こんなどうでもいい話じゃなくて、さっさとバイオ7の続き書きなさい。あっちのほうが読者多いんだから。
あたしの感覚では多分朝だと思うんだけど、
頭の中がぐるぐるしてて時間の感覚があやふや。
そういえば、地球にいたときも昼寝のし過ぎで、
目を覚ますと夕方か明け方かわからなくて一瞬焦ったこともあるわね。
そんなあたしにルーベルが呆れた口調で話しかける。
「確かに、お前の生活には口出ししないって約束したよ。
でも、この有様は酷すぎるだろ……起きろ里沙子!」
「う~ん、あと5分だけ……」
「その台詞は一時間前にも聞いた」
あたしはベッドに寝そべりながら首を動かして、両手を腰に当ててるルーベルを見た。
あらやだ、ノックもなしに女性の部屋に入るなんて、はしたないわね。
「まったく、はしたないのはどっちだ。
ノックはしたし、それで全く反応がなかったんだからしょうがないだろ。
それに見ろ、これが“女性の部屋”って言えるのか!?」
「心読まないで。……わかったわよ、今起きるって」
朝っぱらからエール2本開けて気持ちよく寝てたんだけど、
とっくにお日様が高く上ってるんじゃ、そろそろ起きたほうがいいわね。
パジャマ姿で、寝ぼけ眼をこすりながらベッドから立ち上がる。
と、足裏に激痛が走った。
「いだっ!なんか踏んだ!」
「言わんこっちゃない。年明けから全く片付けをしないからそうなる。
とりあえず身支度をしてこい。手伝ってやるから片付けろ」
「わかったって。顔洗ってくるから待ってて」
それで、部屋から出ようと眼鏡をかけたら……ああ、確かにひどいわね。
脱ぎ散らかした服や、なんで床に落ちてるのかわからない化粧道具、
スマホ、各種ガジェット、などなど。
足の踏み場もないとはこのことね。さすがにどうにかしないと。
あたしはアルコールが抜けかけて少し痛む頭を押さえながら、洗面所へ向かった。
「先に始めとくぞ?顔洗ったらすぐ戻るんだぞ」
「悪いわね……」
よろよろと階段を下りて洗面所にたどり着くと、
鏡の中に頭がかわいそうな人っぽい、だらしない顔の女がいた。こりゃあ、ひどい。
朝酒の後、ジョゼットがなんだか目を合わさないのはこれが原因だったのね。
とにかく慌てて眼鏡を置いて顔を洗った。冷水の刺激がボケた脳を目覚めさせる。
意識がはっきりして顔もいつものあたしに戻ったところで、私室に戻る。
中ではルーベルがせっせと片付けをしてた。
「ええと、洗濯物はとりあえずこっち、
このわけのわかんないものは……とりあえずここ」
「ああ、そんなに急がなくていいわよ。
まだまだ正月なんだから、そんなに慌てなくっても」
「駄目だ!もう年明けから何日経ってると思ってる。一週間は過ぎてるぞ」
「アースにいた頃、近所のバイク屋なんか13日まで休んでたわよ。
つまり、それくらいは正月休みとして認められる。
商売する気あるのかしらね、あそこ。アハハ」
「笑ってないでお前も手を動かせ。お前の部屋には物が多すぎる」
「ああ!言っとくけど金時計にだけは触らないでね!
そいつを取り戻すために何度も死ぬ思いしたんだから」
「わかってるわかってる。それに関しちゃジョゼットから聞いてる。
お前を起こしてくれって彼女に泣きつかれた時にな!」
「なら何も問題ないわ。これ終わったらジョゼットに何か出してもらうとしますか。
お昼まだだからお腹空いちゃった」
それでいよいよ片付け開始。
ルーベルが手を付けてくれたところは割りとマシになったけど、
やっぱり本来の位置にあるのは金時計とガンベルトくらいしかない。
床に広がるカオスにうんざりしたあたしは、
婆さんみたいな動きでひとつひとつ物を拾い始めた。
「うう、めんどいわー」
「だらけていたツケが回ってるんだ。ほら、もっとテキパキやる!」
「母さんにも似たようなこと言われてた気がする。
……このドライバーいつ使ったのかしら。酒で記憶が飛んでて思い出せない」
「呆れたやつだぜ。私が来る前もこんな調子だったのか?」
「失礼ね。今は正月だからこんなだけど、年明け前は結構忙しかったんだから。
変な客がいっぱい来たり、賞金首と戦って死にかけたり」
「賞金首って……悪魔以外にも倒したのか?」
「どっかのマヌケがこしらえた巨大なパチンコ台とかね。思い出したら古傷が痛むわ」
「ふ~ん、一応本気を出せば強いんだな」
「あたしだって、ちゃんとするときはちゃんとしてるのよ。
面倒だから滅多にやらないけど」
あたし達はくっちゃべりつつ、ガラクタを拾い集めては定位置に戻す。
その作業を繰り返していると、ふと気がついて手が止まった。
「そうだルーベル。あんたここでの生活どうしてるの。
あんたが来てから常に酒が入ってたから気が付かなかったわ」
「どうって?」
「この一週間、どこで寝てたの?ベッドは空きがあるけど、布団がないの。
あと替えの服は?」
「言っただろう、私はオートマトンだから寒さや暑さには強い。
空いてるベッドにそのまま寝てたし、
人間のような新陳代謝もないから服もほとんど汚れない。
布団はいらないし、服も洗濯用に今着てるのと合わせて2着あればいい」
「だめよ、あたし以下じゃない。寝る時は布団を被って、服は毎日着替える。
ここにいるからには人間らしい生活をしてもらうわよ。
人のこと言えないのはわかってるけどね!」
「ちぇー、面倒くせえな」
「面倒くさがりはあたしの専売特許よ。
とにかく、これ片付けてあたしの腹ごしらえが済んだら街に行くわよ。
あんたの私物を買い揃えるの。ジョゼットの時もそうした」
「へぇ……里沙子って案外面倒見がいいんだな。じゃあ、私も、ちゃんとするよ」
「あ、もちろん金は自分で出すのよ?」
「前言撤回」
それからあたし達は、大急ぎで部屋を片付ける、というよりガラクタを隅に寄せて、
ジョゼットにパンを温めさせた。ダイニングのテーブルで軽い食事をしながら、
今日の予定について話すと嬉しそうな顔をした。
この娘、殴る以外のことなら何しても喜びそうね。
「わぁ、いいですね!みんなで街にお出かけなんて」
「私は別にこのままでもいいんだがな……」
「ふがふが、んぐ。見てるこっちが落ち着かないのよ。
さすがに年明けから6日も経ってるんだから店も開いてるでしょ。
この時間なら、布団や服とかあんたの要るものを買い周ると、ちょうど夕飯時だから、
酒場で食事して帰りましょう」
「はぁ、まだ飲むのかよ?」
「“今日は”もう飲まない。多分」
「すげえ信用してるよ」
あたしが最後の一口を水で飲み込むと、さっそく出発の準備を整えた。
ジョゼットにトランクを用意させて、あたしはガンベルトを装備。
ルーベルに関しちゃ、オートマトンは素で強いって話だし、
こないだの事件で買った銃を腰のホルスターに差してるから大丈夫でしょ。
全員用意が出来ると、教会の外に出た。
あたしが玄関のドアに鍵を駆けると、ハッピーマイルズ・セントラルに出発。
いつもの街道を東に進む。
「あー、この微妙にしんどい道のりにはいつもうんざりさせられるわ。
この世界に自動車があるなら100万G払ってもいい」
「自動車?なんだそりゃ」
「馬じゃなくて、ガソリンって液体燃料で動くエンジンで動力を得る鋼鉄の車よ。
時速100km以上出るから、野盗が出てもそのまま轢き殺せる」
「そりゃ便利だな。あいにく私の知る限り、この世界にガソリンなんてもんはないが」
「耳寄りな情報ありがとう。はぁ」
「あああ、そんなこと言ってるから来ちゃいましたよ……」
ジョゼットがあたしの後ろに隠れる。
もはやお馴染み、スライム的存在の野盗が3びきあらわれた!
左脇の森からぞろぞろとナタや斧を持った汚い格好の男が3人……
だから、隠れるなとは言わないから、微妙にあたしを押すのをやめなさいジョゼット!
「待ちな姉ちゃん達。悪いがここ通るにはな、通行料がいるんだよ!」
「あんまり手間かけさせんなよ、な?」
「持ってんだろ、財布」
う~ん、結構あたしの顔と名前も広まってるって話だったと思うんだけど、
こいつらは知らないみたい。新人かしら。
どっかに無限に野盗を生み出すジェネレーターでも存在するんじゃないかって、
本気で考えちゃうわね。しょうがなくあたしがピースメーカーに手をかけようとすると、
ルーベルが黙って手で止めた。ん、どしたの。
「……ジョゼット、この前話してたメリケンサック。要らないならくれないか」
「は、はいどうぞ」
ジョゼットが、初めて会った時以来見せてなかった、
ショボいメリケンサックをルーベルに手渡した。
それを右手にはめると、ルーベルが野盗に向かってつかつかと歩きだした。
ちょっと興味深い展開ね。お手並み拝見と行きましょうか。
「あんだぁ、なんだその目は。やる気かオラァ!」
「……生憎こういう目でな!」
次の瞬間、ルーベルがそばの崖をノーモーションで殴りつけた。
ダイナマイトの爆発のような轟音と共に、
むき出しになった岩肌が半径約3mに渡って砕け散る。驚いて武器を落とす野盗。
爆風に煽られてあたし達も思わず目を閉じる。
「あ、あ……」
「よく聞こえなかった。通行料がどうしたって?」
「いや、な、なんでもねえ。い、行くぞおめえら!」
すっかり怖気づいた野盗は森の中へ逃げていった。
ルーベルは右手の調子を確かめるように手首を回している。
「へえ、やるじゃない。おかげで無駄弾使わずに済んだわ」
「ルーベルさん、すごいです~」
「なかなか便利じゃねえか、メリケンサック。手に傷を付けずに済んだ。
オートマトンは食べなくても生きられる代わりに、
人間みたいな自然治癒力がないからな」
「あー、そういうデメリットもあんのね」
「かっこよかったです、ルーベルさん!」
「よせよ。邪魔もんもいなくなったし、行こうぜ」
そんで、あたし達は年末以来初めての市場に来た。途端に頭痛に襲われる。
酒のせいじゃない。人混みよ。あたしとしたことが迂闊だったわ。
年明けには正月セール的なものがあるってことに気が回らなかった。
ああもう、何がそんなに楽しいのか、
大声で笑いながら金品をやり取りする連中をかき分けて、
とりあえず市場から離れた南北エリアをつなぐ通りに出た。
「はぁぁ……死ぬかと思った」
「大丈夫か?里沙子。酒が残ってんじゃねえのか?」
「里沙子さんは人混みが苦手なんです。ランキングでは何位でしたっけ?」
「3位くらいだったと思う……
とにかく、今日買うものはルーベルの服、布団、その他の3種よ。
それが終わったらさっさと引き上げましょう」
「本当に大丈夫か?この街は初めてだからお前しか頼れないんだよ」
「あ……ルーベルさん、今さりげにわたくしのことスルーしませんでしたか?」
「うん、もう大丈夫。まずキャザリエ洋裁店で服、3着くらい買いましょう」
「そんなに要るか?まあその辺はお前に任せる」
「あの……」
別に急ぎでもないからキャザリエ洋裁店まで、てれてれと歩く。
ショーウィンドウの奥にドレスを着せたマネキンを展示した店に到着すると、
洒落たドアノブを回して中に入る。
店の棚には既製品の服や、オーダーメイド用の織物が並んでいる。
他にもハンガーラックに掛けられた一着いくらのお手頃価格の服がたくさん。
「ほら、ルーベル。あんたが着たいと思うもの選びなさい。
少なくとも春夏用、秋冬用、それと洗濯用にいつ着てても不格好じゃない薄手の長袖、
それぞれ1着ずつね」
「選べって言われてもなぁ……
いつも母さんが買ってきたやつ適当に着てたから、わかんねえよ」
「喪男みたいなことしてんじゃないわよ。う~ん、見たところMサイズってとこね。
しょうがないからあたしも選ぶの手伝ってあげる。
ジョゼット?あんたもルーベルに似合いそうなの探しなさい」
「はい!わかりました」
それぞれ店内をうろついて赤いロングのルーベルに似合うような服を探す。
ルーベルは組木パズルでも解いてるような難しい顔で、
あたしはとにかく無難な奴に目星を付けて、30分ほどかけて選んだ。
店の中央でそれぞれが見つけた良さそうなのを見せ合う。まずジョゼット。
「は~い!これなんか絶対カワイイと思いまーす!」
「うっ!そんなの着られるかよ!」
「ジョゼット。ルーベルはルーベルであって魔法少女ま○かマギカじゃないの。
戻してらっしゃい」
「ええっ……わかりました」
ジョゼットは全体にピンクをあしらった、たっぷりフリルのスカートのドレスを持って、
すごすごと引っ込んでいった。ルーベルは何持ってきたの?
「春夏用を見つけたんだが、これはイカすと思うぜ」
「却下」
「なんでだよ!」
「どこで見つけたのよ、そのクソT。プリントされてる文字ちゃんと読んだ?
なにが“あっかんベロンチョ”よ。そんなの着てたらアホだと思われるわよ」
「ううっ!だ、だったらお前はどうなんだよ!
そこまで言うなら良いもん見つけて来たんだろうな!」
「当たり前でしょ。秋冬用にこんなのはどう?」
あたしは髪の赤が映える白のブラウスに、
裾にさり気なくダイヤのマークをデザインしたグレーのロングスカートを取り出した。
ルーベルの身体に当ててみて、姿見でチェックする。うん、悪くない。
「いけるじゃない。似合ってるわよ」
「こ、れは……うん、いいな」
なんだかモジモジしてるルーベル。文句がないってことは、これでいいってことよね。
1着決まり。あと2着だけど、ルーベルがずっと姿見から離れない。
「どうしたのよ、自分に恋でもした?」
「ば、ばっか言え!……でも、オシャレっていうのも、悪くないもんだな」
「お?目覚めたわね。よしよし、里沙子さんが春夏用も選んでしんぜよう」
「そうだな……私には洋服選びはわかんねえから、里沙子に任せる」
まぁ、そういうわけで後の2着も結局あたしが選んだのよ。
ジョゼットは精神年齢相応のものしか持ってこないから、
ルーベルのそばで待機を命じた。そんでお会計。
春夏は秋冬とは逆に髪と同系色のワインレッドのワンピース。
赤をより強調したいのよね。洗濯用の普段着は無難に、白のシャツとジーンズ。
「お買上げありがとうございました」
ルーベルが会計を済ませて、ジョゼットが服をトランクに詰める。
ふぅ、第一関門はクリアで。バカでかい布団は最後にして、薬局に行きましょう。
別に怪我したわけじゃないわ。ドラッグストアみたいに、
薬だけじゃなくていろんな雑貨も置いてあるってことは、ずいぶん前にも話したと思う。
あたしが先導して、通りを北に進んで左折。
歩いて1分もかからないところにある薬局に案内した。ここに来るのも久しぶりね。
少し薬の臭いがする店内に入ると、アンプリが奥から出てきて話しかけてきた。
「あら、里沙子ちゃんいらっしゃい。その人は……新しいお友達?」
「ん~まあ色々とね。一緒に住むことになったから生活用品が要るの。
オートマトンが必要なものって置いてる?」
「あるわよ~うちの先生、神療技師の資格も持ってるから、
腕が吹き飛んだらいつでもうちに来てね。もちろんお代は貰うけど。
よろしくね、赤髪のお嬢さん。私はアンプリっていうの」
「やなこと言うなよな……私はルーベルだ。よろしく」
「きれいな顔して銭ゲバなとこあるから気をつけなさい。
じゃあ、今度はあんたが要るもの選びなさい。
オートマトンの生活用品とか今度こそわかんないから」
「ああ」
それから、ルーベルは店の隅に並べられた、
聞いたこともない薬やら特殊な形状の小型ナイフやらをカゴに入れていった。
何に使うのかさっぱりだけど、
ルーベルはいつも通りって感じで次々手にとっては放り込む。
10分ほどして、あらかた必要なものはそろったのか、カゴをカウンターに置いた。
「はい、ちょっと待ってね。これが、50Gで。これは……20Gね。それから……」
アンプリが計算を終え、ルーベルが代金を支払った。第二関門クリアね。後は布団だけ。
「ありがとうね~これからもよろしく。はい、商品」
「こっちもよろしくな。まさか南の果てに神療技師が居るとは驚いたぜ」
「先生はなんでもできる方なの、うふふ」
「その先生とやらは一度も見たことがないんだけど?」
「多忙な人だからね。また来てちょうだい」
なんかはぐらかされた気がするけど、構ってる暇はないわ。
布団を買いにミュート寝具店へGOよ。
……と言っても、ここでは別段特筆するべきこともなかったから詳細は省くわ。
とにかく通年用掛け布団を買って、紙で包んで紐で縛って、
持ち帰れるようにしてもらった。それだけよ。
店から出るともう夕方。さて、酒場で夕食食べて帰りましょうか。
「ジョゼット、悪いな。私の服とか持たせちまって。布団担いでて手が塞がっててさ」
「いいのよ、召使いなんだから気にしないで」
「あの、今私に話しかけられたと思うんですけど……」
「あー疲れた!酒場で食事にしましょう。冷えたエールでリフレッシュしたいわね!」
「やっぱ飲むのかよ!」
「……一杯だけだってば」
あたし達は酒場のドアを通ると、荷物と人数が多いから珍しくテーブル席に座った。
そう言えばここでテーブルに座るなんて初めてね。
まさか人嫌いのあたしが2人とルームシェアするなんて、
地球にいるころは考えられなかったわ。
人間は思った以上に環境に適応できる生物らしいわね。
おっと、どうでもいいこと考えてる場合じゃないわ。
「ルーベル、気をつけて」
「どうしたんだ?いきなり」
「ここには客を子供扱いする不届きなおっぱいオバケがいるの。
無駄に“デカい”ウェイトレスが来たらその怪力で掴んでやって」
「意味わかんねえぞ……とにかく、みんなメニュー決まったなら呼ぶぞ?」
「お願い」
ルーベルが店員を呼ぶと、ウェイトレスがメモを持って近寄ってきた。
「少々お待ち下さーい」
思わず伏せて警戒するあたし。……あれ?いつもと違うわね。ボリュームでわかった。
それで、よくよく見ると……驚いたわねえ。
「ソフィアじゃない!」
「里沙子!?」
「久しぶりっていうか、こんなとこで何してんの?」
「なんだ、知り合いか?」
「うん。ちょっとね」
あたしはルーベルにソフィアとの関係について話した。
かつてビートオブバラライカっていうギルドのリーダーをしてて、
事あるごとにあたしにまとわりついてたんだけど、
一緒に大物の賞金首を倒したことをきっかけにギルドを解散。
メンバーは同居しながらそれぞれの道を歩み始めた。そんなとこ。
「そんなことがあったのか」
「そう。まさかここにあんたがいたとはね、ソフィア。マオちゃん達元気?」
「うん……みんな里沙子のおかげで新しい可能性を掴めたわ。
私は見ての通りこの店で雇ってもらえたし、マックスはパン屋で修行を始めた。
マオは元々魔術の才能に恵まれてたから、飛び級で魔術大学に入学できたし、
アーヴィンも科学技術大学入学に向けて受験勉強の真っ最中」
「そう、よかったじゃない。収まるところに収まって。
一生続けられる仕事じゃないからね、賞金稼ぎは」
「ホントに、ありがとね。里沙子」
「……もう、いいって。アレはあたしの都合だったって言ってるでしょ。
とにかくオーダー取ってよ。とりあえずエール!それとおっぱいオバケに言っといて。
あたしは24だってことをいい加減覚えろってね!」
「あはは……先輩はお客さんからかうの好きでさ」
おっぱいオバケで通じるってことは、
やっぱりこの店でその悪名をほしいままにしてるってことね。
アンケート用紙があったら“接客”に1付けてやるとこなんだけど、
残念ながらここにそんな気の利いたもんは置いてない!
とにかくソフィアに注文を伝えると、彼女が厨房に引っ込み、
元気のいい声でオーダーを通した。
「……ま、これで本当に仕事の終わりってとこね」
「ソフィアさん達、元気そうでよかったですね!」
「彼女とは長いのか?」
「まあ、出会ったのは割りと最近なんだけど、思い返すとずいぶん昔な気もするわ」
「奇妙なご縁です~」
しばらくだべりながら待っていると、注文した食事が運ばれてきた。
で、今度こそ現れやがったわ、紫色のショートヘア!
「は~い、お待たせしました。あら、里沙子お嬢ちゃん久しぶり。
今日はお姉さんとお食事?年末年始はパパと旅行に行ったの?ねえ、ねえ?」
「今よルーベル!その無駄にデカいのを握りつぶすのよ!」
「おい、落ち着けって……」
生憎テーブルの奥に座ってるあたしじゃ手が届かない!恨みはらさでおくべきか!
紫髪はニコニコ笑いながらテーブルに料理を並べる。
ああもう、こいつが運んだエールなんて旨さ半減よ!
「ご注文は以上でよろしいですか~?」
「うん、ありがとう」
「それじゃあ、里沙子ちゃん。ステーキはよく噛んで食べるのよ、ウフフ……」
「さあ殺るのよ、ルーベル!……ああ、取り逃がした!
なんであいつを懲らしめてくれなかったのよ!」
「だから落ち着けって。もう少し心に余裕をだな……」
「もういい、今日は飲む!」
あたしは一杯目のエールを一気飲みした。
しまった、香りを味わう間もなく飲み干しちゃった。
本当、アイツにぶち当たると踏んだり蹴ったりでマヂうんざり。
気分を変えようとルーベルに話しかける。
ジョゼットは目の前でハンバーグプレートを食べてる。
「ルーベルも、エールにしたの?」
「ああ。オートマトンは飲み食いしなくてもいいんだが、
お前が好きなエールというものに興味が沸いてな。一杯試してみることにした」
「そりゃいいことだわ。エールの旨さを知らないのは人生の損失だからね。
さあ、一口含んでその香りを楽しんで。ラガーと違ってワインのように味わうの」
「どれどれ……確かにいい香りだが、苦いな。これは、果実の香りだな。
ジュースを入れているのか?」
あたしは指を振って否定した。
「ところがどっこい。ラガーと原料は同じなの。違うのは製法だけ。
それでこの芳醇な香りが生まれるんだから不思議よね」
「そうかもしれんが、この苦味はどうも好きになれねえな」
「慣れればその苦味が心地よい刺激に変わるのよ。まあ無理強いはしないけど」
「うん……やっぱり私には合わないみたいだ。とりあえずこれ一杯にとどめとく」
「じゃあ、私も牛ステーキ450gに取り掛かるとしますか」
全員、それぞれのメニューを平らげると、
あたしは少しふわふわした気分で、カウンターに伝票を持っていって会計を済ませた。
「もー帰りましょう。荷物忘れないで」
「はいっ!大丈夫です」
「こっちもオーケーだ。布団なんか忘れようがないからな」
酒場から出ると夕日が地平線に沈みかけてる。
今から帰れば日没までにギリ間に合うわね。馬車を雇う必要はないわ。
あたしたちはハッピーマイルズ・セントラルを後にして帰路についた。
昼間ルーベルが開けた岩の大穴を見ながら教会に向けて街道を進む。
千鳥足で教会にたどり着くと、玄関の鍵を開けてドアを開いた。
「今帰ったわよー!」
「おかえりなさい」
酔った勢いで誰もいない家に叫んだ。……ん!?じゃあ今の返事誰よ!
後ろの二人を見るけど、目を丸くして首を振るだけ。
雷光石の明かりを点けると、聖堂の真ん中に一人の少女が立っていた。
もう、何よ。年明けから厄介事ばっかりじゃない。
13日まで休んでても客がキレない理由を教えてよ、バイク屋のオッチャン!