面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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昔、赤い羽根募金に協力したら貰える羽根の先端は針だったの。子供心に危ないもん配んなと思ったものよ。

“心拍、更に低下!”

 

“電気ショック用意”

 

“用意できました!”

 

“全員離れてー。3,2,1!” (ショック音)

 

“心拍は?”

 

“再鼓動せず……ゼロです”

 

“……18時25分。ご家族の方は?”

 

“待合室にいらっしゃいます” (駆け寄ってくる足音。しばらくしてドアが開く)

 

“困ります!ここは関係者以外立入禁止で!”

 

“お願いです、その子を諦めないで下さい!”

 

“……親御さんですか?”

 

“違います!でも、お願いします、私の血を使って下さい!そうすれば、まだ……”

 

“**さん、病室に戻りましょうね?”

 

“私の血なら助かるはずなんです!説明になってないのはわかっています!

でも、その子なら、きっと!”

 

“……血液型は?”

 

“先生!?”

 

“O型です!”

 

“再度蘇生を試みる。輸血にご協力下さい”

 

“はい!ありがとうございます!”

 

 

昨日酒場でピア子が発作起こして、大して飲めなかったから、

部屋で宅飲みしてたらついつい飲みすぎちゃったわ。頭痛が酷いし、変な夢まで見る。

一話前のタイトルで自分を戒めたはずなのに。

やめたくてもやめられない、まさに未成熟。

あたしは這いずるようにベッドから床にこぼれ落ちる。

 

「うえーん、あたまいたいよー」

 

ジョゼットみたいな情けない声を出しながら、

クローゼットに向かってほふく前進していると、更に追い打ちを掛ける出来事が。

ドアに遠慮なく体当たりを繰り返す大きな音。アルコールが残った頭にガンガン響く。

 

「あがががが……!頭が!」

 

そのうち体当たりの効果が無いと見るや、ドアノブを乱暴にガチャガチャする。

やめて、この教会、玄関以外はガチでボロなの。

鍵掛けといて助かったけど、クロックタワーでもあるまいし、

なんで自分ちで逃げ隠れしなきゃいけないのよ……

 

“里沙子おぉ!!ピア子よ!ここを開けてええ!おはようのハグして!”

 

「ぜつぼうは、あまい罠……」

 

思わず口に出るほどの絶望。こんくらいなら規約に引っかからないわよね?

ちなみに、ロックオンが生き返った経緯は未だによく知らない。

なんとなく2期目はスルーしちゃったのよね。

ともかく、これほど部屋のドアが頼もしいと思ったことはないわ。

 

しばらく無視していると、大人しくなった。

ホッとしながら立ち上がり、パジャマから着替えようとしたその時、

ドアノブからカリカリという不穏な音が。

まさか!と、思うと同時に鍵が開き、紫の影が体当たりをぶちかましてきた。

 

「ぐほっ!」

 

「会いたかったー!里沙子、ピア子を抱きしめてえぇぇ!」

 

軍隊じゃピッキングまで習うわけ!?

解錠に使ったと思われる、曲がったヘアピンを放り出して、

あたしに両腕を回して締め上げるピア子。

彼女は相変わらずあたしに顔をこすり付けて嬉しそうだけど、こっちは苦しい!

思わず弱々しく助けを呼ぶ。

 

「ああ、ルーベルや。哀れなババアを助けておくれ」

 

“うるさい!午前中ずっとピア子の世話で、もうクタクタなんだよ!

昼までピア子放ったらかしといた罰だ!今回は自分でなんとかしろ!”

 

「この薄情者―!あたた……」

 

今度は大声出したから頭に響いた。しょうがないわね、いつものアレやりますか。

何とか身をよじって右腕を解放し、彼女の喉を撫でる。

 

「んんっ?んー……」

 

やっぱり拘束が少し弱まる。仕上げに背中のアクリル板にタッチ。

これ、名前があった気がするんだけど、

今の脳は情報の入出力機能が極端に低下してて思い出せない。

 

ようやくピア子からカシオピイアに戻った彼女が、やっぱり記憶喪失っぽい感じで、

あたしを解放しながらキョロキョロする。

やがて、自分がまたやらかした事に気づいた彼女が、暗い表情でつぶやく。

 

「ごめんなさい……ワタシ、また……」

 

「いいのよ、あと1週間くらいで血液検査の結果が出るんだし。

アンプリの先生とやらを信じましょう。

とりあえず着替えるからエレオ達のところへいってらっしゃい」

 

「はい……」

 

カシオピイアはしょぼくれた様子であたしの部屋を出ていった。

あたしは着替えを済ませて三つ編みを編んだら、とにかく洗面所で顔を洗って歯を磨く。

ちなみにあたしは朝食前に歯を磨く派なんだけど、みんなはどうよ?

 

食べ終わった直後に磨くと、食べカスが歯ブラシにくっつくし、

寝てる間に粘ついた口もスッキリするから、起きたらすぐに歯磨きしてる。

よし、身支度バッチリ、ジョゼットに変質者扱いされずに済むわ。

あたしは多分みんながいるダイニングに、ふらふら足を運んだ。

 

「みんなー、おはよー。ジョゼット、ご飯はいらないからジョッキに水を沢山注いで。

アルコールの分解には水分が必要」

 

「何かお腹に入れないと身体に毒ですよ。トースト焼きますから食べて下さい」

 

「情けねえな。大の大人が潰れるまで飲むんじゃねえ。飲み方ってもんを覚えろ」

 

「一旦ブーストかかると止まらなくなるのよ、アハハ」

 

「酒は百薬の長と言いますが、飲み過ぎはやはり身体に負担をかけます。

量を決めて飲んではどうですか」

 

「ごめん。あればあるだけ飲んじゃうの。ウフフ」

 

「いちいち笑うんじゃねえって。まだ酔ってんのか?」

 

「今から気合い入れてアセトアルデヒドを分解するからちょっと待って」

 

あたしはルーベルやエレオノーラと雑談しながら、

ジョゼットが入れてくれた水を一気飲みする。

これ全部、ワインだったら、いいのにな。里沙子酔いどれ川柳。

 

やだわ、二日酔い中にこんな事考えるようになったらアル中に片足突っ込んでるわね。

少し禁酒してみましょう。トーストをかじりながら反省する。

途中、気になってた事を思い出した。

 

「エレオ、昨日のけしからん本はちゃんと処分した?」

 

彼女が帝都のどっかから集めたヤンデレに関する書籍諸々。

ヤンデレってのはとどのつまり、社会の繁栄と引き換えに失われた、

他人と接する機会を求めて、寂しさをこじらせた女の精神的疾患よ。

あたしは心療内科が必要なのはこっちだと思う。

 

現代日本とは違って、

まだ人同士の繋がりが濃いミドルファンタジアでは、必要ない概念よ。

例え娯楽だとしても。説教臭くて悪いわね。まだ酒が回ってるみたい。

 

「はい。本を捨てるのはいささか抵抗があったので、危険物として軍に提出しました」

 

「お金は後で払う。知らないほうがいい事もあるのよ、世の中には」

 

「それはお気になさらず。事情を説明したら、軍が代金を支払ってくれましたから。

それにしても、アースからはいろんな物事が流れ着くものですね。

何十年も昔のものを中心に、宗教、武器、技術。

これらを礎に今後もこの世界は発展していくのでしょう」

 

「なんか東の方のシューティングゲームみたいな設定ね。

誓って言うけど、パクったわけじゃないわ。

昔は毎作追いかけてたけど、ノーコンクリアできない下手くそなのに、

買い続けることが虚しくなって、ダ○ルスポイラーを最後に引退したの。

たまにメ○ンブックスで本を見るけど、

キャラが増えすぎてもう訳がわからないって言ってたわ」

 

「何の話ですか?」

 

ジョゼットが2杯目の水を置きながら尋ねる。

かじったトーストを大量の水で流し込んで答えた。

 

「この世界を構築するシステムについて語ってたのよ。

確かに大抵の場合、アースで廃れたものや、

大量に生産されて抱えきれなくなったものが流れてくることが多い感じがするわ。

ちょっと間口の広い幻○郷って感じね。

この件に関しては、これ以上触れると一部の狂信者が、

報復0点評価入れてきそうだからここまでにしとくけど」

 

「う~ん、やっぱり里沙子さんの話って時々難しいです……」

 

「ああ、どうってことないのよ。ただ、向こうの娯楽だから知らないだけ。

蓋を開けると、ただの玩具よ。さて……カシオピイアはどこかしら」

 

「聖堂でしょげてるぜ。行ってやれよ」

 

「そうするわ。ルーベルにも苦労かけてるわね。……ありがと」

 

「べ、別に。私は自分のやることやってるだけだ」

 

「ふふ、照れちゃって」

 

「うるせえ!もう行けよ!」

 

軽い食事を取りながら雑談していると、段々頭痛も抜けてきた。

あたしは流しに皿とジョッキを置くと、聖堂に向かった。

カシオピイアが何をするでもなく、長椅子に座ってうつむいてる。

 

「隣、いい?」

 

彼女が一度だけうなずく。

 

「さっきのことなら気にすることないわよ。もうみんな慣れっこだし。

そういやあたしも、物語開始当初は、

他人がそばにいるだけでイライラが爆発寸前だったけど、今となってはこんな大所帯。

誰かと同じ屋根の下で寝ることなんて考えられなかったのに」

 

「でも……みんなに、迷惑……」

 

「んああ、いいのよ。どうせここにいるやつは、エレオ以外、暇な連中ばっかなんだし。

あんたの癖を治すのに付き合わせてやったほうが有意義ってもんよ」

 

“聞こえてんぞー”

 

「お願い、見捨てないで……」

 

「情けないこと言わないの。皇帝陛下からもらうもんはもらってんだし、

そんな小さくなってないで、もっとのびのび堂々としてりゃいいのよ。

ほれ、こんな風に」

 

あたしは両足を前の長椅子に乗せた。う~ん、楽チン。

 

「あんたもやってみなさいな。男いないからパンツ気にしなくてもいいし」

 

「でも……」

 

「一度やると病みつきよ。ジョゼットが見たら怒るだろうけど。ふふっ」

 

“え!?聖堂で何してるんですか!”

 

「あらま。ここの喋り声はダイニングまで丸聞こえみたいね」

 

慌てた様子のジョゼットの足音が近づいてくる。

どんな怒り方するのか、若干楽しみにしながら足を組み直すと、

玄関をノックする音が聞こえた。ちぇっ。

足を下ろさざるを得なくなったあたしは、まだ新しい木の香りがするドアに近づいた。

 

「誰?ミサは日曜限定よ」

 

“ここをお開けなさい。斑目里沙子に用があるの!”

 

「開けるわけないでしょ。せめて名乗りなさいな」

 

“このユーディ・エル・トライジルヴァに指図するとは何様のつもりですの!?

いいからお開けなさい!”

 

「用件を言え、アホ」

 

“まあ、なんてことを!田舎者は高貴な者への口の効き方も知らないのね!

とにかく出ていらっしゃい!”

 

さっそく面倒事の臭いがプンプンする。カシオピイアや他のメンバーも集まってくる。

 

“トライジルヴァ家の力があれば、こんなボロ教会今すぐ取り潰しにできましてよ!”

 

お取り潰しねえ。思わず苦笑いが出る。

ちょうどすることもなかったし、ちょっとこのバカをつついて見ましょうか。

鍵を外してドアを開ける。

 

真っ白な日傘を差して、やっぱり白のドレスを着た女が、しかめっ面で立ってた。

栗毛のショートカットをカールにしてて、歳は……あたしと同じくらいかしら?

顔は色白でちょいカワってとこ。小さなそばかすがアクセントね。

後ろには執事らしき、黒のスーツに身を包んだ初老の男性が控えてる。

 

「なに、何の用?」

 

「先日、弟が世話になった礼をしにきましたの!

よくも名門貴族の顔に泥を塗ってくれましたわね!」

 

先日?ああ、アルティメットカードバトラー(笑)の家族か。

カシオピイアを見る。彼女も気づいたみたい。少しうなずいた。

 

「何かと思えば、金貨1枚の賞金首の家族?

普通こういう時は、謝りに来るのが筋なんだけど、

逆ギレしてアポ無しで家に押しかけるとか、どういう教育受けたんだか。

貴族だかなんだか知らないけど、はっきり言ってあんたの存在自体が恥だから、

とっととお家に帰って部屋にこもって鍵かけて永久に一人じゃんけんやってなさい」

 

少し大げさに挑発してみる。なんだか面白いことになりそう。

 

「この平民風情が……!爺や、言っておやりなさい!」

 

そしたら、執事が一歩前に出て演説を始めた。

 

「オホン。南の果てに住む君達が知らないのも無理はないがね、

口を慎んだほうが身のためというものですぞ。

この方は、トライジルヴァ家長女、ユーディお嬢様でいらっしゃいます。

先祖代々に渡って、皇帝陛下よりホワイトデゼール監視の任を命ぜられた、

由緒正しき名門家。まだご長男のシグマお坊ちゃまが幼い故、

ユーディお嬢様が当家を取り仕切っておられます。

……身の程をわきまえた振る舞いをしたほうが君達のためですぞ」

 

思わず失笑が漏れる。皇帝陛下ねぇ。多分その中途半端なコネが後々首を締めると思う。

 

「要するに、魔王が死んで無職になった成金が、八つ当たりしにきたっていうわけね」

 

「なんですって!口の効き方に気をつけろという、爺やの忠告が聞こえなかったの!?」

 

「無礼者!お坊ちゃんに手を挙げただけでは飽き足らず、お嬢様にまで汚い言葉を!

これだから礼儀作法のなっていない平民は!」

 

頭に血が上ったユーディと執事が叫ぶ。あたしは無視して後ろのルーベルに問う。

 

「ねえ、ルーベル。ホワイトデゼールは北の方よね。

北って言ったら、あんたの故郷に近いけど、トライなんとかって聞いたことある?」

 

「あー……ログヒルズの横にある、ちっさい領地に、

そんな貴族がいたようないなかったような」

 

「物知らずもここまで来ると哀れですわ!

ログヒルズ領東、スノーロード領の80%の土地を所有する大地主。

領主ですら政治的判断を下す時は、私の顔色をうかがいに来るというのに」

 

だんだん飽きてきたから、ささっと用件を済ませて追い返すことにした。

 

「あんたは結局何しに来たわけ?

確かに暇だけど、このやり取りもそろそろ退屈になってきた」

 

「まずは、そこに手をついてお謝りなさいな。

弟に手を上げたこと。私に対する数々の暴言について!」

 

「マジでやると思ってんなら脳にウジが湧いてるわよ。

で、拒否したらどうするつもり?」

 

「反逆罪の容疑でこの教会を取り潰します」

 

「縁もゆかりもない領地にあんたの権限が及ぶとでも?」

 

「爺や、こやつらに再教育を」

 

長くて覚えられない名前の貴族が、執事っぽい者に続きを喋らせる。

そう言えば、貴族って設定があること自体完全に忘れてた。

最後に聞いたのは確か……イグニール領のドワーフからだったかしら。

 

「かしこまりました。……君達は、人の話を聞いていなかったのかね?

トライジルヴァ家は、長きに渡って皇帝陛下直々の命を受け、

その任務を全うしてきた、並の貴族とは歴史も風格も品格も異にする名門家!

このようなボロ屋敷、皇帝陛下に一言申し上げれば、今日中にでもこの国から……」

 

「では、聞いてみてくださいな。お・じ・さ・ま」

 

「えっ?」

 

あたしは金時計を眺めながら言った。

もうWordで6000字近く行ってるから、ダラダラやってると読者の方がうんざりする。

……あら、カシオピイアどこ行くの?奥に引っ込んじゃった。

 

「皇帝陛下に今のやり取りを伝えて、彼が取り潰すべきと判断したなら、

火を放つなり解体するなりしてくださいな」

 

「……最後の警告ですぞ。お嬢様に」

 

「いるんですよね。貴族やら、やんごとなき方の親族を騙って金をせびる輩が。

……あなた方が同類ではないという保証が必要ですの」

 

「なんですって!?爺や、この女を死ぬほど後悔させてやって!」

 

「はい、只今!……ええい、なんだこんな時に!」

 

執事の胸ポケット辺りがブルブル震えて、彼がそこからケースを取り出す。

ケースから抜き取った1枚のカードに、

図形化した電波のようなホログラフが浮かんでる。

あと、遊○王みたいに、カード自体にもなんかの象徴的なイラストが描かれてるわね。

二人の人物がテレパシーを送り合ってるような絵。それに向かって執事が詠唱する。

 

「万物に告ぐ、彼の者の言の葉、遮ることなく、我が手に届け給え!

……誰かね、こんな時に!」

 

『久しいな、ベルグマン。我輩である。そこで、何をしているのかね』

 

「ええっ!?皇帝陛下でいらっしゃいますか!お久しゅうございます!

はい、実はあの……」

 

なによ、携帯みたいなのあるんじゃない。

通話の相手が皇帝陛下と知って、カードに頭を下げながら喋りだす執事。

お嬢も一気に青くなって様子を見てる。

 

「……というわけでありまして、一時的に皇帝陛下の権限をお借りして、

この不心得者共の巣窟を一層したく!」

 

『君は、そこがどういう場所か知っているのかね』

 

「はい?」

 

『ただの教会などではない。

サラマンダラス要塞が擁する、特殊部隊アクシスの訓練施設でもある。

今は1名だけであるが、既に隊員が常駐している』

 

「えっ!?」

 

執事がドアに目をやると、いつの間にかあたしの隣にカシオピイアが戻っていた。

その手には魔王との戦いで使った小さな音叉。んふふ、GJよ。

 

『何を考えているのかは知らんが、

我輩も帝国も将来的な部隊編成を踏まえて、その教会を維持している。

やめてくれたまえ』

 

そして、カードに浮かんだ紋様が消え、一方的に通話が切れた。

二人がカードを見つめたまま固まってるから、あたしの方から声を掛けた。

 

「どうすんの。あんた達の夢は潰えたわけだけど、

このまま帰るか、皇帝陛下に楯突くか、好きな方選びなさい」

 

ユーディがブルブル震えながら、ようやく叫ぶように声を上げた。

 

「何よ!こんな教会がなんだといいますの!?

これからの時代、宗教なんて古臭いもの、廃れていくに決まってますわ!

土地も資産も歴史もある、私達貴族が政治の中枢を担っていきますのよ!」

 

別段気分を害した様子もなく、ぼんやり聞いていたルーベルが腑に落ちない様子で呟く。

 

「でもよう、今の状況見ると、

魔王討伐の快挙を成した帝国軍には入隊志願者が殺到してるし、

教会の方も入信者の増加傾向が止まらないって新聞に書いてあったぜ?

どっちかって言うと、貴族のほうが落ち目っていうか」

 

「なっ……!落ち目ですって!?」

 

「私、ログヒルズ出身なんだが、多分あんたの屋敷見たことあるぜ。

確かに立派だったけど、みんな言ってた。

“何やってるかわからない”、“あそこには幽霊が出る”、“実は住人全員集団自殺”、

とか。もうちょっと地元の人とコミュニケーション取ったほうがいいんじゃね?」

 

「馬鹿おっしゃい!なぜ私が平民などと!」

 

「わかったわかった。お前は落ち目なんかじゃない。私が保証する」

 

ルーベル。天然で死体蹴りするのはやめてあげなさい。面白いけど。

お、ユーディの雰囲気が変わった。面倒くさいから回避したい。

 

「……爺や、本を」

 

「只今」

 

ベルグマンという名前が判明した執事が、

アルバムみたいに分厚い本を馬車から持ってきて、彼女に手渡す。

 

「……斑目里沙子、貴女に決闘を申し込む。命が惜しければ、カードを渡しなさい」

 

ユーディがアルバムを開いて手を差し出す。カードって言ってもねえ。

 

「ごめん。遊戯王カードなら持ってない。

実家にしまってあると思うんだけど、あたしアース出身なのよね。

ガンバライドならキラのゼロノス持ってるんだけど」

 

「黙らっしゃい!!」

 

おおっ!今までのヒラヒラした雰囲気とは違って覇気がある。

ただの頭の軽い女だと思ってたけど、やる時にはやるみたい。

でも、あいにく他のカードには縁がないの。

 

「そんなにカードが欲しいなら、鏡に向かって神崎士郎にお願いしなさい。

頑張ればSURVIVE貰えるかもね。カニが当たったらご愁傷様だけど」

 

十分暇を潰したあたしが聖堂に戻ろうとした時、やっぱり。

 

「逃げることは許しません!」

 

……どうやら、おふざけはここまでね。あたしはユーディに向き合って再度問う。

 

「本当にカードなんて知らないの。そもそもカードなんて何に使うの?」

 

「私に勝ったら教えて差し上げます。爺や、準備はいい?」

 

「いつでも!」

 

「斑目里沙子。あなたの銃の腕前は調査済みですが、

なんでも銃で解決できるとは思わない方がよろしくてよ。

私が勝ったら、あなたが隠し持っている情報全てを差し出すと誓いなさい。

弟とは違って、私のモンスター達は実体を持つ本物。命を捨てる覚悟でいらっしゃい」

 

「……そんなこと、あたし自身が一番知ってる。

いいわ。あんたが勝ったら何でも言うこと聞いてあげる。抜きなさい、あんたの武器。

みんな、下がってて」

 

全員、聖堂の中に避難する。

それを確認したら、あたしも思考をクリアにしてその時を待つ。

 

 

──いざ尋常に!カード・オープン!!

 

 

ユーディが大きな本からカードを1枚ドロー。指先からカードに魔力を込める。

 

「召喚、“懲役280年のガロット刑”!」

 

椅子に縛り付けられ、首を金具で締め付けられた、おぞましいモンスターが出現。

 

『ぐ、ぐえええ……コロス……』

 

確かに、シグマの偽物とは違って殺気を放ってる。

続いてベルグマンも携帯用カードケースから1枚ドロー。

 

「リンクカード、“嘘の五三八”発動!

名前に数字が含まれるモンスターの攻撃力を1ターン倍に……」

 

「はい、残念。二人共、銃を突きつけられてることくらい分かるわよね?」

 

「なっ!」

 

「どう、して……?」

 

目の前にいた女が気づいたら後ろにいて、殺意を抱えた銃を背中に向けている。

ユーディもベルグマンも何が起きたかわからず、動けない。

 

「今度こそ選んで。去るか、死ぬか」

 

「何をしたというの!?」

 

「クロノスハック。あたしはそう呼んでる。

体感時間をほぼ停止させて、自分だけがその世界を自由に動く能力」

 

「それで……!魔王を屠ったというの!?」

 

「う~ん、大きな戦力にはなったのは間違いないけど、

魔王を倒したのは、そこの白い方のシスター」

 

顎でエレオノーラを差すと、ドアから様子をうかがっていた彼女が静かに微笑んだ。

 

「で、では、あのお嬢様が、次期法王のエレオノーラ・オデュッセウス様ですと!?」

 

「そーいうこと。で、どうすんの?

帝国最大宗教の総本山、並びにこの国の政治、軍事、全てを敵に回すか、

それとも大人しくサレンダーするか」

 

ユーディは、何も言わずに本をパタンと閉じた。

 

「お嬢様!」

 

「いいの、ベルグマン。貴族がみっともなくあがくものではないわ。

……さあ、斑目里沙子。勝負はあなたの勝ち。煮るなり焼くなり好きになさい」

 

「……玄関先で死なれても困るのよね。ちょっと、話を聞かせてちょうだいな」

 

そして、聖堂の長椅子を動かして、全員が向かい合って話せるようにすると、

ユーディ達に話を聞いた。

ベルグマンは彼女の後ろに立って控えている。お茶を勧めたが遠慮された。

ユーディは紅茶を手に、少しずつ話を始めた。

 

「……そう。さっき、そこのオートマトンが言っていた通り、

アースの技術で急速に発展していく世界の中で、時代遅れなのは貴族の方……

かつては政治や軍事にも、中枢にはいつも私達の姿がありましたの。でも、今は昔。

見た目は華やかかも知れないけど、

実際は時々帝都の企業や要塞から委託を受けて、内職のような仕事で食いつなぐだけ」

 

「う~ん、それと、カードに何の関係があるの?

っていうか、そもそもあたし、さっき言ったオモチャのカードしか持ってないわよ?」

 

「そんなはずありませんわ!当家の偵察員が確かに見たと言っていましたの!

貴女が不思議なカードを発動し、巨大な鶏の怪物を召喚して、

上級悪魔や魔王を焼き尽くしていく様を!」

 

あー、全部に得心が行ったわ。芸術の女神マーブルからもらった魔法のカード。

そこに描いたテッド・ブロイラーが大暴れする様子を目撃したってわけね。

っていうか見てたなら手伝いなさいよ。それはいいとして、どうしたものかしらねぇ。

いくらヘッポコ神様とは言え、変な連中を連れて押しかけるのはちょっと気が引けるし。

 

「……仮に、仮によ?あたしがそんなカードを持ってたとして、

あんた達はそれを手に入れてどうしたかったわけ?」

 

「それほど強大なカードがあれば、

再びトライジルヴァ家は帝国の軍事力としての力を示すことができる。

……いえ、それは建前ですわね。本当は、符術士一族の名誉を回復したかったの」

 

「お嬢様!」

 

「いいの!もう私達のことを卑怯者と覚えてくれてる人すらいないんだから。

第一次北砂大戦のことはご存知?」

 

「ええ。一回目の魔王の襲撃。

帝国兵何十万の犠牲が出て、勇者の剣でその場しのぎはできたとか」

 

「そのとおりですわ。でも、その物語には歴史に記されていない悲劇がありますの」

 

「隠れた物語ってなんだ?」

 

わかってるだろうけど、これ以上はやめてあげてね?ルーベル。

 

「その大戦には、先程見せたような、

カードに封じられた多様な力を開放する能力者、“符術士”達も参加していましたの。

でも、背後から敵軍の奇襲を受けた符呪士達は、散り散りになり、

後方から援護する予定だった、帝国軍本隊との合流が遅れ、彼らを見殺しにする結果に。

……そして、戦後私達は、命惜しさに逃げ出した卑怯者と、

国中から罵られるようになりましたの。

顔を見れば石を投げられる、食べ物を売ってもらえない、家を借してもらえない。

そんな境遇の中、流浪の旅を続け、長い年月の中で符術士の一族は、

その力と正体を隠しながら帝国中に散っていきましたの」

 

……あたしは話を聞きながら考える。全部で何人かしら。

 

「私は、同族としてそんな彼らを助けたい。貴族である前に、一人の符術士として。

偶然金持ちになれた私達はいい。

でも、ほとんどの符術士の末裔は哀れな生活を送っている。

だから……第二次北砂大戦で、

私達の歴史の中でも見たことのないようなカードの情報を聞いた時、

チャンスだと思った。弟の事も、貴族のプライドも、あなたに近づくための口実。

シグマは反省するまで納屋に閉じ込めてあるし、

夢が叶うなら、貴族の名を捨ててもいい」

 

「お嬢様……」

 

や~ね。あの娘に借りを作るの嫌なんだけど。これまでの仕返しに何要求されるか。

 

「……ユーディって言ったっけ?」

 

「何かしら……」

 

「あたしが使ったカードの正体、教えてあげる。エレオノーラ、お願いできるかしら」

 

「もちろんです!」

 

 

 

 

 

あの後、あたし達は手をつないで輪になり、エレオノーラの“神の見えざる手で”、

大聖堂教会前にワープした。通行人達がちらっと見るけど、散々見て慣れたのか、

特に騒ぎ立てることなく歩いていく。

 

「むむっ!ここは、帝都ですぞ!お嬢様!」

 

「これが、聖女の力なのね……」

 

「驚くことないでしょう。ちゃんと帝都に行くって言ったじゃない」

 

「どうやら、田舎者は爺やの方だったようでありますな……はぁ」

 

「気にしないの。世界は広いってことよ。さあ、みんな行きましょう」

 

大所帯のパーティーを引き連れて、あたしは目的地に向かう。

そう言えばしばらく顔見せてないわね。迷わないといいんだけど。

そんな事を考えながら、途中、ある店の前で後ろに声を掛ける。

 

「ねえ!みんな少し待っててもらえるかしら。必要なものがあるの!」

 

「何かカードの材料でも必要ですの?」

 

「ここが画材屋に見える?とにかくちょっと待ってて!」

 

あたしが店に入ると、みんなが首を傾げた。

要るものを要るだけ買うと、足早に店を出る。

 

「ごめ、お待たせ。行きましょうか」

 

「それが必要なものですの?」

 

「そう。もうあの娘とは貸し借りなしだから、一応ね」

 

再び歩き出したあたし達は、大通りから外れた路地を進んで、

街路樹やむき出しの崖が目立つエリアに入った。

ああ、よかった。道、忘れてなかったわ。

帝都は広いから、酔いが残ったままうろつくと、確実に迷う。

 

「ねえ、里沙子。あなたにカードを授けた存在って、どんな方ですの?」

 

「実際会った方がわかりやすいわ。ただのファッションオタクよ。

色々疑問はあるだろうけど、本人がいなきゃどうにもならないわ」

 

「そう……?」

 

喋りながらも歩き続ける。おー、見えてきた見えてきた。

素材が違うだけで、うちの教会と同じくボロい建築物。

あたし達は、その屋敷のドアの前に立つ。そこに小さな看板が掛けられていた。

 

“絵画教室 本日お休み”

 

まったく、前にも言ったけど、貧乏でしかも暇な癖に平日休んでんじゃないわよ。

とにかくドアをノックする。トントン。

 

「おるかー?」

 

“ああ、ごめんなさい!燃焼マナA式の料金は春まで待って下さ~い。お願いお願い!”

 

「あたしよ、里沙子。ちょっと相談したいことがあるの」

 

“え!里沙子ちゃん!?待って。今、開けるわねー”

 

ドアを開けると、マーブルと久しぶりの再会。

確か、具体的にクロノスハックの存在を指摘されて以来だから、1月は軽く超えてる。

相変わらず無駄に凝った服装。ちゃんと着回してるんでしょうね。

 

「いらっしゃーい。あらあら、お客さんが沢山。

そちらの方たちは、はじめましてですね」

 

「うん、ちょっとこの二人の事で相談したくてさ。今、いい?あ、これお土産」

 

あたしはさっきの店で買った手土産をマーブルに渡す。

中身を見たマーブルが軽くジャンプした。よしなさいよ、子供じゃあるまいし。

 

「これは!ちょっとどころか、かなりお高いケーキ店、パティシエール・スメラギの

“こだわりイチゴショート”!里沙子ちゃんって、本当は優しい子だったのねぇ!

マーブル感激!」

 

「ケーキひとつでみっともないわね。とりあえず、中入っていい?」

 

「もちろんよ!皆さんどうぞ!」

 

「……失礼致しますわ」

 

「失敬」

 

美術館でもあり神殿でもある内部を珍しそうに見渡しながら、

ユーディとベルグマンが入ると、後のメンバーも付いてきた。

マーブルは神殿の隅にある応接スペースを片付けている。

忙しく片付けを終えると、奥の居住区に入って行った。

向かい合わせの大きめソファがテーブルを挟んで並ぶ。

キッチンからマーブルの声が聞こえた。

 

“今、お茶入れますから~”

 

「手伝うわ」

 

「あの……私は?」

 

“どうぞ座っててください。お客さんですから”

 

“それより、今度はおじさまも座ってくださる?

みんな座ってる中、一人だけノッポが立ってると落ち着きませんから”

 

「う、うむ……」

 

10分後。全員ソファに着いてテーブルにさっきのケーキと、よく合う紅茶が並んだ。

コーヒー派の人もいるかもしれないけど、一度に沢山作った方が早かったの。

まずいわけじゃないから我慢して。マーブルがさっそくフォークでケーキを口に運ぶ。

 

「ん~!シンプルな見た目だけど、新鮮なイチゴと甘すぎない生クリームが、

上品な香りと口溶けを生み出してる!

さり気なく散らしたホワイトチョコも高ポイント!」

 

「だから、ケーキひとつではしゃぎすぎなのよ。

はぁ、この分じゃ食べ終わるまで話は無理ね」

 

とは言え、ケーキが美味かったのは間違いないから、

結局あたし達も先にケーキを平らげた。

 

「あー、ごちそうさま。こんな贅沢久しぶり……」

 

「何、あんたまた貧乏なの?

やっぱり公共料金滞納してたみたいだし、一体何に使ってるんだか」

 

「今度は、ちゃんとした出費が重なった結果なのよ?

画材が古くなって丸ごと買い替えたの」

 

「で、一番高かったのは?」

 

「春物のブラウスが私を誘ってきて……」

 

「もういいわ。死ぬまでモヤシ食ってなさい。

こっちの用件済ませたいんだけど、いいかしら」

 

「えーと、それじゃあ、愛の献金箱に100Gを……」

 

「今食ったケーキがちょうど100Gよ。グッドタイミングね」

 

「しょぼーん」

 

アホ丸出しの会話で二人を待たせるのは流石に悪いから、強引に用件を切り出した。

以前もらった、一度だけ好きなものを一時間実体化させるカードの性質。

それが量産可能かどうか。永続的に使用可能にはならないか、の3点。

 

「うん、そうね。里沙子ちゃんの言う通り、あれは一度限りの効果なの」

 

「そうですの……」

 

「量産化も難しいわね。カードに封じたのは私に集まった信仰の力。

まだまだ力の弱い私には、何枚も作るなんてできない。

同じ理由で効果を永続させることもできないわ」

 

「信仰の力?」

 

「やだ、私ったらごめんなさい!ケーキに夢中で自己紹介が遅れたわ!

私は芸術の女神マーブル。

この神殿で芸術家を志す人間達に加護を与えたり、絵画教室を開いたり」

 

「神様!?ウソでしょう?」

 

「なんと!」

 

「残念ながら本当よ。

あと、さっきも言ったけど、ファッションオタクで金にだらしない女」

 

「やっぱり里沙子ちゃんひどい!」

 

「ひどくない!全部事実!

それより、せめてこの二人が新しくカードを作る方法とかはないの」

 

「んっ?ピコーン、ひらめきました!みんな、ちょっと待っててね」

 

マーブルは立ち上がると、自室件寝室へ飛び込んでいった。

あの汚い部屋になんかめぼしいもんあったかしら?

少しぬるくなった紅茶を一口飲んで考える。

しばらく待つと、ドタドタとマーブルが何かを抱えて戻ってきた。

テーブルに広げられた大量の白紙のカード。

 

「何よこれ、これが何?」

 

意味不明な物体を目にして、思わず左右対称っぽい聞き方になる。

マーブルが息を切らせながら、説明を始めた。

 

「ふぅ、ええっと、これはね?里沙子ちゃんにあげたカードと同じものなんだけど、

信仰の力が入ってないの。このままじゃ絵を描いても発動できない。

でも、人間が魔力を注ぎ込めば、同じ効果が得られるの!

しかも魔力を再充填すれば何度でも使えるお役立ち!」

 

「マジ!?すごいじゃない!あんたもやればできるのね!」

 

「では、このブランクカードがあれば、新たな力を手に……」

 

「やりましたな、お嬢様!」

 

「でも待って」

 

マーブルがいきなり佇まいを変えて、二人に語りかける。

……あたしがクロノスハックを覚えたての時に見せた、あの表情。

 

「カードに描くものは慎重に考えてね。

仮にモンスターを召喚したいなら、自分が手に負えるものにすること。

いざとなったら精神力で縛り上げられるような強さに留めて。

強すぎるモンスターはあなたに襲いかかって、命や心を奪う。魔法のカードもそう。

オービタル島を吹き飛ばすような爆発魔法を作ったら、使用した瞬間、

起動に必要な魔力やマナを根こそぎ吸い取られて、枯れ木のようなミイラになる。

過ぎた力は身を滅ぼす。世の常ですね」

 

二人共、黙って彼女の話に聞き入っている。が、次の瞬間には元のマーブルに戻って、

 

「まあ、それさえ気をつけてくれれば問題ナッシン!

カードは全部持って行っていいわよ~素敵なカードを作ってね!」

 

「ありがとう、女神様……私、必ず人の役に立つカードを使って、

符術士の汚名を雪いで、きっといつか、みんなで暮らせるように頑張りますわ」

 

「ありがとうございました。芸術の女神マーブルよ。

私も、お嬢様の力となり、符術士の一族を絶やさぬよう、努力致します」

 

深々と頭を下げるユーディとベルグマン。その時、急にマーブルがまたはしゃぎだした。

 

「あっ!今、私に信仰心が届いたわ!

もらっちゃった、もらっちゃった~二人の信仰心もらっちゃった~」

 

「曲がりなりにも客の前で恥かかせないで。ジャンクにするわよ」

 

「コホン、とにかくそういうことだから。

あなた達に良いインスピレーションがありますように」

 

下手くそなりにも神様らしく締めたマーブル。

用の済んだあたし達は、ぞろぞろと彼女の神殿を後にする。

最後になったあたしが出ようとすると、袖を摘まれた。

マーブルが子犬のような目であたしを見てくる。

 

「私、二人の幸せ、願ってる……」

 

「うっさいわね、わかってるわよ!ほら、カード代!今度こそ生活費だけに使うのよ?」

 

あたしはマーブルに金貨3枚を握らせた。

 

「ありがとー里沙子ちゃん!あなたにも良きインスピレーションが……」

 

「いらないわよ!絵画なんて面倒くさい作業、誰がやるかっての!」

 

「しょぼーん」

 

で、大聖堂教会の前に戻って、

再度エレオノーラの術で自宅の教会にワープしたあたし達。

太陽が夕日に変わろうとしている。馬車の前でユーディとベルグマンが別れを告げる。

 

「里沙子……今日は、本当にごめんなさい。私達、ただ必死でしたの。

貴族としての立場を守り、符術士再興の責務を果たさなければならない。

その思いだけで、こんな真似を……」

 

「どうか、お嬢様を責めないでください。

全ての責任は、別の選択肢を提示できなかった、私にあります」

 

「あー、いいのいいの。実害はなかったし、久しぶりに帝都行けたし、

何より済んだことでウダウダやるのが面倒だから」

 

「私達はこれで失礼致しますけど……

もし、符術士に出会うことがあれば、伝えていただけるかしら。

スノーロード領のトライジルヴァ家があなたを待ってる、と」

 

「伝えとく。あんたも元気でね」

 

「さようなら……」

 

高級だけど、ところどころ傷んでる馬車が走り去っていく。カードで戦う流浪の民、か。

見つかったら路銀くらいは渡しときましょう。

さあ、ケーキ食べたからご飯はもう少し後でいいわ。

私室に戻ろうとしたら、カシオピイアが近づいてきて、音叉を渡してきた。

手にとって問いかける。

 

「だあれ?」

 

『我輩である。貴女と話すのは久しぶりであるな』

 

「皇帝陛下!?あの、今日はお忙しいところ……」

 

『ああ、構わん。カシオピイアが世話になっていることであるし、

貴女の教会は何かとトラブルが多いことで有名であるからな』

 

「あー……お恥ずかしいですわ」

 

『しかし今回の件、

長年の付き合いであるトライジルヴァ家が、斯様に困窮しているとは知らなんだ。

我輩にも責任はある。

今後は豊かな土地となった、ホワイトデゼールの管理を任せることにしよう』

 

「お心遣い感謝致します」

 

『いや、貴女の尽力の賜物である。では、これから会議があるので今日は失礼する』

 

鳴り止んだ音叉をカシオピイアに返した。

今回は鉄砲撃たずに済んだし、痛い思いもしなかったし、こんなもんだと思うわよ?

色々あったけど、今日学んだことは、酒は飲みすぎるとやっぱり毒ってこと。

 

 

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