あたしの名前でググったら、この企画のレビューが引っかかったの。落第点じゃなかったけど、課題もあったわ。好き放題に書いてるからどうしても方向性がね。
桜都連合皇国 私立小児がんケアセンター“きぼう”
夜も更けた頃、黒塗りの高級車が、とある病院の職員用駐車場に止まる。
かつて軍事用だった雷撃魔法陣を、
大気中のマナを自動的に魔力に変換して蓄積するオリハルコンに彫り込む事によって、
燃料不要のモーターの動力源にし、
排ガスもエンジン音もほとんどない最新型電動自動車にすることに成功した。
ただ、あまりに高価なため、まだ一般市場に出回ってはいない。
駐車場の白線内に停止すると、二人の人物が降車した。
その最新式電気自動車に乗る彼らは、
幼くして癌を患った子供たちが入所する、小児がんケアセンターを尋ねる。
一人は桜都連合皇国首相、パルフェム・キサラギ。
そして彼女の秘書、シノブ・ミコシバ。
ミコシバが裏の通用口のインターホンを押すと、
優しく、それでいて、よく響く音が鳴る。
同時に、奥から急ぎ足でセンター長が駆けつけ、電子ロックを解除し、
二人を迎え入れた。
若干興奮気味のセンター長が二人を中に通すと、
最低限の明かりが点けられている広いロビーに通す。
そこでは大勢の職員が彼女達の来訪を待ちわびていた。
彼らもパルフェムの到着を待ちきれない様子だった。
「本日は首相自らお越しいただき、誠に光栄です!」
センター長が代表で歓迎の意を述べる。
「とんでもありません。
お忙しい中いきなり電話一本で押しかけて、恐縮すべきはこちらですわ、センター長」
二人共、患者を起こさないよう控えめな声で挨拶を交わす。
「職員一同、首相の到着を楽しみにしておりました」
「わたくしも皆様とお目にかかれて、感激ですわ。
日夜、病に苦しむ子供達を心身ともにサポートする、
尊い仕事をなさっている方々がいらっしゃると聞いて、
居ても立ってもいられなくなってしまいました。
……あの、こちらは皆様の活動のほんの手助けになれば嬉しいのですが、
是非お納めください。ミコシバ?」
「はっ」
秘書はアタッシュケースから、ふくさに包まれた、紙の束を取り出した。
見た目だけで重さが伝わってくるそれを、センター長に手渡す。
どう見ても、大量の紙幣。
それを受け取ったセンター長は、少しよろけながら、パルフェムに何度も頭を下げる。
「ありがとうございます、ありがとうございます!
恥ずかしながら、当センターの資金繰りは決して良好とは言えない状況でして」
「いいえ。安価な入所費で親御さんの負担をできるだけ抑え、
子供たちの支えになっている皆様にはとても敬服しますわ。
……ちなみに、それはわたくしの個人資産ですので、
無用な心配はなさらないでくださいね」
「あなたは本当に立派な方だ!次回の国民選挙でも必ず……」
「お待ちになって。今夜の件に関しては、ここだけの話になさってください。
投票先の判断を揺るがすことのないよう、できればお忘れになって。
不幸な子供たちを支持率のネタにすることは、わたくしにとって不本意なことですから」
その言葉に感銘を受けた職員たちから、ため息が漏れる。
「……わかりました。余計なことを申し上げました、お許しください。
それでは、少し施設をご覧になって行かれますか?」
「う~ん、せっかくですが、遠慮しておきますわ。
夜の病棟は足音が響きます。子供たちを起こしてもいけませんし」
「はい、かしこまりました。では、外までお送りさせてください」
「お手数をおかけします。
職員のみなさんも、大変かと思われますが、陰ながら応援しております。
今宵はこれで失礼致します」
パルフェムが小さく手を振ると、職員たちも、音を立てずに拍手をして彼女を見送る。
センター長が車の側までパルフェム達を見送ると、彼女達は車に乗り込み、
ミコシバがエンジンキーを回す。
車が動き出すと、パルフェムはセンター長に笑顔で手を振りながら、
医療センターを後にした。都会のイルミネーションが輝く3車線道路に出ると、
パルフェムは一仕事終えた、という様子でひとつ息をついた。
「ふぅ、志は立派ですけど、見切り発車が過ぎますわね、あそこは。
寄付金だけであの規模の医療機関を維持しようというのは無理がありましてよ。
まずは安定した収入源を確保しなければ、どんな大義も成り立ちませんわ」
「……よろしかったのですか?票集めなら、より効率的な方法を私がご提案しますが」
「わかってませんわね。人は“言うな”と言われれば逆に言いたくなるもの。
神国党の支持基盤のひとつであるこのエリアは、
早いうちに押さえておく必要がありますの。
選挙が始まれば寄付行為も公職選挙法違反になりますからねぇ。
……ふあぁ、少し疲れましたわ。今、何時?」
「9時を回ったところです」
「そう、ありがと……ん?ちょっと待って、皇国で夜の9時ということは、
あそこはお昼ね。ミコシバ、わたくしは直接家に帰ります。車は入れておいて」
パルフェムは帯から扇子を抜き、バッと広げた。秘書はため息をつく。
「……1日でお戻りくださいね。週明けのお仕事に障りますので」
「わかってますわ。総理にも息抜きが必要ですの」
彼女はいたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべて、一句詠んだ。
──枯れすすき 駆ける先には 貴女の背
詠み終えると、もうルームミラーに彼女の姿はなかった。全く困った首相だ。
ミコシバは彼女の気まぐれに悩まされながら、自宅の方角へハンドルを切った。
「あのね、どうしても聞きたいことがあるの」
あたしは玄関先に座りながら、やる気なく二人に問いかける。あら、足元に蟻さんの列。
こいつらも蟻さんみたいに小さかったら遠慮なく踏み潰せるのに。
「参りなさい!モンスターカード“千本刀のからくり武者”!」
『クカカカカ!』
「ねえ、聞いてる?」
「そんな攻撃が通ると思ってるの?
“動けないモンスタートラック”を守備表示で召喚!」
ドォン!
「オホホ、こちらにフィールドカード“機械工場”があるのをお忘れかしら!
場の効果で、からくり武者の攻撃力が……」
「聞きなさいって言ってんのよ!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたあたしが、空に向けてピースメーカーをぶっ放す。
銃声が轟くと、さすがのアホ二人も驚いてカードごっこの手を止める。
「あんたらね、何でわざわざ人んちの前で、
ドンドンバリバリやらなきゃ気が済まないのよ、毎日毎日!
一個領地挟んで隣同士なんだから、ホワイトデゼールでやりゃあいいでしょうが!」
「立会人が必要だからに決まってるじゃありませんの。
わたし達に新たなカードを与えたあなたの公平で平等な審判がね!」
ユーディがあたしにカードを見せつけながら、不退去罪を無視する屁理屈を垂れ流す。
あたしにそんなもん見せられても意味ないのよ!
「そうよ、今日にも私達の因縁に決着が着くっていうのに!
あの女の手垢が着いた土地で決闘なんてできっこない!」
パルカローレのその言葉には何度も裏切られた。
「それ言い出してから何日経つと思ってるの!
言っとくけど、寝床貸すのも飯を提供するのも今日が最後だからね!?」
「無責任だわ!大体寝床って言っても聖堂の長椅子だし、
食事だって安物のフランスパンと、ちっとも味がしない玉ねぎスープだけじゃない!
審判として求められる義務を果たしてないわ!」
とんでもねえ図々しさに頭を抱える。こいつらがまたも襲来したのは一週間前。
いつか、いがみ合ってる両者に、別々の方法でカードをくれてやったのは事実だけど、
ここまで世話してやる義理なんかない。
それがいきなり押しかけてくるなり、“決闘を見届けて!”だもんね。
それだけなら、と油断してたあたしも迂闊だったけどさ。
毎回カードか魔力切れになって、引き分けになったかと思うと、
当然のように教会に上がり込んで、
横になってグースカ寝るし、腹が減ったら飯を要求する。
一度はルーベルに叩き出してもらったんだけど、
幽霊みたいに窓ガラスに張り付いて壁をバシバシ叩いて、
“寒いですわー”“魔力がなくて帰れなーい”を連呼。
ピーネの教育上よろしくないから一晩だけ泊めてやったのが運の尽き。
こうして7日間飽きもせずうちの前でカードごっこしてる。
奴らにとっては譲れない何かがあるんだろうけど、
あたしとしては一日中ガンバライジングに金をつぎ込む方が有意義だと思うがどうか。
あ、一回プレイしたら後ろのお友達に代わるのよ?
一応ピーネに関しては、
誰かに喋ったらカード取り上げて全部燃やすって警告はしてある。
「パルカローレ。安物だろうが味が薄かろうが、
恵んでもらえるだけありがたいと思いなさい。
あと、あたしの祖国の京都ってところに、いつまでも帰らない客に、
さっさと失せろという意味で、ぶぶ漬けって軽食を出す文化があるんだけど、
玉ねぎスープがそれに該当すると思ってもらって構わない。
いつもはちゃんと味のついたスープを出してるんだけど、
ジョゼットに命じてあんたらの分は特別薄く作らせてるのよ」
「陰険よ!帰ってほしいなら帰れって……」
「何回言ったと思ってんの!京都の人に言わせりゃ、あんたらのほうが“空気読め”よ!
それに、ユーディ!」
「なんですの?何かわたしに落ち度でも」
「ありすぎて困ってる。ねえ、あなたそのドレス何日洗ってないの?
パルカローレには洗濯機貸してるけど、全然使ってる様子ないわよね?
はっきり言ってほしいなら言うけどさ、あなた、臭いわ」
「く、臭い?名門貴族のデルタステップ家長女に対して、臭いですって!?
くんくん……うっ!仕方ないじゃありませんの!
このシルクのドレスはデリケートで、お宅の乱暴な電動式洋服洗浄機や、
固い洗濯板では洗えませんのよ?」
「だったらいつもはどうしてるのよ」
「メイド長の婆やが30℃のぬるま湯で優しく手洗いを」
「もう帰れ、二人共。
大の大人が仕事ほっぽらかしてカード遊びとか、馬鹿なんじゃないの」
「馬鹿ですって!?仕事ならちゃんと爺やに任せてますわ!」
「失礼ね!私もちゃんと秘書に一任してるわ!」
「それはね、仕事じゃなくて、丸投げっていうのよ!!マジで帰ってくんないかしら!?
これ以上居座るなら、尻にM100ぶっ刺して、
ロケット花火みたいにホワイトデゼールまでふっとばすわよ!」
こいつらのせいであたしまで声が大きくなる。言っとくけど、怒鳴る方も大変なのよ?
無駄に興奮して精神的にも疲れるし、腹筋は痛くなるし。
教会の前でギャンギャン言い争ってると、ふと柔らかい風が頬を撫で、
最近感じたばかりの気配が背後に立つ。アホ二人は喧嘩の真っ最中で気づいてないけど。
「……あなたに香水はまだ早いんじゃない?」
「あら、お気に召しませんでした?お久しぶりですわね、里沙子さん」
パルフェムが小幅な足取りであたしの隣に立つ。
彼女を見下ろすと、やっぱり年相応の少女らしい笑顔。
でも、正体のつかめない不気味な何か。
「今日はお友達もご一緒ですの?わたくしにも紹介していただけません?」
「総理の仕事はどうしたの。あなたもサボり?」
「皇国では明日は休日ですの。せっかくのお休みですし里沙子さんの顔が見たくなって」
「そう……悪いけど、あまり相手はできないわよ。
ご覧の通りアダルトチルドレンが喧嘩の真っ最中で、大人しく帰さなきゃならない。
結構骨が折れそう。かれこれ一週間よ、信じられる?」
「ふふっ、ぶぶ漬けでもお出しになったら?」
「それに近いもんは出してるけど、それで体力回復してまた暴れだすのよ。
殺すわけにも行かないから困ってんの。……あ、今日はおしまいみたい」
ユーディとパルカローレが、怒鳴り合い掴み合いに疲れて、
また自分ちのごとく教会に入ろうとする。ああ、今日こそ追い出さないと。
玄関に向かおうとすると、パルフェムが二人に向かって駆け出して、
振り向きつつあたしに呼びかける。
「ここは私にお任せになって。きっと私の思い通りにしてみますから!」
「大丈夫かしら……」
心配しながら様子を見守っていると、パルフェムが玄関の前に立ちはだかって、
笑顔で二人に挨拶する。
「お姉さま方、こんにちは!」
「……どなた?私、疲れておりますの」
「どいてくださる?明日の戦いに備えて体力を付けなきゃ」
「いいえ、お二人には直ちにお引取り願います。
里沙子さんが迷惑がっている事がおわかりになりませんか?
あなた方も、何処の馬の骨ともわからない変質者に一週間も居座られたら、
衛兵を呼ぶでしょう」
「変質者ですって!まったく、最近の子供は口の効き方がなっていませんわ!」
「そうよ、あなたには関係ないじゃない!大体あなた、誰?」
「申し遅れましたわ。わたくしは桜都連合皇国の首相、パルフェム・キサラギ」
「首相ですって?……そんな口からでまかせ」
“本当よ~その娘は皇国の総理大臣。
怒らせたら皇帝陛下から間接的に鉄拳が飛んでくるかもね”
「あばば!」
「マジ!?」
あたしが離れたところから補足してやると、
二人が慌ててお互いを前に押し出そうともみ合いを始めた。
なんだかんだ言って中央権力には弱いのよね、貴族も領主も。
「い、一応礼儀としてこちらも名乗っておきますわ。
わたしはユーディ・エル・トライジルヴァ。トライジルヴァ家の長女」
「私も、一応、一応ね?レインドロップ領主パルカローレ・ラ・デルタステップよ」
「お目にかかれて光栄ですわ。ユーディさん、パルカローレさん。
物は相談なのですが、ここでの決闘は今日限りにしてくださいな」
「そんなことできないわ!この女を叩きのめして、カードを全部奪い取るまではね!」
「それはこっちの台詞でしてよ!
いくら首相でも他国領地の外交に口を出すのは内政干渉というものですわ!」
「落ち着いてくださいな。何も無条件で帰れと言っているわけではありません。
わたくしと里沙子さんとで勝負をして、あなた方が敗北すれば大人しく帰る」
「勝った場合はどうなりますの?」
「あなた方は見た所、護符で戦う能力者のようですわね。
でしたら……国の宝物殿から、この護符を進呈しましょう」
パルフェムが扇子を広げて扇面を水平に倒すと、その上に、
1枚のカードの姿が浮かび上がった。
連中が使ってるカードとフォーマットは同じなんだけど……あら?
「こ、このカードは“サウザンドアームド・メサイア”!
当家の最も古い書物に、わずかながら存在が示唆されていただけの幻のカード!」
「1バトル中一度だけ、召喚しただけで術者の体力をLPにして1000ポイント回復!
常に2回行動可能、守備表示中、常に自分含め味方モンスターの攻撃力・防御力を
1500アップ!まさにイカサマじゃないイカサマ!」
連中が急に色めき立つ。あたしにはよくわからないけど、
大人2人が子供の扇子に群がる姿は物悲しいものがあるわね。
「受けるわ、その勝負!必ずそのカードをものにして、トライジルヴァ家なんかより、
デルタステップの方が上だということを証明して見せる!」
「まあ、なんて図々しい!そのカードに相応しいのは、
このユーディ・エル・トライジルヴァよ!
……ところで、あなたはカードセットはお持ちなの?」
「いいえ、1枚も。でも、わたくしにはちょっと特殊な魔法がありますの。
それに、心強い友人も。一緒に戦ってくれますわよね、里沙子さん?」
「んが。えっ、あたし!?」
半分寝てたら、いきなりこっちに話が向いたから、大げさに驚いちゃったわ。
う~ん、面倒だなって一瞬思ったけど、こいつらにはちょっとムカついてたし、
お灸を据える意味でも、とっととお帰り願う意味でも、
一度しばき回すのも悪くないわね。
「わかったわ。一緒にアホ共をホワイトデゼールまで蹴り飛ばしましょう」
「わーい、里沙子さんと共闘だ!」
パルフェムが子供らしく顔いっぱいに笑みを浮かべる。
「里沙子!あなたはわたしの味方だと思ってましたのに!」
「何言ってるの!里沙子はレインドロップ領の発展に力を貸したのよ?私の味方に……」
「さっさと位置に着きなさい!お馬鹿コンビ!」
「まぁ!里沙子ったら、わたしという者がありながら!
街で聞いたあなたが○○だって噂は本当でしたのね!しかもそんな小さな子供にまで!」
「わー……幻滅だわ」
「うぐぐぐ……おごあああああ!!マ・ヂ・ぶっ殺おぉ!!」
怒りが爆発したあたしは、奥歯が砕けるほど咆哮し、
空に向けてピースメーカーを撃ちまくる。よし、殺そう。
あたし達は2対2のチームの別れて、決闘の開始を待つ。
パルカローレがルールを説明する。
「私達符術士チームは、召喚したモンスターやマジックカードで戦う。
あなた達はそれぞれ自分の得意な武器や魔法で戦っていいわ。
ただし、お互い術者への直接攻撃はなし。魔力や弾丸が尽きた者から脱落。
最終的に一人が生き残ったチームが勝ちよ。
私達が勝ったら、決着が付くまでここでカードバトルを続ける。負けたら大人しく帰る。
いい?」
「ふへへへ……ねえ、今日は銃の調子が悪くてさ、
暴発して誰かに当たりそうな気がするのよね。主にそっちのアホ貴族に」
「不慮の事故でも誰かを死なせたり重傷を負わせてもそのチームの負けよ。いい?」
「チッ」
せっかくの楽しみをお預けにされたあたしは、
とっととこいつらを叩きのめすべく、ピースメーカーにリロード。
他の3人もカードや扇子を構え、戦闘態勢を取る。
「合図はそっちに任せるわ」
「じゃあ、メダルで決めましょう」
パルカローレが懐から銀貨を取り出し、親指で真上に弾いた。全員に緊張が走る。
あたしも、クロノスハックが発動するかしないかというところまで、精神を集中する。
ピィン
銀貨の落下と同時に、戦闘開始!全員が手にした得物で攻撃を始める。
先に動いたのは符術組。パルカローレがカードを1枚ドロー。
「行くわよ!モンスターカード“ペガサスナイト”を召喚!」
「わたしのターンですわ!モンスターカード“血まみれの騎士”を攻撃表示で召喚!」
ペガサスに乗って浮遊する騎士と、甲冑が血で錆びた不気味な騎士が出現。
「「アタック!」」
2体があたしに向かって突撃してくる。硬そうな敵を迎撃するため、
すかさず銃を破壊力の大きいM100に持ち替える。
そしてハンマーを起こして血まみれの騎士の胴を狙い、発砲。
強力な45-70弾が甲冑を貫き、血まみれの騎士は断末魔を上げて、
空中に同化するように消えていった。
でも、素早いペガサスナイトまでは倒しきれなかった。
再びハンマーを起こしたちょうどその時、サーベルがあたしの左腕を貫いた。
やだ最悪!痛……くない?服も破けてない。
パルカローレが向こうから試合についてルールの追加を入れてきた。
“私達のモンスターは、実体に干渉できないようリミッターを掛けてあるわ。
つまりあなた達の場合、戦闘でダメージを受けると、体力の代わりに魔力が減るの。
もちろん0になると負けね!”
思わず、首から下げたミニッツリピーターを見る。
残り魔力を示すブルーの長針が4分の1減っている。
よく出来てるわね、って感心してる場合じゃないわ。反撃しなきゃ。
あたしはさっきのペガサスに狙いを定め、再びM100をぶっ放す。
弾丸はペガサスの首を貫いて、騎士の腹を貫いた。騎士と天馬が鳴き声と共に消滅する。
ごめんよペガサス。
「まだまだほんの小手調べよ!来なさい!“三人兄弟の暴走トロッコ”」
「手伝ってあげるわ、感謝なさい!アイテムカード“無限弾倉式マグナムライフル”!」
“ヘイヘイヘーイ!”と、斧を持っていた部族3人組が、
大型拳銃を持ってパワーアップし、トロッコに乗って突撃してきた。
やばいわね、遮蔽物が全然ない草原で3人から集中砲火を浴びるとまずい。
「ここはわたくしに。里沙子さんは伏せていてくださいな」
「頼むわよパルフェム!」
彼女はマグナム弾を撃ちまくる凶暴な部族に怯むことなく、扇子に向かって一句詠む。
──夏草や 兵どもが 地に還り
彼女の本歌取りの句が発動すると、辺りの草が一瞬にして大蛇のように太く長く成長し、
トロッコを縛り上げて強引に停止させた。
当然慣性で部族達は、拳銃もろとも宙に放り投げられる。
『Noooooo!!』
地に叩きつけられた3人組は、パニックになり、その場でもがくだけ。チャンスね。
あたしはM100で筋肉隆々の男たちを、落ち着いて射殺した。第2ウェーブ突破かしら?
あいつらの残りMPが知りたいところね。
ガンベルトのケースを探ると……M100もピースメーカーもあまり余裕はないわ。
あと1回リロードしたらお終いね。
“何をしていますの!折角のわたしのサポートが文字通り無駄撃ちでしてよ!?”
“うるさいわね!あんたならどうしてたっていうのよ!”
ユーディとパルカローレが喧嘩している隙に、パルフェムと作戦会議。
「ねえ、パルフェム。弾丸を増やす俳句とかない?」
「できなくはないと思いますが、きっと作るのに時間が掛かると思いますわ。
それより、里沙子さん、少し相談したいのですけど……」
「なあに?」
パルフェムに耳を貸すと、彼女が一つの提案をしてきた。
そうねえ……どう考えても奴らの手駒の方が多そうだし、できないことはないけど。
「わかった。やばくなったらそれで行きましょう!それまでは銃や俳句でしのぐのよ。
お題だって無限じゃないし」
「おまかせあれ。ほら、敵が来ますわ」
パルフェムがユーディ達を指差すと、
やっと喧嘩を一時停止した二人がバトルに復帰した。
「もういいわ!あんたなんか頼らない!召喚、“終わらないループバグ”!」
「あなたの腕前じゃ、どんな援護も無意味ですわ!
“セキュリティシステム第7層”召喚!」
空中に元SEとしてあまり見たくない物体が2つ。
見た目には全く処理を進める様子のないコマンドプロンプトと、
複雑怪奇なセキュリティプログラム。
地球で何度も手を焼かされたこいつらが、またもあたしの前に立ちはだかる。
プログラムの塊が、一瞬フラッシュを放ち、電撃で攻撃を仕掛けてきた。
食らうか!?……と思ったら、あらあら、大事なこと忘れてたわ。
あたしはクロノスハックで時間停止し、3歩前で止まった電撃を回避。
続いて、忌まわしき人類の過ちをM100で撃ち抜いた。
どうでもいいけど、カードモンスターは地味に固い。
ずっとM100で戦ってたことに今更気づく。
急いでシリンダーから空薬莢を取り出し、弾丸をリロードする。
もう弾がない。長期戦は不利ね。能力解除。
プログラム型モンスターが放った電撃はあたしの後方で地面に激突し、空振りに終わる。
同時に、モンスターも身体にドでかい穴を開けられ、コードの塵となって消滅。
「えっ!?なんなのあれ!」
「ご存知ありませんの!?里沙子は瞬間移動ができますのよ!」
「信じられない、卑怯だわ!」
そういえばパルカローレには見せたことなかったわね。
とにかく、あいつらに共通してることは、
自分に不利な状況は何であろうと卑怯呼ばわりすることね。
「こうなったら少々荒っぽく行くわよ!神聖なバトルフィールドを守るために!」
「それについてのみ同感ですわ!」
「ここは、あたしの家だって、言ってんだ!!」
駄目だ。こいつらは完膚なきまでに叩きのめさないと、
自分がしていることの愚かさに気づかないらしい。
何をする気か知らないけど、来るなら殺るまでよ。
でも、魔力切れは敗北だからクロノスハックの乱用は禁物。
考えるうちに、二人がカードをドロー。
「おいでなさい!“戦車を凌ぐワイルドバギー”!」
「わたしに勝利をもたらすのよ!“翼をもがれた大天使”!……ううっ」
ガトリングガンや大砲を強引に取り付けたバギーカーと、
なんだか元気がない巨大な天使が現れた。
ん?なんか天使を召喚したユーディの様子がおかしい。
よろよろと草むらに隠れたと思うと……書きたくないほど汚い音。リバースしやがった。
服洗わねえわ、ゲロ吐くわ、貴族もクソもあったもんじゃないわね。
「ねえー、ユーディ!死にそうならやめときなさい!魔力ないんでしょ、正直」
“まだまだですわ……こうして立っていますもの。
そう、最後に立つ者はわたしですのよおぉ!!”
もう、何がこいつらを駆り立ててているのかわかんない。
でも、一気に魔力を大量消費するほどのカードを発動したってことは、
このモンスターには要警戒ね。
思った矢先に、バギーがガトリングガンを撃ちまくりながら、
フルスピードで体当りしてきた。幸い直撃は避けられたけど、数発弾を食らった。
時計を見る。3時の辺りを指してるわ、そろそろまずい。
「パルフェム、そっちはどう?あたしは次、大技食らったらゲームオーバー」
「ごめんなさい。わたくしも避けきれませんでしたわ。
早く風情をとらえて一句詠まなければ……」
さすがにパルフェムも追い詰められてるっぽい。負けても死なないとは言え、
こんな馬鹿二人にあたしの家をたまり場にされちゃ敵わない。
あたしは走り回るバギーにM100を撃ち込むけど、車体を少しへこませただけで、
まるで効いちゃいない。
……次はもっとヤバいのが来るわ。鉄仮面のような表情の天使が、
あたし達に顔を向けて、天に両腕を掲げる。
すると空から眩い光が幾条も降り注いで来る。それがレーザー光線だと気づいた瞬間、
考える前に残り少ない魔力でクロノスハックを発動。
パルフェムを押し倒して、どうにか全部避けきった。ああ、時計の針が12スレスレ。
「大丈夫?」
「ありがとう、里沙子さん。
もう、どうして今日に限ってうまく発想が浮かんでこないのかしら!」
「ねえ、そろそろやるしかないんじゃないの、あれ。
多分次の奴らの行動であたし達は負ける。撃ち合いしてる余裕、ないと思うんだけど」
「そうですわね……今こそ連歌を始めましょう!」
せっかくの着物を砂だらけにしながらも、パルフェムは立ち上がる。
一応解説しとくと、連歌っていうのは、誰かが五七五の発句で初めて、
別の誰かがそれを受けて七七の下の句、
そして下の句に続いてまた誰かが上の句を詠んで数珠つなぎしていく和歌の一つよ。
あたし達は、相手モンスターに向き合い、感性を膨らませ、
思いつく限りのキーワード、自然の情景で心を満たす。
「うう、ゲホゲホ……どうしたの、もう降参かしら?」
挑発するパルカローレも、よく見ると顔色が悪い。
ゲロったユーディを冷やかす余裕もないことから、
お互い魔力の取り合いは次で決着が付く。
「里沙子さん、僭越ながら発句はわたくしから」
「……オーケー」
そして、パルフェムが全ての始まりとなる五七五を読み上げた。
──
桜の木なんてどこにもないのに、桜吹雪が戦場に吹き込み、
敵味方問わずあたし達を包み込む。
次はあたしの番ね。連歌なんて洒落たことは初めてだけど、やるしかない。
──流るる涙 薙ぐ
一首出来上がると、パルフェムの能力が発動し、
舞い散る桜吹雪が凄まじい風圧を伴って、
暴れ狂うバギーや、大天使の巨体を竜巻のように巻き込んで吹き飛ばした。
バギーは完全にひっくり返って、大天使はなかなか起き上がれずにいる。
ついでに、ユーディとパルカローレも一緒にふっ飛ばされてた。
「何!?何が起きているの!」
「あうう……爺や、お水をちょうだい」
「パルフェム、次のコンボよ!」
「ええ、お任せを!」
──雷の 奔る雲間に 魅せられて
──流るる涙 薙ぐ春疾風
おっ、今度はあたしの下の句と合体して、なんだか物騒なことが起こりそうな予感。
物騒なことっていうのは、この企画では面白い事とイコールよ。
案の定、空に雷雲が広がって、あっという間に辺りが薄暗くなる。
そしてゴロゴロと身をすくませるような雷鳴が雲間を駆け、次の瞬間、空が光り、
相手モンスターに降り注いだ稲妻が直撃。
バギーは大破し、大天使も、その破壊力で光の粒子に分解された。
パニックになるユーディとパルカローレ。
「ちょっと!わたし達のモンスターが全滅じゃない!早く次のモンスターを召喚して!」
「うるさいわよゲロ女!もう殆ど魔力が残ってないのよ!」
やっぱり喧嘩になる二人を見ながら、あたしはピースメーカーとM100の弾丸を抜く。
「ねえ、パルフェム、次で最後にしたいんだけど、こんなことってできる?」
今からやろうとしていることを説明すると、彼女は首をかしげながらも同意してくれた。
「できますけど、下の句はできていますか?」
「バッチリ。当分足腰立たないようにしてやるわ」
「わかりました。では……」
パルカローレも何とか立ってるけど、足元がおぼつかない。
それでも何とかカードをドロー。
「はぁ、はぁ、モンスターカード“霊力切れの式神・十二体セット”
……これでお願い」
残り少ない魔力で召喚したのは、人型に切った紙細工の群れ。
よっしゃ、これならまとめて吹き飛ばせるわ。
「ラスト行くわよ!」
「ええ、最高の句を!」
──雷の 奔る雲間に 魅せられて
──曇天の果て ボラーレ・ヴィーア(飛んで行きな)
あたしの二丁拳銃に、若草色に渦巻くパルフェムの魔力が宿った。
強力な魔力の弾丸が装填された銃の振動が、グリップを通して両手に伝わってくる。
照準に捉えるは、死にかけのアホ二人。
「……アリーヴェデルチ(さよならだ)」
両方の銃のトリガーを引くと、銃口から巨大な風圧が発射され、
最後のモンスター共々、文字通りに雲の向こうまで吹っ飛んでいった。
“ギャアアア!!”
ギャグアニメよろしく、奴らが飛んでいった空がお星様のように光る。
奴らの悲鳴が心地いい。
心配しなくても、多分方角からしてちゃんとホワイトデゼールに落ちるっぽいわ。
まあ、別にどっかの岩山とか海に落ちても、あたしは知らないけど。
これが本当の挙句の果てね。とにかく迷惑女を追い払って気分が良くなったところで、
ようやく彼女を出迎えることができた。
「ごめんねーパルフェム。
あいつらには“また来やがったらカード全部燃やす”って脅迫文出しとくから」
「いいえ。人気者は辛いですわね。
それに、里沙子さんとの連歌も楽しゅうございました。
異国の言葉を入れ込むとは、面白い
「あなた、連歌も魔法にできるのね。
素人の思いつきだけど、うまくあなたとコンボがつながって助かったわ。
さ、中で休みましょう。ジョゼットにお茶を出してもらわなきゃ」
「うふふ、和歌なら何でも具現化できますの。
出来がいいほど強力で、低コストの魔法が発現できますわ。
それにしても、ここはいつ来ても不思議なところです」
玄関のドアを閉じると、あたし達は一息つくためダイニングに向かった。
もう何も面倒事がないといいんだけど。
今度あいつらに会ったら、今日使いまくった弾代請求しなきゃ。