面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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一人焼肉って意外とハードル低いわよ。ピーク時を外して大きな店に入れば、お一人様がポツポツいる。

よく考えたら、この娘テレポートできるんだから、

わざわざ布団や私物を買いに行く意味はなかったわね。

今、実家から布団やら生活用品やらを持ってきたエレオノーラが、

ベッドにシルクのシーツを敷き終わったところ。

また買い物イベント書くのが面倒になったんじゃないかって?

そんなことはタレ派の野郎に聞いてちょうだい。あたしの知ったこっちゃないわ。

 

「ずいぶん豪華な布団とシーツだこと。

かなり昔にジョゼットが修道女は清貧が美徳だのどうの」

 

エレオノーラが白魚のような細指をほっぺにあてながら、困ったような表情をする。

 

「う~ん、わたしが買ってきたものではないので、どうにもなりません。

そもそもわたしが外に出て買い物をすることはありませんから。

身の回りの世話は、全て教育係の修道司祭がしてくれます。

わたしはお祖父様の後を継ぐため、ひたすら勉強と祈りに精を出す毎日です」

 

「買い物に行かなくて済むのは便利そう、とか一瞬思ったけど、

勉強とかお祈りとかも面倒くさそうね。

関係ないけど、法王とかの世継ぎは男性のみってイメージがあるんだけど、

あんた兄弟いないの?ドロドロした跡目争いのエピソードがあるならキボンヌ。

食事に毒入れるとか」

 

「そんな制限はありませんよ?そもそも崇める対象のマリア様が女性ですから。

イエス様も偉大な存在ですが、シャマイム教の主神はあくまでマリア様なので。

あと、わたしに兄弟姉妹はおりません」

 

「なんだつまんないの」

 

「つまんないの、ってお前……人の平和を残念がるなよ」

 

「アースの女達にはこういう醜い争いがウケるのよ。

……ところで、なんであんたらまでここにいるの。正直狭い」

 

エレオノーラの部屋に、いつの間にかルーベルとジョゼットまで入ってきてた。

なによ、邪魔だからあっちいってなさい。

 

「いいじゃねえか、新しい住人の部屋がどんなのか気になってさ。

いいだろ、エレオノーラ?」

 

「わたくしも法王家の聖女様がどんな暮らしをなさっているのか気になります~」

 

「ふふ、あいにく全部は持って来られませんでしたが、

大聖堂教会で祝福を受けた品々もありますので、興味があるならご覧になってください」

 

「あーいいのに……こいつら甘やかすと調子に乗るわよ?」

 

「この変な形の飾り一体なんだ?輪っかと十字がくっついてて、ピッカピカに光ってる」

 

「ルーベルさん、それはマリア様のお姿を模した魔除けですよ!

……わぁ、大聖堂教会謹製の聖水まで!香水のように身につけるだけで、

下級悪魔なら近寄っただけで消滅するという」

 

「違う!それはアンクって言う、エジプトって国の古代模型!

……ほら見なさい、さっさと追い出さないからややこしいことになるのよ」

 

それでも彼女はクスクスと笑いながら、

自分の持ち物を物色する変態二人を見つめている。

 

「いいんです。自分の部屋に歳の近い人がいるのは初めてで、

なんだかお友達ができたような気分です」

 

「おう!私はもう友達のつもりだぜ!」

 

「あの……もしお許し頂けるなら、わたくしもそう名乗らせて頂けると」

 

「もちろんです。改めて、よろしくお願いしますね」

 

彼女は居候共に、今度は明るい笑みを投げかけた。

よしゃいいのに。どうなっても知らないわよ。

 

「あーはいはい。あたしはただの管理人で結構ですから」

 

冷めた目で3人を見てると、エレオノーラが少し寂しそうな顔をする。

 

「里沙子さんは、お友達にはなってくれないのですか……?」

 

「あたしでいいならなってもいいけど、もし作るのなら、友達は深く狭くが基本よ。

増えすぎても面倒が増えるだけ。

アースにいた頃、同僚の女の子が絵に描いたような八方美人で、

影でLINEに返信するのに必死になってたわ。

アプリは人が使うためにあるのに、あの子は完全にアプリに使われてた。

ああなったらもう駄目ね。

悪いことは言わないから、長く付き合おうと思うならここの連中+1,2人にしときなさい」

 

「やっぱり里沙子さんの話は時々わからないです……ラインってなんですか?」

 

「メールや通話で済ませるのがどうしても我慢ならない連中御用達の謎アプリよ。

とにかく、付き合う相手は選べってこと。

……ま、こんなところね。ちゃんとした部屋になったじゃない」

 

「里沙子さんが荷解きを手伝ってくださったおかげです。ありがとうございます」

 

「いいのよ、あんたは大事な金づ……住人なんだから。

さあ、もうここはあんたの家だから、お祈りでも勉強でも好きにしてちょうだい。

あたしは奥の部屋で昼寝するから。じゃあね~」

 

あたしが愛しのミニッツリピーターが待つベッドに向かおうとすると、

ルーベルとジョゼットが余計なことを言い出した。

 

「お、おい待てよ!これで放ったらかしかよ!」

 

「そーです!いくら“神の見えざる手”で帝都と行き来ができると言っても、

教会の外は全くご存じないんですから!

……そうだ、みんなでハッピーマイルズ・セントラルに行きませんか?

エレオノーラさんに街を案内しましょうよ!」

 

「それいいな!実は私もろくに見て回ったことがないんだ。

みんなで街に繰り出そうぜ!」

 

「わぁ、楽しみです。わたし、小さな頃から教会の外に出たことがあまりないのです。

よその街にお出かけできるなんて、思っても見ませんでした」

 

ぶ・ち・こ・ろ・し・か・く・て・い・ね

 

新約になってから読んでないけど、

とにかく日に日に図々しさを増していくジョゼットには、

改めて鉄拳制裁で立場ってもんを思い知らせる必要があるわね。

みんな気づいてた?ここまで誰もあたしの意見を聞こうとしなかったことに!

 

「あんたら勝手に行ってきなさいよ!

あたしは物資の補給とやむを得ない事情がある時以外、

あの原罪のるつぼに飛び込むつもりはない!」

 

「なんだよ里沙子~冷たいぞ。

エレオノーラはまだこの辺に慣れてないんだから、

ここで預かるって決めたお前が案内してやってもいいだろ?」

 

「あ・ん・た・は!一体なんのためにここに来たの!?

確か“あたしのためにできることを探すため”だったわよね?

だったら、シスター2人の引率くらい引き受けてちょうだいな!」

 

「だって、私もまだこの辺詳しくねーもん。ジョゼットはアテになんねえし」

 

「あ、また……」

 

「あんた元旦にここきてから2ヶ月ちょい何やってたの!1回買い物には行ったけどさ!」

 

「それだけじゃん。街の様子なんかすっかり忘れちまったよ~」

 

そっぽ向いて口笛を吹くルーベル。

このアマ……!ジョゼット菌が伝染ったに違いないわね!

今日のところは引き下がるけど、何か対策を講じなければ。

 

「……滞在時間は1時間!主要施設を見て回るだけ!いいわね!?」

 

「やったぜ!」「わーい!」

 

「ありがとうございます、里沙子さん。お心遣い、本当に感謝します」

 

エレオノーラが白くて小さな手をそっと差し出す。仕方なしに握り返す。

あら、すべすべしてて気持ちいいわ。じゃなくて、

 

「ここまでのやり取り見てなかったの!?

お心遣いじゃなくて、あたしはこいつら二人にしてやられたの、謀られたの!

……いや、もういいわ。全員、出掛ける準備」

 

「イエーイ!」「わぁい!」

 

「うるさい!」

 

そんで、結局買い物イベントをやる羽目になったわけよ。

ささっと終わらせるし、なんか工夫はするからブラウザバックは勘弁ね。

少しでもやる気を奮い立たせるために、ミニッツリピーターを首に下げる。

金時計、あたしに力を分けてちょうだい。

とぼとぼ歩くあたしを先頭に街まで続く街道を歩く。

 

「エレオノーラ、この辺には金目当ての野盗や山賊が出るから気をつけて、っていうか

遭遇したら殺していいから」

 

あたしはやる気なく説明する。

 

「そんな乱暴な……里沙子さんは彼らを手にかけたことはあるのですか?」

 

「今のところは、ない。

あと、小銭稼ぎに人殺しやってる連中のほうが乱暴だと思うがどうか」

 

「世界の敵は悪魔だけではないのですね……」

 

「悪魔以外の方が多いわ。

あんたの場合、この手の小悪党は衛兵がぶっ殺してくれるから、

見る機会もないでしょうけどね」

 

「だ、大丈夫ですよエレオノーラ様!

里沙子さん、なんだかんだで優しい人だから、いつも急所は避けてますし……」

 

「うるさい。今日は機嫌が悪いから心臓ぶち抜くと思う。

……もうすぐ街だけど、主だったところ回るだけだから、さっさと終わらすわよ」

 

ようやくいつもの微妙にあたし達を疲れさせる道のりを踏破して、

ハッピーマイルズ・セントラルに辿り着いたの。

門をくぐると、いつも通りあたしを苦しめる、市場連中のやかましい声。

エレオノーラにとっては珍しいようで、楽しそうな声を上げる。

 

「まぁ、色々なお店がたくさん!とても活気にあふれています!」

 

「見た?見たわよね?じゃあ、次。薬屋に行くわよ。

市場とここさえ押さえときゃ、生活には問題ないから。

……でもよく考えたら、あんた実家からいくらでも物資を持ってこれるんだから、

やっぱりこんなとこ来る必要なかったんじゃない?」

 

「いいえ。信者の皆様の生活、息遣いを直に感じることができて、

とても勉強になります。わたしがマリア様からお預かりした力。

それをどのように発現していくべきか、きっと将来参考になるでしょう」

 

「はぁ。とことん真面目ね。じゃあ、さっさと薬屋行ってお終いにしましょう」

 

「そんな急ぐことねえだろ?他にも酒場とかいろいろあるじゃねえか」

 

「主犯格お黙り。

特に用事もないのにこんなとこに来てるのは、誰のせいだと思ってんの。

ああ、ここにダイナマイト投げ込んだらどれだけ楽しいことかしら。

梶井基次郎も、きっとこんな気持ちだったに違いないわ。

せめてレモンでも置いていこうかしら」

 

「お前さー、なんでそんな人間嫌いになっちまったんだよ。

ずっとそのままじゃ、年寄りになったらひとりぼっちで死ぬことになるぜ?」

 

「お生憎様。今の時代、結婚してようが友達たくさんいようが、

孤独死しない保証なんてどこにもないの。

最後の一瞬のために、煩わしい人生送るくらいなら、

ボロアパートの一室で腐乱死体になる方がマシよ。

ちなみにあたしの性格に関しちゃ、人間嫌いっていうか、

人に好かれようと必死になることの馬鹿馬鹿しさに気づいたって言う方が正確ね。

すがってくる連中の要求にハイハイ応えるのに疲れたっていうか。

長くなったわね。もう行きましょう」

 

「ひねくれてんな~私のやるべきこと、見つかったかも」

 

「何よ」

 

「お前を真人間にする!

私がお前に友達の作り方、幅広い人間関係の築き方を教えてやる!」

 

ルーベルがドン、と硬い胸を叩いて宣言。あたしは軽く鼻で笑う。

 

「はん、やれるもんならやってごらんなさい。

あたしは今まで通り、昼からエールかっくらって、やりたくないことは全部パスして、

面倒な奴はピースメーカーで追っ払う」

 

「お、言ったな?そのうち友達が欲しくてたまらない、って言わせてやるからな?」

 

「具体的プランは?」

 

「ない!」

 

「あんた本当ジョゼットに似てきたわね」

 

馬鹿話でずいぶん時間を使っちゃったわ。一刻も早く帰りたいのに。

あたし達は街の南北エリアをつなぐ通りに入った。

そこで、ジョゼットが袖を引いてあたしを引き止める。

 

「何よ」

 

「あの、せっかくだからマリーさんに会っていきませんか?

最後に会ったのはだいぶ前ですし」

 

「マリーはそんなの気にするような娘じゃないわよ。

頭良いから一度会った客の顔と名前は絶対忘れないし」

 

「マリーさんというのは、里沙子さんのお知り合いですか?」

 

げっ、エレオノーラに聞かれてた。

間違ってもあの娘の店に連れていく訳にはいかないわ。

違法な売り物が多い、っていうより違法じゃないものを探したほうが早い。

あたしはジョゼットを引っ張って木陰に連れて行った。

 

「お馬鹿!あの店には教会の禁制本も置いてあること忘れたの!?」

 

「あっ、そうでした」

 

「あ、じゃないわよ。あんたを除く教会関係者にアレが見つかると店がヤバいの。

戻ったらちゃんと口裏合わせんのよ?」

 

「はい~……」

 

で、あたしはジョゼットの首根っこを掴みながら2人のところへ戻ったの。

 

「どうしたんだ?」

 

「何か、問題でも?」

 

「違う違う、個人的な話。五番街のマリーの家に行ったら、

どんな暮らししてるか見といて欲しいって言われてたのを思い出しただけ」

 

「本当かー?」

 

「あんたに嘘ついてどうすんのよ、ほら薬屋行きましょ……はぐあ!!」

 

その時、ルーベル達の後ろにとんでもないのがいたのよ。

いつもの派手に染めたロングヘアに薄手のセーター、そしてダメージジーンズ。

そう、件のマリーがそこにいて、話しかけてきたのよ奥さん。

 

「おんやあ?リサっち久しぶりじゃん。ジョゼットちゃんも、おひさ~

……あれ、こちらのお二人さんはお友達かな?

段々リサっちの人嫌いも治りつつあるようでマリーさん安心だよ、うんうん」

 

「……おーい、五番街のマリーさんがいらっしゃるぞ」

 

「ち、違うの!」

 

ルーベルがジト~っとした目であたしを見る。なんか上手い言い訳はないかしら。

 

「マリー!いつも店にこもりっきりのあんたが、どうしてこんな陽のあたる場所に!」

 

「ひどいなぁ。マリーさんだって食べ物を摂取しなきゃ死ぬんだよ?

とにかく、新顔のお二人さん。よかったらウチの店に寄ってってよ。

ガラクタばっかりだし、五番街じゃなくて二番街裏通りだけど」

 

「行く行く!前は里沙子連れてってくんなかったからさ!」

 

「わたしも、とても興味があります!」

 

「じゃ、行こっか。すぐそこだから。

途中変なやつがいるけど、ジロジロ見たりしなきゃ何もしてこないから大丈夫だよ」

 

「あばばばば!」

 

自己紹介しながら勝手に裏通りに向かう3人。

ルーベルはともかく、エレオノーラに門外不出の禁制本を見られたらマズい。

おじいちゃんにチクられたら、あたしの楽園がお取り潰しになる。

迷いながら、どうすることもできずただ付いていく。

いつもの薄暗くて空気の冷たい路地を進むと、

しばらくぶりに訪れる、ボロいドアの“マリーのジャンク屋”。

みんな、とうとう入っちゃったわ……

 

「うわー!ひっでえな、こりゃ。里沙子の部屋みたいだ!」

 

「くははは!これでも一応商品の分類はしてあるんだよ~」

 

「見たことないものばかりで、とても楽しいです」

 

ブラウン管テレビにスイッチを入れるマリーになんとか近づこうとするけど、

元々狭い店内に5人も詰め込んだもんだから、動きにくいことこの上ない。

 

「わあ、箱の中で景色が動いています!これはなんという魔道具ですか?」

 

「テレビとDVD。アースから流れ着いたマリーさんのお気に入りだよ~」

 

「この、こんがらがってる線は何に使うんだ?」

 

「USBケーブル。用途は使う人次第」

 

うんしょ、よいしょ。ああ、邪魔なのよ、この不細工人形!

なんとか商品を踏まないようにマリーに近づく。

ようやく彼女に手が届くところまでたどり着くと、

気がついた向こうの方から話しかけてきた。

 

「ん~?どしたリサっち」

 

「ちょっと大事な話があるの……!」

 

あたしはマリーの耳を借りて、エレオノーラが法王の孫で、教会関係者。

つまり、ジョゼットに売ったような、教会からの流出品を見られたら店がヤバいから、

さっさと隠せってことを小声で簡潔に伝えた。

 

「ふむむ、そっかぁ」

 

「そっかぁ、じゃないでしょ!

あの子に見られないうちに、光属性の魔導書全部隠すのよ!」

 

「その必要はないと思うな~」

 

「なんでよ!下手すりゃあんたの……」

 

「もう見てるし」

 

「えっ!?」

 

振り返ると、以前ジョゼットが色々魔導書を買い漁った棚を、

エレオノーラが興味深げに見つめ、一冊取り出して開いて読み始めた。

慈しむようにページをめくり、その顔に笑みが浮かぶ。

 

「懐かしい。わたしが幼い頃、初めて覚えた術式です」

 

「あ、あ、あのね、エレオノーラ。それはなんていうか、あの、

ブックオフっていうアースの本屋が勝手に横流ししてきたやつで、

マリーは知らなくて……」

 

彼女はわたしを見ると、静かに首を横に振った。

 

「本は、人に読まれてこそ生まれてきた意味を持つものです。

わたしは、ここで幼少の思い出に浸っていただけ。

里沙子さんのご友人のマリーさんがきちんと管理してくださるなら、

わたしから何も言うことはありません」

 

エレオノーラは、パタンと本を閉じ、丁寧に本棚に戻した。

ほっとしたあたしが後ろを向くと、マリーがウィンクしてた。

まったく、肝が冷えたわよ。

最悪ピースメーカーの出番になってたかもしれないってのに。

 

「マリー、どういうつもりよ!最初からあの娘が次期法王だってこと知ってたわね!?」

 

「そうだよ。マリーさんは事情通だし、

あの格好で教会とは無関係ですって言われてもね」

 

あっけらかんと答えるマリー。本当にこの娘は……

 

「あたし一人冷や汗かいて損したわ。あれ、そういえばジョゼットは?」

 

「ふふっ。この子、ぶちゃいくだけど、なんだか愛嬌があります。

うりうり~……げはっ!」

 

家主のあたしが右往左往している間、不細工人形と戯れていたジョゼットに鉄槌を下す。

 

「痛いです~!」

 

「あんたは一体何やってんの!

切れそうなロープの上で綱渡りしてたあたしをほっぽらかして!

少なからずあんたにも関係あるってのに、全く」

 

「くははは、君達は相変わらずだねぇ」

 

「笑ってんじゃないわよ!

……で?なんでこの娘が教会関係者だと分かった上で、禁制本見せたりしたの」

 

「マリーさんは人選眼もあるのです。

シスターちゃんが頭の柔らかないい子だってことも、

ひと目見てピンと来たってことであります」

 

あたしは頭を抱えた。マリーのことは好きだけど、時々こうしてあたふたさせられる。

くたびれ果てたあたしは、そろそろ撤収することにした。

 

「みんな~帰りましょう……今日はもう疲れて里沙子さん動けない。薬屋は今度にして」

 

「大丈夫ですか?」

 

「これ以上あたしの心に波立てる出来事さえなければ、家までは帰れる」

 

「あー、その前に。このグローブ買ってくぜ。これなら殺さずに相手を叩きのめせる」

 

ルーベルが片方の古いボクシンググローブをカウンターに置いた。

 

「毎度あり。2Gだから置いといて」

 

「本当にマジで商売する気ある?」

 

「手広くやってるって言ったじゃ~ん。

じゃあ、エレオノーラちゃんもルーベルも、今後ともヨロシク」

 

「はい。きっとまた来ますね」

 

「私も!ここ、よく見たら掘り出し物が一杯あるな!」

 

「それじゃあ、マリー。またね……」

 

二人共、満足したようだから、あたし達はマリーの店を後にした。

精神的に疲れきったあたしは、また市場の方に戻る。

行きたくないけど、行かないと死ぬまでお家に帰れない。

途中でエレオノーラが背中をさすってくれてなかったら、途中で呼吸停止してたと思う。

とにかく人混みをかき分け、頭痛に耐えながら街から出ると、

ようやく息が落ち着いた。

 

「あ~!今日は散々だったわね!」

 

「そうか?私は楽しかったけどな。また行こうっと、マリーの店!」

 

「わたしも、見たことのないものばかりで、とても楽しい時を過ごせました」

 

「う~ん、あのお人形さん買おうかな。いくらするんでしょうか」

 

「どいつもこいつも、人の気持ちも知らないで……」

 

わて、ほんまによう言わんわ。

だいぶ昔に呟いた台詞を残して、あたしは帰り道をとぼとぼと歩き始めた。

後ろをついてくる連中は何が楽しいのか、笑顔で談笑してる。

はぁ、あたしのことをわかってくれるのは、あなただけよ。

あたしはミニッツリピーターを手にとり、規則正しく時を刻む秒針を見て、

わずかながら心の力を取り戻した。

 

 

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