面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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買い物行かなきゃ。面倒くさいけど。

「あー……」

 

朝。異世界に転移してから2日目。

一人暮らしだから当然朝食を作ってくれる人なんていない。っていうか食材がない。

だからといってどうこうする気力もなく、あたしは目が覚めてもベッドに腰掛けて、

アホみたいに口開けたまましばらくボケっとしてたの。10分くらいそうしてたかしら。

これ以上じっとしてても無駄だっていう現実をようやく受け入れて、

とりあえず身支度を整えることにしたの。

 

まずは歯磨き……歯ブラシない。とりあえず井戸水で口をすすいだ。

飯はさっき言った通りなんにもない。鏡はこのボロ屋に残ってた、

端がひび割れてるやつを洗って使う。うわぁ、あたしの髪ボサボサ。

ハンドバッグに入れてた携帯用の櫛があって助かったわ。

なんとか浮浪者と間違われない程度に整えたら、いつも通りの三つ編みに結ぶ。

 

これのせいで子供と間違われて面倒な思いすることもあるけど、

楽できることもあるから今のところ変えるつもりはないわ。

訪問販売なんか、ママいないからわかりませんで追っ払えるしね。次は洋服に着替える。

着替えるって言っても昨日脱いだやつをまた着ただけなんだけど。

着の身着のままで来たんだからしょうがないじゃない。

 

とりあえずハッピーマイルズ・セントラルとやらに行って、

いるもの全部買ってこなきゃ。相変わらずホコリまみれの聖堂(玄関とも言う)から

外に出て、昨日将軍に案内された道を辿ってひたすら歩く。長い。

空きっ腹には堪えるわ。タクシーなんて気の利いたもんは走ってない。

昨日金持ちになったっぽいのに、サービスの供給が追いついてないわね。

どうしてくれよう。とにかくハンドバッグに硬貨をふたつかみ程入れてきたけど。

 

早足で20分。ようやくハッピーターンに到着すると、

もう市場は開いてて、人で溢れてた。ああ、また頭痛が。

この世からあたしと店員以外いなくなればいいのに。

とにかく飯が食いたいあたしは、早速食べ物屋を探した。限界が近いわ。

さっさとしないと無意識にそこに落ちてる馬糞食べそう。

 

すると、風に乗ってスープのいい匂いがしてきたから、

匂いに誘われるまま歩いてると、1軒の店を見つけたの。

そう、鼻はこうして使うものなのよ。

聞いてる?豚みたいに人の体臭嗅ぎまくってる某柔軟剤のCM。

西部劇みたいなペコペコ開いたり閉じたりする小さなドアを開くと、

やっぱりそこは酒場だったみたい。背後に無数の酒瓶が並ぶカウンターと、

たくさんの丸テーブル。仕事前の職人らしき連中が朝食を取ってるわね。

 

店に入ると、ガヤついてた周りが静かになって、

みんながあたしをジロジロ見てるのがわかる。お約束はやめて。

あたしはクリント・イーストウッドじゃないの。

邪魔な視線を無視してカウンターに腰掛けると、ウェイトレスが注文を取りに来た。

 

髪は紫。染めたような不自然さがないから多分地毛だと思う。

あと、おっぱいを強調した、ドレスだか給仕服だかわかんない服着てる。

わかんないなら「ディアンドル」で検索。

でかい。あたしが見とれてると、ウェイトレスが注文を聞いてきた。

 

「おはよう、お嬢さん。今朝の注文はなぁに?」

 

「これでも24なの。多分あなたより2.3個上よ。とりあえずお腹が減ってるの。

適当に朝食見繕って」

 

「あらあらウフフ、ごめんなさい。

じゃあ、白パンにサラダとシチューのセットでいい?」

 

「ええ、お願い」

 

ウェイトレスが奥に引っ込むと、手持ち無沙汰になったあたしは、

お冷をちびちび飲みながら店内を見回す。

これから仕事始めらしい職人ぽい筋肉質の兄ちゃん。朝から飲んでるオッサン。

忙しく料理を運ぶウェイトレス達。おおっ、ひょっとしてエルフってやつ?

耳がとんがってる。ますます異世界らしくなってまいりました。

……って珍しそうに見すぎたかしら。

バーカウンターでグラスを磨いていたマスターが話しかけてきた。

 

「嬢ちゃん、アースの人間かい?」

 

「そうらしいわね。将軍によると」

 

「へえ!将軍閣下とお近づきになれたとは嬢ちゃんツイてるね」

 

「本当にあの人なんなの?昨日も将軍の名前出しただけでお客様扱いだったんだけど。

実際客だったんだけどさ」

 

「立派な方さ。あの方のお陰でこのハッピー・マイルズ領は

魔族の侵攻を受けずに住んでる。領地全体の軍事や行政を一手に引き受けておられる。

とても真似できることじゃねえ」

 

「魔族?なにそれ、ややこしい連中なの?」

 

「とんでもねえろくでなしさ!魔王を頂点に魔界から悪魔を送り込んで、

このサラマンダラス帝国を乗っ取ろうと企んでる。

まあ、大抵あの方の軍隊指揮と剛剣で逃げ帰っちゃいるがな」

 

「ふーん。うちに来なきゃどうでもいいわ」

 

「どうでもいいなんてことあるか!魔王軍が本気を出せば、

奴ら一気にここまでなだれ込んでこない保証なんてないんだぜ?」

 

「な、る、ほ、ど……とりあえず身を守る準備はしといたほうが良さそうね。

ねぇ、この辺に武器を買える店はないかしら。銃があればなおよし」

 

「ここから北に行けば銃砲店があるぜ」

 

「すんげえざっくりした説明ありがとう」

 

あたしがマスターと喋っているうちに料理ができたようで、

さっきのウェイトレスが朝食を運んできた。ああ、やっと飯にありつける。

 

「おまちどうさま。たくさん食べて大きくなってね」

 

「おい」

 

「ウフフ……」

 

仕返しにスカートでもめくってやろうと思ったが、

からかうような笑顔を浮かべてウェイトレスは素早く逃げていった。

仕方なくあたしは白パンをちぎって、シチューに浸けながら食べ始めた。

 

あたしはインスタ(ばえ)とかいう害虫には寄生されてないから、

ただ黙って飯を食う。

大の大人が、飯屋ではしゃぎながらスマホでパシャパシャやってる姿は、

見苦しいことこの上ないわ。食事は静かに食うものよ。

シチューは美味かったとだけ言っとく。

 

「ふぅ……ごちそうさま。マスター、お勘定お願い」

 

「5ゴールドだよ」

 

「安っ!昨日の彼にもっと渡しとけばよかったわ」

 

あたしはハンドバッグから10ゴールド銀貨を1枚抜いてマスターに渡した。

そしてお釣りの1ゴールド銅貨を5枚受け取った。

バッグの中が見えたのか、マスターが余計なことを言ってきた。

 

「お嬢ちゃん羽振りがいいね。もしかしてどっかのご令嬢かい?ハハハ」

 

「大事なものを売ったのよ。仕方なかったとはいえ後悔してる」

 

「そいつぁ……あんたも苦労したんだな」

 

「あ……ん!?ちょっと、変な誤解しないでちょうだい!

ミニッツリピーター!超精工な懐中時計よ!」

 

「わかってる、わかってる。何も言わなくていい」

 

「やめろ!」

 

あたしが騒いでると、酔っ払いのオッサンがニヤニヤしながらこっちを見てきたので、

早々に退散することにした。

 

「二度と来るか!」

 

そう叫んで店の外に飛び出した。

……まぁ、結局この店には何度も足を運ぶことになるんだけど。

気を取り直して北へ向かう。けど、北って言ってもどこが北なのよ。

結局、昨日将軍に案内してもらった役所へ行った。

 

「ちょっくらごめんなさいよ」

 

中は相変わらずうるさい。ここで喋らなきゃいけない理由でもあるのかしら。

カウンターの客も受付もよく会話のやり取りしてるもんだわ。

とにかくあたしは昨日のオッサンがいるところに並んだ。

途中、横入りしてきた野郎の股間を蹴り上げつつ、

10分ほど待って自分の番が回ってきた。

 

「やあ、昨日のお嬢さんじゃないか。首尾はどうだった?」

 

「将軍さんのネームバリューのお陰で家も土地も手に入ったわ。今日は買い出しの途中。

後ろがつかえてるから手短に話すわよ。北の銃砲店にはどう行けばいいの?」

 

「うん、やっぱりあの方が味方だと心強いだろう!

でも、銃なんか買ってどうするんだい?その細い指じゃなかなか難しいよ」

 

「ご心配ありがとう。でもハワイのガンショップで何度も練習したから経験済み。

で、場所は?」

 

「この役所は街の中央。出口から見て右手が北さ。つまり正面が西ってことだ。

北に真っ直ぐ進めば案内板があるよ。銃の目印があるからすぐわかるさ」

 

「わかったわ。ありがとう。急いでるのはお互い様だからこれで失礼するわね」

 

「また困ったらおいで」

 

親切なオッサンと別れたあたしは、北に向かって広い歩道を歩き始める……んだけど、

後ろにくっついてる奴がいる。バレてないとでも思ってるのかしら。

そいつはいきなり走り出すと、追い抜きざま、あたしのハンドバッグを掴もうとした。

 

そのタイミングを見計らってバッグを手元に引き寄せ、

中からドン・キホーテで買ったスタンガンを取り出し、

電源を入れてそいつの背中に押し当てた。

 

「がああああ!!」

 

そいつが真正面から地面に倒れ込む。

キャスケット帽をかぶった、あまり上等とはいえない服装の少年。生きてればいいけど。

これ、リミッター外して強化クワトロバッテリーに改造したやつで

最大レベルだと牛が死ぬる。多分、さっきのバーから追いかけてきたんだと思う。

金見せたのはあの時だけだし。

 

「少年、生きてるー?」

 

「ううっ……」

 

スリの少年は立ち上がろうとするけど、

まだ電流が身体に残ってるみたいで動けないみたい。

あたしは立ったまま彼の耳元に口を寄せて囁く。

 

「もう少し相手選んだほうがいいわね。こんなところじゃ金持ちは大抵悪人。

悪人はみんなピストル持ってる。悪人だから子供撃つことなんか躊躇わない。

そんなやり方じゃ、いずれドブ川に浮かぶわよ」

 

「お前も、貴族か……!ガキの癖に……悪党だってのかよ、くそっ!」

 

「あたしがいい人に見えてるなら緑内障を疑ったほうがいいわ。

ついでに言うとガキでもない」

 

騒ぎを見てなんだなんだと人が集まってきた。

ピクリとも動かない少年と、そばに立つ怪しい女。まぁ、ちょっとした殺人事件よね。

鎖帷子を着て槍を持った兵士の一団が近づいてくる。

彼らをかき分けて、見覚えのありすぎる人が近づいてきた。

やはり一歩歩く度ガシャコンと鎧がうるさい音を立てる。

暗殺には向いてなそうね、彼。

 

「誰かと思えばリサではないか!貴女は雷属性の魔道士だったのか!?」

 

「こんにちは将軍さん。あなたのお陰でスムーズに家が買えましたわ。

やんごとなき方だとは知らずにずいぶんと失礼をしました。

……ああ、彼ですか。ただのスリです。私が使ったのは魔法じゃなくてスタンガン。

(普通なら)非殺傷性の電撃を放つ護身用の武器。

死にはしませんが、死ぬほど痛とうございます」

 

「我と貴女の仲ではないか、そう改まることはない。して、怪我はなかったのか?」

 

「私より彼の心配をしてあげたほうがよろしいかと」

 

「むむ……確かに」

 

足元の彼は未だに痛そうなうめき声を上げて立ち上がれないでいる。

スタンガンのダイヤルを見る。レベル2だけど、これはちょっと、アレだからねぇ……

お巡りさんにバレたらカツ丼食う羽目になる。

 

「すぐ、連行させよう。おい……」

 

「あ、お待ちになって」

 

部下にスリの少年を逮捕させようとした将軍を止めた。

どうせこいつ一人牢屋にぶち込んだって、

スリなんかスラム中からいくらでも湧いてくるし。

こっちが気をつけたほうが手っ取り早いわ。

 

「彼は十分に罰を受けましたので、どうかここは穏便にお願いできないでしょうか」

 

あたしは軽くスタンガンのトリガーを引く。バチィッ!と痛そうな電撃が弾ける。

さすがの将軍も一瞬目をしかめた。

 

「……確かに、これ以上の刑は死体に鞭打つようなものであるな。

貴女が良いのであれば、我はこれで失礼しよう。……さぁ、皆の者、往来の邪魔である。

散った散った!」

 

「お心遣い感謝致しますわ」

 

野次馬を追い払いながら兵士の一段に戻っていったシュワルツ将軍を、

小さく手を振って見送る。さて、問題は足元のスリ。

ようやく立ち上がろうとするが、まだ体中が痛むみたい。

 

「痛てて……ちくしょう、てめえ、覚えてろよ!」

 

捨て台詞を残して逃げ出すけど、片足を引きずりながら、

あたしが歩くより遅いスピードで懸命に前に進む。

ちょうどあたしが歩く方向と同じなんだけど、どうすりゃいいのかしら。

とりあえず銃のマークの案内板を探して歩いていると少年が叫んできた。

 

「ついてくんなよ!この悪党!」

 

「お生憎様。あたし善人じゃないけど悪党でもないの。ただ自分に正直なだけ。

銃砲店を探してるんだけど、あんた知らない?」

 

「自分で探せよ、バーカ!」

 

「教えてくれないと痺れきったケツ蹴り上げるかも」

 

「やってみろ……ってえ!!本当に蹴るか普通!?」

 

「しょうもない嘘やハッタリは嫌いなの。もう一度聞くわよ、銃砲店は?」

 

「チッ、ここ真っすぐ行けば嫌でも看板が目に入るよ!」

 

「ありがとう。はい情報料」

 

あたしは少年のポケットに銀貨2枚を入れた。

 

「いらねえよ、悪党の金なんか!」

 

「スリは悪党じゃないのかしら。情報に対する正当な対価なんだから、

意地張ってないで儲けてればいいの。それじゃあね」

 

「いつか後悔させてやるからな!」

 

「あらそう。なら住所と名前が必要ね。あたし斑目里沙子。

街から西に歩いて30分くらいのボロ教会に住んでる」

 

「あのボロ小屋?あんた貴族じゃないのか?」

 

「残念ながら生まれも育ちも平民よ。まあ、あたしの国に階級制度なんてないけどね」

 

「お前、アースから来たのか?」

 

「そういうこと。じゃあね」

 

「待て!」

 

「何よ。これから悪い奴らぶち殺しマシンを買いに行かなきゃいけないんだけど」

 

「……マーカスだ」

 

「わかった。あんたの名前はマーカスね。

次、あたしを狙う時は気をつけなさい。難易度上がってるから」

 

あたしはマーカスを残して北に進む。

確かに、グリーンに塗装された案内板が交差点の角に立って四方を指している。

その中で西方向に“ガンショップ・ピストレーロ すぐそこ”と書かれたものがあった。

左に曲がると、本当にすぐそこだった。二丁拳銃を描いたデカい看板の店。

鉄格子のかかったショーウィンドウにショットガンやライフルが並べられている。

 

店に入ると、宝石店とは違って、

顎髭を蓄えた店主のオッチャンに雑な態度で話しかけた。

ただでさえ見た目で損してるのに、これ以上舐められると、

まともなものを売ってくれない可能性が高い。

 

「ねぇ、1911ガバメントとイングラムM11ちょうだい。弾も」

 

「……ガキにゃ売らねえよ。大体なんだそのへんてこな銃は」

 

「これでも24だっての。ほら身分証。とりあえずリボルバー出しなさい」

 

オッチャンは身分証をしげしげと眺めると、ケッと不機嫌そうに窓際を指差した。

 

「指を折りたいなら好きにしろ。さっさと買ってさっさと帰れ」

 

「最初から出しゃいいのよ」

 

とりあえず大きい銃はいらない。ライフルやショットガンは、

あたしの身体じゃ撃てないことはないけど、長期戦になるとキツい。

それより扱いやすくて構造的に信頼性の高いリボルバー。

 

あたしは棚に並んだいろんな回転式拳銃を見る。

手のひらに収まるくらい小さなものから、

もうショットガンに切り替えろよ、って言いたくなるほどデカいもの。

で、そん中であたしはあるものを見つけて思わずオッチャンに声をかけた。

 

「ねえ、ちょっと!これってコルトSAAじゃないの?」

 

「名前なんざ知らねえよ。アースから流れてきた一品物だ。高く付くぜ」

 

「買うわ。他には……ワーオ、マジ?」

 

黄金に輝く超特大サイズのピストル、Century Arms M100。

9mm弾じゃなくてライフル用の45-70ガバメント弾を撃ち出すハンドキャノン。

さすがにこんなの撃てないけど、

多分これも地球からの移住者が残していったらしいわね。物珍しさに手にとってみる。

あたしはその重さに耐えきれ……る?っていうかすごく手に馴染む。なんで?

 

「ここって試し撃ちできる?」

 

「弾代は実費だ……って、まさかそいつをぶっ放すつもりじゃねえだろうな?

本気で指がぶち折れても知らねえぞ!」

 

「放っといて。さあ行くわよ」

 

店舗から廊下を渡った隣の部屋が射撃場になってて、あたしはM100を持って中に入る。

その馬鹿でかい銃に馬鹿でかい弾を込め、両手で10m先の標的を狙う。

クソ重いはずなのに勝手に姿勢が整い、木でできた人型の標的に照準が合う。

 

あたしは無意識のうちに、少しだけ息を吸い、トリガーを引いた。

爆音が廊下を通って店舗まで轟き、

オッチャンが椅子からずっこけたような物音が聞こえた。標的の頭が吹っ飛ぶ。

 

不思議だけど、間違いないわ。ミニッツリピーターの次の相棒は、こいつで決まり。

あたしは店舗に戻ると、コルトSAAとCentury Arms M100をカウンターに置いた。

 

「これちょうだい。弾を100発ずつ。あとガンベルトも」

 

「……全部で1750Gだ。ガンベルトはサービスしとくぜ。

なあ、嬢ちゃん。この化け物銃で何と戦うってんだ?」

 

「万一の保険よ。魔族っていうならず者がいるって聞いた」

 

「確かにそいつなら悪魔も殺せるだろうが……マジにやる気なのか?」

 

「向こうがちょっかいかけてくるならね。

面倒くさいけど、大人しく殺されてやる気もないの」

 

喋りながらあたしはハンドバッグから苦労して1750Gを取り出した。

どうせならクレジットカードや紙幣制度も流れてきたらよかったのに。

大きな買い物するにはちょっとした覚悟がいるわね。オッチャンも数えるの大変そう。

 

「……確かに。ほらよ、ガンベルトだ。締め方わかるか?」

 

「ええ、ハワイで習ったわ」

 

さっそくあたしは細い体にガンベルトをしっかり巻きつけ、

腰にコルトSAA、左脇にCentury Arms M100を差した。装備はバッチリ。

食料は役所近くの屋台村で野菜やパンを売ってる店がひしめき合ってたから

迷うことはないわ。さっさと用事済ませて昼寝しようっと。

 

「邪魔したわね」

 

「またうちで無駄遣いしてくれよ、嬢ちゃん」

 

ガンマンになったあたしが店を出ると、他に必要なものがないか考えた。

まず食料、歯ブラシと、贅沢言えば最低限の化粧品くらい欲しいわね。

あ、大事なの忘れてた。生理よ“おーい”誰よ鬱陶しいわね。

銃砲店の向かいにある薬局から店員らしき女の子が手招きしてる。

ああ、ちょうど良かったわ。生活必需品は一通り揃いそう。

あたしは誘われるまま店に入っていった。

 

店の中は少し薬品の臭いが漂っていて、四方の棚にいろんな薬が並んでた。

やっぱり薬だけじゃなくて、マツキヨみたいに歯ブラシとかも置いてたわ。

銃砲店と並んで今後も通うことになりそう。

で、あたしを手招きした店員が近寄って来ていきなりあたしの手を取った。

 

「な、なによ」

 

「ふふっ、銃声がしたもんだから、どうせ指を痛めたんだろうと思って。

手当してあげる。当然代金はもらうけど」

 

コロコロと可愛い声だがしっかりしてるとこはしっかりしてる。

見た目も結構可愛い。ムカつくわ。ブルーのロングヘアに、

身体のラインを強調するぴっちりしたナース服にナースキャップ。

目鼻立ちもカワイイ系と美人系が3:7ってとこかしら。

ガールからレディになりかけっていう一番おいしい時期ね。

 

「残念だけど銃は心得があるの。どこも痛くないわ」

 

「あら、何か爆発したかと思うくらい大きな音だったから、

てっきり人差し指脱臼して泣いてるかと思ってたのに」

 

「蹴るわよ」

 

「うふふ、ごめんなさい。用がなかったならごめんなさい、お茶でも飲んでく?」

 

「いらないわ。でも用ならある。生活用品一式と化粧品探し求めてんの」

 

「あるわよ~そこの棚に大体並んでる。最近引っ越してきたの?」

 

「引っ越したっていうかワープしてきたって言った方が適切だわね。

気がついたら町外れの草原で寝てた」

 

「あらあら。アースのお客さん?」

 

「そういうこと。今は所持品売っぱらって買ったボロ屋で寝泊まりしてる」

 

あたしは似非ナースと雑談しながら買い物かごに次々雑貨や化粧品を放り込む。

歯ブラシ、石鹸、シャンプー、洗剤、ファンデーション、口紅……

いろいろあったけどキリがないからこの辺にしとくわ。

とりあえず女子の一人暮らしに必要なものは大体揃ったと思ってちょうだい。

重たい買い物かごをカウンターにどすんと置く。

 

「まぁ、たくさん買ってくれてありがとう。でも計算が面倒くさそう」

 

彼女はマイペースに一つ一つ商品を手にとって、そろばんで計算し始めた。

 

「あたしと気が合いそうね。あたし斑目里沙子。あんたは?」

 

「アンプリって言うの。この薬局の薬剤師と医者の真似事やってる。先生は今留守。

商品の仕入れとかは別の職員の担当。

……ところで、そんな大きい銃買って賞金稼ぎでも始めるの?」

 

「賞金稼ぎ?なにそれ」

 

「この街の中央にあるバーの隅の隣に駐在所があるんだけど、

そこに指名手配のポスターがいくつも貼ってある。

基本的にデッド・オア・アライブだから、

貧乏極まって死ぬしかなくなったらチャレンジしてみるのもいいかもね」

 

「真っ平よ、そんな面倒なこと。これでもそこそこ蓄えはあるの」

 

彼女は大量の物資の値段を計算しながらもおしゃべりをやめない。

頼むから計算ミスらないでよ。

……でも、待ちなさい。もしかして、賞金首を文字通り首だけにして持っていけば、

ミニッツリピーター買い戻せるかも?ちょっと興味が湧いてきたわ。

あたしはアンプリに後ろの棚の代物を注文した。

 

「ふぅ、やっと終わった。買い物袋を出して。詰めるから」

 

「レジは無い癖にエコバッグは普及してるのね。

それより、後ろのそれもついでにちょうだい」

 

「あら、心臓でも患ってるの?」

 

「……知り合いのおじさんの友達がね。とりあえず2瓶。ほら、バッグよ」

 

折りたたみ式のエコバッグを渡すと、アンプリは購入品全部を詰めてくれた。

 

「全部で124Gね」

 

「ちょっと待って。ええと、100G硬貨が1枚と……」

 

ハンドバッグの中身をじゃらじゃら言わせながら代金を引っ張り出す。

小銭入れでも買おうかしら。でも小さいケースに入る金額じゃ大したものが買えない。

本当面倒なシステムね。とりあえず金を払ってバッグを受け取った。

 

「ありがとね。賞金首にやられたらうちに来てね、里沙子ちゃん」

 

「殺るかどうかは決めてないわ。面倒くさそうだし。それじゃあ」

 

重い銃と重いバッグのせいで早くも歩いて帰るのが面倒になる。

とりあえず役所まで戻って、

市場で保存の効くパンをいくつか買ったところで限界が来た。

調味料とか野菜とかは今度にする。

さぁ、帰ろうと思ったところで、偶然駐在所の前を通りかかった。

開けっ放しの出入り口から居眠りする警官の姿が見える。

これじゃあ、指名手配に頼らざるを得ないわね。

そばの掲示板に張り出された手配書を見てみる。

 

・龍鼠団首領 キングオブマイス 1000G

 

頭の悪そうな名前。金額からして、“面倒だから誰か殺ってくれ”ってところかしら。

 

・射殺魔 レオポルド・ザ・スナイパー 15000G

 

なるほど、本当に手を焼いてるのはこういう奴ね。

でも懐中時計を買い戻すには全然足りない。

ボロ屋買うのに100万使ったし、その他諸々含めるともっと必要ね。

 

・魔王 10,000,000G

 

あらシンプル。要するにこいつをぶっ殺せば、

愛しのミニッツリピーターを買い戻せるってわけね。

でもどこにいるかもわかんない奴を殺すのは流石に無理ね。機が熟すのを待ちましょう。

 

気が済むまで手頃なターゲットを見てたけど、

魔王以外は、全部倒したところで一千万Gには遠く及ばない連中ばっかりだった。

もう帰りましょう。あとしばらくは愛しの金時計とはお別れね。

あたしはハッピーマイルズを後にして帰路に着いた。

 

 

 

「あ~疲れた」

 

我がボロ屋に帰り着くと、あたしは荷物を放り出して、歯ブラシと歯磨き粉、

それとパンだけを取り出し、水と惣菜パンだけの寂しい夕食を済ませた。

それから井戸のそばで、朝から磨いてなくて気持ち悪かった歯を磨く。

ああ、歯を磨くってこんなに爽快なことだったのかしら。

 

母屋に戻ると、疲れたからもう寝ようと思ったけど、

ベッドルームにあったコート掛けに引っ掛けたガンベルトを見て思い出す。

う~ん、とりあえず武装は今日中に固めようかしら。

面倒くさいことは放置しておくともっと面倒になる。

あたしは薬局で買ったニトログリセリンを取り出し、

倉庫にあったガラクタをかき集めて、あるものの作成に取り掛かった。

 

「やあ、ゴロリ君、今日は(ピー)を作るよ!たーのしみだな~♪」

 

一人芝居をしながらも慎重に作業を進める。1時間半ほどで材料が尽きた。

5本もあれば十分ね。とりあえずそれで満足したあたしは、

風呂に入ってなかったことに気づいたけど、

今更何度も井戸水組み上げるのが面倒でそのまま寝てしまった。

まあ明日でいいや、面倒だし。おやすみなさーい。

 

 


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