面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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魔王編なんて読みたくないやい、って人は「市役所に住民票~」からこの話までをスキップしてね。急に状況が変わって多分混乱するけど。

魔王がその手に魔力を収束する。まるでブラックホールのように真っ黒な球体が、

バチバチと紫の稲妻を伴い、ちょうど手のひらを覆い隠すようなサイズになった。

そしてあたしに狙いを定め、その力を解き放つ。

 

()っ!!》

 

ゴウッ!と空を斬って迫りくる暗黒魔法。

でもあたしは両腕を組んで、ただ魔王を見つめるだけ。

別にクロノスハックで避けようってわけじゃないわ。

のんびり状況説明してるけど、着弾まであと1秒ちょっと。

皆が驚いてあたしを見る。かばうのも押しのけるのも間に合わない。

でも、大丈夫だ、問題ない。

 

ヒュオン!

 

暗黒球は、空中で迎撃され、消滅した。

テッド・ブロイラーが目からレーザーを発射して、飛び道具を撃ち落としたから。

 

《ぬおっ!?》

 

明らかに異質な存在に攻撃を打ち消され、驚愕するばかりの魔王。

相変わらず大きな口で笑う彼。

あたしが魔王に向けて歩き出すと、皆、戸惑いながらも覚悟を決めてついてきた。

 

遂に巨大な魔王と対峙する人類代表あたし達。

と、グラップラーよりお越しのテッド・ブロイラー。

しばらく両者睨み合っていたけど、やがて魔王が口を開いた。

聞くものを押し潰すほどの威圧感を孕んだ声が帝国最北の大地に響く。

 

《……人間にしては、やるものだ。

ダンタリオンは余の手駒の中でも、選りすぐりの精鋭だったのだが。

いいだろう。貴様らに最後のチャンスをやる。降伏しろ。

そうすれば、せめて人の形を保ったまま、奴隷として余に仕える栄誉をくれてやろう。

どうだ》

 

決戦前の前口上。

ラスボスイベントでは定番だけど、リロードしたりあくびを噛み殺したりして、

正直ろくすっぽ聞いちゃいなかった。どうせもうすぐ死ぬやつの話なんか聞いてもね。

あたしは気づかれないよう、テッド・ブロイラーのたくましい足にそっと触れて、

返事を促した。

 

『ふしゅるるる……よくぞ、ここまでたどり着いた。褒めてやるがががっ!

だが、このテッド・ブロイラーが生きている限り……

貴様をここから先へは行かせんぞ!』

 

《このギルファデスに生意気な口を……だが、お前の力は気に入った。余に付くがいい。

相応の地位を約束しよう》

 

『もうじき我らの主、バイアス・ブラド様は、不死の存在へと進化なさる!

いや、もう既に不死の存在になられたかもしれぬ!ふはははは!

そうなれば、このオレもブラド様から不死の体を授かるのだ!がががーっ!

邪魔はさせんぞ!我らに逆らう愚かな人間どもめ!

炎に包まれて死ぬがいい!このテッド・ブロイラー様が

遺伝子の欠片まで焼き尽くしてやるがががーっ!』

 

《貴様……!下手に出れば図に乗りおって!!

ジュデッカの果てで、永遠の後悔に塗れるが良い!》

 

微妙に噛み合ってない上に、意味不明だし、お互い上から目線の会話に、魔王がキレた。

しょうがないじゃない、ゲームのキャラなんだし。

ともかく最初から結末がわかっていた交渉は決裂。……戦闘開始!

 

即座に全員散開。あたしはドラグノフで、いかにも弱点っぽい腹の目玉を狙う。

7.62x54mmR弾を3発撃ち込んだ……んだけど、

弾頭が空中で急速にスピードを失い、そのまま地面に落ちた。

 

《ククク……どうした、その程度か》

 

「なによ!あからさまに狙ってくれって外見しといて、弱点詐欺よこれ!」

 

「ならば我が!うおおおっ!!」

 

シュワルツ将軍が、大剣で果敢に魔王に立ち向かう。

渾身の力で魔王の足に自慢の剣を叩きつける。刃物と鈍器の強さを持つ将軍の剣。

それが魔王の膝に命中。したと思ったんだけど、

奴の肉体に届く1cm手前で押し止められた。ちょっとこれ、どうなってんのよ!?

わけのわかんない状況に戸惑ってると、

お仕事モードのカシオピイアの声が聞こえてきた。

 

[皆さん、魔王は正体不明の力場に守られています!

このままでは、物理・魔法、あらゆる攻撃の威力が吸収されてしまいます!

力場を解除する方法を探して下さい!ワタシは、引き続き力場を分析致します!]

 

「力場ってバリア的なもの?探して下さいって言われてもねぇ。

テッド・ブロイラー、とりあえず、頼むわ」

 

『ががっ!!』

 

テッド・ブロイラーが、両手の火炎放射機から、火球を一発ずつ放つ。

ひりつくほど熱い風を巻き起こして、火球が魔王に向かって放たれる。2発とも命中。

でも、激しい炎を食らったはずの魔王は笑っている。炎もすぐに消えてしまった。

 

《弱き者が、あがく姿ほど面白きものはない!今度は余の力を見せてくれる!》

 

魔王がゴオオォ……と、深く息を吸い込むと、周辺の大気がビリビリと震える。

魔力をチャージすると、さっき撃った魔王の腹の目玉が不気味に光り、

一気に瞳孔が開いた。絶対何かやらかす気ね!

 

「魔王から遠距離にいる人はさらに後退!接近してる人は懐に飛び込んで!」

 

なんでそう判断したのかは未だにわからないけど、とにかくみんな即座に移動した。

直後、目玉がまばゆい光を放ち、巨大なレーザーで半円を描くように、

周囲を太いレーザーで薙ぎ払う。地面に伏せて回避できたけど、

真上を通過する時にすごい熱で髪が焦げた。

確かにオシャレには無頓着だけど、チリチリパーマになりたくもないのよ!

 

圧倒的な出力のレーザーをやり過ごすと、すぐさま立ち上がって状況確認。

うん、どうにか全員回避できたみたいね。地面はまだ焼けた鉄板みたいに熱いけど。

 

《ガハハハ!運が良かったな!では、これはどうかな?》

 

「調子こいてんじゃねえぞ、悪魔野郎!」

 

トライデントが、攻撃態勢に入る魔王に、

電気を帯びたチェーンブレードをムチのように叩きつけた。

しかし、パチパチと弾ける音がするだけで、やっぱりバリアに防がれる。

魔王が両腕をバッと広げると、4対。つまり8枚の翼が天を覆うほど大きく広がる。

 

気づくと、その闇の翼から、何かの大群が迫ってくる音が聞こえてくる。

次の瞬間、異次元から大型なコウモリが無数に飛来してきた。

その翼は魔王のものと同じく、鋭い刃になっている。今度は避けようがない。

さっきと同じように這いつくばるしかなかった。でもその時、あたしの前に大きな影が。

 

「リサ、そのまま頭を伏せるのだ。顔は女性の命であるぞ」

 

「将軍!?無茶をなさらないで!」

 

「なに、この鎧は飾りではない。守るのは自分自身だけではないということだ」

 

何か言おうとしたけど、あたし達に殺到してきたコウモリに遮られた。

シュワルツ将軍は顔の前で腕をクロスし、顔を防御する。

でも、その重厚な鎧は、銃弾のような速さと硬さと斬れ味を持つコウモリの群れに、

どんどん装甲を剥がされ、傷ついていく。

 

カバーしきれなかった部分を裂かれたのか、地面にポタポタと赤い雫が落ちる。

音叉を通じて、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。思わず砂を掴む。

ただ、悲鳴以外の連絡も入ってきた。この声は、カシオピイア?

 

[力場の分析が完了しました。

魔王の体から、魔界に生息する死霊バクテリアが検出されました。

どうやら魔王は、死霊バクテリアの吹き溜まりに、

長い年月を掛けてその身を浸すことで、体内で飼いならすことに成功したようです]

 

「その、なんとかバクテリアって何?」

 

[原理は分かっていませんが、形の有無を問わず、

あらゆるエネルギーを食い尽くす魔界生物です]

 

「う~ん。殺す方法とかって、ある?」

 

[死霊バクテリアは、聖属性であれば光を浴びただけで瞬時に分解されます。

何か、魔王の体全体に効く聖属性攻撃魔法があれば何とかなるのですが]

 

「聖属性?光属性じゃなくて?」

 

[光属性を更に発展させたのが聖属性です。

法王の血縁者でなければ使用不可ではありますが]

 

「そんなのエレオノーラしかいないじゃん……あの娘は、勇者の剣のために……」

 

万策尽きたと思ったあたしはゴロンと仰向けになる。

その時、いつもの感触を覚えて、ふと気がつく。

 

「ねえ、カシオピイア。聖属性じゃなくてもいいから、

とりあえず魔王全体をなんかで覆う方法ってないかしら」

 

[可能です。アクシス隊員に標的の群れを乱反射する矢を放つ能力者がいます]

 

「それで?」

 

[開戦当初、魔王に放たれた風のクリスタルの粒が、

彼の周辺を舞い散りながら、瘴気の噴出を防いでいます。それに彼女の矢を放てば]

 

「情報サンクス、ちょいといってくらあ!」

 

あたしは、パラディンのタワーシールドに守られているエレオノーラの元へ走り出した。

後ろを見ると、将軍の顔は血だらけだった。さっさとケリを付けないと!

 

「エレオー!お願い、すぐに来て!」

 

「里沙子さん!?」

 

パラディンのタワーシールドに何羽ものコウモリが突き刺さってる。

マヂで時間ないわね、泣けてくる。

 

「走りながら説明するわ!あなたじゃないと魔王のバリアを外せないの!

……ねえ、この娘連れてくわよ!?」

 

「……了解。死ぬな」

 

相変わらずプライバシー保護の声だし、素顔もわからないけど、なんとなくわかった。

彼は一緒にスナイパーと戦ったパラディン。無事で良かったけど、喜んでる暇はない。

事情がわからないけど、他に打開策もないパラディンは、

知り合いのあたしにエレオノーラを託してくれた。

あたしは彼女の手を引きながら、アクシス隊員の元へ走る。

道中、あたしの作戦という名の賭けを説明する。

 

「でも、それじゃ勇者の剣が!」

 

「大丈夫、手はある!それより、この方法は実行できるかしら!?」

 

「はい!単にわたしの魔力を注ぎ込むだけですから!」

 

二人共すっかり息切れ状態になりながら、アクシスと合流した。

カシオピイアが駆け寄ってくる。

 

「一体どうしたのですか、急に通信が切れてしまって」

 

「はぁ、はぁ、……さっき言ってた能力者の人、どこ?」

 

あたしはカシオピイアを始めとしたアクシス隊員達に、

今からやろうとしていることを改めて説明した。隊員のひとりが進み出る。

 

「それは私!必ず命中させて見せるわ!」

 

「お願いね。エレオノーラ、この人と協力して魔王を撃つの」

 

「わかりました!」

 

正確には別のものだけど、今はそんなことどうでもいい。

黒檀で作られたクロスボウを構えた隊員の手に、エレオノーラが手を添える。

 

「わたしは魔力を注ぐだけでいいのですね?」

 

「ええ、矢の具現化と発射は私がやる!絶対成功させましょう!」

 

「はい!では……」

 

エレオノーラがクロスボウに魔力を注ぐと、隊員がそれを矢の形に収束。

白く光る矢が現れると、とても小さな的に照準を合わせた。

潮風が吹き荒れる中、難しい射撃を成功させるべく、隊員が息を止める。

 

一瞬の静寂。チャンスが訪れた瞬間、彼女はトリガーを引いた。

クロスボウから放たれた聖なる矢が、白い尾を引きながら魔王に向かって突き進む。

それに気づいた魔王が、払いのけようとしたが、

矢は自分ではなく、真後ろに飛んでいった。

 

《ふん、外れか。阿呆め!》

 

いいえ。見事に命中したのよ、魔王さん。

スタート地点、つまり、彼の後ろに浮かんでいた、風のクリスタルの粒子に大当たり。

後の展開はお察しの通り。

アクシス隊員の反射矢が、魔王の回りに無数に舞う粒子を、次から次へと伝っていく。

聖なる光を放ちながら。

 

《なっ!なんだ!何事か!》

 

聖属性で輝きながら、魔王の周辺を猛スピードで飛び回るエレオノーラの矢。

風のクリスタルの粒子を経由しながら空を舞う。

光る軌道は、瞬く間に魔王を包み込み、

その光を浴びた、魔王に寄生している死霊バクテリアが死滅していく。

 

《やめろ!やめろおぉぉ!!》

 

魔王が必死になって矢を追いかけようとするけど、もう手遅れ。

彼は全身に聖なる光を浴びてしまった。

 

《おのれえええ!!余が300年掛けて構築した無敵の防護壁が!》

 

「なーにが防護壁なんだか。バイ菌飼ってただけじゃない。

……エレオノーラ、隊員さん。ありがとう。

これで遠慮なくあいつを集団リンチできるわ」

 

「やりました、里沙子さん!」

 

「これで魔王に攻撃が通るわね!」

 

あたしは音叉を取り出すと、大声で叫んだ。

 

[全員に業務連絡!

魔王を守っていたバリアが消えたので皆さん頑張って殺しましょう、以上!]

 

ふぅ、あとはこの娘を守りながら魔王を死亡寸前まで追い込むことね。

とことん弱らせないと、勇者の剣が届かないらしいわ。

 

「さ、エレオノーラ。行きましょう。もう怖がるものは何もないわ」

 

「はいっ!」

 

「では、ワタシ達も!」

 

もう散開してチマチマやる意味はない。

全員で一気に畳み掛けて、勇者の剣でぶった斬る。

ただそれだけのために、再び魔王の前まで舞い戻ったあたし達。

シュワルツ将軍は、乾いた血で顔を紅く染めながら、立ち上がって剣を執っていた。

致命傷じゃなかったみたいね。一安心したあたしは、魔王に一声掛けてやった。

 

「お久しぶりね。気分はどう?」

 

《貴様らあああ!!これで勝った気になるな!!》

 

あら怖い。でも、その体の色も、今となっちゃ青ざめてるようにしか見えないわよ。

そう言えばガミラス星人も、最初は地球人と同じ肌色だったわね。

昭和版の話よ。2199で後付け設定が生まれたけど。

さあ、そろそろ死んでいただこうかしら。

 

あたしは彼の大きな足に触れる。

退屈していた彼が、ニヤリと笑い、膝を突き、両腕で狙いを定めた。

ブロイラーボンベが駆動し、ホースを通じて、ドクドクと火炎放射機に燃料を供給。

時が満ち、ついに、テッド・ブロイラーは叫んだ!

 

『テッド・ファイヤー!がががっ!』

 

約20mある魔王の巨体を、グラップラー四天王が放つ猛烈な火炎が包み込む。

本気を出したテッド・ブロイラーが、

油田火災と見紛うほどの炎を悪魔の首領に叩きつける。

 

《ギャアアアアーーーアアアァ!!》

 

全身を食い破る激しい炎に、魔王が悲鳴を上げながら、みっともないほどジタバタして、

火を消そうと暴れまわる。

テッドの真後ろにいるけど凄い熱風ね。みんな蜘蛛の子を散らすように逃げちゃったし。

追撃を掛けたいけど、火が消えるのを待つしかなさそう。

普通に力尽きるかもしれないしね。

……あ!後ろの海に走って飛び込んだわ!卑怯者―。あんたの名前、明日から藤木君ね。

 

 

 

 

 

《はぁっ…はぁっ…何という屈辱!!》

 

魔王は体に回った火を消すために、ひたすら海を泳いでいた。

身体に浴びた特殊燃料を燃焼させた炎は、なかなか消えない。

この魔王が、斯様な醜態を晒すことになろうとは……!

ドブネズミの如く逃げ回る羽目になろうとは……!

塩水が熱傷を負った体に染みる。苦痛に耐えながら魔王は泳ぎ続ける。

 

だが、水をかく腕に鎖が飛んできてグルグルと巻き付く。

これは?と、異変に気づいた瞬間、高圧電流が全身を駆け巡り、

激痛と共に体中の筋肉という筋肉が痙攣する。

 

《あがががげああああ!!》

 

岸を見ると、人間の小僧が何かを持って、こちらに鎖を飛ばしていた。

 

「おいコラ、オッサン!逃げないで戦え!また電撃食らいてえかよ!こんな風にな!」

 

その直後、また稲妻が鎖を伝って、体に電流が流れる。

 

《ひぎえあああ!!》

 

耐え難い痛みに、もはやプライドもかなぐり捨て、

言われた通りに岸に向かって泳ぐ魔王。

なまじ初めから最強の存在として生まれた故に、

痛みに対する抵抗力が養われなかったのだろうか。

とにかく彼は必死に戦場へ戻ることしか考えていなかった。

 

 

 

 

 

あ、帰ってきた帰ってきた。魔王が海水浴を終えて岸に上がってきたわ。

よっぽど電撃ビリビリが効いたみたい。あたしはトライデントに音叉で呼びかけた。

 

「ありがと。君は本当に頼りになるのね。

二十歳になったら、姉さんお礼にエール奢っちゃう」

 

[うっせ!尊敬してんなら領主様って呼べ!チビ女!]

 

「スコッチの香りを楽しみにしてて。一旦切るわ。やることあるから。ばいなら~」

 

あたしは音叉をしまうと、左脇ホルスターからCentury Arms M100を抜き、

半死半生の魔王腹部、つまり巨大な目玉に狙いを付け、トリガーを引いた。

火薬の詰まった大型弾の銃声が轟く。ど真ん中にヒット。

充血しきった眼球が、45-70ガバメント弾で破裂する。

こいつで敵を撃つのは久しぶりね。

弱点詐欺した罰よ。あたしは結構根に持つタイプなの。

 

《はがっ……げはああぁぁ!!》

 

弾けた眼球から大量出血する。それをきっかけに、みんなが総攻撃を開始。

パラディンが、タワーシールドを手裏剣みたいにして、力任せにぶん投げる。

巨大な回転刃が魔王の右腕を斬り飛ばす。

 

《ギャアッ!はっ!?馬鹿な!余の、余の腕があぁ!!》

 

腕をなくしたショックと痛みにパニックを起こす魔王。

もう戦える状態じゃないけど、攻撃は受け続けてもらうわ。

次は見慣れた背中が前に出た。

 

「先程の意趣返しをさせてもらおう。

……陰る月、照らす月、某が身に受けし光を我が剣に!問答無用!一閃万火!」

 

将軍が呪文を詠唱すると、彼の剣が燃え上がり、周囲を熱風が薙いだ。

彼は一瞬精神を統一すると、目を見開き、魔王に向けて剣を振りかざす。

その剣閃は、三日月のような炎に変わり、巨大化しつつ魔王へと飛んでいった。

まるで燃える月のような炎の魔法剣が命中。魔王は再びその身を焼かれることになった。

 

《あがっ、ぐるああああ!!》

 

叫び声を上げる力も弱くなってきてる。最後も近いわね。あたしは準備を始めなきゃ。

 

「ねえ、エレオノーラ」

 

「はい」

 

ミニッツリピーターを外して、エレオノーラの首にかける。

 

「えっ!これは、里沙子さんの金時計ですよね。どうして……?」

 

「さっき光の矢で消費した魔力の補充。竜頭を2回連続で押して」

 

「こう、でしょうか」

 

彼女がカチカチと竜頭を押すと、ブルーの針が逆回転を始める。足りるといいんだけど。

 

「すごい……体に魔力が満ちていきます」

 

針はまだ止まらない。お願い、1回でいいの。あたしのマナで足りてちょうだい。

祈る気持ちで待っていると、針の回転スピードが急激に落ちて、

文字盤の12直前で止まった。よっしゃ、完璧。

 

このやり取りの間も、アクシスから集中攻撃を受けたり、

ヴェロニカの毒霧魔法で体力の殆どを奪われた魔王は、ほぼ死にかけていた。

死なないのは、奴のコアは勇者の剣でなければ破壊できないから。

なら、やることはあと一つ。

あたしはエレオノーラと手をつないで、横たわる魔王に向き合った。

なぜか奴は海に向かって這いずっている。

 

「止まれ、オッサン。また電撃食らわすぞー」

 

《撤退、しなければ……ゲートで、魔界に……》

 

「非常にまずい状況です。

魔王はどこかに隠し持った魔力で魔界に逃げようとしています、はい」

 

ヴェロニカの言葉に皆が焦る。魔王が、残った左手の人差し指で、宙を差す。

すると、時空が歪んで、ぼんやりとゲートの向こう側、灰色の世界が見えてきた。

 

「エレオノーラ、最後の仕上げよ。できる?」

 

「もちろんです!」

 

彼女は、勇者ランパードの剣の欠片を取り出し、握りしめた。

エレオノーラの聖なる力に呼応して、欠片が光り始めた。

 

“やべえ!ゲートが開くぞ!”

“爪に塗ったマニキュアです!粉末状にした魔石が練り込まれて……”

“もう一撃加えれば!”

“駄目です!開いてしまえばゲート自身が魔王を吸い込みます!”

 

みんなが魔王を取り逃がすことを心配して慌ててるけど、あたしはこの娘を信じてる。

 

「聞いて。今からクロノスハックであなたを魔王の前まで運ぶ。

死にかけとは言え、次の瞬間には目の前に魔王がいる。

それでも冷静に勇者の剣を発動して、奴のコアをぶった斬る。……やってくれるわね?」

 

「はい……わたしも、里沙子さんを信じています!」

 

“駄目だ、もうゲートが開く!”

“そんな!これまでに払った犠牲は!?”

 

「……じゃあ、行くわよ」

 

「いつでも!」

 

 

──クロノスハック!

 

 

この世界はあたしのもの。

色が反転した世界で、目の前の女の子をお姫様抱っこして、海岸に向かう。

いくらこの娘が軽くても、余計な肉体的負荷がかかれば、

停止可能時間は劇的に減少する。

時間がない。時間止めといて言うのもなんだけど。

砂浜を踏みしめ、徹底的に痛めつけられた、今や名ばかりの魔王を目指す。

 

呼吸が苦しくなってきた。もう安全停止時間はとっくに過ぎてる。どうでもいい。

時計を預けっぱなしにしといて正解だった。

強制的に能力解除されてたら、この作戦は失敗だったわ。

今度ダクタイルに時計のリミッターを外してもらわなきゃ。

骨がきしむ。前だけ見なさい。あと5歩。4歩。3歩。2歩。

……エレオノーラをゆっくりと下ろし、能力解除。同時にあたしはその場に倒れ込む。

 

「……はああぁ!!」

 

見上げると、真っ白な修道服を着た少女が、

天を衝くほど長い、真っ白に輝くエネルギーの束、つまり伝説の勇者の剣を手にし、

 

《や、やめろおおおお!!》

 

「てやあああっ!!」

 

魔王を一刀両断する姿だった。やったじゃない、エレオノーラ。

この面倒くさい旅もようやく終わり。あなたのおかげよ。

少し疲れたあたしは、ちょっと眠らせてもらうことにした。勝手にまぶたが下りてきた。

……じゃあ、おやすみなさい。

 

 

 

 

 

……ん、だあれ?もうちょっと寝かせといて欲しいんだけど。誰かがあたしを呼ぶ。

わかったわよ、起きるから耳元で叫ぶのは勘弁して。

 

「……さん、里沙子さん!」

 

目を開くと、必死にあたしに呼びかけるエレオノーラ。

どうしちゃったのよ、そんなに目真っ赤にして。

 

「よかった、目を覚ましてくれて!わたし、もう駄目かと……!」

 

今度はあたしに思い切り抱きつく。

あたしは大事な仕事をやり遂げてくれた彼女の頭を、くしゃっと撫でる。

首を動かして、魔王の死骸を確認する。

うん。輪郭さえ見えないほど、どこまでも黒いコアが綺麗に真っ二つにされてて、

日光を浴びても全く反射すらしない。

そろそろ起きようかしらね。いたた。無茶しすぎたみたい。明日は筋肉痛だわ。

 

「あー、ごめ。あたしどれくらい寝てた?」

 

「30分ほど。

里沙子さん、呼吸も止まってて、皆さんの回復魔法でもどうにもならなくて。

……でも、皇帝陛下の蘇生魔法で息を吹き返してくれたんです」

 

「皇帝陛下?」

 

なんで皇帝?と思った時、後ろからいつもの声が聞こえてきた。

 

「うむ。我輩のミスリルで打たれた鎧を媒体に発動する蘇生魔法。

死亡して1時間以内なら蘇生可能である。

……里沙子嬢、此度は何も力になれず、貴女に無理をさせて済まなかった」

 

「あたた、とんでもない。司令官が前線に出て、どうするんですか。

それに、死んでたわたくしを……っとと!」

 

「ああ、無理をするでない!……おや?」

 

皇帝につられて皆が魔王の死骸を見ると、骨だけになった魔王が光り輝き、

何故か消滅しないコアの残骸を残して、骨が微粒子になって空に舞った。

勇者の剣を浴びて、聖属性に変換された魔王の身体が、

ホワイトデゼール全土に降り注ぐ。

それは、命なき大地に舞い落ちると、すうっと地面に吸い込まれていく。

 

「あはは、綺麗ね。季節外れの雪みたい」

 

実際それは、ほんの1時間前まで魔王だったとは思えないほど、

美しく儚げなものだった。雪のような粒子が地面に落ちる度に不思議なことが起きる。

岩と砂しかなかった大地に、柔らかな土が生まれ、

早くも小さな芽すらポツポツと生えている。

 

「これは……」

 

「魔王が絶命したことによって穢れが取り払われ、

聖属性の一撃を浴びて清らかな肥やしとなった骸が、

この地に命を与えているのでしょう」

 

驚く皇帝陛下に、律儀に説明するエレオノーラ。

 

「もう、この地は不毛の荒野などではなく、新たな始まりの地なのだな」

 

「そのようですわね。

……エレオ、そろそろ帰りましょう。“神の見えざる手”、お願いできるかしら」

 

あ、馬鹿な事を言ったことに、口に出してから気づいた。

フルパワーで魔力使った後だっての。

 

「気にしないでください、大丈夫です!

さっきアクシスの方に分けていただいたエーテルを飲んだので、

全員を転送する魔力は十分にあります!」

 

「そ、そう……」

 

時々この娘、あたしの心読んでる気が。っていうか、そんな便利なもんあるなら、

20万G払って金時計改造しなくてもよかったんじゃ……

 

「もっとも、抽出に時間と多額の資金が必要なので、大量生産はできないそうですが」

 

うん。読んでるわね。この娘の前で下手なこと考えるのはよそう。

エレオのバーカバーカ。

 

「お借りした金時計、いらないようなので叩き潰しておきますね」

 

「ウソですごめんなさいすみませんでした」

 

馬鹿なやり取りを眺める皆から笑い声。

いつの間にやら、辺り一面は緑の生い茂る草原に。

ホワイトデゼールの地名が過去のものになり、

誰かが誰かにその由来を昔話として語る日も遠くないでしょうね。まぁ、そんなわけで。

 

「皆さん、お手をおつなぎになってください」

 

「あっと、流石にテッド・ブロイラーはもういないわね」

 

「あいつなら、マドの町に行くとか訳わかんねえこと言って消えちまったぜ」

 

「ハンターがいないから最初からやり直すことにしたわけね。

ごめんなさい、待たせちゃって。エレオノーラ、お願い」

 

「はい。では、皆さん。これ程の大規模転移は初めてです。心を一つに」

 

皆が目を閉じ集中する。エレオノーラが詠唱を始める。あたし達の身体が光に包まれる。

身体の重さが限りなくゼロになる。

空に放り出されたような浮遊感がしばらく続くと、意識の中に閃光が走った。

気づいた時には身体の異変は治まり、ゆっくり目を開けると見慣れた光景。

大聖堂教会前の広場だった。

 

 

 

 

 

一週間後。

あの日、帝都に到着した後、皆はそれぞれ帰るべきところに帰っていった。

流石にエレオノーラに“神の見えざる手”2連発させるのはキツいから、

あたしとルーベルは、彼女の言葉に甘えて、教会の客室で一泊させてもらうことにした。

 

でも、聖堂に入った瞬間、神官や信者達の割れんばかりの拍手。

気持ちはありがたいけど、頭痛いからマヂ勘弁。

知らないやつから握手を求められ、大声でねぎらいの言葉を浴びせられ、肩を叩かれ、

全然前に進めない。

客室に通された時には、疲労困憊で、ベッドに身を投げると即、眠りについた。

今度こそ死ぬんじゃないかと思うくらい疲れた。

しんどい思いはこれで最後だと思いたい。

 

そんで。体力の戻ったエレオノーラと、まぁ、いつものボロ教会に戻ってきて、

今日の朝食を取ってるわけなんだけど。みんな何も言わない。

ジョゼットが新聞受けから新聞を取って戻ってきた。

椅子に座ると、沈黙を破るため、気持ち大きめの声で見出しを読み上げる。

食事中よ後になさい。いつもなら、そう言うんだけど。

 

「すごいですね~どの紙面も魔王討伐のニュースばかりです~

 

“帝国軍圧勝、人類と魔王の戦いに終止符を打つ!”

“1000年以上に渡る戦いに幕!”

“エレオノーラ様の次期法王就任に早くも期待が高まる”

“戦死者28名。皇帝陛下、法王猊下、共に哀悼の意を表する”

 

でも、どこにも里沙子さんとルーベルさんのことが書いてません。

どうして隠してるんでしょう……」

 

「隠してるんじゃなくて、伏せてくれてるの。イエスさん騒ぎを思い出しなさいな。

また悪目立ちしたら、今度こそ教会がパンクする」

 

「あ、そうですね」

 

療養のために留まってるって形にはなってるけど、

そろそろ約束通り答えを出さなきゃね。ベーコンエッグを切るナイフを止める。

同時に皆が何かを察して、ダイニングがしんとなる。

 

「……ジョゼット、あのね」

 

「はい……」

 

ルーベルは黙って聞いている。

 

「あたし、やっぱり──」

 

言いかけた言葉は金切り声に遮られた。全員がギョッとなる。まさか……!

 

 

──キャアア!ここが里沙子のハウスね!里沙子!ピア子よ!こっち、向いてえぇ!!

──ピア子シャラップ!近所迷惑でしょ!あ、この辺家なんかないか!アハハ!

 

 

あたしは文字通り頭を抱えた。なんであの娘がここにいるのよ!

間もなく玄関のドアを叩く音が聞こえてきた。状況を飲み込めない3人があたしを見る。

 

「知り合いよ。悲しいことに。それはそうと、あたし、

人は時としてハリネズミ的な付き合い方を選ばなきゃいけないときがあると思うの。

離れすぎても寂しいし、近づきすぎると傷つけ合う。

あたしは生まれつき針の長いハリネズミであって、人と触れ合うことが苦手だからこそ、

自由という名の……」

 

「現実から逃げんな。行ってこい」

 

血も涙もないルーベルにダイニングから追い出され、渋々聖堂のドアに向かう。

 

「答え分かってるけど一応聞くわ。誰!!」

 

“マリーさんだよ~今日はリサっちにサプライズゲストを連れてきたんだ。知りたい?”

 

「分かってるって言ってるでしょう!さっさと、入れえぇ!!」

 

やけくそ気味にドアを開ける。予想はしてたけど、涙が出るような光景が。

いつもの私服姿のマリーと、

身体を縛られた○○モードのカシオピイアがなだれ込んできた。

意味がわからない。帝都の兵士がなんでこんなとこに?

 

「……状況説明」

 

恨みがましい目でマリーに吐き捨てる。お構いなしに彼女は続ける。

カシオピイアが目を見開いてあたしに飛びかかろうとするけど、

マリーがうまく抑えてる。

さすがに彼女の奇声に異常を察知したのか、3人が食事を中断して聖堂に入ってきた。

 

「ハハ、ちょっと待ってよ……ピア子、ステイ!ステイだからね!

ええと、皇帝陛下からの届け物があってさ」

 

「届け物?」

 

「まずはこれね」

 

マリーがいかにも重たそうな袋を差し出してきた。やっぱり軍人ね。力持ち。

あたしはバランスを崩しそうになりながら、なんとか両手で受け取った。

床に置いて中身を確認すると、目もくらむほどの大量の金貨。

後ろのみんなも恐る恐る覗き込む。

 

「ワオ、これいくらなの?なんであたしに?」

 

「大金です~」

 

「おいおい、今度はどんな金儲け考えたんだ?」

 

「まあ。お金がたくさん」

 

「アハ、魔王討伐の報奨金に決まってんじゃ~ん。

形だけとはいえ、元々奴は賞金首でもあったからね。

ま、ひとりで倒したわけじゃないから満額支給とは行かなかったけど、

100万G入ってるよん」

 

「素敵な贈り物ありがとう!そのまま回れ右して帰ってくれるともっと嬉しい!」

 

「ダメダメ。そいつを受け取るには条件があるんだな~ほら、ピア子。

リサっちに渡すものがあるんでしょう。はじめてのおつかいだよ~」

 

「うふ、うふ、里沙子、ワタシ、仲間、届けるの。アハ、ウフフ……」

 

「ちょと!マリー何やってんの!その子の拘束を解くんじゃない!

開けてはならないパンドラの箱よ!」

 

マリーはあたしの声を無視してカシオピイアの縄を解く。

案の定、きちんとした軍服姿の美女が、理性のタガが外れた様子であたしにじゃれつく。

3人共彼女の姿にドン引きした様子。

エレオノーラの半笑いを見られたことだけが唯一の報酬かしら!?

 

「カシオピイア、会いたかった!里沙子、仲間あぁ!!」

 

「ほらステイ!おつかい忘れちゃだめでしょーが」

 

調教師の一声で一時的に大人しくなった。

しぶしぶ抱きついていた、あたしから離れて、一通の手紙を差し出す。

もう、くしゃくしゃじゃない。

 

「う、ふふ……里沙子、ラブレター?……だめー!里沙子、ピア子のォ!」

 

いちいち大声でないと喋れないピア子をあしらいながら封を切る。

 

「うちにそんな洒落たもん来るわけないでしょう。

赤報隊の犯行声明のほうがまだ可能性あるわ。どれどれ……」

 

 

“前略。里沙子嬢、我輩である。

元気でいてくれることを信じて文を送る。我輩は戦後処理に忙殺されているところだ。

サラマンダラス帝国の為に尽くしてくれた貴女の献身は、

いくら感謝の言葉を口にしても労い切れない。

ミドルファンタジアを魔王の呪縛を解き放ってくれた、

アースの勇者に心から敬意を表する。だが、残念ながら、その事を知る者は僅かである。

自白すると、我輩が貴女達に関して情報統制を敷いた。

事が公になれば、貴女とご友人の平穏な生活が脅かされると考えた我輩の独断である。

どうか許して欲しい”

 

願ったり叶ったりよ。有象無象が押しかけてきたら、このボロ屋が倒壊する。

ここって多分耐用年数過ぎてるけど、

見たら信じなきゃいけないから、調査は依頼してない。

 

“お詫びと言ってはなんだが、マリーに報奨金を持たせた。

貴女の功績には見合わぬと理解しているが、収めて欲しい。遠慮は不要。

魔王の死骸から残ったコアの正体は、千年闇晶という、

莫大な値が付く魔界の鉱物であった。

帝国の財政立て直しに大いに役立ってくれよう”

 

やっぱりモンスターは殺されて金落としてなんぼよね。

兵器の大量生産にだーいぶ金使っちゃったみたいだから、どうなることかと思ったけど、

大恐慌が避けられてなにより。……ん?なんか続きの文章に不気味な印象が。

 

“さて、マリーと共にカシオピイアもそちらを訪ねていると思う。

兵士から聞いたのだが、貴女は一度暴走状態の彼女を大人しくさせたとか。

カシオピイアの癖の強さは貴女も知るところである。そこでだ。

彼女が自分を制御できるように、助けてやってはくれないだろうか。

彼女は暴走癖に目を瞑れば非常に優秀な女性だ。

このまま入退場の管理人にしておくには、あまりに惜しい。

有事の際にはまともになるものの、確実性が乏しい。どうか助けて欲しい。

あと……報奨金には、彼女の生活費も含まれておる。

もし、既に金貨を受け取ったなら、自動的に彼女の世話を焼く義務が発生する。

以上、健闘を祈る。

 

敬具

 

147代目皇帝、ジークフリート・ライヘンバッハ

 

追伸 済まない。悪い。許せ。ごめん。マジで by皇帝”

 

 

手紙を持つ手が震える。カシオピイアが、無言で後ろから抱きついてくる。

でも、今はどうでもいい。あたしは、力の限り、叫んだ!

 

──あの、クソ親父いいぃ!!

 

なんで、あたしばっかりこんな目に……後ろで不安げにあたしを見つめるジョゼット達。

バツが悪いったらありゃしない。

 

「ねえ、ジョゼット。今更こんな事言いにくいんだけどさ。

その、あたし、この娘の面倒見なきゃだし、やっぱり罪は罪だと思うわけよ。

この教会で、その償いっていうか懺悔っていうか、

それっぽいことさせてくれないかなって思うのよ。……駄目?」

 

「里沙子さん……!!」

 

ジョゼットがあたしの胸に飛び込んできた。

もう、この娘ったら……その柔らかなブロンドを優しく撫でる。

 

「オチが見えてる真似はよしなさいな」

 

「ひぎいいぃ!!ピア子も、カシオピイアも、ナデナデ!里沙子、ワタシの!」

 

見てよみんな。この作品にしちゃ、わりと感動的なシーンもこの有様よ。

カシオピイアに頭をぐしゃぐしゃにされながら、深い深い嘆息を漏らす。

この長々とした旅は、あたしの嘆きで幕を閉じた。

 

……ん、ピア子が来る前のあたしの答えは何だったのかって?ご想像にお任せするわ。

話したところでこの状況がどうにかなるわけじゃないんだし!

 

 

 

 

 

──魔城 ヘル・ドラード 私室

 

 

深淵魔女は、やることもなく私室で寛いでいた。

その時、カラスがバサバサと次元を超えて、テーブルに止まった。

 

「どうしたの?」

 

カラスは、見た目にはただ首を動かしたり、魔女を見つめたりしているだけだが、

彼女はそれだけでミドルファンタジアの情報を受け取った。

 

「あらあら、ギルファデスのおじさま殺されちゃったの?

……寂しいけれど、しょうがないわね」

 

魔女は、少しだけ指先に魔力を集める。

すると、一枚の紙が現れ、彼女はそれを手に取る。

 

「う~ん、賞金を更新しなきゃいけないけど、もうお金じゃ釣り合わないわね。

賞品を何にしようか、いつも悩むのよね」

 

彼女は羽ペンで、手配書の賞金を二重線で消した。頭を悩ませながら独り言を漏らす。

 

「でも彼女……」

 

二重線の下に希少な魔道具を書き込みながら、呟く。

 

「私も会いたくなっちゃった」

 

 

Risako the Unknown

 

Award : Castle of Gilfadeth & 100 Shadow Crystals

 

 


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