面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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子供の頃通ってた塾で飼ってた犬が、ゴミでもなんでも食べるアホ犬だったんだけど、まだ元気かしら。

前回のあらすじねー

オートマトン殺害容疑、ジョゼットからビンタ、事件現場へ、今ここ。

 

 

二頭の筋骨たくましい黒馬が全速力で駆け抜ける。途中ちょっと雪がちらついたけど、

丈夫な馬はそんなこと気にも留めず、真っ白な息を吐きながらひたすら北へと疾走する。

トートバッグから地図を取り出して現在位置を確かめる。あら凄い、あっという間ね。

3つも領地を超えて、今の領地を超えたらログヒルズ領ね。

 

「ルーベル、向こうに着いたら、あんたが道案内するのよ」

 

「えっ、案内ってどこへ?」

 

「しっかりしなさいよ、あんたの村に決まってるじゃない。現場検証よ」

 

「あ、ああ。そうだな!」

 

教会に押しかけたときの勢いはどこへやら。

小さなシャンデリアが揺れるこの高級車に、まだ圧倒されてるみたい。

多分、向こうで真犯人を見つけたら戦闘になる。

ルーベルは……明らかに戦い慣れてない。

 

というより、ここ2,3日で初めて銃を持ったんじゃないかしら。

あたしとクイックドロー対決した時も、かなりもたついてたし。

はぁ、やっぱりあたしが殺り合うことになるんでしょうね。

考えを巡らせていると、ルーベルが前に乗り出して御者に話しかけた。もうすぐね。

 

「なあ、あの針葉樹がたくさん生えてる村に行ってくれ!」

 

「かしこまりました」

 

「あそこがあんたの故郷なの?」

 

「故郷だった、だ。……もう、帰る家なんかない」

 

「ルーベルさん……」

 

「売りに出した家にはとりあえず入れるのかしら?」

 

「”FOR SALE(販売中) 見学自由”だとよ……!」

 

ルーベルが歯噛みして答える。そういう看板が掛かってるらしいわね。

何にせよ、立入禁止じゃなかったのはよかったわ。

ひょっとしたら証拠品が見つかるかもしれない。

しばらくすると、馬がいななき、馬車が止まった。

 

「お客様、村の入り口に着きました。奥に進まれますか?」

 

「いいえ、ここで結構ですわ。ほら、二人共降りるわよ」

 

「ううっ、寒いです~!馬車に戻りたい!」

 

「あんたの小遣いで2000G払えるなら好きにしなさい」

 

「ああ、降ります、降ります!」

 

「……」

 

無言で降りるルーベル。針葉樹が広がる村を見渡し、何を思っているのかはわからない。

あたしは運賃の支払いを済ませる。

 

「ご苦労様、これが料金と……お正月だから貴方に、ね?」

 

あたしは料金と、チップとしては多すぎる金貨1枚を御者に渡した。

 

「えっ、こんなに頂いては……」

 

「“お年玉”という祖国の習わしですの。

年始めには、ちょっとした知り合いや、お世話になった人に心付けを配る。

本来のチップとの合算ですから気になさらず受け取ってくださいな」

 

「なるほど。では、お年玉をありがとうございます!」

 

今度は御者さんは喜んで受け取ってくれた。美麗な馬車が去っていく。

誤解しないで。ちょっとした茶目っ気よ。

さて、さっさとやること済ませちゃいましょうか。ジョゼットの言うとおり本当に寒い。

 

「ルーベル、あんたの家に案内して」

 

「……こっちだ」

 

そこはスギ、松、といった針葉樹に囲まれた奥に長い村だった。

細長い小川に沿うようにずっと向こうに続いている。あたし達はルーベルを先頭に、

手頃な高さのゴールドクレストとすれ違いながら村を進む。薄っすらと雪化粧の土地に、

ポツポツとログハウスが点在してる。いくつもの小さな橋が小川に掛かって、

分かたれた土地を繋いでて、広さを最大限に活かしてるわね。

 

人の姿は見当たらない。オートマトンの村だからとかじゃなくて、

そのオートマトンもいないのよ。やっぱり正月だからお家でパーティー?

それ抜きにしてもなんだか寂しいところね。

あたしの疑問を察したのか、ルーベルが前を向いたまま答える。

 

「みんな、喪に服してくれてるんだ。……こんな事件は、初めてじゃないしな」

 

「そう」

 

それだけを答えた。

確かに、高値が付く天界晶を持つオートマトンがたくさんいる村は、

外道にとっては宝の山でしょうね。

 

「騎兵隊は?」

 

「こんな山奥まで巡回になんて来てくれない。自分の身は自分で守るしかない。

私は、守れなかった」

 

「……ルーベルさん、」

 

あたしは、何か言おうとしたジョゼットを手で制した。

陳腐な慰めなんか下手な罵倒より相手を傷つけるだけ。黙ってルーベルに付いていく。

すると、一件の家にたどり着いた。

 

「ここだ」

 

彼女が言っていた通り、FOR SALEの看板が掛かったログハウス。

全体的に砂埃が薄く積もって、手入れされていないことがわかる。

 

「入るわよ?」

 

「……好きにしろ」

 

「里沙子さん、絶対に犯人を捕まえましょうね!」

 

あたしは、ジョゼットに返事をせず古びたドアを開いた。

内部は見通しの良い作りになっている。

暖炉以外の家具がなくなっていることもあるけど。

あたしは視線を走らせながらゆっくりと、慎重に家屋の内部を捜索する。

 

ふと気になるところを見つけてしゃがみ込んだ。

掃き残した細かい木片が散らかっている場所が2ヶ所。

恐らく、ルーベルの両親はここで殺された。

いつの間にか入ってきていた彼女も言葉少なに答える。

 

「……そう、父さんと母さんはここで死んだ」

 

「凶器が銃なのは間違いない。

だとすると、二人の位置関係から見て、向こうに何か残ってるはず」

 

あたしも努めて事務的に話すと、目星を付けたところに歩いていった。

そして、組み上げられた丸太の壁にそれはあった。

下手なコンクリートより頑丈な丸太に穴を開けて食い込んだそれ。

あたしは折りたたみ式のポケットナイフを取り出すと、穴から何かをほじくり出す。

 

コロンと出てきたそれは、潰れた金属。凶器の銃弾ね。あら、これって……

あたしは、銃弾の特徴から犯人への糸口を掴んだ気がした。

 

「ルーベル、この辺で銃を売ってるところは?」

 

「南に10分ほど歩いたところに商店街がある。銃砲店もな。

だが、大抵オートマトン相手の商売だから人の役に立つものはあまりないぞ」

 

「他はどうでもいい。とにかく銃砲店に行くわよ」

 

「え、手がかり、見つかったんですか!?」

 

「まだ取っ掛かりに過ぎないわ。さあ二人共」

 

「ああ」

 

あたしは、その特徴的な使用済み弾丸をポケットに入れて一旦村から出た。

またルーベルに案内してもらって、

あたし達はなだらかな斜面に宿屋、雑貨屋、神療医などが並ぶ小さな商店街に到着。

ジョゼットが小さな身体で、大きなトランクに振り回されそうになりながら、

あたしに聞いてきた。

 

「さっき、ルーベルさんの家で何を見つけたんですか?」

 

「凶器の銃弾。これで犯行に使った銃が絞り込めた。つまりそれを持ってるやつが犯人」

 

「本当か!?」

 

村に入ってから塞ぎ込んでいたルーベルが、あたしの肩を掴んで必死に問いかける。

 

「間違いない。これはアースの銃。つまり一点物でこの世界では作られてない」

 

「よし……絶対見つけ出して、今度は私の銃で殺してやるんだ!!」

 

「行きましょう、ほらあそこ」

 

ハッピーマイルズの銃砲店のように、

ピストルの看板を掲げたガンショップが右手に見える。

あたし達は微かに鉄の臭いが漂う店内に入ると、

カウンターにいる筋肉質の親父に話しかけた。

この寒いのに、鍛えた身体を見せつけるようにタンクトップ1枚で煙草吹かしてる。

 

「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」

 

「……ゴホン」

 

「.45LC弾を10発」

 

「100Gだよ」

 

「はいどうぞ」

 

あたしが金を払って商品を受け取ると、親父が話を聞く体勢に入った。

 

「何が聞きたい」

 

「最近この弾を使う銃を売らなかった?そいつに聞きたいことがあるの」

 

カウンターに、ログハウスで見つけた潰れた銃弾を置く。

 

「ああ、それか。アース製の一品だったからよく覚えてるぜ。

半月ほど前に……ん?後ろの嬢ちゃんが買ってったじゃねえか」

 

「え!?」

 

ルーベルが自分を指差して固まってる。え、じゃないし。驚きたいのはこっちの方よ。

犯人にたどり着いたと思ったら、容疑者が身内とかマヂ勘弁。

 

「あんた腰の銃、家ん中で撃ったりした?」

 

「いや、知らない!本当だって!」

 

「ええっ……どういうことなんですか~」

 

「騒ぐなら出てけ」

 

「あ、うん。邪魔したわね。とりあえず出るわよ」

 

銃砲店から出たあたし達は未だに混乱が収まってなかった。

 

「本当に買ったのはそれ1丁だけなのね?」

 

「ああそうだよ!事件がなけりゃこれだって買わなかったさ!」

 

確かにルーベルの銃はハンマーが歯車状の特殊な銃。つまり、ミドルファンタジア製。

アメリカ製のあの銃じゃない。どうしようもないから、疑問を抱えたまま、

もう一つの手がかりに当たってみることにした。

 

今度は宝石店。恐らく犯人が奪った天界晶を売り払った店。

店員が犯人に心当たりがあるかもしれない。

商店街の奥にある、小じんまりした宝石店に入った。

ショーケースの奥にモノクルを掛けた老紳士がいる。

あたしは小幅に歩いて近づき、声を掛けた。

 

「どれも素敵な品ですわね。失礼致しました、少々お聞きしたいことがあるのですが」

 

「なんですかな、お嬢さん」

 

老紳士はニッコリ笑って応えてくれた。

後ろの二人はあたしの口調の変わりように目を丸くしている。

 

「最近、天界晶を2つまとめてこちらに売却した方がいらっしゃると聞きまして。

どのような方がお売りになったのか教えては頂けないでしょうか」

 

「それは……どのような用件で?」

 

相手が少し警戒の色を見せる。

まぁ、言ってみれば顧客の情報を嗅ぎ回ってるんだから当然よね。

 

「わたくし、天界晶に目がなくて、どの宝石店に行ってもなかなか見つかりませんの。

きっとその方はたくさん天界晶をお持ちだと考えまして。

是非、お会いして売買交渉をしたいと思いますの」

 

すると、老紳士がますますその表情を険しくして答えた。

 

「ええ、確かにお売りいただきましたよ……貴女にね」

 

はい、こちら宝石店前。

ただいまルーベルがヒステリーを起こして大変ご迷惑をおかけしております。

 

「騙しやがったな!やっぱりお前が犯人だったんじゃねえか!!」

 

「落ち着きなさいって!あたしだって何がなんだかさっぱりよ!服引っ張んないで!」

 

「ルーベルさん、落ち着いて!

里沙子さんが犯人ならそもそもここまで来るはず無いじゃないですか!」

 

ジョゼットがルーベルの腰に手を回して止めようとしてるけど、

“ようとしてる”だけで、全然役に立ってない。

 

「大体なんだ、あのお嬢様口調は!私はぶりっ子が一番嫌いなんだ!」

 

「渡世術の一つでしょうが!

あんたもいい大人なら、よそ行き口調くらい身につけなさいな!」

 

「私がガサツで蓮っ葉だって言いたいのかよ!」

 

「もう怒るなとは言わないから、せめて怒りは1方向に絞って!

自分でパニックになるだけだから!」

 

「私がいつ怒った!?」

 

「いーかげんにしてくださーい!!」

 

ジョゼットの渾身の一声に、あたし達は状況を理解した。

いろんな店から客や店員が顔を出して、あたし達を珍獣を見るかような目で見てる。

商店街の真ん中で女二人がギャンギャン喚いてればこうなるわよね。

 

あたしもルーベルも冷静さを取り戻した、というより赤っ恥をかいて大人しくなった。

まったく、あたしとしたことが。ルーベルが雑貨屋前の階段に座り込んで続ける。

 

「……で、これからどうすんだ。もう手がかりなんかないだろ」

 

「いや、おぼろげな後ろ姿程度はまだ残ってる」

 

「なに!本当か!?」

 

「今更あんた担いでどうすんのよ。……金の流れ」

 

「どういうことだ?」

 

「正直、天界晶にどれほどの値段が付くのか知らないけど、

ひとりじゃ持ち運べないような大金になることは想像できる。

硬貨しか流通してないこの世界じゃ尚更ね」

 

「つまり?」

 

「銀行に張り込みよ。こんな片田舎で不審なほどの大金を入出金してる奴が怪しい」

 

「田舎言うな!……まぁ、私達に残された道はそれくらいしかないからな。行こうぜ」

 

で、あたし達は小さな銀行の向かいにある、建物の隙間に移動したの。

ここなら相手から見られず、銀行の出入りを監視できる。ついでに北風もしのげるしね。

待つことしばし。1人目はさっきの宝石店の店主。

少し待ったけど、記帳だけして帰っていった。

また待機。今度はどっかのおばさん。

店の奥を覗いたけど、銀貨5枚を引き出しただけだった。これじゃあ、ただの利用客ね。

 

「里沙子さ~ん、寒いです……」

 

「我慢なさい、あたしだって寒いのよ」

 

「人間は難儀だな。私はなんともないが」

 

風が吹かない代わりに日差しもないここは、やっぱりじっとしてると寒い。

季節が季節だから結局どこ行っても寒いってことね……

おっと、今度は銃砲店の親父が肩で風を切って中に入っていった。

 

店員となにか話し込んでるわね。あら、ソファに座ったわ。何を待ってるのかしら。

ん!しばらく待っていると、店員が重そうな袋を2つカートに積んで運んできた。

親父はそれを両肩に軽々と持ち上げると、銀行から出てきた。

 

「二人共、あたしが合図するまでここで待ってて。

間違ってもいきなり襲撃するんじゃないわよ」

 

「わかりました」

 

「何をする気だ?」

 

「奴は “本物”じゃない。銃砲店の親父は多分あたしと同じタイプ。

大金があるなら仕事なんか辞めてる」

 

そう言うとすぐさま、あたしは建物の陰から出て、

気配と足音を殺して親父の偽物に近づく。

その大きな背中に一歩、二歩、三歩と近づいて、

 

「騒ぐな。袖に毒針を仕込んでる」

 

右の拳をそっと背中に当てる。もちろん針なんかない。

 

「ひっ、やめて!」

 

「騒ぐなと言っている。一切喋らず前だけを見て、目的地まで歩け」

 

親父がオッサンらしからぬ悲鳴を上げた。確定ね。

あたしは左手で、残した二人をちょいちょいと手招きする。

2つの気配が後ろからゆっくり近づく。親父の偽物とあたし達はしばらく歩き続けた。

村の前を通り過ぎ、街道を進み、昼間でも薄暗い脇道にそれる。

それから2,3分歩くと、ボロい小屋に着いた。

 

「金を下ろしなさい」

 

偽物が金貨袋をドスンと置いた瞬間、今度は奴を突き飛ばして、

ピースメーカーを突きつけた。尻もちをついた奴が慌てて両手を上げる。

ジョゼットとルーベルも追いついてきた。

 

「今度は質問タイム。その金はどこで手に入れた?」

 

「こ、殺さないで!天界晶を売ったの!」

 

「その天界晶はどこから?」

 

「あー……オートマトンから奪った。近くの村の」

 

「事件は半月前。何故今頃になって金を引き出した?」

 

「それは、ほとぼりが冷めるを待ってて……」

 

「被害者は男性型、女性型、1人ずつ。凶器は拳銃。何か間違いは?」

 

「そ、そのとおりよ……出来心だったの、お願い許して!」

 

その時、あたしの脇からルーベルが奴に飛びかかった。

 

「ふざけるな貴様アァ!!」

 

バコン!と豚肉の塊をまな板に叩きつけるような音が響く。

ルーベルが偽物を思い切り殴った。歯が一本折れて飛んでいく。

 

「お前の!お前なんかのために!父さんと母さんは!!」

 

「や、やべて……おねがい……いたひ……」

 

彼女は何度も殴り続ける。見る間に痣だらけになる偽物の顔。

その時、奴の身体にテレビの砂嵐のようなノイズが走った。

徐々にノイズが晴れると、奴の正体が明らかになる。

 

「お前は……!」

 

「お願い、もうぶたないで……この通り、なんでもするから……」

 

緑色のネックウォーマーをした10代前半の少女。やっぱり無残に顔中が腫れ上がってる。

今度はあたしが問う。

 

「つまりあんたは暴走魔女で、魔法であたし達に化けてたってことで良いのかしら」

 

「そう……新聞で見た遠くの有名人なら足がつかないかと思って……」

 

「ふん!」

 

ルーベルが今度は魔女の腹を蹴り上げた。奴が床に倒れ込み嘔吐する。

 

「ぐっ、がはっ!あああ……」

 

「なんでだ……なんで父さんと母さんを狙った!」

 

「げほっ、げほっ!お金が、生きていくお金が欲しかったの……

私が使える魔法は、この変身魔法だけ。親もいない、受け入れてくれるギルドもない。

一人ぼっちの私が生きていくにはこうするしかなかったの!」

 

「だから私の親を殺したのか!」

 

「待って。それ以上やる前に、殺すか駐在所に突き出すかをきちんと選びなさい」

 

「え……?」

 

あたしはこのまま勢いで魔女を殺しかねないルーベルを一旦制止した。

ジョゼットから大体の経緯は聞いてる。

 

 

“ルーベル、仇討ちなど、馬鹿なことを、考えるんじゃないぞ”

 

“頼む、最期まで、お前の心配をしながら、死に、たくは、ない……”

 

 

「父さん……」

 

「殺すかブタ箱にぶち込むかは、あんたが決めなさい」

 

「それは……うん、わかった。最後くらい父さんの言うこと聞くよ」

 

「決まりね。それじゃあ何か縛るものは、と」

 

その時だった。あたしが視線を外した一瞬の隙を突いて、魔女が外に飛び出した。

懐から取り出した銃を背後に撃ちながら、

小屋から走って10mほど離れたところで止まった。

あたしたちが小屋の外に出た瞬間、また銃撃で足止めを食らう。

大型の銃弾があたしの足元をえぐった。

 

「アハハ、バカじゃないの!この便利な能力があれば、なんだって盗み放題じゃない!

銃はロッカーの鍵が見つからなかったから普通に買ったけどさぁ、

投資した以上の見返りは十分あったわよ!フフッ、アハハハ!」

 

「野郎!」

 

「おっと、動かないで。この銃の破壊力は凄まじいものがあるわよ。

バカみたいに硬いオートマトンもバラバラにできるくらいね!」

 

「ぶっ殺す!!」

 

「待って、ルーベル。

戦い慣れしてないあんたが、このまま突撃しても犬死にするだけ。

さっきの言葉、忘れたの?」

 

「じゃあ、どうしろってんだよ!」

 

「ジョゼット、ルーベルと小屋の中に入ってなさい。身を低くしてね」

 

「はい!ルーベルさん、中へ!」

 

「くそっ!絶対捕まえてくれよ、頼む……」

 

二人が小屋に入ると、あたしはゆっくりと魔女に近づいた。すかさず敵が銃を構える。

思った通りだったわね。注意深く魔女の動きを観察しながら近づくと、

魔女が一発、発砲。森の木々に轟くような銃声が反響する。あたしは瞬時に回避。

前進を続ける。

 

「運が良かったわね!でも近づくとどんどん食らいやすくなるわよ!」

 

奴の言葉を無視して一歩ずつ歩く。

また魔女がステンレスボディが光るオートマチック拳銃を放つ。これも回避。

流石に奴も焦ったのか、今度は2発連続で発砲。当たらない。

慌てて慣れない手つきでリロードする。

 

「なんなのよ、こいつ!さっさと死になさいよ!」

 

半ば破れかぶれの魔女が銃を連射する。その時。

 

「あ、あれ?弾が出ない、引き金が引けない……どうして!?」

 

機を見たあたしは一気に接近し、魔女の腕を捻り上げ、首に腕を回した。

色々面倒事があったせいで無駄に筋肉が付いたから、小娘一人なら締め上げられる。

 

「か、はっ……どうして」

 

「ゲロ臭いからあんまり喋らないで。あんたが買った銃は.44オートマグ。

確かに見た目はイカすし強力だけど、

実戦で活躍できるのは残念だけど映画の中だけなのよね。

設計がイマイチで弾詰まりが起きやすいの。

オートジャム(作動不良)なんて呼ばれてたくらいだから、

あんたみたいにバカスカ撃ちまくると簡単に故障するってわけ」

 

「当たら、ないのは!なんで?」

 

「弾を避けるんじゃなくて、銃口から身を反らすのよ。

あんたエイミング雑だから弾道読むの簡単だったわ。

……じゃあ、そろそろ寝てちょうだいな」

 

「うぐうっ!!」

 

あたしは全力で魔女の首を締める。奴があたしの腕をパンパン叩いて抵抗するけど、

ものの数秒でだらんと身体から力が抜けた。魔女を片付けたあたしは二人を呼ぶ。

 

「もう大丈夫よ。今度こそぶちのめした」

 

ジョゼットを残してルーベルが駆け寄ってくる。

地に横たわる魔女を、憎しみで貫かんばかりに睨みつける彼女。

 

「こいつさえいなけりゃ……!」

 

「どうするの?やっぱり」

 

「いや、いい。父さんの、最後の願いだ。駐在所に連れていく」

 

「そう。なら、行きましょうか。

小屋の金貨忘れるんじゃないわよ。親の遺産なんだから」

 

「ああ。里沙子」

 

「何?」

 

「……ありがとう」

 

「ふん、急ぐわよ。日没までには馬車に乗りたいから」

 

それからは結構ワタワタしてた。魔女を駐在所に突き出すと、

色んなところで泥棒やってたせいで、正体不明の暴走魔女として賞金が掛けられてた。

当然全額あたしが頂いたわよ。

封魔の鎖で手が後ろに回った魔女は、泣きながら騎兵隊の護送馬車に乗せられていった。

 

まぁ、自分の運命については察しが付いてたみたい。

保安官によると、度重なる窃盗及び2名殺害。良くて懲役80年以上。もしくは縛り首。

懲役刑になっても、出てくる時に吸魔石を身体に埋め込まれて、

二度と魔法は使えなくなるらしいわ。

 

さて、死んだも同然の魔女はどうでもいいとして、そろそろ帰らなきゃ。

ログヒルズ領の駅馬車広場にルーベルに案内してもらってると、

彼女が不意に立ち止まって両肩に持っていた金貨袋を下ろして、あたし達に向き合った。

そして、深々と頭を下げる。

 

「里沙子、ジョゼット。本当に、済まなかった!

お前の命を奪おうとしたばかりか、私の間違いのせいで、

お前達の絆を引き裂いてしまうところだった!済まない……本当に済まない!」

 

ああもう、どうしようかしらねえ。

本音を言えば、どうでもいいから早く帰りたい、だけど。

 

「はぁ、やめてよね。ジョゼットとの絆、ですって?気色悪いこと言わないで」

 

「ひどっ!それ、冗談ですよね?わたくし達、友情で固く結ばれてますよね?」

 

「友達は嫌いなものランキング第4位だって前にも言った。それで、ルーベル」

 

「私のことは好きにしろ……胸の天界晶を差し出してもいい」

 

「話聞きなさいな。

あたしは面倒事が嫌いだから、終わったことでウダウダやるのもご免なの。

それに知ってるでしょ、あたしはもう金持ちなの。あんたの心臓も必要ない。

だから、あんたはこれからの自分の身の振り方だけ考えなさい。

馬車乗り場に着いたら、そこで、さようならよ」

 

「でも、それじゃあ……」

 

「あ、わたくし良いこと思いついちゃいました!」

 

ジョゼットが頭を下げ続けるルーベルを無理やり立たせて割り込んできた。

嫌いな言葉だけど、空気読め。

他に表現の仕方を知らない輩のために言い直すと、

状況を適切に判断してその場に最適な言動を取りなさい。

ジョゼットは大抵の奴は自然に身につけるこの能力が欠けているから困る。

……で?良いことって何。

 

「ルーベルさん、うちで一緒に住めばいいんですよ!」

 

「「はぁ?」」

 

思わず同時に声が出る。何を言い出すかと思えば。

 

「ルーベルさんが何かしないと気が済まないんなら、

うちで色々お手伝いしてもらえばいいと思うんです。

オートマトンの方って力持ちですし!」

 

「また良くない暴走癖が出てきたわね。治療薬を頭に叩きつけようかしら」

 

「えええ、だって~!」

 

あたしは拳を作る。ジョゼットは怯える。ルーベルは、

 

「いや、それが良いかもしれない……」

 

「は!?あんたまで何言ってんの!

その金で家を買い戻して、元の生活に戻れるでしょうが!」

 

「あそこには……辛い思い出が多すぎる。

里沙子も見ただろう、父さん達の欠片、壁の弾痕。

それと一緒に生きていくのは、やっぱり悲しいんだ。

里沙子、勝手な願いだとは承知しているが、私をお前の家に置いてくれ。

お前のためにできることを探したいんだ!」

 

また深く頭を下げた。少し言葉に詰まる。

確かに、あの事件現場で人生をやり直せってのは無理な話かもしれない。

……あーもう!結局またジョゼットの思惑通りでMK5(意味わかる人は30以上)!

こいつ天然気取った策士じゃないでしょうね?

 

「はい、条件3つ!

まず、あたしの生活スタイルに口出ししない!

具体的には朝から飲んで昼まで寝てても愚痴言わない!

次、家の中ではあたしがルール!全てにおける決定権はあたしにある!

最後、家での階級は上から順にあたし、ルーベル、ジョゼット!これを理解すること。

以上!」

 

「いいのか……?」

 

「……これ全部守れるならね」

 

「ちょっと里沙子さん、最後のなんなんですか!

順当に行けばわたくしがルーベルさんの先輩に……」

 

「年功序列は死んだのさ」

 

「すいませんすいません」

 

ジョゼットが不服を申し立てたけど、拳を握るとあっさり引き下がった。

扱いやすいのかにくいのかよくわからん生物ね、本当。

ともかく、馬車の乗員が1人増えちゃったところで、帰りましょうか。

日没までに乗れれば問題ない。

3人パーティーになったあたし達は、だべりながら駅馬車広場に向かって歩きだす。

 

「なあ、里沙子。今度私にも教えてくれよ」

 

「何を?」

 

「ほら、あれだよ……お嬢様言葉。父さんが少しは女らしくしろって言ってたからさ」

 

「まずは気持ちから入ることね。自分は貴族のお嬢様だって思い込むのがコツ」

 

「なるほど。ああ、それとあと!早撃ちも教えてくれ!あんたの戦力になれるように」

 

「う~ん、実戦じゃ速さより正確さが求められるんだけど。

とにかく、右手の意識を銃まで走らせて……」

 

「ふむふむ」

 

ジョゼットを放ったらかして、

そんな会話をしながらあたし達は我が家への家路についた。

馬車から降りると、もう日付が変わる頃だったけど、

よく考えたら昼食もろくに食べてなかったことに気づいたあたし達は、

残ったおせちで腹を満たしたの。

冬の寒さで家自体が冷蔵庫になってたから、幸いどれも傷んでなかったわ。

 

ルーベルも珍しそうにおせちもどきを見てたけど、

数の子を噛んだ時、一瞬パニックになってちょっと笑えた。さて、こんなところかしら。

慌ただしい元旦になっちゃったけど、残りの三が日は何が何でもだらけるわよ!

 

 


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