I’m Yummy-Cake!」とだけ書かれていた。

 

「”ぼくはヤミィケークだよ”か……」

 

「もう間違いないでござる」

 

名刺を捨てて改めて一歩一歩段差を踏みしめ、とうとう屋上へ出る扉がある踊り場に出た。

いるわね。ドアの向こうに賞金首。殺人鬼との対面を前にして鼓動が速くなる。

決意を固めてドアノブを握ると、奇妙な歌声が聞こえてきた。

 

幸せなら 手をたたこう

幸せなら 手をたたこう

幸せなら 態度でしめそうよ

ほら みんなで 手をたたこう

 

甲高い男の声。

覚悟を決めてドアを開くと、そこには手配書で見た賞金首が歌いながらダンスをしていた。

真っ赤なアフロにピエロの化粧。ヒダがたくさん付いて黄色を基調としたカラフルな衣装を着て、

つま先が膨らんだクラウンシューズを履いたこいつは紛れもなく──

 

「そこまでよ、ヤミィケーク!!」

 

勇気を出して屋上に飛び出すと、ピエロが歌とダンスを止めて振り向いた。

そしておしろいで真っ白に塗った顔にダイヤの形の目を描き、

口角の高い分厚い唇をメイクした顔でニッコリと笑いかけてきた。

 

「こんにちは、お嬢さんたち!そう、ぼくが幸せを届ける子どもの味方、ヤミィケークさ!」

 

こいつが、数十人を殺した賞金首。紫の思念と血の臭いは奴から放たれている。

震えそうになる膝にしっかり力を込めて私は叫んだ。

 

「何が子供の味方よ!ただの人殺しが誰を助けたっていうの!?」

 

「そうでござる!お尋ね者に正義などない!大人しくお縄につくがよい!」

 

すると奴はがっかりした様子で大げさに肩を落とし、悲しそうな表情を作った。

 

「オォーウ……やっぱり初対面の人にはわかってもらえないんだね。

ぼくが創りたい子どもだけのワンダーランドを。

軍人さんたちはぼくを人殺しだ悪党だって決めつけてるけど、

ぼくはただ子ども達を悪い大人から守ってるだけなんだ」

 

「守る、ですって?」

 

「そうさ。この世界には子ども達を傷つけて面白がったりお金儲けをしたりする

悪いやつらがたくさんいる。

ワンダーランドを創るためにはそんな大人たちをやっつけて

ここを平和な国にする必要があるんだ」

 

「愚かなことを!お主がしていることは単なる私刑じゃ!

無理が通れば道理が引っ込む。法を通さぬ暴力行為は薄汚れた自己満足と知れ!」

 

珍しくエリカが怒鳴ると、ヤミィケークが両手を挙げてまた大げさに驚いたように演じて見せた。

 

「うわわわ!大きな声で怒らないでよ、怖いじゃないか。

だったら見ておくれ。ぼくがこれからヤミィ・マジックで悪い大人を倒してみせるからさ!」

 

「悪い大人って誰のことよ?」

 

「あっちを見てごらん」

 

ヤミィケークが指差した方向には広い道路を挟んで斜め向かい側にあるビル。

高さはこの建物と同じくらい。

最上階が一面ガラス張りで、中で上等なスーツを着たおじさんがゴルフの練習をしてる。

 

「あれがどうしたってのよ」

 

「あの人が経営してる会社では危ない銃をいっぱい作ってるんだ。

彼の銃のせいでお父さんやお母さんを亡くした子どもがたくさんいる。

そんな悲しいことは二度とあっちゃならない。社長を倒して会社を止めなくっちゃ」

 

「バカなんじゃないの?私にだってわかるわよ。

社長を暗殺したところで会社がなくなるわけじゃないし、銃が人を殺すわけじゃない。

気が狂った人殺しがいるから殺人が起こるの。あんたみたいなね!」

 

今度は私が歪んだ正義を否定してやると、奴がめそめそと泣くジェスチャーをした。

 

「えーん、ひどいよー。だからって諦めちゃったら、世界に悪がはびこるじゃないか~。

見てて、ぼくは子ども達のためなら、何だってできるんだ」

 

「社長の暗殺も、でござるか?無理でござる。この辺りの会社は警備も厳重である」

 

「だいじょ~ぶ!ぼくのおもちゃ箱には、不思議な道具がたくさんあるんだ!」

 

次は表情を笑顔に変えて、そばに置いてあった大きな木箱を開けた。

ペンキで虹色に塗られ、スマイルマークや花の絵が描かれた箱をゴソゴソと探り、

何かを見つけると嬉しそうに笑って“それ”を取り出した。

 

「ジャジャーン!ぼくの自慢の“魔法のステッキ”さ!」

 

魔法のステッキとやらを見て一瞬呆然となった。

あれは確か里沙子も持ってた……スナイパーライフル!

ヤミィケークはライフルを構えてスコープを覗く。

人を殺す銃と人を笑顔にするピエロの組み合わせが不気味なアンバランスさを醸し出している。

 

「アッハハハ!このスイッチを押すと、遠くの場所で真っ赤な花が咲くんだ!行っくよー!」

 

奴はケタケタと笑いながら社長に狙いを定める。ダメよ、このままじゃまた犠牲者が!

私はショルダーバッグから魔導書を取り出して、付箋を貼ったページを開き、

早口で詠唱を始めた。

 

「命儚き水の精!願わくば其の命、我らに美として還り給え!バブルエリア!」

 

魔法を唱えると周囲に大量のシャボン玉が湧き上がり、

ヤミィケークというより私達全員の視界を遮った。でも、狙撃を阻止できたならそれでいい。

 

「あらぁ!?」

 

奴が素っ頓狂な声を上げて構えを解いた。同時にエリカも刀を抜く。

 

「エリカ殿、よくやったでござる。不本意ではあるが、逃げるわけにも行かなくなった。

放っておけばこやつにあの男性が殺される。ここで無力化するしかなかろう」

 

「言われなくても!」

 

シャボン玉が止むと、ヤミィケークがまた悲しそうな顔をして立っていた。

 

「……がっかりだよ。君も子どもなのに、どうして悪い大人の味方をするんだい?

もしかして君は悪い子どもなのかい?

だったら、君をワンダーランドに連れて行くわけには行かないよ」

 

「あんたの作った気色悪い世界なんてまっぴらごめんよ!

殺人ピエロ、ヤミィケーク!私に倒される覚悟はいいかしら!?」

 

「ケンカは悪いことなんだよ?悪い子は、おしおきしなきゃダメだって昔パパが言ってたっけ。

だからぼくもそうするよ。残念だけどね」

 

「ピーネ殿、来るでござる!」

 

ヤミィケークが“おもちゃ箱”に手を突っ込んでまた何かを取り出し、

私達も魔導書や刀を構えた。それがいわゆる修羅場の始まりとなるとは考えもしてなかったけど。

 

 

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