面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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PS5っていくらくらいするのかしら。

今、私の手の中には3枚のメダルがある。

1枚は見慣れた金貨。2枚目は白に近い輝きを持つ金属の硬貨。

最後は微かに魔力を放つ青銅色の不思議な硬貨。

ベッドに寝転がりながらそれらを改めて手の上で転がしてみる。

 

これ全部で11,100Gに相当するらしい。もう私はお金持ちだし街の有名人の仲間入り。

だけど私には大切な何かが小さくなってしまったような気がして、胸のもやもやが消えない。

またひとつ寝返りを打ってあの後のことを思い出す。

 

 

 

ヤミィケークとの激闘を終えた私達に、里沙子が将軍って呼んでる

鎧の怪人みたいな人が駆け寄ってきた。

 

『うおおお!これは一体何事か!?……おお、君達はリサの家に住んでいる、確か』

 

『ピーネ。ピーネスフィロイト・ラル・レッドヴィクトワール』

 

『拙者はシラヌイ・エリカ。以後お見知りおきを』

 

『自己紹介痛み入る。我はシュワルツ・ファウゼンベルガー。この地の将軍を務めている。

しかし……不審火の通報を受けて来てみれば、あやつは緊急手配中の賞金首。

ひょっとして君達が倒したというのか!?』

 

里沙子から話には聞いてたけど、本当この人は声がでかい。

近くで喋ってると鼓膜がじんじんする。

で、どうしよう。確かに戦いはしたけど、結局彼は事故死だった。

……彼の人生を垣間見て賞金稼ぎという当初の目的に意味を感じなくなっていた私は、

ありのままの事実を将軍に説明する。彼は頭をひねって考え、そして言った。

 

『胸を張るがいい、勇気ある少女達よ!あやつが悪党にふさわしい結末を迎えたのは、

君達の猛攻に追い詰められたからに外ならない!』

 

『よかったでござるな。もうピーネ殿の実力は将軍殿のお墨付きじゃ』

 

偉い人やエリカが褒めてくれたけど、なぜか嬉しくなかった。

悪党。ヤミィケークは何十人も殺してる。

そう呼ばれるのは当たり前なんだけど、釈然としない。

どう言えばいいのか、悪かったのは本当に彼一人だけだったのか。

頭から振り払おうとしてもその疑問から逃れられない。

何も言えずに立ち尽くしていると、部下の兵士が将軍にキビキビと歩み寄り敬礼した。

 

『ご報告します!消火活動の準備が完了しました。まもなく消防班が突入します。

同時に賞金首ヤミィケークの身元及び死亡も確認』

 

『ご苦労。持ち場に戻ってくれ』

 

『はっ!』

 

『うむ。ピーネ、エリカ。喜ぶといい。君達は確かに賞金首を討伐した。

領主から正式に懸賞金が支払われるであろう。我が保証する』

 

『どうも……』

 

『金額は確か11,100Gでござったな。全てピーネ殿が持っているとよい。

拙者には必要ないものであるし、サムライとしての本懐を果たせれば十分でござる』

 

『ありがと』

 

それでも浮かない顔をしている私に気を遣ったのか、

将軍が肩に手を置いて今度は穏やかな口調で語りかけてきた。

 

『賞金首であろうと命を奪ったことに対する呵責を感じる気持ちはわからぬでもない。

ましてや君のような若者であれば尚更。

だが、あの男を野放しにしておけば更に多くの命が失われていた。

君は未来の犠牲者を救ったのだ。今は心の整理がつかぬであろうが、これが事実。

どうか忘れないでほしい』

 

『……うん』

 

『今日は疲れたであろう。もうじき日も暮れる。諸々の手続きは我に任せて帰られるがいい。

賞金は後日書留で送らせよう』

 

『将軍殿、お気遣い誠にかたじけない。お言葉に甘えて拙者達はこれで失礼致す』

 

『うむ。ゆっくり休まれよ』

 

私は無言で将軍と別れ、教会への帰り道についた。

とぼとぼと歩きながら会社だらけの地区を抜けて交差点を左に曲がって街に戻る。

途中、もう噂を聞きつけたのか私達を見て通行人が驚きの声を上げた。

 

『あの娘達がヤミィケークを倒したんですって!』

『すげえ。かわいいけどやっぱり吸血鬼なんだな~』

『人間の悪党が悪魔に成敗されるなんざ世も末だ』

 

街の人が口々に私を称賛したり畏怖したりする。

昼間は名声が欲しいとか言った気がするけど、心底疲れてる今は雑音にしか聞こえない。

重たい足を引きずりながら教会に戻った。夜が近いけど野盗が出なくて助かったわ。

まぁ、出たってエリカがなんとかしてくれたんだろうけど。

 

今度は帰ったら帰ったで里沙子じゃないけどうんざりする。

教会の連中が疲れてる私達に殺到した。どうでもいいから休ませてほしい。

ジョゼットが半泣きで私の前で膝をつき手を握った。

 

『ピーネちゃん、無事で良かったです~!軍の人が早馬で知らせてくれました!

炎の中で賞金首と命を賭けた勝負をしたって!

ごめんなさい、わたくし達が危ないことをさせてしまって!』

 

『ああ、いいから。それより早くご飯……』

 

『本当にすみませんでした。まさか本当に賞金首と激突するとは夢にも思わず……

どうかわたし達の軽率な行動を許してください』

 

『いいってだから。私はお腹がね』

 

『いや、なんつーか、本当に悪かった。

私がお前らに百物語の責任をなすりつけちまったせいでこんなことになってよ。

本当に済まねえ!』

 

『奥に行きたいんだけど』

 

『ピーネさん……パルフェムにもあなたを焚き付けた責任があります。

約束通り喫茶店で好きなだけパフェをご馳走しますから、ごめんなさい……』

 

『パフェより今はご飯が食べたい』

 

『お詫びの印と言っちゃなんだが、今回の主犯を百叩きの刑にする。

ダイニングで待たせてるから好きにしてくれ』

 

『百叩き?』

 

ようやく聖堂からダイニングに通ることができた私は、

それを見てちょっとだけ愉快な気持ちになった。

椅子に縛り付けられた里沙子が、猿ぐつわを噛まされてモゴモゴ言ってる。

で、そばでカシオピイアが丸めた新聞紙でひたすら無言でパシパシと殴り続けてる。

カシオピイアは私に気づくと、新聞紙を手渡してきた。

 

『はい。……ごめんね』

 

彼女としては精一杯の謝罪と共に古新聞の棒を受け取ったけど、

付き合う気になれず一発だけポコンと頭を叩くと新聞をテーブルに放り出した。

里沙子もルーベルも驚いた様子で私を見る。

いつもの私なら文字通り全力で百発はフルスイングをぶちかましてるだろうから、

当たり前っちゃ当たり前だけど。

 

『なあ、それでいいのか……?』

 

『いつまでも馬鹿なノリ引きずってんじゃないわよ。私は疲れてるの。早くご飯お願い』

 

『あ、はい!』

 

『うむうむ、ピーネ殿がひとつ大人になったということじゃのう』

 

ジョゼットが慌てて作りかけの料理の鍋を火にかける。

私はみんなの信じられないものを見るような視線を受けながら、

部屋に戻ってベッドに身を投げた。

肉体的にも精神的にも疲れ果ててた私は、そのままストンと眠りに落ち、

夕食ができて起こされるまで仮眠を取った。

 

 

 

相変わらず3枚のメダルをチャリチャリと鳴らしながら、私はぼんやりと考える。

 

「これ、どうしよう」

 

事件解決からもう1週間経つけど、届いた賞金に手を付けられずにいた。

このお金にはある男の悲哀に満ちた人生が詰まっている。

単なる思い込みでしかないけど、硬貨を通して彼が何かを訴えかけて来るような気がして。

それが何かはわからない。

 

知りたい。唐突にそんな思いに駆られた。私は昔、人間も悪魔もみんな死ねばいいと思ってた。

今はどうなのかと聞かれると、正直なところ言葉にすることができない。

ママに会いに行く目標ができた今となっては別にどうでもいいとも言えるし、

人間の中に誰かを助けるために誰かを殺すという大きすぎる矛盾を見つけてしまった今、

その問いは難しいものになってしまった。

 

でも“彼”は大人をみんな憎んでた。

かつての自分と彼に重なるようなところがあるような気がして、

少しでも彼の視線で物事を見てみたい、そういう興味というか欲求が芽生えてきた。

 

「よっし」

 

ベッドから飛び起きて、財布とバッグを持って外に出る。

エリカも連れて行こうかと思ったけど、位牌は里沙子の部屋にある。

取りに行ってもいいけど、里沙子にああだこうだ聞かれて煩わしいだろうからやめた。

玄関を開けると、初夏の風が吹き込んできて気持ちいい。

晴れやかな気分で通い慣れた街へ続く街道を進む。

 

でも晴れやかな気分は途中で中断されることになる。頭が痛いわ。この間も会ったわね。

ごきげんよう、回れ右して消えなさい。

 

「そこの嬢ちゃん!ここを通りたかったら有り金全部置いてきな!」

「悪いなぁ、ここは通行料がいるんだよ。金がないなら、別の方法で払ってもらうぜ~」

 

舐めないで。もう野盗くらいなら追い払える。

ため息をつきながらバッグから魔導書を取り出そうとすると、いきなり3人目が騒ぎ出した。

 

「あ、兄貴ヤベえですぜ!あいつは里沙子んとこの教会の!」

 

「んだよ、うるせえ……げっ!丸焼きピーネだ!」

 

「ヤミィケークぶっ殺したあれか!?逃げろ、血を一滴残らず吸い取られるぞ!」

 

「待って兄貴―!」

 

頭のおかしな3人組は勝手に立ちふさがって勝手に逃げていった。

って何よ、“丸焼きピーネ”って!もっと可愛い名前つけなさいよ!

豚の丸焼きじゃあるまいし!

 

「誰が考えたか知らないけど、センスってもんがないわセンスが!失礼しちゃう!」

 

無駄な戦いは避けられたけど、せっかくのいい気分が台無し。私は不機嫌なまま街に入る。

えっと、前にパルフェムと行ったあの店はどっちだったかしら。ああ思い出した。

 

「確か市場を抜けて更に奥だったわね」

 

人だらけの市場に体を押し込み、どうにか向こう側に通ると

今度は逆に人通りに対して面積が広すぎる広場に出た。また辺りを見回して目的地を探す。

 

「あったあった。駐在所よりもうちょっと向こう」

 

広場をずっと西に進むと商店が並ぶ区画がある。来たかったのはそのうちの1軒。

 

「ここね。“エルマーズ・ベーカリー”」

 

年季の入ったドアを開けると、背の高い店員がぼそりと“いらっしゃいませ”を言った。

買うものが決まってる私は、ショーケースに並ぶ色々なものから一番いいものを選ぶ。

何にしようかしら。

 

「そうねぇ。多分だけど彼が見たのはきっと無駄に飾らないものだったはず。

店員さん、これ一つちょうだい!」

 

「一切れ5Gです」

 

「ああ、そうじゃないの。まるごと1個」

 

「でしたら60Gです」

 

「はい、これでいいかしら」

 

支払いトレーにお金を置くと、店員が冷式マナで低温を保っているショーケースから

商品を取り出し、取っ手のついた厚紙に梱包した。

彼は箱を持ってカウンターから出てきて、かがんで大きく背が違う私に慎重に渡す。

 

「傾けないよう、気をつけてください。ありがとうございました……」

 

「どうも」

 

愛想はないけど対応は丁寧な店員と別れて店を出ると、

彼の忠告通り斜めにしないようゆっくり歩いて家に帰る。

市場で人にぶつかりかけて一瞬ヒヤッとしたけど、なんとか無事に通過。

ここさえ通り過ぎれば後は普通に歩くだけ。

帰り道では野盗に会うこともなくのんびりと帰宅することができた。

 

「帰ったわよ」

 

「おかえりなさ~い」

 

ダイニングにはお皿を洗ってるジョゼットがいた。

壁の鳩時計を見る。丁度いい時間ね。私はさっき買った物の箱をテーブルに置いた。

 

「ねえ。みんなを呼んできてくれない?これお土産」

 

「お土産?まあ、すごいです!すぐに皆さんを呼んできますね!」

 

慌ただしく2階へ上がっていくジョゼットを見送ると、ひと仕事終えた私はテーブルについた。

これで何かわかるかしら。今更わかったところで何が変わるわけじゃないんだけど、

買ってからそんなこと思ったところでそれこそ今更よね。

一人でうだうだ考えてるうちに全員がダイニングに集まった。

テーブルに置いた物に視線が集中する。

 

「うそ、マヂで?ピーネがお土産って!天地創造がもう一回起きるんじゃない?」

 

「ちっちゃなことで、はしゃぐんじゃないわよ24歳」

 

「そうなんです~ピーネちゃんが街まで行って買ってきてくれたんですよー」

 

「まぁ……素敵なお心遣いに感謝しますね、ピーネさん」

 

「別にいいのよ。なんとなく、気が向いただけだから」

 

「照れなくてもよろしいのに。でも、本当によろしいのですか?

何か奢らなくてはいけないのはパルフェムの方ですのに」

 

「そうだよ。せっかくの賞金でこんなことしてもらってさあ」

 

「あーもう、いーの!ジョゼット、いいから早くみんなに配って!」

 

「はいはーい」

 

ジョゼットが箱を開けて中の物に包丁を入れ人数分に分ける。お茶は里沙子に入れさせた。

怠け者のあいつでも、さすがにこの状況では断らなかったわ。うふふ、使ってやった。

 

「ケーキは行き渡りましたか~?」

 

「おう、バッチリだぜ」

 

「あたし謹製のお茶は?」

 

「ちゃんと、ある」

 

「それではピーネさんとマリア様に感謝して、いただきましょうか。

ご馳走になりますね、ピーネさん」

 

「どーぞ。食べましょう」

 

全員がそれぞれの形でいただきますの儀式を終えると、いちごショートにフォークを入れる。

私はすぐに食べず、その様子を眺めていた。みんなおいしそうに食べてる。

生クリームたっぷりのケーキを口にするたび、笑顔が浮かぶ。

 

……なるほどね。彼が夢見た世界。みんなでおいしいケーキを食べるワンダーランド。

ほんの一部だけでしかないけど、形にしてみてよくわかった。彼が憧れたのも納得かしら。

遅れて私も一口食べた。

甘酸っぱいいちごと柔らかいスポンジケーキの組み合わせは、やっぱり美味しい。

 

「それにしてもケーキ1ホール大人買いとはピーネも大物になったわね。よっ、お大尽」

 

「うるさいわね、黙って食べなさい。あ、里沙子だけ金取ればよかったかも」

 

「この娘あたしにだけ冷たいのよね。いつからこうなったのかしら」

 

「喧嘩するほど仲がいいと申しますわ。ピーネさんなりの愛情表現では?」

 

「冗談じゃないわ。里沙子と仲良くなんて無理。野盗とフォークダンスするほうがマシ」

 

「こんな調子なのよ。そうだ、みんな集まったんだから百物語の続きやる?」

 

「やめとけ。あれのせいで今回の騒ぎが起きたんだろうが」

 

「う~ん、百物語は途中で止めても何か出るらしいんだけど、しょうがないか」

 

「何か、何か、って結局何が出るんだよ」

 

「ごめんそこらへん曖昧」

 

「んな適当なことに私ら付き合わせやがったのか、まったく」

 

「本っ当、大迷惑な女よね。少しは考えて行動しなさい」

 

「反省してる。残り96話は完璧に情報収集するまで保留にするわ」

 

「二度とやるなって言ってるの!」

 

ダイニングに笑い声が満ちる。

皆とにぎやかな時を過ごしているうちに胸に抱えていたものが消えていくのを感じた。

なんでもないお茶の時間は、私に一つの答えをくれたように思える。

 

楽しい時間はあっという間で、歓談しながらケーキを食べ終えると、

みんな私に礼を言ってまたそれぞれの居場所に戻っていった。

私は玄関先に座り込んで、また草原を通り抜ける爽やかな風に当たっていた。

すると、壁からエリカが抜け出てふよふよと隣まで飛んできた。

 

「楽しそうだったでござるな。位牌の中まで皆の笑い声が聞こえてきたでござる」

 

「あんたも来ればよかったのに」

 

「眠っていたから夢か現実かよくわからなかったのじゃ。

里沙子殿に聞いたら本当に皆で語らっていたそうな。惜しいことをしたでござる」

 

「本当によく寝るわね。そんな暮らしぶりじゃ悪を討つなんて夢のまた夢よ」

 

「ピーネ殿まで里沙子殿のようなことを言うでござる……」

 

自分で言って気がついた。悪について。エリカはどう思ってるのかしら。

 

「……ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」

 

「なんでござるか?」

 

「あんたにとっての“悪”って何?」

 

「弱き民を喰い物にし、己の欲望を満たす者のことじゃ」

 

サムライの戦う理由を聞いた私は、ひとつだけ伝えておくことにした。

 

「そう。でも気をつけなさい。その悪は“弱き民”の中にも紛れ込んでるから」

 

「どういうことじゃ?」

 

私は答えずに立ち上がって伸びをする。

正解とも間違いともつかない私の主観を語ったって仕方ない。

 

「さーてね。ところでさ、エリカ」

 

「ふむ。なんであろう」

 

「……また、悪と戦う時が来たら、その時は私も連れていきなさい」

 

「なんと。ピーネ殿もサムライの魂に目覚めてしまったと、そういう事でござるか!?」

 

「違う。でも、なーんとなく、この世はぶっ飛ばしたくなるやつが多いって気づいたの」

 

「また一緒に賞金首を探すでござる」

 

「ええ、必ず」

 

景色だけは格別のボロ教会から、世界を眺めるように草原を見渡す。

今回の冒険はこれでおしまいだけど、これからはもっと遠くの世界を見てみようと思う。

彼が見られなかった夢の国が、どこかにあるかもしれないから。

 

 

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