面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

24 / 143
シャンゼリゼ通りって言うほど綺麗でもないらしいわよ。行くほどの金も元気もないから別にいいんだけど。

前回までのあらすじ

森に行った、クリスタル拾った、別に魔王放っといてもいい説急浮上→今ここ!!

 

こんにちは。突然お気に入りが激増して若干パニック気味の里沙子よ。

いつも応援してくれてる人が推薦を書いてくれたみたい。本当にありがとう。

 

……と、挨拶はここまでにして、聖緑の大森林で持ち上がった問題。

魔王を倒してほしい奴がいない。

そりゃそうよね。あたしらだって別に魔王がいて困った試しなんかないんだし。

今、聖堂で長椅子を向かい合わせて会議中。

 

「どうすんの?レアアイテム手に入れたけど、使う機会がないって事実が判明した」

 

あたしは風のクリスタルを窓から差し込む陽の光にかざして、

宝石のように美しいきらめきに少し見惚れる。

何よ、あたしだって女らしい趣味はあるのよ。

 

「確かに、私も魔王なんかおとぎ話で聞いただけだからなぁ」

 

「実を言うとわたくしも、モンブール中央教会の授業で習ったこと以上のことは……

エレオノーラ様、何か魔王に関する詳しいことはご存知ありませんか?」

 

「お恥ずかしい話ですが、わたしも図書室で読んだ伝説と、

自らは決して姿を現すことなく、手下の悪魔を送りつけ、

生贄を収集しているという事実しか……」

 

「へー、おとぎ話とか伝説ってどんなの?あたしアース出身だからわかんない」

 

すると、エレオノーラが数百年前、

エルフの森が燃えるより、もっと前の時代のお話をしてくれた。

 

──数百年前、上半身だけをこの世に顕現させた魔王が、

悪魔の軍勢を引き連れて、サラマンダラス帝国に侵攻を開始。

数十万人の兵が、津波のごとく押し寄せる悪魔と激突して命を落とした。

人類の滅亡は目前と思われたその時、

勇者ランパード・マクレイダーが立ち上がり、捨て身の一撃で魔王に手傷を追わせ、

魔界に追い返した。ランパードは魂を燃やして放った剣撃で命を落としたが、

大聖堂教会に保管されている彼の剣の欠片には、今尚その力が残されているという。

 

「……これが、第一次北砂大戦の概要です」

 

「ありがと。なるほどね。……でも、第一次ってことは次もあるってことでしょ?

あと“北砂”ってどっから引っ張ってきたの?」

 

「お話しした通り、かつての大戦では、

勇者の一撃を以ってしても、魔王を倒し切ることができませんでした。

よって、また魔王の襲来がないとは言い切れないからです。

“北砂”とは、このオービタル島北端にあるホワイトデゼール領に由来します」

 

ご新規さんのために説明すると、オービタル島っていうのは、

サラマンダラス帝国がある大きな島よ。面積は大体オーストラリアくらい。

 

「ホワイトデゼールは文字通り何もない領地です。北砂大戦の傷跡で今も作物が育たず、

川も枯れ、真っ白な岩地と砂だけが広がる寂しいところです。

隣接する領地が交代で監視は続けていますが、

悪魔の穢れが残っていると言って近づきたがる者は誰もいません」

 

「わかった、ありがとー。要するに魔王は何百年も、大した動きはしてないってことね」

 

「あ!でも、悪魔自体は送り込んで来てるじゃねえか。

里沙子、悪魔殺して新聞に載ってたじゃん」

 

「ああ、ロザリーの件ね。でもねえ?

あれは悪魔は生贄が欲しかった。あたしは誰かが勝手に付けた変な肩書き捨てたかった。

つまり、変な話Win-Winの関係だったのよね」

 

「まあ、悪魔はお前に殺されたからWin-Loseだけどな」

 

「えっ、里沙子さんが悪魔を?わたしに、そのお話を聞かせてくれませんか?」

 

若干エレオノーラが興奮した様子で聞いてきた。

まぁ、こんなクソ田舎のローカルニュースなんて、帝都に届いてなくても無理ないわね。

あたしは、ロザリーという魔女と知り合って、

力を合わせて悪魔と戦って撃滅した経緯を簡潔に説明した。

話が終わると、彼女は感銘を受けた様子で、

 

「……素晴らしいです。

異なる種族の者が手を取り合い、悪魔という強大な敵を打ち破った。

お祖父様がわたしをここに留学させたのは間違いではなかったようです」

 

目を閉じて両手の指を絡め、祈りを捧げる。

 

「あ……いや、これに関しちゃあたしの都合50%、ロザリーの都合40%、

賞金目的10%だから、あんまり感激されても困るわ。

あと、悪魔殺した手段については、知らん振りしてくれると嬉しい。

ほら、マリーの店で見たアレ関連のものがいっぱい、ね……」

 

「わかっています。人の身で悪魔に立ち向かうには相応の装備が必要です。

……そうです、装備で思い出しました。次は帝都に向かいましょう!

大聖堂教会に勇者ランパードの遺品が安置されています。

お祖父様に事情を話せば、きっと持ち出しを許可してくださるはずです。

必ず魔王打倒の力となるでしょう」

 

「でもよう、誰も魔王なんか相手にしてないって状況は相変わらずだぜ?

頼まれてもいないのに、私らだけで頑張っても

正直モチベーション上がらないっていうか」

 

「それには賛成。あたしなんてやらなきゃいけない仕事すら面倒なのに、

わざわざボランティアで殺し合いするなんて、考えただけで眠たくなるわ」

 

「ご安心ください。

事情を話せば、必ずお祖父様から正式に魔王討伐の命が下るでしょう。

既に風のクリスタルを手に入れ、事態は動き出しているのですから」

 

「いやいやちっとも安心できない!

別にやらなくてもいい仕事する許可を貰いに行くなんて、

それこそタイトル詐欺でしょう!?あたしが働き者になったら、

このお話が単なる独身女のドキュメンタリーになっちゃうじゃない。

“その時、異世界へ─あたしの生きる道”みたいなタイトルでN○Kが9時頃にやりそう」

 

「なんだ?エネーチケーって」

 

「ナレーションは小山茉美キボン」

 

「お前の言うことは時々さっぱりわからん。とにかくわざわざ帝都に行くことも、

それはそれで問題だってことはわかったが……はっ!?」

 

その時、凄まじい銃声とともに外から一発の銃弾が飛び込んできた。

窓ガラスが派手な音を立てて割れ、ボロい床を半径30cm程度粉々にした。

 

「全員、奥へ!!」

 

即座に号令を掛けると、皆が奥の住居に避難。外から見えない位置でしゃがみ込む。

ダイニングで4人がハムスターみたいに寄り添ってひそひそと小声で話す。

 

「い、今の何だったんでしょう!」

 

「静かに。銃声と破壊力から見て、対物ライフルでの狙撃。

人間が食らったら粉々になる」

 

「やべえぞ。犯人が乗り込んできたらどうするんだ」

 

「う~ん、帝都に行く理由、できちゃったかも。エレオノーラ、急げる?」

 

「はい、皆さん手を!」

 

急いで全員が手を繋いで、エレオノーラが“神の見えざる手”を詠唱する。

同時に、ドン!と聖堂のドアが蹴破られる音がした。

ああ、やめてよ。

確かに壊れかけだったけど、あと一ヶ月くらいは使おうと思ってたのに。

あたしが嘆いている間に、不審な足音はどんどん近づいてくる。

そして、奴がダイニングに足を踏み入れた瞬間、詠唱が完了し、

あたし達は遥か遠くの地へ瞬間移動した。

 

「チッ、逃げやがったか。兄貴、どうします?」

 

「……追うぞ」

 

大型のライフルを構えた男と、全身を真っ黒なローブで包んだ男は、

足早に教会を後にした。

 

 

 

 

 

急いでワープしたもんだから、

あたし達はみんなレンガの敷き詰められた道路に投げ出された。

 

「いだっ!」「きゃっ!」「おおっと」

 

とは言え、エレオノーラはホバリングができるし、

身体能力が高いルーベルは空中でバランスを取って着地。

結局痛い思いをしたのは、あたしとジョゼットだけだった。

 

「あだだだ……腰打った」

 

「ごほごほ!うう、痛いです~」

 

「大丈夫ですか?お二人共」

 

「これ大丈夫に見える?色んなとこぶつけたし、手ぇ擦りむいちゃったー」

 

赤レンガの上で転がりながら、半泣きで血が滲む手を見せる。

 

「待ってください、今すぐ回復魔法を」

 

エレオノーラが、あたしの傷に手をかざすと、血が止まり、身体の痛みも治まった。

ふぅ、これで万事OKね。

 

「OKじゃないです~!わたくしも見捨てないでください、エレオノーラ様!痛いよー」

 

「あ、ごめんなさい!すぐに助けますから!」

 

「ああ、別にいいのに。一応こいつも回復魔法使えるんだから」

 

「ひどい!わたくしだって聖女様の祝福を受けてみたいんです~」

 

「さあほら、じっとなさって」

 

ジョゼットにも回復魔法を掛けるエレオノーラ。

どこ怪我したのか知らないけど、どうせ大げさに痛がってるに決まってる。

 

「うう、あったかいよ~里沙子さんは冷たいけど。

エレオノーラ様、ありがとうございます!」

 

「いいえ、このくらい」

 

「ところでさぁ。ここ、どこなんだ?」

 

ルーベルがつぶやく。そうだ。帝都でマリアさんの加護を受けてるとこって言えば……

そう考えて後ろを振り向くと絶句した。

巨大な教会らしき建物が視界の左右を埋め尽くしていた。

首を真上に向けると、これまた大きな十字架が設置されてるから、きっと教会。

これがなかったら軍事要塞と見分けが付かない。

高さ2mはある扉が3つ開け放たれ、大勢の信者達が出入りしていた。

 

うわ~あたしらの家とはえらい違いね。人混みの中でも頭痛が起きないのは、

ここが大通りに面した広場で、人同士のスペースが十分あるから。

ざっと周りを見回しても、広大な帝都がいくつものブロックに分かれてて、

パン屋、ブティック、花屋がたくさん並んでる。

道路の中央には、等間隔でガス灯が設置されてて、

消耗品の雷光石を入れ替える必要がない。インフラ設備も先進的。さすが都会ね。

 

「さあ、皆さん。ここがシャマイム教の中枢、大聖堂教会です。

ご案内しますから付いてきてください」

 

「へー、じゃあここがあんたの実家ってことね。あたしもちょっとワクワクしてきたわ。

そうなると、お祖父様にも一応ご挨拶……あおっ!」

 

最後のはあたしが何かにぶつかって転がった声。

やめてよ、今日転ぶの2回目なんだけど。まぁ、よそ見してたあたしが悪いんだけどさ。

とりあえずぶつかった奴に声を掛けようと思ってそいつの姿を見ると……

 

「エレオー!怖いおじさんがいるわ!」

 

異様としか言えない存在が立っていた。

体長2.5mはある巨漢。頭部をすっぽり覆う鉄仮面を被ってるから顔が見えない。

分厚い鋼鉄の鎧で身を包み、その上から大きな十字架が刺繍された法衣を着ているから、

かろうじて教会関係者だっていうことはわかる。

あと……広い背中に2枚のタワーシールドを背負ってる。

でも、これ盾なの?なんか内部に複雑な仕掛けがあるんだけど。

 

シュワルツ将軍ともガチ喧嘩できそうな堂々たる姿が手を差し伸べてきたから、

恐る恐る手を取ると、力強くあたしを引っ張り上げてくれた。

何を言うべきか迷ってたら、彼が話しかけてきた。

 

「……君は、知っているか」

 

「え、何を?」

 

「詠唱は職業に応じて性質が異なる。

魔術師・魔道士は願望、聖職者は祈り、私は……懺悔だ」

 

「ごめ。さっぱり意味わかんない」

 

その声は変声機を通したように、くぐもっていて、元の声は全く想像がつかない。

ほら、プライバシー保護のため音声を変えていますってやつ。

多分男だとは思うんだけど。

そして、あたしがいないことに気づいたエレオノーラ達が戻ってきて、

驚いた様子で声を挙げた。

 

「里沙子さん、すみません先に……神罰騎士(パラディン)!どうして貴方がここに!?」

 

パラディン?ああ、いろんなゲームの上級職の常連ね。戦闘も回復もできるアレ。

 

「エレオノーラ様……」

 

「滅多にお祖父様のそばを離れることがない貴方が、なぜこんな大通りまで?」

 

「それは」

 

パラディンっていう大男の周りに集まるあたし達。その時、視界の端に不審な光。

あたしは考える前にエレオノーラに飛びついて、頭を守りながら彼女を押し倒した。

次の瞬間、大通りを轟音と弾丸が駆け抜け、大型ライフル弾が道路の赤レンガを砕いた。

 

「何奴!」

 

広場の平穏な空気が一瞬で破られ、悲鳴と喧騒が巻き起こった。

皆、安全な場所を求めて教会に殺到する。

 

「スナイパーよ!誰かがあたしらを狙ってる!多分、さっきあたしらを撃ってきた奴!」

 

あたしはエレオノーラを屋内に追いやりながら答える。

 

「ええっ!?ハッピーマイルズから帝都まで直線距離で500kmはあるんですよ!」

 

「あわわわ、助けてください~!」

 

「そうだよ!まだ10分程しか経ってねえ!空飛べる魔女でも無理だ!」

 

「いいから隠れる!ほら、そこのでっかいあなたも!」

 

パラディンとか言う巨漢が、銃弾の飛んできた方角をじっと見たまま動かない。

鉄仮面の下にある瞳は、帝都の街に隣接する小高い山を見つめているに違いないわ。

そう、さっきの変な光はライフルのスコープに反射した日光。

かなり遠くでも気づかれるから、プロは射撃直前まで蓋を閉じておくものなんだけど。

あたしはピースメーカーを抜きながら、急いで彼に話しかける。

 

「あなたの思ってる通り、敵はあっちの方から撃ってる!

腕は素人に毛が生えた程度だけど、問題は銃。

対物ライフルっていう、戦車の装備も破損させる……ねえ聞いてるの!?」

 

彼の大きな体を揺すって教会に連れて行こうとするけど、

デカい体はちっとも動く気配がない。

すると、彼が背負っていたタワーシールドを両手に持って、

やはりくぐもった声で宣言した。

 

「最重要警護対象に対する敵対行為を確認。……神罰を執行する!!」

 

その2つのタワーシールドは、少し身をかがめれば、

パラディンの巨体もカバーできるほど広く重厚なものだった。

実際彼は逃げる様子もなく、2枚の塔で前方を守りつつ、

中腰になりながら前進を開始した。

そして、また山の方向からフラッシュ。遅れてライフルの爆発音と大型弾が飛んでくる。

 

が、パラディンは構うことなく、タワーシールドで銃弾を受け止めた。

ガオン!と鋼鉄の盾が耳に痛い音を立てるけど、

ただただ戦車のように全てを圧倒しながら、ひたすら歩を進める彼。

なるほど?だったらあたしも参加させて貰おうかしら。

 

「ねえ、パラディンさん。悪いけど、あなたの背中貸してくれない?

向こうのバカぶっ殺さなきゃ落ち着いて話もできないわ」

 

「……命の保証は、できない」

 

「大丈夫、大丈夫。元々そんなもん、どこにもありゃしないんだから」

 

あたし達は赤レンガの通りを踏みしめながら、ゆっくりと確実に山へ近づく。

途中、何度も銃撃を食らったけど、パラディンの盾はへこむ様子すら見せない。

……ただの鉄じゃなさそうね。

そうこうしてるうちに、ついに街から外れて山のふもとに。あたしは、彼に提案する。

 

「ねえ、ここからは二手に分かれましょう?

街の中は遮蔽物がなかったから、あなたに隠れてたけど、

ここまで踏み込んだら視界が遮られるこっちが有利。

弾の飛んできた角度から考えて、敵は少し登ったところにいる。

二人で東西から追い詰めましょう」

 

「承知した。もし犯人を確保したら、どうか殺さずに」

 

「うん、わかった。ゴツい格好でもやっぱり聖職者なのね」

 

そしてあたし達は行動方針を変え、一旦別れてスナイパーの捜索を再開した。

木々が身を隠してくれる山では、今度はすばしっこいあたしが有利。

またフラッシュが見えた瞬間、太い木の幹を背に隠れる。

空を裂く銃声と同時に背後から衝撃が伝わってくる。

 

遅い。照準から発砲までのタイムラグが大きすぎる。

奴に王手を掛けるのも時間の問題ね。その時、東から銃声を受け止めた甲高い金属音。

パラディンも頑張ってるみたいね。

あたしはピースメーカー片手に、また山肌を駆け出した。

 

 

 

 

 

地面に腹ばいになって大型の対物ライフルを構えていた男は舌打ちした。

スコープを覗いてデカブツとチビ女を探すが、

この邪魔な障害物だらけの山奥ではまともにターゲットを探せない。

おまけにデカブツを撃ってもバカみたいに硬い盾に弾かれるし、

チビには狙いを付けた瞬間逃げられる。

次第にイラつきが募り、後ろにいた人物に叫んだ。

 

「兄貴、場所を変えてくれ!こんなクソみてえな場所じゃ……あれ、兄貴?」

 

振り返って目的の人物を探すが、既にどこにも誰もいなかった。

 

「おい、どういうことだよ……

ナマのターゲット撃ちまくらせてくれるんじゃなかったのかよ!

くそったれ、裏切りモンがぁ!!」

 

男はまた腹ばいになり、索敵を開始した。

焦りを無理矢理ねじ伏せ、極限まで集中力を高めて。

 

 

 

 

 

う~ん。パラディンはまだ、と。

あたしはとりあえずスナイパーは放っておいて、

結構高めの位置をひたすら目指してたの。

やっぱり高いところから見下ろすほうが楽そうじゃない?

赤茶色の土がむき出しになった足場に片足を乗せて、

近くの木に掴まりながら眼下を見下ろす。やっぱり都会だけあって帝都って素敵な街ね。

……ごめん、そうじゃないわね。

さて、ちょっと下の方を見ると、案の定、

バカが必死になって居るはずのないあたしをスコープで探してる。

そろそろ行きましょうか。

 

 

 

 

 

いくら探しても見つからない。痺れを切らした男は、銃を持って立ち上がろうとした。

しかし。

 

「はいストップ。銃を置いて両手を頭に。おかしな事したら頭に.45LC弾が大命中」

 

「わ、わかった……言うとおりにするから殺さないでくれよ!」

 

男が言われたとおりに手を頭に置くと、

三つ編みにメガネを掛けた女がこちらに銃を向けていた。

 

「スナイパーは二人一組で行動するものよ。あんたにはお友達がいなかったのかしら」

 

 

 

 

 

やっぱ銃だけが取り柄のバカだったわね。とりあえず犯人確保。

あたしは大声で彼を呼ぶ。

 

「パラディーン!犯人はここよ!高い一本杉の近く!」

 

“感謝する!今、そちらに向かう!”

 

程なくして彼が両手の重量物を物ともせずに、軽々とした足取りで山を登ってきた。

さあ、事情聴取と行きましょうか。

 

「あんた、名前は?」

 

「レオポルド……“レオポルド・ザ・スナイパー”って世間の連中は呼んでる」

 

「レオポルド?ああ、そういえばそんな賞金首がいたわね。何やらかしたの?」

 

「アースから流れてきたこの銃の魅力に取り憑かれちまってよう……

どうでも良さそうなやつで“試し撃ち”してたんだ。乞食、商売女、しけた行商人。

いや、出来心だったんだよ、マジで!別にいいじゃんか!

死んで困るような奴らでもなし!」

 

「そうね。このピースメーカーもしばらく撃ってないから、

死んだところで誰も悲しまないあんたで試し撃ちしようかしら」

 

「や、やめろ!……そうだ、今から俺は軍に自首する!

デッドオアアライブの賞金首でも、自首すれば裁判を受ける権利が発生する!

お前が俺の命を奪う権利なんてないんだ!」

 

「こいつ……!」

 

クズの逃げ口上にさすがにあたしも頭に来る。

トリガーに掛かった人差し指に力が入りそう。

パラディンは黙ったまま、ただそこにいる。相変わらず表情、というか感情が読めない。

仕方がないから全部の疑問を解消してから連行することにした。

 

「1時間程前、あたしらの教会を狙撃したのはあんた?」

 

「ああ、そうだ……」

 

「どうやってあの短時間であたしらを帝都まで追いかけてきたのかしら?

空を飛べても数時間かかる距離なのに」

 

「それは、兄貴が瞬間移動の術で送ってくれた」

 

「兄貴?」

 

「ついさっきまでそこにいたんだよ!でも、気づいたら俺を置いて逃げやがった!

畜生め!」

 

「エレオノーラを狙った理由は?」

 

「あのシスターを殺せば、

これからいくらでも一般人のマトをくれてやるって言われて……」

 

あたしは、ふぅ、と大きく息をついた。怒りを通り越して呆れ果てる。

人を殺さないのがこんなに難しいことだとは思わなかったわ。

パラディンがレオポルドに歩み寄る。奴が彼の巨体にすがりつく。

 

「な、なあ、あんた聖職者だろ!?俺を軍基地まで連れてってくれ!

あの女がもうキレそうなんだ、俺を守ってくれよ!」

 

本当に撃ち殺そうかと思った時、異変に気づいた。パラディンの身体が震えている。

声を掛けようとした瞬間、彼が、吠えた。

 

「うおおおおお!!」

 

とうとう彼も怒りが頂点に達したの?いや、違う。これは……泣いてる!?

 

「聖母よ!再び大罪を犯す私めをお赦しください!

神に仕えながら神に背を向けし罪、人でありながら人を裁く罪、そして──」

 

パラディンが両手のタワーシールド内部に施された機械仕掛けを操作する。すると。

 

「この十字架を血に染める罪を!!」

 

ガシャン!とタワーシールドの表面から、ナイフの先端のような刃が無数に突き出した。

守りの盾があっという間に殺しの拷問器具に変わる。

パラディンがそれを両手に、レオポルドに歩み寄る。彼の突然の変貌に奴も腰を抜かす。

 

「お、おい、やめろ。何すんだよ、何するつもりだよ……ギャアアーーーッ!!」

 

パラディンが片方の盾で思い切りレオポルドをすくい上げる。

体中に棘が刺さった奴が激痛で絶叫。そして、彼は叫んだ。

 

「懺悔する!神の造りし人の型、引き裂き破壊し、今こそ土塊に還さん!

神罰第十三章二十三節、絡繰り仕掛けの飽食刃!!」

 

さらに、もう片方のタワーシールドで一方の盾に刺さったレオポルドを両挟みにし、

完全に処刑の体勢を整えた。

 

「いでえええ!!なに、なにすんだぁああ!俺は、自首して……」

 

「ぐおおおお!」

 

敵の戯言には一切耳を貸さず、両手の凶器をおろし金のように上下し始めた。

無数の刃で罪人の肉体が抉られ、引き裂かれ、ちぎり取られていく。

奴の絶叫と共にパラディンの法衣が瞬く間に血に染まっていく。

 

「あぎゃああ!!いだい、いだい!やべてぐれええ!さいばん!おれ、けんりいいぃ!」

 

あまりに凄惨な光景にあたしも突っ立って見てるのが精一杯だったわ。

目の前で人間がミキサーに掛けられるように、ただの肉片に変わっていく。

一瞬、巨大な壁に削られる哀れな賞金首と目が合った。

でも、顎をもぎ取られ、涙を流すことしかできない奴を、

助けてやるつもりもなかったし、できなかった。

 

パラディンはただひたすら凶器と化した盾を擦り合わせる。

やがて、レオポルドは悲鳴を上げる力もなくなり、

両方の盾は徐々にその距離を縮めていく。

彼の足元には、つい今しがたまで人間だったものが盛り上がっていた。

ピンク色の肉片、何かの管、割れて骨髄の見えた骨。

うええ……人間って体の中にあんな汚いもの抱えてるのね。

 

やがて、ガツン!という音を立てて2つのタワーシールドが接触。

つまり、死刑執行が完了した。

パラディンがタワーシールド内側の機械を操作し、刃を引っ込める。

あたしは何度も深呼吸して、ようやく彼に話しかけた。

 

「あんた……何やってるのよ。そりゃ、このクズが言ってたことは屁理屈に近いけど、

一応筋は通ってたのよ?軍に引き渡せばあんたが殺さなくても死刑に……どうしたの?」

 

盾を元に戻した彼は、血に染まった両手を見て、またその大きな体を震わせていた。

 

「うああああ!!マリア様、この穢れた我が身をご覧下さい!私は救いを求めません!

ただ求めるは、いずれ死して裁きを受ける時、この罪深き魂に永劫の罰を!

ぐおおおお!!」

 

また泣いてる。

どうしてマリアさんに嫌われてまであんな残虐ファイトしなきゃならないのかしら。

なんか彼には事情がありそう。

いくらなんでも直接彼には聞けないから、エレオノーラと話してみよう。

 

「……ねえ、もう帰りましょう?エレオノーラ達も待ってるわ」

 

「君は、先に戻るといい……私は、この血に塗れた身を清めなければならない」

 

「そう……今日は助かったわ、ありがとうね」

 

「私は、自ら“穢れ”として生きる道を選んだまで。さらばだ。

……これを持っていくといい。この男は賞金首だったのだろう。

軍に持っていけば、賞金を得られる」

 

彼が足元を見ると、そこには大型の対物ライフルが。なによ、わりと最近の銃じゃない。

こんなものまで流れてくるなんて。

運悪くバカの手に渡ったせいで、名も知れぬ犠牲者が出たわけね。

考えなしに何でもかんでも取り込む、この世界のシステムも一長一短だわ。

 

「あたしが殺した訳じゃない。人の獲物横取りするほど落ちぶれてないわ」

 

「私は、もう“人”ではない。帝都の者に事情を話せば誰もが納得する。

いいから、持て」

 

「……一応、状況説明のために持っていくわよ」

 

あたしは対物ライフルと残りの弾を拾って、

まだ風に吹かれて悲しみに暮れるパラディンを残して帝都に戻っていった。

 

 

 

 

 

大聖堂教会の扉は全て閉じられていた。中から大勢の人間の不安げな声が聞こえてくる。

エレオノーラが、そんな信者達を懸命に励ましているようだった。

あたしは大きな扉を力いっぱいドンドン叩いて叫んだ。

 

「みんなー!射殺魔は死んだわ!パラディンに殺された!

もうドタマ撃たれる心配はないから出てらっしゃいな!」

 

 

“パラディンが?恐ろしいことだ……”

“マリア様、罪深きあの方に、どうか救いの手を”

“パラディンは、我々のために業を背負ってくださっているのだ”

 

 

3つの扉が全部開き、中から顔色の悪い信者達がぞろぞろと出てきた。

今日は日曜でもないし、ミサの気分でもないみたい。無理もない話だけど。

人混みの中からエレオノーラ達が出てきて、あたしを出迎えてくれた。

 

「大丈夫ですか、里沙子さん……」

 

「うう……凄い銃声で怖かったです~」

 

「よく生きて帰って来れたな。どうやって倒したんだ?」

 

「デカい盾を背負った人は見たでしょ?

彼、パラディンって言うんだけど、敵の懐までは彼が文字通り盾になってくれたの。

対物ライフルが不向きな山中に飛び込んだら、高所まで登って見下ろして、

見事あたしに気づいてない間抜けを発見できたってわけ」

 

「なるほどな。そこをお前の早撃ちでパンパーンと……」

 

「違う……!」

 

「えっ、どうした?」

 

あたしはルーベルの問いを無視してエレオノーラに向き合った。

そして、今日出会った本名を聞きそびれたパラディンについて問いただした。

普段は他人に必要以上に干渉しないタチだけど、彼は、あまりにも普通じゃない。

 

「……そんなわけで賞金首は死んだんだけど、エレオノーラ、パラディンって何者?」

 

彼女は少し顔を伏して悲しげな表情を見せた。

 

「彼は、神罰騎士(パラディン)。それ以上でも以下でもありません。

私達、大聖堂教会の幹部を外敵から守るのが唯一絶対の使命です。

その為なら、手段を選ぶこともありません。

例え聖職者の戒律に背く刃物の使用や……そう、殺人ですら」

 

「そりゃあ、お偉いさんの護衛に特例は付き物だけどさ……

彼、本当、普通じゃなかったわよ?

トゲだらけの盾で賞金首すりつぶしたと思ったら、マリアさんに泣きながら謝ったり」

 

「はい。普通ではありません……

そもそもパラディンになる事自体、並大抵のことではありませんから。

まず、5年に一度、大聖堂教会所属の警備兵から、

最も信仰心が厚く戦闘能力が高い者が選抜され、法王、つまりお祖父様から

直々に洗礼を受け、神罰騎士の任を受けます。その時、人としての名前を捨て、

ただパラディンとしての使命を全うする人生が始まるのです。

力なき神職を守るため、神を裏切り、聖職者でありながら咎を背負う者として。

敗れることの許されないパラディンには、

大聖堂教会技術部が開発した最強の武器が支給されます。

それが、里沙子さんの見た巨大な盾なのです。

あの盾には他にも様々な武装が内蔵されています。

どれも神の教えを踏みにじる罪深い存在。

それらを運用できるのは、マリア様に限りない信仰を抱きながら、

神の教えに背を向けたパラディンだけなのです。

そして、彼の二つ名が“歩く処刑台”。

本来、罪人は裁判で有罪判決を受けた後、刑務所なり絞首台なりで罪を償うのですが、

パラディンには特権が与えられています。

つまり、教会に危害を加える可能性があると判断すると、

それだけで諸々の手続きを経ることなくその場で対象を殺害する権利が発生するのです」

 

……そう。彼に名前なんてなかったのね。あの大きな背中には、

2つの盾だけじゃなくて、あたしじゃ背負いきれない、というより

最初から避けて通るほど重たいものを積んでいた。

目の前の小さな女の子や、大事なおじいさんを守るために。

 

「わかったわ。あたしがまた彼に会う機会はあるかしら」

 

「ないと思います。彼は実質お祖父様直属の護衛ですから。

今日出会ったのは、あのハプニングで突然帝都に戻ったことによる偶然。

高位の神官でなければ、普段お祖父様がいる教会最奥の玉座に入ることはできません。

恐らく里沙子さんが彼に出会うことはもうないかと」

 

「そう。会って一言くらい礼が言いたかったんだけど。

彼に会ったら伝えといて。“マリアさんが駄目でもイエスさんがいる”って」

 

「ふふっ、里沙子さんらしい優しさですね。伝えておきます」

 

エレオノーラが笑顔を取り戻したところで、

あたしはレオポルドの遺品をルーベルに渡した。

 

「そうだルーベル。あんたこれ使いなさい。あのバカが使ってたライフル」

 

「えっ?なんだよこれ」

 

「バレットM82。まぁ、今日見た通り物凄く強力なライフルよ。

身体が小さいあたしには手に余るの。

人間なら二脚に立てかけて腹ばいになったり、

台座に据えて撃たなきゃ当たらないくらい反動がデカいんだけど、

パワーのあるあんたなら普通のライフルと同じ感覚で使えるわ。

撃ち方と手入れの仕方は帰ったら教えてあげる。

魔王は無理でも、子分の悪魔なら急所にヒットすれば一撃で殺せるはずよ」

 

「やったぜ!腰のピストルじゃ物足りないと思ってたんだよな!」

 

ルーベルが大喜びで指をパチンと鳴らした。

 

「良かったですね、ルーベルさん!」

 

「あんたはさっさと新しい光魔法覚えるのよ。そっちは何にもしてあげられないから」

 

「そうだ!わたくし、ついに聖光捕縛魔法を覚えたんです!褒めてください!」

 

「へー、やるじゃない。あんたにしてはよくやったわ。素直に褒める。

で、消滅攻撃魔法は?」

 

「ちんぷんかんぷんです!」

 

「いつも通りのあんたで安心した。エレオノーラにでも教えてもらうのね。

……じゃあ、エレオノーラ」

 

あたしは教会を見て彼女に促す。彼女も黙って頷く。

そしてエレオノーラがおじいさんのところへ向かおうとすると、

奥から真っ白で背の高い帽子を被った神官ぽい人が走ってきた。

 

「エレオノーラ様、法王猊下の元へお急ぎください!」

 

「はい。今、参ります」

 

「そして、お仲間の皆様も!」

 

どこで時間潰そうか考えてたら、あたしらにもお呼びがかかって驚いた。

 

「え、あたしらも?」

 

「はい!法王猊下がお会いになりたいと。どうかお急ぎを!」

 

あたしらは少し困惑してお互いを見る。

でも、エレオノーラのおじいちゃん待たせるわけにもいかないから、

結局4人で教会の中に入っていった。

中は教会というより、高級ホテルの大ホールと言ったほうがいいくらい豪華。

それでいて必要以上に華美でなく、

あくまで神を崇拝するための装飾、ステンドグラス、大きな十字架、

巨大なパイプオルガンが揃っていた。

 

「こちらです」

 

神官が聖堂の脇にあるドアを開き、

通常関係者以外立入禁止のエリアにあたし達を案内する。

さぁ、この先に何があるのかしら。

エレオノーラのおじいちゃんなら、当然よそ行き口調よね。あ・あ。

廊下を歩いているうちに軽くボイスチェックした。

 

 

 

 

 

──魔城 ヘル・ドラード 会議の間

 

 

一切太陽の光が差さない魔界にそびえる広大な城。

ここを照らすのは絶えず空を走る稲光だけだ。

 

ヘル・ドラードの城主、深淵魔女と魔王ギルファデスが、

長いテーブルにたった二人で座っていた。魔王は不機嫌だった。

もっとも、彼の機嫌が良かった日など、ここ1000年で一日もないのだが。

 

「小癪な人間共!あくまで余に歯向かうつもりか!

思念体を差し向け、鉄砲玉をけしかけたが、余に仇なす小娘の暗殺に失敗し、

教会の兵に処刑されるとは!どいつもこいつも役に立たん!」

 

激高したギルファデスが拳をテーブルに叩きつける。

 

「やめてくださいな。ここは私達上位魔族の共用施設。

大事にしていただかなくては困りますわ」

 

「黙れ!おのれ教会め!北砂大戦以来、小細工だけは一人前になりおって!」

 

その時、一羽のカラスがどこからから飛び込み、深淵魔女の肩に乗った。

彼女はカラスから何事かのメッセージを受け取る。

 

「ふんふん、そうなの。ありがとう」

 

「何をしておる」

 

「今回も、教会だけじゃなかったみたいね……」

 

「一人で納得しておらんと、余にわかるよう説明しろ!」

 

「ふふ、説明するまでもありませんわ。

この件に絡んでいたのは、もちろん、あ・の・子」

 

そして、深淵魔女が最新の裏手配書をそっと指で突き、ギルファデスに飛ばした。

彼の手に収まったそれに書かれていたのは。

 

──Risako the Punisher 1000000G & Shadow Crystal

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。