面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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1.久々の一話完結 2.実りの秋 3.生存報告
でも実際食べると胃に重かったりする。


○玉ねぎくん 第5172話 大道芸人

 

「さあさ、よってらっしゃい見てらっしゃい!ここに取り出したるは東洋に伝わるゴマの油!

ただの油じゃあござんせん!210度に熱したこいつをあっしの腕にかけるとどうなるか!?」

 

「わー、見てられねえ」「怖いわー」「ひええ、やけどしちゃうよ」

 

「こいつをバシャンとひとすくい!火傷なんかしやしません!

あっしが我慢してるわけじゃあござんせんよ!

摩訶不思議なこの油、毎日朝にひとさじ飲めば、お肌ツルツル元気モリモリ!

本日はこの不老長寿の霊薬を1瓶たったの10G!10Gでお分けしようじゃありませんか!」

 

「こりゃすげえや」「2瓶買うわ」「ぼくもー」

 

「はい、ありがとうございやす。いい買い物をなすったね。そこの兄さんもありがとう」

 

大変だー!玉ねぎくんが170度で揚げられて救急搬送されたぞ!

 

「なんですって!?」「170度なんて無茶な!」「心配だわー」「お見舞いにいこう」

 

ぞろぞろ

 

「……わしの身体どうなってんの?」

 

 

 

日課になってる漫画を読み終えると、あたしは新聞を畳んでテーブルに置いた。

ギャグになってるのかなってないのかイマイチ不明な微妙さ加減を楽しむと、

食後のコーヒーをまたすすった。

季節はすっかり夏。去年しんどい思いをして手に入れたコスモエレメントのおかげで

暑さは凌げてるけど、あの味が恋しくなる。

 

「ああ、うなぎが食べたいわ」

 

「お前が毎日読んでるそれ、どこが面白いんだ?」

 

ルーベルがあたしの後ろを通り抜けるついでに放り出された新聞を見ながら聞いてきた。

 

「少しでいいからあたしのぼやきに触れてほしい」

 

「知らねえよ“うなぎ”なんか。なんだそれ」

 

「この世界は肝心なものが入ってこないのね。あたしの故郷で珍重されてる高級魚よ。

細長くて黒くてヌメヌメしてる。最近は漁獲量が激減して値段が高騰してるけど」

 

「お前の大好きな銃火器がちょくちょく流れてきてるだろうが。

で?お前はそのうなぎとやらを食いたいと。うまいのか、それ?」

 

聞きながらテーブルに着き、いつものように水を飲む。と、人のこと言ってられないわね。

もう熱中症に気をつけなきゃいけないからあたしもこまめに水分補給しなきゃ。

 

「甘いタレで焼いた蒲焼きは脂が乗ってて身もホクホクしててたまんない。

それに美味しいだけじゃないわ。精がつくから夏バテしがちなこの時期には毎年食べられてるの」

 

「ふ~ん。私らは暑さ寒さとか関係ないが、人間にとってはありがたい魚だろうな」

 

「思い出したらまたあの店のうな丼を食べたくなってきたわ。

蒲焼きが二重になってて肝吸いまでついてたの」

 

「あのなあ。大体お前は贅沢なんだよ。

ただでさえ魔導空調機やらコスモなんちゃらで猛暑を快適に過ごしてるってのに、

まだ高い魚を食いたいだと?街のみんなはこの暑い中なんにもなしで働いてるんだぞ」

 

「貧乏と贅沢アピールほど不毛なものはない」

 

「そもそもこの企画自体ファンタジーなのに文明の利器に頼りすぎだ。

お前が定期的に誰かさんと連絡取ってるスマホだの、

エアコンの名前変えただけの魔導空調機だの、全然出番はないがここにあるラジオだの」

 

「そこんとこは大目に見てよ。あんまりガチガチに世界観にこだわると話が作れなくなる」

 

「ガチガチじゃない。ユルユルだ」

 

「ガミガミ怒らないでよ。今回の話だってろくにテーマがないまま始めたから

1300字書いた今の時点で筆が止まってるんだし。

あ、いっそカタカナ4字のオノマトペを思いつく限りひたすら挙げるってのはどうよ。

久々に1万字狙えるかも」

 

「ちっとも面白くないし字数ありきでSS書くようになったらおしまいだ。奴に伝えとけ」

 

「後でメールしとく。……だけどまあ、この家がボロだけど色々設備が充実しすぎてるってのは

確かにちょっと問題かもね。

そう言えばこの世界の一般的な生活水準ってあたしよく知らないのよね。

一文無しだったのは企画始まってからほんの少しの間だったし」

 

「いい機会だ。この夏の間、便利なもん一切なしで生活してみたらどうだ?」

 

「最悪。考えられない。冷房なしの夏なんて暑がりのあたしに死ねって言ってるようなもんよ。

そうねえ……さっきあんたが言った街の連中の暮らしってどんな感じなのかしら」

 

「まあ、ああは言ったがそれほど酷くはないんじゃねえか?

夏は毎年来るがみんな死んでるわけじゃねえんだし」

 

「そうね。熱中症にさえ気をつければ秋まで騙し騙しやってけるんじゃないかしら」

 

「じゃあお前も今年はコスモエレメント封印な」

 

「それは断る」

 

こんな感じでいつもどおり中身のない会話で時間を潰すあたし達。

あたしらが恵まれてるのは認めるけど、他の連中が不幸ってわけでもないと思うのよね。

ミドルファンタジアはアースみたいに地球温暖化は進んでないし。

よっぽど自己管理がなってない奴以外は文句言いながらも生活できてるに決まってる。

 

 

 

 

 

暑い。と文句を言う気力さえありません……

這うように台所に行くと汲み置きの水からコップになみなみと水を注ぎ一気飲み。

あっ、水瓶の水がなくなりそうです。また井戸から汲んでこないと。

だけど強烈な日差しの照りつける外に出るなんて考えただけで倒れそうです。

 

そう言えば今日は食事も取ってません。食欲がないんです。

さっき洗面所で顔を見ましたが目にうっすらと隈ができていました。

神様だから死なないとは言え、こんな生活を続けていたらいつか倒れてしまいます。

 

ついでに言うとお金もありません。エレオノーラちゃんの家にお世話になろうかしら。

でも、里沙子ちゃんにバレたらまたお尻を叩かれるかも。

ましてやこの新作のノースリーブを見られたらどんな目に遭うか。

 

「うう……なにか、食べなきゃ」

 

棚を開けますが、パンの耳を切らしています。

昨日うっかりモヤシを腐らせてしまってから買い物にも行っていません。

どうしよう、食べ物がありません。フラフラとあてもなく神殿に足を向けます。

台所にないのに神殿に食料があるわけなんてないんですが、

判断能力が低下しているのでもしかしてという思いでドアを開けました。

 

「おいしいものは、ないかしら」

 

誰もいない神殿。イーゼルや美術品だけが並び、人はいません。

学校も夏休みで、働く元気もないので絵画教室もお休みにしてるんです。ええと、食べ物食べ物。

神殿をうろつきながらとにかく食べられるものを探します。

画材道具を探ると……あ、ありました!

カンバスに炭で下書きをするときに消しゴムとして使うパン。灯台下暗しとはこのことですね!

 

さっそく一つ口に放り込むと、少し元気が出てきました。

この元気がなくなる前に次の手を打たないと。とりあえず裏口に回って井戸から水を汲みます。

井戸水を汲むのは地味に体力を使う重労働ですが、おかげで水瓶の水が元に戻り、

必要最低限のライフラインを確保することができました。

最悪死ぬことはないでしょう。元々死なないんですけど。

 

何か買いに行ければいいんですけど、先程申し上げたようにお金がないんです。

財布を取り出して開けてみます。

でも、開けなくても感触だけで金額が分かる程度しか入ってません。

 

「3G……いっそどこかでお金借りちゃおうかしら。

でも里沙子ちゃんから“消費者金融に手を出したら縁切る”って言われてるしぃ」

 

諦めて財布をしまい、また画材道具をゴソゴソと漁ります。

でも、さっきみたいな幸運がそうそうあるわけもなく、

他には筆や絵の具、パレットなど食事という行為からは程遠いものばかり。

ふと長細い箱に揃った絵の具に目が留まります。

 

「もしかしたら、これおいしいかも?」

 

ローシェンナのチューブがなんだか生キャラメルに見えて、

食べられそうなというか美味しそうにさえ見えてきました。キャップを外して口に近づけます。

そして思い切って中身を吸い込もうとした瞬間、絵の具の油臭さで我に返りました。

 

「やだ、何やってるのかしら私!」

 

チューブを投げ出して思わず後ろに下がります。

危なかったー!もう少しで神様どころか人間をやめるところでした。

あまり時間は残されていないようです。

きちんとした食事をしないと、空腹で何をやらかすかわかりません。

考えるのよ、マーブル。食べ物を手に入れる方法がどこかにあるはず。

 

神殿をうろつきながら考えを巡らします。お金か食べ物を得る方法。必ずあるはずです。

服や靴を質に入れる?あー、あー、そんな現実は嫌いです。聞きたくないです。

いえ、贅沢とかそういうのじゃなくて、芸術の女神としてみすぼらしい格好はできないというか

常に美を追求した装いをする義務があるのです。あるのです。

 

頭を使っているとお腹がぐぅと鳴りました。

さっき食べたパンが早くも消化されてしまったようです。

どうしましょう、結局なんにもできないまま時間を無駄に使ってしまい……

 

ドンドン おるかー?

 

心臓が跳ね上がるかと思いました。この借金の取り立てのような訪問の仕方は。

恐る恐る玄関に近づいてドア越しに声をかけます。声の主はわかってるんですけどね。

 

「あのう、燃焼マナの料金は先週お支払いしたはずですけど……」

 

“大変よろしい。ドア開けて。あたしよ”

 

ドアノブを回して扉を開けると、見慣れたグリーンのワンピースの袖をまくった里沙子ちゃん。

それにご友人たちも。怒ってはいないみたい。

 

「里沙子ちゃん。エレオノーラちゃんたちも、急にどうしたの?」

 

「帝都に遊びにきたの。せっかくだからあんたも誘おうってエレオが」

 

「お久しぶりです、マーブル様」

 

エレオノーラちゃんがぺこりと一礼。この娘が一緒なら安心……ってわけでもないんですよね。

暴れる時は状況に関係なく大暴れしますから、里沙子ちゃんは。

 

「出不精の里沙子ちゃんが珍しいわね。なにか、あった?」

 

「うん、それなんだけどさ」

 

そして里沙子ちゃんがこのタイミングで訪れてきた理由を語り始めたのです。

一言で言えば単なる偶然だったんですが。

 

 

 

 

 

あたしらが贅沢かどうかでどうでもいい議論を交わしていると、

ワクワクちびっこランドからパルフェムがトテトテと小さな足音を立てながら出てきたのよ。

会話が丸聞こえだったらしい。

 

「お姉さま、うなぎでしたら皇国に転移していましてよ。

パルフェムもこちらに来るまでは毎年うな重に舌鼓を打っていたものです」

 

「マヂで!?」

 

意外な事実に二人共驚いた。同時にあたしはガセネタつかませたルーベルにぶーたれる。

 

「なによ、やっぱりあるんじゃないの!あんたの情報使えないわね!」

 

「うっせえな!皇国の魚まで知るわけねえんだからしょうがねえだろ!」

 

「まあまあ、二人ともケンカはお止めになって。確か帝都の皇国料理店で出していたはず。

少々お高い店ですが、いい機会ですから皆さんで一緒に食べに行きませんか?」

 

「行く行く!ルーベルも肝吸いくらいなら飲むでしょ?」

 

「いや、だからその肝吸いとやらも知らねえんだって」

 

「どう言えばいいのでしょう。そう、うなぎの肝を一粒あしらったスープのことですわ。

澄んだ出汁が非常に香り豊かでルーベルさんも美味しく召し上がれるかと」

 

「そっかー。なら私も行こうかな」

 

「話は聞いたわ!私も連れていきなさい!」

 

今度はピーネがなにやら機嫌がいい様子で部屋から飛び出してきた。

 

「うなぎとか肝吸いとかよくわかんないけど、高いお店なんでしょう?

里沙子に払わせればいいのよ!」

 

「はぁ、まだ賞金稼ぎ編のこと根に持ってるの?呆れた。じゃあパフェは無しでいいわね?」

 

「あー…ちょっと待って。パルフェム、うなぎとパフェってどっちが高いの?」

 

「うな重特上の値段で大盛りパフェが10杯は食べられますわ」

 

「じゃあうなぎにするー!どんな味か全然想像つかないけど!」

 

「多少無理をしても一生に一度は口にすべきかと。

特に天然物はなかなか手が出ないお値段ですから」

 

「なら2回はおかわりしてやらなきゃね。ウシシ」

 

「言っとくけど、どれだけ高かろうが飲食店の出入り程度で

あたしの資産に傷を付けられると思ったら大間違いだから。

付け加えると、あんたの胃袋じゃうな重3人前は食べ切れない」

 

「皆さん楽しそうですね」

 

2階からエレオノーラが落ち着いた歩調で階段を下りてきた。

そうそう、帝都に行くならこの娘にお願いしなきゃ。

 

「エレオー。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 

「はい、なんでしょう」

 

事情を説明すると、エレオは快諾してくれた。

悪いわね。あなたが次期法王だってことは忘れてないから。

 

「なるほど、わかりました。帝都までの往復は任せてください」

 

「ごめんね~味は保証する。損はさせないわ」

 

「こちらこそご馳走になってすみません」

 

「ふん、礼なんて言わなくていいわ。前から奢るって約束してたんだから」

 

「うなぎとパフェじゃ値段的に雲泥の差がどうの」

 

「おっし、それじゃあみんなに声かけてくるか」

 

ルーベルが席を立ち、皆の個室に向かった。何時出発がいいかしらね。金時計で時間を確認する。

 

「そうね。この時間なら……少し早めの夕食ってことで今から出ても良さそう。

あたしも支度して来よっと」

 

「あ、待ってください。お店に行く前にあの方のところに顔を出してもいいでしょうか。

久しくお会いしていませんから」

 

ガンベルトを取りに行こうとしたら、エレオに呼び止められた。

何かしら。帝都の知り合いに会いたいみたいだけど。

 

「あの方って誰?法王猊下?」

 

「いえマーブル様に」

 

「あはは、誰それ。チョコレートじゃあるまいし」

 

「えっ!?芸術の女神マーブル様ですよ!この教会にマリア様とイエス様をお描きになった!」

 

「冗談冗談。覚えてるっていうか思い出した。あのファッションオタクね、うん」

 

正確にはやや冗談で残りマジ。一瞬ガチで忘れてた。

エレオの言う通りしばらく会ってないから様子見がてら寄ってみるとしますかね。

万年金欠状態のあいつがまともな生活を送れてるのか気になるし。

 

 

 

 

 

里沙子ちゃん一行がうちに来た経緯はこんなところみたいです。

道中、エレオノーラちゃんの提案でその皇国料理店に私も誘おうという話になったとか。

 

「ありがとうエレオノーラちゃん、愛してるわ!」

 

心優しい次期法王に抱きついて頬ずりします。

 

「あ、はは。どうか、お礼なら里沙子さんに……」

 

「う~ん、モチモチでスベスベで……ぐえっ!」

 

「はーい、お客さん。お触りはご遠慮願いますよ」

 

冷たい目をした里沙子ちゃんに思い切り襟首を掴まれ引き剥がされてしまいました。

 

「もう、本当に乱暴なんだから!神様にそんなことしたら、めっ!」

 

悪い子のおでこを人差し指でちょんと一突き。

……あああ、里沙子ちゃんの目が血走って来たぁ!

今度こそ殴られるかと思いましたが、彼女は何度も深呼吸してから続けました。

 

「……なんか色々暴力的な選択肢が頭に浮かんでるけど飯の前に暴れたくないからやめとく。

余計なやり取りは省くわよ?今から皇国料理店にうなぎを食いに行く。

付いてくるかこないか選んで」

 

「うなぎって、なあに?」

 

「質問は許可しない。あと1秒で答えないと置いていく」

 

「ああ、行きます行くから!」

 

結局何がなんだかわからないまま里沙子ちゃんたちと一緒に行くことにしました。

エレオノーラちゃんも付いてるし、変なものは出てきませんよね?

 

 

 

やってきました皇国料理店“のんべんだらり”。

建っているのは帝都でも特に高級ホテルや飲食店が立ち並ぶエリア。

そんなところに初めて足を踏み入れた私は若干浮かれていました。

座敷という個室に通された私は、皇国風の店内が珍しくて

キョロキョロと内装や調度品を見回します。

椅子ではなく、床に直接座るスタイルも初めてでもう大興奮です。

でもやっぱりそんな様子を見てた里沙子ちゃんに怒られます。

 

「少しは落ち着きなさいな、みっともない。大の大人が食べ物屋ではしゃいでんじゃないわよ」

 

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」

 

キモノという見たことのない制服で注文を取りに来た女性に里沙子ちゃんがオーダーします。

 

「全員うな重。……あ、1人だけ肝吸いで」

 

「うな重は松竹梅とございますが、いかがなさいますか」

 

「全部松で」

 

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 

湯呑みという取っ手のないコップに入った緑色のお茶を飲みながら

店員さんが去るのを見届けると、目を輝かせて里沙子ちゃんに聞いてみます。

 

「ねえねえ、“まつたけうめ”ってなに!?」

 

「上品な店なんだから大きな声出さないで。……料理のランク。松が一番上」

 

「そ、そう……あのね里沙子ちゃん。私、今絵画教室とかお休みで~」

 

「あたしが持つから心配しなくていいからとにかく落ち着くことに専念して」

 

うんざりしながらも答えてくれました。

里沙子ちゃんもお茶を飲むと、今度は彼女も少し目を見開いて驚いた様子。どうしたんでしょう。

 

「あら。そういや、こっちの世界に来てから緑茶飲んだの初めてだわ。

ずっと無いと思ってたけど、あるとこにはあるのね」

 

「皇国では当たり前のように飲まれていますわ、お姉さま」

 

「へぇ。今度個人輸入のカタログで探してみるわ」

 

「よかったですね。確か緑茶とは里沙子さんの故郷の飲み物だとか」

 

「そうなのよ。ずっとコーヒー飲んでると、たまに飲みたいなって思うの。あー、懐かしい味」

 

嬉しそうに緑茶を飲む里沙子ちゃん。機嫌が良くなったみたいでなによりです。

そうこうしていると、店員さんが黒塗りの箱をいくつか持ってやってきました。

皆さんの前に一つずつ並べます。

 

「はーい、みんな蓋とってー」

 

里沙子ちゃんの合図で蓋を開けると……やはり未知の世界が広がっていました。

敷き詰められたご飯の上に、香ばしく甘い匂いを放つタレで焼かれた肉厚の魚の身。

空きっ腹にはたまりません。

 

「大半の人にとっては初めてだろうけど、まあ食べてみて」

 

みんなでいただきますを言うと、二本の棒でうなぎを切り分けご飯と一緒に一口分をつまみます。

この棒の扱いに少々手間取りましたが、なんとか口に入れると……

 

「おいしい!」

 

「そりゃなにより。欧米人っぽい人の口に合うかほんの1mmくらい気になってたから。

うなぎの魅力は世界共通ね」

 

「むぐむぐ。この魚、脂が乗っててボリュームがあって最高!

ここ最近の空腹が一気に満たされていくわ!」

 

「だから騒がないでって。……それにあんた。まだモヤシ炒め生活なの?

また洋服に大金つぎこんでるんじゃないでしょうね?」

 

「ち、違うわ!普通にうなぎが美味しいって意味だから!生活には困ってませーん!」

 

「そうお?ならいいんだけど」

 

それでも疑わしげな目で私を見てきます。本当、里沙子ちゃんは勘が鋭くて怖い。

 

「へー、この肝吸いってやつ、本当いい香りだな。

具が少ないしサラっとしてるからオートマトンでも無理なく食べられるし」

 

「気に入ってもらえて一安心。あんたは基本食べないから食の好みが予想つかないからね」

 

「なかなかイケるじゃない。

ハッピーマイルズじゃ見ないから、パフェよりこっちにしといてよかったわ」

 

「ふふ、お気に召したようでよかったですわ。パルフェムもうなぎは好物ですの」

 

和気あいあいとした会食はうな重の美味しさもあってあっという間に終わり、

お店の前で里沙子ちゃんが会計を済ませるのを待つばかりになりました。

季節はもう夏ですが、夜風はまだ気持ちいいです。

 

「お待たせー。高額貨幣ができたから支払いが楽になったわ、いやマジで」

 

「ごちそーさまでしたー!」

 

「はいはいお粗末様。それじゃ、あんたとはここでお別れね。

あたし達はエレオの魔法で帰るから」

 

「マーブル様、わたし達はこれにて。また大聖堂教会にお越しくださいね。

お祖父様も喜びますから。おやすみなさいませ」

 

「うん!エレオノーラちゃんもいつでも遊びに来てねー!」

 

里沙子ちゃん達と別れた私は、神殿への道を軽い足取りで進みます。

それにしても、うなぎとは不思議な魚です。

まるで分厚いステーキを食べたように身体に力がみなぎってきます。

仮にも神である私を形作る神性が満たされ、すっかり元気を取り戻しました。

これなら水だけでも学校が再開される秋まで飢えることはないでしょう。

 

お給料が貯まったら、いつかまたうなぎを食べに行きたいものです。

でも、そのお金で素敵なお洋服を買いたいという気持ちも消えません。どっちにしようかな。

私はガス灯が照らすレンガの歩道を歩きながら、

アースの諺“捕らぬ狸の皮算用”をしていました。

 

 

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