面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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新年早々冤罪騒ぎ
戌年ね。今年もよろしく。おせちの黒豆って本当人気ないわね。我が家でも毎年最後まで残ってたわ。


ガタガタ、ゴトン。ヒヒーン!

 

馬の一鳴きと共に馬車がハッピーマイルズ・セントラルの広場に停止した。

乗合馬車には彼、いや、彼女。とにかくわからないが、

たった一人しか乗客がいなかった。

その存在は、馬車から降りると、御者に運賃とわずかばかりのチップを支払う。

 

「……料金だ」

 

「ひい、ふう、みい、……ありがとうよ。年が明けたばっかりなのに忙しそうだな」

 

「ああ。これからもっと忙しくなるさ」

 

「みんな休みだってのにそいつは難儀だな。お互い頑張ろうや。じゃあな」

 

そして馬車は去っていった。

凍てつくような寒さだが、後に残された存在からは吐く息も吸う息も発せられない。

ただその瞳に燃えるような憎しみをたたえて。

 

「待っていろ……斑目里沙子!」

 

 

 

 

 

今日もジョゼットがうるさいけど、まぁ、めでたい日くらいは大目に見ましょうか。

 

「ハッピーニューイヤーです、里沙子さん!」

 

「はーい。あけましておめでとう、ジョゼット」

 

1月1日。つまり元旦。この世界の暦に元旦なんて祝日はないらしいんだけど、

やっぱりこうやって年明け自体はお祝いするみたい。

今も、ささやかながら普段よりちょっと豪華なご馳走に舌鼓を打ちながら、

朝っぱらから飲んでる。

日本酒は苦手っつーかこの世界にはないからやっぱりエールだけど。

ジョゼットも小皿に少しずつ盛り付けられた料理に目を輝かせ、

次はどの料理にしようかとフォークを彷徨わせている。

 

「迷い箸はよしなさい。いや、迷いフォークか。

とにかくみっともないから、決めてから取りなさい」

 

「はーい」

 

ちなみに、このおせちもどきの料理はあたしも手伝ってやった。

ローストビーフ、数の子、伊達巻、ソーセージ、シーザーサラダ、その他諸々。

おせちは年末忙しかった女性を正月に休ませる意味もあったらしいから、

あたしも召使いを休ませようと思って、年明け祝いの手伝いを買って出た。

そしたらやっぱりジョゼットが余計なこと言い出して。

 

 

“えーっ!?里沙子さんが料理を手伝ってくれるなんて……明日は雨と雪と稲妻の嵐が、

というかそもそも料理ができるなんて意外すぎてわたくし”

 

“それ以上しょーもないこと言うなら給湯器のマナ止めるわよ。

12月の冷え切った水で料理なさい”

 

“ああ、ごめんなさい!嘘です嘘!”

 

 

まったく、最初から黙って手伝われてりゃいいのにこいつは。

それで、あたしが出来る範囲でおせちを再現しようとしたら、

ジョゼットが興味を示して、

この際オードブル形式にして形だけでもおせちに近づけようってことになったわけ。

お雑煮も作りたかったんだけど、お餅がないんじゃしょうがないわね。

 

「ん~!里沙子さんの“ダテマキ”って卵焼き、ケーキみたいで美味しいです!」

 

「そりゃあ、なによりよ。

栗きんとんも欲しいところだったけど、まだ母さんに習ってなかったのよね」

 

「キンコンカン?なんですかそれ」

 

「甘く煮た栗をねっとりした黄色い餡で混ぜたものよ。伊達巻より甘い」

 

「美味しそう……それも食べたかったです~」

 

「来年までに和食の料理本が流れ着いてくるのを期待なさい。

さて、数の子の具合はどうかしら」

 

ニシンを丸ごと一匹買って、腹から卵を取り出して塩抜きして、

調味料に漬け込んどいた。……うん、久々に作ったにしてはそこそこね。

コリコリと噛む音に気づいたジョゼットも気になったのか、

割れやすい数の子をフォークとナイフで器用に口に運ぶ。

 

「……ん!?不思議な味と食感ですね。初めて食べたけど、美味しいです!」

 

「気に入ってもらえてなにより。

こいつには子孫繁栄の意味が込められてるの。卵がいっぱいあるでしょ。

数の子だけじゃなくて、おせち料理にはそれぞれ験を担いだ意味があるのよ。

さっきの伊達巻は巻物に似てるから学問なんかに縁起が良いって話よ」

 

「へぇ。アースの文化ってやっぱり面白いです!もっとおせち料理食べたいなぁ」

 

「母さんもミドルファンタジアに来たら全部食べさせてあげられるんだけどね。

あ、あたしが拳銃持ってるところ見たら、目回してぶっ倒れるわ。アハハ」

 

酔っ払い気味のあたしも、ご馳走で年明け早々幸せ気分のジョゼットも、

おせちとエールで平和な正月を満喫していた。

 

「ふぅ、お腹いっぱいです~新年とはいえ、朝からこんなに贅沢していいんでしょうか」

 

「いいに決まってんでしょ。

どうせ街の連中もおんなじようなグータラ正月送ってるんだし。

このどうでもいい物語の読者も、今頃は初詣や帰省で忙しいんだし、

三が日ぐらい寝正月送っててもバチ当たんないわよ」

 

あ。言ってから気がついた。変なフラグ立てちゃったことに。もう手遅れだ。

多分あと……

 

 

斑目里沙子オォ!!出てこい親の仇!お前だけは絶対に殺してやる!

 

 

正月終了。あ、わかってるだろうけど将軍じゃないわよ。

まったく、元旦に厄介事ぶっこんでくるとか、この物語の作者マヂで頭おかしい。

放っとこうと思ったけど、喚き声がうるさくて止まる様子もない。

あたしはうんざりしながら、まだご馳走が残るテーブルを後にして、

なぞのぶったいを出迎えるためにマフラーを巻いて、聖堂の玄関から寒い外へ出た。

 

そこに立ってたのは、本当に“なぞのぶったい”だった。

とりあえず人間型なんだけど、作り物丸出しなの。要するに人形。

そいつが突っ立ってあたしを睨んでるんだけど、人形に凄まれてもねぇ。

ジョゼットが遅れて出てきた。流石にこの寒さに耐えかねたのか、

小遣いで買ったケープを着てる。なんだか笑えてきた。

 

「里沙子さん、大丈夫ですか?」

 

「ねえ、大変よジョゼット!ロボットか操り人形か知らないけど、

変なのが新年の挨拶に来たわよ!見てよ、この肘とか関節!

ロー○ンメ○デンのビッグサイズじゃない!

あたし“まきます”に丸した覚えないんだけど!

アハハ、こりゃトランクにも入らんわ!」

 

あたしはなぞのぶったいを指差してジョゼットにも見せてやった。

 

「ちょっ、里沙子さん……」

 

実際そいつは関節が球体な以外はよくできてて、

季節外れの半袖とマントがなかったら人間と思ってたかもね。

髪も赤毛のロングで黄色い瞳をしてるけど、

よーく見ると皮膚も目も何かの人工皮革とガラス玉でできてることがわかる。

声からして女型だと思う。今もあたしを睨んでるけど、珍妙な現象に笑いが止まらない。

 

「くふふっ、ごめんなさいね!

あんた今までこの教会に押しかけてきたやつの変な奴ランキングナンバーワンだわ。

でも、悪いけど仇討ちならよそでやって?マネキンの不法投棄した覚えはないの。

ああ、新年初笑いだわ!」

 

「里沙子さん、失礼です!まずお話を……」

 

「話?ないない!OSかなんかがバグってるだけでしょ。

保証書持ってメーカーに電話しなさい。

わたしのあたまがこわれちゃったよ~って!うふふっ、おかしい!腹痛い!」

 

「……今のうちに笑っていろ。二度と笑えないようにその顎を砕いてやる。

その銃で父さん達を殺した指を引きちぎるのはそれからだ」

 

なぞ(略)が何か怒ってるけど、酔いが回ってるせいか本当に笑いをこらえきれない。

もう少しこいつで遊びましょう。どうせ正月暇なんだし。

ぐるぐるする意識の中から引っ張り出した規定を、な(略)に突きつけてみる。

 

「あーハハ。息が苦しい。ねえ、あんた。ロボット三原則って知ってる?

まずひと~つ!ロボットは人間に危害を加えちゃだめ!次に、人間の命令には絶対服従!

そうねぇ、あとは……ロボットは自分を守らなきゃならない、だったかしら?

これ、あんた達が守るべき法律ね。あんたにはこれがちゃんと実装されてないらしいわ。

やっぱり不良品だから取扱説明書のQ&A読んでから修理依頼なさいな。ういっく」

 

「貴様……!!その手前勝手な理屈で父さんや母さんを殺したのか!

オートマトンは人間に搾取されていろとでも言いたいのか!」

 

「……里沙子さん、それ以上はやめてください」

 

んー?なんかジョゼットまで段々怒ってきたんだけど。

絶対こんなの信者じゃないのにね。それ以前に人じゃないっていうか。

……わかったわよ、もうちょっとだけ遊んだら追い返すから。

 

「んふふ、あんたのCPUだかHDDだか見せてごらんなさいな。

頭パカっと開いてどこが悪いのか姉さん見てあげる。あたしハード面も割りと行けるの。

アメリカでAK47の修理習ったくらいだからね~ジョゼット?ノコギリ持ってきて」

 

「そうやって、父さんや母さんの命を盗んだのか……!もういい、死ね!」

 

あ、なぞ(略)がホルスターの拳銃に手をかけた!

けど、相手にそれを認識させてるようじゃ遅すぎるわね。

やっぱりあたしのピースメーカーがなぞ(略)の眉間を捉えるほうが早かった。

まぁ、一応これで命繋いでることもあるし、

変なロボットに負けるわけには行かないのよねえ。

 

「は~い、残念」

 

「くそっ!」

 

「う~ん、もうこのバグまみれの一品は修復不能ってことで、

破砕処分したほうがいいわね。とりあえず頭からHDD引っ張り出して叩き割る。

ディスプレイの前のみんなもHDDを処分するときは物理的に破壊するか、

金があるならデータ抹消ソフトを……」

 

「里沙子さん」

 

「ん?」

 

パァン!

 

銃声じゃない。横っ面を張られた。チタンフレームの眼鏡がカラカラと床に転がる。

思わず痛む頬に手をやると、酔いが吹っ飛び頭が真っ白になる。

あたしは考える前に思い切りジョゼットの胸ぐらを掴んだ。

 

「……何の真似?」

 

「彼女に謝ってください」

 

徐々に腹の中が煮えたぎる。そしてこの尼はさらに意味不明な要求をしてくる。

それが更に怒りを加速させる。

 

「人間がガラクタに頭を下げろって?あんたも脳にバイ菌でも入ったのかしら」

 

「彼女達にもこのサラマンダラス帝国の住人として人権が認められてるんです!

里沙子さんの言動は全てのオートマトン達の尊厳を踏みにじるものです!」

 

「オートマだの軽四だのどうでもいい。な・ん・で、お前に殴られなきゃならない。

いい機会ね。立場の違いってもんを……」

 

パシン!

 

また、叩かれた。本当に頭に来ると怒りも湧いてこないものなのね。え、怒り?

怒りっていうか、なによ、これ。

 

「彼女達はオートマトンという立派な命ある種族なのです。

確かに身体を形作っているものは人工物です。

でも、その胸には、極稀に天から降ってくる天界晶というものが埋め込まれています。

天界晶をその身に受けた人形は、人と同じ思考・感情を持つ、

オートマトンという一人の存在になるのです……ここが街中でなくて幸いでした。

先程のような差別的発言を聞かれていたら、

里沙子さんの社会的信用は失墜していました。今ならまだ間に合います。

彼女に、謝罪してください」

 

あたしは語り続けるジョゼットを睨みつける。熱くなった目で。

歯を食いしばるけど、だめだった。

 

「うくっ……なによ。召使いの癖に、あたしに指図してんじゃないわよ!!

そんなにロボットが好きなら、そいつと一緒に出ていけばいいでしょう!

勝手にしなさいよ!好きなだけ退職金持って優しいご主人様探せばいいじゃない!」

 

「里沙子さん!」

 

あたしは眼鏡を拾うと、ジョゼットに財布を投げつけて、

両頬を伝うものを拭いながら私室へ駆けていった。最悪。何やってんのかしら。

元旦くらいはのんびり出来ると思ったのに、

おかしな事しか喋らないロボットが来たから、暇つぶしに遊んでたら、

まさかジョゼットごときに泣かされる。

一年の計は元旦にありっていうけど、今年はなんにも期待できそうにないわね。

あたしはベッドに身を投げると、しばらく枕に顔を埋めていた。

 

「……なんであたし、泣いてんだろ」

 

 

 

 

 

わたくしは、しばらく右手のひらを見つめていました。まだヒリヒリします。

どうしてあんなことをしてしまったんでしょう。……わたくしは、最低です。

 

「まったく、余計なことをしてくれた。奴を泣かせるのは私の役目だったというのに」

 

オートマトンの彼女がゆっくりと聖堂に入ってきました。

 

「あの、貴女は……?」

 

「私はルーベル。両親の仇討ちに来た。……斑目里沙子に殺された父さん達の」

 

「待ってください!里沙子さんはそんなことする人じゃありません!」

 

「確かに見たんだよ!両親を撃ち殺した後、2つの天界晶を持って逃げていく後ろ姿を!

三つ編みに白のストール!新聞で奴を見た時は驚いたよ。

この領地じゃ強盗が英雄扱いされてるんだからな!」

 

「なにかの誤解です!ルーベルさん、貴女がオートマトンということは、

ログヒルズ領からいらしたんですよね?

面倒くさがりの里沙子さんは、そんな遠くに行ったことなんてありません!」

 

「じゃあ誰が両親を殺したと言うんだ!!」

 

ルーベルさんが澄んだ目でわたくしを睨み、怒鳴ります。

まずは落ち着いた所でお話を聞かないと。こんなこと絶対間違いに決まってます。

 

「とにかく中へ。詳しい事情を聞かせてください」

 

「……ああ、聞かせてやるさ。奴が犯した罪を」

 

わたくしはルーベルさんをダイニングに案内しました。

彼女が椅子に座ったので、お茶を出そうとしましたが、やめました。

 

「失礼しました。貴女がたには飲食する習慣がないんでしたね」

 

「そう。嗜好品として味わうことはあるが、

基本的にはこの身に宿る天界晶の力が全てだ。

それが破壊されたり、奪われたりさえしなければ、

人間とほとんど同じ時を生きられたんだ。……それを、あの女に!」

 

「では、その経緯を話してくれませんか。

わたくし達もいきなり強盗扱いされて戸惑っているんです。

貴女が嘘をついているとは思っていません。

ただ、誤解や勘違いが重なった結果という可能性もあります。

だからお願いです、今は里沙子さんに時間をください。

それまでにわたくしが状況を整理しておきますから……」

 

「……いいだろう。ちょうど半月前のことだった」

 

ルーベルさんは少し目を閉じて興奮を押さえ込んだ後、語り始めました。

 

 

……

………

 

 

あの時もいつも通りのつまらない一日だったよ。

私は母さんにお使いを頼まれて、面倒だけど結局行くことになった。

 

「ルーベル、隣のお婆さんに塗り薬を届けて」

 

「えー!またかよ。あそこ隣つっても往復で30分はかかるじゃねえか……」

 

「まだ身体の節が痛むらしいの。お願いね」

 

「母さん行きゃいいじゃん」

 

「行ってやりなさい。母さんは冬の支度で忙しいんだ。それになんだその言葉遣いは。

ちゃんと女の子らしく喋りなさいといつも言っているだろう」

 

「あーはいはいわかった、行ってきまーす」

 

それで、私は父さんの小言から逃げるようにお使いに出たんだ。

まあ、面倒だけどそれほど嫌だったってわけでもない。

婆さん家に行くのはしょっちゅうだったからな。

ちょっと長い道のりをぶらぶら歩いて私は婆さんに薬を届けたのさ。

 

「ああ、ルーベル。すまないねえ、歳になると身体のあちこちにガタが来ちまって」

 

「大丈夫か、婆さん。

そんなに痛むなら、神療技師に新しい身体作ってもらったらどうだ」

 

「いいさ。あたしゃもう長くない。薬で痛みが和らげば、それで十分さ」

 

「……そうか、まあ婆さんがそれでいいなら別にいいけどさ」

 

知ってるかもしれんが、神療技師ってのは、私達オートマトンの身体を作ったり、

新しい身体に天界晶を移し替える特殊な技能を持った、いわば私達の医者だよ。

オートマトンは身体は成長しないが、心は年を取る。

数年、あるいは数十年に一度、神療技師に精神年齢に相応しい身体を作ってもらって、

それに天界晶を移す。一度宿った天界晶が身体を出るのはその時だけさ。

……基本的にはな。

 

「はい、お駄賃だよ。いつもありがとうね」

 

「いいって、もう子供じゃねえんだから!」

 

「もう寒いから、これであったかいもんでも食べな」

 

「私ら飲み食いしねえだろ、まったく。……まぁ、サンキュ」

 

「そうだったそうだった。長く生きると考えが人に近くなっちまう。また来ておくれ」

 

「じゃあな、婆さん。無理はすんなよ」

 

私は婆さんにもらった結構な小遣いをポケットにしまって帰り道に着いた。

もと来た道を歩いて15分。

小さな家の屋根が見えた瞬間、凄い銃声が2つ連続で外まで響いてきた。

慌てて玄関へ走ると、天界晶を抱えた変な女が家から飛び出して、

一瞬こっちを振り向いてニヤリと笑ったんだ。間違いない、顔も姿も、あの女だった!

 

私は逃げるそいつを追うより先に、家にいた母さん達を探したんだ。

そしたら……二人共、床に倒れてた。胴から下を砕かれて。

胸の中を覗くと、そこにあるはずの天界晶が抜き取られてて、

わずかな光の帯が舞っているだけだった。あたしは父さん達に駆け寄って呼びかけた。

 

「父さん!母さん!何があったんだ!!」

 

「ルーベル……お前は、無事だったのか……」

 

「ああ、なんともねえ!どうしちまったんだよ、父さん!」

 

「強盗だ……俺達を撃って、胸から天界晶を引っ張り出した」

 

「そんな!母さん?しっかりしろよ母さん!」

 

「ルーベル……あなたをお使いに出してよかった。

最期にあなたの顔を見られて、よかった……」

 

「諦めんなよ!待ってろ、今すぐ神療技師を……」

 

立ち上がろうとした私の袖を、母さんが弱々しい手で引っ張った。

 

「もう、いいの。せめて、最期まで一緒にいてちょうだい。

わたし達の可愛い、一人娘……」

 

「いやだ!いやだいやだ!」

 

「ルーベル、仇討ちなど、馬鹿なことを、考えるんじゃないぞ」

 

「なんでだよ!さっきの女が犯人なんだよ!

地獄の果てまで追いかけて、絶対に殺してやる!」

 

「頼む、最期まで、お前の心配をしながら、死に、たくは、ない……」

 

「ルーベル、わたし達の、ルーベル……」

 

コトンと母さんの指が床に落ちた。

そして、二人にわずかに残っていた天界晶の力が完全に消え去った時、

父さんと母さんは、ただの木の人形に還っていったんだ。

 

「あ……う、うああああ!!」

 

私は叫んだ。涙を流すことすらできない私は、ただ叫ぶことしかできなかった。

 

 

………

……

 

 

「それが、あの日の出来事だ」

 

「そんな……」

 

ルーベルさんは語り終えると、テーブルの上で組んだ手に目を落としました。

 

「それからは死に物狂いで犯人の足取りを追った。

犯人は近くの商店街の宝石店で天界晶を売り払ったらしい。

神の涙とも呼ばれるほど美しい天界晶にはとんでもない値段が付く。

恐らく金目当ての犯行だったんだろう。そしてやっと見つけたのさ。

新聞の一面で悪魔の骸を掲げ、英雄のごとく讃えられる奴の姿を!」

 

抑えきれない感情を噴き出すかのように、彼女がテーブルを叩きます。

食べかけのたくさんの小皿が音を立てて跳ねました。……やっぱり、おかしいです。

 

「ルーベルさん。辛いお話をさせてしまってごめんなさい。

でも、わたくしには、どうしても里沙子さんが犯人だとは思えないんです」

 

「……一応理由は聞いてやる」

 

「俗な話になるんですが、

里沙子さんはもう一生食べていけるだけのお金を持っているんです。

実際毎日食っちゃ寝生活を楽しんでますから、

犯罪行為を働いてまでお金を得る必要が無いんです。

だから、さっきもお話ししたと思いますが、

ものぐさな里沙子さんがわざわざ遠くの領地まで出向いて強盗に及ぶとは思えません。

ログヒルズ領って、ここから相当離れた北西の領地ですよね」

 

「とにかく金をかき集めてここまで来た。家も家具も、何もかも売り払って……」

 

「わかりました。わたくし、里沙子さんと話をしてきます!」

 

「ふん、犯人の言い訳をわざわざ?」

 

「違います!

今のルーベルさんの話を聞いて、なにか、こう、違和感のようなものを覚えたんです!

わたくしにはその正体がわからないのですが、里沙子さんは頭の切れる人ですから、

きっと何かおかしな点に気づいてくれるはずです。

だから……お願いですから、それまでは、決闘とか仇討ちとか、

血が流れるようなことは待ってください!」

 

しばしの沈黙。ルーベルさんはじっとわたくしを見つめます。

 

「一度きりだ。

奴と話して現状を覆す事実が浮かばなければ、ドアを蹴破っててでも奴を撃ち殺す」

 

「ありがとうございます……里沙子さん、2階の私室に向かいました。

今から話してきます」

 

「私も行く」

 

わたくしはルーベルさんと2階へ続く階段を上ります。

……でも、里沙子さんはわたくしなんかと口を利いてくれるでしょうか。

いえ、迷っている場合じゃありません!絶対里沙子さんは犯人なんかじゃない。

それを証明してもらわないと。自分じゃ何もできないのが悔しいですけどね……

 

 

 

 

 

誰かが階段を上ってくる。二人?誰でもいいわ、寝たふりしよう。

こんな顔じゃ、人に会う気も失せるわ。これが本当の寝正月よ。

コンコンとノックが聞こえるけど無視する。

 

“里沙子さん……ジョゼットです。少し、お話しできませんか”

 

「……」

 

“さっきは、ぶったりしてすみませんでした。アースから来た里沙子さんが、

この世界のルールを知らなくても仕方がないことに気が回らなくて……

本当に、ごめんなさい”

 

「……」

 

“でも、このままじゃいけないと思うんです。

ルーベルさん。ああ、今日訪ねて来られたオートマトンの方なんですが、

彼女が里沙子さんを憎んでいるのは大きな誤解があると思うんです。

さっき、事の経緯を伺いました。確かに彼女は里沙子さんの姿を見たらしいんですが、

どうも何か引っかかるんです。里沙子さんも、一度話を聞いてください。

わたくし、このまま里沙子さんが身に覚えのない罪で憎まれ続けるのは嫌なんです!”

 

あたしは横になったまま、ミニッツリピーターを指先で撫でると、ぼそりと呟いた。

 

「……喋りたいなら勝手になさい」

 

“ありがとうございます!”

 

それからジョゼットはルーベルとやらの家族が殺害された当日の状況を、

ドアの向こうから事細かに説明した。

……なるほど。銃になんか触らないジョゼットは気づかないでしょうね。

確かに、あたしが犯人だとすると、どうしても辻褄の合わない点がある。

 

「ルーベルって早とちり馬鹿に確認」

 

“なんだと!”

 

“お願いです、今は話を……”

 

“チッ、なんだ!?”

 

「銃声の間隔。

2発の間に1,2秒ほど間はあった?それとも1発目が鳴り止まないうちに2発目が来たの?」

 

“それがなんだと言うんだ!”

 

「寝るわよ」

 

“ふん、連続して2発だ!”

 

「そう……だったらそれはあたしの銃じゃない。

ピースメーカーもM100もシングルアクションだから、そんな連射はできない。

どういうことかって言うと、1発ごとに手動でハンマーを起こさなきゃいけないから、

銃声に間が生まれる。

そりゃピースメーカーならファニングで早撃ちできないことはないけど、

命中率は下がるし、成人サイズの木製の胴体を粉々にするほどの破壊力はない。

とっととずらかりたい強盗がそんな曲芸やってる暇あるのかしら」

 

“里沙子さん……!ほら、やっぱり里沙子さんは犯人なんかじゃ!”

 

“だが!私は見たんだ。両親の命を持ち去った奴の、顔も姿も!

あいつしかいないんだ!”

 

頑固な奴ね、しょうがない。不幸続きの元旦を少しでも明るくしようと、

あたしはミニッツリピーターを首から下げた。

そしてベッドから起き上がると、ドアを開けた。そこには見覚えのある顔が2つ。

 

「里沙子さん!あの……」

 

「財布」

 

「え?」

 

「よこしなさい。今から事件現場に行くのよ。馬車代が要るでしょう!

そこの石頭に何があったかわかりやすく説明して、真犯人をぶちのめしに行くの」

 

「は、はい……」

 

ジョゼットがおずおずと白い大きな財布を差し出してきた。早くしなさいよ。

これ、でかくてオバサン臭くて正直気に入ってないんだけど、

紙幣がない世界だと大きい財布じゃなきゃ不便なの。

 

「あの、里沙子さん」

 

「もう、さっきから何。言いたいことはさっさと言う!あんたの悪い癖よ」

 

「わたくしを、殴ってください。

理由はどうあれ、聖職者でありながら、乱暴な手段を取ったわたくしは、

同じ痛みの罰を受けなければいけません。

気の済むまでわたくしを殴って、どうか許してください……」

 

ジョゼットがぎゅっと目を瞑る。やれやれ。

馬鹿みたいに頑固で、馬鹿みたいな方向で真面目なんだから手に負えないわ。

あたしは人差し指で軽くジョゼットの顎を持ち上げて顔を近づける。

少し驚いた様子で彼女が目を開けた。

 

「同じ痛み?馬鹿にしないで。

あんたのへなちょこビンタなんかちっとも効きやしないのよ。

ボケた老人の右ストレートの方がもっと腰が入ってたわよ。

いいからさっさと出掛ける準備!そこの赤ロン毛もボサッとしない!」

 

「里沙子さん……はい!」

 

「変な名前で呼ぶな!私はルーベルだ!」

 

「はいはい」

 

あたしは階段を下りながらガンベルトを身に着けてマフラーを巻いた。

玄関を出るとトランクを持ったジョゼットと、

ルーベルとかいうオートマトンって奴が続いて来た。ドアの鍵を閉めて、

ハッピーマイルズ・セントラルの駅馬車広場へ向かおうとしたんだけど……

 

「ねえ、あんた。その格好寒くないの?正直見てるこっちが寒い」

 

改めてその格好を見ると、水兵のような半袖の洋服にジーンズの半ズボン。

白のマントは全く防寒対策になってない。

今の時期、人間が同じ格好で外出したら街に着くまでに行き倒れるわね。

 

「ふん、物知らずめ。

天界晶の守護があるオートマトンは、多少の熱や冷気ではびくともしない」

 

「よーするに鈍感ってことね。

季節に合わせた身なりってもんを考えないと、そう取られても仕方なくてよ」

 

「なにを!」

 

「二人共やめてくださーい!

これから一緒に旅をするんですから、今からこんなでどうするんですか!」

 

「わーったわよ」

 

ジョゼットがどうでもいい会話を打ち切る。こういう時はたまに役立つのよね。

とにかく、あたし達は街の駅馬車広場を目指して街道を歩き始めたの。

野盗達も正月くらいは休みたいのか、静かなものだったわ。

毎年冬が開けると、森や洞窟から凍死者が何人も見つかるらしいけど、関係は知らない。

 

歩いてる間もルーベルがこっちを睨んでるのを背中で感じるけど、

痛くも痒くもないわねえ。

むしろ、あたしの無実が証明されたらこいつがどう出るのかが今から楽しみ。

そうこう考えてるうちに勝手に足が動いて、街に着いた。

門をくぐっても、いつものうるさい連中がいない。いつもこうだといいのにね。

商品だけ並べて“代金は箱に入れてください”ってのにしてくれないかしら。

 

さて、駅馬車広場はこっちだったわね。ここは年中無休。

どの世界も公共交通機関は休み無しなのね。頭の下がる職業だわ。

広場に入って、いつもの事務所に入って受付に話しかけた。

 

「こんにちは。馬車を一台貸し切りたいのだけど」

 

「新年おめでとうございます、斑目様。本日はどちらへ?」

 

「今年もよろしく。ログヒルズ領へ行きたいのだけど。3人乗るから中型でお願い」

 

「それはまた遠くに。

ログヒルズで中型となりますと、2000G。前金で1000Gでございます」

 

「こちらに」

 

「確かに頂戴しました。では、こちらの番号札をお渡しください。よい旅を」

 

「ありがとう」

 

あたしと受付の間で、いとも簡単にやり取りされる大金をポカーンと見てるルーベル。

これが金持ちの力よ、参ったか。

いつものように、中型馬車が並ぶ停車場で札の番号を探していると、

ブツブツとルーベルの独り言が聞こえてくる。

 

「くそっ、本当に金持ってやがる……事務所でもVIP扱いだったし……

私なんかボロ馬車を乗り継いで……」

 

くくく、羨ましいか。あたしは若干いい気分になりながら、指定の馬車を探す。あった。

黒塗りの高級感が漂う装飾が施された馬車。

御者席すら木のフレームとガラスで守られてて、

極寒の中をフルスピードで走れる作りになってる。

あたしは御者に番号札を渡して乗り込む。

 

「この馬車よ、乗りましょう。……御者さん、長旅になるけどよろしくね」

 

「いつもご利用ありがとうございます。さぁ、外は寒うございます。どうぞ中へ」

 

おおっ、高級車だけあってシートがフカフカ。

足元には炎鉱石とファンで温風を送るヒーターまである。

あたしが驚くくらいだから後ろの2人にはもっと衝撃的なわけで。

 

「わ~凄い!王様の馬車みたいです!」

 

「これが、馬車だって言うのか?……お、お前、私をどこに連れて行く気だ!」

 

「ログヒルズ領に決まってるでしょ。

払うもんは払ってんだからこれくらいでオタオタしないの」

 

「だっ、誰がオタオタなん「出してくださいな~」」

 

「かしこまりました。それでは、出発致します」

 

うるさいルーベルを無視して馬車は旅立った。

さて、面倒くさいけどログヒルズ領まで、いくつも領地をまたいでの小旅行になるわ。

着いたら着いたでもっと面倒なことになるんだけど、

そこまで書いてると長くなるから一旦この辺で。続きはすぐ上げるわ。

みんな良い一年になるといいわね。

 

 

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