面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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暦の上では秋って言われてもねぇ

はぁ、とため息をつきながら巾着袋に入ったコスモエレメントをつつく。

触るたびに麻袋の中でゴソゴソと動くこいつにはやっぱり意思があるんじゃないかと思えてくる。

絶えず冷気を吹き出すこれのおかげで

今年は猛暑関連のエピソードをやらなくて済んでるんだけど、逆に話題がなくなって困ってるの。

とりあえず今回も貧乏くさいダイニングでスタートよ。

 

悩むなら自分の部屋で悩めって?誰かと絡まないとお話が進展しないのよ。

あたしのガンコレクションに関するウンチクを延々1万字聞きたいなら話は別だけど。

ほら、さっそくルーベルが食いついてきた。

ちなみにジョゼットもいるけどあたしと違って皿洗いに忙しく構ってくれない。

 

「どうした、ため息なんかついて。お前らしくも……いや、いつもため息ばっかりだな。

とにかくなんか心配事があるなら言ってみろよ」

 

「聞いてくれる?ねぇ。どうしたもんかしら」

 

「もったいつけんな。早くしろ」

 

そんであたしは本題を切り出した。

約一ヶ月ぶりの更新がこんな話題で数少ない読者が落胆しないかが懸念材料だけど。

 

「あんた前回、あたしが贅沢しすぎだの文明の利器に頼りすぎだの言ってたじゃない?

よく考えるとそうなんじゃないかなと思ってさ。

一応作品カテゴリに“ファンタジー”ってつけてるのにこれじゃ東京に居るのと変わんない。

何か手を打たないとこのままズルズルとあたしの日記を垂れ流すだけの

しょうもない企画に成り下がるのよ」

 

「既に半分そうなってる気もするが、意外だな。お前が私の話をちゃんと聞いてたなんて。

里沙子は何事も斜に構えてるっていうかふざけ半分でやる癖があるだろ。

人との会話だってそうだ。わざと変な言い回ししたり元ネタのわからん語尾つけたり」

 

「説教なら勘弁。あたしゃ真剣に悩んでるの。助けてくれないなら酒飲んで寝る」

 

「そういうところだ。どっちにしろ昼間っからは飲ませねえけど」

 

ルーベルったらいつの間にこんなに口うるさくなったのかしらねえ。

テーブルに顎を乗っけて恨めしそうな視線を送り無言の抗議をする。

効き目があったようで今度はルーベルが呆れてため息。

 

「……わかったって。確か魔王編でも似たようなこと言ってたな。

“ファンタジー成分が足りない”だったか?足りないなら足すしかねえだろ」

 

「どうやって」

 

「それを考えるのが主人公の役目だろう」

 

「あーあ!今の状況どうにかなるなら恥も外聞もなく“助けてママ”でも何でも言うわよ。

ガチで母さんに電話してもいい」

 

「しょうがねえ奴だな。聞くが、お前の考えるファンタジーって何だよ。

なんか参考にしたものとかないのか?昔読んだ絵本とか」

 

「参考と言えば、そうねぇ……」

 

あたしは考えを巡らせ、自分の理想とするファンタジーのお手本を脳内から探し出す。

早いとこケリをつけなきゃ“ファンタジー”がゲシュタルト崩壊を起こすわ。悩むこと数分。

……そしてまさに思い描くおとぎ話の原点に行き着いたあたしは、ポンと手を叩いた。

 

「メ○ルのアトリエ!アースにいた頃プレイしたゲームよ!」

 

「メル○のアトリエ?そいつはファンタジーしてたのか?」

 

「そりゃもう。主人公の女の子が可愛くてジャケ買いしたんだけど、

まさに世界観がファンタジーなのよ。

小国のお姫様が錬金術の力で国を盛り立てて行くっていうストーリーなんだけど、

主人公のキャラデザがまず素敵。

繊細なタッチで描かれた女の子は素で可愛かったし、

ドレスが上品さと可愛さのバランスが取れてるデザインで女のあたしでも惹きつけられたわ」

 

「なんだ、着たかったのか?ハッ」

 

「今、鼻で笑ったわね。表出なさい」

 

「悪りい悪りい。100話記念のイラスト思い出してな」

 

「なおさら笑うな。……ったく、続けるわよ?

ゲームの目的は仲間と色んな所を旅して素材を集めたりモンスターと戦ったり、

肝心の錬金術で魔法の道具を創り出したり色々。

ねえ、これってまさに異世界モノのSSにピッタリの展開だと思わない?」

 

「確かにそんな世界が誰かさんに書けるなら

この油臭い企画も少しは明るくなるだろうが、今更無理だろう。

あと、そのゲームの結末はどうなったんだ?お姫様の冒険はよう」

 

「わかんない。途中でやめちゃったから」

 

ルーベルがズルっとずっこけた。古典的な反応ありがとう。

 

「なんだよ!最後までやってねえのに長々と語ってんじゃねえ」

 

「ゲームシステムが性格的に合わなかったのよ。

さっきも言ったけど、素材を集めたりモンスターを退治したり色々やることはあるんだけど、

何をするにも日数が経過するの。

なにがしかの結果を出せずに2年経過すると強制的にバッドエンド。

ゲームはマイペースに楽しみたいあたしにはそれが耐えられなかったのよ。

決して出来自体に問題があったわけじゃない点は強調しとく」

 

「もうこの話終わりでいいか?」

 

「駄目に決まってるでしょうが!まだ今回の話は始まってもいないのよ!?」

 

「だったらお前は何がしてえんだよ!」

 

「アトリエシリーズをこの企画でやる」

 

「ん~……?なんかデジャヴっていうか似たような展開があったような気がするぞ。

そうだ、前にお前が悪役令嬢になるとか言い出したときだ。流行ってるからとか何とか言って。

結局お前は元々悪役だって結論に落ち着いたが」

 

「そうよ。あんたの心無い妨害でおじゃんになったあの企画よ。

今度はあのネタの二の舞にはならないわ。まっとうな手段で事を進めるんだから」

 

「お前錬金術なんか使えねえだろ。どうするつもりだよ」

 

あたしは立ち上がってフフンと不敵に笑い、完璧なプランを発表する。

 

「畑を1枚買うわ!育てた野菜を素材として収穫して、料理を錬金術ということで代用する。

あの女の子だってパイとか作ってたし。

これなら国中を歩き回って面倒くさい素材集めや開拓なんてしなくていいし、

お手軽楽チンにファンタジー成分を盛り込める!」

 

「趣旨変わってきてるぞ。まぁ、お前がそれでいいなら私は構わねえけどな。

里沙子が少しでも働く気になったのは何よりだ」

 

彼女の言葉にハッとなる。そうよ、これって立派な農業じゃない。

あたしが真面目に働くなんてそれこそ企画の終わりを意味する。

大体、畑1枚買うのだって面倒くさい。

街の不動産屋に出向いて耕作に向いた土地を探して契約して、

更に種や肥料を買い揃えてそれからそれから……ああ考えるだけで何もやる気がなくなる。

急にテンションが下がって力なく座り込んだ。

 

「やめた。一から準備するの面倒くさい」

 

「お前にはがっかりだよ。ずっとそうやって言い訳してろ」

 

「まあまあ。里沙子さんが一瞬でも真人間になろうとしたんですから応援しましょうよ」

 

皿洗いを終えたジョゼットが、エプロンで手を拭きながら話に加わった。

あたしはテーブルに寝そべりながらルーベルの文句を聞き流す。

 

「無駄だ。希望はまさに一瞬で立ち消えた。こいつはもうどうしようもねえ!」

 

「働きたくな~い。頑張りたくな~い」

 

「こういうのはどうでしょう。

毎週ミサにいらっしゃる信者の方に農業を営んでいるご夫婦がいるんです。

わたくし、今度お二人にお仕事を手伝わせてもらえないか頼んでみます。

そしてご褒美に少しだけ農作物を分けてもらうと。

これなら里沙子さんの言っていた素材の収穫や錬金術を疑似体験できると思うんですが、

どうでしょうか」

 

「へぇ、お前って顔が広いんだな。さすが何年も教会仕切ってるだけあるぜ。

……おい里沙子、聞いてんのか!」

 

「うい?」

 

「うい、じゃねえ。ジョゼットの話聞いてたのか?

自分が言い出したことなんだから、話がついたらちゃんと畑仕事手伝うんだぞ。

これすら怠けるようなら私はもう本当に知らん。一生酒抜きだ」

 

とんでもない方向に話が進みだしたから慌てて抗議する。

 

「ちょっと待ちなさい!別にしなくてもいい労働とあたしの酒に何の関係があるのよ!」

 

「なら、ここでくすぶっててお前にこの企画立て直せるのかよ!ファンタジーらしい企画によ!」

 

「あたしに責任押し付けないで!農家の人だってこのクソ暑い中仕事なんてしてないわよ!」

 

「普通に夏野菜収穫してるわ!お前が始めた話だろうが!

自分の言葉に責任も持てないやつなんかが主人公名乗ってんじゃねー!」

 

「ケンカはやめてくださーい!!」

 

ジョゼットの叫びで思わずあたしらも言い争いを止めた。

同時に彼女の声を聞きつけた住人が集まってくる。

 

「どうしたのですか?皆さんすごい声で」

 

「うるさいわよ里沙子。ただでさえ暑いのに余計昼寝ができないじゃない」

 

「ああ、なんでもないのよエレオ。当企画の方向性について議論してただけ。

ピーネは寝るな、以上」

 

「嘘つけ、なんでもなくねえだろ。里沙子の怠け癖が悪い形で出てきたんだ」

 

「エレオノーラ様~、お知恵を貸してください。

さっきからルーベルさんと里沙子さんがいがみ合ってばかりで」

 

「ともかく、事情を聞かせていただけますか?」

 

「はい、実はですね……」

 

 

 

一週間後。あたしはジャージに軍手姿でハッピーマイルズ近郊の農地に突っ立っていた。

そばではジョゼットが農家の夫婦に挨拶してる。後ろにはお目付け役のルーベルが。

 

「この度は無理なお願いを聞いてくださってありがとうございました。お世話になります~」

 

「いいんだよぉ、ジョゼットちゃんの頼みならこれくらい」

 

「そうだとも。少しでも人手が欲しいから助かるってもんさ」

 

麦わら帽子のおじさんとおっとりした感じのおばさん。ミサに出ないあたしは今日が初対面。

……そうね、今の状況を説明しとこうかしら。

あの後、緊急住人会議が開かれたんだけど、なぜか全会一致であたしが悪いってことになって

こうして結局農作業をやる羽目になったのよ。

 

ルーベルの言い分は間違ってる。あたしは怠けてすらいない。

だって農地確保に着手する直前で中断したんだから。

PS4で言えばコンセントも差さずにゲームをしないことに決めたようなもん。

全く無駄な電力は使っていない。誰が誰を責められようか。

ぼーっとしながら心の中でブツクサ文句を言っていると、後ろから背中をつつかれた。

 

「ほら。お前もちゃんと挨拶しろ」

 

「うっ……今日は、よろしくお願いします」

 

二人の農家さんにお辞儀をすると、おじさんが元気よく笑った。

 

「あっはは!早撃ち里沙子が野良仕事してえなんて感心だなあ!

うちのせがれにも見習わせてえもんだ」

 

「本当だよお。あいつと来たら勉強もしないで遊び呆けてばっかりで」

 

「遠慮なくこき使ってやってください。こいつにとっても身体を動かすいい機会なんで」

 

勝手な事を言うルーベル。ちなみに今日はあたしの監視役で何も手伝わないらしい。

失礼極まりない。あたしは正しい怠け方を知っている。

間違って引き受けてしまった仕事はきっちりこなす。その代わり後で普段の二倍だらける。

それでこそエールがうまいってものよ。

 

「それじゃあ、さっそく今朝産まれた卵を取ってきてもらおうかな。このカゴにいっぱい。

鶏舎は向こうだから」

 

「はい……」

 

おじさんがお盆くらいのカゴを手渡すと、少し離れたところにある小屋を指差した。

中からコケコケと鶏の鳴き声が聞こえてくる。

 

「ほら行くぞ」

 

「わかってるわよ、いちいちうるさいわねえ」

 

カゴを小脇に抱えつつ小屋に入ると、鶏たちが一斉に飛び立った。

羽根やらチリやらが舞い上がって思わず顔をしかめる。

 

「うわっぷ!こら、あんたら大人しくしなさい!」

 

「文句言ってねえで卵集めるぞ」

 

「だからわかってるって!」

 

藁が敷き詰められた小屋を慎重に歩みながら卵を探す。

誤って転がってる獲物を踏み潰したら大変。ルーベルが見てるから隠すこともできない。

そのうち、藁を集めた寝床に3つほど卵を見つけた。

ああよかった。収穫ゼロなんてことになったらまたガミガミ言われる。

ひとつに手を伸ばし卵を取ろうとして……はたと手が止まった。

 

「ねえルーベル」

 

「どした。お、見つかったじゃねえか」

 

「あのさ、もしあたしがこれを回収したら、

無給で勤労をしてしまったということにならないかしら。

1話から続いてきたうんざり生活の伝統というかテンプレである自堕落なあたしの姿が崩壊し

アイデンティティの危機が」

 

「尻ひっぱたくぞ」

 

「はいはいやるから。今回のあんた、妙にあたしに厳しくない?」

 

急いでカゴに3つ卵を入れた。途中、怒った鶏に何度も手を突っつかれて痛かったわ。

軍手してなかったら怪我してたと思う。

その後も藁がこんもり積もったところや親鳥が寄り集まってるところに

卵がひしめき合ってるのを見つけて、探し方のコツを掴んだあたしは

割とすんなりノルマを達成した。ルーベルにカゴいっぱいに入った卵を見せる。

 

「これくらいでいいと思うんだけど」

 

「そうだな、十分だろ。親父さんのところに戻ろうぜ」

 

羽根まみれになりながら鶏舎から出ると、おじさんに卵の載ったカゴを返した。

 

「おお、ありがとうよ。今日もいっぱい産んだなあ」

 

「ご苦労さん。次は野菜の収穫をやろうね。はいこれ」

 

「え、あ、はい」

 

いきなり背負い紐がついた寸胴鍋みたいなカゴを渡されたから戸惑った。

なに、これが満杯になるまで野菜を入れろって言いたいの?

 

「あのー、ちなみに畑はどちらに」

 

「ここ全部だよー」

 

おばさんが背後に手を回す。見渡す限りの野菜、野菜、野菜。この人達、結構な地主なのね。

うっかり二人の前でため息つくところだった。

 

「あ、はは。色々育ててらっしゃるんですね……」

 

「そうだよ~毎年この時期は忙しくてねえ」

 

「よかったな里沙子。錬金術の素材が取り放題だぞ」

 

カゴを背負って軽く絶望的な気分に陥るあたしをよそに、無責任な事を言うルーベル。

 

「錬金術?なんだいそりゃあ」

 

「いえ、こっちの話っす!じゃあ、私達はこっちのナスから手ぇつけますんで!」

 

「頼んだよ~おじさんたちは向こうできゅうり穫ってるから」

 

おばさんと手伝わないくせに明るいルーベルは笑顔で手を振り合う。

あたしは重い足取りでナスの(うね)に向かう。

大きく育った株がずらりと並び、これまた丸々と太ったナスがいくつも連なってる。

今度こそおばさん達が向こうに行ったのを確認してからため息をついた。

 

「始めようぜ」

 

あたしはルーベルを無視して株の前にしゃがみ込み、預かった収穫鋏でナスの収穫を始める。

まずは一本茎を切って背中のカゴに放り込んだ。これをあと何回繰り返せばいいのか。

残りの株を眺めようとして即、目を逸らした。辛い現実を受け入れなきゃならなくなる。

 

「膝が痛~い。腰が重~い」

 

「農作業だっつってるのになんでガンベルト巻いて来るんだよ、馬鹿」

 

「イノシシが現れたら射殺して牡丹鍋にできるでしょうが。

モンスター退治のクエストも達成できて一石二鳥よ。またひとつアトリエに近づける」

 

「お前イノシシさばけるのかよ」

 

「食べられそうなところ切り落せばなんとかなるに決まってる」

 

「計画性ってものをいい加減身に付けろ」

 

ルーベルと罵り合いしつつ一時間くらいしたかしらね。ナスは大体片付いた。今度はオクラ。

がっしりした実を割と太い茎から他の余分な茎ごとまとめて切り離す。

それにしてもこの暑さはどうにかならないものかしらね。炎天下の作業で汗が止まらない。

日差しが痛いしメガネに汗が伝って視界が悪い。

無意識に軍手で拭ってしまいレンズに泥が付いた。最悪。少し気分を変えましょう。

 

米は南京 おかずはひじき

牛や馬でもあるまいし

朝から晩まで こきつかわれて

死ぬよりましだと あきらめる

 

あせをしぼられ 油を取られ

血を吸いとられて その上に

ほうり出されて ふんづけられて

これも不運と あきらめる

 

「失礼な歌を歌うんじゃねえよ……」

 

「放っといて。聞こえなきゃ問題ない。今のあたしを的確に表現してるでしょうが」

 

そう言えば素材ひとつ集めるのがどうしてこんなにしんどいのかしら。

あたしの記憶では少なくともメ○ルはこんなに苦しそうな顔はしてなかったはず。

ひょっとして舞台裏では悪態つきながらタバコでも吸ってたのかしら。

確かに今あたしはアトリエっぽいことをしているはずなのに、何がこうも違うのかしら。

どこでボタンを掛け違えたのかしら。

 

“おいで~休もうか~”

 

不毛な自問自答をしていると、おばさんのあたしを呼ぶ声が聞こえた。

立ち上がると腰がバキバキで痛い。やだもう。帰りたい。

とにかく作物で重くなったカゴを木陰で休むおじさん達の前に下ろした。

 

「これ……野菜です」

 

「あれまあ、たくさん穫れたねえ!ありがとう。おにぎり作ってきたから、食べな」

 

「いただきます……」

 

「お疲れ様です、里沙子さん!お茶どうぞ!」

 

ルーベルと同じく働いてないジョゼットが水筒から冷えた麦茶をくれた。

 

「一生懸命働いてる里沙子さんなんて初めて見ました!わたくし、少し感激してます!」

 

「それに関しちゃ私も驚いてる。途中で隙を突いて逃げ出すんじゃないかと思ってたが」

 

「……逃げたって家に帰れば酒を召し上げられるだけでしょうが」

 

「へへ、わかってるじゃん」

 

「何がおかしいのよ」

 

おにぎりを頬張りつつ麦茶で水分補給。

熱中症対策には経口補水液が効果的らしいけど、自作はめんどいし美味しくない。

商品名は伏せるけど、アースにいた頃試しに一本買ってみたの。腐ったポカリみたいな味がした。

あれの世話にならないようこまめに水を飲めという教訓だと思ってる。

 

どうでもいい思い出話はさておいて、腹も満たし喉も潤したところで作業再開。

新しいカゴを担いで今度はズッキーニの畑に向かった。

 

ひたすら野菜の収穫を続けること数時間。ようやく地獄のような労働から解放される時が来た。

トマトの詰まった最後のカゴを置いた瞬間、思わずその場にへたり込んでしまった。

 

「こんなもんで、いいかしら~」

 

「はいよ、ご苦労さん!がんばったねー!助かったよ、あっはっは!」

 

あたしより遥かに多い作業をこなしていたはずなのに、まだ体力が有り余ってる様子のおじさん。

これがベテランの違いってやつなのかしらね。

今度はおばさんがニコニコと笑いながら近づいてきた。

 

「今日はありがとね~これ、みんなで食べておくれ」

 

おばさんが収穫物で大きく膨らんだ網袋を差し出してきた。おおっと思わず一歩引くほどの量。

念願の素材を手に入れた喜びで少しだけ疲れを忘れる。

 

「まあ……ありがとうございます」

 

「礼を言うのはこっちさ~よかったらまた手伝っておくれ」

 

「なんと言っていいか、本当にお世話になりました」

 

お辞儀はしたけど“はい”とは言わなかった。

 

「それでは皆さん。わたくし達はこれで失礼します。来週のミサでお会いしましょう」

 

「またね~気をつけて帰るんだよ」

 

あたし達はそれぞれ農家さん達に別れを告げると、教会への帰路についた。

重い荷物は早々にジョゼットに押し付け、足を引きずりながらひたすら我が家を目指す。

気づけばもう夕暮れ時。ふと気がつく。

収穫だけで1日が経過するあのゲームのシステムは、

実は現実世界に基づいたリアルなものだったんじゃないか。

お姫様とは程遠い泥んこの姿で、しばし夕日を見つめて感慨にふけっていた。

 

ギリギリ夜になる前に帰宅。

野菜や卵の整理はジョゼットに任せ、まず汗でベタベタになった身体をシャワーで流す。

日焼けした身体に湯がしみて悲鳴上げるかと思った。今ならはっきり言える。二度とやらない。

風呂から上がると、ちょっと早いけど動きやすいパジャマに着替えてダイニングに舞い戻り、

残りのクエストに手を付けた。

 

「正直しんどいんだけど、仕事は翌日に持ち越さない。余計面倒になるからね」

 

つまり、錬金術。あたしの場合は料理なんだけど。冷温庫にしまってあった野菜と卵を取り出す。

住人全員分だからかなりの量。まず野菜を洗わなきゃ。

キッチンで桶に水を張って、ひとつひとつ洗っては食器用布巾で水分を拭う。

ナス、パプリカ、オクラ、ズッキーニ等々、色とりどりの野菜がまだ山積みになってる。

うんざりしながらもう一つ手に取ると、誰かが隣に立った。

 

「手伝うよ。これを洗うんだろ」

 

「どういう風の吹き回し?」

 

もう一つ桶を取ってルーベルの前に置いた。

蛇口から水を入れて同じくジャブジャブと洗い始める。

 

「ん、疲れてるだろうと思ってな」

 

「ふーん。まあ実際疲れてるから助かるけどさ」

 

「普通の事だが、仕事を投げ出さなかったのは偉いと思うぜ。

……確かに、今日はきつく当たり過ぎたよ。悪かった」

 

「別に。いつものことじゃない」

 

「お前が本当の意味で駄目な人間になるのが見てられなかったんだよ」

 

「いいってだから。……なら、エール3本。それで手を打つ」

 

ルーベルはふっと軽く笑うと短く答えた。

 

「わかったよ。明日は寝てていい」

 

「マジ?ダメ元だけどこんなにあっさり通るとは思わなかったわ。4本って言えばよかった」

 

「それは通らん。何があろうと」

 

だべりながら二人で洗っていると、案外早く野菜が片付いた。

 

「後は自分でやるわ。これ以上分担するとあたしの錬金術にならない」

 

「オーケー、任せた」

 

次は野菜を切る。時間がないから手についたものから大雑把に一口大に切る。

もう晩飯時。急がないとピーネが癇癪を起こす。野菜が切れたら鍋に油を敷いて炒める。

この時、ブラックペッパーやバジル、鷹の爪と言った香辛料を少し多めに。

 

十分火が通ったら、一旦野菜を別の皿に移し、ボウルに卵を割り入れる。

8個くらいでいいかしら。続いて菜箸で卵を溶く。

よく混ざったらさっき炒めた野菜を投入。これで下ごしらえは完了。

 

いよいよ最終段階。と言っても要するに焼くだけなんだけど。

フライパンに野菜入り卵液を一人分流し込み、火にかける。

ふつふつと泡が立ってきたら菜箸で両端から形を整え、ある程度固まったら

フライパンを跳ね上げ一気にひっくり返す。最後に火から下ろして10秒ほど余熱を通すと。

 

「できた…!まずは一人分」

 

完成品を皿に盛り、2つ目に取り掛かる。

まあ野菜を炒めた時点で6、7割出来上がってるから残りもそんなに時間はかからなかった。

テーブルに並ぶあたしの作品。ルーベルが興味深そうに見てる。

あたしは宙に向かって大声を上げた。

 

「めしー!!」

 

あちこちから腹を空かせた亡者共がわらわらと出てくる。

みんな席につくと見慣れない物体を珍しそうに見る。

 

「今夜はあたしが作った。味は保証しない」

 

「お姉さまが?楽しみです。香りもなんだか食欲をそそりますね」

 

「里沙子でも料理なんて女らしいことするのね。驚きだわ」

 

「料理じゃないから。錬金術だから」

 

「お姉ちゃんの、料理……おいしそう」

 

「だから錬金術だって。ゲームで言えばDランクの代物だろうけど。

冷めるからそろそろ食うわよ。いただきます」

 

各自でお祈りやいただきますを済ませると、

さっそくあたしが合成したアイテムにナイフを入れる。

 

「これ……おいしい!」

 

「いろんなお野菜がピリ辛に味付けされてて食が進みます~」

 

「夏野菜のスパイシーオムレツ。

カレーにしてもよかったんだけど、ここじゃカレールーが手に入らないのよね。

卵の出番もなくなるし」

 

少しだけ切り分けたオムレツをルーベルも試してみた。

 

「うん、頑張った甲斐があるじゃねえか。うまいぞ」

 

「どうも。残暑の日差しで死ぬ思いをした価値はあるってことかしら」

 

「皆さん皆さん聞いてください!

今日、里沙子さんが農園で普通の人みたいに働いてたんですよ!それはもう別人のように!」

 

「飯時に騒がない!久々に治療薬行っとく?」

 

「すいません……とにかくオムレツに入ってる野菜は里沙子さんが穫ったものです」

 

「素晴らしいですね。勤労はシャマイム教でも特に美徳とされていますから」

 

「お褒めの言葉嬉しい限りよ」

 

あたしが作ったショボいオムレツでもみんなが盛り上がってくれたならそれで何より。

食事を終えて解散すると、ダイニングで約束通り冷えたエールで一杯やる。

喉を通り抜ける爽快感と遅れてやってくる豊かな香りはやっぱり最高。

昼間の労働がなによりのつまみ。

 

「ぷはっ!ああ、たまらん!これまだ1本目よ?

つまりまだ2本残ってるってわけ。この幸せが。わかる?」

 

「うっせえな、もう酔っ払ってんのかよ」

 

「こんな贅沢めったに味わえないんだからテンションも上がるわよ。

今回も無事に1話完結するし、アトリエシリーズに感謝ね」

 

「で?話蒸し返すが、お前的にどうだったんだ今回」

 

「どうって?」

 

「ファンタジーがどうのこうのだよ!少しはお姫様の世界に近づけたのか?」

 

「あー、それね……今日の出来事を振り返ると、

ルーベルとだべり、あたしがひどい目に遭う、最後は酒。うん、よくあるパターンだったわ。

おもっくそアトリエに寄せたつもりだったんだけど、なんでこうなっちゃったのかしらね。

アハハハ」

 

「昼間言ったけどもう一度言っとく。計画性がないからだ!」

 

「こんなあたしでごめんなチャイナ!イヒヒヒヒ!」

 

「笑いすぎだ、畜生。ああうるせえ!」

 

あと追加。大したオチがないのもいつもと同じ。

 

 




「あきらめ節」
作詞:添田唖蝉坊
作曲:高田渡
https://www.uta-net.com/song/222915/
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